六本木心中




1.

元部下だったモノ・・・・を凍らせて、粉砕機で粉々に砕いた後は海へ撒いた。ぶっちゃけ遺体が見つからなければどうとでもなるのは世の常で、証拠も全て灰にした。こんな作業も日常茶飯事。今更何も感じない。でも、信じていた相手に裏切られるのはいい気分じゃない。今日殺した高木は5年以上前、オレが六本木で拾った男だった。オレが追い込んでたヤクザに狙われていたアイツをたまたま助ける形になり、それ以来オレに忠誠を誓ってくれてたはずだった。なのに下らねえ裏切り方をしてくれたもんだ。

(たかだが数千万の為に命取られてバカかよ。梵天の掟は嫌というほど知っていたはずなのに、オレならワンチャン見逃してくれるとでも思ったか?)

真っ黒な海に漂う高木の肉片を見下ろしながら、オレは言いようのない憤りを覚えた。

「蘭さん、全て撒きました」
「んー。サッサと戻んぞー。海上は寒くてかなわねえ…海も荒れてっし竜胆こなくて正解だな」

連日の雨で東京湾はいつもよりも波が高く大荒れだ。クルーザーもかなり揺れるし、竜胆がいれば吐きまくって使い物にならなかっただろう。まあ別にオレ達が来なくても部下に任せりゃ済む話だが、可愛がってた男の最期くらいは見届けたかった。

「あーさみぃ~!とっとと戻って酒でも飲も」

望月のケータイにそのままメッセージを送る。アイツも高木のくすねたブツを回収して本部に持って行けば解放されんだろう。九井からの連絡じゃ三途が復帰して来るって話だったし、あの量のヤクを盗まれてたと知って激高する姿が目に浮かぶ。そこでふとの顏が過ぎった。昨日は頭に血が上り、カッとなって飛び出て来たが、具合が悪いと言っていた彼女を一人置いて出て来てしまったことはさすがに後悔していた。ただあの場にいれば冷静に接することも出来ず、彼女に対して追いうちのように酷い言葉をぶつけてしまいかねない。ただでさえ体調の悪い彼女にそんなことはしたくねえし、やっぱり帰って正解だったような気もしている。ただ、こうして何もしない時間というものが出来ると、どうしたってのことを考えてしまう。
その時、ケータイがぴろんと音を立てた。

"少しは頭が冷えたかよ"

メッセージは望月からでブツは本部に運んだとあった。でも最後の一行。スクロールをしていけば、オレが言葉に詰まるような一文が付け加えられていた。

「余計なお世話だっつーの」

思わず苦笑が洩れて背負い投げスタンプを送っておく。すると秒で受け技スタンプが送られてきて思わず吹いた。反社の男同士がスタンプの応酬やってんのマジでキモすぎる。自分でも引く。でも下らないことをしたおかげか、少しだけ気が晴れて望月には"今から向かう"とだけメッセージを送っておいた。そこでふと手が止まる。のメッセージ欄が視界に入ったからだ。

(ちゃんと薬飲んだし…痛みは引いてるよな?三途も本部に戻るならは一人になるか…?)

とそこまで考えたが、それはないかと思う。多分、三途が戻るのと同時にマイキーが六本木に戻るだろう。さっきも散々「だるい。無理。帰りたい」と三連発するくらい萎えてたし。

(でも…メッセージだけでも送っとくか…)

そこでとのメッセージ欄を開き、"痛みはとれたか?"とだけ送った。"具合悪い時に一人にしてごめん"とか"責めるような態度をして悪かった"とか、気の利いた言葉の一つくらい送ってやればいいのに、これまで女に謝るなんて人生を送ってきてないだけに、オレにはなかなかハードルが高い気がした。

「…しんど」

女との間がこじれるのってこんなにしんどかったっけ?と問いたくなるほど、今のオレはポンコツだと思う。そりゃ望月にも笑われるわなと一人納得してしまった。

(何で…こんなにアイツがいいんだろうな…)

今まで相手にして来た女達と何が違うのか。容姿もスタイルも、特別人より秀でてるというわけじゃない。どちらかと言えば大人しい性格で地味、もし過去に人を殺していなければ。いや、最低な親の元に生まれていなければ。彼女はきっと世間でいうところの優等生になってたはずだ。そう思ってしまうくらい自分達とは真逆な存在だと思う。店のナンバーワンだって、そんな真面目な性格の彼女が一つ一つ、些細なことまで努力をしてきた結果だ。だから客は彼女に癒され、また会いたくなる。もしかしたらオレもに癒されてたのかもしれない。

最初はそんな彼女が何か秘密を抱えていることが気になった。もっと知りたいと思わせる何かを持っていた。でも、近づいて暴いてみたら、彼女はこれまでオレが会った人間の中で一番、優しさを持つ女だった。理不尽なことを強要したオレ達にまで、その優しさを分け与えてくれる。正直お人よしすぎんだろって思うことも沢山あるけど、結局、オレはのそういう純粋な優しさに惹かれたのかもしれない。
オレ達の事情になんて、絶対に巻き込んではいけない女だった。

「…ハァ。情けな」

これまで色んな他人の人生に踏み入り、蹴散らし、好き勝手に蹂躙しつくして来たオレが、初めて贖罪なんてもんをしたくなった瞬間だった。



2.

大量のスポーツドリンク、生姜湯、レトルトのお粥、カイロ、頭痛薬、胃薬、そして何故かアイマスク。それらのものがどっさり入った袋を目の間に置かれ、わたしはしばし呆気に取られていた。袋にはここから数分のところにある薬局の名前が印刷されている。

「あれ…間違えた?」

袋の中から商品を出してテーブルの上に並べていた万次郎は、わたしがポカンとしているのを見てピタリと手を止めた。

「えっと…ど、どうしたの?これ…」
がまた具合悪くなったって三途が報告してきたからそこの薬局で買って来たんだけど…何がいいのか分かんねーから良さげなもん手あたり次第カゴに入れた」

万次郎は笑いながら「これで腹あっためろ」と張るタイプのカイロを出してわたしの手に持たせてくれる。確かに胃痛がある時、これは意外と有効だ。

「胃薬は病院で青山が処方したもんもらってるだろーとは思ったけど念の為。あ、あとこれは薬局のヤツが体を温めるといいっつーから生姜湯。飲む?」
「あ…じゃあ…飲んでみようかな。ちょっと肌寒いし…」

そう言ってベッドから出ようとするわたしを、万次郎は慌てて止めると「オレがやるからは動くな」と寝室を飛び出していく。これまで万次郎の世話をしてきたけど、彼に世話をされるのは初めてだ。あんなことさせていいのかなという頭が働く。どんなに今は緩くても、天下の梵天のトップなのだから、世話係のわたしが世話をされてどーするんだと思ってしまう。でも万次郎は生姜湯の入ったカップを持って、すぐに戻って来た。

「ほら、これ飲んで」
「あ…ありがとう…ごめんね。万次郎にこんなことさせちゃって…」
「別にオレは王さまでも何でもねーし。が出来ない時はオレが何でもやってやるよ。普段はオレが色々やってもらってるしな」

軽くわたしの頭を撫でながら万次郎は笑った。こういう時は普段の何倍もしっかりして見えるから不思議だ。

(最初の頃より体調は良さそう…本部でも眠れたって言ってたし良かった)

万次郎は「あ、そーだ」と袋から出したアイマスクを手にして「これも意外と眠れるグッズ」とわたしにそれを装着した。

「わ、思ったよりキツくない」
「だろ?オレも移動中とか、明るい場所で眠る時は愛用してんの。不思議なんだけどそれ付けると自然に眠くなんだよなー」
「確かに…目を覆われると眠くなる感じはする」

初めてつけたけど、思っていたよりもいい感じだ。ただ何も見えないだけに誰かがいる時に付けると、何となく不安になる。その時、持っていたカップを奪われ、肩を掴まれるのが分かった。ビクっと肩が跳ねたと思ったら、今度は背中に柔らかいスプリングを感じる。

「ま、万次郎…?」
「このまま寝てもいいから」

すぐ近くで万次郎の声が聞こえる。見えないせいで何となく緊張して、同時によく分からないドキドキ感が襲って来た。

「ね、寝てもって…万次郎…ご飯は食べたの?」
「あーうん。そーいうのは本部で済ませた。竜胆がデリバリーとってくれたし」
「そ、そっか…。あ、竜胆は元気?足のケガは――」

と言いかけた時、不意にくちびるを塞がれてビックリした。同時に驚きで薄く開いた唇の隙間から生温かい舌が咥内へと入り込んでくる。

「ん…っ」

見えない状態でキスを仕掛けられ、普段よりもやけに恥ずかしい上に、不安が煽られるのは何でなんだろう。すぐに絡められた舌の粘膜が触れ合う感覚だけが、生々しく感じてしまう。ようやくくちびるが解放された時には、少し息が乱れてしまっていた。

「ま…っ万次郎…?」
が目隠ししてんの何かエロい」
「……えっ」
「本当ならこのまま襲いたいとこだけど…体調悪い子を襲うほど鬼畜じゃねえし…今はこれくらいで勘弁してやるよ」
「………っ」

絶対今、万次郎はニヤニヤしてるはずだ。そう思いながらアイマスクを外すと、案の定、彼のくちびるが弧を描いていた。でも思ってた以上に至近距離で目があい、またしても鼓動が跳ねる。でも万次郎はスっと目を細めると、わたしの頬を軽くつまんで引っ張って来た。

「いたっ」
「そーいう顔すんならマジで襲うけどいーの?」
「…え、な、何」
「はあ…自覚なしかよ…」

がっくりと頭を項垂れた万次郎は少しスネたように呟くと、溜息交じりでベッドから下りた。何のことかと視線で追って見上げると、今度は鼻をつままれる。

「まんひろ…?」
「ぷ…っ」

またしてもビックリして名前を呼べば、ひたすら吹き出して笑っている。よく分からないけど、万次郎が楽しそうならそれでいいかと思った。

「オレ、いったん部屋に戻って仕事の電話してくっからは休んでろよ」
「う、うん…」
「また後で様子見に来るけど、眠かったら寝てていーから」

それだけ言うと、万次郎はわたしの頭をくしゃりと撫でて寝室を出て行った。さっき春千夜がチラっと話してたけど、今、組織内では裏切者をあぶり出している真っ最中らしい。きっと万次郎も普段みたいに部下に任せきりというわけにはいかないんだろう。

「…裏切者か」

寝返りを打って溜息を吐く。内部から情報が洩れているとのことだけど、そうなると皆の危険度も一気に上がってしまうのは、わたしでも何となく想像がつく。以前蘭さんが警察上層部にも梵天に取り込まれてる人がいると話してたし、ある程度はもみ消してもらえるみたいだけど、それでも心配は尽きない。

「…蘭さん…まだ怒ってるかな」

ふと思い出し、ベッド脇のチェストに置きっぱなしのケータイを取る。春千夜が本部へと出かけて行って、万次郎が戻って来るまでの間、何度となく電話をしてみようと思ってはかけられないままだった。そもそもかけたところで何を話せばいいのか分からない。薬のせいで春千夜に抱かれたといったところで、何の言い訳にもならないからだ。

「え…メッセージ…」

少し迷いつつもケータイの画面を見るのに軽く電源を押せば、ディスプレイにメッセージアプリの着信を知らせるマークが浮かび上がった。すぐにパスワードを解除してアプリを開く。すると今の今まで連絡を入れようかと思っていた人物の名前が表示されていた。

「え、蘭さん…?」

まさか彼の方から連絡をくれるとは思わなくて鼓動が大きく波打った。嬉しいのに、そのメッセージを開くのが怖い。愛想を尽かされてもおかしくないことをしてしまったのだから、"もう終わりだ"と言われても不思議じゃない。でもやっぱり気になって、わたしは思い切ってアプリのパスワードも解除した。そして開いた瞬間、言葉に詰まる。

"痛みはとれたか?"

たったそれだけの短いメッセージ。とりあえず想像してたような内容じゃないことにホっと息を吐き出した。それにまだわたしの体調を心配してくれてるという安堵感も生まれ、すぐに痛みは治まりました、と返信をしておく。ただその後に続く言葉が思いつかない。

「どうしよ…やっぱりごめんなさい?それとも…事情を説明する…?」

いや、今はやめておこう―――。
ふとそう思い、ケータイを元の場所へと戻す。その話はメッセージなどではなく、直接会った時、もし蘭さんが知りたがったら話せばいい。

「…それに…わたしの気持ちも伝えないと…」

最初は愛しさが暴走して、つい想いを告げてしまったけど、今回の件でつくづく自分の立場を理解した。どう転んでも、現状、わたしは蘭さんに嫌な思いをさせるだけだと。蘭さんに好きだと言われて浮かれて、後先のことを考えずに受け入れてしまったけど、この先もきっと、これ以上は良くならない。きっとまたいつか、蘭さんのことを傷つけてしまう。普通の恋人とはいえないのだから、それは仕方ないし蘭さんも分かってはいただろうけど、あんな顔をさせてしまうのなら、わたしはただの世話係に戻った方がいい――。

カタン。

その時、何の前触れもなく廊下の方で物音がして、わたしはふと上半身を起こした。もう万次郎が戻って来たのかと思ったのだ。

「万次郎?もう終わったの?」

そう声をかけてみたけど返事がない。おかしい、と思いながら何となく気になってベッドを抜け出そうとした時、寝室のドアが突然開いた。

?起きてる?」
「ら……蘭さん…っ」

寝室に顔を出したのは、今の今まで脳内を占めていた相手だった。蘭さんはわたしが起き上がってるのを見ると、「いや起きなくていいって」とベッドの方へ歩いて来た。

「な…何で…」

わたしをベッドへ寝かせる蘭さんを見ながら、本物だ、なんてバカなことを考える。あまりに会いたいと思っていたから、幻かと疑ってしまった。

「何でって…やっぱ心配になったし…ああ、オマエからのメッセージここに着いた時見た」
「あ…」 
「つーか…んなことより……昨日はその…悪か……った…」

ベッドの端へ座った蘭さんは、言いにくそうに視線を反らしながらその言葉を口にする。それはどこか子供のように見えて、普段から誰かに謝るということに慣れていないんだろうなと思わせる。そんな彼が、わたしなんかの為に忙しい時間を割いて謝りに来てくれた事実が、素直に嬉しかった。

「蘭さんが謝ることない…。悪いのはわたしだもん」
「いや…別にオマエだって望んだわけじゃねえじゃん…。そんなの分かってたことなのに……マジで悪かった…」
「蘭さん…」

そっと頬に触れてくる彼の手は冷たくて、今まで外にいたことを思わせる。蘭さんからはいつもの香水に交じって、かすかに潮の香りがした。

「抱きしめてもいい?」
「え?」

ドキっとして見上げると、蘭さんはかすかに目を細めてわたしを見下ろした。

「昨日から…ってか、だいぶ前からオマエが足りてねえ。だから…いい?」

改めて聞かれると、とてつもなく恥ずかしい。でも自然と頷いてるわたしがいて、さっきまでの決意がもろくも崩れそうになる。蘭さんはそっとわたしの上に覆いかぶさると、わたしの頭を抱き寄せてぎゅっとしてくれた。

「はあ~…癒し」
「えっ」

耳元でシミジミ言われ、頬がカッと熱くなる。蘭さんは頬をわたしの頭へ摺り寄せると「オマエの匂い、安心する」と呟いた。何となく恥ずかしくて、自分がどんな匂いをしてるのか気なってしまう。ついでに今日はずっと寝てたからお風呂に入ってないことを思い出した。

「ちょ…ら、蘭さん」
「んー?」
「は、離れて…わたし…今日お風呂入ってないから恥ずかしい…」
「え?」

どうにか声を振り絞って伝えると、蘭さんは驚いたように身体を離し、こつんとオデコをくっつけてきた。これもなかなかに心臓を攻撃される。

「かーわい。そんなこと気にしてんの」
「え、だ、だって…ずっと寝てたから寝汗だってかいただろうし、その…」
「ぜーんぜん臭くねえけど?むしろ、いつも通りいい匂い」
「………」
「そんな赤くなる?」

蘭さんは楽しげに笑うと、熱くなったわたしの頬にそっと手を添えて身を屈めた。もうあと数ミリ近づけば、互いのくちびるが触れあう距離なのに「キスしてい?」と、蘭さんは意地悪な質問をしてくる。

「き、聞かないで…」

そう返した瞬間、数ミリの距離が0になった。ちゅ…っと最初は軽く啄むようにして離れて行く。思わず視線を上げると、蘭さんは軽く笑みを浮かべて今度はゆっくりとくちびるを塞いだ。触れては離れる優しい口付けを繰り返され、じわじわと顔の熱が上がってきた頃、僅かな隙間からぬるりとした感触が滑り込んで来た。ゆるりと絡みつく舌は熱を分け合うように交じり合い、わたしの咥内を侵食していく。久しぶりに触れた蘭さんのくちびるにすっかりと酔わされた頃、それはゆっくりと離れていった。

「あー…ヤバ…」
「…え」

ぽすんとわたしの上に倒れ込んだ蘭さんは顔を上げることのないままポツリと呟いた。

「今すんげーを抱きたい……ムリ、つら」
「え…っ」

いきなりの発言にドキっとしてしまう。でも万次郎がいることは蘭さんも知っているのか、「いや、しねえけど」と笑う。

「マイキー部屋にいんだろ?」
「あ…うん…今、お仕事の電話をしにいってる」
「そ。まあ…今ちょっと組織内がゴタついてっからさー。マジ大変なんだわ」

蘭さんは言いながらもよいしょっと立ち上がる。そしてわたしの頭に手を乗せると、優しく髪を撫でた。

「ってことでオレもそろそろ行くわ。モッチーと約束してるし」
「あ…うん…」

もう行っちゃうんだ、と寂しく思ったけど、そのうち万次郎も戻って来るし、蘭さんには蘭さんのやるべきことがあるんだろう。それにこうして一緒にいると決心が鈍りそうだ。

「んな寂しい顔すんなって…行きたくなくなるじゃん」
「ご、ごめん…」
「いや、オレも行きたくねえけど……まあ、マイキーの前でオマエとイチャつくわけにはいかねーしなァ?」
「………」

腰をかがめて顔を覗き込んで来る蘭さんはちょっとだけ意地悪な顔をした。でもわたしを見つめる眼差しは優しい。

「んじゃ…そろそろ行くけど。はなるべくムリしねーで身体を休めてろよ」
「うん…ありがとう。蘭さんも気を付けて」
「ああ。じゃあ…また連絡する」

蘭さんはそれだけ言うと、最後にちゅっとくちびると頬にキスを落として、静かに寝室を出ていく。ドアが閉まった瞬間、一気に息を吐き出した。心の準備もなく、突然会えたことで緊張していたらしい。

(でも……来てくれた…)

もしかしたら、わたしのことなんか嫌になったんじゃないかって、少しだけ怖かった。でもそれ以上に――蘭さんを傷つけてしまった方が怖かった。だからもう会わない方がいいんじゃないかとさえ思っていたのに……こうして少しの時間でも会いに来てくれて、本当は凄く嬉しかったんだ。