六本木心中



※性的描写あり


1.

梵天内に裏切者がいると分かってから三ヶ月余り。まだハッキリとした人物が浮かんで来ないことで、幹部連中はイライラを募らせていた。自分達の情報が洩れているというのはやはり気分のいいものじゃないし、いつどこで誰に襲われるかも分からない状況が続いているのだから、それも仕方のないことだと思う。本部はどことなく殺伐としていて、オレはそこから避難するように六本木の事務所へやって来た。

「ねえ、ココ。この日付と金額、合ってる?」
「どれ?」

窓から遥か下に見える六本木の街並みを見ていると、それほど長い期間空けていたわけではないのに懐かしいとさえ感じながら、声のした方へ顔を向ける。そこには久しぶりに顔を見たが難しい顔をしてパソコンと睨めっこしていた。ちょうどオレがこっちへ避難してきた時、入れ違いでマイキーが本部へと出かけた。その間、が暇になるからとマイキー直々に「相手してやって」と頼まれたのだ。そこで部屋に迎えに行くと、は「何かわたしに出来ることない?」と張り切った様子で訊いて来た。去年、胃腸を壊して以来、しばらく体調が上下してたらしい彼女も、今はだいぶ調子も戻ったとは聞いている。それでも仕事を手伝わせるつもりはなかったものの、本人曰く「もうすっかり元気」ということで、いつもの事務作業を手伝ってもらうことにした。

「ああ、ごめん。分かりにくかったな。これ、ここで区切ってるから日付と金額はこれで合ってるよ」
「そっか。じゃあ良かった」

彼女はホっとしたようにエンターキーを押すと、再び後ろに立つオレを仰ぎ見た。こうして見る限り、顏の色艶もいいし体調が回復したというのは本当のようだと少しホっとする。

「でも珍しいね。いつも几帳面なココが雑にデータ打ち込むなんて」
「あー最近バタバタしてっから、自分の仕事もオレだけが分かればいっか的な感じでやってたかも」
「そっか…やっぱり忙しいんだね、まだ。あ、ココ、コーヒー飲まない?新しいの淹れるから」
「ん、あーうん。頼むわ」

オレが頷くとはすぐにコーヒーメーカーへ新しい豆をセットしていく。以前、マイキーが買って来てくれた例の豆はとっくにないから、今日はいつものコーヒー店のを飲んでいた。は手際よく砂糖やミルクなどを準備して出来上がったコーヒーをカップに注いで運んで来る。はい、と渡されたカップを受けとり軽く香りを楽しむと、砂糖やミルクを入れる前に一口味わった。

「やっぱ淹れたては美味いな」
「そうだね」

は言いながらもコーヒーにミルクをたっぷり入れている。やはり胃腸への負担を減らすため、医者からコーヒー紅茶などカフェインの強いものを飲む時は半分ミルクを入れろと言われたらしい。

「殆どコーヒー牛乳だよね、これ」

は笑いながら、それでも美味しそうにコーヒーを飲んでいる。その姿を見ていると、もうすっかり梵天に馴染んだなと不思議な気分になった。ここまで長続きした世話係は初めてだからかもしれない。いつも男だらけの空間に、彼女が一人いるだけで随分と違った雰囲気になる。
驚いたのはマイキーが彼女への監視を弱めたことだ。なるべくにストレスをかけたくないといった配慮なんだろうが、外に出る時もごく限られた護衛をつけるくらいで今では自由に彼女も出かけられるようにしたらしい。

「って言っても行くとこなんてスーパーくらいなんだけど」

先ほどはそう言いながら笑っていた。もっと普通の女の子みたいにショッピングを楽しんだり、映画を観に行ったりすればいいものを、彼女はやることがあるからなぁなんて苦笑していた。やること、というのはマイキーの部屋の掃除だったり、洗濯だったり、何も彼女一人がやる必要のない家事のことだ。別に一日くらいサボったところでマイキーは責めやしないのに、とオレもそこは苦笑いが零れてしまった。

(前よりは自由なんだし蘭さんと二人でたまには出かけりゃいいのに…)

口にこそ出しはしなかったものの、つい余計なことを考える。全然二人で会えてない、と蘭さんがボヤいてたのは昨日の夜のことだ。まあ今は組織内もゴタついていて、そんな余裕もないほど蘭さんや他の幹部が忙しいのも確かで、ましてマイキーがここにいることも多い今、彼女と二人きりになれる時間を作るのは難しいのかもしれない。

「なに?ココ」
「…え?」

ボーっと彼女を見ながら考え事をしていると、不意にがこちらへ視線を向けた。目が合い、僅かに鼓動が跳ねたのはジッと見ていたことがバレた気まずさからだ。

「え、何。何かついてる?」

オレが見ていたことで勘違いをしたのか、は自分の頬に手を当てて恥ずかしそうに笑った。

「いや…随分と顔色も良くなったなと思って」
「あ…うん。もう大丈夫」
「ま、でも前よりは痩せたな、。ちゃんと食ってんの」
「しばらく消化のいい物ばかり食べてたから。でも今は食欲もりもりで食べまくってるよ。マイキーがあれこれ買って来てくれるし」
「どーせハンバーガーとか甘いお菓子だろ。カロリー多めの」
「よく分かるね」

は軽く吹き出しながら笑っている。食欲もあるなら大丈夫か、と少しホっとしつつ、ポケットの中で震えだしたケータイを取り出した。

「悪い、ちょっと電話」
「あ、うん。じゃあ残りのやっておくね」

はそう言って再びパソコンの前へ座った。それを眺めつつ、オレはリビングを出ると寝室に入ってから電話に出る。相手はまさかの蘭さんだった。

「はい」
『あ、ココー?今どこだよ。渋谷じゃねーの?』
「ああ、すみません。今は六本木で」
『は?マジ?』
「何か急用っスか?」

蘭さんの声の後ろからは三途の怒鳴り声が聞こえてくるから、今は渋谷の事務所からかけているらしい。何か動きでもあったのかと思った。

『それがさー。夕べラット臭い奴が梵天の内部事情をバーで話してたっつー情報が入ってさ。だからココにその店付近の監視カメラ映像を解析してもらいてーんだけど』
「…分かりました。すぐそっちへ向かいます」
『頼むわ~。オレちょっと仮眠とるから詳しいことは竜胆に聞いて』

蘭さんは言いながらも欠伸を噛み殺している。きっと遅くまで動き回ってあまり寝ていないんだろう。でも今は仮眠を取れる余裕はあるということだ。監視カメラの映像を解析するのは時間がかかるし、ハッキリするまでの時間だろうが。なら、その間だけでも心身ともに癒されてもらうか、と視線をリビングの方へ向けた。

「ああ、蘭さん」
『あ?』
「どうせ仮眠するならこっちでしたらどうっスか」
『…何で』
「オレがそっちに行っちゃうとがここで一人になるんスよ。オレ、マイキーに彼女が退屈しないよう相手しろって言われてるんで――」
『すぐ行く』
「…………(マジか)」

ソッコーで切れたケータイを見下ろしながら苦笑が洩れる。この様子じゃ仮眠なんて本当にとるのかどうか怪しいもんだ。

「ま、幹部の心と体のケアも大事だしな」

そう独り言ちて、オレはのいるリビングへと戻った。

「え、もういいの?」

仕事はもういいと告げると、彼女は驚いたように振り向く。いつもなら数時間はかかる作業をまだ一時間半くらいしかしてないのだから当然かもしれない。

「オレちょっと渋谷に戻らなきゃいけなくなったんだ。だからそのデータも持ってくし、今日はこれくらいでいいよ。助かった」
「そっか、分かった」
「ああ、は部屋に戻ってもいいし、ジムで軽く泳いでてもいいから。さっき行こうとしてたろ」
「うん、ありがとう。じゃあ今度こそジムで汗でも流してこようかな。もう掃除とか終わったからすることないし」
「そうして。マイキーも夜には戻ると思うからさ」

それだけ告げると、は「うん、分かった。じゃあ、またね、ココ」と笑顔で手を振って、オレの部屋を後にした。彼女を見送った後、すぐにケータイで『はジムにいきました』と短いメッセージを送っておく。すると秒で投げキッスのスタンプが送られて来たから思わず吹き出した。たったそれだけで蘭さんの浮かれ具合が想像できてしまう。でもこれで確信した。

「ぜってぇー寝ないな、あの人…」

彼女と二人きりで会える貴重な時間を無駄にするはずがない。そう考えると、ちょっと余計なことをしたかなとは思う。のことをとっくに諦めてはいるものの、やっぱり顔を見れば嬉しいと思うし、可愛いとも思う。他にそんな風に思える女は未だに見つからない。若干、蘭さんに嫉妬しつつ、

「ま、この分は今度きっちり他で返してもらうか」

オレはオレでちゃっかりしたことを考えながら渋谷の本部へと向かった。




2.

一度、自分の部屋へ戻ってスポーツウエアに着替えると、当初の予定通り、マンション内10階部分にあるジムスペースへと下りる。ここは全フロアがスポーツジムになっていて、その半分はプールとなっていた。わたしも最近は時間が空くとここへ来て、以前のように体を動かすようにしている。

「相変わらず贅沢な空間…」

ランニングマシンや、フィットネスバイク、ステップマシン、有酸素運動が出来るマシンが色々揃っている。ベンチプレスなどの器具はわたしには難しいので触れたことはないけど、鶴蝶さんが好んで使ってるようだ。

(っていうか殆どここは鶴蝶さんが使ってるって蘭さんも言ってたっけ)

他の人達は体を鍛えることよりも不摂生な遊びの方を好むらしい。まあ反社の人達が健康に気を遣ってジム通いというのもイメージが湧かないので、それはそれで納得してしまう。

「うーん…今日はプールで泳ごうかなぁ」

真冬にプール…とも思うけど、ここのプールは温水なので温かい。建物全体も一定温度で調節されている為、マンション内にいるとあまり外の気温は関係なく、それほど季節を感じなかった。

「確か水着は入れたままだっけ」

タオルや着替えを入れたバッグを開けると、用意されていた水着も一応は入っている。蘭さんが選んだ物だから泳ぐことに関しては全く使えないビキニだけど、誰もいないしこれでもいいかと、ロッカールームでそれに着替えた。

(まあ競泳用の水着を用意されてても変だもんね)

自分の部屋のクローゼットを思い出しながら苦笑が洩れた。あの空間はちょっとしたブティックのように何でも揃っている。中には万次郎にもらった物もあるけれど、殆どが蘭さんの手によって持ちこまれたものたちだ。

「うわ、暖かい…」

バスタオルを手にプール内へ入ると、暖房が効きすぎて蒸し暑さを感じた。今が1月だとは到底思えない。

「えっと…暖房調節はどこだっけ」

広いプール内を見渡し、壁を確認していくと、入り口近くにそれはあった。温度調節のボタンを何度か押して下げていくと、少ししてだいぶ室温が落ち着いてくるのを感じた。

「これでいっか。うーん、ゆっくりウォーキングしようかな」

両腕を伸ばし、軽く体を解すと、足をプールへと入れる。場所によっては足がつかないところもあるから気をつけながら体を温水につけると、ちょうど首元まで水がくる。これだと歩きにくいかなと思いながら、少し浅めの場所まで進んだ。

「この辺りでいっか」

丁度胸下辺りに水がくる深さの場所で立ち止まり、コースを確かめると、のんびり水をかくようにしながら歩き出す。これを10分やるだけで結構な運動量になるのだ。しばらく運動をしていなかったこともあり、今年に入ってから時々このジムを利用させてもらっていた。

(今夜は何を作ろうかな…夕べは和食だったから今夜はドリアとか洋食にしようか…)

歩きながらもすでに夕飯のメニューを考えてしまうのはクセだった。ギリギリになって考えるより先にある程度候補を考えておくとパっと準備もしやすい。

(今日は春千夜、どうするんだろ。後で戻るかメッセージ送っておこ)

春千夜はあれ以来体調を崩すこともなく元気に反社活動(?)をしているようだ。怪しげなクスリを今も飲んでいるのかどうかは知らないけど、少なくともわたしの前では飲んでいないように見えるし、わたしにも触れようとはしなかった。そして、蘭さんは仕事のことで万次郎を訪ねてくるくらいで、その時に顔を合わせるものの、二人では会えない日々が続いていた。
本当は、もう二人で会うのはよそうと言うつもりでいた。このままでは蘭さんに嫌な思いをさせるだけのような気がするからだ。でもそんなことを言わずとも現状、会えていないのだからそんな話をすることも出来ず、彼からの連絡を受けて時々長電話をするくらいだった。

――まるで高校生みたいだな。

この前蘭さんがふとそんなことを呟いて笑ってた。抱き合うことも出来ず、ただ電話で他愛もない話をする。言われてみれば学生の恋愛ごっこのようで、わたしもおかしくなった。いい大人の男女が、それも反社に身を置く二人が、ただ電話で話して笑いあうなんて随分と可愛いことをしているなと思う。でもそのささやかな時間がわたしには十分すぎるほど幸せで、出来れば少しでも長く続いて欲しいと願う。顔を見てしまえば、ツラい選択をしなければいけなくなるから――。

キィ

その時、歩きながら手でかく水音に交じり、かすかな音が聞こえた気がして足を止める。一応、耳をすませてみたものの、今は何も聞こえてこない。プール内にはただ、静けさだけが広がっていた。

「気のせい…?」

そもそも誰かが来るとしたら梵天の幹部しかいない。ここは部下の人でも入れる人はいないと万次郎が話していた。となれば今、もし人が入って来たのならそれは幹部のうちの誰かということになる。少し気になったものの、ここに来るような幹部と言えば鶴蝶さんだろう。もし顔を合わせたら挨拶しようと考えながら、とりあえず一度水から上がろうとプール端の梯子に手をかけ、上がった。その瞬間、プールの両開きの扉が勢いよく開けられた。

「ひゃ」

突然開いたドアに驚いてその場で飛び上がる。すると顔を見せたのは思ってもいない人物だった。

「やーっと見つけた」
「ら…蘭…さん…?」

この場所には場違いな高級スーツ姿の蘭さんは、わたしに歩み寄るなりガバっと覆いかぶさるように抱きついて来た。

「ジムっつーからマシンルームに行っちゃったじゃん」
「な、何で…」

肩越しで深い溜息を吐く蘭さんに呆気にとられ、何でここにいるのかと驚いた。今は組織の仕事で忙しく、今週は一度も六本木には顔を見せていなかったのに。

「何でって…オマエに会いに来たんだけど?」
「えっ?」
「そんな驚かなくても。まあ…ちょっと時間空いたし、九井からが一人になるからって聞いて」
「あ…ココ…」

そう言えばココは本部に戻ると言い出す直前、誰かからの電話に出ていた。あれが蘭さんだったのかと気づいた。

「ってか、目の保養になるな、これ」
「え?あっ」

僅かに顔を上げた蘭さんが視線を下に下げるのを見て、わたしも釣られて下を向けばビキニの上には何も羽織ってないことに気づいた。あげく水から出たばかりで蘭さんのスーツを濡らしてしまっている。

「ダメ、濡れちゃってるから離して」
「あ?いいよ、別に。それより――」

と蘭さんは身を屈めると、顔を傾けてくちびるを重ねてくる。触れただけのキスなのに頬が一瞬で熱くなった。久しぶりに触れられて、そこから甘い疼きが広がっていく。蘭さんはすぐにくちびるを離すと、もう一度ぎゅっと抱きしめてくれた。

「…会いたかった」

耳元で掠める蘭さんの低い声で、また心臓が音を立てる。本当は、わたしも会いたかった。けれど、会えば別れを告げなければいけないと思うと裏腹な思いが溢れて来る。

「何考えてんの」
「…ん、」

蘭さんは耳元で囁きながら、ペロリと耳輪を舐める。その刺激でゾクリとしたものが体を走った。蘭さんの舌先が耳の辺りで動くたび、くちゅりと卑猥な音が立つ。それが直に鼓膜を振るわせ、軽く身震いをした。

「ダ、ダメ…」
「ダメ?何で」

今ここで抱かれてしまえば、また決心が鈍ってしまう。なのに、久しぶりに蘭さんに触れられた体は悦ぶかのように反応している。蘭さんのくちびるが首筋へと下りて、そこをペロリと舐められただけで背中がビクリと沿ってしまった。

「オレがどんだけオマエに飢えてるか知ってんの」
「…ん、ぁ…っ」

背中をツツっと撫でられただけで全身が粟立つ。

「今日は優しく出来ねえかも…」

一度わたしを離した蘭さんはスーツの上着を脱ぎ捨てると、無造作にネクタイを指で緩めた。わたしを見つめる綺麗なバイオレットには、存分に男の欲を孕んだ熱が見て取れる。無意識に後ずさった体は、気づけば壁にぶち当たっていて、その壁に蘭さんがそっと手を置いた。

「逃げんなよ」
「……っ」
「って前にもここで言ったよな?」
「で、でもこんな場所で…誰か来たら――」
「今は誰も来ねえよ。唯一来そうな鶴蝶も今は裏切者探しで奔走してるし」

蘭さんはそう言いながら壁に設置されてる照明のレバーを下げた。途端に薄暗くなったプール内は、青い照明だけが残され、プールの水が反射して幻想的な光を創り出している。

「だから…ここにはオレとの二人きり。他には誰も来ない。諦めろ」
「…う…」

蘭さんは綺麗なくちびるに弧を描き、意地悪な笑みを浮かべている。でもその顏すら美しい。見惚れてしまって、それ以上口を開こうとしても何も言えなくなった。緩めた蘭さんの首元からは、梵天幹部の証であるタトゥーが見え隠れしていて。その変わった絵柄のタトゥーにさえ色気を感じてしまう。不意に視界が陰って、薄く開いたくちびるの隙間からぬるりとした感触がねじ込まれていく。蘭さんの舌が咥内で艶かしく動いて、甘い痺れが身体を巡りはじめれば、わたしの中の迷いは頭の隅に追いやられてしまった。舌を絡めながら首筋を撫でられて肌が粟立つ。蘭さんの繊細な指先が肩へと滑り落ちて、水着の紐をいとも簡単に下げていった。

「ん…ふ…」

舌で咥内をかき回されるたび、卑猥な音が鼓膜の奥まで震わせて、素肌に指が這う感覚に全身が快感を得て熱くなっていく。飢えてる、と言っていたように、くちびるを離した蘭さんは喉元に噛みつくように舌を這わせ、舌先で線をなぞりながらくちびるを下げていった。背中を撫でていた手も腰のラインを確かめるように動き、水着の中へと吸い込まれていく。

「…んっ」

胸の膨らみまで下りていたくちびるに芯まで硬くなっている先端を軽く挟まれ、ちゅうっと吸われた瞬間、肩が跳ねて身震いした。咥内で舐め転がされるたび、快感が駆け抜け下腹部の奥に快楽の波が渦を巻いて侵食していく。

「…ぁっ」

下の水着も脱がされ、するすると落ちていくそれは足首に絡まった。まだ触れられてもいないのに、直に割れ目を掌で撫でつけられた瞬間、くちゅりと卑猥な音を立てる。それが恥ずかしくてくちびるを噛みしめながら耐えていると、、と甘い声で呼ばれた。

「…マジで余裕ねえかも」
「え、…んあっ…」
「も…挿たれたい…」

顔を上げた蘭さんは少し苦しそうに眉を寄せて綺麗な瞳を揺らしている。ナカに押し込まれた指が彼の余裕のなさを伝えてきて、親指で陰核をぬるりと撫でられただけで締め付けてしまう。わたしも限界みたいだ。その時、抽送していた指を引き抜かれ、蘭さんがスーツのズボンのジッパーを下げたのが分かった。すっかり潤みを増したその場所に硬く勃起したものが押し当てられる。何度となく抱かれていても、こんな体勢は初めてで、一瞬だけ身体が強張ったかもしれない。

…怖い…?」

立ったまま太腿を持ち上げられた時、蘭さんに問われて思い切り首を振った。そういった理性は飛びかけている。今はただ、蘭さんの体温を感じたくて仕方がない。

「…は…かわい」

蘭さんにしがみつくと、仕立てのいいシャツに皺をつける。そのまま彼のくちびるが額、頬、くちびると順番に下りてきて。すぐに滑り込んで来る舌が唾液を綯い交ぜにするように淫らなキスを仕掛けてきた。同時に指とは異なる質量の、硬い熱の塊がナカへ入ってきて、あまりの快感にぶるりと身体が震える。くちびるを重ねたまま奥まで挿入され、舌から突き上げられるように揺さぶられると、塞がれたくちびるの合間からは苦しげに喘ぐ声だけが洩れていく。

「…ん…ぁっ…あっ」
「…はー…やべ……気持ちー…かも…」

余裕のない蘭さんの表情に、また劣情を煽られる。どうしようもなく焦がれて、施される律動に絶え間なく快感が押し寄せてくる。壁に背を預け、蘭さんの首に腕を回せば、いっそう奥まで突き上げられて、繋がっている場所からは卑猥な水音が耳を刺激してきた。身をくねらせ、強すぎる快感から逃れたいのに、蘭さんが腰を突きあげて来るたび、与えられる快楽に喘ぐことしか出来ない。

「……ら…蘭さ……っあっ激し…」
「…ごめん…余裕ねーし止まんねー…かも」

何度も何度も、快楽を貪るように強く突かれて、意識が飛びそうになるほどに愛欲が膨れて爆発寸前だった。



3.

白い喉元が反って、薄く開いた艶やかなくちびるから甘い声をあげる。その姿にまた欲情して下から突き上げるよう腰を打ち付けた。久しぶりのの肌にのめり込んでいく。頭の芯まで熱に支配され、衝動のまま突き上げる。の白い喉へ吸い付き、脇腹を撫でて膨らみの先端を軽く弾くと、彼女のナカがよりオレのモノを締め付けてくる。

「……」

額を合わせ、彼女の涙が滲んだ瞳を覗き込む。浅く突いての反応を見ては我慢できずに奥まで突き上げる。気落ち良さそうに飲み込んでいくのがたまらない。

「…マジで…蕩ける…」

脳が痺れるほどの快感に、理性なんて一ミリも残っていない。ただ獣のようにの熱を求めて本能のままに腰を押し付けた。透き通るような肌に口付け、跡を残していく。手のひらに吸い付くような肌と、誘うように啼く赤いくちびる。極上の女だと脳に刻まれて、もっとが欲しいという欲が溢れて苦しい。

「……オマエが…好きだ…」

くちびるが触れそうな距離まで近づき、つい口から零れ落ちたオレの言葉に、の瞳が切なげに揺れた。一瞬ナカが強く締め付けられ、何もかも持っていかれそうになる。沸騰した頭の隅で、このまま互いの熱を混ぜ合わせて、一緒に逝けたらいいのにな、とバカなことを思った。