六本木心中



1.

少しノイズ交じりのボヤケた映像に一人の男が映っている。これが目当ての男なのかどうかは分からない。だが、その不鮮明な映像でもオレにはコイツが誰なのか・・・が分かった。

「…花垣…武道」

その名を口にしたのは10年ぶりだ。
怪しげな男が梵天のことを探っていたという地域の防犯カメラを部下に用意させた。それらの映像はいくつかあったが、どのカメラにも一人だけ同じ男が映っていた。たまたま梵天の関連する場所に知っている男が何度も映るはずがない。この花垣こそが梵天を探っていた人物だと直感した。

「やっぱり来たか…」

姿を見るのも10年以上ぶり。最後に顔を合わせたのは遠い昔、東卍を解散した頃だ。その後にコイツが何をしてたのか、オレは知らない。マイキー同様、東卍のメンバーとも縁を経ち、それ以降、アイツらがどう過ごしてたのかなんて、オレにはどうでも良かった。マイキーさえいればそれだけで。

ただ――佐野万次郎という男の絶対的な強さに憧れた。

ひとたびケンカになれば一瞬でゴミの山が出来上がる。まさに圧巻。あの強さを隣で見ていたかった。出来ることなら死ぬまでずっと。
でも大人になれば多少なりとも知恵がつく。ガキの頃みたいにいかねえのはオレでも分かっていた。だからマイキーについてきそうな仲間を集め、マイキーが梵天という形を創った。その時、マイキーがオレに洩らしたことがある。

――数年後か、数十年後か分からねえけど、もう一度タケミっちがオレの前に姿を現すかもしれない。その時は…

今がその時・・・なのだと、花垣の姿を見て確信した。

「おい。この男…花垣武道が今、どこで何をしてるか探れ」
「…はい」

何故オレがこの男の名前を知っているかと疑問に思ったんだろう。部下が怪訝そうな顔をしている、だが余計な質問をしてこないのはオレという人間を良く理解しているからだ。

「あと、もしコイツが他の場所にも姿を現わしたらすぐオレに知らせろ」
「分かりました」

一礼して部下が静かに部屋を出ていく。それを見送った後、オレはもう一度映像へ目を向けた。月日は経ったというのに、花垣は相変わらず間抜けたツラをしていて、つい苦笑が漏れた。コイツが何故、今更ながらに梵天のことを嗅ぎまわっているのか気になった。目的はマイキーに会う為だろうが、会ってどうする気なのか理由が気になる。

(あの頃のマイキーはこの男をやたらと気に入っていた…。真一郎に似てるという理由だけで。ただ今のマイキーがコイツを受け入れるかどうかは別問題…)

もう、あの頃のマイキーはいない。今更花垣に会ったところで何も変えられない。
オレが――変えさせない。
過去はいらない。オレも、マイキーも。
マイキーは絶対的な王であれば、それでいい。



事務所として所有してる渋谷の本部と、六本木の支部に家宅捜索が入ってから3日は過ぎて。わたしもあの豪華なホテルの部屋を出て、再び六本木のマンションへ戻って来た。前と変わらない日常に戻ったけれど、万次郎は未だに帰ってくる様子はなかった。電話をかけても繋がらないことが多く、繋がっても元気がない。また体調が悪いんだろうけど、今回は少し長い気がする。

『オレのことは気にするな…。オマエは元気に過ごしてろ。お洒落して好きなとこに出かけていいから』

最後に話した時、何故かそんなことを言われて、漠然とした不安が残った。これまで深くは考えなかったけれど、万次郎はいったい何に心を痛めてるんだろう。
部屋でボーっと考え事をしていると、気づけば外は茜色に染まっていた。ここ最近の慌ただしさが嘘のように穏やかで、静かな時間が流れている。

「…綺麗」

窓の前に立って空を眺めると華やかな夕焼けが、西の空を彩っている。久しぶりに空を見上げた気がして、しばらく眩しい茜色に交じる雲を観察していた。幼い頃は家に入れてもらえず、よく近所の公園で夕焼けを見ていたものだ。あの時はどこか物悲しいものを感じていたけど、今はあの頃よりも心は穏やかだ。ただ、少しの不安はあるけれど。

(これから先…わたしはどうなるんだろう…)

このまま梵天でずっと、こうしているわけにもいかない気がしている。少しずつ不穏な空気が流れこんでいるような、漠然とした不安がこみ上げてくるのは何でなんだろう。
そんなことをボーっと考えていると、夕映えがいつの間にか光を失い、夕闇の気配が急に広がりはじめた。茜色が闇に飲み込まれていく。まるでわたしがこの世界に飲み込まれていった時のように見えて、自然と苦笑が漏れた。出来ればこの空と同じように、黒と交じり合っていつか消えてしまえたらいいのに。
その時、静かな部屋に突然インターフォンの音が鳴り響いた。

「え…誰だろ…」

わざわざインターフォンを鳴らすということは万次郎でも、蘭さんでも、春千夜でもない。首を傾げつつ直接玄関まで行くと、ドアスコープから廊下を覗いてみた。

「え?」

何も見えない、ということが分かった瞬間、いきなりドアが開き、ひょいっと蘭さんが顔を出す。しばし呆気にとられて固まってしまった。

「お、いいリアクション。驚いた?」
「え…な、何で蘭さんが…?」

出張から帰って来た後も蘭さんは忙しかったようで、しばらくは顔を出せないと夕べも電話で話してたはずだ。だからこそ、急なこの訪問には驚かされた。

「いや、今日予定してた取り引きが来月に延期になったんだよ。今回の騒動の前に決まってたやつな。まあ警戒して様子見ってとこだ。ラットがどこまで情報を洩らしたか全部は明らかになってねえしな」

簡単に説明しながらリビングまで歩いて行くと、蘭さんはくるりと振り向いた。

「ってことで…に会いに来たんだけど…迷惑だった?」
「ま、まさか…嬉しいよ。一人で寂しかったし…」

会えないと思っていた時に会えるのは想像以上に嬉しいものだ。だから嬉しそうに微笑む蘭さんが両手を広げた時、素直に抱きつくことができた。蘭さんの背中に腕を回すと、彼の両腕にぎゅっと抱きしめられて、大好きな香りに包まれた瞬間、驚くくらいにホっとする。さっきまで感じていた不安など簡単に消え去ってしまった。

「会いたかった…」
「オレも」

少し体を離した蘭さんが身を屈めて、わたしの額にくちびるを押し付ける。そのまま顔を傾けてくちびるにもキスが落ちてきた。ちゅっと何度か啄んだあと、もう一度わたしを強く抱きしめてくれる。この瞬間が凄く幸せだ。

「あー癒される…」

わたしの頭を抱き寄せて蘭さんが呟く。わたしはその何倍も、彼に癒されてる気がした。

「オマエ、ちゃんと食ってっか?なーんか痩せたぞ」
「え…嘘…ひゃ」

蘭さんの手が背中から腰にかけてするりと撫でていく。くすぐったくて変な声が出てしまった。

「やっぱ痩せたわ、オマエ」
「え…た、食べてるんだけどな…」

なんて言ったものの、本当は最近ちょっと食欲がなかった。そんなことまでバレてしまうのか、と内心ドキっとしたけど、蘭さんは鋭いから今のわたしの言葉すら嘘だとお見通しかもしれない。

「何か食いに行くか?オレ、今日はもう何もねえし」
「え…じゃあ…」
「朝までは一緒にいられるけど…?」

蘭さんは意地悪な笑みを浮かべながら「ここにいていい?」と訊いてくる。そんなの訊かなくても分かってるクセに。

「いて…欲しい」
「素直じゃん」

蘭さんはちょっと笑って、わたしの頬へも軽く口付けた。そのまま腕を放すと、今度はわたしの手を引いてウォークインクローゼットへと向かう。蘭さんは並んでいる服の中から一着を選ぶと、それをわたしへ押し付けた。

「これ着て」
「え…」
「どこも出かけてねーんだろ?マイキーが心配してた」
「…万次郎と会ったの?」
「ああ。さっきちょっとな。取り引きの件で本部に行ったら、そこにマイキーが三途と戻って来て」
「本部…?万次郎は病院にいるんじゃ…」
「まあ、家宅捜索は終わったし、ずっと病院にいるのは息が詰まるんだろ。でもすぐ戻るとは言ってたけど」
「そう…」

本部に顔を出せるくらいには万次郎も体調が良くなったらしい。少しホっとはしたものの、こっちへ顔を出さないのが気になった。

(やっぱり…わたしを避けてるみたい…)

わたしを避けるということは、まだ精神的にも安定はしてないということだろうか。そんなことを考えながら一瞬ボーっとしていたようだ。不意に膝裏を持ち上げられて「わっ」と声を上げてしまった。

「ら、蘭さん…?」
「やっぱ予定変更」
「え…?」
「食事の前に…を食べたくなった」
「な…」

拒否する間もなく、蘭さんはわたしを抱きかかえたまま寝室へと歩いて行く。ドアを無造作に開けて中へ入ると、蘭さんは真っすぐベッドへ足を向ける。どうして急に?と戸惑っていると、体がふわりと浮いた。

「…きゃ」

軽くベッドに放り投げられたせいで、スプリングの利いたベッドの上を体が軽くバウンドする。驚いて見上げた先には不満げに細められたバイオレットの瞳があった。

「蘭さん…?」
「オマエさぁ…オレといるのにマイキーの心配してんじゃねーよ」
「え…?」
「ムカつくから今日は優しくしてやんねえ」
「え、ちょ…っ」

乱暴にネクタイを引き抜き、蘭さんはベッドへ上がって来ると、上体を起こそうとしたわたしをベッドへ押し倒した。上から見下ろしてくる彼の瞳は、やっぱり少し不機嫌な色をしていた。

はすーぐ他の男のことで頭がいっぱいになっからなぁ?今日はオレのことで頭いっぱいにして」
「え、ら…ぅ…んん」

どうやら蘭さんの不興を買ったようだ。そんなつもりはなかったにしろ、言われた通り、万次郎のことが心配だったのは間違いない。でもそれは蘭さんへの愛情とは別の感情だ。
ただ、もし蘭さんが同じように、わたし以外の女のことで頭をいっぱいにしていたら、わたしだってきっと気分が悪いだろう。
少し乱暴なキスを受けながら、余計な不安を煽ってしまったことを後悔していた。

「ん…ふ…っ」

瞼の奥がチカチカするくらい、酸素が足りてない。苦しくて薄くくちびるを開けば、蘭さんの舌が捻じ込まれた。逃げ惑う舌は、すぐに蘭さんに絡めとられ、ねっとりと濃厚に舌を絡ませられる。口腔内を蹂躙する熱い舌に背中のゾクゾクが止まらない。久しぶりの蘭さんのキスに、自然と体が火照ってしまった。

「ん…ら…ん…さ…」

酸素を求めようと吸い付かれたくちびるを僅かに離す。でもまたすぐに塞がれた。まるで弱い部分を愛撫されてるようで、気持ち良さに身を震わせた。湿った音が響く中、口内も頭の中も蘭さんにたっぷりかき回された後で、ようやくくちびるが解放された。互いのくちびるを繋ぐ銀色の糸があまりにも淫らで、目を背けて息を整えていると、視線を感じた。長いまつ毛に縁どられたバイオレットの瞳が、何かを訴えるようにジっとわたしを見つめている。仄暗い光が揺らめく劣情。その瞳に見つめられるだけで頬が熱くなる。その火照った頬を、蘭さんの少し冷たい指先が撫でていく。たった一撫でされただけで肩が過剰に跳ねてしまうのだから嫌になる。

「…可愛い。キスだけで感じた?」

濡れたくちびるを舐めながら、余裕の笑みで微笑む蘭さんが、少しだけ憎らしく思えた。

「…くせに」
「…あ?」
「知らないクセに…」

思わず口から零れ落ちた言葉。蘭さんが怪訝そうに「何を?」と訊いて来た。一瞬、後悔したものの。一度吐き出された言葉は止まらない。

「わたしが…どれだけ蘭さんのことを好きか…」
「……?」
「わたしがそばにいたら…蘭さんを傷つけるんじゃないかって…そう思うのに、拒めなくて…そのたび後悔して…。ホントはわたしだって蘭さんだけでいたいのに…。なのに蘭さんは嫉妬したって言うけどいつも余裕で…何か悔しい…」

言ってることが支離滅裂だ。自分でも何を言いたいのか上手く言葉が出てこない。感情だけが先走ってる気がする。でも蘭さんは黙って聞いてくれていた。
心の中を少し吐き出せたせいなのか、ふと我に返った時、急に恥ずかしくなったと同時に、後悔が押し寄せてきた。

「ご、ごめんなさ…」

そう言いかけた時、ふわりと頭に手が触れて、優しく髪を撫でられる。驚いて視線を上げると、蘭さんが困った様子で笑みを浮かべていた。その微笑みがあまりに優しいから、自分が駄々っ子のように感じて、ちょっと恥ずかしくなったけれど、わたしを見つめるその慈しみを感じさせる眼差しは、何もかも知っているように見えた。

「オレの方こそ悪かった。変な嫉妬して…」
「え…」
「正直…他の男とがって思うと、自分でもビビるくらい嫉妬の感情で焼かれそうになんだけどさー。でもそれ以上に…オマエのそういう優しいとこも好きなんだよな…」
「…蘭さん…」
がオレのこと一番に好きでいてくれんなら…まあ、いっかって思っちまうのが怖ぇわ」

良くはねえけどな?と付け足しながら、蘭さんは笑った。
出会いも、今の環境も普通じゃない。わたしと蘭さんの形は歪なのかもしれない。だけど、お互いが許し合えて想い合えてるなら、それはわたし達にとっての正しい形なんだと思える。

「で…続きしてもい?」
「…え?あ…」

そっと頬を撫でられて鼓動が素直に反応する。聞かれるまでもなく、わたしの方が蘭さんに触れて欲しかった。
小さく頷けば、ぎしりと音をたてて、わたしの脚の間に蘭さんの膝が割って入ってくる。上から射抜いてくる蠱惑的なバイオレットが、男の欲を孕んで熱っぽく揺れていた。

「オレを欲情させた責任はとってもらうから」
「……っ」
「でも…今度は優しくする」

蘭さんは意地悪そうに笑うと、ゆっくりと身を屈めてくちびるを重ねてくる。その時、足の間に入り込んだ腰の部分を、蘭さんが押し付けてきた。ショーツ越しでも分かる、やけに硬いもの。その正体に気づいて頬がカッと熱くなった。

「言ったろ?責任とれって。もう以外にこうならねえから、その分の責任もとれよなー?」
「え…」

とんでもない台詞を吐く蘭さんは、真っ赤になったわたしを見て楽しそうに目を細めた。

「オレを男に出来んのはオマエだけだってこと、体にたっぷり覚えさせてやるから覚悟しとけ」

言葉は乱暴なのに、わたしに触れるくちびるは優しい。何度抱かれても、この愛しさは消えずに肌に刻まれ、結局わたしは蘭さんの好きなように食べ尽くされるのだ。
反論も出来ずに、ただ蘭さんの愛撫に身を任せて乱れるわたしを、彼は黙って見つめている。その綺麗な瞳を細めて、焦がれるような熱を宿しながら。



3.

静かな裏路地に、突然バァンっという大きな音を立てて、ある店のドアが開かれた。一人は店の用心棒だろう。体格もよくネクタイにベストといったスーツ姿。他にも似たような恰好の男が二人、立っている。スーツを着た一人に首根っこを掴まれ、放り出されたのは小柄の、ごく普通の男だった。すでに何発か殴られたようで、小柄の男の顔には無数の傷や痣が出来ている。スーツの男はそれでも容赦なく、道端に転がした小柄な男を蹴り続けた。

「ふざけんな!店ん中で"梵天""梵天"って騒ぎやがって!」

ドカッと最後の蹴りを入れて、スーツの男が小柄な男の前髪を掴む。無理やり顔を上げさせると、スーツの男は怒り狂った目つきで怒鳴り散らした。

「いいか?二度とウチの店に近づくんじゃねぇぞ、コラ!」
「…うぐっ…」
「梵天には目ぇつけられたくねぇんだよ、バカヤロウ」

最後は吐き捨てるように文句を言って、スーツの男は残る二人と店内へ戻っていく。路地に放置された小柄な男は、痛む体をどうにか立たせると、呻きながら腹を押さえつつ、おぼつかない足取りで歩きだした。その様子をこっそりと見ていたオレは、小柄な男――花垣武道の後ろから静かに尾行しはじめた。目的は花垣に協力者がいるかどうか。単独なら、このまま始末しても構わない。だが他に協力者がいるのなら、それなりにお膳立てする必要があった。

(今のところ単独に見えるな…。アイツが殴られても誰も助けには来なかった)

部下に調べさせた花垣の現在は、オレが知るアイツとさほど変わらない生活を送っているようだった。だがその合間に夜な夜な梵天を探しに繁華街をうろついてる。
何故、急に――?
オレの疑問はそこだったが、そんなものは本人の口から吐かせりゃいい。とにかく花垣が単独か、それとも仲間がいるのかを調べる必要があった。これは部下に任せられない。もし仲間がいるなら、オレが直接見た方が早いからだ。

花垣はフラつく足取りで家とは違う方向に向かいだした。
これは正解か?と逸る気持ちを押さえながら、一定距離を保ちながら尾行して行く。そのまま歩くこと数十分。花垣はとある場所の高架下に辿り着き、トンネルになっている場所の壁に背を預けてスマホを確認している。見た感じ誰かと待ち合わせをしているようだ。

(オレの勘は当たってたな…。やはり単独じゃない)

なら誰だ?と考えた時、花垣が頼りそうな相手は一人しか思い浮かばない。
松野千冬――。
花垣の隊の副隊長だった男だ。花垣に協力をするとしたら千冬だろう。そう思っていた。
だが、その場に現れたのはオレの予想を超える人物だった。

「タケミチ!」
「あ…。一虎くん…」

「―――ッ?」

反対側から人影が見えて、花垣の方へ歩み寄った男。それは花垣の前に壱番隊を率いた場地圭介を、あの"血のハロウィン"で殺した、羽宮一虎だった。
あれから10年以上経っているし出所してても別におかしくはない。この男が何故花垣と?という謎は残るが――。
ただ、二人の会話を聞く限り、羽宮は花垣の無謀さに腹を立ててるようだった。

「いい加減にしろよ、タケミチ!これ以上嗅ぎ回れば命を落とすぞ!オレはオマエの自殺の手伝いをしたいわけじゃねぇんだ――もう終わりだ」
「…っ!待って下さいよ、一虎くん!」
「ダメだ!オマエは3日後に結婚式を控えてんだぞ。何かあったら皆に合わす顔がなくなる!しばらくは大人しくしてろ!」
「一虎くん…!」

「………」

羽宮は花垣を一喝すると、元来た道を戻っていく。でも花垣は諦めたようには見えなかった。

(今の話を聞く限りじゃ…やはり花垣の目的はマイキーに会うこと…でも羽宮はこれ以上、深入りする様子はないか…)

バカな男だ。3日後には結婚式だと言っていたが、だったら大人しく忘れたら良かったものを。

(でもまずはマイキーに報告しなくちゃいけねえな…)

出来れば今ここでオレが花垣を消したっていい。だが、いつだったか「もし、花垣が現れたその時はオレに知らせろ」とマイキーは言っていた。マイキーとの約束を破るのは、オレの王への忠誠心に反する。

「一度戻るか…」

マイキーに花垣のことを伝え、あとの判断はマイキーに任せる。これが右腕としての正しい役割だと思った。

「チッ…目障りなゴミが……ヘドロ臭ぇんだよ…」