暗い夜道は気をつけよう



1.

今日は仕事の後、煩わしい部下を追い返し、人気風俗嬢のリカちゃんとクラブに行った。これはその帰りの出来事である。
梵天の管理している六本木のクラブで豪遊して気持ち良く酔っていたわたしは、いつもならマンション前で降ろしてもらうところを、この日は途中でタクシーを降りた。なんてことはない。コンビニに寄りたかったからだ。特に買わなきゃいけない物があったわけでもなく。何となく気分的なものだった。肩に入れたタトゥーのおかげでクラブでの資金は一切かからなかったし気分が良かったのもある。何か新商品のスイーツは出てないかなと思いながら、棚に並んでいるスイーツ達を品定めしていく。寝る前に食べたら太る、とは思うものの、甘いものだけはやめられない。

「ん~。特に新作はないか~」

と言いつつ、しっかりと杏仁豆腐にクリームの乗ったコーヒーゼリーはゲットしていく。

「あ、あとティッシュ切れそうだったっけ」

そういう日常の必需品は思い出した時に買っておかないと大変なことになる。ティッシュの箱を3箱くらいカゴに入れ、後は缶ビールやツマミ的な物も入れる。スナック菓子も必須だ。飲んで来たくせに、まだ何か飲み足りない感じがするのは、コンビニに美味しそうなおつまみが並んでいるからだ。ついつい家飲みでもするかという気持ちになった。

深夜のコンビニは意外と混みあっている。わたしみたいな遊び帰りの大学生や、飲みに行って帰宅途中のサラリーマンなどが多い。だから気分的にもどこか安心感があった。レジで支払いを済ませ、ここから徒歩5分程度の自宅マンションまで歩いて帰る。梵天に入ることになって適当に事務所近くのマンションを借りたけど、お金も貯まって来たし、そろそろワンランク上のマンションに引っ越そうかと思っていた。

「あ~買いすぎちゃったかな…」

袋が二つになったことで両手に持つハメになり、つい苦笑する。目的もなしにコンビニへ入るとこういう目に合うのはよくあることだ。でもこの日は不運にもコレのせいでわたしはいつになく無防備だった。それまで何の警戒も向けていなかった背後から、不意に人が歩いて来る気配がした。だけど特に気にしなかったのはコンビニにいた帰宅途中の誰かだと思ったからだ。ただ相手が早歩きだったのが少し気になった程度。その人物はわたしを早歩きで追い越そうとした。でも次の瞬間、むにゅっと胸を鷲掴みにされ、ビックリした。ビックリしすぎて声も出ない。その人物は追い越しざまわたしの胸を触ると、一気に走りだした。そこで我に返った時、怒りが沸々と湧いて「ちょっと待て!!」と大きな声で叫んだものの、相手は角を曲がって姿が見えなくなった。途中まで走って追いかけたけど、わたしはヒールだし両手にはパンパンの買い物袋。追いつけるはずもない。

「あ、あの野郎~~~!!!」

痴漢だったんだと今頃になって理解したら本気で腹が立ったけど、ついでに恐怖も襲って来る。少し行けばコンビニがあるのに辺りは人っ子一人歩いておらず、さっきの客達はどこへ帰って行ったんだと首をかしげてしまう。でもそこで思い出した。わたしの胸を揉んでいった男。アイツはレジで支払いをしてる時、後ろに並んでいた男だ。

「アイツ…確か大学生っぽい男だった…」

でも顔は覚えてない。男の羽織っていたベージュのジャケット。それしか記憶になかった。

「…く、悔しい~っ」

女にとって見知らぬ男に体を触られるというのは屈辱以外のなにものでもなく。怒りと恐怖が入り混じってこの日の夜は全く眠ることが出来なかった。




2.

「ハァ?痴漢だ?!」
「そーなんです…っ!」

次の日、早速事務所に顔を出した蘭さんに夕べの腹立たしさを訴える。睡魔に負けそうになりながらも午前中の仕事を終えて体も疲れ果てていた。蘭さんは半泣きのわたしを抱きしめながら「そりゃ怖かったろ…」と頭を撫でてくれた。それが意外なほど癒される。

「どこのどいつだ、そのクソ野郎は…!顔は?見たのかよ?」
「…見てない…。追い越しざま手だけ伸ばしてきたって感じだし、ビックリしちゃって…」
「…チッ。オレののオッパイ揉み逃げとはいい度胸してんなァ、そのクソガキ」

いつもなら「わたしは蘭さんのものじゃありません」と言うところだけど、今は蘭さんの言葉がキュンキュンくる。守ってくれるなら蘭さんの女になってもいいかな?と思ってしまうくらい心が弱っていたかもしれない。

「つーか、オマエ早く引っ越せよ。あのマンション、オートロックはあるけど、エントランスだけじゃ心配だわ」
「…わたしも引っ越しは考えてるんですけど…なかなかいい物件がなくて」
「だーからオレんちにオマエ専用の部屋、作ってやったじゃん」
「……あ…」

確かに、灰谷家でバイトをするようになった頃、空いてた部屋がわたし好みの可愛い部屋に様変わりをしていて、竜胆さんにも「ここオマエの部屋な」と言われた。あんな好きな物に囲まれた部屋と豪華なマンションに住めるのなら夢のような話だ。ただ一つ問題なのは、そうなると灰谷兄弟と同居、という形になってしまう。それはさすがに身の危険を感じた。

「なーに迷ってんだよ」
「い、いえ…別に…ひゃ」

ソファに並んで座っていたわたしを軽々と抱き上げた蘭さんは、わたしを自分の膝へ座らせた。何これ、社長と逢引してる愛人秘書、みたいなシチュエーションになってない?蘭さんの肩に掴まっていないと後ろへ倒れそうで怖い。いや、蘭さんの手がわたしの腰を支えてるから平気?って、この体勢はエッチぃ気がする。

「オマエがウチに来れば怖い思いもさせねえし、危ない目にも合わせねえけど?」
「う…」

蕩けるような優しい眼差しで見つめないで欲しい。彫刻かな?と思うくらい、綺麗な顔立ちの蘭さんは肌もきめ細かく滑らかで、透明感がある。男の人なのにズルいと思うくらい綺麗すぎるから、こんな近くで見つめ合うのはある意味拷問だ。線の細い体型のわりに、お尻の下にある筋肉質な腿がやけに男を感じさせる。

「ど…同居はちょっと…」
「オレは同棲でもいいけど」
「……はい?」

蘭さんはまた何とも言えない微笑を浮かべて誘惑してくるのだからタチが悪い。

「同居は家賃光熱費を折半にするけど、同棲ならそれは全てタダになる。浪費家のにはもってこいの条件だろ?」
「え…タダ…」

どうもタダという言葉に弱いわたしは、蘭さんの肩を掴む手にぎゅっと力が入った。でも一つ問題なのは、同居と同棲。金銭が発生するしないとは別として、他に何が違うんだろう。

「えっと…蘭さん」
「ん?」
「参考までに聞きたいんだけど…同居と同棲って何が違うの…?お金がかかるのとかからない。その理由は?」
「ああ、そのこと」

わたしの問いかけに蘭さんは待ってましたとばかりに口角を上げた。

「同居ってのはただ家をシェアするだけの他人だから家賃光熱費などは折半になる。でも同棲ってのは当然、男女の関係になる二人がするものだから――」

と言いつつ、蘭さんはわたしの背中から腰にかけてするりと撫でていく。何だ、そのいやらしい手つきは。

「金は男が払う。他の奴は知らねーけど、オレは自分の女に一銭も払わせたくねーの。分かる?」
「はあ……って、えっ?女…?同棲するなら蘭さんの女になるってことですか?」
「当然だろ。を竜胆の女にするわけにはいかねーからなー」

と蘭さんは手でぐいっと腰を抱き寄せてきた。互いの距離がいっそう近くなり、いつもとは逆に蘭さんがわたしを見上げてくる。その眼差しは意外と真剣で、わたしの喉がごきゅっと変な音を立てた。

「え…遠慮しておきます…」
「ふーん。まあ返事は今すぐじゃなくてもいいけど。怖い思いしたならサッサと今のとこ引っ越すことをお勧めするわ。渋谷よりは六本木の方が痴漢は少ないしなー」

そう言われると確かにそうだ。蘭さん達のマンション前はヒルズにも近く、常に人が賑わっている通りに面している。あんなところで痴漢をしようという輩は少ないだろう。蘭さんは考えこんでいるわたしを見て苦笑すると、わたしをソファへ下ろした。

「まあ真面目な話、夜遊びすんなとは言わねえけど帰りは気をつけろよ。そういった痴漢するヤツは行為がエスカレートする場合があるからな」
「…お、脅かさないでよ…」
「脅してんじゃねえ。真面目に心配してんの。オレだって仕事でずっと傍にいてやるわけにもいかねえんだから、極力一人で帰るな。ちゃんと部下を連れて歩け」

な?と言って蘭さんはわたしの頭を撫でると、また仕事だと言って事務所を出て行った。そうは言われても人相の悪い部下がゾロゾロついてくるとなれば、それなりに大変だ。

「まあ帰りが遅くなった時はマンション前までタクシー乗ればいいよね」

呑気なわたしはまだそんなことを考えていた。
そして痴漢騒ぎがあってから一週間後のこと。わたしは再び仕事帰り、今度は一人で渋谷本部からほど近いプールバーへ寄った。ビリヤードは出来ないけど、店の雰囲気が好きで、時々一人でも寄るようになった。もちろん梵天所有の店だから何でもタダだ。そこのバーテンとも親しくなり、カウンターで数杯カクテルを飲み、美味しいフードを食べてご満悦だった。

「は~お腹いっぱい…」
「結構食べましたね。こんな時間に大丈夫ですか?」

バーテンダーで店長の猿渡さんが苦笑気味に時計を見た。わたしも釣られて時計を見ると、なかなかにいい時間。そろそろ帰ろうかなと思ってカウンターのスツールを降りる。

「あれ、帰るんですか?」
「うん。蘭さんも竜胆さんも来ないし。せっかくビリヤード教えてもらおうと思ったのに」
「あの二人も気まぐれですからね。だったら電話で誘えば良かったのに」
「かけたよ~。でも留守電になっちゃったから、きっとまだ仕事中。今日二人とも新宿で取り引きあるって言ってたし」
「そうですか。あ、じゃあタクシー呼びましょうか」

わたしがバッグを手に出て行こうとするのを見た店長が気を利かせて声をかけてくれる。でもここから10分もしないのにタクシーをわざわざ呼ぶというのも気が引ける。いくら反社とは言えど、それくらいの常識はあるのだ。

「ううん、いい。コンビニにも寄りたいし」
「そうですか?じゃあ気を付けて帰って下さいね」
「うん、ありがとー。またね、店長」

軽く手を振りながら店を出る。ここの通りは人通りも多く賑やかで、特に怖いこともない。わたしは少しふらつく足取りで自宅マンションへと歩き出した。そのまま途中にあるコンビニに寄って、適当に朝食になりそうなものやお茶などの飲み物を買う。さすがに飲み過ぎたせいかお酒を買う気にはなれなかった。

「1080円になります」

いつものバイトの兄ちゃんが怠そうに商品を袋に入れるのを眺めながら、スマホ決済して袋を受けとる。この時は痴漢にあったことすら忘れ去っていた。でもコンビニを出てマンションに歩き出した時、ふと一週間前のことを思い出した。

(そうだ…この辺で触られたんだっけ…)

そこでハッとして後ろを振り返る。でも誰もいなくてホっと息を吐きだした。今日はコンビニ内も人はまばらで、あのベージュのジャケットの男も見かけなかった気がする。あの様子だと絶対に近所の人間だろうというとこまでは当たりをつけていたけど、顏も分からないことには探しようがない。

(そうだ…今度囮になっておびき寄せるって手もあるな…その時は春千夜にでも手伝ってもらえば、痴漢を捕まえられるかも…)

そんなことを考えつつ、マンションへ急ぐ。ただ周りは深夜ということもあり、この前同様、人が歩いていない。あまりに静かで逆に怖くなって来たせいで自然に足も早歩きになる。でも少し後ろでかすかに足音がした。その時は一人という心細さもあり、何故かホっとしてしまった。

(良かった…誰か歩いてるなら怖くない)

でもそう思ったのはほんの一瞬で、徐々に近づいて来る足音に何となく体が緊張した。

(さっきより音が近い…?)

ほんの小さな違和感。普通に歩くだけじゃ、そこまで距離は縮まらないはずだ。なのに明らかに後ろの気配が近づいて来るのが早い。もちろん足が速い人もいるし、家路を急いでる人かもしれない。だけどわたしは自分の直感を信じて、思い切って足を止めて振り向こうとした。その時――。

「…危ないっ!」
「――っ?」

そんな声が聞こえたと思った瞬間、背後で「うぉりゃぁぁぁっ」という掛け声と共に、何かが倒れるドサっという音。そこでわたしが見たのは道路に仰向けで倒れているTシャツ姿の男と、その男の腕を捻じ曲げるようにして掴んでいるトキコさんだった。

「へ…?」

何が起きたのかサッパリ分からず唖然と立ち尽くしていると、その後ろからまたしても誰かが走って来るような足音がした。

!何があったんだよ…!」
「ら……蘭さんっ?」

蘭さんは走って来たと思えばわたしを思い切り抱きしめて「今、凄い声が聞こえたから来てみれば…」と言いつつ後ろへ振り返る。 するとトキコさんは男の腕をパっと放し、蘭さんを見て何故かポっと頬を紅色に染めた。

「は?トキコ…何でオマエがここにいんだよ」
「ら…蘭さん…♡」

絶対いま語尾にハートをつけたよね?と聞きたくなるほど、聞いたこともない乙女のような声を出したトキコさんに、わたしはずっと驚かされっぱなしだ。ただ一つハッキリしてるのは、私の後をつけていた痴漢をトキコさんが撃退してくれたということだ。

「バーの店長に今オマエが帰ったとこだって聞いて追いかけて来たら、ゴリラの雄たけびみてーな声がしたからビックリしたわ…ってか何がどうなってんの?コイツ、誰?」

蘭さんも混乱をしているのか、道路で白目をむいて気絶している男を指さし、トキコさんの方を振り返る。彼女が何故ここにいたのかは知らないが、「たぶん痴漢をやっつけてくれたんだと思う」と蘭さんに説明した。

「え、これトキコがやったのか。オマエ、すげーじゃん」
「い、いえそんな……昔取った杵柄きねづかってやつですぅ…♡」

トキコさんは何故か腰をくねくねさせながら女子オーラ全開で蘭さんに答えている。そう言えば確かトキコさんは昔、かなり有名なレディースだったと蘭さんが話してたっけ。ケンカも強かったんだろう。大学生っぽい男は完全に伸びてしまっている。そしてこの男が先週わたしのオッパイを揉み逃げした男だと確信した。顔は見てない気がしてたけど、こうして気絶してる顔を見ると、確かにあのコンビニで一度目が合っていることを思い出した。

「チッ…コイツか。例の痴漢って…オレののオッパイ揉んだとか許せねえ…オレでさえ揉んだことねえのに」(!)
「…はい?」

論点が大幅にズレている蘭さんの発言に思わず突っ込みそうになった。でもその前に蘭さんはくるりと振り向き、トキコさんの方へずんずんと歩いて行く。

「トキコ、のこと助けてくれてさんきゅーな。マジで助かったわ」
「え、い、いえ…そんな――ぎゃふう…!」

モジモジと少女のような照れっぷりを見せていたトキコさんが頬を染めたと同時に、何を思ったのか蘭さんがガバっと抱き着いた。その刹那、盛りのついたマングースのような声が深夜の住宅街に響き渡った。

「痴漢撃退できたのはオマエのおかげだ、トキコ…。マジ、すげーわ、オマエ……って、あれ?トキコ…?」

蘭さん的にはお礼のハグだったようだ。けどトキコさんには少々刺激が強かったらしい。急にこんにゃくのようになったトキコさんは、蘭さんの腕の中からグニャリと体を折り曲げ、痴漢の隣に倒れ込む。そのあり得ない状況にあの蘭さんの綺麗な顔が"ビックリ顔キャラクター"みたいな顔になっていた。

「…え?何で?」
「……さあ?」

しばし蘭さんと二人で気絶している痴漢とトキコさんを交互に見ていた。これをどうすればいいんだろう。そう思っていると、蘭さんがふとわたしを見て、一言。

「とりま、痴漢のち●こ潰しとく?」
「…ですね」

その意見には大きく賛同し、その1秒後、今度は尻尾を踏み潰されたスカンクのような雄たけびが、深夜の住宅街を震わせた。

「は~スッキリしたぁ~」
「……オマエ、手加減0だな…」

痴漢の股間を最後の一押しでグリグリしているわたしを見て、蘭さんが怯えたように見下ろしてくる。何気に自分の股間をスーツのジャケットで隠してるのは気のせいだろうか。

「だって性懲りもなくまた襲おうとしたんですよー?これくらい当然です!」
「まあ…そうだな…ってかマジで良かった…」
「ひゃっ」

今度はわたしの腕を引き寄せて自分の胸元に収めると、蘭さんはぎゅっと抱きしめてきた。ホっと息を吐いてる姿を見れば本気で心配してくれたらしい。

「…ったく…遅くなるようなら気をつけろって言ったよなァ?部下も付けろって」
「う…だ、だって…」
「だってじゃねーよ。明日からオマエにがっちり部下つけるから覚悟しとけ」
「………はい」

部下が黒子のようにくっついてくるのは邪魔だけど、こうなった以上は仕方ない。そこは素直に頷くと、優しい手が髪を撫でていった。

「で…オレを走らせたお詫びは?」
「…え?」
「してくんねーの」

驚いて顔を上げると、これまた艶っぽい笑みがわたしを見つめてくるから心臓が変な音をたてた。

「お、おおお詫びって……」
「これに決まってんだろ」
「…ん…」

指でくちびるをぷにっと押され、一気に頬の熱が上がっていく。キスなんてし慣れてるはずなのに、改めておねだりされると恥ずかしい。

「ほら、はーやーくー」
「…う…わ、分かりましたよ…」

腰を更に引き寄せられ、身を屈めてくる蘭さんがゆっくりとその綺麗な瞳を閉じる。わたしは少しだけ背伸びをして、彼の艶やかなくちびるにちゅっと口付けた。想像以上に恥ずかしいのは、何となく恋人みたいな空気になったからだ。

「物足りねえ…」
「…えっ」
「もっとこう…濃厚なのして」
「ダ、ダメ…」
「何で」
「ここ…道路」
「いいじゃん。路チューしようぜ、オレと」
「ダダ、ダメですっ」

そんなやり取りの後、んーっとくちびるを近づけてくる蘭さんから顔を背けてどうにか押し返そうとしていた時だった。

「おい、オマエ達!何してるんだ!!」
「「―――ッ」」

近所の人から動物の悲鳴が聞こえると通報があったらしい。お巡りさんが二人、必死にチャリをこいでくる姿を見て、わたしは慌てて蘭さんから離れた。この後、一応痴漢被害者のわたしが事情を説明して無罪放免になったものの。わたしにチューを迫っていた蘭さんが危うく痴漢と間違われて(!)逮捕されそうになったことは内緒の話だ。「誰にも言うなよ…」と口止めされ、後日、ドルガバの靴をゲットとしたのは言うまでもない。




※「梵天のオバチャン再び」へ続く。