第八話 (性的表現あり)




1.

静かな室内にかすかな衣擦れの音と、の小さな嬌声が響く。帯を解いて、乱れた浴衣の合間から覗く彼女の白い胸元が、上下しているのが薄闇の中でもハッキリ分かった。初めて目にするの肌に、男の欲を掻きた立てられる。ただ、強く目を瞑ったままのを見ていると、少しだけ心配になった。

「…怖い?」

前髪を払い、額へ軽く口付けながら問いかけると、は驚いたように瞼を押し上げ、潤んだ瞳で見上げて来る。首を左右に振ったものの、オレが触れるたびに肩をビクリと揺らすのは、どこか怖がっているようにも見えて、これ以上触れることに躊躇いが出た。

…怖いなら無理しなくていいから。今夜じゃなくても――」

と言いかけた時、オレの胸元をはぎゅっと掴んだ。

「わたしは…イザナと本当の夫婦になりたい…だから…最後まで抱いて欲しい…」
「……っ」

は今にも泣きそうな瞳を揺らしながら、哀願するようにオレを見つめて来る。そんな顔でそんな可愛いことを言われたら、こっちも心拍数がヤバいことになった。

「ひゃ…な、何かおっきくなった…」
のせいだろ…んな可愛いこと言うから」

彼女の太腿に当たっている劣情は早くの中へ入りたいと暴れているのが分かった。体中の血液がそこに集中しているようで、痛いくらいに勃ちあがってる気がする。それでも自分の欲のまま初めてのを抱きたくない。頭の中でそう考えながら、どうにか残り少ない理性を奮い立たせた。

「…ここ、触っていい?」

滑らかに手に吸い付くの太腿を撫で上げ、下着越しから中心部へ触れると、やっぱりはピクリと体を跳ねさせ、頬を真っ赤に染めた。不安そうに見えてた表情は、もしかしたら恥ずかしいのかもしれない、とこの時気づく。

「ここ、慣らさないとがツラいし」
「う…うん…触って…」
「………(クソ可愛いな…)」

恥ずかしいのを必死で堪えている様子のはぎゅっと目を瞑ってジっとしている。色気うんぬんは当然ないに等しくても、その姿がいじらしくて余計に興奮してしまう。小さく深呼吸をして熱くなった頭を冷やすよう、冷静になれと何度も唱えながら、そっと下着の上からその部分を擦るように動かした。

「…ん」

同時に優しく口付けて、の緊張をほぐすように唇を重ねていく。

…口、開けて」
「…こ、こう…?」

ドキっとしたように目を開けたは、自身の唇を僅かに開いて行く。その誘うような唇を再び塞ぐと、隙間から口腔まで舌を滑り込ませた。逃げ惑うの舌を甘く絡めとれば、柔らかい感触が直接脳にまで届くようだった。その間も指での敏感な場所を優しく刺激していく。

「ん…んっ」

塞いだ唇の合間から可愛い声が洩れて、オレの鼓膜を震わせる。冷静に事を進めたいのに、一気に全身が火照りだした。最低なことに、オレは好きでもない女を何度も抱いたことがある。それは男の欲を吐き出すための行為でしかなかった。でもこんな風に理性が吹っ飛びそうになったのは初めてで、改めて心があるのとないのとでは、体の感じ方が全然違うんだと実感した。

「直接触るけど…平気?」

こんな風に相手を気遣うことすら初めてで、の見せる反応をいちいち気にしてしまうのも、想いが強すぎるせいかもしれない。
オレの問いには恥ずかしそうに頷くと、小さな声で呟いた。

「イザナの…好きにして」

油断していたところに、最大級の爆弾を投下された気分だった。一瞬でオレの理性を崩すには十分すぎるほどに。

「だから…っ煽んなって…余裕なくなる…」
「え…んっ」

少し乱暴に唇を塞いで、舌を強引に絡ませる。の咥内からくぐもった声が洩れて、でもそれすらオレを昂らせるだけだった。

「…んっぁ」

下着の中へ手を滑り込ませ、直接の秘部へ指を伸ばす。やはり初めての行為で緊張しているせいか、そこは濡れるとまではいっていない。唇を解放して、代わりに細い首筋から鎖骨辺りまでなぞるように口付けると、乱れた浴衣から覗く膨らみ、その先端へ吸い付いた。

「…ひゃぁ…んっ」

口内に含んだ場所を舌先でこねるように刺激しながら、少し強めに吸い上げると、初めての刺激に驚いたのか、の背中がビクビクと跳ねた。それを腕で抑えるようにしながら、行為を繰り返し、ピタリと閉じた場所に指を往復させていると、次第に指先が潤みを感じてきた。それを潤滑油にしながら少しずつ主張し始めた芽を優しく撫でると、の背中が反るように跳ねる。

「…イ…イザナ…それ…くすぐったい…」
「最初はそうかもしれねえけど…そのうち気持ち良くなるから」
「え…」

頬に口付けながら教えると、は驚いたように目を見開いたが、すぐ恥ずかしげに頷いた。それが可愛すぎて思わず頬が緩む。そのまま唇にキスを落とし、白い肌へも唇を這わせる。こんな風にに触れる日が来るなんて、出会った頃は思いもしなかった。近づけもしないくせに、離れることも出来ないまま、殆ど諦めていた想いだった。

「…んぁ…っ」

丁寧に愛撫を施したおかげか、どうにか指を受け入れてくれた。ゆっくりと埋めていくと、の口から苦しげな吐息が洩れる。

「…痛いか?」
「…ううん…痛くは…ない…」

涙を溜めながらも健気に首を振るが可愛くて、頬に軽く口付ける。さっきよりは体の力も抜けて緊張も和らいできたようだ。それでも指を受け入れてる場所は狭くてキツい。このままじゃはツラいはずだ。

「…ひゃ…イ…イザナ…?」
「足の力、緩めろ」
「…え…」

上体を下げての脚を押し開くと、は恥ずかしそうに頬を染めた。

「痛いことしねえから」
「う…うん…で、でも恥ずかしい…」

オレにその場所を見られるのが恥ずかしいのか、は更に涙を溜めながら身を捩ろうとする。あまりに可愛くてオレの理性も崩壊寸前だったが、どうにか押しとどめての内腿へ口付けた。

「すげえ綺麗だから…恥ずかしがることねえよ…ここ解さないと痛みあるかもしんねえし」
「…ぁ…っ」

指で刺激した場所は最初よりも潤みを帯びていた。だけどまだオレを受け入れるにはキツそうで、そこへ直接舌を這わせる。思った以上に刺激が強かったのか、の高い声が上がって掴んでいた腰が僅かに跳ねた。

「…んぁ…ぁっひゃ…ぁ」

刺激を与えるたび、艶のある声がオレの耳に届く。の乱れる姿を見るのはオレだけだと思うと、余計に体が昂った。脚を開いているせいで、普段は閉ざされているはずの間が露わになって、薄く開いている亀裂を下から上へと舌で舐め上げれば、いっそうの嬌声が艶やかにあがった。

「…や…ぁぁ…イ、イザ…ナ…んんっ」
「気持ちいい?すげえ濡れてきた」
「…ゃあ…っ」

頭を振りながら喘ぐの脚に力が入り、恥じらいで無意識に閉じようとする。それを手で抑えながら今ではハッキリと主張している突起を咥内に含むと、ちゅうっと少し強めに吸い上げた。その瞬間、の高い嬌声が上がって脚がビクビクと震えるように跳ねる。

「…イけた?」
「…よ…よく…わかんな…い…」

四肢が弛緩したようにグッタリとなったは小さな声を震わせた。上体を起こしてに覆いかぶさると、涙でグチャグチャになった瞳がオレを見上げてくる。

「ごめん…やりすぎたな」

多少感じてもらった方がいいと思ったけど、処女のには刺激が強すぎたらしい。そっと濡れた頬に触れると、はとろんとした目をオレに向けた。

「へ…平気……」

力のない両手をオレの首へ伸ばしてくるが可愛くて、そのまま唇を塞ぐ。オレの体もかなり限界に近かった。

「挿れるけど…痛くて無理そうならちゃんと言えよ?」
「…ん…だいじょぶ…だよ」

一度イったことで恐怖も薄らぎ、いい感じで脱力したせいか、の体はさっきよりもリラックスしている状態だった。そっと腰を押しつけて、今では痛いほどに硬くなっている自身を押し当てると、たっぷり濡れた場所へ抵抗もなく埋まっていく。それでも異物感はあるのか、の小さな手がオレの腕をぎゅっと掴んでくる。

「…は…痛い…か?」
「…い…痛くない…少し…苦しい…くらい」

はかすかに微笑みながらオレを見上げてくる。その顏を見ていると、彼女とやっと繋がることが出来た気がして、胸の奥が温かいもので溢れていく。

「…んんっ」
「…狭い…な、やっぱ」

時間をかけて全てを奥まで挿れていく。気づけば額に汗が浮かんで、こめかみを伝っていった。

「イザナ……大丈夫…?」

顎から落ちた汗に気づいて、がそっと頬に触れて来る。から見ればオレの方が苦しそうに見えるのかもしれない。その顏は少し心配そうだ。

「平気…すげー気持ちいいだけ」
「……っ」

オレの言葉に、の赤みを帯びた頬が更に赤くなった。でもオレも正直限界だった。最愛の子だからこそ、こうして体を繋げるだけで達してしまいそうなのを堪えてるという意味では、大丈夫ではないかもしれない。

「動くぞ…」

今では林檎みたいに赤いの頬にキスを落として言えば、彼女は何度か頷いたようだった。それを確認してゆっくりと抽送をしていく。かなり狭く締め付けられて、気を抜けばすぐにイってしまいそうだ。それでも浅い場所をゆったりとした速さで自身を往復させていると、少しずつ奥の方も馴染んで来た。

「ん…ん」

苦し気げなの表情を見下ろしながらも、体は勝手に快楽を貪るようにスピードを速めていく。これ以上、時間をかければの方がツラい。

「イザナ……大好き…」

その時、が小さく呟いて、オレの心も体も揺さぶって来る。

「だから……そういうこと今言うなって…」

オレが僅かに目を細めると、涙を溜めた瞳が幸せそうに微笑んだ。最初から諦めていた想いが、今初めて報われた気がして、オレも何故か泣きそうになった。

――と家族になってくれ。

心からの幸せを感じて不意に社長からの言葉を思い出す。こんなオレの想いを、社長の気持ちが後押ししてくれた気がする。これが社長の望む形だったのかは分からない。でも、オレはと本当の家族になりたかった。
誰にも愛された記憶がないからこそ――の気持ちが何よりも嬉しかったんだ。

「オレも…のことが大好きだから…もう離れんな」

と心身ともに繋がれて、やっと本音を言えた気がした。





2.

「んで?その締りのねえ顔は……いや。みなまで言うな…」
「あ?」

一晩中、顔を見せなかったイザナが、今朝はどちらの恵比寿様ですか?と聞きたくなるくらい、爽やかな笑顔でオレ達を叩き起こしに来た。朝に弱い兄貴は目をしょぼしょぼさせながらも、イザナの表情を見て何かを察したんだろう。口を開きかけたイザナを静止して欠伸をかましている。

「いーからサッサと帰る用意しろ」
「……は?もう帰んの?大将。どーせその顏はと上手くいったんだろ?せっかくだしノンビリ観光楽しめばいいじゃん。オレと兄貴は適当に帰るし」

オレが苦笑しながら言えば、何故かイザナは目を細めてオレを睨んできた。

「オレもそうしようと思ったんだよ。でもが仔猫たちが心配だって言いだして…」
「は?猫…」
「ああ、そういや庭に野良が来るつってたなー。え、まさか、その猫の為に帰んのかよ」

兄貴も目が覚めたのか、着崩れた浴衣を直しながら笑っている。想いを遂げた日くらい、二人でのんびりすればいいのにって顔だ。

「仕方ねえだろ。はあの仔猫めちゃくちゃ可愛がってるし…誰もいないのにご飯もらいに来てるかもって想像したら急に心配になってきたんだと」
「ふーん。そりゃー大将も帰らないわけにはいかねえなあ」
「愛しい奥さんの望みじゃな」
「…あ?ゴチャゴチャうるせえよ!いいからサッサと帰る用意な!」

イザナはガラにもなく頬を赤らめながら部屋を出て行った。どうせが部屋で待ってんだろう。「あんなに分かりやすく照れる男だったんか」と兄貴が吹き出してるからオレも釣られて笑ってしまった。

「でもまあ…良かったんじゃねえの。もし二人が別れるようなことになってたらオレらの命が危うかったと思うし」
「…確かにな」

今回、もしあの二人が別れる、なんてことになってたかと思うとゾっとする。ただ、上手くいったらいったでしばらくは大将のデレ顔を見せられるのかと思うと、それはそれでウンザリした。





3.

「じゃあ、送って頂いてありがとう御座います」

家の前で車を降りた紀香ちゃんは満面の笑みを見せながらイザナ、ではなく。やはりそこは運転している竜胆くんにお礼を言った。

「いや全然。姫が世話になったからな」
「悪かったな。こっちの事情に巻き込んで」
「い、いえ、そんな…」

竜胆くんと蘭さんに微笑まれ、紀香ちゃんは何故か頬を赤くしてモジモジしている。待って紀香ちゃん。いくらイケメンでも、その二人はダメだよ!と内心ハラハラしつつ、紀香ちゃんがちゃんと家に入るまで見届けた。

「んじゃー次は大将とちゃんちね」
「ごめんね、竜胆くん…。あ、でも紀香ちゃんには手を出さないでね」
「いや、出さねえよ」

そこはしっかり釘を刺しておくと、竜胆くんは笑いながらもシッカリ約束してくれた。二人はいい人だけど、女の子のことに関して言えば、わたしは信用していない。イザナもそこを分かっているからか、わたしの一言に軽く吹き出している。

「ほら、ついたぞ、イザナ」

紀香ちゃんの家から我が家まで、車だと五分程度だ。車が停車して蘭さんが欠伸をしながら振り向いた。聞けば朝からイザナに起こされて相当眠たいらしい。

「忘れ物ねえか?」
「うん。蘭さん、竜胆くん、今回は色々とありがとう。えっと…お騒がせしました」

わたしとイザナの夫婦の問題に巻き込んでつき合わせたことを申し訳なく思いつつ、二人に頭を下げると、二人は「いや結構楽しんだし」なんて言って笑いだした。

「あまり焦るイザナは見られねえからなー」
「レアなもん見せてもらったわ」
「え…」
「テメェら、余計なことはいいからサッサと帰れ」

イザナはどことなく頬を赤くしながら、二人に向けて「シッシ」と手で払っている。でももう片方の手は、わたしの手にしっかり繋がれていた。

「はいはい。邪魔者は退散するわ。じゃあ、またなーちゃん。もうイザナを置いてどっか行くとかやめろよ?」
「そーそー。オレらまでとばっちり食うからさー」
「え…あ、は、はい!」

今回二人に迷惑をかけたのは間違いない。そこは素直に頷くと、イザナが「うるせぇぞ、蘭、竜胆!」と怒り出した。でも二人は全く気にする様子もなく、「こわっ」と笑いながら車で帰って行く。何だかんだ言って天竺のメンバーは仲がいいと思う。

も素直に謝ってんじゃねえよ」
「だ、だって…二人にあんなとこまでつき合わせたんでしょ?」

仏頂面で門の中へ入るイザナを見上げると、ぷいっと顔を反らされてしまった。

「アイツら観光気分で楽しんでたからいーんだよ。オレが必死で探してるっつーのに――」

と言いながら玄関のドアを開けたところでイザナの動きが止まった。わたしがジっと横顔を見上げていたからかもしれない。

「そんなに…必死で探してくれたの…?イザナ…」
「…ぐ…」

嬉しくなってつい、そんな質問を投げかけると、イザナはしまったみたいな顔をして赤くなった顔をまた背けてしまった。

「ねえ、イザナ――」
「猫に飯やるんだろ?」

もう一度訊こうと思ったら、イザナはわたしの手を引きながらリビングに歩いて行く。その後ろ姿が少しだけ照れてるように見えて、つい頬が緩んでしまう。

「アイツらの飯ってどこだっけ……って、何ニヤニヤしてんだよ…」
「な…何でもない…」

不意に振り返ったイザナと目が合い、慌てて反らす。でも今度はイザナが「何でもねえって顔じゃねえじゃん」と追及するように顔を覗き込んできた。さっきの仕返しとばかりに、意地悪な顔をしている。

「ほ、ほんとに…何でもない…ひゃっ」

恥ずかしくて俯くと、繋がれていた手を引っ張られて、ソファに座ったイザナに横向きに抱えられてしまった。

「イ…イザナ…?」

ぎゅっと抱きしめられて額にくちびるを落とされる感触にドキっとした。

「体…大丈夫かよ」
「…え?」

視線を上げると、イザナは心配そうな表情で額をあててくる。その時、何を聞かれたのか分かって、頬が熱くなった。

「っだ…だいじょう…ぶ…」

そう応えたけど、本当は少し下腹部や腰の辺りが怠い。薄っすら残る鈍痛は初めての行為を思い出させるようで、あまり意識を向けないようにしていた。なのに、思い出すとやっぱりイザナを受け入れたところの違和感に恥ずかしくなる。

「ほんとか?」
「う、うん…」

別に怪我をしたとかじゃない。女の子なら誰もが通る道であり、この違和感は2~3日で消えると雑誌でも読んだことがある。それにわたしからすると大好きな人から齎されたものだから、それはそれで幸せに感じていた。この家を出て行ったあの時より、イザナの本当の気持ちを知れた今、わたしは凄く幸せだ。

「イザナが優しくしてくれたから痛くないよ…」
「……そーいうこと言うと、ここで襲うぞ」
「え…っ」

ぎゅっと抱き着いて嬉しさを表現しただけなのに、イザナは僅かに目を細めてわたしをソファに押し倒した。

「イ…イザナ…?」
「ったく…は無意識に男を煽る天才だったか…」
「え…あ、煽ってなんか…」

言いながらイザナを見上げると、言葉とは裏腹に優しい眼差しが降って来た。淡いバイオレットの虹彩が、眩しそうに細められている。そっと頬に触れて来るイザナの大きな手が温かくて、何故か泣きそうになった。

「オレは…そんなに器用じゃねえから、またのことを不安にさせることがあるかもしんねえけど…」
「…うん…?」
「そん時はちゃんと言えよ。言わなきゃ分かんねえし…」
「イザナ…」
「もう一人で悩んだりしねえで、そういう不安は全部オレにぶつけろ。そしたら…の不安は全部勘違いだって、オレが何度でも教えてやっから」

わたしを見つめる真剣な瞳がイザナの言葉を本心だと伝えてくるから、やっぱり涙が零れた。何度も頷いてイザナの頬へ手を伸ばすと、手のひらに口付けられる。

「…オマエは唯一、オレの最愛の女だから、それを忘れんじゃねえぞ」

愛してると言われるよりも、わたしにとってそれはとびっきりの愛の言葉だった。零れた涙を、イザナがくちびるで掬ってくれて、そのままわたしのくちびるに重なると、少しだけしょっぱい涙の味がする。何度も触れ合うくちびるに酔いそうになった頃、庭先から仔猫たちの小さな鳴き声が聞こえてきた。



...END