※性的表現あり



(いっ―――たくない…!)

初めて男の人と繋がった瞬間の感想にしては何とも色気のない話だけれど、でもそれが正真正銘、わたしの素直な感想だった。


スタンドライトの明かりだけが照らす部屋で、二人の影が壁に映し出されている。衣擦れの音がかすかに響くと、さっきまで大事な場所に触れていた冷んやりとした手が、今度は下腹部から上へ、肌を撫でていった。優しい動きにビクっと肩を跳ねさせてしまった瞬間、わたしのくちびるは奪われていて、ちゅっと可愛らしいリップ音を立てながら何度も触れあう。緊張をほぐすようにくちびるを啄んだり、舐めたり、吸ったりされて、そのうち隙間から舌が入ってきた。

「…んう…」

柔らかい舌が優しい動きで咥内を解すように愛撫してくれる。絡み取られた舌を軽く吸われて、顏の熱が一気に上がっていく。心臓はさっきから尋常じゃないくらいドキドキしているから、すぐに呼吸が乱れてしまう。

「…力、抜いて」
「…ん…は…い」

一瞬くちびるを解放されて新鮮な空気を吸い込むと、再びくちびるが重なった。ココくんの熱い吐息に反応して、わたしも体が熱く火照ってくる。元カレにもされたことのないほど情熱的なキスだと、経験の浅いわたしでも分かるほど、ココくんのキスは甘い。まるで大事な人にするようなキス。元々彼のキスがこういうやり方なのかもしれないけれど、こんな風にされたら勘違いしてしまいそうになる。彼の長いピアスが頬を撫でていくたび、切なさがこみ上げてきた。

「…鼻から息して」
「…ん…」

合間に囁くココくんの瞳は、いつもの鋭さは感じられない。慈しむような優しい眼差しは反則だと思う。
熱を帯びて掠れた声が耳に届いた後も、キスはしばらく続いた。舌を絡ませ合うキスは経験あるけれど、ココくんとのキスはそんな経験を簡単に上書きしてしまうほどに気持ちいい。だんだん彼に愛されてるみたいな気持ちになって、気分が高揚しては、また体が火照る。それに呼応するかのように、体の奥がジンとしてきて、さっきまで触れられていた場所から蜜が溢れてきた。

「…ん…う…」

長いこと舌を絡ませていると、次第にココくんの動きに容赦がなくなってきた。キスをしながら胸に触れ、もう片方の手は腰から太腿まで撫でていく。ココくんの手のひらが服の上から胸を包みこんで、ゆっくりと揉み始めた。恥ずかしいのに、抗えないほど高揚した体が、従順に彼からの愛撫を受け入れている。

「…ん…ぁあ」

長いキスが終わりをつげ、ココくんのくちびるが首筋に吸い付く。わたしの肌を堪能するように何度もくちびるを這わせて執拗に求めてくる。本当に愛されてるみたいで、クラクラしてきたわたしは軽く身を捩った。

「ダーメ。逃げんなって」
「…あ…ココ…く…」
「オマエが煽ったんだろ…?」

揉みしだきながら、彼の指は胸の先を悪戯に弄ってくる。指の腹で優しく撫でられるとつい声が洩れてしまう。恥ずかしいのに気持ちいい。

「声、我慢すんな…」

変な声が出ないよう咄嗟に口を押えた手をそっと外された。

「……っで、でも声…が…」
「声、聞きたい…そのままでいいから」
「…ぇ…っ…」

そんなことを言われても恥ずかしい。元カレと途中までした時でさえ、ここまで甘えるような声は出したことはなかった。なのにココくんに触れられると、とめどなく出てしまうから困る。

「可愛いから気にすんなって」
「か…かわ…いくなんか…ぁ…っ」

可愛いなんて簡単に言わないで欲しい。社交辞令で言ってくれてるんだろうけど、ココくんみたいな人に言われたら舞い上がってしまう。真に受けてはいけないのに、こんな甘い言葉に耐性なんてないわたしは容易く心を持っていかれそうになった。

は可愛いよ。もっと自信持てって」

こんな淫らな行為をされながら甘い言葉をかけられたら、わたしはどう応えていいのかも分からない。一応最近まで彼氏がいたくせに、まるで恋愛経験0の頃に戻ってしまったみたいに動揺してしまう。

「だからもっとその声、聞かせて」

ココくんの体が移動して、彼の顏が胸元に埋められたのを感じた。そして半分はだけていた服を脱がされていくと、ブラジャーを簡単に取り払われ、胸の先をくちびるで捕らえられた。

「…ぁっ…ゃ…ぁあ…ぅ」

反応し始めていた乳首をくちびるで食んだあと、暖かい舌で擦るように舐め上げられる。何とも言えない快感が広がって、さっき以上に乱れた声が洩れてしまった。

「…ぁ…んん…っ」

ココくんが刺激を与えるたび、敏感なそこはツンと主張し始めて硬くなっていく。その方が舐めやすくなるようで、柔らかい舌が絡みつくと軽く吸われてしまった。その刺激で背中が反ってしまうほどに体が跳ねる。

(どうしよう…声が止まらない…)

さっきから喘がされてばかりで恥ずかしいのに、全身は燃えるように熱く、アルコールの回った体は上手く動かせない。

「……」

感じさせられ、涙目になりながら、わたしの名を呼ぶ彼を見上げる。目が合うとジっと熱く見つめられ、何故かキスをされた。

「…その顏…そそる」
「……ぇ…」

どんな顔をしているのか自分では分からない。酔っている上に、額はしっとりと汗ばんでいるし、目も涙が滲んでいる。メイクがとれて変な顔になっていないか心配になったけど、どうやらそうではないみたいだ。ココくんはわたしの恥ずかしがる様子を見て可愛いと喜んでいるようだった。
ココくんは不思議な人だ。普段はクールな一面もあって、怖い雰囲気を纏っていたりするのに、こういう時は壊れ物を扱うように優しく、蕩けるくらい甘い。それが女性を落とす彼の手法なのかもしれないけれど、今は嘘でもその優しさに溺れてみたいと思うわたしがいる。

わたしに跨ったまま上体を起こしたココくんは、着ていた手触りのいいシャツのボタンを一つ一つ外していく。その仕草すら色っぽくて心臓が大きな音を立てる。最後のボタンを外し終えると、彼は一気にそれを脱ぎ捨てた。初めてみるココくんの引き締まった体にカッと頬が熱くなる。全体的に細身なのに、美しい筋肉と色気を醸し出している腰のラインは直視できないほどに刺激的だ。
そんなことを考えていると、ココくんは再びわたしに覆いかぶさってきた。ゆっくりとショーツを脱がされ、思わず強張った脚を大きく開かれる。

「…や…は、恥ずかしい…」

こんな体勢は恥ずかし過ぎる。両手で顔を覆って身を捻ろうとしたけど、ココくんの手に阻止されてしまった。

「隠すなって。凄く綺麗だから」
「で…でも…」

こんなに足を開いていたら全部見えてるに違いない。さすがに元カレにも見せたことのない場所なのだから死ぬほど恥ずかしい。

…こういうことするの初めてだろ」
「…う…」

その一言にドキっとした。バレてるかもしれないと思っていただけに何も言えない。でもそれを理由に行為をやめられるのはもっと嫌だと思ってしまうなんて、本当にわたしはどうしちゃったんだろう。初めての人は絶対に良治だと信じて疑わなかったのに、今のわたしは恋人でもない人に自分の初めてを捧げようとしてるなんて――。

「…ココ…くん、わたし――」
「アイツと…あの彼氏としてなかったんだな」

その問いに小さく頷き、痛くて無理だったことを正直に告白した。ココくんは「そっか…」と小さく呟いて、わたしの頬へキスを落とすと、

「じゃあ尚更、ちゃんと感じさせないと後でがツラい」

ココくんはそう言って、今度はくちびるにちゅっとキスを落とした。

「大丈夫…痛いことしないから力抜いてて」
「…う…」

本当にココくんの格好良さはズルい。そんな甘い表情で言われたら今度こそ何も言えなくなるし、どうにでもして下さいなんて思ってしまう。完全にココくんに溺れた女の思考だ。

「痛かったらすぐやめる。でも絶対痛くしねえから」

そう言うとココくんは体勢を変えて、彼の顔がわたしの脚の間へ埋められた。そのまま他人に見せたことない場所へくちびるを寄せる。

「ふ…ぁ…っ…んっ」

恥ずかしいところへ口付けられた瞬間、最初の感想はこれって何されてるの?だった。ココくんのくちびるがかすかに湿りを帯びた場所に口付けられている。それだけで体の奥からとろりとしたものが溢れてくるのが自分でも分かった。それをココくんが舐めて舌で媚肉を開き、もっと舐めさせて欲しいと懇願してくるような動きへ変わっていく。

「ぁあ…っココ…く…ダ…メ…こんな…」

想像を軽く超える快感に驚く間もなく、体は素直に、貪欲に与えられる快楽を貪ろうとするかのように反応していく。次々と襲ってくる快感に力を奪われて拒めない。腰が何度もビクビクと跳ねてしまうのが恥ずかしくてたまらない。ココくんが言った通り、痛くないし、むしろ溺れてしまいそうほど快感の波が襲ってくる。息が乱れて、涙が溢れて、喘ぐ声が止められない。

「…ココ…く…ん…も…ダメ…っぁ…ふ…」

恥ずかしさも気持ち良さも、限界だと訴えても止めてもらえない。わたしの声が熱っぽいから説得力がない自覚はある。だけど確実におかしくなってしまいそうだという思いもあった。これ以上、体が火照ってしまえば変になりそうだ。頭が熱で浮かされた時みたいにクラクラしてボーっとするから上手く思考が働かない。
このまま本当に身を任せてしまっていいの――?
報われない想いを抱えたまま抱かれてしまえば、更にツラくなってしまうのは目に見えている。なのに拒否する言葉はやっぱり出てこないのだから、本当にわたしはどうしてしまったんだろうと何度目かの自問自答をしてると、そっとココくんのくちびるが離れる。

「たっぷり濡れてきた…可愛いな、オマエ」
「……っ?」

合間に呟かれ、今度こそ腰が砕けそうになった。もうダメだ。こんな時に優しい声でそんな言葉を言うなんてズルい。どんなに乱れていても、それを全てひっくるめて可愛いと褒めてくれる言葉を鵜呑みにしてしまいそうだ。

「もっとほぐしてやるよ」
「…も…っと…っ?…んあぁ…っ」

濡れた場所を舐められているうちに一番敏感な場所を見つけられてしまった。ぷっくりと主張しはじめたであろう芽へ口付けられ、そこばかり舌先で弄られる。そのたびにまた密が溢れて来て、その場所へ遂に指らしきものが侵入してきた感覚があった。一瞬、過去の痛みを思い出して腰を引きかけたけど、ココくんの長い腕に絡み取られてしまった。

「力抜いて…」
「…ん…ぁ…あ」

埋められた指をゆっくりと出し入れされるたび、初めての感覚が襲ってくる。前にこれをされた時はヒリヒリして仕方なかったはずなのに。今は違う感覚が襲ってくる。かすかな圧迫感はあるけど、痛くはない。

「…痛い?」
「…い…痛く…ない…」
「たっぷり濡れてるから…奥まで挿れても大丈夫そうだな」
「……?」

ココくんが呟いた言葉に思わずハッとした。そう言われれば良治くんとの行為の時はそこまで体が反応していなかった気がする。向こうも余裕がなかったのか、ココくんのようにじっくり時間をかけてはくれなかったかもしれない。わたしも緊張して恐怖もあったし、もしかしたら全く濡れてないまま挿入しようとしたから、あれほどの激痛があったのかも、と気づいてしまった。
今も緊張してないと言えば嘘になる。でも適度に酔ってることを差し引いても、ココくんはわたしを感じさせようと丁寧に進めてくれている気がした。

(…何で…そんなに優しいの…?)

処女の女なんて面倒くさがりそうなのに、わたしの我がままを受け入れてくれたばかりか、恋人のように扱ってくれている。

「…ん…っ」

すっかりと濡らされたそこは触れられると厭らしい音を立てた。唾液と愛液が混ざりあった泥濘へ指を挿れられても、全く痛みはない。ココくんの男の人にしては細く綺麗な指が、根本まで入った感覚があった。

(嘘…前はちょっとだけでもヒリヒリしたのに…)

ちょっと驚きながらも、初めての感覚に身を委ねるよう少しずつ体の力を抜いて行くと、彼の指を締め付けてナカがヒクつく感じがした。

「…ん、いい感じ…動かすよ」
「え……んっぁ…待っ…」

入れたら終わりじゃないの?と少し混乱したけれど、ナカで動かされると子宮の辺りがかすかに疼いた気がした。その上、敏感な芽を舐められると更に蜜が溢れて彼の指を簡単に飲み込んでいく。

「…んん…ぁ…や…ぁ…だ…め…そ…んな…ぁっ」

ココくんが指や舌を動かすたび、耳を覆いたくなるような卑猥な音が洩れる。同時に与えられる刺激に身悶え、喘ぐことしか出来ない。ココくんは指の腹で内壁を優しく撫でてくる。丁寧に、執拗に動くそれに、だいぶ苦しさが取れて来た気がする。

「…だいぶナカが解れてきた…指増やしても入るし」
「…んぁ…っ」

不意に質量が増えて刺激も倍になった。軽く指を曲げられてお臍の裏あたりを刺激されると、わたしの意志とは別に腰が勝手に跳ねてしまった。

のいいとこ、ここかな」
「へ…?…ふ…ぁ…っ」

ココくんは何かに気づいたように同じ場所を何度も刺激して来る。そのたびにその場所から何とも言えない痺れが生まれて、じわじわと足の指先まで広がっていく。本当におかしくなりそうで頭を振りながら枕に顔を押し付ける。押し寄せる初めての感覚に耐え切れず、目をぎゅっと瞑れば涙が零れ落ちた。その間もココくんが内側のいい場所を擦ってくるたび、わたしの背中が勝手に反って脚を震わせていく。

「も…ほ…んとダメ…ぁあっ」
「大丈夫…もう少しだから」

もう少し?もう少ししたらどうなってしまうんだろう。ココくんの言葉を朦朧とした頭で考えてみても、全てが初めての経験で予想もつかない。そんなことを考えているうちに一気に高みへ押し上げられていく。声も掠れて喘ぐことさえ出来なくなった時、与えられ続けている快感に思考全てが飲み込まれて、わたしの意識は弾けるように真っ白になった。大きな電流のようなものが全身を駆け抜けていく。その甘美な波が緩やかになってきた頃、まず感じたのはそんな感覚だった。

「…っはぁ…は…ぁ」
「大丈夫…?」

いつの間にか上体を起こしたココくんがわたしを見下ろしていて、霞んだ視界に映る彼の瞳は薄闇で妖しく揺れていた。

「…どうだった?初めての感覚は」
「ど…どどうって……」

訊かれても困ってしまう。というか処女のわたしには刺激が強すぎて混乱しているといった方がいいかもしれない。全身の気怠さと、さっきの快感の余韻が残る中、セックスとはこんなにも気持ちのいいものなのかと正直驚いている。みんな、こんなことしてるの――?ただただ、知らない世界に困惑しながらも、相手がココくんだからかもしれないなとふと思う。

「…ぁ…」

不意に指が抜かれ、ココくんの体が脚の間へ入れられたことで、心臓が跳ねる。ベルトを外す音がかすかに聞こえて、これからが本番なのだと思いだした。今の行為は痛みなど皆無だったが、この後の行為が少しだけ怖く感じた。

「…怖い?」
「…え?」
「怖いならまだ間に合うけど…やめる?」
「……っ」

止める気はないって言ったクセに、ココくんは最後の最後にそんなことを言う。きっとわたしの中の小さな迷いを見抜かれたのかもしれない。だけど今ここでやめたら、本当にもう二度とココくんは会ってくれない気がした。

「…やめない」

言ってしまった。だけど彼に抱かれる心の準備はとっくに出来ている。ただ、少し怖いだけで。前に何度も失敗した記憶があるからこそ、この先の行為を思うとちょっと怯んだだけだ。だけど例え痛かったとしても、あんなに優しく触れてくれたココくんが相手なら我慢できる。そう思った。

「…出来るだけ優しくするから」
「……ココくん…」

その一言で何故か涙がじわりと滲んだ。元カレにはなかった気遣いだ。強引にしようと思えば出来るのに、ココくんはこんなギリギリの時でもひたすら優しい。それだけで十分、最後の覚悟が出来てしまった。わたしが密かに感動している間にココくんは準備を終えたようだ。わたしの膝裏を少しだけ持ちあげて、未だ潤みの残る場所へ熱く昂ったものを宛がった。

「…ゆっくり呼吸して。出来るだけ力は抜いてろよ?」
「…う、うん…」

ココくんは額を合わせて言うと、すぐにくちびるを塞いでくる。ゆるりと滑り込んできた柔らかい舌を絡ませながら、わたしの緊張を解そうとしてくれてるみたいだ。このキスだけで一度冷めた体が再び火照りだし、彼を受け入れようとしている場所が潤みを増していく。そしてくちびるを合わせたまま、ココくんは腰をぐっと押し付けてきた。

「ん…ふ…」

自然と洩れる声がココくんの口内へ飲み込まれて行く。硬い質量のあるものが少しずつ入ってくるのが分かる。前はここですでに痛い痛いと叫んでしまうほどだった。そもそも、こんなにスムーズに入っていくことはなく、ずっと入口で引っかかってるような感覚だったのを思い出す。なのに、今は全く痛みを感じない。感じないどころか、物凄い圧迫感はあれど、あの激痛はどこへ?と首をかしげたくなるほどに、どんどん中へココくんの劣情が埋められていく。

「…痛い?」

やっとくちびるを離したココくんは、少し呼吸を乱しながら問いかけてきた。でもすぐに首を左右へ振れば、ホっとしたような笑みを浮かべた。その顏があまりに優しくて、脳裏にこびり付いてしまうほどに胸を疼かせる。

「…もう少しだけ力抜いて…そう…」

まだ全部は入っていなかったみたいだ。ゆっくりとココくんが奥へと腰を進めていく。じわりじわりと質量が増して、最後は一気に押し込まれた。

「…ん、あっ」
「…く…全部、入った…けど…マジでせま…っ」

ココくんの顏が少しツラそうで心配になったけど、わたしもいっぱいいっぱいだった。もう一度「痛い?」と聞かれたけど、痛くはない。

「平…気……ちょっと…苦しいくら…い…」

でもその苦しさで押し広げられている場所が、ジンと疼くくらいには気持ちいいなんて、自分でも驚いてしまう。処女のはずなのにおかしい、と思ってしまうほど、想像してたものと違う。

「…動いても大丈夫そう?」
「…う、ん…多分…」

今の感じだと本当に大丈夫な気がした。というより、ココくんにされることは全て心地いいことのような気がする。

「じゃあ…ゆっくり、な」
「…ぁっ…」

ココくんがわたしの頭を撫でて、ジッと見つめながら腰を動かし始めた。その色っぽい眼差しに見つめられると、苦しい感覚さえ薄らいでいく。そもそもの話。相手が変わればこんなにも違うのかと本気で驚いていた。それとも元カレが下手だったのか、自分の欲を満たすためだけの身勝手な愛撫で済ませて挿入をしようとしていたからなのかは分からないけど、こういうのも体の相性というものなのかなと思った。

「…やべ…」
「…え…?…んん…っ」

その時、不意にココくんが吐息交じりで呟いた。

「…のナカ…凄くいいんだけど……何だ、これ…」
「…っ?…」

ココくんが腰を動かすたび、悩ましげな吐息が漏れている。その反応がいいことなのか、悪いことなのか分からず、少しだけ不安になった。

「…ん…な…何か…変…?」
「いや…逆…。むしろ良すぎて焦ってる…」

わたしも初めてなのにすでに圧迫感が和らいで、気持ちいいという感覚に襲われているように、ココくんも気持ち良くなってくれてるらしい。何度か腰を動かしただけで、耐えきれないというように小さな声が漏れている。

「…クソ。…すぐ持ってかれそう…」

ココくんが動くたび、繋がった場所が卑猥な音をたてる。たっぷりと濡らされたせいで、彼の動きを良くさせているみたいだ。

「…まだ中にいたいのに…イキそう」
「…え…んぁ…っ」

ココくんがぼそりと呟いた言葉に心臓を鷲掴みされた気分だった。性に対して臆病だったわたしの心を、ココくんが解き放ってくれた気がする。あんなに怖いと思っていた行為が、ココくんのおかげでこんなにも幸せなものに感じる。

「…は…やべ…マジで気持ちいい」

吐息交じりで呟いたあと、ココくんはわたしの膝を掴んで、更に開かせた。そのままリズムよく抜き差しを始める。

「あ…すご…ほんとにヤバい…」
「…あ…ぁっん……激し…ん、っ」

内側を擦られるたび、わたしの快感も大きくなる。気持ちのいい場所に彼の縊れが当たると、下腹部からジンジンと疼くような気持ち良さが襲ってきて体がかすかに震えた。

「……オレを見て」

顔を背けて目を瞑っているわたしの頬に手を添えて、ココくんが呟いた。言われるがまま視線を上げると、長い前髪を垂らし、色気の増したココくんが熱の揺れる眼差しで見つめてきた。

「すげー気持ちいい…は…?痛くねえ?」
「…い…痛く…ない…初めて…なのに…変…?」
「いや…変じゃねえよ」

そう言うと、ココくんはわたしの腰をぐっと抱き寄せて体を起き上がらせた。

「…んんっ」

二人とも体を起こして、繋がったまま向かい合う格好になった。まるで恋人同士が愛を囁くような距離感だから、一気に恥ずかしさが増していく。

「…ココ…くん…あの…」
、可愛い…もっとキスしたい」

普段のココくんのイメージとは違うその甘えたような台詞に、胸の奥がぎゅんとなった。普段は女にそんなことは言わなそうなのに、振り幅が大きい分、心臓を撃ち抜いてくる威力が凄すぎる。ココくんの望むまま、たくさんキスをされながら下から突き上げられる。

「…

わたしを揺さぶりながら、ココくんが名前を愛おしそうに呼ぶから、何故か泣きそうになった。同時にまた体が火照っていくのは嬉しいからだ。そのたび感度が上がって快感が増してく。名前を呼ばれるだけで感じるなんて、もうわたしはどうしたらいいんだろう。すでにココくんに溺れ切ってしまってる。

「あー…もう無理かも…出そう…」
「…んぁっあっっあ」

ココくんの動きが次第に激しくなってきて、絶頂が近いのが何となく分かった。本能剥き出しの執拗な動きは甘い拷問のようにわたしを追い詰めていく。
もう、変になりそう――。
揺さぶられるたび、何も考えられなくなっていく。

「…っ…」
「…ああ…っあ――」

嬌声も出なくなった頃、体が一気に押し上げられて頭の中が真っ白になった。ココくんは最後の最後までわたしをぎゅっとキツく抱きしめ、肌を密着させながら果てたようだった。



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(…おかしい)

ココくんと最高の初体験を済ませてから半年が経った。
"愛のない関係ならば一度体を許せば男なんてすぐに飽きる――"。
そんな恐ろしい一文を雑誌の特集記事――男の愛情と本能はどう違うのか的なやつ――で見つけてドキっとしたことを思い出しながら、わたしは首を傾げた。そういうこともあるだろうな、と抱かれる前に一度は考えたことだ。なのに今日もわたしは彼に抱かれて、終わった後は抱きしめられながらまったりと会話をして、その後にココくんは眠ってしまった。でもまだ裸のまま抱きしめられている。
そして現在に至る――。

初めての時は酔っていたとはいえ緊張はしたし、激痛の心配もあったものの。ココくんが大事に扱ってくれたから痛みもごく最小限、いやほぼないと言っていいほどスムーズに終わった。実は元カレとエッチをしようとしてた時に、すでに処女喪失をしてたんじゃないかと疑ったものの、ココくんに抱かれた後、僅かに出血があったからホッとした。やっぱりココくんが優しく進めてくれたおかげだということと、わたしがそれだけココくんにのめり込んでしまっていたのも痛みがなかった原因かもしれない。
でも――わたし的には二回目があるとは思ってなかった。
抱かれた後も前のように普通に連絡はくるし、店にも会いに来てくれる。何ならわたしが勧めた本すら買って行ってくれるのだ。そして誘われるままデートをして、最後にはココくんの家で抱かれるのが当たり前のようになっていた。ただ恋人同士じゃないのに何度も抱かれていいものなのか。最近はそんな思いが芽生えてきた。

「…、起きてる?」
「…あ、うん…」

とろんとした甘ったるい声で名前を呼ばれてドキっと胸が鳴る。これまで名前を呼ばれただけで心臓が鳴るなんてことなかったはずなのに、ココくんの声で呼ばれると鼓動が速くなって全身が熱くなってしまう。

「…ん」

ココくんは眠そうにしながらわたしの肩にくちびるを寄せると、ちゅっとリップ音をさせながらキスを落とした。くちびるにされたわけでもないのに、頬がじわりと熱くなる。それを察したように、ココくんの腕がわたしの体を後ろからぎゅっと抱きしめて、前に回った手が体を悪戯に弄ってくる。さっきまで抱かれていたせいで余韻と熱が燻っているから、優しく肌を撫でられるだけで、さっきの快感が蘇ってきた。

「…、もしかしてずっと起きてた?」
「…うん」
「悪い。オレだけ寝ちゃって」

わたしの髪に顔を埋めたココくんは、小さく息を吸ってわたしの肌の匂いを堪能する。ココくんはわたしの匂いを嗅ぐのが好きみたいで、最初は恥ずかしかったけど、今はそれが嬉しいとさえ感じるから不思議だ。

「いいの。ココくん、忙しいんだからまだ寝て。わたしは適当に帰るから」
「えー…?ダメ。帰んなよ。外まだ暗いし危ない…」
「だ…大丈夫だってば…もう朝方だもん…」

項の辺りで喋るからくすぐったくて身を捩る。ココくんの話をよくよく聞けば、組織の最高幹部ということで、更に金庫番も任されているという。だから彼は常に忙しくて、今日も疲れてるようだったから、少し飲んだ後に「もう寝て」と言ったのに、ココくんはシャワーを浴びた後、すぐわたしをベッドへ引きずり込んだ。疲れてるからこそ抱きたい、らしい。
そんな風に懇願されて、また受け入れてしまったわたしもわたしだ。こんな不毛な関係をもう半年も続けている。

(さっき…危なかった…)

ココくんに自分の気持ちを伝えたことはない。でもさっきみたいに抱かれてる最中、つい「好き」と言ってしまいそうになる。それを言えば、こうして彼と会えなくなるのは分かっているからこそ、言えない。
こんなこと良くないんじゃ。これ以上のめり込んでしまう前にやめた方がいいのでは。自問自答を繰り返しながら、ずるずると半年も経ってしまった。
結局わたしは、ココくんに「抱きたい」と言われれば断れないのだ。わたしに触れている時のココくんの緩んだ表情が可愛くて、その顔をもっと見ていたい。疲れてるなら癒してあげたいと思ってしまう。

「…、こっち向いて」

耳元で囁かれ、わたしは体ごと彼の方へ向いた。するとまだ眠たいのか、とろんとした瞳と目が合う。

「ん…」

キスをされて体が火照ってくる。それを分かっているかのように、ココくんの手が裸の胸へ伸びてきた。

「もう一回、していい?」
「…で、でも寝ないと…」
「いい…のこと抱きたい…」

疲れより、睡眠より、わたしが欲しいと言われて、その言葉に溶かされる。そしてまたベッドから離してもらえなくなるのだ。この時間が幸せで、幸せで、凄く満たされる。
こうして、わたしの身も心も、ココくんに溺れていく。
わたし達のこの関係には――名前などないのに。