I knew
第十六幕:身を結ぶ
※軽めの性的描写あり
「ほんとにいいのかよ…」
薄闇の中、竜ちゃんが心配そうな顔でわたしを見下ろす。正直、まだ少し怖いといった不安はあった。だけど、竜ちゃんと一緒に住めるという嬉しさが後押しをしてくれたから、わたしは彼の言葉に頷くことが出来た。
電車であちこち観光に行った後、わたしと竜ちゃんは旅館に戻って食事をして、また温泉に入り、その後にのんびり二人でお酒を飲んだ。初日はそれで終わりだったけど、今夜は違う。わたしも竜ちゃんもきっと同棲を決めたことで気分が高揚してたのかもしれない。自然とそんな空気になってキスを交わした。何度もくちびるを重ねて、それは次第に深くなっていく。この時、竜ちゃんがわたしを求めてくれてる気がした。だからいつになく大胆になれたんだと思う。
「今夜は我慢しないで…」
その一言に竜ちゃんは驚いた顔を見せたけど、すぐに気持ちを察してくれたのか、わたしを軽々と抱き上げて布団の敷かれた部屋へと運んでくれた。優しく横たわらせてくれると、竜ちゃんは少し緊張したような笑みを浮かべて、わたしの額にくちびるを押し付ける。そして冒頭の台詞を口にした。
きっと女の子には不自由なんてしてない竜ちゃんが、わたしなんかの為に一年も待ってくれてたんだと思うと、もう拒む理由なんかないくらいに想いが溢れてくる。
竜ちゃんに捧げる為にわたしはこの日まで自分を守ってきたんだ。だから大丈夫――。
この決断をわたしは決して後悔しない。そんな自信がこの時、確かにあった。
「…痛くねえ?」
未だ心配そうな竜ちゃんは、わたしのナカへ埋めた指の動きを止めた。わたしは止めないでというように頷いて、軽く笑みを見せる。本音を言えば緊張と恥ずかしさで痛みはあまり感じない。でも初めての感覚が体を支配していくのは分かった。
竜ちゃんは初めから丁寧に進めてくれて、壊れ物を扱うかのようにわたしへ触れた。肌に竜ちゃんのくちびるが這うたび、妙なくすぐったさと羞恥心がわたしを襲ったけど、同時に幸せを感じる。大好きな人に触れられるとこんな感覚になるのかと、ちょっと自分でも驚くほどに。
「…ん…っ」
優しく動いていた指がもう一本増やされて圧迫感を覚えた瞬間、意志とは関係なく自分でも聞いたことのない甘ったるい声が漏れる。それが恥ずかしくて口を手で抑えようとしたけど、竜ちゃんの大きな手がその手をやんわりと拘束した。
「声、我慢すんなよ…可愛いのに」
「でも…ぁ…っ」
竜ちゃんが意地悪するように奥を何度か突いてきて、またしても感じたことのない刺激がそこから広がっていく。体内を弄られるという変な感覚と同時に、むず痒いようなビリビリとした刺激。竜ちゃんはわたしの反応を見て何かに気づいたようだった。
「はここが感じるみたいだな。濡れてきたし」
「…え…」
そんなことまで分かっちゃうの?と驚いたけど、わたしとは違って竜ちゃんはセックスの経験値が豊富なんだろうから、女の子の体のことは知り尽くしてるのかもしれない。ふとそこに気づいた時、これまで感じたこともない焼けつくような痛みが胸の奥に走った。今、わたしに触れているこの手で他の子に触れたのかと思うと、怒りにも似た感情がこみ上げてくる。これが嫉妬というものなのかなと、自分でも驚いた。わたしの中にもこんな激しい情があったなんて、恋とは自分の知らない自分に気づかされるんだと改めて実感する。
その時、竜ちゃんがツラそうに息を吐いた。
「やべ…オレの方が限界きたかも…」
その言葉の意味が分からなくて眉間を寄せると、竜ちゃんは切なそうにわたしを見下ろしながら「もう挿れていい?」と訊いていた。竜ちゃんの優しい愛撫のおかげか、指で解されていた場所は準備が整ったかのように濡れてるのが自分でも分かる。竜ちゃんはゆっくり指の出し入れを繰り返しながら「ダメ…?」ともう一度訪ねてきた。きっと限界というのは男性特有のものなんだろう。正直、わたしも全身が熱くてお腹の奥がムズムズとしている。初めてでもそれはわたしの体が竜ちゃんを求めているんだと分かるくらい、素直に彼が欲しいと思った。
「…ダメじゃないよ」
意を決してそう言えば、竜ちゃんは再びくちびるを重ねてきた。啄むように口付けながら、わたしの口内を柔らかい舌が解していく。同時に指が引き抜かれて、代わりに質量のあるモノをそこへ押し付けられたのが分かった。
「限界とは言ったけど痛かったらちゃんと言って。無理はさせたくねえし…」
「…うん。でも大丈夫だから」
こういう場面では男の人の方が理性を失いやすいと聞くけど、竜ちゃんはあくまでわたしを気遣ってくれる。きっとわたしが一言「嫌だ」と言えば止めてくれるんだろう。竜ちゃんはそんな人だという確信はあった。だからこそ好きになった。竜ちゃんに抱かれたい。今は素直にそう思う。
「最後までして…」
ハッキリそう告げると、竜ちゃんは驚いたように目を丸くして、それからわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。それから近くにあった鞄の中から手のひらサイズの包みを取り出す。それは画像でしか見たことがない避妊具だった。
「別に絶対使おうと思って持ち歩いてたわけじゃねーんだけど…」
竜ちゃんが照れ臭そうに笑う。それにはわたしも自然と笑顔になった。
「うん…用意してくれて嬉しい」
初日が何もされなかっただけに、竜ちゃんにもそういう気持ちがあったんだと分かってホッとした。わたしの言葉に竜ちゃんは苦笑いを浮かべながら「ほんとは可愛いよな、そういうとこ」と、額にちゅっと口づけてくれる。好きな人から可愛いと言われるだけで、わたしの中の緊張も解れてしまうのだから、我ながら単純だ。
竜ちゃんは器用にゴムを装着すると、わたしの膝裏を少しだけ持ち上げた。着ていた浴衣がはだけた状態で足を開かれるのが恥ずかしい。かすかに体が震えてしまった。
「…、大丈夫…。一生、大切にするから」
「竜ちゃん…」
一生、なんてそんなプロポーズみたいな言葉を言われて胸が熱くなった。こんな時なのに涙がじわりと溢れてくる。
「わたしも…竜ちゃんのこと大切にする」
涙声で応えると、竜ちゃんは破顔しながら、再び優しいキスをくれた。
「んん…っ…」
硬い先端がわたしのナカへ入ってくる。十分に濡れている場所からぬるりとした感触。その後に大きな圧迫感が襲ってきた。
「んっ…」
「痛いよな、やっぱ…」
「へ、平気…」
心配そうに腰を止める竜ちゃんの口からは少し苦しげな吐息が漏れている。今まで拒んできた分、竜ちゃんはいっぱい我慢をしてくれてたはずだ。欲情するのは苦しくもあるんだと思う。そこに気づいた時、自然と体の力が抜けていった。
「竜ちゃん…動いて…大丈夫だから」
「…ん。でも無理すんなよ…?」
火照った竜ちゃんの頬に手を伸ばすと、彼はその手を握り締めて微笑む。そのまま腰を少しだけ動かした。また圧迫感が増したけど、想像してた痛みはほぼ感じない。ただ一気に全身から汗が噴き出してくる。
「大丈夫…?今日はこれくらいにしとくか?」
「え…やだ…最後まで…して…っ」
ここまで来たら諦めたくない。縋るように竜ちゃんの腕を掴むと、彼は困ったように眉尻を下げた。
「んな可愛いこと言われたらやべーんだけど…」
竜ちゃんはわたしの下腹を軽く撫でながら「壊しそうで怖ぇわ…」と呟いた。
「平気…そんなに痛く…ないから」
「…ん。じゃあゆっくり挿れるから」
優しく微笑む竜ちゃんは、再び腰を進めていく。でもきっと半分も入ってないのは感覚で分かった。
「竜ちゃん大丈夫…?ちゃんと気持ちいい…?」
「当たり前だろ…?を抱いてんだから…」
竜ちゃんはそう言いながら、わたしの髪を撫でながら額にくちびるを押し付ける。熱い吐息を感じて竜ちゃんの気持ちも伝わってきた。
「マジで気持ちいい…」
「…なら…良かった」
慣れてる男の人は処女なんて面倒だと感じるらしい。そんな記事を過去に見たことがあるせいで、その辺が心配だった。でも竜ちゃんはそんなわたしの不安をかき消すくらい、蕩け切った顔で見つめてくれる。ホっとして微笑むと、竜ちゃんがゆっくりと腰を引く。それからさっき指で突かれてむず痒く感じたところを先端で擦るように動き始めた。
「…ぁっあ…」
「やっぱここ気持ちいい?オレが動くたびにきゅっと締まって可愛い」
竜ちゃんが嬉しそうに呟いた。その言葉通り、そこを刺激されると自分のナカがうねるのが分かる。竜ちゃんが動くたび、くちゅくちゅと厭らしい水音が室内に響くせいで、一時消えていた羞恥心が再び顔を見せ始めた。でも恥ずかしいなんて言ってられないくらい、次から次へと初めての刺激に襲われてしまう。
「…んぁっ…」
強い刺激がきてつい腰が跳ねてしまった。そのせいで竜ちゃんの屹立がより深く挿入されていく。
「…あ…っん」
つま先に痺れが襲い、お腹からナカを広げられていく感覚に、わたしの息も乱れていく。怪我の痛みというよりは鈍痛が強いという感じだった。
「…っ」
慌てたように竜ちゃんが腰を引く。
「…痛かった?ごめん」
「平…気…」
わたしは必死に笑みを浮かべて首を振った。
「竜ちゃんの…気持ちいいようにして欲しい…」
竜ちゃんは軽く息を吐くと「煽んなって…」と笑みを漏らし、また浅い抽送を繰り返す。不思議なことにその場所はくすぐったさにも似た痺れが走るだけで痛みは感じない。
「これくらいなら痛くねえ?気持ちいい?」
「…ん…っい、痛くない…よ…気持ちいい」
「良かった」
心底ホっとしたように言いながら、竜ちゃんは腰の動きを速めていく。さっき限界と言ってたように、わたしより竜ちゃんの方がツラそうだ。
「もうオレもイクから」
言いながら竜ちゃんはわたしの脚を更に広げると、先ほど丁寧に愛撫してくれた芽を指で優しくこねた。その瞬間、強い痺れが広がって、思わずナカを締め付けてしまう。竜ちゃんは更に苦しげな吐息を漏らしながら「一緒にイこうな」と呟いた。普段、低音の竜ちゃんの声が少し掠れている。それくらい感じてくれてるのかと思うと、初めての幸福感がわたしを包んでいく。
「…あーヤバ…気持ちいい…」
浅いところを繰り返し抽送していた竜ちゃんの口から、切なそうな吐息が漏れるのと同時に、わたしの方も限界がきたらしい。指で弄られていた芽をぎゅっと押し潰された瞬間、大きな電流が流れたみたいに甘い痺れが全身に走った。
「……ぁ…ああっ」
頭が真っ白になってつま先が空中を蹴る。自分のナカがうねるように竜ちゃんを締め付けて痙攣しているのを知覚した。その時、竜ちゃんが「出る…」と言いながら腰を少し奥へと進めたのを感じて、わたしは必死に彼の腕にしがみつく。ナカで竜ちゃんのものがどくんと波打つ感覚が、やけに艶めかしい。
「…はー…」
わたしの顔の横に両手をついて、竜ちゃんはぎゅっとシーツを握り締めている。その後に何度か腰を動かして自身をゆっくり引き抜いた。急に圧迫感が消えて、わたしは自然と深呼吸を繰り返す。あれほど怖いと思っていた行為だったはずが、終わってみれば幸福感しかないなんて、自分でも笑ってしまう。
「、大丈夫か?痛かったろ」
竜ちゃんは慣れた手つきで自分の事後処理を済ませると、すぐにわたしの頬へ手を添えた。さっきまで熱かった手は熱が消えて少しだけ冷んやりしている。
「だ、大丈夫…竜ちゃんのおかげで思ってたより痛みも小さかったし…」
「…げ、でもこんなに血が出てんぞ」
わたしの体を拭いてくれてた竜ちゃんは、出血した痕を見て急に青ざめた。確かに腹部には僅かな違和感と生理痛のような痛みが残ってるけど、毎月この程度の出血を見慣れているわたしにしたら大したことじゃない。でも竜ちゃんは慌てながら乱れた浴衣を着せてくれた。
「ほんとかよ。どっか痛いとこは?」
「大丈夫だってば。ちょっと気怠いけど」
苦笑気味に応えると、わたしを抱きしめながら竜ちゃんは心底ホっとしたように息を吐いた。
「良かった…」
「竜ちゃん、大げさ。怪我したわけじゃないんだから」
力強く抱きしめてくる竜ちゃんの背中へ腕を回しながら、軽くポンポンと叩く。すると少し体が離れて、竜ちゃんがわたしの顔を覗き込んできた。さっきよりは安心したような顔だ。
「笑うなよ…」
「だって…竜ちゃんって過保護すぎるんだもん…」
「そりゃ…好きな子が痛い思いしてんなら心配だろ。特には我慢ばっかするし」
竜ちゃんはそう言いながら僅かに目を細めた。確かにわたしはそういうところがあるかもしれない。でも竜ちゃんはちゃんとわかってくれてるんだと思うと嬉しかった。
「寒くねえ?」
浴衣の上から羽織をかけてくれながら、竜ちゃんが僅かに目を細める。小さく頷くと、もう一度ぎゅっと抱きしめてくれた。
「ヤバ…今、すげー幸せなんだけど」
耳元で竜ちゃんが呟く。わたしも、と応えながら、凄く大事にされてるのが伝わってきた。わたしも十分幸せだ。
二人で一つの布団に入ると少し狭いけど、ぎゅーっと抱きしめられると物凄い安心感に襲われた。
「竜ちゃん、大好き…」
ぽつりと呟くと「オレも…」と返ってくる。そのたった一言でドキドキして、嬉しくて、幸せでたまらなくなる。竜ちゃんとやっと結ばれたという実感が、わたしの心を満たしていた。
だからこそ、予想すらしていなかった。この後、幸せな時間が壊されていくことを――。