※匂わせ描写あり

休日の夕方、彼女がシャワーから出て薄手のノースリーブワンピといった恰好で化粧を始めた。オレはベッドに寝転がりながら読んでた漫画から視線を彼女に移した。何となく手を伸ばせばの滑らかな肩に触れることも出来る。

「んもー。邪魔しないでよ、圭介」
「邪魔してねーじゃん。触ってるだけだろ」
「それが問題なのー!メイクしてる時に気が散るもん」

ぷくっと頬を膨らませながら鏡越しで睨んで来る彼女は風呂上りだからシャンプーだかトリートメントだか、とにかく凄くいい匂いをさせてる。こういう自然な香りがにはよく似合っていて、線の細い肩や背中のラインを見ていると、夕べの熱を思い出した。何度抱いても、未だにオレを溺れさせる女だ。

「ところで…オマエ、どっか行くの」
「え、昨日話したでしょ?大学の頃の友達と飲みに行くって」

オレを見ないまま言いながら、は上手にその大きな瞳を飾る長いまつ毛に何かを塗りたくってる。オレは女の化粧のことは分かんねえけど、そんなもん塗らなくても綺麗なのにとぼんやり思いながら、の今の言葉を脳内で反芻した。

「…え、飲みに行く?」
「もー圭介、聞いてなかったでしょ」

は桜色の口紅を塗ったふっくらとした唇を尖らせて怒っている。やたらとそそられる色だと思いつつ。そういや夕べそんな話を言ってたような気がしないでもない。ただその時はをベッドに押し倒して、すっかり気持ちがそっちに向いてたから、生返事で返してしまったような気もする。

「ってか今から行くのかよ」
「だから用意してるんじゃない」

言われてみればそうだ。出かけないなら、こんな念入りに化粧なんかしないだろう。そこでオレもやっとベッドから起き上がった。

「飲み会って…どこで」
「駅前のバルだよ」

ってことは家からまあ近い。渋谷駅までならバイク飛ばせは数分でつく。けどオレが気になってるのはが酒を飲むと――。

「いや、ダメ。飲み会は禁止つったろ!オレと一緒ならいいけど、いない時はダメだし」
「禁止って…もうあれ一年も前じゃない。そろそろいいでしょ」

化粧を終えたは鏡台の椅子から立ち上がって外出用のバッグにあれこれと詰め始めた。それを見て本気で行く気なんだと理解する。でもオレにはそれを許可出来ない理由がある。

「オマエ、酔ったら近くのヤツにすーぐベタベタ甘えるって自覚あんのかよ」
「え~?前もそんなこと言ってたけど…そんなに甘えないよ」
「いや、いつもオレと飲んでる時は甘えてんだろ。つーか、その飲み会、男いんのかよ」
「そりゃぁ大学の友達の集まりだし…いるけど」
「は?じゃあ尚更ダメだわ」
「えー!横暴!圭介の意地悪っ」
「いや、意地悪で言ってねえし――って何フツーに着替えようとかしてんだよ」

はオレの言い分をスルーしてクローゼットの中からノースリーブブラウスと、それに合わせたミニのスカートを選んだ。何だ、その極端に露出の多い恰好は。思わず彼女の手からそれらを奪う。

「こんな格好で男のいる飲み会行くとかジョーダンじゃねえぞ」
「ちょっと圭介、意地悪しないでよー!」

オレより遥かに小柄なは、オレの手にある服を奪い返そうと必死にジャンプしてる。その姿が可愛い――って言ってる場合か、オレ。だいたいよく見りゃ手と足の爪に真っ赤なマニキュアが塗られていて――いつの間に塗った?――やたらとエロい感じがする。それにこの服を合わせるとか、あげく男のいる飲み会に行くとか、狼の群れの中に羊を放り込むようなもんじゃねぇ?すーぐ食いつかれんのがオチだ。
とりあえず盗られないよう頭上高く服を持った手を上げれば、今度はベッドにの上に上がって奪おうとする。そんなに飲み会に行きたいのかと、だんだんオレもムキになって来た。伸ばしてくる手を捕まえて、そのままベッドの上に押し倒せば、彼女の大きな瞳がまん丸になった。

「ちょ、ちょっと圭介、何して――」
「うるせえ。どうしても行くっつーんなら行きたくなくなるまでヤる」
「は?え、ちょ、ちょっ…ん…っ」

太腿を撫でていくとワンピースのスカートがめくれて、白い脚が露わになる。その瞬間の頬が薄っすら色づいた。はいつもエッチの後は子供みたいに眠ってしまう。それが分かっているからの弱いところを重点的に攻めれば、すぐに抵抗する力が弱まり始めた。

そもそもオレがに飲み会を禁止したのは、一年前の送り狼事件が原因だ。その時は前の会社の同期と飲むと言う話で、オレは特に深く考えずに彼女を送りだした。でも深夜が回る頃に帰宅した彼女は、オレの知らない男に送られて来た。しかもソイツはオレがいることを聞いてなかったようで、酔っ払ったを支えて勝手に部屋まで上がりこんで来た。玄関のドアが開く音でオレが顔を出すと、ソイツはギョっとした顔で慌てて帰って行ったが、あの顔はどう見ても酔っ払ったをヤっちまおうって顔だ。オレがいたからいいものの、いなかったら確実に襲われてたはずだ。思い出すだけであの時の男をぶっ殺したくなった。

その日は酔っ払って寝ちまったけど、次の日にそのことを追求したら、は全く覚えていなかった。でもオレはが酔っ払ったらどうなるか知っている。男女問わず、甘え倒してふにゃふにゃになる姿は控えめに言って、めちゃくちゃ可愛い。きっとを送って来た男も飲み会で彼女に甘えられ、変に勘違いしたんだろう。それが分かるだけに、オレはが飲み会に参加するのを禁止した。その時はも男に送られて来たせいでバツが悪かったのか素直に了承した。はずなのには一年前のことだから禊は済んだとばかりに今日、懲りもせず飲み会に行くと言い出したんだからオレが反対するのも当たり前のことだ。

「ん…けいす…け…ダメ…」
「ダメって顔じゃねえじゃん。すげー濡れてきたし」

指で中を掻きませれば、すぐに甘い声が彼女の口から零れだす。我慢できずに、オレは昂ったものを潤みのある場所へ挿入した。

「…んぁっ」

薄く開いた唇に口付けて舌をすべり込ませれば、互いの熱で溶け合う。から漏れる吐息ごと飲み込んで、彼女の意識を全てオレに向けさせた。夕べよりも激しく攻め立てたせいか、はすぐに達したようで、瞳に涙を浮かべて「圭介…」と切なげな声でオレの名を呼んで手を伸ばしてくる。まるで酒に酔っているかのような甘えた表情はやたらと扇情的で、だから飲み会に行かせたくないんだってこと、今夜はとことん教えてやらないと。
のこんな顔を見るのはオレだけでいい。