嫉妬



※性的描写あり。苦手な方はご注意下さい。





「ねえ、まんじろー」
「……」
「ねえ、マーくん」
「………」
「…マイキーってば」
「うるせーなァ。つーか呼び方変えたり変なあだ名で呼ぶんじゃねぇよ」

万次郎が苦笑交じりで応えれば「だって暇なんだもん」と拗ねたような声が返って来る。万次郎が真剣に特攻服のデザインを考えながらスケッチをし始めてから、かれこれ1時間は経っていた。その間、は言葉通り暇だったのか、雑誌を読んだり、テレビをつけて退屈なバラエティ番組を見たりと時間を潰していたのだが、そろそろ限界だったようだ。

「そもそも人の家に来てデザイン描きだすのやめてよ」
「仕方ねえだろ。思いついた時に描いておかねえと忘れそうだし。三ツ谷に新しい特服作ってもらうんだよ」

言いながらもノートに鉛筆を走らせる。今日は集会もなく、たまたま空いた時間に足が向いたのがセフレの、いや好きな女の家だったのは至極当然のことと言える。なのにそういう時に限っていいデザインが頭に浮かんでしまって、ついにノートと鉛筆を借りてしまった。

「鉛筆?シャーペンじゃダメなの」
「絵を描くときは鉛筆がいーんだよ」

そんなやり取りの後からずっと手を動かしていた。

「もぉーまんじろ~、そろそろ構ってよ」

ベッドの上でパタパタと足を動かし、駄々っ子のようなことを言って来る。こういうところが可愛くて仕方ない。だからついわざと放置してしまうのかもしれない。すでにデザインは出来上がった。手を止めて鉛筆を置いたのには気づく様子もなく、今もまだベッドに寝転がっている。暑いのか、ミニのフレアスカートにタンクトップという布が極端に少ない服装は、あまりに無防備だと万次郎は思う。脚を動かすたび、白い太腿が視界に入り、万次郎の男の部分をくすぐった。は年上で学校が違うものの、不良に絡まれてるとこを助けたことで知り合い、少しした頃に関係を持つようになった。万次郎としては彼女のことが好きなのだが、シャイな性格もあり言葉で「好きだ」とも「つき合おう」とも言えず、ダラダラと体の関係だけが続いている。そろそろ不毛な関係は終わらせ、きちんとした関係を築きたいと万次郎は思っていた。

「なーんか眠たくなって来ちゃったなぁ…」

が目をこすりながら呟く。ふと時計を見ればすでに夜の9時だった。いつもは夜更かしのわりに、万次郎の作業が終わるのを待っているだけという時間は睡魔まで襲って来たらしい。寝返りを打つように身体をまげて万次郎の方へ向いたせいで、色白の胸元が視界に飛び込んで来た。ノーブラは反則だろと思う。

「あ、そーだ。彼氏にお休みメールしなくちゃ」

がベッドから起き上がり、ケータイへ手を伸ばす。

「…は……?」

彼氏というワードが出た時、万次郎は耳を疑った。いつの間にそんなもん作ったんだ?と胸の奥がざわざわと音を立てた。に想いを寄せていた万次郎からすれば、自分の知らないところで彼氏が出来ていたことに少なからずショックを受けた。なかなか自分の想いを口にすることは出来なくても、今日まで大切に想って来た女だ。それを知りもしない男に奪われたのかと思うと、腹の底から怒りがこみあげて来る。

「彼氏って誰だよ…」
「あれ、万次郎に言わなかったっけ。同じクラスの滝本くん。今度一緒に映画行くんだー」

ニコニコと嬉しそうに話すを見てたら、万次郎の中にどす黒い感情が湧いて来た。そんな知りもしない奴に大事な女を奪われるのは我慢出来ない――。そんな乱暴な考えが頭をかすめたのは、あまりに無防備なのせいだ。

「ふわぁ…眠たい…。ねえ、まんじろ――」
「じゃあ寝ろよ」

言いながらも立ち上がって部屋の電気を消すと、万次郎はの寝ているベッドへ腰をかけた。がキョトンとした顔で万次郎を見上げる。月明りが照らすの長い髪がシーツの上に広がって、露わになっている細い首筋がやけに艶めかしい。万次郎はそっとの顔の横に手をついて、上から見下ろした。

「あ…描き終わったの?」
「そんなのとっくだし」
「え…万次郎…?」

不意に見下ろしていた万次郎の顏が近づき、互いの鼻がくっつくほど近くにある。の頬がかすかに赤く染まったように見えた。

「ど、どうしたの?」
「構って欲しいんだろ?」
「え、万次郎――」

そう言いかけた唇を少し強引に塞いで、すぐに舌を滑り込ませた。驚いた様子のの喉元からくぐもった声が洩れて来て、万次郎の鼓膜を刺激してくる。逃げ惑う小さな舌を器用に絡めとって吸い上げると、の細い肩がかすかに震えた。

「…ん…万次郎…?」

は急にその気になった万次郎に驚いているようだ。僅かに唇を離して彼女の頭を抱き寄せると、万次郎はもう一度唇を重ねた。

「ま…待って…」
「待てねえよ」

こっちは散々煽られて限界なんだよ、と耳に舌を這わせて呟けば、「あ、煽ってないよ」と言いつつ、は身を捩る。そのまま這って逃げようとするを後ろから羽交い絞めにしてベッドの上に押し倒した。

「ちょ、まんじ…ろ…何…」
「構ってって言ったろ」
「え?あ…っ」

長い髪を前に垂らした後ろ姿に欲情して、露わになった項や耳にも舌を這わせた。ビクリとの肩が跳ねる。ベッドの端の壁に両手をついたを後ろから抱きしめながら、タンクトップをまくって行けば白い背中が露わになる。そこへも舌を這わせて、後ろから胸の膨らみにも手を伸ばした。

「…あっ…やぁ」

やんわり揉みしだきながら乳首を指の腹で優しく擦るだけで、そこはすぐに硬く主張してくる。背中に唇を這わせながら、ゆっくりタンクトップを捲り上げると、の厭らしい姿が万次郎の目に晒された。

「…ぁ…や…だ…まんじろ…」

恥ずかしそうに首を振る彼女の背中をなぞっていた唇を下げながら、スカートをめくって尻の方からショーツを下ろして行くと、その性急さにが「やぁっ」と驚いて逃げようとする。腰を掴んで引き戻すと、万次郎は目の前に晒されたの割れ目に舌を這わせた。腰をホールドしてしまえば身動きが取れない。中途半端に脱げたショーツが膝のところで邪魔になり、万次郎に尻を突き出す体勢のまま、「こんな格好やだってば…っ」と頭を振るので精一杯だ。腰を抑えつけ、唇で襞をめくり、そこへ舌を這わせて舐め上げる。の背中がビクンと反り返り、強い刺激にたまらずの口から高い声が零れ落ちた。

「ここ、舐められるの好きだろ?」
「ひゃ…ぁう…っ」
「イヤっていうわりに濡れてきたじゃん。って強引にされる方が燃えるタイプ?彼氏にもこーいうことされてんのかよ」

無防備に晒された割れ目に何度も舌を這わせ、小さな突起に吸い付き、唇で挟んで優しく舐め転がす。室内に卑猥な音との苦しげな喘ぎが響く。垂れるほどに潤みを帯びて来たそこへ指をゆっくり埋めて抜き差しするだけで、とろりと蜜が溢れてきて、それがやたらと厭らしく見えた。

「…ゃあ…何で…こんなこと…」
はオレのもんなのに他の男と付き合ってっからだよ」
「…な…なに言って――」
「あ?彼氏、できたんだろ?」
「…ぁっ」

指を二本に増やして中をぐちゅぐちゅと擦るように動かせば、一際甘い声がの口から洩れて、万次郎はたまらなくなって来た。

「十分、解したし、もういいよな…?」
「え、ちょっと万次郎…!やだ…やめてっ」

硬くなったものを濡れそぼった秘部に押し付けられ、は驚いたように振り返った。その刹那、万次郎の欲を孕んだ瞳と目が合う。

「んあっぁ」

後ろ向きのまま腰を掴まれたと思った瞬間、質量のあるものが強引に押し入ってくるのを感じ、背中が引きつったように反り返る。

「やっぱ、あんだけ解してもきちーな…」
「…ゃあ…まんじ…ろ…っ」

万次郎が自身をゆっくりと押し進めれば、涙声でが頭を振る。

「他の男とヤってること彼氏に内緒にしてんだろ…っ?」
「…ぁっあ…」

暖かく締め付けて来る気持ち良さに思わず吐息が洩れ、根元まで押し込む。の口からも苦しげな息が洩れた。本当なら普段のように優しく抱いてやりたかった。なのに彼氏という存在に苛立ち、欲望のまま腰を打ち付ける。一度ギリギリまで引き抜き、浅いところを突いてやるとの口から切なげな喘ぎが洩れた。

「気持ちいい?」
「…や…ぁ…んっ…」

すでに抵抗する気はないのか、は力なくベッドへ両手をつき、万次郎に揺さぶられるがまま喘ぎ始めた。

「やべ…止まんねえ…」

の尻を掴んで乱暴に腰を振る。万次郎のものが奥を突くたび、苦しげな切ない喘ぎが室内に響いた。後ろから覆いかぶさり、乱れた髪を傍らに寄せ、露わになった耳へ舌を這わせると、の体がかすかに震えて、万次郎のものを締め付けて来る。あまりの快感に、万次郎の口からも吐息が洩れた。

「オマエは…オレのもんだ…」

耳元で囁くと、更に締め付けて来る。たった一言で素直に反応する従順で可愛い女だと万次郎は思う。誰にも渡す気はなかった。他の男など見れないくらい、今まで以上に抱いて自分の体を覚えさせる。いいところを暴いて忘れられないほどの快感を与えれば、は万次郎から離れられなくなるだろう。

「…んんっあ…は、激し…くしないで…」

腰を捻るようにして中を突けば、の嬌声はいっそう艶を増した。その声に誘われるようにの顎を掴み、自分の方へ向かせると、唇に吸い付く。舌をねじ込み絡ませると、も素直に応じる。そのまま後ろから突けば、合わさった唇の合間からの甘いくぐもった声が万次郎の耳を刺激した。一度、引き抜き、の腕を引き寄せ、仰向けに押し倒すと、両足を開いて再び中へ自分のものを埋めていく。それだけでの体が跳ねて達したようだ。

「もうイったの…早くね?まだまだこれからなんだけど」
「…ま…万次郎…待っ…て…ぁ…あ」

腰を抱えて浅いところを突いてやると、イったばかりの体がガクガクと震えだす。その姿を見て、ゾクリとしたものが万次郎の体に走った。

「…こんな姿…他の男に見せんなよ…」

思わず漏れた本音。快感の余韻で薄っすら開いている濡れた唇を塞ぎ、万次郎が呟く。繋がっている部分が熱くて、万次郎の口からも深い吐息が洩れた。

「ち…がう…」

その時、が何かを呟いた。

「…う…そ…なの…」
「……うそ…?」

一瞬、腰の動きを止め、万次郎がを見下ろすと、蕩けたような瞳に涙が浮かんでいた。

「ごめん…彼氏なんてうそ……ほんとは…誘われた…けど断ったの…」
「……は?」
「わたしは…万次郎が好きだから…」

荒い呼吸の合間、が気まずそうに言葉を紡ぐ。その零れ落ちる言葉一つ一つを拾い、万次郎は沸騰して熱いくらいの脳内で整理をした。そしての言ったことを理解した時、万次郎は唖然とした表情でを見下ろした。頬を上気させ、潤んだ瞳で見上げて来る彼女は相変わらず扇情的だ。

「…この状況でそれ言う…?」
「ご…ごめん…だって万次郎…怒ってるし…」
「………」

確かにの嘘を信じ、勝手に嫉妬をして乱暴に事に及んだ自分も悪い。でも、だとしても、と万次郎は溜息を吐いた。上り詰めそうな時に冷静にさせられたことですっかり熱が引いてしまった。

「何で…そんな嘘つくんだよ…」

当然の質問を投げかけると、はそれこそ泣きそうな顔で目を伏せた。

「だって……万次郎と…こんな関係のままじゃ嫌だから…試したの…ごめんなさい…」

の言葉に呆気に取られた。自分と同じ想いだったことは嬉しいが、まんまと嵌められた感が否めない。

「……もっと普通に言えよ」
「そ、そっちこそ…ちゃんと言ってよ…」

スネたように口を尖らせるを見ていると、色々言いたいことが頭に浮かぶ。しかし頬を赤く染めて「わたしは…好きだよ、万次郎のこと」と呟くを見て、再び腰の疼きが再燃した。

「…ひゃ…おっきくなった…」
「…当たり前だろ…今のは反則…」
「ま…まんじろ――」

今度はやんわり唇を塞ぐと、も素直にそれを受け入れる。柔らかい唇を食み、啄むと、さっきまでの沸騰したような熱とは別の熱が全身を包んだ。

「続き…していい?」

さっきから繋がっている部分が疼いて仕方ない。額同士を合わせて万次郎が聞けば、も恥ずかしそうに頷く。

「今度は…優しくすっから」

あまりに強引に抱いた気まずさで、さっきはごめんと頬にも口付ける。しかしはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「…強引な万次郎も…好きかも」

の言葉に一瞬呆気に取られたものの、苦笑しながら噛みつくようなキスをする。


そんなことを言うなら、あなたのすべてをください。
髪の一本まで残さずに。