-03-あの日、君に恋をした




「…え!それがキッカケなの?ハル兄のストーキング始めたのって!」
「ちょっと千壽!人をストーカーみたいに言わないで」

春千夜そっくりの顔で言われると、ものすごく嫌な感じで、わたしは思いきり顔をしかめてしまった。そもそも大好きな人にくっついて行ってるだけなのにストーキングと呼ばれてしまうのか。嫌な世の中になったもんだ。

「え、だってってばいっつもハル兄をコソコソ見てるじゃん」
「コソコソって…表立って見てたら春千夜が怒るからだもん」
「あー何かハル兄ってマイキーに影響されて最近は口も態度も悪くなったからなあ」
「そういう春千夜もカッコいい」
「……ってマジで男見る目ないな」
「なんでよ!千壽は小学生だし妹だから春千代の魅力が分かんないだけだよ」
「いや分かりたくないし。そもそもシャーペン借してくれただけで好きになるとかないわ~」

千壽は呆れたように首を振って溜息までついてる。全く失礼な幼馴染だ。

「それだけじゃないもん」
「え、まだ続きがあんの?」
「春千夜と仲良くなったキッカケはそれだけど…その後にマイキーや圭介、千壽と会わせてもらったのは覚えてるでしょ?」
「まあ…ハル兄がマイキーんちに女の子連れて来たのは衝撃的だったからねー」
「それもクラスに馴染めないで友達作れないわたしを心配した春千代の優しさだもん」
「…はいはい」

千壽はまたしても肩を竦めて首まで振っている。まあ、こんな扱いをされるのはもう慣れたけど。だいたい春千夜のことが好きだとバレると――隠してないけど――あんなヤツのどこがいいんだ、から始まる。説明しても誰も理解してくれないんだから嫌になってしまう。
あの日、転校した先で初めて優しくしてくれたのは春千夜だった。その後もいっぱい助けてもらって、今ではすっかりわたしの王子様的な存在だ。

「…助けてもらった?」
「うん」
「何から?」
「だからー近所に住んでる不良から」
「え、、からまれたの?」
「うん…っていうか、アイス食べながら帰ってたら躓いて、前を歩いてた人の制服にアイスがべちゃっと…」
「マジ…?」

あの時は本当に怖くて足が震えた。謝っても怒鳴られるし、本気で殴られるんじゃないかと思ったら涙が溢れて来て。でもその時、通りかかった春千夜がわたしを助けてくれた。

"から離れろ!"

颯爽と現れた春千夜が、あの中学生の不良を倒して追い払ってくれた時は、本物の王子様に見えてしまったのだ。

「ぶははは!王子様ァ?ハル兄があ?」
「む!ほんとにそう見えたんだってば!春千夜、ケンカしたの初めてだって言ってたけど、めちゃくちゃ強かったし」
「そりゃーマイキーの道場で鍛えられてるからねー。でもジブンより弱かったのになー」
「千壽がおかしいんだよ。女の子なのにプロレス好きなんて」
「何で?プロレスは最高の格闘技だし!」

また始まった、と今度はわたしが溜息をついた。春千夜の妹の千壽はヤンチャで男勝りな性格だ。そのせいで春千夜はいっつも武臣から怒られてたっけ。最近はかなり反抗期になって春千夜も言い返してるみたいだけど。

「それより…、マジで春千夜に告るの?」
「だって明日から中学生だし。そろそろいいかなーって」
「何が?」
「だからー春千夜に…あげるの」
「何を?」
「………内緒」

ダメだ、いくらませてるからと言って、千壽はまだ小学生。こんな話は聞かせられない。

「何だよ。そこまで言っておいて」

千壽はぶつくさ言ってきたけど、そこは軽くスルーしておく。万が一春千夜に話されたら恥ずかしいし。

「それより春千夜、まだ帰って来ないの?」
「……そんなに会いたいの?学校でも毎日会ってるのに」
「そりゃー会いたいよ」

こうして学校帰りに家まで押しかけて待ってる理由は、春千夜が大好きだからに他ならない。

わたし、。大好きな人、春千夜。趣味、春千夜。結婚したい人、春千夜。

助けてもらった日からずっと――わたしは春千夜に恋をしている。