「―――――"来る"。"来ない"。"来る…"。"来ない…"だぁ!!来ない!」
最後の花びらをちぎった後で頭を掻きむしる――髪はないが――相棒に、それまで黙って隣に座っていた僕も限界とばかりに立ち上がった。
「…って、花占いとかやめろよ!すっごい気持ち悪いぞ、一角!!」
「う、うるせぇよ!ほっとけ!!」
「ほっとけるか!僕の相棒が美しくない事をこの昼日中からやっているなんて!だいたい今時そんなこと小学生でもやらないよ!」
「うっせぇ!てめえはサッサと帰れ!何で一緒に来てんだよっ」
「だって見てみたいだろ?!その"お花のような可愛い子"ってのを!」
「てめえにだけは見せねえ。――――なあ?デブ千代〜?」
そう言いながら一角は横で丸くなっている超巨体の猫を撫でる。今日はあいにくの雨。
猫も寒そうに丸くなっているが、僕の目から見れば、ただの毛の塊にしか見えない。
そう、名前の通り、一角の隣で眠る猫は超おデブな猫なのだ。
それを半目で見ていた僕は盛大な溜息を吐いた。
「…その猫の風貌もだけど名前も美しくない。センスゼロだね。名前つけたって子、ホントに可愛いのかい?」
「うるせえっつってんだろ!あの子はなあ、お前が想像してるのよか、数倍は可愛いんだよっ」
一角はこの頃その子の話になると物凄くムキになる。
あの花占いでも分かるように、ケンカにしか興味のなかった一角がこれほど気に入ったという女の子。
一目だけでも見ておきたいと思うのはきっと僕だけじゃないはずだ。
ここは流魂街。といっても瀞霊廷からほど近い場所にあり、僕らが今いる神社も死神が虚退治で何だかんだと来る場所だ。
この近くに美味しい団子屋さんがあって、それを目当てに立ち寄ったりもする。
あの日の一角も団子屋で団子を買って、この神社に寄ったらしい。
普段は人気もない場所だから、昼寝をするのにちょうどいいのだ。
だがその日の天気は今日と同じく雨だった事もあり、一角は昼寝と言うよりは雨宿りをする為、この神社へとやって来た。
が、そこに先客がいたらしい。
小雨の降る中、神社にデブ猫を抱いた一人の少女。しかも少女は泣いていたらしく、一角も思わず声をかけた。
『どうした?何、泣いてんだよ。どこか怪我でも―――』
『いいえ…この子、野良猫なんですけどお腹空かせてるみたいなの。でも私、何も食べ物持ってなくて』
その話を聞いて一角はかなり驚いたと言う。
たかが野良猫――それも多少食べなくても死なないんじゃないかというほどの巨体――の為に泣いている。
その少女の優しさに心が打たれたらしい。「まるで稲妻のようだったぜ!」とは後の本人談である。
『俺も今は団子しか持ってねえな…。これ食うかな』
つい少女の助けになりたくて、そんな事を言えば、その子は嬉しそうな顔を見せたらしい。
『いいんですか?』
『ああ。俺は帰れば食いもんくらい食えるしな。でもこいつは次にいつ食えるか分かんねえんだろ?』
『…ありがとうございます!』
そして少女は団子を受け取ると、そのデブ猫に与えたようだ。
いくら空腹とはいえ、猫が団子を果たして食えるのか?と一角も心配したようだが、その心配も無駄に終わったらしい。
デブ猫は親指ほどの団子を8つ。ぺロリと綺麗に平らげ、そのたるんだ腹を揺らし、縁側の下へと無事に帰還したそうだ。
そして残された少女と一角は、その猫のふてぶてしさを見て、一緒に笑い合ったという。
まあ…そういう他愛もない一日だったというわけなんだけど…どうも一角にはそうでもなかったらしい。
それ以来、毎日その子の事が頭に浮かび、ついつい足がこの神社に向いてしまうと言うのだ。
あげく今日は朝から雨だと知るや否や、任務でもないのに流魂街へ行くと言い、「あの子が来るかもしれねえ」とまで言いだした。
「だいたい何で雨だからって来るとか思うわけ?今まで一週間、待っても来なかったんだろ?」
「それは晴れてたからだ。でも今日は違う。あの日と同じ状況になれば――――」
「だからって猫をまたたびでおびき寄せるなんて重症だね…呆れるよ」
「なら帰れ。お前は邪魔だ」
一角は境内に胡坐をかいて座り、その少女を待つ気らしい。
この雨の中よくやるよ、と思いながら、僕は番傘をくるくるとまわし、辺りを見渡した。
でも普段から誰も寄り付かないこの神社。この雨のせいでいつも以上に人気を感じない。
「じゃ、僕は帰るけど…」
「おう帰れ帰れ!――――ただし。更木隊長や副隊長には余計なこと言うなよ?」
「…言わないよ」
そう言いながら肩を竦め、一角を背に歩き出す。だいたい今から言いに行っても無駄になる。
だって一角が今口にしていた名前の方々はすでに――――この神社の隅に隠れているからだ。
「やほ!たーいちょ!」
神社を出てぐるりと周り、大木の影に巨体を見つけると僕はスキップしながら近づき声をかけた。
その瞬間、巨体がしゃがみ、怖い顔で僕を睨み上げて来る。
「バ、バカヤロ!声がでけえ!」
「そーいう剣ちゃんの方が声大きいよー」
「静かにしろ、やちる!一角に気付かれんだろ」
二人はそんな事言いあっているが、そもそも、そのデカイ霊圧を消せないんじゃ隠れてる意味はあまりない、と言いたい。
と言って、普段の一角ならともかく、今はその女の子の事で頭がいっぱいだ。
だから隊長達の霊圧にも気付く様子はなかった。
「で、一角の好きな女ってまだ来ねえのか?」
「さあ?でも一角は来るか来ないか花占いまでしてたんで、その怨念(!)が届けばあるいは」
「花占いだぁ?けっ!十一番隊の隊士ともあろうもんが花使って占いだぁ?後でそのへなちょこ根性、叩き直してやる」
さすが更木剣八。そう言うと思ったさ、僕も。
あの情けない相棒の姿を見たら、僕だって隊長にそうしてもらいたいと思ったくらいだったし。
「ねえねえ。お腹空いたー」
そこで副隊長がいつもの我がままを言いだし、僕は仕方なく、「団子でも買って来ますよ」と申し出た。
じぃっと覗きをしているのも飽きるのだ。(どうせ見えるのは一角のピカピカ光る頭だけだしね(!))
僕はそのまま怪しい二人――後ろから見たらほぼ変質者(!)――を残し、近くの団子屋へと走った。
「団子五つ下さいな」
「いらっしゃいませー。…あ…」
そこで応対に出て来た若い女の子が僕を見て僅かに驚いたような顔をした。
「あのーその着物…死神の方ですよ…ね」
「え?ああ、そうだけど」
いきなり団子屋の女の子に話しかけられ驚いたが、なかなか可愛い子でつい優しく笑顔なんか見せてしまう。(僕も隊長から言わせればへなちょこかもしれない)
「それが何?」
「い、いえ…。あ、団子五つでしたよね。只今包みます」
その子はそう言って曖昧に笑うと、すぐに奥へと引っ込む。
何だろう、とは思ったが、死神だからと何かサービスでもしてくれるのかな?と多少の期待をしつつ店先で待っていた。
すると数分ほどで女の子が団子の包みを持って顔を出す。
僕はお金を払い団子を受け取ると、特にサービスもなかったな、とガッカリしながら店を後に歩き出した。
が、すぐに「待って下さい!」と声をかけられ立ち止まる。
振り向けば団子屋の女の子が追いかけて来るのが見えた。
「どうしたの?お釣り間違いとか?」
「い、いえ…実はちょっとお聞きしたい事が…」
女の子は息を切らしながら微笑むと、恥ずかしそうに俯いた。そのいじらしい姿に何だか胸がキュンとする。
こうして近くで見れば、その綺麗な黒髪と大きな瞳が魅力的だ、と思う。ハッキリ言って僕好みだ。
「…実は私、探してる死神さんがいまして…」
「探してる…死神?」
「はい。ご存知なら教えて欲しいんです。あの…頭がつるっとしてて目の鋭い死神の方なんですけど…」
……軽い眩暈がした。
「…つるっとした…頭…」
「知ってますか?あの出来れば会いたいんですけど……」
女の子のその言葉に、更に貧血のような感覚が僕を襲う。
もしやこの子が一角の話していた――――ー花のように可愛らしい少女、なのか?
「あ、あのさ、君…何でそいつの事、探してるの?」
「え…?」
僕の問いに彼女の頬がほんのりと赤くなる。
まさか一角だけじゃなく、この子も一角に一目ぼれを?!ってかゲテモノ好き?!(オイ)いや、あの"つるるん"とした感じがいいのか?!(待て)
そりゃ確かに一角は僕よりもワイルドーって感じで、男らしいところも沢山ある。男気なんか隊長と同等くらいある!それは知ってる!
でもこんな可愛い子が一角に一目惚れしたのかと思うと、僕は当分、眠れない夜を過ごす事になる(何故)
そんな現実、考えたくもない。けど現実にこの子は一角を探しているらしい。ここは教えるべきか否か――――
「実は私―――――」
あれこれと考え狼狽している僕に、女の子は可愛い笑顔を見せると、静かに口を開いた。
「――――遅かったじゃねえか。どこまで買いに行ってたんだ?今やっと目当ての女っぽいのが来て…つか……何笑ってんだよ、弓親」
「あ…た、たいちょー…ひゃはは…ぶふ…っ!ぶははっ」
「弓りん気持ち悪ーい」
「だ、だっれ…ぶはは……てか、お…おと…」
「はあ?」
とりあえず持っていた団子を隊長に渡し、僕は我慢しきれずお腹を抱えて笑った。
そんな僕を訝しげに見ていた二人だったがそこで僕は先ほど彼女から聞いた話を隊長達にも聞かせてあげた。
「…はあ?男だぁ?」
「そーなんですよ!全然見えないけど!」
「あはははー!じゃあ、つるりん男に一目惚れしたって事だー!」
「しかも、あのデブ猫に毎日団子食わせてたらしくってー!通りで野良のクセにデブいわけですよねー」
その話で更に副隊長もお腹を抱え笑っている。
ただ更木隊長だけは複雑そうな顔で神社の方へ視線を向けた。
「つか、どう見ても女に見えるぜ?」
「あの団子屋、普段は彼女の祖母がやってるみたいで、客寄せに女装させてるみたいですよ。女顔だから。ま、本人も心は女みたいですけどねー」
「…詐欺じゃねえか」
「でも彼女…いや彼?まあどっちでもいいけど。あの子の方も男っぽい一角に一目惚れしたらしくってー」
「じゃあ…まさか今、あいつら…」
「告白ターイムってとこですかねー。ま、一角は女だと思いこんでるわけだしいいんじゃない――――」
「よくねえだろ!相手は男だぞ!」
そこで隊長は青い顔のまま神社へと突進――そう見えた――していく。多分"禁断の愛"を止める気だろう。
当然その後からも副隊長が「待ってよ剣ちゃーん」と追いかけて行った。隊長はともかく、副隊長が行けば話がややこしくなるに違いない。
「ま、仕方ないか。十一番隊、三席。斑目一角の恋人が"男"じゃね……」
僕は溜息交じりで肩を竦めると、副隊長から「この子男だよー!つるりん男と付き合うのー?」と軽〜く真実を聞いて膝落ちしている一角に今世紀最大の同情をした。
(せめてもっと言葉を濁すとか…言い方ってもんがあるだろ)
「――――男だからって男を好きになって何がいけないの?!」
そんな彼…彼女?の悲痛な叫びと共に、一角がその場にぶっ倒れたのは、他の隊士達には内緒の話だよ。
"禁断の恋(?)"
今後とも管理人共々宜しくお願い致します。
日々の感謝を込めて...
WEB_MASTER@HANAZO