Will you kiss?――

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静かな部屋に小さな明かりだけを灯し、窓の外を眺めると、小さな雪が夜空からふわふわと舞い降りてくるのが見えた。
今日は12月24日、クリスマスイヴ。
それも、もうあと10分ほどで終わり、聖なる夜を迎える。


「ホワイトクリスマスになりそうね…」


そう呟きながら窓を開けると、冷たい風と共に、舞った雪が頬をかすめて、私は小さく首を窄めた。
見れば庭先はすでに雪が積もり、いつも子供達が駆け回っている場所も白に染まっていく。
外は凄く静かで、雪が積もる音まで聞こえてきそうだ。
さっきまでは子供達がいつになく興奮したように騒いでたけど、今はすでにベッドの中。
皆、明日の日を、ううん、枕元にあるサンタからのプレゼントを、心待ちにして夢を見ている頃だろう。
先ほど皆の枕元に置いてきたプレゼントが、喜んでもらえるといいんだけど。
そう思いながら、雲に覆われた夜空を見上げる。


「せっかくのホワイトクリスマスなのに、なぁ…」


どうやら私のサンタは、間に合わないようだ。


『クリスマスまでには帰ります』


昨日、電話越しでそう言ってくれた恋人の事を、ふと思う。
今はどこで何をしているのやら。
世界の名探偵は、クリスマスイヴと言えど、今年も忙しいみたいだ。


「Lのバカ……ケーキ食べちゃうぞ…?」


彼が戻るのを心待ちにしながら、私は彼の大好きなイチゴのケーキを焼いた。
いつもより特大で、イチゴの数も増やし、綺麗に飾りつけ、隠してある。
でもそれも、明日には子供達のお腹の中に消えるんだろうな、なんて思いながら溜息をついた。


「クリスマスには雪が降るといいですね」


そう言ってた張本人は、世界のどこで、この夜を迎えてるんだろう。
窓の前にある屋根にも雪が積もっていくのを見ながら、そっと手でそれを掬う。
降り出したばかりの雪は、サラサラと指から零れ落ち、小さな雫だけを残した。
その時、何か聞こえた気がして、ふと顔を上げた。




さく さく さく…




静かな夜に、かすかに聞こえてくる雪を踏む音。
それは次第に庭先へと近づいてくるようで、私は少しだけ身を乗り出した。
こんな時間に起きてる人間は、このハウス内では私しかいない。
まさか本当のサンタが来るはずもないし、と思いながら、近づいてくる足音の方をジっと見つめた。




「………っ?」




白い雪景色の中、その人物は姿を現した。
温かそうなコートを着込み、マフラーをぐるぐる巻きにして、口まで覆っているその人物は、どう見てもサンタクロースには見えない。
だけど、私にとっては、最高の、サンタだ。


「……L…?」


精一杯、身を乗り出し、その名を呼ぶと、まるで着ぐるみのような格好の彼が、驚いたように顔を上げる。
そして真っ白な息を吐きながら、嬉しそうに微笑んだ。


「…お、お帰り…なさい」
「ただいま、


一瞬で涙が溢れ、視界が曇っていくのを感じながらも、何とかそう呟けば、彼も小さな声で答えてくれた。


「…間に合いましたか?」
「……うん。5分前」
「良かったです」


はあ、と息を吐き出し、ホっとしたように微笑むLに、私も自然と笑みが零れる。
こんな時間に、それも裏口から帰ってくるなんて、ホントにサンタが来たみたいだ。


「どうして裏口から?」
「…もう皆さん寝ているでしょうし…裏口からなら真っ直ぐ会いにいけると思ったんです」
「…え…私…に?」
「もちろん」


私の部屋は裏口から入り、階段を上がってすぐのところにある。
Lの言葉に思わず苦笑しながら、「泥棒と間違えたらどうするのよ」と言えば、彼はちょっと困ったように笑った。
そして空を見上げると、


「ホワイトクリスマスになりましたね」
「うん…」
「…綺麗です」


辺りの木々も白く染まって、天然のクリスマスツリーになる。
明日は庭先を飾りましょうか、と言って、Lが微笑んだ。
その笑顔を見ていると、今すぐ彼に触れたくなって、私は「待ってて」と言い残し、部屋を飛び出した。
階段をなるべく音を立てないよう下りて、裏口のドアを開けると、真っ白な庭先に、Lが立っている。
その姿を見た時、一気に駆け出して思い切り抱きついた。


「風邪、引きますよ?」
「……いいの。こうしてLを抱きしめたくなったんだから」
「困った人ですね」


そう言いながらも、強く抱きしめ返してくれるLの腕の強さに、私は安心するのだ。


「ホントは窓から飛び降りようかなって思ったんだけど…」
「えぇ?」
「でもLを潰しちゃ可哀想だから下りてきてあげたのよ?」
「…それはありがたいですね」


そう言ってクスクスと笑いあう。
彼の声がくぐもって聞こえるのは、口まで覆ったマフラーのせいだ。


「…歩いて戻ってきたの?」
「ええ、最終でついたのはいいんですけど、この雪でタクシーもないので参りました」
「電話くれれば迎えに行ったのに」
「いえ、それじゃを驚かせる楽しみもなくなってしまいますから」
「…もう…だからって、この雪の中、歩いて帰って来なくても…」
「そうですね……遭難するかと思いました」


真剣な顔でそんな事を言うLに、つい噴出した。


「雪山でもないのに遭難なんかしないわよ」


笑いながら見上げると、Lの髪に雪が積もっている。
それを払いながら、モコモコの格好に、また噴出してしまった。


「これじゃサンタじゃなくて、雪だるまね」
「…だるまって…ヒドイです」


私の言葉に複雑な顔をしながら、スネたように目を細める。
そんな彼も、また愛しい。


「でもプレゼントを持ってきてくれたから…やっぱりサンタかな」
「プレゼント?」
「うん。私のプレゼントは……Lだよ」


そう言って見上げると、Lは口を覆っているマフラーをそっと下げた。
寒いからか、かすかに鼻先が赤くなっていて、これならトナカイにもなれそうだ。


「寒いでしょ?外したら」
「いえ、大丈夫です。それに――」
「それに?」
「これじゃ、にキスも出来ませんから」


そう言った瞬間、Lがゆっくりと屈んで、私の唇を優しく塞ぐ。
冷んやりとした唇が、何度も角度を変えて重なり、少しづつ体温を取り戻していった。
気づけば私の体は、Lのコートに包まれていて、彼の体温で温まっていく。


そして何度もキスをした、その後は――




「ジャスト、0時です」
「メリークリスマス、L」
「メリークリスマス…




そう囁きあって、もう一度、キスを交わした――



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