朝から澄み渡るほどの青空で、私は気持ち良く目覚めた。そろそろ夏も近く蒸し暑さはあれど、今日は久しぶりのオフ。なかなかのお出かけ日和だ――と、そう思ったのに。

「……」
「な、鳴海隊長……?」
「ボ、ボクを殺す気か!」
「はい……?」

かの有名な日本防衛隊、第一部隊隊長の鳴海弦私の恋人はここだけの話――ちょっと頭がオカシイ。

有明りんかい基地。防衛隊の要とも言えるこの場所で、第一部隊隊長の補佐――という名のついた雑用――をしてる私は、オフにも関わらず隊長室へ顔を出した。
彼にあげる餌――もとい。朝食を持参して。
この仕事だけは休みの日でも関係なく、私がしなければならない。
いつもならドアを開けた時点で熱烈なお出迎えをしてくれる鳴海隊長だけど、この日に限っては少しだけ様子が違った。
私を見るなり、石のように固まったかと思えばジっと凝視したまま動かない。何の病気かと思った。
で、その後に発したのが冒頭の台詞だ。

「あ、あの鳴海隊長……?何の話ですか」

仮にも日本最強と呼ばれる鳴海隊長を、私のような弱小隊員が殺せるはずもない。
そもそも私は戦闘員ではなく、ここのオペレーター部隊として入隊したわけで、今は隊長補佐としてあっさり配置換えされた、何の力もない隊員だ。
でも憧れの鳴海隊長と付き合うキッカケになったので、それはそれで良かったとは思ってるのに――何で殺すとか言うんだろう?そんな謎を脳内で追及していると、もうたまらないと言った表情で思い切り私に抱きついている鳴海隊長を見て、すでに部屋へ来ていた長谷川副隊長は空いた口が塞がらない状態だ。
……何と言っても、一番驚いてるのは突然抱き着かれた私だけれど。

「あ、あの――」
「何、それ」
「え、な、何の話ですか?」
「それだよ。その髪型」

鳴海隊長は嬉々とした様子で顔を綻ばせた。よく分からないけど凄く喜んでるみたいだ。
尻尾をふんふんと振って満面の笑みを向けてくる鳴海隊長はちょっと可愛い。

「え、と……ポニテ……です。今日は凄く暑いので――」
……」
「はい?」

彼の顔がすっと真顔になった。この鳴海隊長の顔はいい予感がしない。というか悪い予感しかしない。そう思いながら黙って彼を見上げた。

「君は自分のフェロモンに気付いてないわけ?」
「へ?は、はい……?(フェロモン?)」
「マジか、君は。ちょっとこっち来て座って」

鳴海隊長に背中を押され、彼のお気に入りのソファへ座らされると、ドアの前に立っていた長谷川隊長は深い溜息を吐いている。いや、その気持ち分かります。長谷川さん。
そう思っていると、不意に両頬を掴まれ、ぐりんと彼の方へ向かされた。

「よそ見しないでボクだけを見てて」
「ふ、ふぁい……」

嫉妬深い鳴海隊長は私が他の人――この場合、女でも男でも関係ない――を見てると、すぐにヤキモチを妬く。こういうところも好きだけど、副隊長の前じゃさすがに恥ずかしい。ただでさえ職権乱用と思われてそうだし、そのうちまた配置換え、なんてこともあるかもしれない。
鳴海隊長はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、真顔で私を見下ろしてきた。

「まず。君は誰よりも可愛らしい女の子だ。そこを前提にして説明する」
「……え!(朝から何を言い出すの、隊長は!)」
「このボク、この日本最強の鳴海弦の心を奪ったぐらいだ。それはそれはもう聖母マリアか天使かと疑うレベルってことだ」

うっとりとした表情で話すこんな彼の様子を見たら 普段鳴海隊長に憧れて従ってる隊員達の心中はいかがなものか。
……いや、何も考えるまい。

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。まさにそんな女性なんだ、は」
「え、いや、そんな良いモノでは――」
「そんな歩く核兵器のような君がだよ?!」
「か、核……?(花から急に兵器にされてる)」
「こともあろうに、そんな可愛いポニテ姿……しかも今日は私服じゃないか!」
「あ、あのこれは……」
「季節は夏!太陽の日差しで反射する白いワンピース姿に、男の夢を詰め込んだポニーテールからは甘い香り。スカートの裾からは美しいフォルムの足が伸びている。しかも足元は高すぎず低すぎず、上品な高さのパンプス!最高に――可愛い♡」
「あ、あの……鳴海隊長……?」
「これで防衛隊スーツを着たら、の魅力だけで大怪獣クラスもノックダウンできるはずだ」
「……そ、そんなバカな」

ぐっと拳を固めながら言い切る鳴海隊長には開いた口が塞がらない。要はポニテ姿とワンピースがたまらなく好きだ、と言いたいらしい。

「もちろんボクの為にそんな可愛い恰好で来てくれたってことだろ?」
「え」

言いながら勝手にスマホでパシャパシャ写真を撮ってくる鳴海隊長にどう反応しようと迷いながら、ちらっと長谷川副隊長を見ると、案の定私に同情の眼差しを向けている。
部屋が汚い、会議をサボる、任務中にゲームをする……などの愚行にはきっちり鳴海隊長をぶん殴れる長谷川副隊長でも、私が絡んだこの手のことには一切口を出してこない。プライベートのことには我関せずを貫き通しているんだろうけど、私としてはちょっとだけ助けて欲しい気分だった。
彼に褒められるのは凄く嬉しい。だけど、長谷川副隊長がいる前ではとんでもなく恥ずかしかった。

「あ、あの鳴海隊長……」
「ん?何?」

撮ったばかりの私の写真を見てニヤケてる彼を思い切って見上げると、鳴海隊長はその端正な顔立ちを更に緩ませた。

「私、今日はオフなのでこのあと、立川基地へ行く予定なんです。だから私服で来た――」
「…………は?」
「え?」
「はぁぁぁ?!立川基地?!何で?!」
「え……あの……小此木おこのぎ先輩も今日はお休みだって言うから会いに行こうかと――」
「小此木?オペレーター部隊の?」
「そ、そうです。オペレーター部隊の頃、色々と指導してもらって今も可愛がってもらってるので」

私が防衛隊に入隊した時、指導係になってくれたのが小此木このみ先輩だ。彼女はとんでもなく優秀で主に戦況報告などの補佐は完璧。隊員達の戦闘に一役も二役も買っているくらい、第三部隊でも厚い信頼を得ている。
そんな彼女に私も徹底指導をされ、隊員なら誰もが憧れる防衛隊の中枢、第一部隊への所属が決まった時は夢かと思った。
鳴海隊長にまで認めてもらえるくらいのオペレーターになれたのは、全て小此木先輩のおかげと言っても過言じゃない。
なのに――何故か私はオペレーター部隊から、隊長補佐という配置換えをされた。
今となっては鳴海隊長のそばにいられるのが嬉しいけど、何故移動させられたのかまでは今も分からない。しかも仕事内容はほぼほぼ隊長の世話ばかりだ。あげく、その仕事も私と隊長が付き合いだしたことで何気に公私混同になってる感が否めない。

鳴海隊長は私が出かけると言うと、それまでの笑顔が一転、般若のように目を吊り上げた。

「ダメ!」
「……え?」
「ぜぇーったいダメ!立川基地?あんな場所にが行くなんてボクは許さない」
「え……ど、どうして――ひゃぁっ」

突然がばっと抱きつかれ、ぎゅうぎゅう締め上げられる。仮にも最強と呼ばれる隊長の腕力は、非力な私の体を壊しそうなほどに強い。隊長は細身なのに力が強いから、まるでアナコンダに巻き付かれた餌の気分になった。
こうなってしまうと、さすがに黙視するわけにはいかなかったらしい。長谷川副隊長が深い溜息を吐くと共にこちらへ歩いてくると、私に抱き着いてスッポンのように離れない鳴海隊長の頭頂部に、己の拳を思い切り叩き落とした。ゴッという鈍い音が室内に響く。

「いった!」
「何してんだ、アンタは!彼女を絞め殺す気か!」

ゲンコツを落としただけじゃなく、長谷川隊長は鳴海隊長の首根っこをむぎゅっと掴んで私から引きはがす。鳴海隊長の扱いに慣れている辺りさすがだ。彼は副隊長という立場でありながら、鳴海隊長を遠慮なく怒鳴り、鉄拳制裁すら出来てしまう人物だ。
元々一般人だった鳴海隊長を見つけたのが彼であり、指導係を任された経緯もあるようで、今は上司と部下という立場なれど、鳴海隊長の大先輩に当たる人だった。見た目はスキンヘッドの強面だけど、凄く優しい一面があるのは知っている。もちろん鳴海隊長より常識もあるので、何かと頼れるのは間違いない。

「いちいち殴るな!そもそもはボクの恋人だ!恋人を抱きしめて何が悪いっ」
「悪いとは言ってない。絞め殺す気かと言ってる。彼女は戦闘員じゃないんだから筋力もないだろーが。恋人なら恋人らしく、もっと繊細に優しく扱え」
「う……っそ、そうだった!ボクとしたことがついカッとして……」

冷静に諭された鳴海隊長はハッとした顔で私を見ると、今度は泣きそうな顔で「悪かった」と謝りながら優しく抱き寄せてくれる。普段は天邪鬼で捻くれてたりもするけど、こういう素直な彼も私は好きなのだ。
補佐になってから数か月後、鳴海隊長から「ボクは君が好きなんだ」と告白された時は物凄く驚いたけど、いい加減な姿の裏でこっそり努力してる鳴海隊長を知った時、私も気づけば彼のことを好きになっていた。いわゆるギャップ萌えというやつかもしれない。
鳴海隊長は口も態度も悪いことで有名だけど、本質はとても真っすぐで優しい人だ。

「どこか痛いとこは?」
「だ、大丈夫です」

頭をなでなでしながら心配そうに身を屈める隊長はホっとした様子で息を吐きだした。鳴海隊長は時々こうやって暴走しちゃうけど、それも愛ゆえの行動らしい。周りからは「重たい男」と揶揄されてるけど、本人は全く気にしてないみたいだ。私もそんな鳴海隊長が好きだし、彼の重たい愛情だって受け止められる女になりたいと日々思ってる。
だけど――今日のお出かけくらいは許して欲しい。

「でも何でダメなんですか……?立川へ行くの」
「う……それは――」

と、鳴海隊長が顔をしかめて言葉を濁す。でも答えは長谷川副隊長がくれた。

「以前、ウチの管轄で立川の隊員が本獣ほんじゅうを狩ったことがあった。それを気に入らんのだ、こいつは」
「え、でも怪獣を討伐してくれたならいいのでは……」
「いや、ダメに決まってるだろ?ここはボクらの管轄なのに伝達もなしに勝手に――」
「だからそれは怪獣が勝手にウチの管轄へ逃げ込んできただけだろう」

つかさず長谷川副隊長が口を挟む。その会話を聞いてだいたいの理由は分かって来た。
そもそも討伐数などで立川基地の亜白隊長や保科副隊長に負けたりすると、鳴海隊長は過剰に反応して不機嫌になるのは私も知っている。要は気に入らない相手のいる場所へ私が行くことすら嫌なんだろう。
今では「行かないで」と言わんばかりに私の手を握っている。この様子だと放してくれなさそうだ。

「あ、あの鳴海隊長……」
は今日オフなんだから、いつもみたいに弦ちゃんって呼んでいいのに」
「……そ、それは……」

何も長谷川副隊長の前で暴露しなくても!と思いつつ、顏がじわりと熱くなる。だいたい名前呼びだって鳴海隊長がどうしても「弦ちゃんって呼んで」と言うから――。
と思ってたら、長谷川副隊長は咄嗟に両耳を手で押さえてくれた。聞いてないという意思表示かもしれない。
心の中で感謝して、私は目の前で不貞腐れた顔をしてる鳴海隊長を見上げた。

「ほ、ほんとに行っちゃダメ……?」
「ダメ」
「う……で、でも小此木先輩とランチするだけだし……」
「それ!」
「え?」
「ボクがとランチ出来ないのに、眼鏡っ子はとランチなんて許せない。それに立川にはいけ好かないオカッパがいる」

"いけ好かないオカッパ"とは第三部隊副隊長の保科さんのことだ。鳴海隊長と彼は犬猿の仲で知られている。何でも鳴海隊長が彼を第一部隊に勧誘したら、さくっと断られたらしい。それ以来、顏を合わせると事あるごとに牽制しあう関係になったと前に長谷川さんが教えてくれた。まあ、主に絡むのは鳴海隊長らしいけど。

「保科副隊長には会わないと思いますけど……」
「でも会うかもしれない。だろ?だったら行かせない。あいつにのこんな可愛い姿を見られるかもしれないと思うだけで腸が煮えくり返る」
「……そんなぁ」
「それともはボクとランチするより、あの眼鏡っ子とランチしたいわけ?」
「そ、それは……」

私だって鳴海隊長とランチするのは好きだ。お弁当を作ってきたらペロッと平らげてくれるのを見るのも好き。
だけど、いつも二人でランチ、というわけにはいかない。鳴海隊長は日本一忙しい男でもあるからだ。

「ハァ。我がままもたいがいにしとかないとフラれるぞ」

そこで今まで黙って耳を塞いでいた長谷川副隊長が不意に口を開いた。どうやら耳は塞いでいても会話は聞こえてたらしい。ちょっと恥ずかしい。
フラれるぞ、という言葉を聞いた瞬間、鳴海隊長の顏がまたしても鬼のように真っ赤になる。

「フラれるとか縁起でもないこと言うな!長谷川!」
「そんなに縛り付けて我がまま言ってたら近い将来、そういうことが起こるかもしれない」
「ハァ?そんなプレイはしてないし、ボクはフラれない!」
「あぁん?プレイの話なんかしとらんわ!アンタの束縛がおかしいって話だろがい!」

だんだん昔の関係に戻った二人は、上司と部下、先輩後輩という関係を丸投げた状態で口喧嘩を始めてしまった。まるで子供の小競り合いだ。最強部隊がこれでいいのか?と、四ノ宮長官に見られたらきっと嘆かれるに違いない。いや嘆くどころか鉄拳制裁が――。

「あ、あの長谷川副隊長……あまり鳴海隊長を煽らないで――(これ以上騒いだら他の隊員が来ちゃうかも!)」

と慌てて言いかけた時だった。鳴海隊長にグイっと肩を掴まれた。突然のことにビクっとして顔を上げると、隊長の切れ長の瞳がうるうるしてる。……ヤダ、可愛い。

、ボクはそんなに君を束縛してる?でも愛してるからこそ、嫉妬するんじゃないのか」
「え?あ、いえ、そ、れはですね……」
「ボクはを誰より愛してる……片時も離れて欲しくない」
「鳴海隊長……」

不意に真顔でそんなことを言いだすから、ドキッとしてしまう。普段は緩い感じだけど、ひとたび戦闘になれば鳴海隊長は誰よりも強く、そしてカッコいい。今はその時の彼みたいに真剣な顔をしてる。
どうしよう。束縛されてもいいかなって思い始めた私は、もしかして彼の術中にハマってるのかな――。

「だから上に我がままを言ってをボクの補佐につけたわけだし――」
「え?」
「あ……」

恋心が加速し始めた時、何か聞いてはいけないことを耳にした気がして鳴海隊長をジっと見つめた。でも彼の視線が徐々に左へ動いて視線を合わせてくれようとしない。
鳴海隊長がこういう顔をする時は、だいたい大なり小なりやましい気持ちがあるというのを私は知っている。
まさか本当に我がままで私を呼んだんだろうか。
頭の中であれこれ考えていた時、長谷川副隊長が「鳴海ー!余計なことをペラペラ話すなぁ!」と怒鳴り出した。

「隊長の我がままで上が彼女を移動させたなどと、よその隊に洩れたらどうするんだ!我が第一部隊の名折れだ!」
「あ、あの……どういう、ことですか?私の配置換えは長谷川副隊長のサポートの意味も入ってるのでは……」
「え、あ、いや、まあ、そうなんだが……」

我がままな鳴海隊長の世話を長谷川副隊長ひとりでやるのは大変だから、私が補佐としてつけられたと聞いていたのに、どういうこと?と思っていると、長谷川副隊長が溜息交じりで説明してくれた。
何でも鳴海隊長がある任務で私の補助が大変気に入ったから、どうしても補佐に私をつけろ、と上に進言したらしい。
優秀なオペレーター(自分で言うのも何だけど)を鳴海隊長の補佐(雑用係)につけるなんてダメだと反対されたらしいけど、私をつけてくれたら真面目に任務をすると鳴海隊長が約束――それもおかしな話だけど――したら、渋々上が許可を出したようだ。それくらい鳴海隊長の自由すぎる勤務態度に手を焼いていたというのだから、私も唖然としてしまう。
まさか私の移動が最初から仕組まれてたなんて思わなかった。

「鳴海隊長……今の話、ほんとですか……?」
「え?あ、いや、まあ……………ごめんなさい」

私が問い詰めると鳴海隊長はあっさりと認めて項垂れた。どこか叱られた子供みたいで可愛い。
って言ってる場合じゃないけど。

「何でそんな……」
「それは……君を好きになったからに決まってるだろ」
「……隊長」
「あの日、難しい任務を難なくこなせたのは、の補助があったからで、あんなにオペレーターとの連携がスムーズにいったのは初めてだった。あの時は声しか知らなかったけど……が担当の時はボクの力が最大限に生かされる。だから少しずつ気になり始めて――」
「だったら彼女をオペレーターのままにしとけば良かっただろ」

と、そこで長谷川副隊長が呆れ顔で口を挟む。

「う、うるさい、長谷川!それじゃあ彼女になかなか会えないだろが!」
「黙れ。お前の我がままのせいで優秀なオペレーターを雑用係にするなど俺は最初から反対だった。まあ、彼女が毎日来るおかげで部屋は汚さなくなったし、任務中にゲームをしなくなったのは認めるが……」
「ほーら見ろ!ボクは約束を守ってるだろ」
「だからって、これ幸いと口説き落とすなんて思わなかったぞっ」
「あ、あの!」

またしても言い合いを始めた二人を見て、私は慌てて間に入った。もうだいたい話は理解したし、だからといって腹が立ってるわけでもない。ちょっと驚いただけで。

「私なら……補佐も大事な仕事だと思ってるので別にかまいません」
……」
「それに私も鳴海隊長のそばにいたいのは同じだし……」

つい本音を口にすると、鳴海隊長の瞳はパっと輝き、長谷川副隊長に至っては白目をむいてしまった。
でもこの気持ちは本当のことだ。鳴海隊長の補佐になって、もちろん最初は戸惑ったし、戦闘中の姿を映像でしか見たことのなかった彼が、噂以上の問題児だとは知らなかったけど。でも、それでもお世話をしているうちに、だんだん惹かれていった。
鳴海隊長は大分変わり者だけど――。

、お腹空いた……」
「あ、朝食まだですよね。これ作って来たんで――」
「食べさせて……」
「え?!」

そんな彼が愛しいと思ってしまう時点で、私も充分変わり者なんだろうな。
今ではぐぅぐぅとお腹を鳴らす鳴海隊長に、手作りのお弁当を広げてあげると、彼はすぐに顔を綻ばせる。
施設で育った鳴海隊長は、こういう手作りのありふれた食事に飢えてると前に話してくれた。

「んーの作ったご飯、美味しすぎる」
「……お、大げさ」
「いや、ホントに。好き」
「…………え」
「長谷川なら呆れて出て行ったよ」

私が背後を気にしてると、鳴海隊長がドアを指して軽く笑う。見ればいつの間にか副隊長の姿がない。きっと鳴海隊長の我がままに付き合わされる私を心配していてくれたんだろうけど、その私自身が好きでしてることだと気づいて自分は必要ないと思ったんだろう。もしかしたら「同類バカップル」と思われたのかもしれない。
まあ敢えてそこは否定しないでおこう。

「やっと二人きりになれた」
「……は、はい」
「かわい。のそういうとこも、好き」
「え、そういう……?」
「照れて、はにかむとこ」

鳴海隊長はちょっと笑うと、少しだけ身を乗り出してちゅっと唇を啄んだ。私はこの不意打ちにかなり弱い自覚がある。一気に顔が熱を持ってしまった。

「真っ赤になっちゃって、ほんと可愛いな、君は」
「た、隊長――」
「弦だろ?」
「あ……そ、そっか……げ、弦ちゃん」
「よく出来ました」

そう言ってぎゅうと私を抱きしめながらにっこりと笑った彼は、「もう一度キスしてい?」と聞いてくる。でも私が返事をするかしないかのうちに、鳴海隊長は息が止まりそうなほどの甘いキスをしてきた。私を味わうみたいに舌先で口内を弄ぶから、すぐに息が乱れてしまう。

「ふ……ぁ……」

ぬるりと舌を舐められて、息も絶え絶えになった頃、鳴海隊長はゆっくりと唇を放す。こういう時だけ男の顔になるんだから、ちょっとずるいなぁなんて思ってると、彼がふっと笑みを浮かべた。

「当然……今日のランチもボクと一緒に食べるだろ?」

この分じゃ立川へ行くのは無理らしい。そう言って笑いながら頬にキスをしてきた鳴海隊長を拒めなかった私は、やっぱり彼に夢中ってことなんだろうな。