第5夜終わらない絶望、
始まらない希望

 





――――今日は厄日だ。

任務の為、イノセンスを探し、その途中でアクマ数体と激しい戦闘。
その後にいつもの吐き気が来て、やっと治まったと思ったら、また新しい任務だとコムイさんからの連絡。

「ああそれと、今度の任務はちょっと大変そうだから助っ人を送っておいたよ」

その一言で嫌な予感はしたのよ。


「やっほー!〜!ユウ〜!」
「…………(ピキッ)」
「…………」

(ああ、神田の額に怒りマークが二つも……)

隣で口元を引くつかせている神田を見て、小さく溜息をついた。
なのに勢い良く走ってきたラビは全く気にもしないような笑顔で「久しぶりさ〜♪」と抱きついてきた。
最初はこの攻撃も驚いてたけど、顔を合わすたびこれだから、いい加減慣れてきた。
その瞬間、ドカッという変な音がして、今まで抱きついていたラビがお尻を抑えて蹲る。

「い、痛いさ〜!ユウのサド!!あ!さてはオレがと仲良しだからヤキモチ焼いたんさ?」
「違うっっっ!!ファーストネームで呼ぶなと何度も言ってるだろ!刻むぞっ!」
「……す、すみません……」

剣をかまえる神田のどす黒オーラに、さすがのラビも青い顔で私の陰に隠れた。
そこへ苦笑しながらアレンくんが歩いてくる。

「相変わらずですね、彼は」
「あ。アレンくん!久しぶり!」
「お久しぶりです。体調の方は大丈夫ですか?」
「ええ。何とか」
「でも少し痩せたさ〜。大丈夫?

やっと立ち直ったラビが心配そうな顔で覗き込んでくる。
相変わらずだなぁと思いながら、笑顔で頷いた。

「大丈夫だってば。それより……向こうで早く来いと言わんばかりに神田が睨んでるんだけど……」
「「へ?」」

そう言って指をさすと、二人は前方でイライラしたように青筋を浮かべている神田に気づき一瞬で青ざめた。

「い、行きましょうか……」
「そ、そうだな……。ユウをこれ以上、刺激したらオレ達の命が危ないさ……」

神田の性格をよく分かってるようで、二人は大人しく私と一緒に歩き出した。

「ところでイノセンスはどうでした?あったんですか?」

神田に追いついたところでアレンくんが聞いてきた。

「うん。無事に手に入れた」
「そうですか、良かった……」
「これから行く場所にもあれば、かなり集まるんじゃね?」

ニコニコしながら言うラビに、そうねと相槌を打ちながら、

「でも……調べに行ったファインダー全員と連絡つかなくなったって言うし、気をつけないと……」
「だからオレ達が来たんさ〜♪大丈夫だよ」

ラビは明るい顔でそう言うと、私の頭をクシャクシャっと撫でた。
こういうところは年下のくせにお兄さんみたいだ。

「ところで……近くに休めるとこないんでしょうかね」
「え?ああ、この先に少し大きな街があるはずよ。奇怪の報告があった場所から近いし、その街を拠点にするって神田が」
「そうですか。良かったー」
「お腹でも空いたの?アレンくん」

ホッと息をついてる彼にそう言うと、照れ臭そうに笑った。
彼は私と同じ寄生型だから、普通の人よりお腹が空く。
と言っても私はこんな状態だから空腹にはなるけどあまり食べられない。食べても全て吐いてしまうことが多いのだ。
以前一緒に任務に就いたことのあるアレンくんもそれを知っているからか、他の人以上に私の心配をしてくれる。

はちゃんと食べてます?ラビも言ってたけど……ホント痩せましたよ?」

神田にちょっかいをかけに行った――よせばいいのに――ラビを見送りながら、アレンくんは少し悲しげな顔をした。
彼らには神田に話したような事情は教えてないから、アレンくんも不安なのかもしれない。
同じ寄生型だからこそ、気持ちが分かる。

「うん……なるべく食べるようにはするわ」
「そうして下さい。じゃないと、僕ばかり大食いに見られて肩身が狭いです」
「そっか、そうだよね」

おどけるアレンくんに噴出しながら、素直に頷く。私もこのままでいいとは思ってない。
エクソシストとして生きると決めたんだ。いつまでも過去の傷なんか引きずっていられない。

(そう言えば……アレンくんも親代わりの人をアクマにしてしまった過去があるってコムイさんが言ってたっけ……)

ふと、その事を思い出し、胸が痛んだ。
アレンくんはその人が死んだ時、千年伯爵にそそのかされ、彼をアクマにしてしまった。
そして襲われた際にアレンくんのイノセンスが発動し、その人を逆に殺してしまったと言う。
私と同じで悲惨な過去だ。なのに、どうしてアレンくんは強いんだろう。
傷ついていないはずなんか、ないのに――――。

「どうしたんですか?あ、具合でも悪いですか?」
「あ……ゴメン、違うの」

不意に顔を覗き込まれ、慌てて首を振る。
急に黙り込んだ私が心配になったようだ。

「そうじゃなくて……アレンくんは何で強いのかなって……考えてたの」
「え?」
「……ツラい……過去があるのに」
……」
「あ、ゴメンね……。実はコムイさんにちょっと聞いて――――」
「いいんです。謝らないで下さい」

アレンくんはそう言って微笑むと「実は僕も……聞いてます、の過去のこと」と呟いた。
ドキっとして顔を上げると、アレンくんは困ったように頭をかいて、

「きっと似たような傷を持ってると思ったんでしょうね。僕に機会があればと話してみろ、と」
「……そう……」

(そうか……。彼は知ってたんだ……。だから私の事を心配してくれてたのかもしれない……)

「あ、あの…すみません、僕――――」
「いいの。アレンくんこそ謝らないで」

そう言って微笑むとアレンくんもホっとしたように笑ってくれた。
その時、神田に冷たくあしらわれたラビが、泣きながら(!)戻ってくる。

「二人とも遅いさ〜!つーか何話してんのっ」
「べ、別に――――」
「何でもない」
「ぬ……。なーんか怪しいさぁ〜オレだけのけ者に――――」

「お前ら早くしろ!!街が見えてきた!」

「「「う……」」」

その時、神田が怖い顔で振り返り、「ユウが怒ってる!」とラビは慌てて走っていく。
その後を私達も急いで追いかけて行くと、不意にアレンくんが口を開いた。

「今度……ゆっくり話しましょうか」
「うん……。ありがとう」

アレンくんの優しさが伝わり、私は素直に頷いた。
私達エクソシストは殆どの場合、お互いの事を進んでは話さない。
別に話してはダメだというルールがあるわけでもないけれど、皆は敢えて、過去を話さないんだと思う。
でも、もし少しでも分かり合えるなら、自分から歩み寄ってみよう、と、この時、素直に思えた。

「遅いぞ、
「ゴメン、神田」

神田に追いつくと、彼の言ったとおり大きな街が前方に見えて私達はその街へと歩き出した。
その街に入るところで以前にも行動を共にした事のあるファインダーのトマさんと会い、今夜泊まる宿に案内をしてもらう。

「では今夜はゆっくり休んで下さい」

全て手配を終えると、私達は彼から部屋のキーを受け取り、各自それぞれの部屋へと入った。

「はあ…」

部屋に着くと、私は思い切りベッドにダイブをかまし、久しぶりの布団の柔らかさを堪能した。
ここ何日もまともな場所で寝ておらず、歩き通しにアクマとの戦闘……私はひどく疲れていた。

(一人部屋で良かった……。これでラビなんかいたら騒がしくて休めないし(!))

だけ一人部屋なんて心配さー!」とラビがブツブツ言ってたけど、神田の一喝ですぐに静かになったのを思い出し苦笑する。
女だという事で差別されるのは嫌だけど、神田も私の体の事を心配して今回は別の部屋にしてくれたんだろう。

(ああ…このまま寝ちゃいそう……。でも寝るならせめてシャワーに入りたい……。戦闘で汚れた体を綺麗に洗い流したい)

そう思っていても安堵と共に訪れた睡魔は確実に私を眠りの中へと落としていった。
それから何時間経ったのか、ひどく喉が渇いて私は目が覚めた。

「ん……あれ?」

意識が戻った瞬間に見えた見知らぬ天井に、私は自分がどこにいるのか一瞬分からず何度か目をこすった。

「あ、そっか……ホテルだ」

部屋の中を見渡し、ホっと息をつく。
真っ暗な部屋の中、体を起こし電気をつけると、外はすでに夜で、時間は午前0時を回っている。
ここへついたのは夕方だから長い間、眠っていたらしい。

「う〜ん……久しぶりに熟睡した〜」

両腕を伸ばして体をほぐすと、すぐにバスルームへと向かう。
久しぶりにシャワーを浴びて髪や体を綺麗に洗うと、やっと生き返った気分になった。
バスローブを羽織り部屋に戻ると、そこで改めて室内を見渡し驚く。ここはかなり高級なホテルのようで部屋もかなり広めだ。

「さすがヴァチカン。こんなホテルも予約なしで泊まれちゃうんだ」

感心しながらお肌のお手入れをしつつ、髪もきちんと乾かすと、やっと気分も落ち着き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し喉を潤す。
ふと窓の外に視線を向けるとキラキラとした明かりがまだ街を照らしていた。
この街はこれまでの小さなものと違って都会だからか、この時間でも表通りは賑やかだ。

「皆はどうしてるんだろ」

ふと思い出し、そんな事を考える。
確か神田とファインダーのトマさん、ラビとアレンが同じ部屋だったはずだ。
どーせ神田はどこかで修行してるか寝てるかのどちらかだろうし、ラビとアレンは……。

「何か食べに出てるかな……?」

お腹が空いたと騒いでた二人を思い出しそこで自分も空腹な事に気づく。
そう言えば、ここ三日はまともに食事をしていない。

「……ダメだ……。思い出した途端にお腹が空いてきた」

待ってましたと言わんばかりに鳴るお腹に、私はベッドに倒れこんだ。

(どうしよう、食べに出るしかないかな……とは言え、勝手に出かけて心配かけるかな。でもすぐ帰ってくれば問題ないか……)

あれこれ考えつつもバスローブを脱ぎ捨てると、先ほどトマさんから渡された新しい団服を身に着ける。
やっぱり戦闘でボロボロになったものより、真新しい方が身に着けるのも気分がいい。

「よし……これでOK」

身なりを整えると、部屋のキーを持って廊下に出る。
神田やラビ達の部屋の前をそーっと歩き、急いでエレベーターへと乗り込んだ。

「はあ……お腹空いた……」

情けないほどお腹が鳴って、私は溜息をつきつつ、ロビーに降り立った。

「あれ、
「―――ッ」

扉が開いた途端、名を呼ばれてドキっとした。顔を上げるとそこには見慣れた白い髪の少年が立っている。

「アレンくん?」
「どうしたんですか?こんな時間に……どこへ?」
「そ、そっちこそ……」

引きつった笑みを見せるアレンくんに、私も笑顔が引きつる。
見れば彼もまた、私と同じようにお腹を押さえていて、どうやら目的は同じようだ。

もですか?」
「うん……アレンくんも?」
「実はここについてすぐに食べたんですけど、さっき目が覚めて……」
「右に同じく。と言っても私はついてすぐに寝ちゃってたんだけど」

そう言って笑うとアレンくんも苦笑混じりで「じゃあ一緒に行きましょうか」と言ってくれた。
そこで二人一緒にホテル近くの店に入り食事をする事にした。こんな時間なのに店は沢山の人で賑わっている。

「ここ人気あるみたいですね。美味しいのかな」
「そうね。あ、私、これとこれにしよ」
「え、それだけでいいんですか?」
「うん。殆ど食べてないから一気に沢山食べると後でツライの」
「あ、そうか……。じゃあ僕はドリアにビーフシチュー、エビフライにハンバーグセット。ポテトサラダにチキンサンド、それとデザートは――」
「さっき食べたのにまだ入るの?」
「寝起きはお腹空くんですよね、僕」

にこやかに応えるアレンくんに、注文を聞いていた店員はメモを取るのに必死の様子だ。
それでも何とか書き終えると急いで厨房に走っていく。
きっと中にいるシェフも驚くだろうなと笑いを噛み殺しつつ、まだメニューを見ている(!)アレンくんに私も驚いた。

「そう言えばラビは?」
「まだグースカ寝てます」
「そう。疲れてるのね」
「一応、食事してくるってメモ書いてきたんで起きてそれに気づけば……来るかもしれないです」
「……え?気づけばって……どこにメモ置いてきたの?」

アレンくんの言葉に多少の違和感を感じ尋ねると、彼は途端に黒い笑みを浮かべた。

「ふふ……。いつもやられっぱなしなんでお返しに寝顔へメモっときました。鏡を見れば気づくはずですよ」
「……は?……顔?」
「ええ。僕なんか何度やられた事か……」

だんだん黒いオーラが濃くなっていくアレンくんに私は笑顔が引きつった。
いったい、どんな事をされたんだろう?そう思っているとアレンくんは思い出したように目を一気に細めた。

「寝てる間に口にヒゲをかかれたり、瞼に変な目をかかれたり、頬にうずまき……。額に"肉マン"……その他モロモロ……。最悪ですよ」
「そ、そんな事されたんだ……」

ラビってばイタズラ大好きっぽいもんねと思いつつ、苦笑すると、アレンくんはニヤリと笑った。

「なので今日はお返ししときました♪(ニコッ)」
「……へ、へぇ……」

いきなり普段の爽やか笑顔を見せるアレンくんを見て、よっぽど溜まってたんだなと苦笑いが零れる。
周りから見てるとラビとアレンくんも兄弟みたいだ。
そんな事を思っていると、不意にアレンくんが身を乗り出してくる。

「それより……はずっと神田と二人で大丈夫でしたか?」
「え?大丈夫って?」
「いえ……。あの性格ですしが何か嫌な思いでもしてるんじゃないかと……」

アレンくんはそう言いながら真剣な顔をしている。
彼は神田と普段から仲が悪いしそう思っても不思議じゃない。
だいたい私が初めて教団に行った時も二人は食堂で何やらやりあってたし……。

「大丈夫だよ。神田ってああ見えて結構優しいとこあるし――――」
「えぇっ?まさか!」
「そ、そんなに驚かなくても……」

突然、怖い顔で首を振るアレンくんに私は顔が引きつった。
それでもアレンくんは「神田が優しいなんて、ありえないですよ。は騙されてます」と言い切った。
まあ確かに神田はアレンくんやラビに対して相当キツイからそう思われるのも仕方ない事かもしれない。
そもそも私と神田がペアになるのが多いのも、神田がアレンくんとは合わないだの何だのとコムイさんに苦情を言ったからであって、
ケンカばかりする二人を見かねて、神田には新人の私をつけたと言っていた。

「だ、騙されてるって事はないよ?それに……神田は皆が思うよりも優しい人だと思う。表にはあまり出さないけど……」
「そ、そうですか?まあ……その話が100歩譲って本当だとしても……」
「…………(100歩…)」
「多分それはだから、ですよ」
「え、私?」
「はい。神田が優しいのは……だからだと思います」

キッパリ言い切るアレンくんに、今度は私が「まさか」という番だった。
でも彼は真剣な顔のまま「実は以前からそう思ってたんです」と苦笑いを零した。
それを聞いて、これまでの旅を振り返ってみる。
でもこういう時に限って、神田に"遅い"とか"早く起きろ"だとか、怒られた事しか思い浮かばない。
神田を本当は優しい人だ、と知っていても怒ると怖いという事は私も経験済みだ。

「そう……かなぁ。神田は私にもよく怒るけど」
「いーえ。それでも他の人よりも全然トゲがないように見えます」
「トゲ……?」
「僕らには相当キツイですけどね。にだけはかける言葉もトゲがないというか……上手く言えませんけど」

アレンくんの言葉に首を傾げる。怒り方にトゲがある時とない時なんて私には見分けがつかない。

そこで料理が運ばれてきて、一旦話は中断した。
アレンくんは待ってましたというように次から次にお皿を空っぽにしていく。
そして全ての料理を食べ終えた頃には私は食後のコーヒーを飲んでいた。

「はぁー満足♪」
「相変わらず見事な食べっぷりだね、アレンくんは」
「そうですか?でもは僕と同じ寄生型なのに、あまり食べませんよね。ホントにあれだけで足ります?」
「うん、まあ。多少物足りないくらいでちょうどいいの」

私がそう言うとアレンくんはふと思い出したように私の方へ身を乗り出した。

「あの……」
「ん?」
「さっき話しましょうって言いましたよね、僕」
「……うん」
「今、聞いていいですか?」
「……うん」

カップを置いて顔を上げると、アレンくんは再び私を見て一つ息を吐いた。

が何故、戦闘後に体調が悪くなるのか……。過去と関係があるんですよね?」

アレンくんの問いに、私は小さく溜息をつくと軽く頷いた。私も彼に聞いてみたい事がある。同じような痛みを持つ、アレンくんに。

「アクマと戦う事で……何か思い出すとか……」
「……うん。きっとトラウマってやつね……」
「それ……聞いてもいいですか?」

アレンくんが真剣な顔で聞いてくる。私はゆっくり顔を上げると小さく頷いて、過去の傷を話すべく静かに口を開いた。
神田にも話した、過去の全てを。

店内の賑やかな空気の中、私達の周りだけ、どこか違う空間といった感じだった。
私が話している間、アレンくんは黙って聞いてたけど話し終わった時、静かに息を吐いて私の手を優しく握り締めた。

「アレン……くん?」
「話してくれて…ありがとう」
「…………」
「……はアクマを壊す時……ツライ事も思い出してしまうんですね」

そう言ってアレンくんは顔を上げると悲しそうに微笑んだ。
アレンくんは辛くないのかと、いつも思ってた。
どうして彼はいつも強いままで凛としてられるんだろう、と。

「アレンくんは……ツラくない?」
「……僕は――――」

私の問いにアレンくんはふと顔を上げた。
その表情は思ってたのとは違い、どこか清々しいものがある。
羨ましいとさえ思ってしまうほど、凛とした、彼の瞳。

「僕の左目には……アクマの魂が見える……。も知ってますよね」
「……うん」
「これはマナにつけられた傷です……。あの日から僕にはアクマの魂が見えるようになった」
「…………」
「僕の師匠が教えてくれたんです。"アクマに内臓された魂に自由はない。永遠に拘束され、伯爵の兵器になる。破壊するしか救う手はない"と……」

そう言って、アレンくんは小さく溜息をついた。その表情で、彼にも葛藤があった事が分かる。

「その後も僕は沢山のアクマの魂を見てきた。そして目に映る魂は全て泣いてるんです……。自分をアクマにした者への愛情で……。
"何故強く生きてくれなかったのだ"という思いで……。それを知った時、僕はマナへの償いの為ではなくエクソシストとしてアクマを救う事を誓った」
「アクマを……救う?」
「はい。が持つ痛みは理解できます。ご両親を何度も殺すような感覚になるのも……。でも違うんです。はご両親を殺してるのではなくアクマにされた人たちを救ってるんですよ」
「私が……?」
「はい……。破壊された時、魂が浄化されるんです……。苦しみから解き放たれ、やっと自由になれる。僕にはその姿が見えるから……ツラくはない。救えたと……思えるから」

アレンくんの言葉の一つ一つが胸に沁みて、知らないうちに私の頬には涙が伝ってた。
アクマを破壊するたびに愛する者が苦しんでる錯覚に陥って、一度殺された魂を再び破壊している自分をまるで殺人者のように感じてた。
でもアレンくんのいう事が本当なら、今日まで私が破壊してきたアクマの魂は救われてたという事になる。
その事実は私の心をも救ってくれた気がした。

「……だからも苦しまないで下さい。きっと……皆が感謝してたと思います。"自由にしてくれて、ありがとう"と」
「……私……に?」
「はい」

優しい笑顔で頷いてくれるアレンくんの手を、私は強く握り返した。
今日まで何のために戦ってたのか、その答えが見えた気がして、涙が溢れては零れ落ちる。
お父さんとお母さんも私に救われてたんだろうか――――。

「ありがとう……アレンくん……。何か……心が軽くなった気がする」
「なら……良かったです」

照れ臭そうに微笑むアレンくんに心の中でもう一度ありがとう、と呟く。
アクマには気づけても魂までは見えなかったから、それを知れて本当に良かったと思った。

「あー!アレンがを泣かしてるさ〜!」
「―――ッ」
「―――わっ」

その時、突然視界にツンツン頭が入り、私の手を包んでいたアレンくんの手がパッと放れた。
いつの間に来たのか、テーブル脇に目を細めたラビの顔があり一気に現実に引き戻されていく。

「ラ、ラビっ!どどど、どうしてここが――――!」

私以上に驚いて椅子から立ち上がったアレンくんにラビは口元をピクピクさせながら「鏡見たに決まってるだろっ」と怒鳴った。

「よくもオレの寝顔にイタズラしてくれたな!何さ、"起きたら待ってるね。BYアレン"って!変な絵まで顔面いっぱいに書くなっつーの!」
「そ、それは遊び心で……っていうか、ラビだっていつも僕の顔にイタズラするじゃないですか!おあいこですよっ」
「うるへ〜!マネすんな!つーか、その前に何でと二人きりでご飯なんか食べてるんさ〜!ヌケガケすんな!モヤシ!」
「む!僕はモヤシじゃありませんよ!だいたい僕が誰とご飯を食べようが、ラビに断る義務はありませんからっ!」
「何だと〜!開き直るなんていい度胸さ〜!」
「ちょ、ちょっと二人とも!」

オデコをくっつけながら互いを威嚇する二人の間に慌てて仲裁に入った。
周りの客も二人の大声に驚いて皆がこっちを見ている。

「と、とにかく出よう!ここで怒鳴りあってたら迷惑だから」
「うぎゃ」
「ぐへ」」

私は急いで二人の首根っこを掴むと(!)支払いを済ませて店を出た。

「く、苦しいさ〜〜」
「な、何で僕まで……」

店の外に出ると、二人は首を擦りながら苦情を言って来る。……というか文句を言いたいのはこっちの方だ。

「あのね……こんなとこでケンカしないで。恥ずかしいでしょ?団服で教団の人間だってバレバレなのに」
「……だってアレンが悪いさ〜っ!」
「な、何で僕が悪いんですかっ!ラビが乱入してきたんでしょ!僕、まだデザート食べてなかったのにっ」
「知るか。起きたら変なイタズラ書きはされてるし、そんで探しに来たらと二人で何やらイチャついてるしムカツクの当たり前さ〜!」
「イ、イチャついてません!」
「手、握ってたさ」
「う……」

ジトッと目を細めるラビにアレンくんは言葉に詰まった。
見られてたのか、と私まで顔が赤くなり慌てて「違うってば」と弁解をする。

「何が違うんさ?」
「あ、あれは……そのアレンくんに色々と相談してて……励ましてもらってたって言うか……」
「相談?それはアレンじゃなきゃダメなんさ……?」

途端に悲しげな顔をするラビに言葉が詰まる。
同じような痛みを持つ者として、なら、それはやっぱりそうだろう。
でもそれを話せばラビを傷つけるよう気がした。

「えっと……ラビは寝てたみたいだし……。アレンくんとはロビーで偶然会ったの。だから――――」
「ホント?」
「う、うん」
「そ!ならいいや」

私の言葉にラビはニッコリ微笑んで嬉しそうな顔をする。その笑顔は少し眩しくて自然に私まで笑顔になった。
アレンくんも私の気持ちが分かったのか、何も言わず苦笑気味に肩を竦めた。

「そろそろ帰りましょうか。夜明けまで、まだ少しある。それまで体を休めないと」
「そうね。明日はまた任務だし帰ろっか」
「えぇ〜オレ、起きたばっかで眠くないさ〜!」
「ダ〜メ。明日寝坊したら、また神田にどやされるよ?」

そう言って笑うと、ラビは思い切り顔を顰めた。
でもすぐにニッコリ微笑むと、

が一緒に寝てくれるなら眠れる気がする♪」
「……却下。私は一人じゃないと熟睡出来ないの」
「えぇ〜〜」
「何バカなこと言ってるんですかっラビは!女性に対して失礼ですよ!」
「男同士で相部屋なんて楽しくないさ〜〜〜!」

不満げな声を出すラビをアレンくんが引きずるように連れて行く。それを後ろで眺めながらふと笑みが零れた。
さっきまであった重苦しい心の傷が少しづつ浄化されていくのを感じながら、私は改めてエクソシストになって良かったと、そう神に感謝する。
未来は決して明るくはないけど、絶望ばかりの戦いだけど、この先もこの仲間と共に。

いつ終わるか分からない戦いは、まだ始まったばかり――――










何となく、こんな関係で…(;^_^A







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メイル

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