第6夜君の瞳に魅せられる

 





綺麗だなぁ、と、こんな状況なのに彼女に見惚れていたオレは、後ろから攻撃してきたアクマを破壊して地上へと飛び降りた。
そのまま空を見上げると仲間たちが皆、無数のアクマと戦っているのが見える。
アレンも神田もレベル2程度のアクマならどれ程の数がいても余裕だろう。それに彼女がいれば一度に何体も破壊してくれる。
舞うように戦っている彼女はそれだけで綺麗だ。特に攻撃の核となっている彼女の瞳……今はアクマを前にルビーのような輝きを放っている。
彼女のイノセンスが放つ光はアクマの視覚を狂わせ――幻覚を見せたりもするらしい――そこから体内に入り込み内部破壊をする。
その光に包まれたアクマはまるで浄化されるように綺麗な灰となって風と共に飛んでいった。

「ホント、綺麗さ」

彼女の瞳に見惚れながら再びそんな言葉を呟く。そんなオレに気づいたのは仲間の中で一番の危険人物、神田ユウだった。

「オイコラ、バカ兎!!何サボってんだ!」
「はいはい。分かってるさ〜」

恐ろしい形相で目の前に飛び降りてきたユウに、オレはいつもの愛想笑いを見せる。これで大抵は上手くやり過ごせるんだ。
それはオレがブックマン継承者として生きてきた中で見つけたものだ。
エクソシストとして一緒に戦っていたとしても、オレにはオレのすべき事がある。別にそれを忘れてるわけじゃないんさ。
ただ最近はそれが少しだけ寂しく思う、なんて言ったら、きっとあのクソジジイに殴られるだろうケド。

「これで最後さ〜!」

一気にカタをつけようと自分の対アクマ武器である槌を振り回す。残っていたアクマは火判にのまれ、炎の塵となって消えた。

「やるじゃないですか、ラビ」

仲間の一人であるアレンが苦笑気味に歩いてくる。その隣には彼女がいた。
戦っている時とは違い、今は普段の瞳の色に戻っている。
光の加減によって変わる彼女の瞳は、今は夕日に反射して綺麗な琥珀色になっていた。
やっぱり綺麗さ、と心の中で呟いてしまうのは、オレが思っている以上に心の中に彼女が入り込んできている証拠かもしれない。
ジジイに忠告されるたび、胸が痛むのは、きっとのせいだ。

「サッサと終わらせて美味いメシ食いに行きたいし」
「ラビらしいね」

いつものように笑顔を作ったオレに彼女が笑う。それだけで今は心が満たされる気がした。

「オイ!終わったんだ。すぐ帰るぞ」

そこで教団一、場の空気を読めない男、ユウが仏頂面で歩いていく。それにはアレン、そしても苦笑している。

「ったく〜ユウは少し空気を読む事を覚えた方がいいさ〜!今は皆でお疲れさまって言い合うとこ――――」
「……何か言ったか?」
「……い、いいえー別に空気なんか読まなくてもいーでーす♪」(弱いぞオレ)

殺気を放ちながら睨んでくるユウに、へタレなオレは顔が引きつった。ユウは教団一、短気な男でもあると思う。

「ユウは相変わらず怖いさ〜。もそう思わね?」
「そう?私はもう慣れたよ。それに神田もきっとお腹が空いてるんじゃないかな」
「え、何で分かるんさ?」
「何となく?神田が意味なく機嫌悪い時は空腹の時か眠い時かのどっちかだから」

子供みたいだよね、とは笑うとユウを追いかけて行った。(ちょっと寂しい)

「神田、今日は何食べに行く?」
「……ソバ」
「えぇーまたソバ?昨日もソバだったじゃない。今日は違うのにしようよ」
「じゃあ天ぷら」
「同じ和食じゃないの」
「チっ。別に毎回オレに合わせる必要はないだろ。は食べたいのを食べたらいいじゃねえか」
「だって、そうすると神田は一人でご飯食べに行っちゃうでしょ。美味しくないじゃない、一人で食べたって」
「何人で食べようと美味いもんは美味い」
「そうかなぁ。私は一人だと何食べてもいまいちだけど」
「いつも一人で美味そうにケーキやらパフェやら食ってんだろ、お前は」
「それは神田が甘い物いらないって言うからじゃない。じゃあ今度ケーキバイキングとか付き合ってくれる?」
「"じゃあ"の意味が分かんねえ。何でオレがそんな甘ったるい場所につきあなくちゃいけねえんだよ。一人で行け」
「たまにはいいじゃない。神田のケチ!」
「ケチで結構だ。とっとと行くぞ」
「ちょっと待ってよ、神田」

が慌ててユウを追いかけていく。
ユウも「早くしろ」と相変わらずの口調だけど、オレ達には見せないような優しい表情でを見ていて、ちょっとだけビビった。
アレンも同じことを感じたのか、顔面蒼白(!)でオレの方を見る。

「…………ちゃんと会話になってますね」
「……こうして二人で会話してるとこ、まともに見るの初めてだから……。何だか不思議な光景さ……」

アレンと一緒に二人の後からついていきながら互いに溜息をつく。
オレとアレンはユウに冷たくあしらわれてる仲間だからか、互いの気持ちがよく分かるらしい。
……にしても。こうして二人を見ていると何となくいい雰囲気で、そこはやっぱり面白くない。

「……ユウはズルイさぁ……。を独り占めして。しかも仲良く話してるし」
「あれが仲いいというのか分かりませんけど、2人は長い間組んでますし仕方ないですよ」

オレのボヤキにアレンが苦笑する。

「そうだけど……オレには冷たいのにユウだってにはあんなに優しく接してるなんてズルイさ」
「ラビは神田と仲良くしたいんですか?じゃなくて?」
「……う」

アレンの突っ込みに一瞬、言葉が詰まる。オレはどう応えていいのか分からなかった。
教団に深く関わるな、とジジイにいつも言われてるから、心にブレーキをかけるクセがついてしまってるようだ。

「もちろんに決まってるさ〜。ただ……ユウもあんな顔も出来んだなと思ったら、ちょっと悔しくなったっつーか……」
「神田も意外とフェミニストだったって事ですかね」
「いやいや……。あれはとリナリーにだけだろ。オレ、ユウが二人以外の女と仲良く話してるとこ、見たことないさぁ」
「ですね。まあリナリーとは昔馴染みだから分かるけどとはそれほど長い付き合いじゃないのに」
「だろぉ?つかまさか……ユウはのこ――――」

「オイ!タラタラ歩いてないでサッサと来い!!」

そこへユウの怒声が飛んできた。見ればユウとはすでにホテルの前で待っている。
額に怒りマークが出まくっている神田の顔を見てこれ以上怒らせたら、と身の危険を感じたオレとアレンは慌てて走って行った。

「……チッ!」
「何だよユウ〜!追いついた瞬間、舌打ちしなくてもいいさ〜!」
「うるせえ。男同士でベチャクチャしゃべってんじゃねぇ」
「ちょっと神田……そんな言い方しなくていいでしょ?」
「…………」

に怒られたユウは口元を引きつらせつつ、そのままホテルへと入っていく。あの神田が言いかえしもせず大人しく引き下がったのは意外だ。
は慣れているのか溜息をつきながら苦笑してる。
その彼女の態度が何となくオレ達よりユウの事を理解しているような、そんな空気でますますオレは面白くない。

「ごめんね、神田も疲れてるみたい」
「……はユウのこと、何でも分かるんだ」

ついガキみたいな事を言ってしまった。アレンが後ろでクスクス笑ってる。
自分でもよく分からない複雑な感情を見透かされてるようで、少しだけ顔が赤くなった。

「何でもって……全部分かってる訳じゃないけど……どうしたの?ラビも機嫌悪い?」
「……べ、別にそんなんじゃないさ」
「そう?あ、分かった!お腹空いてるからだ」
「ち、違うさ〜!いや確かに空いてるけどオレは別に――――」

そこまで言って言葉を切った。不思議そうな顔で見上げてくるの綺麗な瞳にかすかにオレが映っている。
この綺麗な目で見つめられたらオレの誤魔化してる色んな事を見抜かれてしまいそうだ。

「ラビ?」
「………えと……」
「ラビはやっぱりお腹が空いてるようですよ。早く何か食べに行きましょう」

そこにアレンが助け舟を出してくれた。年下のクセに、こいつは何で他人の気持ちが分かるんだ?
まあ、だからこそもアレンに相談とかしてるんだろうけど……(ちょっと悔しい)

「じゃあ……今夜は和食でもいい?神田ってば、どうしてもソバ食べに行くってきかなくて……。放っておくと一人で行っちゃうし」
「ええ、いいですよ。僕は何でも好きですから」

アレンは大人の対応でニッコリ微笑んでいる。(本当は神田と食事なんて嫌なくせに)
は嬉しそうな顔で「ありがとう、アレンくん」なんて言っていて。
そうなるとオレも頷くしかなくなってしまった。ま、オレも和食は好きだしいいんだけどさ。
それに彼女に可愛い笑顔で頼まれると嫌なんて言えないさ。

「仕方ない。今夜はユウに付き合ってやるさ〜♪」

こっちを見たに笑顔でそう答える。その瞬間、オレの頬にぺタリと冷たく光るものがあてられギョっとした。

「……誰がお前に付き合ってくれと頼んだ?」
「……ユ、ユウ!!」

いつの間に戻ってきてたのか、後ろには怖い顔をしたユウが立っている。
そしてオレの頬に突きつけられていたのはユウの対アクマ武器でもある六幻だった。(!)

「だからその名前で呼ぶな!!刻むぞ!」
「うわっ危ね!!マジ切れるさ〜!」

六幻を振り回すユウから逃げるようにの後ろに隠れる。
男として情けない気がしないでもないが、本気で怒っているユウを相手にするよりマシだ、この際。

「ちょっと神田!こんなホテル前で刀を振り回さないの!」
「……うるせえ。こいつが悪い」
「何で?いい名前じゃない。私も今度から神田のこと"ユウ"って呼ぼうかな――――」


ダメだ!」「ダメさ〜!」「ダメですよ!!


の言葉に素早く反応したのはユウだけじゃなくオレとアレンも加わって見事に声が重なった。
その勢いにも驚いて目を丸くしている。

「な、何でダメなの……?っていうか、皆してそんなにムキにならなくても……」

オレ達の反応に、は戸惑ったように首を傾げている。
まあユウが反対するのは当然だけど、オレやアレンがダメだという理由が彼女には分からないんだろう。
……いやオレだってアレンまでが反対する理由は分からないし……って、まさかアレンお前。

「……下らないことを言うからだ。いいからサッサと部屋に戻って用意しろ」

ユウはそれだけ言うと再びホテルの中へと入っていく。は僅かに目を細めて「ホント短気なんだから」と苦笑した。

「で……ラビとアレンくんは何でダメって言ったの?あんなの軽い冗談なのに」
「えっ?あ、いや……」
「た、ただ何となく…」

不意に振り返った彼女にドキっとしたのはオレだけじゃなかった。アレンも少しだけ慌てたように笑って誤魔化している。
オレとしては何となくがユウの事を「ユウ」って呼ぶのが、そう何となく嫌だっただけで。だって名前で呼ぶと本当に親しい感じだしさ。
アレンも……まあ似たような理由なのかもしれない。アレンもに対しては、どことなく優しい。いやアレンは皆に優しいけど。
にはどこか人を惹きつけるような魅力があるんだと思う。たまにドジなところもあるけど綺麗で、強くて、そして儚い……。
時には姉のような、時には妹のような、そんな存在。

はオレ達の憧れだから、他の男の名前なんか呼んで欲しくないんさ」

おどけて言ったオレの言葉に彼女は「何よそれ」と、照れ臭そうに笑った。その笑顔もやっぱり眩しくて。
琥珀色の瞳がティエドール元帥が言うように、本当にアートだ、と思った。

ただ"家族"と呼ぶには、綺麗過ぎるんだ――――。















久しぶりに描きました(;^_^A
ちょっとモヤモヤしてるラビ(笑)ブックマンは恋もできなさそうですね;;;
これは前回の続きっぽく書いてますが、次はどーんと飛ぶと思います。








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メイル

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