第11夜神を奪われた日

 






夜明けと共に、街からアクマの気配が消えた。
その後に残ったのは破壊された家々と大勢の、遺体――――。


「デイシャとのゴーレムだ・・・・」

一晩中待ち続けても姿を見せなかった仲間を見つけ、ノイズ・マリは声を震わせた。
神田は無言のまま俯き、生き残ったファインダー達の方へ歩いて行く。

「・・・・はまだ見つからないのか」
「は、はい……!すみません!私が目を離したばかりに――――」
「別にお前のせいじゃねえよ。何の連絡もせず勝手に動いたの責任だ」

神田は項垂れるラグに背を向け溜息をついた。

「で、でもさんは怪我をしてました!そこを襲われたのかも――――」
「いいからお前らは自分の仕事をしろ!」

そう怒鳴った後で神田は思い切り唇を噛みしめた。――――分かっている、これは八つ当たりだ、とでも言うように。
何故あの時を一人にしたのか。あの場でじっとしていられるような性格じゃない事は良く知っていたはずなのに。
神田の背中がそう言っているように見えて、ラグも涙を堪えて立ち上がった。

「デイシャさんを・・・・下ろします」
「・・・・ああ。後は頼んだ」

神田は気持ちを落ち着かせるよう軽く深呼吸をすると、マリと一緒に歩き出した。自分たちの師匠でもあるティエドール元帥と合流するために――――。









クロス元帥を探し求め広州に来たアレン達は、教団のサポーターだというアニタから信じられない話を聞いていた。

「今・・・・なんて・・・・?」

アレンの問いにアニタは小さな息を吐き、もう一度同じ内容を口にした。

「八日前・・・・旅立たれたクロス様を乗せた船が海上にて撃沈された、と申したのです」
「確証はおありか?」

そこでブックマンが訪ねると、アニタは無言のまま頷いた。

「救援信号を受けた他の船が救助に向かいました。ですが船も人もどこにも見当たらず、そこには不気味な残骸と毒の海が広がっていたそうです」
「・・・・師匠は・・・・どこへ向かったんですか。沈んだ船の行き先はどこだったんですか?――――僕の師匠はそんなことで沈みませんよ」

強い視線でアニタを真っ直ぐに見据えるアレンは、きっぱりと告げた。
その言葉を聞いて、アニタの頬に涙が伝う。

「・・・・そう、思う?」
「はい」

アニタは教団のサポーターであり、クロス元帥の愛人だという話だった。彼女もまた、クロスの身を案じていたんだろう。
それでもアレンの一言に笑顔を見せると、

「マホジャ。わたくしの船を出しておくれ」
「アニタさん……」
「わたくしは母の代より教団のサポーターとして陰ながらお力添えしてまいりました。クロス様を追われるのでしたら我らがご案内しましょう」
「ホントですか?」
「行き先は日本――――江戸で御座います」












「これは・・・・」

教団に戻って来た棺の数を目の当たりにし、コムイは呆然と立ち尽くした。
リーバー班長は軽く俯きながら、コムイの隣へと歩いてくる。

「ティエドール部隊、デイシャ・バリー。ソカロ部隊、カザーナ・リド。チャーカー・ラボン。
クラウド部隊、ティナ・スパーク、グエン・フレール。ソル・ガレン。――以上6名のエクソシストが死亡。ファインダーを含め、合計148名の死亡を確認しました」

ホールのあちこちからすすり泣く声が聞こえてくる。仲間の死を悲しむ者、現実を見せつけられ、絶望で立ちあがれない者。
そんな仲間の姿にコムイは言葉を失った。その時、後ろに集まっている科学班の間からは嘆く声が聞こえて来た。

「たった数日でこれだけ殺られたのか・・・・」
「エクソシスト6名って何だよ・・・・!全然ダメじゃないか。神の使徒じゃないのかよ、おい・・・・」
「死んでんじゃねーよ・・・・」
「エクソシストが敵わなきゃどうしようもないじゃないか・・・・。オレ達どうなっちまうんだよ・・・・」
「伯爵に殺されるのか・・・・」

コムイの後ろにいた科学班から、そんな会話が洩れ聞こえてくる。
それまで黙って聞いていたリーバーは強く拳を握りしめ、後ろの仲間を睨みつけた。

「黙れよ・・・・。命懸けて帰って来た仲間の前で泣き言ほざいてんじゃねえよ」
「――――っ」

コムイとリーバーの周りにいたジョニーやタップも同じ気持ちで彼らを睨む。
しかしコムイだけはゆっくりと帽子をとり、それを胸にあてた。

「お帰り。頑張ってくれて、ありがとう」

沢山の棺を前に、コムイはそっと頭を下げ、彼らに感謝の意を示す。
そんな室長の姿を見て、リーバーの頬を、涙が伝っていった――――。



全員の遺体を確認した後、コムイとリーバーは仕事に戻るため、科学班室へと向かった。

「デイシャ・バリーもイエーガー元帥と同じ死因だって?」
「はい。また体には傷がないのに臓器の一つがまるごと取り除かれていました」

(やはり・・・・ノアか?)

リーバーの説明に、コムイはその可能性を感じていた。
あんな死因はこれまで確認されたことがない。となれば今回、"ハート"を狙っている伯爵が送り込んだノア一族と見て間違いないだろう。

「ティエドール部隊とソカロ部隊は4人編成だったけど、他4人の生存確認は?」
「ティエドール部隊の神田とマリの確認はとれています。……が、。そしてソカロ部隊のスーマン・ダーク、まだ消息不明状態です」
「そうか・・・・。引き続き現地にいるファインダーに捜索を続行するよう伝えてくれ」
「分かりました」

リーバーはそこで小さく息を吐く。それに気づいたコムイは彼の肩へそっと手を乗せた。

「つらいだろうけど・・・・無事に見つかる事を祈ろう」
「・・・・はい」

コムイの気遣いを感じ、リーバーはかすかに微笑んだ。コムイは自分の気持ちに気づいていると理解したのだ。

「・・・・コムイ室長」

そこへファインダーの数名が歩いて来た。全員が怪我をし、体中に包帯を巻いている。

「どうした?」
「あの・・・・隊長の遺体を故郷にいる家族の元へ還しては頂けないでしょうか・・・・」
「君は・・・・?」
「46番隊の隊員です。ルーマニアでの探査中、アクマの攻撃を受けました。隊長は・・・・私を庇った為に死にました・・・・!
故郷に私と同じ年頃の息子がいると・・・・。お願いです・・・・隊長の遺体を――――」

その話を聞きながら、コムイは静かに口を開いた。

「彼らは全てここで火葬して葬る。それが教団の掟だ。例外は認めない」
「――――っ」
「遺族に連絡することも許さない。教団に属した者の情報は全て教団で処理する」
「そんな無慈悲な・・・・!私たちは世界の為に戦ってるのに――――」
「君は死んだ仲間がアクマにならないと言い切れるかい?死んだ隊長を見て、その息子が父を求めないと言い切れるかい?」
「それは・・・・」
「彼等には世界の為に消えてもらう」

コムイはそう告げると、足早に自分の部屋へと歩いて行く。後ろから泣き崩れる声が聞こえても、聞こえないふりをしながら。

「感傷に浸るな・・・・。考えるんだ・・・・。勝つことだけを――――」

そう呟くコムイの声は、かすかに震えていた。













「うん・・・・船の準備は整ったけど、もう少し待ってみてもいい?皆にも話してみるから・・・・何か分かったらすぐ連絡して」
『分かったよ・・・・。で、船に電話はないのか?』
「うん・・・・。たぶん出航したら通信は出来ないと思う。アニタさんの店に電話機があって良かった」

リナリーはそう言いながら唇を噛みしめた。

『リナリー。室長に代わんなくていいのか?』
「ダメだよ。それじゃリーバー班長にかけた意味ないじゃない」
『ま、確かに。よく室長が仮眠中だって分かったな。千里眼でも持ってんのか?』
「ふふ・・・・。何となくだよ。――――たくさん・・・・死んだんだね・・・・。みんな無理してない?ちゃんと休んでる?」
『ダイジョブ、ダイジョブ。インテリって意外と根性あるんよ。――――お前たちの隊は・・・・みんな無事で帰って来てくれな・・・・』
「・・・・うん。うん・・・・」

その言葉の重みに、リナリーの瞳から涙が零れ落ちる。戦争だと分かっていたはずでも、仲間の死はいつだってツラい。
リーバーとの電話を切った後、リナリーはアレンの元へと歩き出した。
たった今リーバーから聞いた話を伝えるのは、アレン達にとってもきつい内容だ。

(夕べもあんなことを聞かされたあとだもんね・・・・)

リナリーはふと、夕べのアニタの話を思い出した。

「――――江戸、かあ・・・・。どんなところなんだろう」

あれから安全なルートを探してもらい、もう、あと少しでこの船は日本へと向かって出航する。
これまで世界中を飛び回っていたリナリーでさえ、日本という国は初めて行く場所だった。

「アレンくん?」

甲板に出て見渡すと、アレンが海を眺めているのが見えてリナリーは声をかけた。

「あ、リナリー。リーバー班長は元気でしたか?」
「うん・・・・それが――――」
「どうしました?またコムイ室長に邪魔されたとか」

明るく笑うアレンの顔を見るとリナリーは何も言えなくなった。それでも伝えなければいけないのだ。
今この瞬間も、世界のどこかで仲間達が傷ついているのかもしれない。そう思うと胸が張り裂けそうになる。
リナリーは思い切って、先ほどリーバーから聞いた話をアレンに伝えた。



「・・・・え?行方不明?」

エクソシストの死を冷静に聞いていたアレンも、の行方が分からないと告げられた時は僅かに動揺を見せた。

「嘘、ですよね・・・・。だって僕、昨日彼女と電話で――――」
「その後に・・・・いなくなったらしいの」
「神田は・・・・!神田達は何をしてたんですか!一緒にいたんでしょう?!」
「落ち着いて、アレンくん!神田とマリは街を襲撃してきたアクマと戦ってたのよ・・・・!でもその間に彼女が――――」
「で、でも遺体が見つかってないんですよね?なら生きてる可能性は十分にある・・・・・!」
「うん。だから現地のファインダーに捜索させてるってリーバー班長が・・・・。けど・・・・」
「けど・・・・?」
のゴーレムが見つかったのはデイシャの遺体のそばだったらしいの・・・・。だから半々の確立かもって・・・・」

リナリーの話を聞いてアレンは強く拳を握りしめた。そして地平線に上り始めた太陽を見つめる。

"また元気なエレナに会えるのを楽しみにしてます――――"

昨日の電話で最後にそう告げた自分の言葉を思い出し、胸の奥に痛みが走る。でも今は自分の告げた言葉を信じたくなった。

「半々の確立、ですか。でも・・・・その場にの遺体はなかった。――――生きている可能性に懸けましょう」
「アレンくん・・・・」

優しく微笑むアレンの瞳は、仲間の生存を信じて強い光を放っている。
その言葉にリナリーの心も救われたような気がした。――――が、その時背後でガチャンっという何かが割れる音がして2人は振り返った。

「何さ・・・・の遺体とか・・・・生きてる可能性って・・・・」
「ラビ・・・・!」

いつの間に来たのか。2人の背後には青い顔をしたラビが立っていて。その足元にはコーヒーカップが二つ粉々に割れて落ちていた。

「どういう、事さ。今の話詳しく聞かせろよ・・・・っ!」
「ちょっとラビ!落ち着いて!」

アレンに掴みかかるラビに驚き、リナリーが慌てて止めに入る。
こうなる事は予め予想がついていたからこそ、リナリーは先にアレンに話したのだ。
しかしアレンは動揺しているラビの手をそっと離し、軽く息を吐いた。

が・・・・昨夜バルセロナで行方不明になったそうです」
「行方・・・・不明?けどユウ達が一緒にいたはず――――」
「神田、それに途中で合流したマリとデイシャはアクマの襲撃を受け、戦闘していたようです。でもは怪我をしたと夕べ話しましたよね」
「あ、ああ・・・・。バルセロナに向かう途中でユウを庇ってアクマの銃弾に撃たれたって――――」
「その怪我のせいでは一人で休んでいたそうです。けど何らかの理由で彼女はそこを抜け出した・・・・」
「抜け出したって、何で・・・・!」
「実はデイシャというエクソシストが何者かに殺されたようなんです・・・・」
「な・・・・デイシャが・・・・っ?」

デイシャの事はラビも知っている。合同任務の時に一度だけ一緒になったことがあった。

「嘘、だろ・・・・?デイシャは・・・・あいつは強かった!その辺のアクマなんかに殺されるような奴じゃ――――」
「アクマじゃ、ないかもしれません」
「え?」
「彼の死因はイエーガー元帥と同じだったようなんです。なので・・・・」
「ノア、か・・・・?」
「はい。そしてそのデイシャの遺体の近くにのゴーレムが飛んでいた。はもしかしたら仲間の危険を察知して助けに行き、そこで――――」
「ノアと遭遇したって事か・・・・?」
「ハッキリ断言は出来ませんが恐らく・・・・」
「そんな・・・・何で・・・・」
「神田達も一晩中アクマ達との交戦してたようで、のゴーレムを見つけて初めて彼女の姿が消えたことに気づいたみたいです」
「・・・・マジかよ・・・・」

ラビは力なく呟くと、その場にしゃがみこんだ。大丈夫だろうと思っていたのだ。神田達もついている。それに彼女は強い。
そう信じていたからこそ、危険な戦いであっても、この戦争が終わればまた笑顔で会えると信じていた。なのに――――。

「まだ・・・・行方が分からないそうです。現地にいるファインダーが捜索中との事です。なので僕らも出航を少し遅らせて――――」

と、その時、ラビが勢いよく立ち上がり、突然歩き出した。

「ちょ、ラビ!どこ行くんです?!」
「バルセロナに決まってるさ!オレもを探しに――――」
「バ、バカ言わないで下さい!!」

そのまま船を降りようとするラビを見て、アレンは慌てて追いかけた。

「離せ、アレン!!が危ない目にあってるかもしれない時に――――」
「気持ちはわかります!でも僕たちは任務中ですよ!」

歩いて行こうとするラビのコートを必死に掴む。そこにリナリーも加勢して2人でラビを引き留めた。

「ダメだよ、ラビ!私たちはクロス元帥を探しに日本に行かなくちゃいけないのよ?!」
「はーなーせー!日本に行ってる場合じゃないさ!オレはのところに――――」

とラビが叫んだ瞬間。頭上からひゅぅ〜っと何かが落ちてくる気配がしてラビは顔を上げた。


ドゴッ


「ふがっっ」

上を見上げた瞬間、ラビの顔面にブックマンが落ちて来た(!)


「な・・・・何しやがる、じじい――――!」


ガゴンッ


「いだっ!」


鼻をさすり怒鳴ろうとした時、更にパンチがラビの顎にヒットした。

「てめ、じじいっ!」
「バカもん!!!何をガキみたいなことを言っとるっ!!!」
「う・・・・っ」

普段以上に目を吊り上げ激怒するブックマンの迫力に、ラビは言葉を詰まらせ、関係のないアレンやリナリーまで首をすぼめた。

嬢が行方不明という話は聞いた。しかし任務を放り出してお前が駆け付けたところであの子がそれを喜ぶと思うのか?!」
「――――っ」
「そんなだから嬢に軽くあしらわれるんじゃ、お前はっ!」
「・・・・ぐっ!そ、そこまで言うことねえだろ、このパンダ!!」
「黙れ!」
「うがっ!」

更にもう一発、顔面にパンチを食らったラビはよろよろとその場にへたり込んだ。
そんなラビの首をブックマンが強引に引き寄せる。

<冷静になれ!このバカもんが・・・・!いかなる時も傍観者であれと教えたはずだ・・・・>

「―――――っ」

声を潜めて外国語で囁くブックマンの言葉に、ラビはハッと息を呑んだ。

<お前はブックマンの継承者なのだぞ。記録の為に教団側こちらがわにいるという事を忘れるな>

それは子供の頃から言われ続けた言葉。だからこそ重要な意味を持つことも知っている。
ラビは深い息を吐くと、「分かったよ、じじい・・・・」と言ってゆっくりと立ち上がった。
アレンとリナリーは心配そうに二人を見ていて、ラビはいつものように笑顔を見せる。

「わりぃ、アレン、リナリー。オレ、ちょっと頭冷やしてくるわ」
「ラビ・・・・」

ラビはそのまま船首の方に歩いて行く。その時、

「ラビ・・・・!はきっと無事です!きっと生きてますから!!教団からの連絡を待ちましょう!」

背中に投げかけられたアレンのその言葉に、ラビは軽く手を上げる。こんな時だからこそ、アレンのその優しさがやけに胸に沁みる気がした。

「傍観者でいるのって、こんなきつかったっけ・・・・」

地平線にゆっくりと顔を出し始めた太陽を眺めながら、ラビは溜息をついた。
感情に流されるな。ただ目の前で起きていることを見て記録しろ。そんな生活には慣れていたはずなのに――――。

(居心地が良すぎるんさ、教団ここは・・・・。だから捨てたはずの心が揺れるんさ・・・・)

ここ一年、ブックマンに幾度となく忠告されるのも、自分が予想以上に今の生活を楽しんでいるからだ、とラビは理解していた。
教団の仲間たちとふざけては笑いあい、たまには他愛もない事でケンカもする。
可愛い女の子を追いかけてはちょっかいをかけて、冷たくあしらわれたら嘆いて見せる。そんな"自分"をラビは長いこと演じていた。
の時も同じだった。いつものように声をかけ、追いかけては逃げられる。そんな関係を楽しんでいただけ。
なのに――――ここ一年は本当に恋をしているような、そんな錯覚に陥っていた。

(バカだよな、オレ。たとえ誰かを本気で好きになったって、オレはいつか自分の居場所へ戻らなきゃいけないってのに)

思わず失笑が漏れる。でも、それでも。今は仲間を心配する、ただのエクソシストでいたかった。

・・・・絶対に・・・・無事でいろよ」

誰にも聞こえないよう小さく呟いた時、潮風がラビの髪を浚っていった――――。














ここは、どこ?どうして私はここに―――――。


「・・・・っていうかさぁ。情報聞いたんだしもう用済みじゃん。何で生かしておくのさ、ティッキー」
「うるせえな。いいだろ?別に」
「うわー。私が前、アレンにちょっかい出した時はアレコレ文句言ってたクセに自分も同じじゃん」
「そういうんじゃねえよ。それに彼女とはエクソシストって分かる前に知り合ってたっつーか。だからちょっとな」
「ふーん。ま、どうでもいいけど。私の扉、使わせてあげるんだから、きちんと仕事してきなよー?千年公も待ちくたびれてんだから」
「分かってるよ。ロードのおかげで彼女から情報も盗めたし。ターゲットおびき出す餌にもなりそうだからな」
「でもアレンは結構やるよぉ?ティッキーも油断してたらボコボコにされちゃうかもねえ♪」
「・・・・お前、それ少し期待してんだろ」
「まぁねー」


(アレン・・・?ターゲット?)

少しづつ意識が戻る中、朦朧とした頭でそんな会話を聞いていた。
何の話をしているのかも誰の事を話しているのかも、よく分からない。
私は今、どこにいるんだろう?そんな事を漠然と考えていた。
暗い場所に蝋燭の明かりがゆらゆら揺れて、それがやけに瞳に沁みた。視界は相変わらず深い緑色のまま――――。


「あれ?意識戻った?」

「・・・・・・」


不意に誰かが私の顔を覗き込む。それが男だというのは声で分かった。でも誰なのかは分からない。思考が全く働かない。

「あーダメか。まだ効いてるみたいだな。――――おい、ロード!戻る前に彼女を元に戻してくれよ。これじゃ話も出来ないし」
「いいけど〜。もう聞きたい情報はないの?」
「ああ。アレン・ウォーカーの行き先は聞いたし十分だ」
「了〜解」

そんなやり取りが遠くで聞こえる。でも次の瞬間、頭の奥がバチンと弾け、少しづつ視界と頭がハッキリしてきた。
まるで夢から覚めたような、不意に鮮明な映像が瞳に映ったようなそんな感覚を覚え、何度か瞬きをすると目の前の人物を私の頭が認識する。
あの夜、この男と相対した事を、今ハッキリと思い出した。

「・・・・ティキッ!!」
「お、今度こそ気がついたみたいだな」

ティキはそう言いながら煙草に火をつけるとニッコリ微笑む。その笑顔を見て、私は全ての記憶が戻った。
月明かりの中、佇むロングハットの男。ノア。黒い蝶、そして、仲間の死。目の前の男は私の敵だ―――――!

「あなたが……ノアだったなんてっ!!」
「おっと――――」
「くっ・・・・」

ティキを殴ろうと動かした手を軽くかわされ手首を掴まれる。
その瞬間、腕に激痛が走りその痛みに耐えきれず、私は座らされていた椅子から落ちた。
薄暗い部屋を見渡せば、蝋燭の明かりの中に沢山の人形が飾られている。まるで子供部屋のようだ。

「・・・つっ・・・」
「ダメだよ、無理しちゃ。君は今、怪我してんだからさ」
「・・・・うるさいっっ!どうしてデイシャを・・・・彼を殺したのっ!」

目の前にしゃがむティキの胸倉を掴み、その体を壁に強く押し付ける。
ティキは痛みに顔をしかめながらも、抵抗もせず溜息をついて肩を竦めた。

「どうしてって・・・・敵なんだから殺すでしょ、普通」
「――――っ!!」

誰かに対して、こんなにも強い殺意を感じたのは私にとって2人目だ。父母を殺した千年伯爵。そして大切な仲間を殺したノア――――!



「――――なら、あなたも殺してやるわっ!!」



一気に力を放出しイノセンスを発動しようとした。その瞬間―――――何かが視界に飛び込んで来た。




グシュッ




「・・・・・っあぁぁぁっ!!」

「っ?!!」


凄い速さで飛んできた"何か"が私の両目を貫き、激痛が走る。ボタボタと血が滴る感触に私はその場に崩れ落ちるように倒れた。

「何してんだ、ロード!!」
「だ〜ってぇ〜。その女、今ティッキーを殺そうとしたんだもーん」
「だからって――――おい、!大丈夫か?」
「・・・・・・離して・・・・っ!!!」

ティキの声と一緒に聞こえてくる幼い声が誰なのか、考える余裕なんて微塵もなかった。
痛みと痺れと色んなものが私の体中を這い回る。自分の瞳に何かが刺さっているおぞましい感触から逃れたくて、私はソレに手を触れた。

「おい、やめろ――――」
「・・・・ぅあああぁぁっっ」

一気にソレを引き抜けば激痛で意識が飛びそうになった。手の中にあるものは固く鋭い。力なく離すと、コトンっという小さな音がした。

「何してんだ!目を見せろよ・・・・っ」
「私に・・・・触らないで・・・・っっ」

痛みと出血で意識が朦朧としながら、私は触れて来た手を思い切り振りはらう。呼吸が浅く速くなるのが自分でも分かる。
痛い、苦しい。もう、何も見えない。一気に体中の力が抜けていく。私のイノセンスがどうなったのかさえ、分からない―――――。

「・・・・もう発動出来ないねェ」
「―――――っ?」

クスクスと笑う、幼い声。それまで姿を見せなかった声の主は私のすぐそばにいるようだった。

「イノセンスを壊されたらエクソシストじゃなくなるんでしょぉ?ティッキーのそばにいるなら、これくらいのリスクは払ってもらわなくちゃ」
「おい、ロード!それより彼女を治療させろ!」
「あらら〜。殆ど意識ないみたいだね〜」
「出血が酷い!どっかその辺で扉を作れよっ」
「でもまだ江戸までつなげてねェし」
「いいよ、その辺で!早くしろっ」
「ちぇっ。エクソシスト助けたこと千年公にバレて怒られてもしんないからね〜。利用価値がなくなったらちゃんと殺しておいた方がいいよ、ティッキー♡」

意識が飛びそうになりながら、そんな会話を聞いていた。

(千年公・・・・利用価値?何を言ってるの・・・・?)

よく分からない。もう、何も考えられない。指先ひとつ、動かせない。

「ほら、この扉から行きなよ」
「これ、どこに繋がってんだ?」
「行ってみてのお楽しみ〜♪」
「はあ?ったく!どういう教育してんだ、シェリルの奴」

ふわりと体を持ち上げられる感覚がした。でも今の私には抵抗する力もない。
この先、どこに行くのか。イノセンスを破壊された私は、何を拠り所にして生きて行けばいいのか。何も見えない――――。


「ティッキー。その女ァ、・・・・・だから気を付けてねー♡」


彼女、、が何を言ったのかすら聞き取れない。その声を最後に、私の意識はぷつりと途切れた―――――。













「――――元帥」

聞き覚えのある声で呼び止められ、それまで風景画を描いていたティエドールはゆっくりと振り向いた。

「あれ!久しぶりーん☆」

やっと探し当てたと思えば、その緊張感のない第一声に、神田は小さく舌打ちをした。
マリは「まあまあ」と神田を宥めながら師匠であるティエドールに挨拶をする。
そして今日までにあった出来事をティエドールに全て報告した。



「・・・・そうか・・・・。デイシャが死んでしまったか・・・・グスっ」

愛弟子の死を聞いた瞬間、ティエドールは大粒の涙を流しだし、神田は内心ギョっとしていた。

「しかもまで行方不明だなんて・・・・ひっく・・・・。あの2人は仲良しだったからなあ・・・・」
「あ、あの・・・・師匠・・・・」
「そういえば・・・・デイシャはよくチャリティ・ベルで私の眼鏡を割って悪戯してた・・・・。とってもいい子だったのになあ・・・・グス・・・・」
「えっと・・・・師匠・・・・」
も可愛い子だった・・・・。酔って人様の家の庭に突っ込むドジなところもあったけど――――」
「・・・・は死んだと決まってねェ」
「コ、コラ、神田・・・・!」

小さく突っ込む神田を止めて、マリは溜息をつくとティエドールの前に歩いて行った。
そろそろ本題に入らせてもらわなければ話は終わらない。

「デイシャの遺体は昨日、本部へ輸送されたそうです」
「チャリティ・ベルも奪われていました。ティエドール元帥、一度我々と共にご帰還を」

神田もそこはきちんと丁寧に伝える。しかしティエドールは鼻をすすると、

「・・・・デイシャの故郷は確かボドルムだったかな?」
「え?あ、はい」

マリが首を傾げながらも頷くと、ティエドールは徐にペンを取りスケッチブックに何かを描き始めた。

「美しいエーゲ海の町だ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

せっせと絵を描き続けるティエドールを見て、神田の額に一つ怒りマークが浮かび上がる。

「元帥。敵はあんたと、あんたの所持してるイノセンスを狙っているんです」

そうハッキリ告げてもティエドールは絵を描き続けた。

「私が見た記憶の映像だから少し違うかもしれないが・・・・」

そこで手を止めると、描き終えた絵をスケッチブックから切り取った。

「デイシャ・・・・絵で申し訳ないがキミの故郷を送ってやろう。どうか、心安らかに」

ティエドールは涙ぐみながらもマッチを出すと、描き上げた絵に火をつけた。そして一言、

「私は帰らん。今は戦争中なんだ。元帥の任務を全うする。それに――――と、新しいエクソシストを探さないと」
「・・・・師匠」
「神が私達を見捨てなければ、は無事に見つかる。そして、また新しい使徒を送って下さるだろう」

ティエドールは静かな声で告げると、空に舞う灰を優しい目で見上げた。

「・・・・そう言うと思ったぜ」
「ああ。師匠らしい」

神田は溜息をつき、マリは微笑む。2人はティエドールの前に立つと、

「お供します。ティエドール元帥」

その言葉に振り向き、ティエドールは涙に濡れた顔でかすかに微笑んだ。















大きな街の中心部。ロードの空間から出た時、幸運な事に目の前には大きな大学病院があった。
更にラッキーだったのはその病院が千年公の息のかかった病院だったということだ。



「――――どうですか?彼女」

あれから半月。一日一度の診察を終えて病室を出て来た院長にオレは訊ねた。
外科医でもあるこの院長は僅かに表情を曇らせると、溜息交じりで首を振る。

「今日も何も応えてはくれなかったよ。目の傷や体の傷の治療は上手く行ったし意識も戻ってるとは思うんだが・・・・」
「そうですか・・・・。なら、あとどれくらいで動けるようになるんですか?」
「肩と足の傷はだいぶ良くなってきたから数日ってところだろうな。しかし眼科の執刀医が言うには目の傷は分からんそうだ。手術は成功したが見えるようになるかどうかと・・・・」
「・・・・分かりました。あとはオレがついてますよ」
「そうかい?じゃあ・・・・・」

と歩き出した院長は、ふと立ち止まった。

「ところで・・・・千年公はお元気かな?しばらくアジアの方に来ていないようだが」
「ええ、とても元気ですよ。今度近くに来たら寄るように伝えておきます。いつもの寄付、、を持って、ね」
「・・・・宜しく頼むよ、ティキ・ミック卿」

黒い笑みを浮かべ、医師がゆっくりと廊下を歩いて行く。その後ろ姿に舌を出し、ついでに中指も立てておいた。

(ふん・・・・タヌキめ)

ここの院長や他の医者も全て人間だが表の顔の千年公と付き合いがあり、オレも時々パーティなどで顔を合わせる。
普段なら絶対に訊ねたくはない相手だが、余計な詮索をされたくないこんな時は多少便利だ。

?」

小さくノックをしてから声をかける。案の定返事はない。
溜息ひとつ吐きながらドアをそっと開ければ、ベッドの上に横たわる彼女の姿が見えた。目には痛々しいほどに包帯が巻かれている。

「起きてんの?それとも・・・・話すのが嫌なだけ?」
「・・・・・・・」

オレの問いかけに彼女は何も応えない。ここに連れて来て二日後、意識が戻った彼女は全てを諦めたような顔をしていた――――。
ベッドの脇に腰をかけ、彼女の頬にそっと触れる。それでも彼女は何も反応しない。

「まだ・・・・怒ってんの?仲間殺したこと」
「・・・・・・・」
「それとも・・・・イノセンスを壊されたことに絶望してるとか?」

何も応えようとしない彼女にオレは独り言のように言葉を紡ぐ。

「仕方ないじゃん?オレはノアではエクソシストだったんだし・・・・。あのデイシャってエクソシストには偶然会ってさ。
最初はオレも見逃そうとしたんだぜ?オレのリストに奴の名前はなかったしね。でもあいつが攻撃してきたからさ・・・・」

そう言いながら、何で自分が言い訳めいたことを言っているのか分からなかった。
自分で言った通り、オレはノアではエクソシスト。敵同士なんだ。殺しあうのは当然のことだ。なのに――――。


「・・・・・言い訳しないで」

「―――――っ」


不意に声が聞こえて、オレはハッと顔を上げた。ベッドに横たわる彼女の頬に、涙が一粒こぼれ落ちて。
何故かそれを見た時、胸の奥のずっと奥が何かに掴まれたみたいに痛くなった。
今のオレはノアとしてではなく、人間として接しているからだろうか。久しぶりにの声が聞けて、ホッとしているオレがいた。

「やっと・・・・話してくれた」

彼女の頬にそっと指を伸ばし、涙を掬う。

「泣くなよ・・・・。傷に染みる」

そう声をかけても、はオレの指を払うように顔を背けて、その綺麗な形の唇を血が滲むほどに噛みしめた。

――――」
「私を・・・・どうする気?」
「一緒に・・・・連れてく」
「敵の私をどこへ連れてくの?」
「・・・・もう敵じゃないだろ。は・・・・エクソシストじゃなくなったんだ」
「―――――っ」
「その"瞳"を失えば・・・・教団には戻れないだろ?」
「・・・・やめて!!」

は肩を震わせながらオレに背を向けた。声を殺して泣いている。女に泣かれるのは慣れてるけど、何だろう。の泣き顔は見たくない。
それは"白いオレ、、、、"が感じているものなのか。良く分からないけれど、ふとそう思った。
オレを殺そうとするくらい強いクセに、こうして弱い顔も見せる。それは嫌になるくらい人間らしい姿だ。

「泣いても・・・・嫌だって言っても連れてくぜ?オレの仕事はまだ終わってない」
「・・・・仕事・・・・?」
「ああ。オレの仕事はある人物、、、、の関係者を殺すこと。オレは相手の顔を知らないしはその人物をおびき寄せる人質みたいなもん、かな」
「・・・・仲間を殺す手伝いなんかごめんだわ」
「なら仕方ない。またロードの力で強制的に連れていく。そうすればの意志に関係なくオレの操り人形になる。それでもいいのか?」
「・・・・あなたは・・・・最低よ」

は声を震わせてオレを見た。今はもう、何も映らないその瞳がオレの心の奥を射抜く。

「・・・・どっちにしろ一人じゃどうしようもないだろ?目が見えないんだし。それにオレと来れば元仲間、、、を助けることが出来るかもよ?」
「―――――っ」
「助けたいんだろ?」

敢えて意地悪を言う。こう言えば仲間思いの彼女はきっとオレについてくるだろう。
狙われている仲間を放っておけるような人間じゃないことは、あの夜に証明してくれた。
仲間の危険を察知し、怪我を押してまで、駆けつけてきたあの夜に。

「誰を・・・・殺す気?」

案の定はやっと聞く耳を持ってくれたらしい。オレはカードを取り出すと、リスト檻の囚人が次のターゲットの名前を告げた。


アレン・ウォーカァ〜〜〜〜〜で御座いまぁ〜〜〜す


その名を聞いたは、驚いたように跳ね起きた。

「こいつはセル・ロロン。リストを管理してる囚人で――――」
「・・・・どうして!どうしてアレンくんなのっ?」
「それは言えない。ま、でもやっと来る気になったようだな」

先ほどとはオーラが違う。きっと少しだけ生きる希望を取り戻したのかもしれない。仲間を守る、というその強い意志で。

(やっぱエクソシストだっただけはある、か・・・・)

は無意識のうちにエクソシストとしての強さを取り戻しつつあるようだ。その瞳にはもう、イノセンスはないというのに。

「殺させない・・・・絶対に」
「いいねェ。そうこなくちゃ面白くない」

オレはそう言って笑うと、病室の窓を開けた。下に見える街並みは雑多で、広州独特の賑やかさがある。

の体力が戻ったらすぐに出発するからさ」
「・・・・ここは中国?」
「お♪良く分かったねえ」
「さっきの医者の英語・・・・中国人独特のなまりがあったもの」
「さすが。まあターゲットがこの辺から日本に出発するってが教えてくれたし、ロードの扉でワープってとこ」
「・・・・っ?教えた・・・・?私が?」
「そ。操られてるときにね」
「・・・・やっぱり最低だね、ティキは」
「あらら。相当嫌われたみたいね、オレ。せっかく仲良くなれると思ったのに」

苦笑しながら煙草に火をつける。窓際に腰をかけると気持ちのいい風が吹いてきた。

「ここ特別室だしはゆっくり休んで体力戻せよ。ここ来てから何も食ってないだろ。今、何か頼もうか?」
「・・・・いらない。それより出てって。あなたがいたら眠れない」
「・・・・はあ。分かったよ。ま、口を利いてくれるようになっただけ良しとするかな」

窓際から軽く飛ぶと、ベッドの方へ歩いて行く。は相変わらずそっぽを向いたままだ。

「じゃあ・・・・何かあったら呼んで。オレ、廊下にいるからさ」
「・・・・死んでも呼ばない」

素っ気ない言葉が返って来て、オレは思わず苦笑した。

「はいはい。んじゃ、いい夢を――――」

そのまま身を屈め、の頭に口づける。の肩がビクリと跳ねて慌てたようにオレを見た。

「・・・・な・・・・やめてっ」
「やっとこっち向いた」
「・・・・ふざけないで!」

彼女は頬を赤くしてオレを殴ろうと手を振り上げた。その手をあっさり拘束すれば、更に離せと怒鳴られる。
前のように笑顔を見せてはくれなくなったが、こっちの方がずっと彼女らしい。

「少しは元気が出たみたいだな」
「・・・・っ?」
「でもあまり怒るのは体に良くないしオレは退散するよ。――――安心して寝ればいい」

そう言って彼女の頭にポンと手を置くと、オレは言われた通り病室を出た。

(あの分だと2〜3日で出発できそうだな。まあ・・・・食事をちゃんとしてくれればの話だけど)

傷を癒し、食事を摂れば少しは心の方も回復するだろう。
少なくとも仲間が狙われていると知って生きる気力を取り戻したようだしヤケになる事はないとみていい。
廊下のベンチに腰をかけ、横にある灰皿に煙草を押し潰した。
欧米では禁煙が多い病院も、ここ中国ではそれほどうるさくはない。愛煙家のオレにとったら嬉しい場所だ。

「さて、と・・・・」

2本目の煙草に火をつけ、壁にもたれ掛かると思い切り煙を吐き出した。

「どうせ着いて来てんだろ?出て来いよ」

そう言った瞬間、ポンっという音がして目の前に想像通りの奴が姿を現した。

レロロ〜。何でレロが来てるって分かったレロ〜?

このおかしなしゃべり方をする、先っちょにカボチャの頭がついた傘型のゴーレムは千年公の剣を管理している奴だ。
こいつもロード同様、異空間を移動できる力を持っている。

「どーせロードに連れ出されてオレの様子を見て来いって言われたんだろ?それくらい予想つくって」

ロートたまは日本で方舟のダウンロードに入るから来れないけどティッキーの心配してるレロ!何でエクソシストなんか助けるレロ!

「彼女はもうエクソシストじゃねーよ。ロードが彼女のイノセンスを壊したんだから」

でもまだ分からないって言ってたレロ。あの女エクソシストは危険って言ってたレロ

「ああ、確か別れ際にそんなこと言ってたな。でも何が危険なんだ?はもう力を使えない――――」

違うレロ!ロートたまはあの女エクソシストがノアを感知してたことを言ってるレロ

「・・・・感知?何だよそれ」

あの女エクソシストのイノセンスは瞳に宿っていたレロ。その目がノアを感知してたって言ってたレロ

「感知って・・・・ウソだろ?前に会った時は特に何も――――」

と、そこまで言ってふと思い出した。最初にに会った夜の事を。

あの日、オレはたまたまアクマが暴れてる街の近くにいた。そして様子を見に行った時、彼女と遭遇した。
最初はエクソシストかと思って殺す気満々で近づいたのに、あの時のは具合の悪そうな普通の弱弱しい女の子に見えた。
教団のマークが入ったコートも着てなかったしオレはてっきり生き残った街の住人かと思ったんだ。(あの時点で何で気付かなかったと多少後悔したが)
あの時の彼女の瞳は綺麗なグリーンだった。夜の闇にも映えるその瞳は凄く綺麗で、だから印象にも残ってた。
でも次に会った時の彼女の瞳はオレが覚えていた色とだいぶ異なっていて驚いたのを覚えている。
あの時にイノセンスの適合者かもしれない、と僅かに疑った。
その嫌な予感は見事に当たって、適合者どころかエクソシストだった事実にぶっちゃければ少しガッカリもした。
そしてあの色の変化はただ単にイノセンスのせいだと、そう思っていたんだ。

どうやら覚えがあるみたいレロ

「彼女の瞳はノアを感知すると色が変わる。そう言いたいのか?」

そうレロ!ノアたまを感知できる人間なんて危険レロ。ノアたまにとってどんな災いをもたらすか分からないレロ

「でもそれが本当だとして、彼女の目はイノセンスが破壊されて角膜も傷ついてる。もう一生見えなくなるかもしれないって医者が――――」

分からないレロ!イノセンスは何をするか分からないって伯爵たまも言ってるレロ!油断できないからロートたまも心配してるレロ〜

「なるほど、ね。それで見張り役としてお前を送って来たのか」

全くロードも余計なことを。そう思いながら病室の方に視線を向ける。

(ノアを感知できる力・・・・。そんなイノセンス聞いたことねえぞ?でも、だからか。ロードが彼女の目を潰したのは・・・・)

でも確かに。あの時、彼女がオレを殺そうとしたあの瞬間。彼女の瞳はグリーンに染まっていた。
そして彼女の瞳が輝きを増し、あの光を見た時。オレは一瞬、そう時間にすれば数秒もないほどの一瞬、自分が死ぬような感覚に陥った。
ロードが彼女を攻撃したせいで、それはほんの僅かなものだったが、でも確かにオレは"死"を感じたんだ。
もしあの時の力がノアを破壊するものだったら・・・・オレはに殺されていたのかもしれない。

「あっぶねえ・・・・。ロードのおかげで命拾いしたってわけね、オレ」

分かったら早くあの女エクソシストを殺すレロ!一緒に行動するなんて危険レロ

「うるせえなァ。今のにオレを殺す力はねえよ。オレのことはほっとけ」

むっ。怪しいレロ〜!いつもならエクソシストなんかアッサリ殺してるレロ。なのに何であの女だけ殺さないで連れていくレロ!

何で?そんなこと聞かれてもオレにだって分からない。
ただ、彼女はオレが人間の時に出会い、知り合いになった。もし彼女がエクソシストじゃなければ、もっと仲良くなれたかもしれない。
オレの気まぐれで貸したジャケットなんか持ち歩いてくれてて、素直にいい子だって、そう思ったんだ――――。


「何かオレ・・・・あの夜からずっと、切ないんだけど」


そう呟いたオレを、レロは不思議そうな顔で見ていた。












ティキが出て行った後、少しだけ体を動かしベッドに起き上った。
肩や足の痛みはもう殆どない。ただ瞳の奥は今でも少し熱を持ってジクジクとした痛みが続いている。

「泣いちゃったから染みたのかな・・・・」

そっと触れると包帯の感触。これをとる時がほんの少し怖かった。

(私はもう・・・・教団には帰れない)

あの時、得体のしれない"何か"が瞳を貫いた時。痛みと同時にイノセンスが失われていくような力の消失を感じた。
私のイノセンスは眼球の核にあると前にヘブラスカが教えてくれた事を思い出す。
どれほど深く刺さったのかは分からないけれど、あの時点でイノセンスは破壊されたとみていいだろう。
現に今もイノセンスの力を全く感じない。ただ痛みがあるだけだ。


"は・・・・エクソシストじゃなくなったんだ"


ティキのあの言葉がショックだった。もう、エクソシストじゃない。
神田やアレンくん、ラビやリナリー達とは一緒に戦えない。もう、みんなの仲間じゃ、ない。
そう実感すればするほど胸が痛くなって。気が狂いそうなくらいに孤独を感じた。
意識が戻って、医者から「見えるようになるのかはハッキリ分からない」と言われた時、もうどうでもいいとさえ思った。
やっと見つけた自分の居場所。それさえ奪われて、失明するかもしれないという現実に、ただ絶望したのだ。
力も失い、目の見えない女なんて教団にとってお荷物でしかない。足手まといになるだけだ。

でも――――今の私にできることを見つけた。
敵のそばにいるこの時間は決して無駄なんかじゃない。
今までその存在をハッキリとは解明できていなかったノア一族。
その手中にある私が今、仲間の為にできることがあるとしたら彼らの情報をどうにかして伝えることだ。
伯爵やノアの狙いを探って情報を教団側に報告できれば、この戦いの役に立つかもしれない。

(ティキはアレンくんを狙ってると言ってた・・・・。もしかしたらティキがアレンくんに接触する時、私も会えるかもしれない)

"ある人物の関係者"というのは良く分からなかったけど、伯爵が狙っているのは"ハート"の可能性がある元帥だけじゃない。
それが分かっただけでも何かの役には立つだろう。

(絶対に殺させない・・・・。もう誰も・・・・)

デイシャの事を思い涙が溢れた。救えなかったという思いと、それまでの思い出が胸を痛くさせる。
目の前でデイシャを殺されたあの時の痛みは決して忘れない。

何度も、デイシャと一緒にアクマと戦った。
一緒にお酒を飲んだりもした。
酔って騒いでは師匠の眼鏡を壊して、時々2人で怒られた。
落ち込んでいる時、デイシャが私をいっぱい笑わせてくれたこと、忘れないよ。

ごめんね、助けてあげられなくて。絶対に仇は討つから、だから――――どうか安らかに。













ヒロイン誘拐。
何気に心配性で苦労の絶えないレロが好きです(笑)






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メイル

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