✿先輩×後輩✿

僕は禁欲をしようと思う。
そう宣言をした僕に、パンダくんと狗巻くんは「ハア?」みたいな顔をした。こっちは真剣に悩んでるというのに。

「禁欲って…何でだよ。そんなもんする必要性あんのか」
「しゃけしゃけ」
「動物は欲に素直に行動するもんだぜ、憂太」(キリッ)

パンダの交尾と同じに考えられても困るんだけど。人間には理性ってものがあるんだから、我慢できるとこは我慢しないといけない。
そう応えると、二人は互いに顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。

「理性が効かないからに手を出したクセにー」
「しゃけー」
「…あは……はははは」

そこを突っ込まれるとぐうの音も出ない。二人の言ってることは何一つ間違ってないからだ。
ちゃんと付き合うことになってから、嫌われたくない一心で結構我慢できてた方だったのに、彼女から「キスしないのはわたしのことが好きじゃないから」だと可愛いお怒りを受けたら、もうダメだった。
ちゃんの方がキスをして欲しがってるなんて知ってしまえば、それまで張りつめていた理性という名の糸がぷっつり切れて、あとはもう何か自分でも抑制できないくらい止まらなくなったのは予定外だ。
キスだけのはずが、あまりに可愛い反応をされて、僕の雄の部分を曝け出す羽目になってしまった。
僕ってこんなにエロかったのかってビビるくらい、自分のことが信じられなくなった。
現にそれ以来、部屋でデートする時は毎回のようにちゃんに手を出してしまう体たらくぶり。
恥ずかしそうに顔を赤らめて「憂太先輩、大好き」とか、「ぎゅってして」…なんて言われたら、あまりに可愛すぎて、毎回むり!ってなるし、こんなの我慢出来る男いる?って思う。

でも、いつか手を出し過ぎて、そのうち「憂太先輩のエッチ!嫌い!」なんて振られるんじゃないかと地味に心配になってきた。だからこその禁欲を試みようとしてるのに、パンダくんも狗巻くんも「むりむり」と最初から決めつけてくる。

「だって憂太、のこと大好きじゃん。大好きな子と二人きりになれば、そりゃどんな男だって獣になるだろ。なあ?棘」
「しゃけ~」
「い、いや、人を獣扱いしないでよ…ってか狗巻くんもパンダくんも顔がエロい…」
「エロいのは憂太、オマエだ」
「しゃけしゃけ!」
「う…!」

二人から耳の痛いツッコミを入れられ、あげく「とにかく今日のお部屋デートで我慢できたなら、憂太が本気だって認めてやるよ」なんて言われて送り出された。
本当は今日、ちゃんと一緒に水族館へ行く予定だったけど、あいにくの豪雨で中止。僕の部屋でいつものように映画を観ることになったからだ。
せっかく禁欲のためにわざわざ水族館へ行くことにしたはずが、結局部屋デートになったことで、僕は少し落ち着かない気分だった。

「憂太先輩、何観たい?やっぱりホラー?」
「え?あーうん…でもちゃん、怖いの苦手でしょ」
「わたしは憂太先輩が隣にいてくれるから怖いのでも平気だもん」
「………(いや、可愛すぎ!)」

僕の隣に座ってぎゅっと腕を絡めてくるちゃんは、めちゃくちゃ控えめに言ったとしても、死ぬほど可愛い。
…ただ一つ問題が。
僕の腕にむにゅって柔らかいものが押しつけられて、早速腰の辺りがずんっと重たくなったのは――マズい。

「あ、飲み物とってくるね」
「うん。ありがとう、憂太先輩」

さり気なくちゃんの腕を外すことに成功して、僕は冷蔵庫から彼女の好きなバヤリースのマンゴージュースを出してグラスに注いだ。
でもそれを持って彼女の方へ戻った時、ちゃんが何故かヘアゴムを出して髪を縛り始めたのを見てドキッとする。それは禁欲しようとしてる僕にはちょっと刺激の強いポニーテールだったから。

「え、髪縛るの?」
「え?あ…うん。今日雨でしょ?わたしの髪、雨降りだとうねっちゃうの。だから…え、変かな」
「まさか。すっっごく可愛いよ」
「え」

ちょっと力みすぎだろってくらい真剣に褒めると、彼女はその白い頬をポッと赤く染めて見上げてくる。その可愛さといったら、一気に心臓が破壊されそうなくらいの威力。
ちゃんに言った言葉に一ミリの嘘もなく。長い髪をポニーテールにしたら「死ぬほど可愛い」に「超絶可愛い」がプラスされてる。
雨の日はうねるから縛ったと言ってたけど、ちゃんのポニテ姿を見れるなら毎日雨でもいいかも――。

「じゃあ…憂太先輩が可愛いって言ってくれるなら、毎日ポニテにしちゃおうかなぁ…」
「………」
「そしたら毎日可愛いって言ってもらえるでしょ?――ひゃ!ゆ、憂太先輩…?」

あまりに可愛いすぎて我慢が効かなかった。思い切り彼女を抱きしめて、その白い首筋にちゅっと口付けると、ちゃんが「ン、」と控え目に可愛い声を漏らす。

パンダくん、狗巻くん、ごめん。禁欲は――明日からにします。

(だって白い項が、僕を見上げる潤んだ瞳が、可愛い声が、全部僕の理性を押し流すから!)





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