嫉妬の情は理屈ではなく②
※モブとの軽い性的描写あります。苦手な方は観覧をご遠慮下さい。
嘲笑、侮辱、侮蔑、そして――畏怖。
この世に生まれ落ちた時から今日まで、俺に向けられる感情はそんな呪いだけ。
俺から言わせれば、周りの奴らこそが化け物だった。
名前もない己が周りと同じヒトなのかも分からないまま、目障りな者は殺して喰った。ただ、生きるために。
そんな俺に民は勝手に名前を与えた。
神話に登場する、鬼神の名を。
「…ん…宿儺さまぁ…んあ!」
新しい生贄として尋ねて来たのは、そんな奴らの中でも稀にみる阿呆だった。
嘲笑、侮辱、侮蔑、そして、畏怖。俺に向けられる感情はそんな呪いだけ。
だが、時々は畏敬の感情を向けてくるやつがいる。
先日、新嘗祭で会った万や、この女のように。
「ほれ、どうした?腰が引けておるぞ。もっと俺を悦ばせてみろ」
「…んあぁぁっ」
それまで以上に腰を強く押し付ければ、藤原から来たという女がその身をのけ反らせて奇声をあげる。この女の自慢であろう美しい顔も、涙と涎で見る影もない。子宮口を抉るように突き上げれば、女は更に声を上げ、涙を流して俺の名を呼んだ。
「けひっ…見た目以上に体力があると見える。さすが末端でも藤原の娘だな。そら、もっとソコを締めて俺に極致感を与えてみろ。ほら、頑張れ、頑張れ」
遠慮なく暴虐武人の術を尽くして腰を振れば、女はひぃひぃ啼きながらも俺の下で悶え続けた。艶やかな着物を乱し、ただ俺に抉られるだけの人形になり果てる。
「今日は気分がいい。こんな誘いに乗ることは滅多にないのだぞ?」
何度も意識を飛ばしている女の耳元で囁く。
俺が飽きるまでは、啼かせておいてやる、と――。

お屋敷が見えてきたところで、宿儺さまの気配を色濃く感じて、わたくしの心臓が一際大きく早鐘を打ち出した。
「…に、二の姫さま…!本当に行くのですか?あの化け物のところへ!今ならまだ引き返せますゆえ――」
「黙れ!わたくしはあのお方に会いたくて、わざわざ山を登ってまでここへ来たのじゃ。引き返すなど以ての外。あの方が怖いのなら、そなた達だけで山を下りるとよい」
「そそそ、そんな…!」
従者どもは情けない顔で右往左往。この期に及んでまだわたくしの覚悟を疑っておるとは、甚だ滑稽で笑う気も起こらない。
「わたくしは宿儺さまのお傍にいきたいのだと何べん言えば分かるのじゃ?」
「し、しかし両面宿儺といえば、その姿を見て生きて戻った者はおりませぬ!何も二の姫さまが生贄になることは御座いません!そのようなことは下の者に――」
「黙れと申したであろう!わたくしとて贄になる気はない。ここへは宿儺さまと添い遂げたくて参ったのじゃ」
その一言で従者どもは皆が青ざめた。わたくしの気が触れたとでも思っておるのだろう。
数年前から都を騒がせている鬼神と添い遂げるなど愚かな望みだと。しかし、そんな恐ろしい宿儺さまとて、男。
美しく若い女はお嫌いではないはずじゃ。生贄として若い娘が選ばれてるというのも、それを裏付けてる気がしてならない。
民は宿儺さまが若い娘を喰らっていると思うておるようじゃが、わたくしは違うと考えた。
喰らわれておるのは醜い小娘だけで、それなりに美を持つおなごは宿儺さまとの夜伽の相手として選ばれる。
そんな噂話を耳にした時、わたくしは宿儺さまに選ばれたいと強く願った。
都でも群を抜いて美しいわたくしなら、必ずや宿儺さまのお目に止まるに違いない。
わたくしは強い男が好きじゃ。大勢の者が平伏すほどの、圧倒的な強さを持つ男が。
そのような男はこの世で宿儺さましかおらぬ。我が藤原の直属征伐部隊でさえ尻込みするほどの圧倒的強者である、宿儺さましか。
何より、あの凛々しいお顔立ちと、逞しい肉体。皆が恐れる異形ですら美しく、猛々しい立ち姿。
数か月前の新嘗祭で、あの姿を一目見た時から、わたくしは宿儺さまに恋焦がれておるのだ。
あの万とかいう下衆な女に奪われてなるものか。五虚将を退けたというだけで、本家に迎え入れられた下品な術師など、宿儺さまには相応しくない。
藤原の血を引くわたくしの方が相応しいに決まっておる。
そんな強い想いを口にすれば、従者たちは皆が顔を青ざめさせた。
「そ、そのような懸想など…旦那様はお許しになるはずが御座いませぬ!」
「だからこそ父上には黙って出て来たのじゃ。勝手について来たのはうぬらであろう!全く小うるさい従者どもめ。良いから宿儺さまの側近へ、藤原の姫が参ったと伝えてこい」
「わ、わたくしどもがですか?」
「勝手について来たのだから、それくらいの役に立てと申しておるのじゃ。のろま」
従者たちは一様に顔を見合わせ、そのあと慌ててお屋敷の方へ走って行く。ほんに気の利かん者共じゃ。
前の贄から一年は過ぎておるらしいし、そろそろ新しい女をご所望してるはず――。
そう思いながら見ていると、案の定、宿儺さまの側近はわたくしを屋敷の中へと招き入れて下さった。
宿儺さまと会わせてもらえば、もうこちらのもの。確実にわたくしを選んで下さるだろう。
「初めまして、宿儺さま。わたくし、藤原から参りました、知子と申します――」

先ほど訪れた女が自ら名乗るのを聞き、私は深い息を吐いた。この時代、名を公にする者は殆どおらぬ。
死後に必要となる諱は本人の人格、魂を現わす言葉。むやみに表に出すものではない。だから普段は通称としての仮名や官名を使う。この女の場合は二の姫。それを堂々名乗るとは、厚かましいにもほどがある。
がここへ来た際も平然と名乗っていたが、あれは己の死を受け入れているという意志を伝えるためだろう。
女性が名を明かすこと。これすなわち、相手に身を捧げることと同義である。
は宿儺さまに名乗ることで、自分の覚悟を伝えたに過ぎない。
しかし、この女は違う。一目見てそれほどの覚悟がないのは分かった。
女の浅はかで愚かな言動の理由――それは宿儺さまへの安易な懸想に過ぎない。
何の覚悟もなく宿儺さまの前に立つなど、命を捨てるようなものだ。
宿儺さまがこの退屈しのぎの戯れに飽きれば、藤原の姫とやらは私が捌いて氷室行きとなるはず。
準備だけはしておかねば――。
と思ったその時、案の定、襖の向こうから「裏梅!」と私を呼ぶ、宿儺さまの声が聞こえてきた。

「どうか、わたくしを宿儺さまのお傍に置いて下さいませ。あなたと添い遂げとう御座います。朝も、昼も、そして夜も――」
阿呆丸出しで俺を誘ってきたこの生贄を、この場で殺すことは造作もないが、どこか自慢げな女の顔をぐちゃぐちゃにしてやりたくなった。の帰りを待つだけの退屈しのぎくらいにはなるだろう。これもまた一興。
いつもの気まぐれ戯れで、その場に女を押し倒す。胸元へ跨ると、その小さな口へ剥き出しにした陰茎を突き入れた。
「んぐ…ぅ」
「どうした?俺に抱かれたいのならしっかり丁寧に奉仕して勃たせてみろ」
「…ぁ、ぐ…っ」
ぐいぐいと腰を押し付ければ、女は嗚咽を漏らしながら涙を流し始めた。
こんな扱いをされると思わなかったのだろう。女は酷く驚いた顔で俺を見上げていたが、どうにか口で俺のを扱きだした。そのうち硬くなったそれを慣らしてもいない場所へ埋め込めば、女は少しすると当然のようによがりだす。酷い扱いをされてるというのに何とも浅ましい女だと呆れたが、退屈しのぎに溜まったものを吐き出すには丁度いい。
女など、喰うか挿れるか、その時の気分で変わる。そんな噂を聞きつけ、のこのこ現れたこの痴れ者は、俺と添い遂げたいとぬかした。何とも見苦しい女だ。
藤原の家系に生まれ、それなりに裕福に育ってきたのは、磨かれた艶のある肌を見ただけで分かる。ここへ来た当時のとは大違いだ。その差を感じれば感じるほど、よく分からない苛立ちが体のどこかからこみ上げてくる。
この女とはどこが違う?家柄も、力も、そして美貌も。さほど変わらんというのに、何故これほどまでに差があるのか俺には分からん。
一つだけ言えるのは、ガリガリの貧弱で、色気もクソもないあのに、この女は到底及ばない、ということだけだ。
「…ぁあぁっん…す…くなさま…あっ」
世間から化け物と呼ばれている俺に貫かれ、浅ましく涎を垂らして快楽を貪る女を見下ろしていると、こやつの方がよほど家畜に見えてくるのだから滑稽だ。
蝶よ花よと育てられ、誰からも愛され大事にされてきたこの女にとっては、俺の方がよっぽど珍味なのだろう。
添い遂げたいと言うならば、屍となって俺の血肉になればいい。
「裏梅!鞣す準備はしておけよ」
襖の向こうにいる裏梅の気配を感じて声をかければ、すぐに「承知いたしました」との返事。しかし、ひと呼吸おいたあと「そろそろ、も戻って来る頃ですので――ほどほどに」と返ってきた。
「…けひっ裏梅のやつ…機嫌が悪そうだ」
俺がこの痴れ者をすぐに殺さず、こうして戯れているのが気に入らないのだろう。しかし、そうか。
「が出かけてから…もうそんなに経つのだな」
「…ひぃ…ぁあ…ん、っあ」
「ならサッサとオマエを逝かせてやらねばいかんなぁ?女」
「…んん…ぁああっ…す…すく…な、さまぁ…んっ」
「…ふん、よがり過ぎて俺の声も届かんか。自慢の顏は見る影もない。見るに堪えん有様だというのに」
胎内を壊す勢いで腰を打ち付けても、女は連続で絶頂を迎えているせいか、頭が鈍くなってるようだった。このまま首を切り落とすか――。
そう考えていた時、廊下の方から大きな声と、どたどた賑やかな足音が響いてきた。裏梅は絶対にこのような無粋な足音など立てない。となれば、あとはもう一人しか――。
「…す、宿儺さまー!!」」
「―――!!」
がらりと襖を開け放ったのは、髪を振り乱し、顏を真っ赤にしている、使いから戻ったばかりの、だった。

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