契りを結ぶ
※性的描写あります。苦手な方、18歳未満の方は観覧をご遠慮下さい。
ずるずると女の亡骸を引きずって裏庭へと出た私は、一息ついて天を仰いだ。気づけばとっぷりと日が暮れていたらしい。茜色だった西空は、深い憂愁を秘めた色に染まっていく。あと小一時間ほどで完全に帳が下りるのだろう。鴉のカァカァと鳴く声が少しずつ遠ざかっていく。今宵も寒くなりそうだ。
「さて。雪が舞う前に始めるとするか」
裏口に設置している灯し油で点火した灯篭と、炎が揺らめく手燭の明かりだけを頼りに亡骸をいつもの解体場へと置き、手燭を近くの岩へ固定した。
辺りが明るくなったことで、改めて宿儺さまに後始末を頼まれたものを見下ろし、溜息を一つ吐く。てっきり辱めたあとは食材にでもするのかと準備をしていたが、宿儺さまは気が変わられたようだ。それも、が初めて駄々をこねたという理由で。
私もまさかがあそこまで怒り、宿儺さまへ食って掛かるなど思ってもいなかった。
いや、帰宅早々に贄のことを聞き、驚きと怒りの表情で宿儺さまの元へ駆けて行った時。少なくとも私が止めようと思えば、の足止めは出来た。でも、そうしなかった。
宿儺さまの戯れている場へが乱入した時、宿儺さまはどうされるのかと気になったからだ。
無礼を働いたをその場で殺すのか、否か――。
私は宿儺さまはに手をかけないだろうと考えていたが、その予想は見事に的中したようだ。
その理由も何となく分かるのだが、ただ、この贄を始末しろと言われたのは予想外だった。
宿儺さまが「始末しろ」と仰られた場合、それは言葉の通り、食材にするのではなく、ただ死体を跡形もなく消せという意味だ。
末端でも藤原の血を引く者の肉は美味だと思うのだが、それを全て始末しろとは…よほどの我がままが意外だったのだろう。
その我がままを、すんなりと聞き入れてしまうほどに。
あれほど他人からの指図を嫌う宿儺さまが、の言うことを聞き入れたのは正直、驚いたが、でもそれはきっと私と同じ理由だろうと感じた。
あの死にたがりの娘が、初めて我を通したのだから、それはそれは新鮮で――
「――いや。単純に…嬉しかったのかもしれないな」
私がそうであるように、きっと宿儺さまも。
興が乗っていたのか、それともまた別の感情か。寝所へを攫ったのがいい証拠だ。その行動の意味くらい、私にも理解できる。
私が傍にいても平気で眠り、宿儺さまに委縮することもなく自然に振る舞う。そんな人間はそうそういない。
ほんの些細なことだけれど、私と宿儺さまにとっては、その些細なことがとても貴重なのだと、と暮らしていくうちに気づいた。
孤独な運命の中で、私が宿儺さまに救われたように、宿儺さまが私を慈しんでくれたように、もまた私と宿儺さまを孤独という孤立から救ってくれた存在なのだと、やっと認めることが出来た気がする。
もう、あの娘が贄としての役割を全うする日は訪れないだろう。今宵、その運命は別の方向へと動き出す。
「やれやれ…あんな大飯喰らいの小娘が、宿儺さまの最愛になるとは…まさに青天の霹靂だな」
苦笑交じりで呟いて、すでに帳の下りた夜空を見上げれば、ちらちらと粉雪が舞い降りてきた。

何が起きている?と混乱した頭の中で、そんな言葉がぐるぐると回っている。いきなり口を吸われるとは思わず、びしっと体が固まった。宿儺さまはわたしを喰らうと言ったのに、これはどういった行動なのだろうと驚いたのは、先ず肉体を一気に切り刻まれると思っていたからだ。
ここへ来る前、宿儺さまの情報はある程度聞かされていたし、彼の術式が斬撃だということも知っていた。だから覚悟もしていたのに、痛みも泣ければ出血すらしない。当たり前だ。唇同士が触れただけなのだから。
他人と唇をくっつけることなど初めての経験で、それが妙な心地良さを覚えたのも驚いた。
その柔らかい唇を一度放すと、宿儺さまは固まったわたしを苦笑交じりで見下ろした。
「やはり口吸いも初めてか。何をされたか分かっていない、という顔だな」
「…へ?」
「まあ、それはそれで新鮮だ。可愛げもある」
「あ、あの…それはどういう…」
と言いかけた時、宿儺さまの手が殆ど崩れかかっているわたしの髪に触れ、留めている元結を外した。はらり、と上で結んでいた長い髪が垂れる。驚いて視線を上げると、宿儺さまは意外なほど柔らかい眼差しでわたしを見つめ、「オマエの髪は心地いいな」と口元に笑みを浮かべた。この状況での今の言葉や表情の意味を理解できないのに、何故か頬がじわりと熱くなる。
「…ぁっ」
再び布団の上へ倒される。今度こそ切り刻まれるのかと期待したのに、宿儺さまはわたしの喉元を切り裂くわけでもなく、何故か帯締めや帯揚げを全て取り払い、着物の合わせ目を強引に開いた。今は襦袢など着ておらず、肌が直に晒される。そこでやっと気づいた。
「す、すみません…」
「ん?」
「食べるのに着物を身に着けていては邪魔になりますよね…自分で脱ぎますから」
「………」
腰に未だ巻き付いている帯を急いで外していくと、宿儺さまは一瞬、沈黙して、そのあと小さく吹き出したように見えた。
「あ、あの…」
「…まあいい。脱がす楽しみもあるが、今はそれほど余裕もない」
「え…?んぅ」
帯を解き切る前に、宿儺さまは何やら独り言ちながら、わたしの頬を軽く撫で、再びちゅぅっと唇に吸いついてきた。やはり口から食べるおつもりなんだろうか、と驚きながらもジっとしていると、宿儺さまの柔らかい舌で唇を舐められる。そのぞくり、とする感触は初めてで何故か項の辺りがぶわっと粟立つのが分かった。
「…んンっ」
そのうち口内へ宿儺さまの舌が入り込み、ぞわぞわとくすぐったい感覚が広がる。他人に口の中を舐められるのも初めてで、驚きで身を硬くしたけれど、これが味見中なのだとしたら邪魔をするわけにもいかず、わたしはジっとその何とも言えない疼きを堪えていた。
なのに宿儺さまの舌がわたしのと絡みつき、くちゅ、と粘膜の交わる音と同時に、ちゅるちゅると軽く吸われると勝手におかしな声が漏れてしまう。呼吸も少しずつ乱れ、息がしづらいせいか、苦しさを覚えた。
「…鼻から息を吸え」
「…ん、は、鼻…?ひゃぁ」
僅かに唇を解放され、その隙に浅く呼吸を繰り返していると、宿儺さまの手が乱れた着物の中へ入りこみ、今度は脇腹を撫でていく。そこが何ともくすぐったくて、またおかしな声を上げてしまった。
「くくく…色気もクソもないが…その声はなかなかいい。もっと聞かせろ」
「…ふ…ぁ…っあっ」
脇腹をすりすりと撫でる手とは別の手が、胸の膨らみへと動く。じっくり揉まれる感触で、何故か体の熱が上がっていく気がした。何故、あちこち触るのか分からないけれど、宿儺さまに触られると全身がむずむずと疼いてくる。これも喰らう前の準備なんだろうか、とされるがままに身を任せていたら、再び唇を塞がれて宿儺さまの舌が、ぬるりとわたしの唇をこじ開けるように侵入した。
「…ん…ふ…」
口の中を掻きまわされ、ぴちゃぴちゃと水音まで聞こえてくると、何故かわたしの息もまた乱れていく。口の中など美味しいのかしら、と不思議に思うけれど、一向に痛みはこない。喰われるのはもっとこう、痛みを伴うものだと思っていただけに、少しだけ拍子抜けして緊張がほぐれてきた。すると鼻腔を優しい香りが刺激してくることに今更ながらに気づく。
宿儺さまの着物に焚き染められた香は裏梅さまの仕事らしい。気品のあるこの香りは宿儺さまにとてもお似合いで、嗅ぐとわたしまで幸せな気持ちになるくらいに優しい香りだから大好きだった。
ふわふわとした心地いい感覚に浸りながら、このまま死ねるなら何て幸せなんだろう、なんて思っていたら、体のどこかに刺激を与えられ、塞がれていた口の奥から「ひぁ」という、またしても出したことのない声が洩れてしまった。
宿儺さまの指が乳首に触れた感触がある。そこを執拗に弄られるたび、おかしな声は漏れ続け、更に息も上がっていく。何故そんな場所を弄るのかも分からず、勝手に涙がじわりと目尻を濡らしていった。
「……口吸いは慣れてきたみたいだな」
ゆっくりと唇が離れ、ふと宿儺さまが呟いた。
「口…す…い?」
とは何ですか、と聞く間もなく、宿儺さまの唇が今度は首筋へ吸い付き、「ふあ…っ」と声が跳ねる。くすぐったさが広がり、たまらず体を捩ったものの、すぐに元の位置に戻されてしまった。あげく宿儺さまの唇が少しずつ下がっていき、指で弄られていた場所へ吸い付いたのが分かった。くにくにと何度も捏ねられ、すっかり硬くなった乳首にぬるりと舌が絡みつき、ちゅうっと強めに吸われた瞬間、びりびりとした感覚がそこから広がっていく。
「…んぁ…っあぁ、」
くすぐったいような、それでいて気持ちがいいような不思議な感覚が次から次に襲ってくる。これは喰われているのかしら、という小さな疑問が頭に過ぎっても、またすぐに新たな刺激を与えられ、何も考えられなくなっていく。そのうち腰の辺りを擦っていた宿儺さまの手のひらが、太腿の方へと下りていくのが分かった。
「…ぁあ…んっ」
乱された着物の裾から露わになっていた太腿の内側をすり、と撫でられただけなのに、ぞくぞくと肌がわななく。
「す、宿儺、さま…く…くすぐったい…です」
「…どこがだ?」
たまらず声をかければ、乳首から放した唇をぺろりと舐めながら、宿儺さまは笑んだ。そのお顔は今まで見たこともないほどに扇情的で、よく分からない感情が、胸の奥から高波のように押し寄せてくる。
「ど、どこもかしこも…です…」
「…は感度がいいのだな。愛撫すればするほど反応も良くなる」
俺が女を愉しませることなど殆どないのだぞ、と宿儺さまは意味ありげに微笑む。それがどういう意味なのかも分からないけれど、これが喰われるということなんだろうか、と朦朧としてきた頭で考えた。
「そ…そこ…は…いけませ…ん…ぁっ」
腿を撫でてた手が次第に股の付け根へ滑り、不浄ともいえる陰部へ触れようとしている。慌てて腰を捻ると、宿儺さまは不満げにわたしを見下ろした。
「何がいけない」
「す、宿儺さまがそんなところに触れるのは…いけません…そこは不浄の場所ですから…」
「そう言い聞かされてきたのか?下らん。ここが不浄というのなら、そこから生まれてくる人もまた汚れてるということなのだがな」
「…へ?で、でも…ひゃぅっ」
的を得た言葉を言われ、それに気を取られていた隙に、宿儺さまの指が恥ずかしい場所へ触れるのが分かった。人様に初めて触れられた感触は何とも言えず心地悪い。なのにその場所をゆっくり擦られると、それまで以上のくすぐったさとむず痒さが広がった。
「…ン…や…ぁ…あっ」
「いい声で啼く。ここを解さねば生娘のオマエはツラいだけだ」
「…な…なに…を…ひあっ」
用を足したあとしか刺激したことのない場所を、宿儺さまの指が何度も往復していく。何故こんなことをするのかも分からないまま、いやだいやだと腰を引いても、宿儺さまの腕にすぐ戻されてしまった。そのうち、弄られている場所がジンジンと疼きだし、体の中からとろり、と何かが溢れてきた感覚。
一瞬、粗相をしてしまったのかと焦ったけれど、いつの間にか宿儺さまの指がぬるぬるとしたものに包まれ、滑りを良くしているようだった。
「…だいぶ濡れてきたな」
「ん、あ…な、なにが…です…か…んん、そ、そこ…や、ぁああっ」
気づけばぬるついた指の腹でくすぐったい場所を剥かれた。その奥にある何かをぬるぬると擦られ、びりびりと感じたのことのない強い刺激を与えられると、全身が震えるような感覚が強くなっていく。同時に乳を吸われた時、悲鳴に近い声が出た気がする。全身がふるり、と震えて意識が遠のく気がした。一瞬、これで死ねるのかとも思ったのに、意識だけはあるようだ。気怠く動けないのは怪我でもしたのかと思ったけれど、そういうわけじゃないらしい。ただ、ひたすら呼吸が乱れ、息苦しさが続く。
「ハァ…ハァ…あ、あの、すく…なさ、ま…」
「…初めてにしては上手に気がいったな」
重たい瞼を開けて見上げると、宿儺さまはまた柔らかい眼差しでわたしを見下ろし、その大きな手で髪を撫でて下さっている。こんなことをされるのは生まれて初めてで、胸の奥が何故だか切なくなった。
「…気が…いった…とは…」
どういうことなのか、わたしは何をされたのか、今、感じた天にも昇るような快感は何だったのか。
次々に疑問が溢れてくるのに上手く言葉が出てこない。
ただ頭にあるのは、わたしはいつまで味見されるのだろうか、ということだった。

体のあちこちを弄られても、は何をされているのかすら分かっていないようだった。
本気で俺に喰われるものだと思っているのだろうが、一向にその気配がないことで困惑しているのが顔にありありと現れている。
なのに俺の与える快楽を少しずつ拾えるようになってきたのだから、なかなかに優秀な体をしているようだ。
何も知らぬ娘を騙す形で強制的にまぐあうのは俺でも初めてだが、非道だとなじられたところで、道徳など学んでもいない俺には関わりのないこと。
これまでと同様、俺の中で生まれた衝動に理由をつけるのも、意味を見出すのも下らんことだ。
欲しいと思うから欲しい。その本能だけでいい――。
未だ息の整わぬの顎を上げさせ、再び唇を吸った。薄く開いた唇から舌を突き入れ、小さな口内に溢れる唾液を啜れば、これまで味わったことのない快感が脳天を突き抜けていく。
女など快楽を貪るか、喰らう為の贄としか思えなかった俺が、こんな小娘一人に初めての感覚を与えられているのが、不思議でならなかった。
は鼻から息を吸うのは苦手なのか、苦しげな吐息を漏らしながらも、俺にされるがままに唇を吸われていた。全身の力は脱力し、俺の与える快楽へ身を委ねているようにも見える。
一度「こ、これ…喰われてますか…?不思議なくらい…い、痛くないんですけれど…」と、相変わらずらしい戯言をほざいていたが、未だに自分の置かれた状況を理解していないを見ていたら、戯言すら吐けないくらいに喘がせてやりたくなった。
細い腿を押し広げ、濡れ始めてきたその場所へ顔を埋めて吸いついてやると、は酷く驚いた声を上げた。家の者に不浄な場所だと言い聞かされていたらしく、汚いですから、やめて下さい、と途切れ途切れに訴えてくる。それを退けるように、貪るように、の濡れた花弁を吸う。
「…ひゃぁっぁあっだ…だめぇ…っ」
腰が浮いたのを手で押さえつけ、逃げられないよう固定しながら、先ほど唇を貪っていたのと同じように舌と唇を使って掻きまわせば、ぴちゃぴちゃと下品な音が室内に響く。
「…あぁっんっや…やめ…」
おそらく初めての行為であり、初めての快感を与えられているは、いっそう切ない啼き声を上げている。その姿にどうにも興奮し、花弁をしゃぶるのやめ、硬く尖らせた舌先を襞へ侵入させた。
男の知らないその女陰は淡い色をしていた。誰の手垢もついていない、穢れを知らない花。その花を手折るように散らしてやりたいという嗜虐心がじわじわと俺を侵食していく。
雛尖を剥いて吸いつき、舌で舐り、誰も暴いたことのない膣口へ指を埋めていけば、の細い体は何度となく跳ねて艶のある声を上げた。狭い隘路を開くように、じゅぷじゅぷと音を立てながら抜き差しすれば、の美しい顔は涙で濡れ、幼子のように頬をべっしょりと濡らしていく。
何をされているのかも分からぬままに喘ぐその様は、俺の何かを激しく刺激してきた。
「…んんん…っ」
「…痛いか?」
指の動きは止めず、陰液で濡れた唇を舌で舐めとりながら訪ねると、は息を乱しながらも潤んだ瞳を俺に向けた。その表情はこれまで見せたこともないほどに淫靡で、俺の欲をいっそう煽ってくる。
小さく首を振ったは「も、もう…死ね…ますか…」と、涙を流した。未だにこの行為を喰らう為の準備だとでも思っているのだろう。思わず吹きそうになった。
この小娘は、とことん俺を笑わせてくれる。
「オマエは…死なせん」
互いの鼻先がつくほどの距離で言えば、の濡れた瞳が大きく見開かれる。
「俺の傍で――オマエは生きろ」
「―――ッ」
同時に細腰を引き寄せ一気に貫けば、の体が大きく跳ねて、美しい啼き声が夜の闇に溶けて弾けた。

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