03-呪印




今年の春に卒業した五条悟はこの日、出張から戻ってきたその足で高専へと顔を出した。とりあえずの任務報告をしたあと、通常ならすぐに次の任務を頼まれたりするのだが、今日は珍しく何も入っていなかった。なので何の気なしに同級の家入硝子がいると思われる高専内の医療室へと足を向ける。特に用はなく、ただの暇つぶしと、あとは何となく同級生の顏が見たくなったのもある。

ずっと隣にいた相棒が消えて、五条の中にぽっかりと空いた埋めようのない穴。この痛みを共有できるのは、今のところ家入硝子だけだ。別に傷を舐め合うような関係でもないし、二人でいたところであの日以来、五条と家入の間で夏油の話をしたことはない。ただ普段と変わらない同級生の顔を見てると、不思議と安堵感を覚えるのは、最強となった五条悟が人並みに"痛み"を知ったからかもしれない。
それでも新たな目標が出来た今は、過去を振り返ってる暇など五条にはなかった。

「うわ」

欠伸をしつつ、通路の角を曲がった辺りで誰かとぶつかりそうになった。同時にカシャンッという音と何かが散らばるような音。
先ず目の前に現れた人物を見ると、それは今から会いに行こうとしていた家入だった。医学生らしく白衣を着ている。だが家入のその姿に、五条は未だ慣れなかった。

「おー硝子」
「五条?ったく…ちゃんと前見て歩けよ。危ないから」
「あ?お前もな。ってか何か色々散らばったけど――」
「あー!触るなっ」

足元に家入が持っていたであろう物が散乱しているのを見て、五条は屈んでそれを拾ってやろうとした。なのに急に家入が大きな声を上げる。
ただ、すでに遅かった。

「…………は?」

五条は足元に転がっていたソレを手にすると、信じられないものを見たというように、その淡い宝石のような青い目をまん丸にして、自分の手の中にあるモノを凝視した。

「…ッ返せって!」

つかさず家入が慌てた様子で五条の持っていたブツを取り返す。だがその瞬間、五条の綺麗な形の唇の端、それも片方だけ不自然に上がった。つまり、それはにたぁっと煽るようにニヤついた顔だった。

「うわーオマエ、そんなん使ってんの・・・・・・・・

慌てた様子で他に散らばったものを拾い集めている家入の前にしゃがむと、五条は彼女の顔をニヤニヤしながら覗き込む。その顔をじろりと睥睨すると、家入は深々と溜息を吐いた。

「…ハァ。アンタにだけは会いたくなかったわ…」
「はいはいはい。まあ別に?俺は気にしないけど?女だって性欲はあるんだし」
「やっぱ、そうくるか…」
「そら、バイブやらローターやら、スキンにローションまであんじゃん。どう見てもお一人様用グッズだろ」

五条は家入が拾っている中から、ピンク色の小さなローターを摘まみ上げ、更にニヤニヤし始めた。家入は呆れた様子でそれも奪い返すと、拾ったブツを元々入れていた袋へしまい、五条には目もくれず立ち上がる。それを見上げた五条は「オマエもそろそろ彼氏作ればー?」と更に煽るようなことを言い出した。

「余計なお世話。別にその辺は困ってないし、それに残念ながらコレは私用のじゃない」
「またまたまたー。ガラにもなく照れてんのかよ」
「五条に照れるワケないでしょーが。って、こんなことしてる場合じゃないから。じゃーね」
「は?おい、待てって」

サッサと歩きだす家入の様子を見ていたら、若干の違和感を覚えた。すぐに立ち上がり、彼女を追いかけていく。家入は隣に並んで歩き出した五条へチラっと視線を向けるとウザっといった顔を隠そうともしない。気心が知れてる仲間ならではなのだが、今は立ち入って欲しくないという無言の圧を感じる。
普通の男ならば、或いは一昨年までこの関係の中に確かにいた存在ならば、何も言わずとも家入の気持ちを察して引いていたかもしれない。しかし五条は相手の気持ちを察してはいても、大人しく引いてやるような男じゃなかった。

「おい、何だよ。お前のじゃないならそんなもん何に使うんだよ」
「……言えない」
「何で」
「そこは察しろよ」
「は?教えてもくれないのに、何で察しなきゃなんねえんだよ。俺はそこまで出来てないし」
「五条」
「…あ?」
「また"俺"に戻ってるぞ。それと口調も」
「あ…やべ」

五条はガシガシと頭をかきつつ「僕はそんなに出来た人間じゃないので」と綺麗な言葉で言い直す。
家入は五条が一人称を変えた理由を知らない。でも何となく察している。だから、そこについてからかう気は毛頭ない。ただ何度聞いても慣れないので、ちょっとだけ吹き出すくらいはしてしまう。

「何笑ってんだよ」
「いや。まあ、その口調なら後輩にも怖がられないんじゃないかと思って」
「はっ。そこまで後輩に気を遣ってられっかよ」

口ではこんなことを言っている五条も、以前よりは後輩に対する接し方が柔らかくなったことを家入は知っている。ただ時々は昔のヤンチャな顔を見せることもあった。

「気を遣え。特に三年の伊地知は明らかにアンタにビビってるしね」
「いぢち…?って、ああ…あの眼鏡のへなちょこか。まあ、アイツには向いてないから呪術師やめろってハッキリ言っちまったからな」
「言うなよ、そういうことを後輩に。ただでさえ人手不足なんだから」
「アホか。死ぬと分かってる奴を呪術師にしたら、それこそ本末転倒だろ。ああいうマメな性格の人間はサポートの方が向いてるっつーの」

何だかんだと、これでもきちんと後輩のことを見ているらしい。口は悪いが、五条が後輩のために敢えて厳しいことを言ったのは間違いないようだ。変われば変わるもんだな、と内心苦笑しながら、家入は未だついてくる五条へ視線を向けた。

「いい加減戻れば」
「あ?やだね」
「そんなにこの玩具が欲しいなら自分で買え」
「別に欲しいわけじゃないし。っていうか僕はそんなもの使用しなくても女の子をたっぷり感じさせてやれるから――」
「…………」
「な、何だよ」

不意に家入が足を止め、ジっと五条を見つめてくる。いつもなら「お前のセックス事情なんて聞かせんな」と怒鳴られるところだ。なのにこの新しい反応。一瞬だけ「じゃあ頼む」とでも言われるのかとゾっとしたのだが、どうもそんな空気でもない。五条が戸惑っている間も、家入が「そうか、その手もあるのか…」と何かを納得したようにひとりでブツブツ言いだしたからだ。

「…五条なら呪力量も問題ない。これなら自分でやらせなくても…いや、人に任せるなら七海の方が……」
「お、おい、硝子…何ひとりでブツブツ言ってんだよ。不気味なんですけど」

そんな会話をしている間も家入は足早に通路を歩き、医療室のある地下へと下りていく。高専の地下には医療室の他に手術室、そして遺体の解剖などを行う剖検室ぼうけんしつ、霊安室などがあり、そこは今年の卒業と共に家入が医学生として働いてる場所でもある。そんな場所に似つかわしくないブツを持って、一体どうする気だ?と五条はますます興味が湧いてきた。

「なあ、硝子。マジで何するわけ。こんなとこで――」

と声をかけた時、家入が不意に立ち止まった。そこは地下通路の一番奥まったところにある研究室と、もう一つ向かい側にある部屋の間。ドア脇の壁に設置された二つの部屋のプレートには"家入硝子"の名が刻まれている。まだ医師免許も獲得していない彼女が何故、研究室や個人の部屋をすでに与えられているのかと言えば、やはり現時点で反転術式を使用できる術師は彼女の他になく、高専側にとっては貴重な存在だから、という理由に他ならない。家入本人からすれば、それは「早く医師免許をとってくれと過度なプレッシャーかけられてる気がする」らしいが、こういう特別待遇はちゃっかり受けてるようだ。

「五条。ここから先は他言無用なんだけど…守れる?」
「あ?何だよ、改まって…」
「ひとりの女の子の尊厳とか、その他もろもろが全てかかってるから言ってんの」
「…女の子って…?そろそろちゃんと説明してくんない?」

家入の言ってることがいまいち理解できない五条は、まず話を聞かせろと言わんばかりに詰め寄った。そもそも最初は大人の玩具をコソコソ持ち歩いてた家入をからかうだけのつもりだったのだが、次第にそんなふざけた内容でもないのかもしれないと思い始めたのだ。

五条の問いに、家入は深い溜息を吐くと、「話は私の部屋でしよう」と言いながら、保健師と書かれたドアの鍵を解錠し始めた。医学の勉強や研究をするのは研究室らしいが、この部屋はそのために寝泊まりできるような私室だという。随分と優遇されてんな、と思っていると、家入はドアを開ける前に五条を振り返り、真剣な表情で見上げてきた。

「念のため言っとくけど…ここから先、デリカシーのない発言したら速攻で追いだすから」

家入が大真面目で言ってるのは五条にも分かる。そこは素直に「分かったよ」と肩を竦めて見せた。そこで初めてドアが開かれ、中へと促される。

「うあ、本ばっか」

家入の私室は入口付近まで大きな棚が並んでおり、そこには分厚い医学書やら呪術に関する本がぎっしりと詰まっている。そのせいで奥の方は全く見えない。
家入は「こっち」と言いながら、まず右側へ歩いて行くので、五条もそれに続く。棚がパーテーション代わりになってるようで、壁側が通路みたいに細くなっている。そこを進んでいくと、急に開けた場所に出た。そこには応接セットのソファやテーブル。奥にはパソコンや本が重ねられている机がある。更に奥には仮眠用なのか、小さなベッドまで用意されているのを見た五条は、この優遇された環境に「すげえな」と苦笑を漏らした。
しかし五条が家入に続いて更に足を進めた際に、呆気にとられたのはその場所にひとりの女子生徒がいたからだ。ソファに座っていたその女子生徒は、ふたりが入って来たことで慌てたように立ち上がった。しかし唐突に顔を赤らめ、五条を見てかなり動揺している。

「しょ、硝子先輩…ななな何で五条先輩が…」
「あーごめん…。五条にバッタリ会って、これ見つかった」

言いながら手にしていた袋を持ち上げてみせると、女子生徒の頬が更に赤く染まる。その様子で彼女が袋の中身について知っているのだと五条は感じた。そしてまさに例の物を使わせようとしてる人物が、目の前の子なんだということも。

「え…てか何でがここに?」

五条が、と呼んだ女子生徒、は五条と家入の二つ下の後輩に当たる。先ほど五条が「へなちょこ」と称した伊地知と同級生で、この高専の三年生だ。
五条の印象としては、伊地知よりはそこそこ戦える子といったもので、あとは術師の女にしては素直で可愛げのある後輩。ほんわかした可愛らしい雰囲気の子で、いつも一生懸命、体術の指南を受けてくれるところも、五条からすれば好感度が高く、普段から可愛がってる後輩だった。高専に入学した当時から良い印象しかない。
ただ術師の才能があるかと訊かれれば、そこはやはり伊地知と同じで「NO」なのだが、彼女の場合、上限の見えた伊地知とは違い、まだ伸びしろがあり答えを出す時期でもないので様子見といったところだ。教師を目指すと決めた頃から、五条は積極的に後輩の面倒も見るようになっていた。なので今のの様子がおかしいことにも、すぐに気づく。

「オマエ…それ、どうした…?」
「…え」
「腹の中のやつ…。先週の体術指南の時はなかったよな」

五条の指摘にがハッとしたように息を呑む。五条も出張に出たりしていて彼女と会うのはその時以来だったが、今日は明らかな異変がある。彼女の体内に呪いの痕跡があるのを、よく視える眼が捉えていた。

「…五条。まずは説明する」

戸惑い顔の五条の背中をポンっと叩き、家入は彼女にも「五条に話していいかな。役に立つと思ったから連れてきたんだ」と言った。しかしは真っ赤になったまま首を振っている。どうやら五条に話されるのは恥ずかしいようだ。しかし、そんなことを言ってる場合でもなく。下手をすれば命にもかかわることだと説明した。
家入の言葉に五条も「だな」と同意を見せる。

「ちっとも話は見えないんだけどさ。今、は呪われてる状態なわけで、出来るだけ早く祓った方がいいような類のもんなわけ。だから、僕に何かできることがあるなら協力するし、まずは何があったのかだけでも教えてくれない?」

出来るだけ怖がらせないよう、やんわりとした口調を五条は心掛けた。家入の言い方や言葉の端々に男の自分に言いにくいことであるのは推測できるし、この部屋に漂う微妙な空気もそう示している気がしたのだ。

は五条の言葉を受けて伏せていた目をゆっくりと上げた。その瞳は今にも泣き出しそうなほどに潤んでいる。家入はそんなをソファへ促し、自分も隣へ腰を下ろすと彼女の震える肩をそっと抱き寄せた。そして何やら声をかけると、家入はその強気な視線を五条へ向ける。

「本人からは言いにくい話だと思うから私が話すよ」
「…分かった」

家入の気遣いを感じ取り、五条もそれ以上追及せずに頷くと、向かい側のソファへ静かに腰を下ろした。






それは今日まで色々な呪霊を祓ってきた五条にとっても初めて聞く内容だった。

「…え…ってことは…はその…呪いに…犯されたってことであってる?」
「五条…」

の顏が真っ赤になり、更に身を縮こませて震え出したのを見た家入が、殺気をふんだんに込めた目つきでぎろりと目の前の男を睨む。ついでに昔のヤンキーかと思うほどに下顎だけを突き出した。おそらく「さっきデリカシーのない発言したら速攻で追いだすっつっただろ?あぁん?」的な圧だ。
五条は分かった分かったと言うように両手をホールドアップして見せながら、今聞いた話を脳内で整理していく。その間、家入は「コーヒーでも飲もうか」と部屋にあるコーヒーメーカーからカップにコーヒーを注ぎ、それを動揺している彼女へ持たせた。

「いや、でも呪いが人を殺さず、エロいことだけしてくって…ヤバくない?」
「ヤバいよ。だから困ってる。彼女も、相談された私も」

深い溜息を吐いた家入は再びソファに座ってがっくりと頭を項垂れた。
聞けばその呪いは最初に現れた日から何度も彼女の前に現れるという。さすがに結界で守られた高専内では出ないらしいが、出張で地方に泊まる時は必ず現れ、同じように体を好き勝手弄り回すようだ。
一度だけならず、頻繁に襲われることに恐ろしくなったが、彼女は恥ずかしさのあまり最初は誰にも相談できなかったらしい。それはそうだろう。仮にも呪術師である自分が呪いに、それも性的なことをされてるという悪夢のような現実を人に知られるのは耐えられなかったはずだ。しかし、彼女の異変に気付いた人物がいた。

「ハァ…なるほど。伊地知がねえ…」
「ああ。最初は彼から相談された。彼女の様子が変だが、聞いても何も教えてくれないと。ただ日に日にやつれていく姿を見て何か病気かと思ったらしい。彼女を診てあげて欲しいと頼まれてね。もしかしたら女性同士の方が話しやすいんじゃないかって。なかなか気が利く男だよね、彼は」
「へえ。まあ、術師向きじゃないけど、やっぱ人をサポートする的な仕事が向いてんだな、アイツは。ちゃんと仲間の異変に気付いたし、洞察力もあるんじゃない」

五条がここまで他人を褒めるのは珍しい。家入は意外そうに片眉を上げ、僅かながら口元に笑みを浮かべた。
この男は人よりも、よおく視える眼があると言うのに、全く人を見ようとしない。五条と出会ってから家入が常々感じていたことだ。でも今、教師を目指すという明確な目標も出来て、五条は日々変化し続けているんだな、とふと思う。

あんな形で親友と袂を分かち、前の自分を無理やり大人にしなければいけなかったのもあるだろうが、痛みを知った分だけ、他人に対する心を培ってるようだ。また、そうでなければ人に何かを教える職には就けない。
"へなちょこ"と表現しても、五条はきちんと伊地知の良いところも見ているのだから、なかなかどうして。成長したじゃん、という思いで家入は笑みを浮かべたのだ。
今の五条なら今回の件を任せても大丈夫かもしれない。何となくそう思った。ただ、それにはやはり当事者の承諾が必要だ。

「っていうか…彼女に憑いてるのは色情霊の類だよな、多分」
「まあ、私もそう思う。一応、体も直に調べて写したのがこれ。呪力を込めたレントゲンで撮ったから胎内の呪印もかすかに映ってる」

家入はそう言いながら五条にレントゲン写真を見せた。なるほど。確かに呪印らしきものが、の腹の中。というより、もろ子宮内で蠢いてるのが分かる。これのせいで定期的に体が疼くらしく、は時折、頬を赤らめ、苦しそうな、それでいて切なげな吐息を吐いている。男の五条からすれば、少々目のやりどころに困るくらいには――エロい、と思う。

「…で、硝子の反転じゃ効果なかったってこと?」
「全くない、というよりは、ただ反転をアウトプットするだけじゃ効果が薄いってこと。その辺の呪霊なら問題ないけど、これは明らかに彼女に対して執着してるから半端な呪力じゃ胎内にある呪印は祓えない。――五条、ちょっと」

家入はふと立ち上がり、五条を促して個室を出た。きっとの前じゃ話しにくいことなんだろう。素直について廊下へと出る。

「どうした?」

難しい顔をしながら自分を見上げてくる家入に、五条も何となく嫌な予感はしていた。

「…五条も気づいてると思うけど…彼女はその色情霊…というか色情呪霊?に犯された際、多分だけど…ナカに出されてる。その時にあの呪印が刻まれたのかも」
「………は?」

意外にも全く気づいてなかったらしい五条は、珍しいくらいに驚愕している。犯されたと訊いても、ふんわり程度にしか想像できなかったのもある。ただ体をあちこち弄られたとか、そんな程度のものだろうと。

「え、待って。それって…呪霊にも精子があるってことかよ」
「いや、ないだろ、そんなもん。でも精子じゃなくてもそれに似た何か…体液?のようなものか、それか呪い自身の強い想いみたいな何かが彼女の子宮に入ったんだと思う。あの呪印からはそうだな…呪霊の彼女に対する何か執拗な執着みたいなものを感じるんだよね」
「…執着?」
「人間でいうところのストーカーだよ」
「なるほどね…。でもまあ、そんなに何度も現れるんじゃ通りすがりってわけじゃなさそうだしな。ただ、はまだ学生だけど呪術師だ。なのに彼女でも跳ね返せない呪いってことは、少なくとも一級相当って考えるのが妥当か。たかがエロ呪霊にしちゃデカくなりすぎだけど」
「だよね。だからその呪霊はに執着してる人間の男が生み出したものだと考えてるんだけど、五条はどう思う?」

家入に問われ、五条はうーんと腕を組み、考えこんだ。しかし出た答えは結局家入と同じものだった。

「ま、そうだな。そこまで育ってるのは個人的な執着がにだけ向けられてるからってのが妥当だろ。リアルストーカーがいるって仮定して動こう」
「うん。ただ、にその辺のことを訊いても心当たりはないって言うんだよね。任務以外では学生の頃の友人と、高専関係者しか接触してないらしいし。まあ、これは本人に聞けなかったけど、私はその友人たちの中の誰かか、任務先で知り合った人間と考えてる。念のため最近のスケジュール見せてもらったけど、本人に覚えがないんじゃ私には分からなかった」
「じゃあ一つ一つ、そのおかしな現象が始まった辺りに行った任務先をしらみつぶしに当たるしかないってことか。あと友人たちも誰に会ってるのかちゃんと聞かないと」
「ああ、でも犯人捜しの前に――」

と言って家入は深い溜息を吐いた。

の胎内にある呪印もどうにかしないと、あまりに相手の執着が強いと彼女自身が喰われる可能性があるから、あんま時間かけてらんないかも」
「チッ。まずはそっち優先か…。で、胎内の呪印を剥がす方法ってないのかよ」
「…だからそれを考えてみたんだけど…」

と家入は言い淀む。普段なら明け透けに何でも口にする彼女にしては珍しい。しかし家入は時間がないと思ったのか、意を決したように口を開いた。

「…これはあくまで私が勝手に効果ありかも、と考えたことなんだけど」
「前置きはいいから…どうすんだよ」

五条がせっつくと、家入はやれやれと言った様子で五条を見上げた。

「方法は三つ…いや、二つか」
「二つ…?」
「そう。その方法は――」

家入の言う方法を聞かされた五条は、本日二度目の驚愕をすることになった。


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