04-オマエ、バカなの?
※女性のオーガズムについての体の仕組みについて少し踏み込んだ内容の台詞があります。生々しい話が苦手な方は観覧をお控え下さい。
五条の後輩であるがストーカーの生み出した(らしい)呪霊に襲われ、胎内に呪印を刻まれた。それは反転術式のアウトプットだけでは効果が薄く、完全に祓えるものではないという。また体内にあることから、当然、術式による攻撃も出来ない。
そこで家入からそれを消すのはこの方法が有効かもしれないと言われた。
一つ:本人が胎内に呪力を流して子宮から呪印を少しずつ剥がす。それで足りなければ絶頂を迎えることにより、子宮口を刺激して下りてきた呪印を呪力を巡らせた分泌液で消滅させる。本人の呪力量が足りなければ、他の術師の呪力を彼女の体内へ流しながら性的興奮を与え、あとは同じ。
二つ:それでもダメなら最終手段として、呪力量の強い男の体液で呪印を消す。この場合、効果があれば呪った相手の呪印が他の男の呪力と体液で弱まるか、消滅する。つまり呪った相手の心を折る方法。
三つ:呪っている相手を殺す。
あくまで予想でしかないが、試す価値はあるという。
「一と二は、まあ似たような方法だから、要は方法は二つ。に性的興奮をさせながら同時に自身、或いは他人からの呪力を胎内にまで巡らせつつ、更にオーガズムを感じさせて、まず子宮口を下ろさせる。自分でそれが出来ない場合、誰かに代わりにしてもらう。反転じゃなくても媒介できるものがあれば胎内への攻撃は可能だ。そこで――」
「ちょ、ちょっと待て、硝子!」
「何?」
淡々と説明してくる家入の話を遮るように、五条は声を張り上げた。こんな真昼間から何て話を聞かせるんだ!と言いたいようだ。
「それ…マジで言ってる?」
「大真面目だけど?」
当然だろ、と言いたげに家入は真顔で言いのけた。その表情は至って真面目で、言葉の通り本人は大真面目に話してるらしい。しかし五条の方は頬が薄っすらと赤い。そこに気づいた家入の赤い唇がやんわり弧を描いたのは、クズだと思っていた同級の男が意外にも純情を見せたことが楽しかったからだ。
「何、五条。ガラにもなく照れてんの。童貞でもあるまいし」
「あ?。今話してんのは硝子と普段してるような猥談の類じゃねえだろ。可愛い後輩が対象なら、もっと真剣に方法考えろよ」
「真剣に考えた結果がそれなんだよ。反転術式を流すだけじゃ効果は薄いって言ったでしょーが。プラス他にも何が必要かって言ったら、胎内に呪力を流しておけば呪印を外へ押し出すか、運よく消滅してくれるかもって思ったんだよ。それも呪力が強ければ強いほど効果はあるかもってね」
「う…ま、まあ…場所が場所なだけに出来なくはないだろうけど…」
「ってことで話し続けるけどいい?ああ、女の体の仕組みは分かってる?」
「…は?」
「…その分じゃあまり詳しくないって顔だな。ヤることヤってるなら女の子の体の仕組みも勉強しな」
呆れ顔で言われ、五条もウザという顔で「ほっとけ」とそっぽを向く。しかし地味に図星だったのか「女の体の仕組み…」と首を捻りつつ「何か響きがエロいな…」とふざけたことを言って、家入にどつかれている。
「とにかく、ストーカーの執着が酷い場合は、この方法でも効果はどこまで出るか分からないから呪っている相手を直に叩くしかないけど、今のとこ誰かは分からないし、に刻まれた呪印を祓う準備はしつつ、犯人捜しも同時に行わないと。五条、協力してくれる気あるの?」
「…そりゃあるけど。は可愛い後輩なんだし。でも僕は何すりゃいいわけ?ストーカー探し?」
「それもあるけど、まずはに刻まれた呪印を調べたいと思って」
「?…調べろよ」
何で僕に言うわけ?と五条が眉間を寄せると、家入も同じように眉間を寄せて五条を見上げた。今、説明しただろ的な顔だ。
「だからに性的興奮をする術を教えてやれるかって聞いてんの」
「……ハア?!」
五条、本日三度目の驚愕であった。

カチ、カチ、カチ、と静かな室内に壁時計の針の動く音だけが響く。それを耳の端で捉えながら、五条は小さく息を吐き出した。何となく空気が重い。それに加えて隣に座る後輩からは、五条ですら気の毒になってしまうほどの悲壮感が漂ってくる。この空気をどうにかしないことには、家入に言われたことを実行することも出来ない。
とはいえ、それは簡単な方法とはいかないようで、五条は先ほど家入に言われたことを思い出し、再び息を吐き出した。
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「お、教えるって俺が?」
「また"俺"になってる」
「うっせーな。この際どっちでもいいだろ、そんなの」
「良くない。をビビらせちゃったら体が委縮して効果が出ないから、なるべく口調も柔らかく接してあげて」
「う…だ、だからって何で…僕が…?硝子が教えてやりゃいーじゃん」
「女の私にエロいことされる方が屈辱でしょ。だから本人は自分でやるって言いだしたわけで、私はアレを用意したんだし」
と、そこで五条は家入が先ほど運んでいた大人の玩具を思い出す。そもそもアレがキッカケで今回の件に関わってしまったのだ。
五条は困った様子で頭をガシガシ掻くと「じゃあ当初の目的通り、アレをに渡して自分で――」と言いかけて言葉を切る。家入の殺気交じりの視線を感じたせいだ。
「あんな上級者向けのグッズ、未経験の子に使いこなせるとでも?まあ、さっきはそれしか方法がないかと思って一応は用意したんだけどね、私も」
「…え、未経…験…?」
「ああ。本人はそう言ってる。だから余計に自分が汚されたと思って傷ついてんの。相手が人間ならともかく呪いなわけだから、それは大丈夫だって言ったんだけど…」
「チッ…。胸糞わりい。そのストーカー見つけたらタダじゃおかねえ」
珍しく五条が本気で怒っている。指をパキッと鳴らす音を聞きながら、家入はジっと五条を見上げた。それは普段、五条があまり見せない顏であり、明らかの為に怒っているようだ。
しかし家入も全く同じ気持ちだった。どういう経緯で相手の男――襲われた時の状況を聞いて男と判断――がにそこまでの好意を持ったのかは知らないが、普通にアプローチをすれば呪いが生まれてしまうほどの劣情を抱かなくても済んだだろうに、とは思う。
とはいえ呪った本人はそれと気づいていない可能性も大きい。自分の知らないところで勝手に生まれたものなら、本人が意識的に止めることは不可能であり、その場合やはり直接その男を見つけて彼女への劣情を断ち切らせるしかない。
「ストーカー見つけたら五条にボコってもらうとして。まずは彼女のことが優先。で?五条がやってくれるわけ?」
「……え、マジで僕が教えなきゃダメなわけ?」
家入に詰め寄られ、顔を引きつらせる。出来れば後輩に性的な指導などしたくはない、といった顔だ。しかし悠長なことは言ってられない。家入からしても可愛い後輩をこんなクズに任せるのは忍びないが(!)呪力量は圧倒的、そして五条本人も他人へのアウトプットは出来ずとも反転術式が使用できる。これは最終手段になった時、かなり有効なのでは、と家入は考えていた。
「…あ?呪力量は分かるけど…反転は何で?僕、他人の治療は出来ないけど?」
「だから最終手段の方法、さっき教えたでしょーが。他人にアウトプット出来なくても、あんたが自分の反転を流した体液をの体内へ流せば――」
「は…?オマエ、バカなの?」
家入の説明を聞きながら、五条は全てを理解した上で敢えて毒を吐いた。つまり、その方法とは――。
「それって僕にを抱いて中だししろって聞こえるんだけど…」
「だから、そう言ってるし、私はバカじゃない」
ふんっと鼻息荒く言い返すと、家入は五条を睨みつけた。その表情は本気で言っている、と悟った五条は軽い眩暈に襲われ、その場にしゃがみこむ。よりによってそんな方法を思いつくとは、やっぱり「バカなの?」ともう一度言ってやりたくなった。
ただ家入の言った方法なら、確かにあの呪印に効果はあるかもしれない、とは五条も思う。だから余計に頭を抱えたのだ。
「…それ…は納得してるわけ」
「しなくてもさせる。命に関わるんだから、この際ヴァージンくらい捨てる覚悟は持ってもらわないと」
「……マジか」
「マジだね」
「「………」」
項垂れる五条を見下ろす家入と、頭を抱えながら家入を見上げる五条。この時の二人の気持ちは珍しく完全一致だったかもしれない。
大事な後輩を救いたい。その思いだけは揺らがないのだ。
「まあ…五条がどうしても嫌だって言うなら?他の男に頼むしかないけど」
「あ…?他のって…」
「最終手段以外なら、ある程度呪力量が高い術師に軽めの方を頼めるし」
「軽めのって…性的興奮させるってやつかよ」
「そう。性的興奮を与えてあげられる比較的呪力の高い術師に最初に話した方法で試してもらう。運が良ければ中の呪印が消えてくれるかもしれないし」
「……おま…マジで鬼畜だな」
「仕方ないでしょ。この際、手段は選んでられない。がエロ呪霊に胎内から喰われちゃってもいいわけ?」
「…う」
それを言われると五条もツラい。たかが一級程度の呪いなど、目の前にいれば瞬殺できるのに、彼女の胎内にあるというだけで何も出来ないのは歯がゆすぎる。
「で、どうすんの。やるの?やらないの?時間がないなんだから早く決めて。五条が断るなら他にそれが出来る人を確保しなくちゃいけないし」
「……ちなみに…僕以外だと誰に頼もうと思ってる?」
ぐっと膝を伸ばして立ち上がると、五条はサングラスをズラして家入を見下ろした。その問いに家入は少し考える素振りを見せると「そうだなあ…」と言いながら、ニヤリとして五条を見上げる。
「今のとこ五条の次に呪力が高い身近にいる男の術師といえば…七海、日下部先輩、あ、夜蛾先生も一応、男だから候補としては悪くな――」
「僕がやる」
「……あ、そーお?」
この時、家入は内心ガッツポーズをしていた。他の男の名前を出せば、五条なら確実に自分がやると言い出すだろう、と読んでいたからだ。
以前から五条がを特別可愛がっているのは知っている。その思いが何であれ。可愛い後輩の治療の為なら、手を尽くしてくれるだろう。
因みに家入が候補として挙げた七海なら、あの性格上「無理です」と即答するだろうし、日下部はともそれほど親しくはないので、互いに気まず過ぎて行為自体、失敗する可能性がある。
夜蛾は…まあ年齢が離れすぎであり、教師という立場上、生徒のに治療とはいえ性的接触をするのは道徳的にも良くない。当然、却下されるはずだ。
なので実際問題、この荒療治的な方法を思いついた時から、頼めるのは五条の他にはいないと家入は考えていた。
ただ自分のお気に入りの後輩にそういった接触をすると知った五条がどういう反応をするか何となく分かっていたので、その時は敢えて他の男の名前を出そうと思っていたのだ。
そんな彼女の思惑に気づいていない五条は、再び力なくしゃがみこみ項垂れている。
「じゃあ早速にも今の話を伝える。あと女の子の体についても説明するから五条も一緒に来て」
「……ハァァァ。ったく、何でこんなことに…」
家入に促されるままの待つ部屋へ戻りながら、五条は盛大に溜息を吐いた。
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「いい?まずは五条に女性のオーガズムが起こる仕組みについて説明するから、ちゃんと聞けよ」
家入は部屋へ戻ると、にまず五条にも話したことをきちんと順序だてて説明した。そしてその相手に五条を選んだことも話した。もちろん他の候補者の名前も挙げて。
それを聞かされたは驚きと羞恥で動揺したものの、それ以外の方法はまだ分からないから、まずは試してみて欲しいと家入が頼み込むと、どうにか承諾を得ることが出来た。そこで今度は五条に対し、この荒療治に必要な女の子の感じるメカニズムについて説明する。原理を分からず男脳で考えられても、まして普通の性行為と同じにされても困るからだ。
「女の子のオーガズムは興奮期から高原期を経て、オーガズム期、そして消退期と、この4つの段階がある。一つずつ説明するから心して聞けよ、五条。あともね。女の子でも自分の体のことは知らないって子も多いから」
「…はいはい」
「は、はい」
と五条、二人仲良く生徒のようにソファへ並んで座りながら、家入先生の保険の授業よろしく始まった、ちょっと踏み込み過ぎた感のある性教育?の話に耳を傾ける。
「まず興奮期から。女の子は性的興奮を感じると、膣、クリトリス、小陰唇、乳首などが充血して、心拍数や血圧が上昇し始める。膣壁から分泌液が出ていわゆる"濡れる"という状態になるの。この時、強すぎたり、せっかちな動きで前戯をされると痛みを感じることもあるし、あと男で勘違いしがちだけど濡れてるからといって早々に挿入をすると、女の子の体は次の段階の"高原期"に入らずに興奮が落ち着いてしまうこともあるから、丁寧な前戯は大事って話。分かった?」
ホワイトボードに細かく性的な言葉を書き込みながら、家入が振り返ると、五条は何故か天井を見上げ、隣のは耳まで赤く染めながら俯いている。
「ちゃんと聞いてる?二人とも」
「…いや、聞いてたからこんな空気になってんでしょ…ってかオマエも一応女なら、もっとこう…オブラートに包んで話すとか出来ないわけ?」
「あのね。そんな気を遣ってる余裕も時間もないの。次!"高原期"がきた状態の説明いくよ」
「ハァ…」
すっかり医者の顔になっている家入を見て、五条は諦めたように項垂れた。まあ自分はまだいいが、隣にいるが羞恥のあまり貧血でも起こすんじゃないかと心配になるくらい、真っ赤になっているので苦言を呈しただけだ。しかし家入が言った通り、今は時間もないので話の続きに耳を傾ける。
「最初の興奮から次の高原期に入ると、更に血液が充血して、膣、クリトリスなどがよりふっくらとしてくる。そのまま継続して肉体的な快感が得られる状態が続くと、"バルーン現象"という現象が起こる。"バルーン現象"とは膣の入り口が締まり、膣の奥が風船のように広がる現象のこと。その締まり方や広がりは個人差があるからコントロールは不可能。で、ここからが大事なんだけど、この時、子宮口が下りてくるから、この状態になる頃にまずはが自身の呪力を胎内に巡らせて呪印を消す方法を試して欲しい。これで消すことが出来れば、その後の行為はしなくていい。の中の呪印は子宮内、といういうより入口に近い場所にある。だからもし呪力が足りずに自分の呪力で消滅させることが出来なければ、次の段階にいってもらうしかない。先の行為で呪印を膣内まで下ろすことが出来れば、あとはオーガズムに達して呪力を流した分泌液で浄化するかもしれないし、それでもダメなら五条に呪力を流しながらアレをしてもらって上書きしてもらえば或いは、呪印が消滅する可能性が高い。呪いを生み出した人物の執着が呪印という形になってるから――」
「「………」」
家入が話しながら再び二人の方へ振り返ると、今度は五条も薄っすら頬を赤くしつつ明後日の方を見ている。に至ってはますます俯いて両手で真っ赤になった顔を覆っていた。少々、授業内容が過激すぎたらしい。
「あのね…何度も言うようだけど照れてる場合じゃないの。命がかかってんだから」
「は…はい…ごめんなさい…硝子先輩」
「いや、オマエ、だから言い方…」
「どんな言い方したってやることは同じ!とりあえず今のは最終手段として覚えておいて。まずは、そうだな…。私の仮説が正しいかどうかの体液を調べたいから、まず分泌液を採取するとこから始めてくれる?」
「……は?」「え…」
家入の言葉に驚いて二人同時に顔上げると、目の前のテーブルにことん、と小さな可愛らしい小瓶を置かれた。ゴムの蓋がスポイト状になっている。これはなんぞ?という意味を込めて、五条とは目の前に立っている家入を見上げた。
「これにの愛液、採取してって言ったの」
五条、本日四度目の――驚愕をすることになった。
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