05-クズはどっちだよ
※性的描写あります。苦手な方は観覧をご遠慮下さい。
そして時は二人きりの室内へと戻る。家入に言われてから、かれこれ三十分もこの状態で無言が続いている。相変わらず時計の針の音しか聞こえない静かな部屋は、家入の私室。ここは彼女以外、誰も来ないから何をするにも好都合だと言われ、その本人は今、研究室での"アレ"を待っている状態だ。そろそろ「早くしろ」という電話が入りそうだな、と思いながら、五条は目の前のテーブルへ視線を向けた。
そこにはすっかり空になったコーヒーカップが二つと、家入に渡された小瓶が置いてある。丸い電球のような形の、ミニサイズのフラスコだ。これに彼女の体液――愛液を摂取して家入に持って行かなければならない。
これ以上、家入を待たせるわけにもいかず、五条は意を決して「…」と隣の後輩へ声をかけた。それだけで彼女の肩がびくりと跳ねる。
「そろそろ覚悟は決まった?」
「……か、覚悟は…出来てる…んですけど…」
「でも恥ずかしい、か」
「は、はあ…あ、あの…ごめんなさい…わたし…」
「いや…気持ちは分かるよ。ただの命に関わることだから、硝子が言ってたように恥ずかしがってる場合でもないでしょ」
「は…はぃ…」
頷いてはいるもののはますます落ち込んだように項垂れていき、気まずい空気が再び二人の周りを包んでいく。
当然だ。昨日までは先輩後輩。それがいきなり性的なことをしろと言われても普通は誰だって困ってしまう。例え恋人同士だったとしても、そういうことは段階を踏んでから行うに至るわけで、こんな突然にするものでもない。
ただ、これが遊びの女の子だとすれば五条もやぶさかではないのだが(!)相手は大事に育ててる可愛い後輩。次の日には他人になれるようなワンナイトの相手とは違う。
さて、どうしたもんかな、と五条は頭を掻きつつ、隣で縮こまっているへ視線を向けた。華奢な肩が可哀そうなくらい震えているのを見ていると、何か自分が悪いような気もしてくる。ただ巻き込まれただけの先輩、という立場のはずなのに。
(いきなり僕がするのもやっぱには刺激が強いよなァ…この際、最初の予定通り本人にさせてみるとか…)
やり方を知ってるのか不安ではあったし、経験がないとも聞いたが、セックスと自慰行為はまた別の枠。もしかしたら彼女も一度くらいはしたことがあるかも?と考えた。例えなくても五条に教えられるのが恥ずかしいなら、自分で好きなようにしてもらった方がいいかもしれない。
「あの、さ。僕は一旦出てくから、まずはが自分で…してみてくれる?」
「…え?」
「一回くらい自分で自分の体とか触ったこと、あるでしょ」
こんなことを訊くのもたいがいだが、とりあえず五条はの顔を覗き込んでみる。すると真っ赤な顔でぶんぶんと首を左右に振った。どうやら自慰行為も未経験らしい。まあ、そうだろうとは五条も薄々感じてはいたが、ちょっとガックリする。
「…ないなら仕方ないけど…僕に触られるのがどうしても恥ずかしいなら、まずは自分でチャレンジしてみてくれるかな。それで採取できるならもその方がいいでしょ」
なるべく優しく、言葉を選びながら諭すように言えば、の瞳がじわじわと潤んでいく。まるで捨て猫のようなそのきゅるん、とした表情を見て、五条の体のどこかがぎゅうっと鳴ってしまった。彼女のその表情は、やたらと五条の男の部分をくすぐってくる。
(はっ。いかんいかん)
一瞬、惚けてしまった自分を律するように首を振ると、五条はなるべく普通にへ笑顔を向けた。若干口元が引きつってるが。
「…どう?できそう?」
優しく問いかけると、もこのままではいけないと思っていたのか、パっと顔を上げた。瞳は潤んだままが、きゅっと引き結ばれた唇を見る限り、覚悟を決めたというのは嘘じゃないようだ。
「……は、はい…が、頑張ってみます」
「そう。じゃあ僕は部屋の外にいるから、何かあれば声かけて」
そう言って彼女の頭をくしゃりと撫でると、はかすかに頬を赤くしながらも頷く。ホっとしたところで五条はすぐに家入の私室を出て廊下の壁に寄り掛かった。
「ハァ…何の拷問?これ…」
一人になった途端、深い溜息と共に壁に背を預けてしゃがみこむ。別に普段は家入と下らない下ネタで盛り上がったりすることもあるし、性について特に秘めた部分はない五条でも、今回の件はどう対応していいのか分からない。
「ったく…硝子もとんでもない方法思いつきやがって…」
と言って他に方法があるかと言えば、五条も考えてしまう。いくら何でもの体にメスを入れ、腹を裂くわけにもいかない。「私の呪力が足りなかった場合、それを五条がやることになるけど」と言われ、速攻で断念した。医学的知識がない人間が出来るはずもなく、再び答えは元に戻ってしまった。
「直に呪印へ触れて祓うか、呪ってる相手を直に叩くか…か」
時間があるなら絶対に犯人捜しをした方が五条にしてみたら楽だ。しかし見当もつかない相手をゼロから探すのは一日二日じゃ到底無理。ならばを高専の敷地外へ連れ出し、襲われる際の状況を作り上げ、呪いが出現した時に本体を叩く、という方法もある。
だがそれだと一つ問題があると家入に言われた。
――五条が傍にいたら出てくるもんも出てこないでしょ。いくら呪力を抑えてたって呪いは気づくよ、今の五条なら。
そう言われて確かに、と自分でも納得してしまった。でもまあ、だいぶ離れた場所から見張る分にはいけるかもしれない、と頭の隅に入れておく。
とにかく今は呪印がこれ以上、奥深くに入らないよう、今のうちに消滅させるしかない。
「…、ちゃんとできてんのかな」
スマホを見下ろしながら、何の連絡もないことで少し心配になってきた。とはいえ、中へ様子を見に行くことも躊躇われる。その最中だったら目も当てられない。
「……何か…エロくない?この状況」
つい想像してしまったのがいけなかった。今この瞬間、中でが…と思うだけで体内の血液の巡りが良くなってくる。五条はそれを振り払うよう気を紛らわせながら、ひたすらからの連絡を待つ。
この時はまだ、いくら未経験でも自分で触って濡らすことくらいは出来るだろう、と五条も高を括っていた。
その三十分後。からスマホに届いた『ごめんなさい。できませんでした』というメッセージを見るまでは。
「ハァ…だよな…。はそういうタイプじゃないし、明らかに」
溜息を吐きながら壁からその身を離すと、五条は家入にメッセージを打った。
『自分じゃやっぱ出来なかったらしいから僕がいく』
端的にそれだけ送信すると、すぐに部屋へと入り、念の為にドアの鍵はかけておく。そして先ほどのスペースへ「、僕だけど――」と声をかけながら歩いて行くと、が「きゃ」と短い声を上げた。そして制服のジャケットで体を隠すようにしながら振り向く。どうやら服を脱いで自慰行為を試みたようだ。
さすがにギョっとして「悪い」と声をかけたあとに条件反射で背中を向けたが、しかし今はこういう気遣いも無意味か、と思い直して振り返る。
五条としてものこんな姿を見るのは初めてであり、多少目のやり場に困ったし、地味にドキリとはしたのだが、再びそんなことを言ってる場合じゃない、と自分にも言い聞かせた。
普通の祓徐ならごく簡単なはずなのに、デリケートな部分を含んでいるせいか、物凄くやりにくい。
「ああ、服はそのままで」
「えっ」
五条が急に戻ってきたことで焦ったらしい。は慌てたのか下着も付けずシャツだけ羽織ると、すぐにスカートを履こうとしていた。そんな彼女を五条は制止すると「その恰好の方が都合がいいでしょ」と言って、ソファへと腰を下ろす。は制服の中に着ていたであろうシャツ一枚を羽織っただけの恰好だった。上着で前を隠しているものの、その白い太腿は惜しげもなく五条の目に晒している。ついつい男の目線で見てしまいそうになるのは、やはり健全な雄としての本能かもしれない。
もう一度いかんいかん、と自制しつつ、小さく深呼吸をすると、傍に立っているを仰ぎ見た。
「ここ、座って」
「え…」
真っ赤になって硬直しているを見上げながら自分の隣をポンと叩く。彼女は恥ずかしそうにモジモジしていたものの、ここまでくれば諦めもついたのか、おずおずとした様子で五条の隣へと座った。その体へ腕を伸ばし「ちょっと抱えるよ」と声をかけてから彼女を軽々と抱き上げ、自分の足の間へと座らせる。その間、は「ひゃ」と短い声を上げたが、五条は構うことなくが逃げないよう、右手を薄い腹へと回し、腰をがっしりホールドしておいた。
彼女に触れると改めてハッキリと呪いの気配を感じる。ピリピリとした刺激が指を通して伝わってきたからだ。
――俺の女に触れるな!
そう訴えてるような呪いの気配というか、何となく威嚇されてるような気もする。
なるほど。相手の彼女への執着は相当だ、と身をもって感じていると、五条のスマホがぴろんっと鳴る。それは家入からの返信だった。
「…硝子が早くしろだって」
「あ……」
自分の前に座るにも画面を見せると、消え入りそうな声で「はぃ…」と頷く。腕からは彼女の震えがかすかに伝わってきた。だが、ここで遠慮をしていては自身の身が削られていくだけ。そう心を鬼にして、五条は「始めていい?」と彼女へ声をかけた。

「これは硝子も言ってたように荒療治だから、オマエも意識はすんな。分かった?」
その言葉は素っ気ないものなのに、五条が彼女へ触れる手は優しく。まるで恋人を抱きしめるかのように繊細で、は酷く落ち着かない気持になった。しかも胎内にあるもののせいで勝手に体が火照ってくる。息苦しさは続いていて、本音を言えばどうにかなってしまいそうなほどに下腹部が疼いていた。
「まあ、意識するなとは言ったけど、やり方が分からないなら僕が教えるから、そこだけはちゃんと意識して覚えて」
五条にそう言われてしまえば、は頷くしかない。ただでさえ自分の為に先輩二人が時間を割いてくれてるのだ。特に特級の五条に至っては常に多忙の身。なのにこうして助けようと協力までしてくれているのだから、これ以上恥ずかしいと言って困らせるわけにはいかない。
は膝の上でぎゅっと拳を握り締めると「お、お願いします…」とか細い声で五条に頭を下げた。すると頭にふわりと大きな手が置かれて、くしゃりと撫でられる。それだけで心臓がドキドキしてしまうのは、個人的な理由からだ。
「……っあ」
裸にシャツ一枚という格好の中、五条の手がの下腹へ触れる。そこは一番疼きの強い場所。つまり呪印がある辺りだ。五条にその場所をすり、と軽く撫でられるとぶわっと肌が粟立つ。五条はすぐに気づいたのか「って敏感な方?」と訊いてきた。
「え、わ、わかりません…けど…呪いに襲われるようになってから体がどこかおかしい気がして…」
「…そっか」
五条は何かに気づいたのか、小さく頷く。
「僕に触られてその時の嫌なことまで思い出しちゃうかもしれないけど我慢――」
「へ、平気です…呪いに襲われる時は凄く怖いけど…ご、五条先輩だから…怖くない…です」
それは彼女の本心だった。現に、こうして密着していてもドキドキはするが、呪いに襲われる時の不快感や恐怖は一つもない。
なのでとしては、五条に気を遣わせないよう言ったつもりだった。
「………なら、いいんだけど、さ」
「…??」
五条にしては珍しく、一瞬言葉を詰まらせたあと、ごにょごにょと言いつつ、軽く咳払いをしたようだった。
「じゃあ…触るけど、自分の体のどこが気持ちいいか、ちゃんと覚えて」
「……は、はい」
ドキッとしつつ、どうにか応えると、五条はの腹に置いていた手をゆっくりと胸の膨らみへと滑らせた。その感触にいっそう彼女の心臓が速くなっていく。
「…ン…」
「どこが気持ちいい?」
もう片方の手が動き、指先で首筋、耳の後ろを優しくなぞられると、ぞくりとしたものが走る。後ろから抱きしめるようにしながら耳元で問われ、は恥ずかしさから頬が一瞬で赤くなった。伸びてきた五条の骨ばった指が、シャツの上から胸の膨らみをやんわりと揉み始める。
「わ…わから…ない…」
「自分の体なのに?」
初めて男に、それも昨日までは最強の先輩だと憧れていた相手に体を弄られるなど思いもしていなかった。意識をするなと言われても、どうしたって意識してしまう。
出来ることなら今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。けれど、そうしてしまえば体の奥に刻まれたもののせいで、また眠れない夜を過ごすことになる。それでは何の解決にもならない。
「、集中して」
「…は、はい…」
長い指にくいっと顎を持ち上げられ、上から美しい青の虹彩に見下ろされる。それだけで下腹の疼きが悪化した気がして、は小さく深呼吸をした。
「これは?」
「…ひゃ…ぁっ」
シャツの上から乳首をきゅっと摘ままれ、の口から甘い声が上がる。下着すらつけていない場所を、シャツの上から指の腹でくにっと弄られるだけで、皮膚の下が逆立つような感覚が襲う。
彼女のその反応を見て「ここ弄られんの好きみたいだな」と、五条が呟いた。その聞きなれた、それでいて初めて聞く甘い声を耳が拾うたび、ぞくりと肌が粟立つ。
普段、接している時の声とは違う、女を感じさせようとしている時の男の欲を多分に含んでいるせいだ。
「ちゃんと気持ちいい?」
硬さが増した乳首をシャツの上から指の腹で優しく撫でられ、確認するように問われたは、恥ずかしさのあまり俯いたまま首を左右に振る。少しずつ体が前かがみに倒れてしまうのは、触れられるのが恥ずかしいからだ。五条の指が動くたび、声が洩れてしまいそうなほどの快感がそこから生まれていく。
呪印を刻まれてからというもの、自分の体じゃないみたいに敏感になってる気がした。さっきは自分で触ってもそんなことにはならなかったのに、五条に触れられると少しの接触でぴりぴりとした刺激があちこちに生まれていく。
それでもまだ恥ずかしさの方が勝ってしまった。これ以上、五条に触れられたら自分でもどうなるか分からない怖さがある。
呪いに襲われるようになってから、身体が勝手に快感を拾うようになった気がするからだ。あんな乱れた姿を五条に見せるのは耐えがたいほど恥ずかしく、にとったら死んだ方がましだと思う。
「ご…五条先輩…」
「ん?」
「こ、これしか方法…ないんです…か?」
だから、ついそんな質問をぶつけてしまった。方法がないからこその荒療治だと、ちゃんと理解しているのに。
案の定、五条からは「…ない、だろうな」という答えが返ってきた。
「呪印がオマエの中にある以上、攻撃することも出来ないし、反転も効かないんじゃあ、やっぱ硝子の言う通りにするしかないんじゃねーの?」
「…うぅ…」
いつもは優しい五条の素っ気ない言葉を聞いて、の目に涙がぶわっと溢れてくる。もしかしたら嫌われたかも、と思ったのだ。
仮にも呪術師のくせに、呪いに襲われたあげく、マーキングまでされたのだから、呆れられても当然かもしれない。それに呪いなんかに身体を穢された自分はもう誰とも恋なんて出来ない。そう思えば思うほど、死にたくなってしまうのだ。
「泣くなって…お…僕だってオマエにこういうことすんの不本意なの。分かる?」
が泣き出したことで、五条はこの行為が嫌で泣いてるのだと勘違いしたようだ。しかしはそこを否定する気力もなく、ただ頷くことしか出来ない。
「は…はぃ…ごめんなさい」
「じゃあ集中しろ。そんなんじゃ濡れるもんも濡れないし」
「……う、はぃ…」
ひっくと嗚咽を漏らしながらも、はどうにか頷いた。これ以上、五条の手を煩わせるわけにはいかない。
とにかく胎内の呪印さえ消滅させることが出来ればいいのだ。呪いに何度も襲われ、身体を弄られることを耐えてきたことである程度の免疫は出来ているし、今回は相手が五条であり、死ぬほど恥ずかしい気持ちはあれど、触れられることじたい嫌だと思ったわけじゃない。
だから、大丈夫――。
心の中でそう言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる為に軽く深呼吸をした。
「あ、あの…」
「…ん?」
「部屋…暗くしてもらっていいですか…?」
窓から入る日差しは得られない地下の部屋は電気が煌々と点いている状態だった。いくら何でもそれは恥ずかしい。
五条はの提案に「いいよ」と言いながら一度を放すと、立ち上がって電気のスイッチへ指をかける。
「これでが集中できるなら」
パチっという音がして室内が薄暗くなったことで、もホっと息を吐いた。真っ暗ではないものの数台あるパソコンの画面などで、相手の顏は薄っすら見える。
五条は「これでいい?」と訊きながらの前に立つ。思わず顔を上げると、五条はその長い腕を伸ばし、彼女の腕を引っ張り立たせた、かと思えば、膝裏に手を差しいれ、の体を抱きかかえた。急に体が浮いたことで慌てて視線を上げると、薄闇の中で輝く青い瞳と目が合う。こんな至近距離で見たのは初めてで、の頬が更に熱を持った。
「せ、先輩…っ?」
「いきなりソファでってのもね。やっぱ気分だけでもベッドとかの方がいいんじゃない?ま、簡易ベッド的なもんだけど――」
と言いながら、五条は奥に設置されてるベッドへ彼女を寝かせると、自分は着ていた制服の上着を脱ぎ捨て、ベッドへ膝をかける。五条の重みで小さなベッドがギシ…っと軋んだ。
「…こっちの方が僕も気分が出る」
上から彼女を見下ろしながら五条が呟く。アパタイトブルーの輝く瞳に、かすかな熱が灯ったような気がした。

高専内の地下にある一室――日が傾き、かすかにオレンジ色の光が差し込むだけの薄暗い室内に、ベッドの軋む音と控え目な喘ぎ声が響く。
「…ふ…ぁ…ン」
着ていたシャツの前はすっかり開かれ、赤く色づいた肌を曝け出しながら、びくびくと体を跳ねさせているのは、先ほどまで恥ずかしそうにしていただ。今では恥ずかしい、と言ってる余裕もないほどに喘がされていた。
骨ばった指が肌をなぞるだけで、の秘めた官能を無理やり引きずり出そうとしてくる。呪いに襲われたことでの性的感覚は享受できていると気づいた五条は、ただ目の前の女の子を感じさせるため終始すると決めたらしい。へ触れる動作に一切の遠慮もない。
ぞくぞくとした快感が止まらない体へ、ねっとりと舌を這わせられ、更に熱く湿った唇で肌を吸い立てられる。呪いに触れられるおぞましい感触とは全く違う。
五条の愛撫が上手すぎるのか、自分が快感に弱すぎるのかも分からないくらい、の全身が火照ってきた。
「…可愛い声。もっと啼かせたくなるね」
白い首筋に口付けながら囁くように言われると、の肌を更にざわめかせる。その低音ですら快感を強められ、溜まらずに甘い声を漏らすに、五条は妖しい笑みを口元に浮かべると、それまで触れてこなかった膨らみへと手を伸ばした。
「…ぁ…っ」
「かわい…ここ、こんなに赤くして」
両手でやんわりと胸を揉んでいた五条がふと呟き、ツンと上を向いている乳首を指でくにっと捏ねる。たったそれだけの刺激でもの細い肩がびくん、と跳ねた。さすがに恥ずかしくて無意識に身を捩ろうと背中が動く。ただ、それは無駄な足掻きだったかもしれない。不意に弄られた場所へ吸い付かれ、その強い刺激には背中をのけ反らせた。
「や…ンぁ…んんっ」
じんじんと疼いていたところを執拗に舌で舐られ、びりびりと電流に近い刺激が全身を駆け巡る。反対の胸は強弱をつけて揉みしだかれ、大きな手の中で卑猥な形に変えられていく。指先で乳首を強く捏ねられると、は甘い声を上げて再び背中をのけ反らせた。
(どうしよう…恥ずかしくて死にそうなのに、全部気持ちのいい感覚に持っていかれちゃう…五条先輩の舌や指の動きにおかしくなりそう…)
乱れているのは自分だけで、五条は余裕の顔でを攻め立ててくる。まだ軽い愛撫をされただけなのに、すでに息が乱れて胸が苦しい。
五条の愛撫に労わるような優しさはない。ただストレートにの官能を引きずり出そうとしてくる。それは目的の為には仕方のないことだと分かっていても、は少しの寂しさを覚えていた。そして、そんな風に感じてしまう自分が恥ずかしくなる。その思いが無意識的な行動に現れ、開かれたシャツを合わせてしまった。
彼女のその手を、五条がそっと掴む。
「だーめ。隠すなって」
「あ…ご、ごめんなさい…」
瞳を潤ませ、呼吸を乱しながらも声を絞り出すと、五条はかすかに笑みを浮かべたようだった。まだ恥ずかしい?と訊きながら、の瞳を覗き込んでくる。一気に距離が縮まり、至近距離で六眼を見つめると、その碧の中に吸い込まれてしまいそうなほど頭がふわふわしてしまった。
「だいぶリラックスしてきたみたいだから…そろそろ本気だすよ」
「……え」
まだ全然本気じゃなかったのか、と驚いたのもつかの間、再び胸に吸い付かれ、の声が短く跳ねる。すっかり硬くなった場所をちゅうっと強めに吸われると、勝手に肩がびくびくと震えてしまう。同時に大きな手のひらがの足先からふくらはぎ、太腿まで撫で上げ、彼女の片足を持ち上げるようにして折り曲げる。何をされるのかと驚いた瞬間、割れ目にゴツゴツとした指が触れた。そこを何度か往復するよう撫でられると、の体にまたぞくり、としたものが駆け巡る。
「…ひゃ…あ…ァ…ン!」
彼女を守っていた花弁が開かれ、その場所を何度も指が撫で上げていく。そのうち潤い始めたのか、五条の指の動きに合わせてぬちぬちとした卑猥な音が聞こえてきた。
「…濡れてきた」
「…ンン」
耳元で五条に恥ずかしい報告をされ、その羞恥で身を震わせる。ただ自分で触った時には何一つ濡れる手ごたえはなかったのに、五条に触れられたら数分と立たずに濡れたことに驚く。
湿った音が響く中、指の動きに合わせての甘い声が次第に大きくなっていく。すでに頭が痺れて蕩けるほどに気持ちがいい。まだ未経験だというのに、すっかり快感を拾える体になっているのが恥ずかしかった。なのにその羞恥心を上回るほど、五条に齎される快感の方が強い。快楽の波が耐えず襲ってくるせいで、も徐々に追い詰められていく感じがした。
「ご…五条…せんぱ…い、まだ…?」
今、触れられているところは濡れている感触がある。もう十分なんじゃ、という気持ちだった。
五条はちゅっと音を立てて胸から口を離したあと、軽く溜息を吐いて「まだ採取するには不十分だよ」と呟く。少し高揚してるのか、さっきよりも声が掠れてる気がする。
「だから…もうちょっと頑張って」
「は…はぃ」
「いい子」
五条の手のひらに頬を撫でられ、どきりとして瞳を揺らす。まるで恋人に触れるみたいな仕草に心臓が勝手に早鐘を打つのを止められない。
互いの息がかかるほどの距離でを見つめる碧の瞳が熱を帯び、揺れている。どこか求められてるように見えて、また頬がじわりと熱くなったは、このままキスして欲しい、と無意識に唇を開いてしまった。五条の顏が少し驚きの表情を浮かべたものの、唇が近づいてきたところで、それはすぐに離れていく。
「…ここ、だいぶ濡れてきたから指を挿れるけどいい?」
「…っ」
急に事務的な口調で言われ、もふと我に返る。
「痛いかもしれないけど、その時はちゃんと教えて」
「……は、はい…」
今、自分が感じたことが恥ずかしくなり、訳も分からず頷くと、表面を撫でていた指が膣口の方まで下がっていくのが分かった。え、と思った時にはちゅぷっという音をさせて、体内に異物が入ってくる感覚に襲われる。思わず声を上げると、五条は「痛い?」と彼女の髪を撫でた。そんな風に優しくされると、どうしていいのか分からなくなる。
「…大丈夫…です…つ、続けて下さ…い」
五条の腕にしがみつきながら、必死で恥ずかしさに耐えているを見下ろしながら、五条は小さく喉を鳴らしたようだった。
「え…」
覚悟をしていた矢先、ナカから指が引き抜かれ、驚いて顔を上げると、五条は小さく息を吐き出した。
「…やっぱ痛みあるなら、別の方法にするわ」
「え、べ、別って…」
と、戸惑った時だった。の太腿の裏を撫でるようにして持ち上げると、そこへ手を置いたまま五条が体を下にずらした。その体勢でもう片方の太腿を持ち上げて、両足を開かされたは驚いて「や、やだ…っ」と声を上げる。恥ずかしい場所を五条の目に晒しているせいだ。
「痛くしないから」
「そ、そうじゃなくて…そ、そんなとこ見ないで…先輩…」
「……こっちの方が効率よく濡れるし、何ならイカしてあげられる。同時に目的の第二段階まで進められた方がもいいでしょ」
「え…え?で、でも――」
「ああ、ちゃんとも呪力を体内に巡らせろよ?じゃないと行為自体が無駄になるから」
「え、あ…呪力…そうだった……ぁっン」
一瞬だけ現実に戻った時だった。恥ずかしい場所にぬるりとした感触。思わず腰を引きかけたが、五条の手によって戻されてしまった。
「…ンン…ぁ…ご、ごじょ…せんぱ…待っ…あ、」
柔らかい舌が割れ目を往復する。ぬるりとした熱いもので快楽の核を舐め上げられ、足が勝手にびくびくと震えてしまった。
先輩である五条にそんな場所を舐められ、死にそうなほど恥ずかしいのに、体が勝手に快感を追っていくのを止められず、はただ喘ぐことしか出来ない。呪いに襲われた時もされた行為のはずが、生身の人間にされる愛撫は段違いの刺激だった。未経験であるはずの体が徐々に追い詰められていく。
「…や…ンン…」
「ほら…凄い濡れてきた」
「…あ、あ…っ」
どこかを剥かれ、ぬるぬると指で捏ねられてるのが分かる。舐められるたびに、ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が立つせいか、さっき以上にその場所が濡れていることまでハッキリと。そのうち、五条はじゅるじゅると音を立てて溢れてくる愛液を啜り始めた。
「や、だあ…そ、それだ、めぇ…っン、あ…」
もう羞恥も何もなく、ただただ五条に喘がされ、快感で全身が粟立つ。呪いにも強制的にイカされてはいるが、その時以上の快感の波が全身に広がっていくのが分かった。
「…ンンぁあ…ご、五条…せんぱ…イ、イっちゃう…っ」
こんなことを言うつもりはないのに、勝手に恥ずかしい言葉が口から出てしまう。それほど強いオーガズムがそこまで来ているせいだ。
その時、「イっていいよ、」という五条の言葉が耳を掠めていった。

「…採取できたよ」
五条から連絡を受け、家入が私室に戻ると、ぐったりとした様子の五条がソファに座っていた。テーブルの上には愛液の入ったフラスコが置いてある。家入はそれを摘まみながら、ふと奥のベッドの方へ視線を向けた。そこには仕切りとして設置されていたカーテンが引かれている。
「…は?」
「あー…寝てる、かな」
気まずそうにそっぽを向く五条の様子を見て、家入はピンときたようににたり、と笑みを浮かべた。
「へえ、意識飛ばすまで攻め立てたってわけだ」
「…うるさいな。オマエが頼んできたんだろ」
「ってことは…」
「イカせた」
「呪力は?」
「もちろん彼女に流させた。んで、それ採取したけど、もう一度の体も調べてやって。中の呪印がどうなってるか」
「了解。まさか最初からそこまで進めてくれるとは。助かったよ」
家入は満足に言うと、空いたカップに熱いコーヒーを淹れ、ついでに砂糖の入った容器と共に五条の前に置いた。
「お疲れさん」
「…ハァ。疲れたなんてもんじゃない。そもそも呪力流しながらあんなことしたの初めてだし」
五条は溜息を吐きながら、いつものように砂糖をどぼどぼとコーヒーに投入している。それを「うげ」とした顔で眺めつつ、家入も向かいのソファに腰を下ろした。
「そんな疲れたんだ。へえ」
「何だよ…言っとくけど、あんなの男にとったら蛇の生殺しだから」
「まあ、そうだろうねぇ。可愛い後輩のあられもない姿が目の前に晒されてんのに触る以外、何も出来ないんだもんねー。ってか、そこまでしたなら最後まですることも出来たんじゃないの」
「…オマエ、マジで鬼だな、硝子。クズはどっちだよ」
五条が舌打ちをしながら、コーヒーをずずずっと音を立てて飲みだす。その目は家入に対し、恨みがましい呪いを発してるようだった。
「何でよ。その方が私の仮説の立証になるじゃない。だいたい彼女のことを思うなら早く終わらせる方がいいんだよ」
「バカじゃねえの。最初からヤれるわけねえだろ。それ採取すんのにもえらい時間かかってんのに」
「そりゃそうか…。でもまあ…まずは一歩進んだね」
家入はカップを手に立ち上がると、「の体は意識が戻ったらちゃんと調べてみるから」と手を振って歩いて行く。その背中を見ながら五条は再び舌打ちをした。
「それ、ちゃんと役立てろよ」
つい恨みを込めてそんな言葉をぶつければ、家入は足を止めて振り返り、ふんっと鼻で笑ってみせた。
「誰に言ってんの。ちゃんと役立てるに決まってんでしょ。可愛い後輩の為にもね」
そんな強気な台詞を口にすると、今度こそ家入は部屋を出て行った。
「ハァ…ったく。俺にとっても可愛い後輩だっつーのに…何であんな…」
頭をガシガシ掻きながら、ふとベッドの方へ視線を向ける。そこからは穏やかな寝息がかすかに聞こえていた。
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