11-灰色の世界⑦
小学校の呪いを祓ったあと、五条さんが調べてくれたら、やはり被害者は年に数人ほど出ていたらしい。生徒ばかりじゃなく、学校の職員も行方不明者が出てたのに、その報告は高専の方まで上がってこなかったようだ。
それもこれも、この地区の"窓"が学校側の言うことを鵜呑みにして「ただの失踪」として重要視せず、確認を怠っていたからだそうで、今後は小さな噂話でも徹底して調べさせると約束してくれた。
「助けに来てくれてありがと……」
施設まで送る途中、は緊張が解けたようにべそべそと泣き始めた。俺にお礼を言いながらもぐすっと鼻を鳴らして、顏はもう大粒の涙でべしょべしょ。その顏を見てたらおかしくなった。思ってた以上に厄介で面倒な奴。そう思うのに何故か嫌いになれない。
嫌うどころかの無事を確認した時からずっと胸の奥が苦しくて、もう少しでコイツを失うところだったという恐怖みたいなものが、俺の中にこびりついて離れそうになかった。
あの夜以来、少しずつ意識が変わって、俺は気づけばを目で追うようになってた。
相変わらずクラスの女子からはのけ者にされてたけど、彼女はもう前のような作り笑いを見せることもなく、厄介な頼まれ事も自然な笑顔で断っていて、アイツなりに自分を変えようとしてるように見えた。
そんな時、クラスで席替えがあった。俺は窓際の一番後ろという特等席。は窓際の一番前。俺の席からはアイツの様子が良く見える。ちょこまかと授業の準備をしたり、授業中は熱心にノートをとっていたり、たまに字を間違えたのか消しゴムを必死に擦り出す。その内びり、という音がしたから消しゴムで擦りすぎてノートを破ったんだろう。思わず顏を窓の方へ向けて小さく吹き出した。アイツのわたわたし始めた空気が伝わってくる。俺でも分かるくらいなんだから当然、教室全体を見渡せる場所に立っている教師も気づいたらしい。「、どうした」なんて声をかけられてんだから、ほんと笑うしかない。
(相変わらずドジなヤツ……)
笑うついでに欠伸を噛み殺して外へ視線を向ければ、窓の向こうではぬるい風に吹かれて、青々とした木々たちがざわめいてる。遠目にはグラウンド。その中に津美紀を見つけた。どうやら三年は体育の授業らしい。いくら夏の終わりとは言え、まだまだ外で運動するには暑いだろうに、津美紀はいつもの笑顔で楽しそうにクラスメート達と笑い合っていた。
ガキの頃、家族になった俺達は互いの親が姿を消しても、どうにか二人で生きてきた。津美紀はそんな苦労を見せたことはないけど、何も感じてないわけじゃない。
ただ、どうしようもない今の現状を受け入れているだけ。その上で笑っていられるんだから強い人だと思う。俺もそろそろ自分の運命を受け入れていかないと。
それに津美紀が卒業する頃までには、高専へ入学すること、家を出ることを伝えなきゃならない。
(ああ、そうか。卒業したらにも会えなくなるんだな……)
そんな当たり前のことを思い出したら、胸のどこかに穴が空いたような、そんな空虚を感じた。
手に握ったままのシャーペンをカチカチと鳴らしたのは無意識で、どこか落ち着かない気持ちを落ち着けようとしたのかもしれない。
そう言えばは卒業したあと、どこへ進学するんだろう。最近よく話すようになったけど、そういった類の話はしたことがない。
自然と駅前の空きビルに呪いが見えただとか、そういう騒動な話題が多いせいでもある。
俺はのことを実は何も知らないというのを、今更ながらに気づいた。
俺と同じ境遇で育ったこと、呪いが視えるってこと、それにドジで落ち着きがなくてお人よし。
あとは――甘い物と花が好きということ。
俺の中のは色んな顔を見せるのに、手持ちの情報がこれだけってのは驚く。
もっと知りたい――。
自然と過ぎった思いでふと我に返る。じわ、と熱が顔に集中して心臓まで一気に速くなった気がした。
こんな風に感じたのは初めてだから戸惑いや困惑といった感情が綯い交ぜで、こうなると授業どころの話じゃなかった。別に高専じゃ普通授業なんて特に必要ないって聞いてるからどうでもいいけど――五条さんが言ってたから疑わしいが――この日は結局、何も頭に入ることなく、気づけば放課後になっていた。
「――あ、ヤベ」
帰り支度をしていた時、今朝津美紀に言われたことをふと思い出した。
――今日、ちゃん暇か聞いてくれる?
――あ?何で……。
――この前クッキーの焼き方を教えて欲しいって言われたの。私も今日は何の用もないし、もしちゃんも用がなければ今日はどう?って聞いておいて欲しいの。
そんなやり取りをしたのにすっかり忘れていた。休み時間は教室に他の連中もいたから話しかけづらくて出来なかったし、そのあともに話しかけるタイミングがなく、一日が過ぎてしまって今に至る。
「クソ……アイツ、もう帰ったのかよ」
席を見ればすでに姿はなく、俺は慌てて廊下へ飛び出した。別にケータイにかければ済む話なのに、この時の俺はそれすら忘れていた。
そしてエントランスホールまで下りた時だった。唐突に「ちゃん」という声が聞こえて足を止める。ちょうど二年の下駄箱付近。そこにと見たことがある男子生徒がいた。以前、屋上で俺が助けた三年の奴だ。
呪いに一度喰われて中てられてたから、五条さんが高専の術師を手配してくれて治療を受けさせてやったところまでは知っている。
それからは普通の病院へ入院してたと聞いていたが、もう完全に回復したらしい。
先週から復学してたことはからもチラッとは聞いていた。ただがあの後も心配してアイツらの見舞いに行ってたことは俺もその時初めて知った。
(その先輩がに何の用だよ……)
二人は何やら言葉を交わすと、そのまま一緒に歩いて行く。おかげでこっちは声をかけそびれてしまった。
「……チッ。お人よしめ」
見舞いに行ってたと聞いた時も思ったことだ。アイツらは自分に何が起きたか覚えてないんだから放っておけって言ったのに。
二人で門を出て行く後ろ姿を見送っていた俺は、どうにも不快な気持ちがこみ上げて、家へ向かって歩き出す。別にが誰と帰ろうが俺には関係ない。津美紀には用があったらしいとでも言えばいいだろう。
「……」
そう思ったのに――勝手に足が止まってしまった。
はお人よしすぎるから、色々と厄介ごとに巻き込まれる。もしさっきの男に何かされたら――。
そんな思いが過ぎったのは、がやたらと男ウケする体質なのを思い出したからだ。クラスの男どもが密かにアイツを狙ってるのも知ってる。そもそも女どもがをはぶりだしたキッカケってのもそこだった。
自然と足が元来た道を戻り、二人が歩いて行った方へ向かう。この先は確か小さな公園があったはずだ。二人がそこへ向かったという根拠はないが、それほど親しくもない先輩とがどこかへ出かけるというのも考えにくい。俺は迷うことなく公園へと走りだしていた。ジリジリと、どこかが焼けるような痛みが身体中に広がって行く。
「――ごめんなさい」
公園まであと数歩、というところで、の声が聞こえて来て立ち止まる。俺の予想は当たっていたようだ。二人が向かった場所だけじゃなく、他のことでも。
はあの男に頭を下げていて、下げられてる男は頭を掻きつつ「やっぱ無理か」と苦笑している。どういう状況かなんて、二人の会話を聞かずとも分かった。
「ま……ちゃんが責任感じて俺達の見舞いに来てくれてたのは薄々分かってたけどさ。あの事故のことは気にすんなよ。俺らがちゃんの忠告を無視して屋上に上がったわけだし。まあ、でもまさか柵が壊れてて落ちるとは思わなかったけど」
「は、はあ」
どうやら高専側は無茶な事故をでっち上げたようで、呪いに襲われた前後の記憶がない二人にはそう説明したらしい。屋上の柵が壊れて落ちたことになっているようだ。にも事情は話すなと言ってあったから、複雑そうな返事をしている。
「ま、でも可愛い後輩がマメに見舞いなんて来てくれるから、俺もちょっと勘違いして告ったわけだけど……付き合えないってことは誰か他に好きなヤツでもいんの?彼氏はいないって言ってただろ」
「え、えっと……」
やっぱりその手の話だったらしい。は困ったように俯いている。でもまあ、この先輩が無茶なことをするタイプにも見えないし、少しだけホっとした俺は覗き見してる後味の悪さもあって、もう帰ろうと踵を翻した。
だけど――さっきから痛みを生み出してるどこかが疼いて、もう一度振り返る。
「もしいないなら……試しに付き合ってみるとか……ダメ?」
男の方はどうしても諦めきれないようだった。俺の記憶じゃ二人はあの屋上での件で初めて言葉を交わしたはずだ。なのに何でそんな熱量で告れるのか謎だった。のこと何も知らないくせに、何で付き合おうだなんて簡単に言えるんだろう。
内心そんなことを思いながら見ていると、は不意に顔を上げて、もう一度「ごめんなさい」と謝った。
「います」
「え?」
「わたし、いるんです。好きな人……」
それまでの頼りなげな声じゃなく、ハッキリと聞こえたその言葉に思わず息を呑んだ。にそんな相手がいたなんて初耳で、帰ろうと思っていたはずの足が地面にくっついたかのように動かない。
「え、いるんだ。好きなヤツ」
男の残念そうな声が聞こえる。
「同じ学校のヤツ?」
「え……あ、まあ」
「同じクラスとか」
「う……そ、そうです」
「マジかぁ……」
馬鹿正直に応えたことで、男が更に残念そうな声を上げた。だけど同じクラスに好きなヤツがいるという告白には、俺も少しだけ驚いていた。一瞬、クラスの男どもの顏が次々に浮かぶ。どいつもこいつも心当たりがありすぎて誰とまでは分からないが、全員がに優しく接してるヤツばかりだ。アイツが誰を好きになってもおかしくはない、と思う。
「どんなヤツ……?」
「え?」
「ちゃんが好きになる男って、どんなヤツなのかなって」
その問いには一瞬黙ったものの、少し間を空けてからぽつりぽつりと話し始めた。
「凄く……優しい人、です。お姉さん思いだし。あ、でも普段はちょっと不愛想で怖いところもあるんですけど……不器用なだけで、いざとなれば他人の為に必死になっちゃうし……心の奥に……強い信念みたいなものがある。そんな人です」
「……信念?」
「……わたし達の歳でそんなもの、普通はないですよね。だけど彼にはそれがあるんです。今日まで沢山のものを背負って来たんだろうなって思うし、その分、人に厳しくも優しくもなれるっていうか、時々わたしが無茶した時にはきちんと怒ってくれる……そういう人だから好きになったんです」
「そっか……って俺の出る幕はないって感じだな、それ」
先輩の男は苦笑交じりで言うと、もうそれ以上に何かをいうことはなく、「ソイツと上手くいくといいな」という言葉を残して去って行く。俺はただそれをボーっと見ていただけで、が帰る為にこっちへ歩いて来たことすら気づかなかった。今の告白を聞いて、その"好きなヤツ"というのが誰のことを指すのか気づいてしまったから――。
「えっ?ふ、伏黒くん……っ?」
公園から出て来たは、入り口付近で突っ立っていた俺を見て、心底驚いたような顔で立ち止まる。そして一気にその色白な頬を真っ赤に染めた。彼女のその顏を見ただけで、俺の予想は当たっているんだと言われた気がした。
「な、なな何でいるの……?」
「何でって……」
今のこの状況で「心配だったから」なんて言えるはずもない。
ぬるい風を頬に浮けながら、真っ赤になって固まっているを見下ろした。夕焼けがゆっくりと色を変えていく。
「……き、聞いてた? 今の……」
「……まあ。聞……こえ、た」
「う……」
何となく照れ臭くなって顔を反らすと、は分かりやすいくらいの反応を見せた。俺の自惚れでも何でもないなら、やっぱりさっきの告白は――。
先ほどまで焼けるような痛みのあった場所が、今度は身体中の血液が集中したのかと思うほどの勢いで脈を打ちだす。多分、いや、絶対。俺もと同じくらい顔が赤い自覚はあった。
夕日に紛れて気づかれないことを祈りつつ、俺は彼女に「送る……」と一言告げた。別に直接言われたわけでもないから、どういう顔で向き合えばいいのか分からなかっただけだ。それにまだ少し半信半疑といった気持ちだった。
なのに――は歩き出した俺の腕をガシっと掴んで「待って……っ」と叫んだ。
「な、何で何も言ってくれないの……?」
「……何もって何だよ」
「え、だ、だから……今の聞いてたんでしょ……?」
この様子だとは俺に全部バレてると思ったらしい。振り向くと未だに真っ赤な顔で俺を見上げてきた。コイツのこういう無防備な顔は、俺の心臓へ更に追い打ちをかけてくるんだからタチが悪い。
「聞いてた……けど」
「だ、だったら――」
「っていうか……何で俺に言う前に他のヤツに言うわけ。ああいうのは本人に言えよ」
「え」
の追い打ちのせいで、つい本音が駄々洩れした。彼女は驚いたのか、大きな目をまん丸にして固まっている。その表情が驚いたプレリードック――見たことねえけど――みたいで思わず吹き出す。
ああ……厄介なことに気づいてしまったかもしれない。
彼女のその顔を見てふと思ったのは、俺もコイツのことが――。
「ふ、伏黒くん……?」
固まったままのの手を引き寄せて抱きしめた。何で、とかどうしてと疑問ばかり浮かぶのに、俺の中に芽生えた想いはブレることもなく。コイツのことが好きなんだと知らしめてくる。
「なあ……」
「……は、はい」
「さっきのもっかい言ってくんねぇ?」
額同士を合わせて呟けば、の丸い瞳がじわりと潤んだのが分かった。

「えー!じゃあ、それがキッカケで付き合ったわけ?」
「う、うん、まあ……」
野薔薇ちゃんに話し終えたところで喉がカラカラになったわたしは、残りのアイスティーをストローでずずずっと飲み干した。ホントは恵に口止めされてるんだけど、野薔薇ちゃんの教えてオーラに屈してしまった形だ。
「へえーほぉー。あの伏黒もに絆されたってわけかぁ」
「ほ、絆されたかどうかは……でもあの時は恵も同じ気持ちでいてくれたなんて思いもしなかったから、ただただ聞かれたことに焦っちゃって、ちゃんと告白らしい告白はできなかったんだ」
「でも付き合えたんだから良かったじゃない」
「うん。それはもう……ほんとに」
「うわ、惚気んなし」
野薔薇ちゃんが呆れたように笑うから、わたしも釣られて笑う。
いっぱい怖い思いをしたけど、あの時、屋上や小学校で無茶な行動をしなければ、きっと恵ともただのクラスメートで終わってたと思うから、今はアレで良かったと心から言える。まあ、恵は未だにトラウマなのか、日頃から「無茶だけはするな」としつこく言ってくるけど、それもこれも全部恵からの深い愛情だと思って受け止めていた。
「え、それでから改めて気持ちを伝えた時、伏黒はなんて応えたわけ?」
「えっ」
「もうそこまで話したんだからいいじゃん。教えてよ」
野薔薇ちゃんはぐいぐい身を乗り出してくる。とことん都会で彼氏を見つけるための参考にする気らしい。
「え、っと……伏黒くんが好きって言ったら――」
「言ったら?」
「じゃあ、付き合――」
と言いかけたところで唐突にゴツンという衝撃が頭頂部に落ちた。びっくりして振り返ると、そこには口元を引きつらせた恵と、満面の笑みでピースをする悠仁、その後ろにはニヤニヤした五条先生までがいる。この予想外の登場にわたしも野薔薇ちゃんも絶句してしまった。
「え、な、何でここに――」
「オマエ、今、何話してたんだよ」
「へ?べ、べべ、別に……!っていうかどうしてここにいるって分かったの?!」
ヤバいと焦ったものの、みんながここへ来た意味が分からず尋ねると、恵が心底呆れた顔でスマホを見せて来た。
「オマエがこの前お互いのスマホにGPS入れようって言いだしたんだろ」
「え?あ……そ、そっか……」
そう言われて思い出した。恵がわたしと野薔薇ちゃんの二人で出かけることをあまりに心配するから、「じゃあどこにいるか、すぐ分かるようにしとく」と言ったんだった。そのついでに恵にも同じアプリを入れてもらったのは、別に浮気防止とかじゃなく、単に別行動をしてる時、恵がどこにいるかわたしが知りたかったからだ。
「でも、何で来たの? 今日は悠仁とお出かけしたんじゃ……」
「その出先でまた五条先生に見つかったんだよ……んでたちと合流しようって話になった」
「そうだったんだ」
「ハァ?別に来なくていいわよ。こっちは女の子同士で楽しいデート中だったのに」
野薔薇ちゃんは不満たらたらで呑気に笑う悠仁や五条先生を睨んでたけど、「じゃあみんな揃ったことだし飯でも行く?」という先生の言葉に素早く反応した。
「はい!私、しゃぶしゃぶがいい!」
「え、俺、焼き肉がいい」
「あ゛? 田舎もんは黙ってろ」
「いや、釘崎も田舎もんじゃん」
「うっさいわね!田舎もんだから、都会でしゃぶしゃぶするのも夢だったのよ!」
「えー。同じ肉なら焼こうぜー。お湯で茹でんのもったいねえじゃん」
「はあ? もったいなくない!それにお湯じゃなくてだし汁で茹でんの!ほんっと何も知らないわね、虎杖はっ」
「はいはい、ケンカしない!じゃあ、焼いてもOK、しゃぶってもOKって店に行く?」
「いや、何かエロいな、その響き」
「にやけんな、虎杖のエロガッパ!」
「何それ。そんな生き物いねえだろ」
デジャブかな?と笑ってしまうくらい見たことのある光景を眺めながら、隣に座った恵を見上げる。この顔は絶対バレてるだろうな、とちょっとだけ落ち込んでると、不意に頭をくしゃりと撫でられた。
「今日は何買ったんだよ」
「え? あ……メイク道具とか……下着とか」
「ふーん」
「あ、あと恵のパンツも買っておいたよ。好きそうなデザインのものがあったから」
「ば……っ何言ってんだよ、こんなとこで」
わたしの言葉に過剰反応した恵は、薄っすら頬を赤くした。でも野薔薇ちゃんも悠仁も先生も夕飯のことで騒いでるから、こっちの会話は聞こえてないっぽい。
「大丈夫だよ。みんなお肉の話で盛り上がってるから聞こえてないもん」
「はぁ……ってか別に俺のもんなんか買わなくていいのに」
「だって恵が好きそうだなーって思うの見つけたら買いたくなるし……」
「……ったく。女同士で買い物行くの夢だったんだろ? そっちに集中すりゃいいのに」
確かに恵の言う通りだけど、でもやっぱり気づけば恵のことを考えちゃうわたしがいる。
誰といたって、きっとそれはこの先も変わらない。
恵はわたしの救世主で、わたしの灰色だった世界を明るく照らしてくれた人だから、会えない時でもこの想いはいつも恵に向いている。
それに――そんなことを言ってる恵もどこか嬉しそうだから、わたしも嬉しい。
「帰ったらパンツ穿いて見せてね」
「……見せるわけねえだろ」
恵の腕に自分の腕を絡ませながら甘えたら、やっぱり顔を赤くした恵にデコピンされてしまった。
「はい!そこイチャイチャしなーい!」
五条先生がいつもの台詞を叫んで、それに反応した野薔薇ちゃんと悠仁も加わっていっそう賑やかになる。その明るい輪の中に恵がいて、「ウザ」と言いながらも楽しそうにしてる姿を見るのが好きだった。
そんな幸せを感じた、ある休日のお話――。
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