※性描写あり。七海さんのイメージを損ないたくない方はご注意下さい。


01.

一級呪術師、七海建人は自他ともに認める大人であり、紳士であり、また悲しくなるほど規定側の人間である。事実に即し、己を律するを信条に、これまで一般的なルールというものを破ったことはないし、また最低限のマナーもきっちり守ってきた。たとえそれらを全て覆してくるような規格外の先輩を目の当たりにしながら苦い青春を送ったことがあっても、七海があちら側へ行くことはなかったし、むしろ彼らを反面教師として自分はああはならないぞ、と常々思って生きてきた。
なのに。なのに、だ。一体全体これはどういうことだろうか――?と、七海は頭の隅で考えた。
今現在、自分の下で可愛く喘いでいる女を見下ろしながら、ふと我に返る。これは自分の嫌うマナー違反、いや、マナーうんぬんの前に"セクハラ行為"に値するのでは、と。

「…んん…っな、七海さ…ん…ぁ…ン」

しかし彼女の反応を見る限り、その心配はなさそうだ。腰を止めた七海に対し、おねだりするように手を伸ばし、彼の腰をするりと撫でてくる。そこから再びぞわりとした欲が擡げ始め、同時に七海はまたイラっとした。
さっきまでは、あんなに抵抗してたくせに、という矛盾した怒りと、自分に言われたことを彼女が少しも理解しておらず、こんな風に無防備に誘うようなことをしてくる憤りで。
あとは――自身の理性を容易く崩されたという、屈辱の情で。

そう、そもそも。こうなったのは全て彼女が原因であり、悪いのも彼女の方だ。最初にセクハラまがいの行動をしたのも彼女であり、七海はその愚行に対し腹を立て、彼女に身をもって戒めてるだけ。そう結論付けた七海は、頬を上気させ、可愛く喘いでいる彼女をあくまでお仕置きする意味で、抽送を再開した。すでにぐずぐずの場所からは腰の動きに合わせてぐちゅぐちゅと卑猥な音が漏れていて、それを沸騰した頭の隅で聞きながら、七海は全くもって、この子はけしからん、と改めて思う。

先ず言わせてもらえば。二人は恋人同士でも何でもなく。ただの呪術師と補助監督という関係に過ぎない。それ以前に七海は彼女――が自分についた時は、出来れば他の補助監督に変えて欲しいと切実に思うくらいには、彼女のことが苦手だった。
その理由は色々、本当に色々あるのだが、最大の理由は彼女が男好きするような可愛らしさと、無邪気さを兼ね備えたような女だからだ。
世間一般に言えば、男好きのする女とは、そこはかとない色気があり、出るとこは出ているような女だったり、または守ってあげたくなるような庇護欲を刺激してくるぽてぽてっとしちゃってるような女の子だったり、まあ他にも沢山あるのだが、長くなるので今はこの二つに絞っておこう。

因みに七海は当然、前者の方がどちらかと言えば好みだった。大人の自分にしっくりくるような、大人の会話を楽しめる、これまた大人の理知的な女が。しかしこのという女は、どちらかと言えば後者に近いタイプで、曲がりなりにも呪術界に属してるわりに、どことなく男の庇護欲を刺激して来るような女だった。
術師の才能はなかったようだが、世間的に見れば良い家のお嬢さま。どこか呑気で朗らか、また無邪気に術師というだけで誰彼かまわず信用してしまうような単純なところがある。よって下心をぶら下げて近づいてくる術師の男達にも無駄に愛想がいい。

外見は文句なく可愛らしい顔立ちで、まだ何にも毒されていないあどけなさと、脚も頬ももっちり柔らかそうで、まだ幼少時代の曲線を残してる気がしてしまうほどに、ぽてぽてとしている。これは体がぽっちゃりしてるということではなく、あくまで彼女の持つふんにゃりとした雰囲気だ。しかしながら出るとこはしっかり出ているので、妙な色気があったりする。そんな女から愛想を良くされれば、単純な男どもは「この子、オレに気があるのでは」と思ってしまうのだ。実際そういう男が後を絶たないのを、七海は知っていた。
高専で働く八割の男術師がのことを狙っているとか、いないとか…まあ、そんな感じだ。

七海の性格上、そういう女に周りをウロウロされたら、どうしても心配になってくる。明らかに下心ありで彼女を食事に誘う者、または健全風に映画やテーマパークなどに誘う者、はたまたストレートに告白をしてくる者などなど、上げればキリがない。なのにこのという女は少しも危機感がない様子で、誘われたらホイホイ出かけていくのだ。さすがに交際ともなると断っていたらしいが、そういう男にも無駄に優しいので、諦めきれずに拗らせる男も中にはいるし、ハッキリ言って蛇の生殺し状態でキープ――彼女は無自覚――されているようだった。

そんな光景を幾度となく見せられてきた七海だったが、彼女に対しても態度は変わらない。ミスをすれば叱るし、指導すべきところはきっちり指導するので、他の術師みたいに甘やかすようなことはしてこなかったつもりだ。そこを買われたのかは知らないが、半年前、夜蛾学長から呼び出され、「彼女をなるべくお前に任せようと思う」と言われてしまった。何でも他の術師につけると、上記の理由で何かと問題が起こりそうで心配なのだという。出来れば数少ない補助監督志望の子。大事に育てたいらしい。そこで理性の塊のような男、七海建人に白羽の矢が立ったというわけだ。お前ならあの子に手を出そうなんて思わないだろう?と暗に言われたようなものだった。
七海からすれば、「人を堅物みたいに…」という気持ちくらいはあるので少し気に入らないが、学長命令ともなれば即座に拒否するわけにもいかず、現在に至っている。
なので他の補助監督が忙しい時――ほぼ忙しいのだが――は、が七海につくことが多くなった。

この半年の間にも本当に色々と問題はあったし、七海の気苦労も絶えなかったのだが、けれども。それでも今日ほどイラっとしたのは初めてだった。
先ず初めに言っておくと、七海とてそんなつもりはなかったし、また変な下心もなかった。いくらがふんにゃりとした可愛らしいぽてぽてガールでも、厭らしい目で見たことはないし、酒を飲んだら仔猫の如く、ふにゃふにゃ甘えてくるタイプだったとしても、デレたことは一度もない、はずだ。いくら規格外の先輩に「七海って意外とロリ系好きそうだよねー。むっつりっぽいし」と揶揄されても、断固として違うと言ってきたし、また自分をロリコンのむっつりとも思ってはいない。
もちろん七海とて男なのでエロい行為は嫌いじゃないが、そういった欲望はあくまで惚れている女だけに向けるものであり、決して付き合ってもいない五つも年下の後輩兼補助監督に、男の浅はかな欲をぶつけようとは思っていない。
いや――いなかった。
なのにその七海の鉄壁防御で守られている理性をいとも簡単に崩してきたのは――やはり彼女、であった。

前置きはこのくらいにして。何故この二人がすでに致してしまっているのかと言えば、時間を八時間ほど前に遡る。
今日も今日とて呪霊祓徐の依頼が入り、七海は地方へ出張という形で出向くことになった。当初はザ・ミスター補助監督とも呼び声の高い七海の後輩にもあたる伊地知が、本日の補助監を務めるという話だったので、七海も多少ホっとはしていた。
だが蓋を開けてみれば、自宅マンションに七海を迎えに来たのは、彼が苦手と豪語しているその人。
インターフォンが鳴って応答すると、モニター画面に花が綻ぶような可愛い笑顔が映り、「おはよう御座います!七海さん」と挨拶をされた時は、思わず口に入れたままの歯ブラシを落としかけたし、つい二度見までしてしまったくらい驚いた。ついでにスマホが鳴ったので出てみると、それは今日の担当となる予定の伊地知からだった。

『すみません、七海さん!五条さんから急な呼び出しが――!代わりにさんを向かわせましたので、どうかお許しを!』

たったそれだけの説明で七海は現状を把握。脳内で目隠しをした先輩が<あはは、うふふ>とスキップする映像が流れ、若干の殺意を覚えたが、まあそこは紳士なので冷静に「分かりました」とだけ応えて通話を終わらせた。伊地知の声が微妙に泣き声だったことから、理不尽な先輩の急な呼び出しに同情すらしたのだが、目の前のモニターに未だにこにことしながら映っている彼女を見て、盛大な溜息を吐く。今日も一日長そうだ、とボヤきながら、七海は朝から憂鬱になったのだった。
とりあえず、どんなに憂鬱でも任務は待ってくれないので、彼女の危なっかしい運転を叱りつつ、二人で東京駅へ。そこから新幹線で秋田県のとある田舎町までやって来た。
ちょうど半年前に潰れて廃墟となった温泉宿に、大量の呪いが発生してるとのことで、七海とは市役所の人間に現場まで送ってもらった。
昔は栄えた温泉宿も、現在は荒れ果て若者のたまり場と化しているようで、特に最近では見た目から勝手に心霊スポットと呼ばれだし、そのせいで余計な呪いが発生したらしい。ざっと確認して回ったが、殆どが低級呪霊だったこともあり、七海も特に苦労することなく祓い終え、問題なく日帰り出来るはずだった。なのに――。

「ありがとう御座います!それであと二つほど祓ってもらいたい温泉旅館がありまして…」

と、強引に引き留められてしまった。何でもこの辺の温泉街は近年の不興の煽りを受け、潰れた旅館が他にもいくつかあるという。そこも同じように廃墟と化し、どこぞのユーチューバーが肝試し企画と称してライブ配信を行ったことから、一気に心霊スポットとして広まったようだ。

「最初はただの廃墟だったんですが、ここ最近は肝試しにやって来た若者たちが相次いで行方不明となってるようでして…是非、助けて頂きたく…」

…なんて市の職員に泣きつかれたら、七海とて断る理由はない。呪霊の実害を受けてるならば呪術師としての任を全うするだけだ。
七海は快く承諾すると、「その配信動画みたことあるー!」と何故かウキウキしているを連れて、現場へと向かった。

その旅館は確かに準一級相当の呪霊が蔓延っていたものの、しかし言っても都会の呪いとは違い、それほど脅威でもなかったため、七海はそれらをサクッと祓って回った。そして全ての祓徐を終えた頃には、すっかり夜の帳も下りていたので、市の職員の案内で、去年出来たばかりと言う旅館へ一泊する運びとなってしまった。本当ならサッサと帰りたいとこではあったのだが、現在地からどんなに急いだところで最終には間に合わない。仕方なく、そこへ泊まることにした。
この現状に大喜びしたのはだった。

「美味しいもの食べて温泉入ってのんびりしましょー七海さん!」

大きな瞳をキラキラさせて七海の腕に自分の腕を絡ませてくる彼女は、一仕事を終えて緊張も緩んでいるようだ。こういう無駄なスキンシップはいけません、と叱ったものの、緊張が解れたのは七海も同じこと。今夜のところは彼女に同意し、二人は旅館の部屋へと案内されることになった。まずはそれぞれが温泉へ入り、汗を流したあと、運ばれてくる食事は七海の部屋でとることにした。秋田の料理はどれも美味しく、また酒も美味しいため、ついつい日本酒の追加をしてしまう。当然、風呂上りの二人は浴衣姿で寛いでいるため、普段よりは酔いが回るのも早いのか、はすぐに頬が赤く染まっていった。まあ彼女が飲むと、こうなることは百も承知。だいぶ目がとろんとしてきたな、と感じた七海はスマホの時計を確認した。時刻はちょうど午後11時になろうという頃。明日は朝一の新幹線を予約したので、七海は「そろそろお開きにしましょうか」とへ声をかけた。…が、すぐに七海の目が細められた。
七海と同じく日本酒好きだというだが、好きだからと言って強いわけではない。よって、今はくたりとしながら、いつもの仔猫状態で「冷んやりして気持ちいー…」とテーブルに頬ずりしている。残暑も厳しい今時期、東北とはいえ気温はやはり高いので、酒を飲んで火照った体には余計熱く感じるらしい。そういう七海も浴衣のせいで多少の暑さを感じていたが、着崩すという考えはないので我慢していた。彼女が部屋へ戻ったあと、寝る時に脱げばいい。そう思っていた。
それが、まさかこの後、自ら彼女の前で浴衣を拭ぐはめになるとは、この時の七海は想像すらしていなかった。

「あれぇ、お酒ない…」

自分の分の冷酒の入ったガラス細工の徳利を指でつまみながら、はそれをぷらんぷらんと揺らしている。まだ飲み足りないのか、フロントへ電話をしようと床を四つん這いで這っていく。その姿を見て七海は呆れたように項垂れた。

「はぁ…そうでした。あなたに日本酒を飲ませてはいけませんでしたね」
「えぇ…何でですかぁ…?」

は顔だけで振り返り、視線の定まらない目を七海に向けてくる。すでにふにゃりと眉は下がり、頬も赤く、完全に酔っ払っているような顔だ。なのに酒の追加注文をしようと部屋に設置された電話へ手を伸ばしている。それを見た七海は「やれやれ」と溜息を吐きながら立ち上がると、彼女の方へ歩いて行った。そして持ち上げたばかりの受話器をうばい、それを元の場所へと置く。は当然ながら、不満そうに口を尖らせた。

「何で切るんですかぁ、七海さん…」
「あなた、だいぶ酔っ払ってるでしょう。これ以上飲むのは体に良くない。明日、二日酔いで移動したいんですか?」
「まだ、だいじょぶですー。さっきちゃんとウコンも飲みましたよー」
「…飲む気満々じゃないですか、それ」

しっかり二日酔い対策をしていた彼女に苦笑していると、が今度は設置された冷蔵庫に目を付けたらしい。またしてもずりずりと四つん這いで這っていくと、その冷蔵庫から缶ビールを出して飲みだした。酒飲みなら分かると思うが、最初のビール、途中でサワーやウイスキー、日本酒といったものに切り替えて、たらふく飲んだあと、最後に再びビールを飲むと、それ以上に人は酔っ払う。それには理由があるらしいが、この際それは置いておいて。今は彼女にこれ以上の酒を与えてはいけないということだ。
当然、七海もすぐに彼女の手から缶ビールを奪った。だが喉が渇いていたのか、すでに半分は飲んでしまっている。

「全く…ダメだと言ったでしょう。喉が渇いたなら水を飲みなさい、水を」
「はーい…」

日本酒のあとビールはさすがに効いたらしい。そこは素直に返事をして、は冷蔵庫からミネラルウォーターをとると、ペットボトルに口を付けて飲み始めた。何気なくそれを眺めていた七海だったが、ごくごくと動く彼女の細い喉元につい目が向き、ほんの僅かどきりとしてしまった。それは飲みきれなかった水が口端から垂れて、彼女の顎や首、はたまた胸元を濡らしていったからだ。だがそれも一瞬のことで七海はすぐ、その辺にあったタオルで彼女の口元を押さえてやった。

「はぁ…ありがとう、七海さん…」
「ほんとにあなたは…子供じゃないんですから、ちゃんと零さず飲んで下さい」

自分で濡れた襟元を拭きだした彼女を呆れ顔で窘めつつ、七海は元居た場所へと座り、残りの冷酒をぐいっと飲み干した。の言うように、まだ飲み足りない気持はあれど、これ以上飲めば明日の朝がツラいというのは分かっている。若い頃は自分の適量を知らず、つい飲みすぎて次の日の朝に何度も後悔したものだったが、最近はめっきりそういった失敗はなくなっていた。当然だ。大人になったのだから。
しかしはまだ若く、自分の限界を分かっていない。こういう時は大人の自分が止めてやらなければ、と考えていた。

だが、その時だった。「七海さんも、お水飲みますかー?」と訊かれ、徳利に残る酒を注いでいた七海は、お猪口を口へ運びながら、ふと彼女の方へ顔を向けた。その瞬間、口へ流し込んだばかりの酒を「ぶーっ!」と見事に噴射し、同時に脳は液体窒素をかけられたのかと思うほどに一瞬でフリーズしてしまった。

「わ…七海さん、大丈夫ですかぁ…?!」

七海が酒を吹いたことに驚いたらしい。は手にしていたタオルで酒に濡れた七海の腹の辺りを拭いてくれている。そんな彼女を七海は信じられない思いで見ていた。

「な…な…何て恰好してんですか、あなた」
「…へ?」

顔面蒼白といった様子の七海を、きょとんとした顏で見上げてくるは、水で濡らした浴衣を脱いでしまったらしい。今は中に着ていた薄手のタンクトプ一枚になっている。そして恐ろしいことに、彼女の下半身は七海の願いも空しく、ショーツ一枚だけという姿だった。

「ああ、だって…浴衣べしょべしょになったし、あれ暑かったから…」
「だ、だからって脱ぐことはないでしょう!早く着て下さいっ」
「えぇ…だって冷たいですよー。それにもう寝るだけだし…」

は特に気にもしてない様子で、七海の方の徳利から自分のお猪口へ酒を注いでいる。この後に及んで、いや、こんな状況でまだ酒を飲む気らしい。それを見た七海は酒がいけないんだと、彼女の手からすぐにお猪口を取り上げた。

「あー!それだけ飲みたいのにー!」
「ダメです!あなた、酔ってるじゃないですか!だいたい男の私の前で下着一枚になるとか、何考えてるんですかっ」
「下着じゃなくタンクトップです、これー」
「私が言ってるのは下の方ですっ。早く浴衣を着て下さいっ。そもそもの話、そんな恰好いきなり見せるとか、それセクハラですよ、あなた」
「えー…セクハラって酷い…」

その場にぺたんと座り込み、ふにゃりと眉を下げるは、どこか叱られた子供みたいなのだが、タンクトップを押し上げている膨らみのせいで、ただただエッチな顔にしか見えない。酒で頬は赤く、目もさっきから潤んでいる。どう考えても最中の顔にしか見えなくなってきた。
ついでに言えば、見たくもないはずなのに自然とそこへ視線が向いてしまう自分がいて、七海は男の悲しさを思い知る。だが、もっと最悪だったのは――。

「……何で…ノーブラなんですか…」

タンクトップの膨らみの先が僅かにツンと持ちあがってるのを見た瞬間、不覚にも七海の腰がずくんと悲鳴を上げたのが分かった。

「へ…?だって…お風呂入ったあとに下着つけたくないし…」
「…仮にも男の私とこうして部屋飲みをするというのに、ですか?」

男の欲求とはまた違う熱いものが、腹の底から沸々としてくるのを感じた七海は、目の前で未だにふにゃんとした顔で自分を見つめてくるを睨む。

「というか…私以外の術師と出張に来た時も同じことを…?」
「え…ま、まさか…こんな状況なったことないし…」
「こういう状況になったら同じことをする、と聞こえるんですが」
「…え…そ、そんなことは…」

七海の口調でやっと叱られてると悟ったのだろう。はちょっと泣きそうな顔で七海を見上げてきた。その上目遣いはやめろ、と思ったのだが、今更それをやめたところで手遅れなほど今、七海の下半身に来てはいけないものがキテ・・いる。目の前にエッチな膨らみと、剥き出しの白いもっちり太腿が惜しげもなく披露されているせいだ。どんなに理性的な男でも、目の前にそんな姿の可愛らしい女の子がいれば、やはりその薄い布の奥を暴きたくなるのが、男の本能だ。
なのに彼女は最も今、してはいけない悪手を指してきた。

「パンツ姿くらい…大したことないですよー。ほら水着も似たようなものだし――」

と言った瞬間、彼女の体がふわりと浮いて、気づけば七海を見下ろす形となっていた。七海の膝の上に抱えられていると認識したが、今の衝撃でアルコールに浸かった脳がぐらぐらと揺れている気がする。でも体がふらつくことがないのは、七海が自分の腰を支えているせいだと気づいた。

「え…な、七海さ…」
「大したことがないかどうか…教えてあげましょうか」
「…へ?…ンぁ」

何のこと?と思った瞬間、きゅっと胸の先をつままれ、変な声が漏れてしまった。あまり感じたことのない甘い痺れが、摘ままれた場所からぶわっと広がっていく。

「ああ、さっきよりも勃ってきましね、さんの乳首」
「…な…や…んん」

何を言われてるのか分からないのに、勝手に顔の熱が上がっていく。七海の指が今では硬く主張した部分をタンクトップの上から弄ってくるせいだ。指の腹でくにくにと捏ねられる感覚に、の体がびくびくと反応しだした。

「感度、いいですね。もうこんなに主張して…厭らしい形になってますよ」
「…んあ…や…そ、それ…やだ…ぁ」

抵抗するように細い腕を伸ばしてくるので、七海は両手を絡めとり、体の後ろに固定してしまった。そうすることで互いの顏が一気に近くなる。涙をためたは、サングラスをしていない七海の目を、恥ずかしそうに見つめてくる。その表情が余計に七海を煽ることも知らずに。

「…無防備すぎるんですよ、あなた。こんな格好をして私が何も感じない男とでも?」
「…ふあ…っ」

再びきゅっと乳首をつままれ、その刺激で喉を反らす彼女を見上げ、七海は容赦なく白い首元へ噛みつくように吸い付いた。赤い跡が残るほど、薄い皮膚を吸いながら、手はたぷんと揺れる柔らかい乳房を揉みしだく。彼女はいやだいやだと首を振り、体を捻ってはいるものの、元は酔っ払いなので、ただモジモジと七海の膝の上で身をくねらせているに過ぎない。

「ハァ…ほんとにあなたって人は…男を、いえ…私を舐め過ぎです」
「…そ…そんな…ことない…わ、わたし…七海さん…のこと…」
「ああ、信じてた、なんて言葉は聞きたくありません。そもそも、こうなってるのは私の忠告を無視したあなたのせいです。男の前でそう言う無防備さを見せればこうなるんだってこと、この体に教えてあげますね」
「え…や…ンっ」

タンクトップの上からツンと主張している場所を口へ含むだけで、びくんと体を跳ねさせる姿は厭らしくもあり、可愛くもあるので、男の、というより七海の欲をどんどん高めていく。普段なら当然こんな強引なことをしない七海だったが、今は制御が利かないほどにイライラし、また欲情してしまう。

「ひゃ…ぁ」

服の上からじゃ我慢出来ず、タンクトップを胸の上までまくり上げれば、先ほどつい頭で想像してしまったものが、更に硬さを増して七海を誘ってくる。散々指で弄ったせいか、そこは硬くしこって少し赤くなっていた。

「…さんのここ、こんなに硬くして本当に厭らしい」
「…そ…んなこと…い…ンンっ」

欲望のまま、その場所へ吸いつき、ちゅうっと強めに吸うだけで、はすぐに可愛い声で喘ぎ始める。元々が敏感らしい。唇に挟んでちゅくちゅくと食みながら乳首を舌先で捏ねるだけで、彼女の声は簡単に跳ねた。乳首を舌先で虐めながら、横向きに膝へ乗せた彼女の左足を自分の腿の上へと乗せさせれば、容易く足が開いていく。左手で彼女の腰を支えつつ、右手をショーツの中心部へ伸ばすと、は「や、だめ…」と足を閉じようと藻掻き始めた。だが弱々しい抵抗は、更に七海を欲情させるだけだ。そのまま彼女を畳の上へ押し倒し、ショーツを足から強引に剥ぎ取ると、今度はガッチリ腿を押さえながら足を広げさせる。は「や、は、恥ずかしい…」と小さな声で訴えてきたが、それすら無視して七海は迷うことなくその場所へ吸い付いた。「ひゃぁんっ」と甘い声を上げたは、すぐにがくがくと足を震わせ、達したようだ。それには七海も興奮したし、また少し驚いていた。

「まだ何もしてないんですが…どれだけ期待してたんですか」
「ち、ちが…んあ」

達したことでとろりと愛液が溢れてくるのを指で撫でつけ、それを潤滑油に主張し始めたクリトリスをぬちぬちと擦れば、また彼女が喉を反らしてびくんと体を揺らし始めた。呼吸も荒く、頬も真っ赤になっているは、アルコールのせいか、さっき以上に目がとろんとしている。その顏を見た七海は、よく分からない苛立ちと興奮を覚え、未だ引くついている場所へ容赦なく指を突き立てた。じゅぷっと中から愛液が溢れ出し、彼女のそこは簡単に七海の指を受け入れてしまう。

「何でこんなに濡れてるんですか、あなた…。無理やりされてる自覚ありますか?」
「…んあ…ひゃ…あん」
「しかも締め付けすぎです…」

かなり狭い場所を指でこじ開けるようにしながら抽送を繰り返すたび、じゅぷじゅぷと卑猥な音が大きくなっていく。この子は本当に何をされてるか分かってるんだろうか…と、心配になるくらい、彼女は感じているようだった。

「な…なな…みさん…」
「ハァ…そんな潤んだ目で見ないで下さい…今すぐ挿れますよ?」

頬を赤らめ、七海が言った通り大きな瞳をウルウルさせながら、もっとして、と言わんばかりにあんあんと喘ぎだした彼女は、仔猫が母猫になうなうと甘えてるようなかわゆさがあった。その顏を見ていたらずん、と腰の辺りにくるものがある。そんな自分に深い溜息を吐いたのは、軽薄が服を着て歩いてるような先輩に言われたことを思い出してしまったからだ。
ただ、やはりそれは違うと思うのは、自分が他の子にここまで欲情しないことを、心のどこかで分かっていたからかもしれない。

「参りましたね…私としたことが…」
「…ふ…んん…?」

奇しくも彼女に触れて、この乱れる姿を見た時、初めて気づいた。何故、自分がのことを苦手だと感じて常に逃げ腰だったのかを。
一度でも自分の懐に入れてしまえば、もう手放すことが出来なくなりそうだから、というのが一つ。あとは――。

「…もう他の術師の任務に行かせたくありません。このありさまでは心配で夜も眠れない」
「んん?」

指の動きを止めることなく、独り言ちる七海を、うっとりとした目で見上げてくる彼女もまた、これを狙ってたとしか思えないほどの可愛い笑みを浮かべてることに気づいた。

「…まさか、さん。あなた、わざと私を煽ったわけじゃないですよね…」
「…ひぅ…」

指の動きを止め、ジトっと彼女を見下ろせば、その濡れた瞳がゆっくりと左へ動く。その顏を見ていたら、自分がまんまとはめられたことに気づいた。そして再びイラっとする。

「まさか私以外の男にも同じことを…?」
「…ち、違う。してない、そんなこと…」
「本当ですか?」
「…な、七海さんだけだもん」
「……」

今の一言で鉄壁のはずだった七海の最後の理性は溶かされ、すでに痛いくらいに勃ちあがっていた場所が、更にガチガチになったのが分かった。屈辱だ、と七海は項垂れたが、この可愛くてずるい仔猫をどうにかしなくては気が済まない。未だおねだりするように潤んだ瞳で見上げてくるは、反則級にクソ可愛いのだ。

「…もう限界なので挿れます」
「は、はい…!」
「いや、そんな期待するような目で見ないでくれますか?ムカつくんで」
「…ふぁ?!」

言った瞬間、どろどろの場所へ痛いくらいに勃起したものをぐちゅんと突き入れると、その質量に驚いたのか、の腰がびくんと跳ね上がる。指を入れた時も感じたが、ナカはかなり狭く圧迫感があり、容赦なく七海のものを締め付けてくる。そこを押し開くように強引に奥へ奥へと挿入していけば、彼女は意外にも痛がる素振りを見せた。まさか、こんなに濡れてるし感じてるのに?とは思うのだが、その予感が当たっているという確信が持てたのは、彼女のナカがあまりに開発されていないからだ。

「え…まさかさん…初めて…なんてことは…」
「……は、はい…は、はじめて、です…」
「は?」

なら何でこんなに反応がいいんだという疑問が七海の脳内を駆け巡る。もし仮に彼女が処女であるとするならば、感度が良すぎる気がした。でもその答えは彼女が教えてくれた。

「…ずっと…好き、だったから…」
「はい?」

ずっとずっと七海さんが好きだったから、触れられるだけで物凄く感じちゃってました。
…そんな可愛いことを言われてしまえば、七海も紳士の皮を脱ぎ捨てるしかなくなる。よって、お仕置きと言う名の行為を再開した。

「…責任は取りますので」

最後にそう言いながら、初めて彼女のくちびるへちゅっと口づければ、の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。そこからは七海も本能のままに腰を動かし、初めてという彼女を味わい尽くし、結果朝までコースで何度も彼女を啼かせてしまい、お仕置きは無事に終了となった。
次の日、腰を押さえて帰校した七海を、ニヤケ顔の五条がからかったのは言うまでもない。



||| omake |||


「ほ、ほんとに大丈夫でしょうか、七海さん…」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。七海は絶対に惚れてるから」

七海に連絡を入れたあとも、不安そうな顔をする伊地知に向かって五条は笑った。そもそも、同行するはずだった伊地知をわざと呼び出したのは五条なりの狙いと、可愛い後輩からの相談があったからだ。

――あ、あの…どうすれば七海さんにわたしのこと女として意識させることが出来ますか?
――七海い~?、七海が好きなの?どこがいいの、あんな堅物。
――え…と…わたしのこと甘やかさないで、ちゃんと叱ってくれるとことか…
――マジ?
――マ、マジ、です…

そんな可愛い相談をされてしまえば、五条も一肌脱いでやるかと思ったのだ。なので――。

――七海はさぁ、ああ見えてむっつりだから、がちょっと酔っ払ってエッチな恰好とかしてみせたら、すぐ襲ってくれると思うよ。
――え…!そ、それは…ハードル高いのでは…
――大丈夫、大丈夫。既成事実さえ作っちゃえば、七海のことだから、"責任はとります"なーんて言って付き合ってくれるって。これ、絶対マジで。だから王道の色仕掛け大作戦、してみよーか。次の出張が入ったら。そん時はを同行させるよう仕向けるから!

かくして、無責任にもほどがある先輩のアドバイスを受け、彼女は見事にそのミッションをクリア。晴れて大好きな七海の彼女となることができたのであった。
因みに、後からその情報を彼女に教えられた七海は、一カ月ほど五条をスルーしつづけ、最強術師まで泣かせて寂しがらせた、らしい。