「はあ?ケンカした?と?」
家入は呆れ顔を隠すことなく、目の前で更に不機嫌そうに机に突っ伏している五条を見下ろす。
それを隣で聞いていた夏油も「やれやれ。またか…」と溜息交じりで呟いた。
最初の頃よりは打ち解けて来たと思っていたのだが、忘れた頃に些細なことでケンカをするのは毎度のことだ。面白がって事情を聞きだした家入は、更に呆れ顔で五条を睨む。
その気だるそうに向けられた視線は、やはり「クズ」と言いたげだ。
「そりゃも怒るわよ…。だってその友達の子、アンタのこと好きだったんでしょ?その友達の前でキスなんてしちゃねぇ…」
「…やり方が乱暴すぎるだろ、悟」
「うっせぇな…。ああでもしなきゃ、アイツ…乃絵は延々とを利用して俺の前に現れる。そうなりゃ更に傷つくのはだ」
五条は二人からの冷たい視線を向けられ、ムっとしたように顔を反らす。
俺は何も悪くねえ、というその態度が誤解を招くのに、と夏油は半ば諦めにも似た気持ちで、再び溜息をついた。
ことの発端は昨日、が学校で仲良くなったという神崎乃絵という女の子を離れに連れて来たのが原因だった。
その日、交換の儀があるため、任務をサッサと終えた五条はいつもの時間よりも早く生家へ足を向けたのだが、離れに行くと想像もしていなかった存在がそこにいた。

「悟先輩!会いたかったです~!」
「げ、乃絵…な、何で…っ」
離れに顔を出した五条を見た瞬間、抱きついて来た乃絵に、五条は狼狽し、は絶句した。
に至っては家に遊びに行きたいと言う乃絵を約束通り連れて来ただけだったのだが、乃絵は五条の顔を見るなり豹変したのだから驚くのも当然だ。
しかも五条は乃絵のことを知っているような素振りさえ見せた。
は意味が分からず、「どういうこと?悟」と五条を問い詰めたが、その答えは乃絵の方が先に話し始めた。
「私ね、悟先輩が好きなの」
「…えっ?」
「でも先輩、中学を卒業したら、遠い学校に行くことになったから付き合えないって…けど私は諦められなくて卒業式の日、最後にキスして下さいってお願いしたら――」
「あー!余計なことは言うな、乃絵!つーか何でオマエ、と仲良くなってんだよ?」
「彼女が悟先輩の親戚だって聞いて、なら仲良くなれば悟先輩の情報も教えてくれるかなって思ったの」
「はあ?オマエ、そんな下らねー理由でコイツと友達になったのかよ?」
「だってこうでもしないと悟先輩、私と会ってくれないでしょ――」
と乃絵が言いかけた時、五条は何を思ったのか隣で未だフリーズ状態のを抱き寄せると、徐に唇を塞いだ。
「…んぅっ?」
驚きで固まっていたは五条から突然キスをされ、大きく目を見開いた状態で更に固まる。
それを目の前で見ていた乃絵は顔から血の気が引いた。
「…ぷは…な、何するのよ、悟っ」
思わず手で五条を押しのけたが真っ赤になって怒り出した。
しかしハッと我に返り乃絵の方を見ると、彼女はその大きな瞳に涙を溜めて「悟先輩…と付き合ってるの…?」と呟く。
「まあ…コイツとはこういう関係―――」
「は?!何言って…っていうか、ち、違うの、乃絵ちゃん!これは―――」
「も最低!仲良くないって言ってたのに実はそんな関係だったなんて…嘘つき!もう友達じゃないから!」
「え?ちょ、待って、乃絵ちゃん!」
乃絵は泣きながら叫ぶと、そのまま離れを飛び出して行く。
唖然としていたは、後ろでホっとした様子の五条を睨みつけ、思い切り引っぱたいた。
「ぃってぇな!何だよ、いきなり」
「それは私の台詞よ!何で乃絵ちゃんの前であんなことするの?誤解されたじゃないっ」
「誤解させときゃいーんだよ。オマエ、利用されてたんだぞ。わかってんの?」
「そ…そうだけど、でも…乃絵ちゃんは友達だもん…」
急に勢いのなくなったは、その碧眼に涙を溜めて、唇を咬み締めている。
やっと友達が出来たと思っていたのに実は利用されていた。
その事実は悲しいが、だからと言って更にこじれるようなことをしなくてもいいじゃないか、という思いがの中にこみ上げる。
「悟なんか―――!」

「――大っ嫌い?」
夏油が目を丸くして五条を見た。
「ぶっぁはははっ大っ嫌いとかマジウケる~」
そこで爆笑する家入を五条はジロリと睨みつける。
「そりゃそーよねー。友達の中を更に悪化させるとかサイテー」
「うっせぇな!オマエらは乃絵のしつこさ知らねーから、んなこと言ってられんだよっ!卒業した後も電話やメールが何度も――」
「でもアンタ、卒業式の日にそのしつこい子にキスしてあげたんでしょ?そりゃ~中2の純情娘なら期待しちゃうわよねぇ」
「あれは散々泣いてゴネるから仕方なくだよっ!してくれたら諦めるっつーから――」
「へぇ~ふ~ん」
「……マジ、ビンタしてえ」
「暴力はんたーい」
家入はとことん楽しむかのように五条をいじっては笑っている。
逆に五条の機嫌は悪くなる一方だ。
間に立たされた夏油は内心、やれやれと思っていたが、ふと気づいたように五条を見た。
「しかし…その状態で昨日の交換の儀は行えたのか?」
「あ?あ~…昨日は…」
と五条は溜息交じりで机から起き上がると、ガシガシと頭をかきつつ「してねぇ…」とだけ呟いた。夏油はその言葉を聞き、僅かに眉を寄せるとこれまで以上に深い溜息をつく。
「それは大変だろう、悟…」
「ぐ…っ分かってんだよ、俺だって!けどが嫌だの一点張りで暴れるから…」
「そんなの無理やりしちゃえば良かったじゃない。五条、得意でしょ?強引なの」
「うるせーぞ、硝子!」
五条がジロリと睨めば、家入は舌を出して肩を竦めた。
交換の儀を行わなかったことは夏油に言われないでも大変なことになると、五条も嫌というほど分かっている。
しかし泣きながら嫌だと言われれば、五条もそれ以上無理強いすることが出来なかった。
「ねぇ…それ出来なかったらはどうなんの?」
「あ?どうって…そりゃ腹が減るだろうから正気を保てなくなってくるだろうな…」
「ってことは誰かれ構わず人を襲うかもしれないってこと…?」
「まあ…幸いウチには呪術師が大勢いるしな。ソイツら喰ったら落ち着くんじゃねぇ?」
「は?ヤバいじゃん。そうなったら真っ先に喰われるのは五条んとこの術師ってことでしょ?武長さんが危ないじゃない!」
「…そこかよ、オマエの基準」
とことん武長贔屓の家入に、五条は呆れ顔で頬杖をついた。
だが冗談ではなく、の限界が超えれば本当にそうなりかねない。
暴走しないようにするには交換の儀をするしかないのだ。
と言って夕べの様子を見ている限り、の怒りが落ち着くにはしばらくかかりそうな気もする。そうなれば家入の言うように強引にでも喰わせなければ、が制約を破ることになってしまう。
「今日…もう一度行ってみるよ」
心配そうな同級生二人の視線を痛いほどに感じながら、五条が一言呟いた時だった。
武長から一本の電話が入る。
「は…?オヤジが?」
五条は武長と話した後、「あんのクソオヤジ…!」という言葉を吐いて高専を飛び出して行った。
それを見送っていた夏油と家入は、互いに顔を見合わせながら、
「どうしたんだろ…」
「さあ…。珍しく悟が動揺してたけど…」
「まさか本当にの暴走…?」
「でもクソオヤジってことは悟の父親のことなんじゃないか?」
「何だかんだ五条も振り回されてんのよね~。五条家って存在に」
家入は苦笑交じりで肩を竦めている。
「ま、それも悟が18になって当主になれば全て自由に出来る話だ」
夏油はそう言いながら、校舎を飛び出して行く親友の姿を、教室の窓から見送った。

"さまがお辛そうで…それを彩乃から聞いた旦那さまが、さまに自分が生気を与えると――"
武長から電話でそう告げられた五条は、すぐに手の空いている補助監督に車を出させ、生家に向かった。
五条家で鬼姫であるにそれを与えられるとしたら、五条以外で言えば当主しかいない。
他の者では少しの量でも喰いつくされてしまう恐れがあるからだ。
しかし当主でも五条よりは呪力も落ちる上に、年齢的なことを考えればそこまで量を与えられないだろう。
それ以前に父親が娘ほどのと、あんな行為をすると思うと、五条の中でざわざわとした嫌な音が鳴り始める。
「チッ…俺を呼べばいいものを…」
心の奥から湧いて来る不快感に、五条は思わず独り言ちた。
そもそもの原因が自分であることは、この時すっかり綺麗に忘れ去っていた。
元はと言えばあんなことをしたのも乃絵にを利用させない為だ。
素直に友達が出来たと喜んでいたを知っているだけに、五条も少なからず乃絵に腹が立っていたのもある。
だからこそから乃絵を引き離そうとしたのだが、逆にを怒らせることになってしまった。もっと他にやり方があっただろう、と夏油に言われたが、この頃の五条は善悪の基準が曖昧であまり細かなことを考えるのは苦手だった。特に女に関しては。
車が五条家に到着すると、五条はすぐに離れへ行こうとした。
だがそこへ武長がやってくると「さまは旦那さまの私室に」と教えてくれた。
「クソ…ッ」
五条は母屋に走って行くと、すぐに父の部屋へ足を向ける。
突然、帰って来た五条に気づき、使用人たちは慌てふためいた。
「お、お帰りなさいませ、悟さま!」
一斉に頭を下げ始めたが、五条は見向きもせず父親の私室へ向かうと、その派手な襖を思い切り開け放った。
「オヤジ…!」
大きな声を上げ、怖い顔で突然入って来た息子を見て、父である当主は酷く驚いたように振り向いた。何故息子がいきなり戻って来たのか、と訝しげに眉間を寄せている。
「何だ、悟…いきなり入って来て」
「…はっ?」
「?」
当主は真っ先に鬼姫の名を口にする息子に、ますます眉間を寄せたが、すぐに深い溜息をつきながらはだけた着物の胸元を直してテーブルの前に座った。
その様子を見ていた五条が更に怖い顔で、父親に詰め寄る。
「オヤジ…に何したんだよ」
「何、とは?」
「とぼけんな!俺の代わりに交換の儀をやったんだろ?」
「ああ…そのことか」
息子が何故、ここまで動揺して自分の元へやって来たのか。その理由に気づいて苦笑いを浮かべた。大方、変な誤解をして慌ててすっ飛んで来たというところか。
そう思っていると「何笑ってんだよ」と苛立ったように目を細める息子に、父は「落ち着かないか」と静かに言った。
「何を勘違いしてるのかは知らないが、私の生気を与えたかと聞いているなら…与えた」
「あ?なら―――」
「と言っても接吻で与えたわけじゃない。勘違いするな」
「は?」
「何も生気を与えるだけなら口移しじゃなくとも手で触れてもらうだけで与えられる。まあ、ほんの微量だが応急処置といったところだ」
「…触れて…もらう?」
「ここに、触れてな」
と言って父は自分の胸元を指した。
「ここへ手を置き、生気を喰らってもらう。だがさっきも言ったように応急処置的なものだ。空腹を一時抑えるだけのな。しかしこの方法では交換できずオマエは妖気を喰らえない。だから後はオマエが何とかしろ」
「……チッ。紛らわしい…」
事情を理解したのか、五条は舌打ちをするとすぐに部屋を出て行こうとする。
が、しかし再び父の方へ振り返ると「は?」と尋ねた。
「一足先に離れへ戻った。何があったかは聞かなかったが…彼女は元気がなかったぞ?ケンカしたなら仲直りしろ。オマエたちの関係に争いがあってはならん」
「…分かってるよ、そんなこと」
父に窘められ、イライラしたように応えた五条は力任せに襖を閉じると、急いで離れへ向かう。
何故こんなにも苛立つのか、その理由がよく分からなかったが、父の顔を見ていて唐突に気づいた。自分以外の人間が、に生気を与えることが気にいらないのだ、と。
独占欲――?
バカらしい。あの行為にそんなものがあってたまるか。
心ではそう思うのに、現に自分はこんなにも苛立っている。
そのアンバランスな感情が、余計に五条を不快にさせているのだ。
「――!」
離れに入り、すぐに部屋へ上がる。
襖を開けると、が驚いたように振り向いた。
「…さ、悟…?」
まさか来るとは思っていなかったのだろう。は驚きの表情を浮かべて一歩、後ずさった。
見る限り、顔色はあまり良くない。
父が言う通り、ほんの一時しのぎの生気しか与えられてないようだ。
「な…何しに来たの…?」
「何しにってオマエ、腹減ってんだろ。辛そうな顔してる」
「…べ、別に…平気よ。今だって当主さまに……きゃっ」
顔を背けた瞬間、強く腕を引かれて、気づけば五条の腕に強く抱きしめられていた。
「何する――」
「悪かった…」
「……っ?」
「昨日のこと謝るから…」
そう言った後、五条は体を離して驚いているをその場へ座らせた。
そして制服の上着を脱ぐと、シャツのボタンを外していく。
五条の突然の行動に驚き、は「何してんの…?!」と頬を赤くした。
「今はまだ…俺と交換の儀をするのが嫌なんだろ?なら、こうしろ」
五条はの両手を掴むと、そっと自分の胸へ置いた。
「さ…とる?」
「これでも喰えんだろ?」
「で、でもそれじゃ悟が…」
「俺は別にオマエの妖気を貰わなくたって腹が減るわけでも死ぬわけでもねーし、いーんだよ」
五条はいつもとは違い、真剣だった。
普段なら軽口を叩いてはをからかってくるのに、今はそんな素振りもなく、本当に心配してるような目で見つめて来る。
サングラス越しではあるが、にはそれが"視"えていた。
「ほら早く…。呼吸が荒い」
「…う、うん…」
「今はまだ馴染む前の段階で目覚めて二か月くらいじゃの肉体は酷く渇いている状態だ。一週間以上、生気を喰らわなかったらすぐにガス欠になる」
「…悟、私…」
「話はあと。今はの身体の方が優先」
「…ん。ありがとう、悟」
は涙目になりながらも頷き、五条の胸に置いた手から生気を吸い取って行く。
口での交換より激しくはないものの、それでも喰らわれている間は五条も全身が気だるくなり朦朧としてくるのだが、普段の交換と違い、今は一方的に喰われている為、いつもより強い倦怠感が襲って来る。
「…は……くっ…」
「悟…?」
辛そうに顔を歪める五条を見て、は慌てて手を離した。
先ほど当主に多少の生気を与えられたものの、にしてみれば五条ほど知らない相手ということもあり、遠慮して微量しか喰らえなかったのだ。
おかげで空腹が満たされることはなく、思ったよりも五条を喰らいすぎたかもしれない。
五条はが手を離した瞬間、ずるずるとその場に崩れ落ちた。
「大丈夫…?悟…!」
「…せぇな…耳元で大声…出すなよ」
呼吸が荒いながらも、五条が応えたことではホっと息を吐き出した。
やはり一方的にもらうのは良くないことだと改めて思う。
「ごめんね…悟…」
「…は?…何…謝ってんの、オマエ…」
「だって…私がまた我がまま言ったせいで…」
「いいんだよ…。俺が怒らせるようなことしたんだし…」
ふわふわとした視界の中、が心配そうな顔で見下ろしてくるせいで、ついそんならしくない言葉が洩れる。荒い呼吸を整えるように、五条はゆっくりと目を閉じた。
「…悟?」
「ん…平気だって…」
は五条が目を閉じたのを見てドキっとしたが、意識を失ったわけじゃないと気づき、ホっと胸を撫でおろした。
額に汗が浮かんでいるのを見たは、浴衣の胸元に入れているハンカチを出すと、そっと五条の汗を拭う。だいぶ治まってはいるが、まだ少し呼吸が荒く、五条の頬が上気している。
その表情がやけに艶っぽく見えて、は少し頬が熱くなった。
はだけた胸元も相まって、男のくせにやたらと色っぽく見える。
(黙ってたら悟って本当にカッコいいから悔しいな…)
そんな事を思いながら、これではモテるのも仕方ないと思う。
乃絵のこともそうだが、自分のパートナーの六眼は女の子を魅了してしまう存在みたいだ。
「…悟…大丈夫?」
寝てしまったのかと声をかけると、五条は薄っすらと目を開けた。
は五条のかけているサングラスをそっと外すと、自分と同じ碧眼を覗き込んだ。
「まだ苦しい…?」
「ん…まぁ少しな…」
確かに呼吸はまだ正常とは言えず、苦しそうだ。
いつもならの妖気を取り込んでいるので、交換の儀をしてもここまで疲弊はしない。
そのことを思い出したはいいことを思いついた。
というよりも本来の自分がすべきことを。
「悟…」
「ん?」
名を呼ばれ、五条が再び目を開けた時、顏に影が落ちた。
「―――ッ?」
その瞬間、に唇を塞がれ、五条は驚いたようにその碧い目を見開いた。
同時に熱く甘いエネルギーが口から体内に浸透していく。
「…ん、」
生気を吸われ、圧倒的に足りなかったエネルギーが補充されていくような感覚に、全身が熱を持ち鼓動が速くなっていく。
もっと欲しくて、今度は求めるように五条の方から唇を深く交じり合わせた。
動くようになった手を、の後頭部へ置き、自分の方へと引き寄せる。
「…ん…っ」
吸い付くように妖気を喰らえば、の喉の奥で甘い声が上がる。
「ちょ…と待っ…」
「ん…もう少し…」
たまらずが唇を離せば、物足りないと言うように五条が唇を追いかけ、すぐに塞ぐ。
ついでに気分が高揚したいせいか、五条の舌先がの唇をペロリと舐めていき、ビクっと肩が跳ねた。
「さと…るっ」
「…んん…?」
今では両頬を抑えるように唇を重ねて来る五条に、が抗議の声を上げた。
同時にパチンと五条の頬を叩く。
「…てっ」
「も…もういいでしょ…っ?そこまで動けるんだから…」
いつの間にか体を起こしていた五条を見て、が真っ赤になりながら後ずさる。
五条は未だどこか頬を上気させ、酔っているような感じに見えた。
「あぁー…やべえ…」
「え、だ、大丈夫…?」
頭を押さえて軽く振っている五条の顔を覗き込む。
今度は妖気を与えすぎたのかと心配だったが、五条はふとと目を合わせるなり、口元を綻ばせた。
「あ~が美味すぎて酔っ払った感じ…」
「な…い、言い方!誤解されるような…」
「…はぁ…酒飲んで酔うってこんな感じなのかな」
五条は苦笑気味に言って再び寝転がると「そう言えば…」と不思議そうな顔をした。
「…怒ってたんじゃねーの…?交換の儀したくないって言ってたのにいいのかよ…」
「…もう…いいよ。悟も謝ってくれたし…私も悪かったし…」
「……何だよ。素直じゃん」
からかうように笑う五条に、はもういつもの悟に戻ったと思いつつ、むっと口を尖らせる。
確かに乃絵のことでは腹も立ったが、結局はの為だったということも分かっている。
五条のことで利用するのが目的だったのなら無理に一緒にいる必要はない。
(通りで話題が悟のことばかりだと思った…)
そういう兆候はあったのだから、自分もそこで気づくべきだった。
「…ならそのうち本当にオマエを見てくれる友達が出来るって」
「…そうかなぁ」
意外にも優しい言葉をかけられ、は嬉しいながらもやはり不安は残る。
これまで各地を転々としてきたせいでは友達の作り方を知らない。
自分から知らない人に話しかけることすら緊張してしまう。
「別に今の学校じゃなくてもいいじゃん。高専に来て作れよ」
「…高専って…人が少ないんでしょ?」
「まあ…呪術師も少数派だからな」
「あ、でも高専に行けば硝子ちゃんと傑がいるもんね」
「アイツらが友達かよ。同級生で見つけろよ」
「…来年…新入生入って来るの?私だけだったらどうしよう…」
「……」
不安そうにボヤくを見て、五条も口元を引きつらせると「ありえるな…」と一言、呟いた。
「でも悟もいるし」
「…俺かよ」
苦笑する五条を見ながら、も「悟は友達じゃないか…」と笑う。
―――でも、じゃあ悟は私の何?
自分が鬼だと分かってから、色んなことが起こって考えたこともなかった。
文字通り、ただ流されて今日まで過ごして来たようなものだ。
先祖たちが交わした制約を守り通していく、ただの同士?
私は生きる為、悟は今より更に力をつける為に利害が一致してる者同士。
ただそれだけの関係?でも、きっとそれだけじゃない。
だって、こうして他愛もない会話を交わすたび、一緒に笑いあったり、時にはケンカしたりして、知らないうちに他人じゃなくなっていく。
同じ時間を過ごすたび、相手のことを少しずつ知って、それはいつか友情や愛情に変わっていくかもしれない。だって私と悟はずっと繋がって行く。
例え互いに愛するパートナーが出来たとしても、それは変わらない。
なら私と悟は家族みたいな形になっていくんだろうか。それが例え鬼と人間という関係でも。
それとも、悟は全ての力を手に入れたら、私を捨てるの―――?
考えたこともなかったことが脳裏を過ぎり、僅かにの心へ翳りを落とした。
センセーの両親って生きてるのか気になりますよね🤔
次から少し未来へ飛ぶやも?
次から少し未来へ飛ぶやも?