交流会当日、朝から集まったメンバーの中に、五条の姿はなかった。
夜蛾からの説明によれば、やはり熱は下がらず、逆に少し上がったらしい。
しかし本人が出ると言ってきかないので、今は医者から処方された薬で眠っているとのことだった。
「ど、どうするんですかっ。人数足りないし五条さんがいないと僕らとてつもなく不利ですよ?」
「そうは言ってもさすがに悟でも相手がウイルスともなるとね…。まあ私が悟の分も働くよ」
青い顔の灰原を落ち着かせるように、夏油はのんびりと応えた。
七海はすでに敗北者のような諦め顔で溜息をついている。
今は交流会開始前の作戦会議の時間。
皆で校舎に集まったまではいいのだが、作戦を考えていたのは五条だった。
その指揮官がいないので皆も今日の団体戦をどう乗り切ろうかと思案しているところだ。
「さっき発表された競技は"拠点制圧"だ。フィールドに散らばった三級~二級の呪霊を祓いながら、相手の陣地の旗を先に奪ったチームの勝ち。人数が足りなくても私の呪霊操術で十分に補えるよ」
「そ、そうですね!僕、ちょっと弱気になってました。夏油さんについて行きます!」
「はあ…」
夏油の言葉に張り切って応える灰原に、溜息をつく七海。
その光景を見ながら、家入は苦笑いを零した。
「コッチはを入れて4人。向こうは6人か…。まあ、2人くらいハンデあってもこのメンツならいけるでしょ」
戦闘には参戦出来ない家入は怪我人が出た時の為に教師たちと待機することになる。
「まあ、先生方も夏油の術式考慮して問題なしと判断したんだろうし」
「だろうね。ところではどうした?」
「あ、は今朝まで五条に付きっ切りだったみたいだから少し遅れるって――」
と話していたところでが走って来た。
「すみません…遅れました!」
「おはよー。大丈夫?あまり寝てないみたいだけど…」
「大丈夫。今、シャワー浴びて来たからスッキリしたし」
「でもだって病み上がりなんだから…無理しちゃダメだよ?」
家入は心配そうにの頭を撫でて溜息をつく。
五条が熱を出してから寝る間も惜しんで看病をしていたのだから、疲れていないはずはない。
「うん。でも悟がいない分、私達が頑張らないと。ね?傑」
「頼もしいね。ま、私もやるからには負けたくない。本気を出させてもらおうかな」
夏油も笑いながら言うと「まずは皆の回るルートを決めよう」と言って地図を開く。
それを見ながら、呪霊が最も多く放たれているであろう中心を夏油が進むことになった。
七海は南側、灰原は北側から進み、五条と同じ六眼を持つは殿、つまり皆の後を追う形で、3人が取りこぼした呪霊を眼で確認し倒しながら進む。
その分、範囲は広くなるが、六眼を持つにしか出来ない仕事だ。
「、出来るかい?」
「うん、任せて」
「よし。ああ、あと万が一不利だという状況になったら無理に戦わないこと。京都校の生徒達も同じように進んで来るはずだから、人数不利のコッチとしては戦闘不能になるのが一番痛い」
「分かりました!」
「了解です」
灰原と七海も頷き、夏油は地図をしまう。
そこでふと、顔を上げると「もしかしたら悟が途中から参戦してくるかもしれない。その時は自由にさせておいていいから」と微笑む。
「え、五条さん、寝込んでるんですよね。そんな状態で来ますか?」
「悟は負けず嫌いだからね。目が覚めたら必ず来るだろ」
そう言いながらを見ると、も困ったような顔で「最後まで出るって言い張ってたから多分…」と頷く。
ただ熱で体力が奪われ、今朝は薬で眠っていたものの、どこまで回復出来るのかが分からない。
そんな状態で呪霊はともかく京都校の生徒を相手に出来るんだろうか、とは思った。
京都校に特級術師はいないものの、3年の生徒はなかなか強いという話だ。
万全の体調だったなら五条の圧勝だろうが、熱でフラフラな状態で勝てるほど甘くはない相手だということは間違いない。
それに家入が話していたが、今回は京都校も人数合わせとして一年の生徒をひとり補充したと聞く。しかもそれは五条家と鬼族に因縁のある禪院家の人間。
その男は一年ながら相当に腕が立つようで、夏油も警戒していた内のひとりだ。
「はあまり近づくな。禪院家と鬼族は五条家以上に因縁が強い。出くわしたら距離を取れよ」
夜蛾にそう言われたは、あまりピンと来なかったもののとりあえず頷いておいた。
先祖達の因縁があると言われても、実際に会ったことのない相手なのでとしては何が危険なのかまでは分からない。
「それじゃ…行こうか」
「みんな、頑張ってねー!私はモニター室で見てるから」
正門へ向かう皆を見送りながら、家入が手を振った。
や灰原も手を振り返し、夏油について行くと、東京校スタート地点と書かれた旗が見えて来た。此方側は東拠点、京都校のスタート地点が西の拠点となり、この東京校の旗を取られる前に京都校の拠点で旗を取れば、たちの勝利となる。
「じゃあ持ち場に着きます」
「私も向かいます」
まずは灰原と七海がそれぞれ自分の持ち場である南と北へ分かれた。
夏油はこの東地点から真っすぐ西地点に向かって進み、は一足遅れで皆の後を確認しながら進んでいく。
校舎付近から少し進むと鬱蒼とした木々が生い茂る雑木林が広がっていて、今回はそこが団体戦のフィールドになっていた。
「じゃあ、後ろは任せたよ。あと全員が中間地点に来たら…分かってるよね」
「うん、もちろん。傑も気をつけて」
「ありがとう。も無理だけはするなよ?に何かあれば悟が泣いてしまうかもしれないし」
「…ま、まさか」
夏油にからかわれ、冗談だとは分かっていてもの頬が赤くなる。
夏油は軽く笑うと「…大切にしている存在を失えば、悟だって人間だ。当然悲しむさ」と呟く。
その横顔があまりに悲しげに見えたはドキっとしたが、夏油はすぐに笑顔を見せると「じゃ、後でね」と林の中へ姿を消した。
「傑…」
やはり星漿体の件をまだ引きずってるのだろうか、と少し心配になったが、今の自分では何もしてあげられない。
あの時、五条を優先させてしまったことで、は自分が理子を見殺しにしたも同然だと思っていた。もし、あの時理子についていれば防げたかもしれないのに――。でも今更後悔したところで遅い。それに、例え今あの時と同じ状況になったとしても、はきっとまた五条を助けに行ってしまうだろう。
どれだけ世界の為だと言われようと、世界中の人間の命よりも、にとったらたったひとりの命の方が大切だった。
「よし…もういいかな」
時計を確認し、は軽く深呼吸をすると、皆より10分遅れでフィールドとなる林の中へと歩いて行った。

交流会前日から東京入りをし、他の生徒とは別にひとり高級ホテルに泊まっていた禪院直哉は、迎えの車が到着する二時間も前に目が覚めた。
「ふあぁぁ」
大欠伸をかましつつ、ふと自分の寝ていたベッドを振り返ればシーツがやけに乱れている。
ついでに言えば、ベッドの周りには枕や時計などが落ちていて首を傾げたが、そこで夕べ連れこんだ女との行為を思い出す。
昨日は付き人を従えて新幹線で来たのだが、その車内で一人旅の帰りだと言うOLと知り合った。
直哉はひとり優雅にグリーン車に乗っていて、そのOLは直哉の隣の席だったのだが、互いにひとりということもあり、何となく言葉を交わした。
向こうは明らかに気があるような素振りをしてきて、直哉は暇つぶし程度にはなるか、と自分の泊まるホテルへ誘ったらすぐに乗って来た。
何とも尻の軽い女やな、と呆れつつ、そこは据え膳喰わぬは男の恥とばかりに直哉も例にならって、ちゃっかりと楽しむことにしたのだ。
しかし行為が終われば邪魔なだけの存在になり、タクシー代と言って金を渡し「これで帰って」と言ったところ、相手の女が烈火のごとく怒りだした。
そこで口論となり、ますます面倒になった直哉は無理やり女の腕を掴み、廊下へ放り出したのだ。
「あぁ…せやからこない散らかった状態なんやね…」
夕べのことを思い出し、まるで他人事のように呟いて苦笑すると、直哉は全裸のままベッドから下りてバスルームへと向かう。
直哉にとって口答えをする女など死んでしまえと思っているので、放り出したことも特に悪いとは思っていない。
すでに夕べ抱いた女の顔も名前もすっかり忘れ去っていた。
「さぁて…今日は鬼姫ちゃんと初めてのご対面や。楽しみやなぁ…」
シャワーを浴びながら、直哉はニヤニヤしながら呟いて、どうやれば上手く近づけるやろか…と考えた。東京校の人間からある情報を貰った時点で、直哉は迷うのをやめたのだ。
「まさか悟くんが熱出して寝込まはってるなんて…ラッキーやわ」

「……ん…」
遠くで何かの合図を告げるような大きな音がして、五条は目を覚ました。
覚醒した瞬間から無意識に反転術式を回すのはすでにクセになっている。
すぐに意識もハッキリしてきた時に思ったのは、
「あんのクソ医者…解熱剤の中に睡眠薬も入れやがったな…」
だった。
反転術式を使えるようになってから五条はあまり睡眠をとらずとも平気な体質になっていた。
なのに記憶がないほど眠ったということはそういうことだ。
今朝、熱は下がっていなかったが、五条は無理やり交流会に出ようとした。
それを止める為の苦肉の策だったんだろう。通常の薬の中に混ざっていれば確かに気づきにくい。
と言っても眠りこけるまでは反転術式を回していたので脳は覚醒した状態だった。
そのせいなのか、普通なら八時間以上グッスリ眠るところを五条は二時間で起きたのだから結局睡眠薬の効き目は薄かったようだ。
しかし熱は夕べより下がった気はするものの気怠さなどは残っている。
「クソ…今…何時だ…?」
重たい身体を起こし、枕元に置いたままのケータイを見れば、すでに交流会開始時間は過ぎている。さっきの大きな音が開始の合図だったのかと気づき、五条はベッドから足を下ろした。
「はあ…しんど…」
とは言え自分が出ないと人数的に不利になる。
恐らく自分が不在なら夏油が作戦を立て直してくれてるはずだ。
五条は咄嗟にそう考えると、パジャマ替わりのスウェットを脱ぎ、すぐに制服に着替えた。
多少足元はフラつくが無限を操れば問題はない。
「いや…やっぱ念の為に貰っとくか…」
五条は自分の部屋を出るとケータイで目当ての人物の番号を表示させ、すぐに発信ボタンを押した。

雑木林の中をは鬼の眼で見渡し、呪霊の残穢や生きている呪力の塊は見えないかを探りながら進んでいた。
しかしザっと見たところ3人ともキッチリ仕事をしているようで、放たれていたはずの呪霊は一体も見当たらない。
その中でもやはり夏油は圧倒的な数を倒しているのは戦闘後の残穢を見たら分かる。
「さすが傑…大量に祓ってる」
さっきは少し様子がおかしかった気がしたが、気のせいだったようだと安堵しながらも先へと進む。
問題なのは、そろそろ中間地点に到達するはずで、京都校の生徒とも遭遇する頃だろう。
本来なら拠点にある旗をどっちが先に奪うかを競うのだが、当然相手の足止めするのもOKなので、すんなりとあちら側のフィールドに入れるわけもない。
向こうは人数有利を使って足止め役と拠点を奪いに行くメンバーを決めているはずだ。
「向こうは2人多い分、自分達の拠点にディフェンダーは置かないか、置いてもひとりだけ、まずは足止め役の人数を増やしたいはず。傑が相手なら尚更…」
ということは東京校の拠点を奪いに行くアタッカーはふたり、いや多分…ひとりのはずだ。
その時、前方から激しい戦闘音が響いて来た。
どうやら夏油達の誰かと京都校の生徒がかち合ったようだ。
"いいかい、。その音を聞いたらすぐに――"
先ほど夏油から言われたことをは実行し、即座に元来た道を引き返す。
アタッカーは夏油、足止めに灰原と七海、そしてはディフェンダーとして拠点を守ることを託されていた。
京都校のアタッカーより先に自分達の拠点へ戻り、旗を奪われないよう死守しなければならない。
妖力を解放すれば移動速度も上がる。それに邪魔な呪霊は夏油達が見事に祓ってくれたことではすぐに出発地点の拠点まで戻って来ることが出来た。
その時、のケータイが鳴り、表示には五条の名が出ている。
は驚いてすぐに通話ボタンを押した。
「もしもし…悟?」
『…オマエ、今どこ…』
「え、今は…校舎裏の東側。出発地点の辺りだけど…悟、熱は…?」
『夕べよりだいぶマシ。まあ睡眠薬盛られて久々グッスリ寝たからな』
「…あ…」
嫌味のように言われ、はドキっとした。
『オマエ…知ってたろ』
「え、えっと…」
五条に核心を突かれ、は笑って誤魔化した。
夕べは五条の熱も少し上がり、朝も辛そうにしている五条を見て、この状態で交流会に出してもいいのか悩んでいた。
そんな時、高専の医師が「どうしても彼が無理をするようなら解熱剤に睡眠薬を混ぜる」と夜蛾に言っているのが聞こえてしまったのだ。
五条に毎日薬を飲ませるのはの役目だったので、やめようと思えば出来たのだが、は敢えて知らないフリをしてそれを五条に飲ませた。
「ごめんなさい…心配だったから…」
そこは素直に謝ると、通話口の向こうから大きな溜息が聞こえて来る。
怒らせてしまったかと心配になったが、五条が意外にも「いいよ…」と苦笑交じりで応えた。
『その代わりと言っちゃアレだけど…に頼みがある』
「え…?」
『後ろ』
「…後ろ?」
驚いて振り向くと、校舎の方から五条が歩いて来るのが見える。
「悟…?!」
多少フラつきながらも、きちんと制服を着ているところを見れば、やはり交流会に出場する気なのだろう。はケータイを切ると急いで五条の元へ走って行く。
「悟!…大丈夫なの?ほんとに」
「ああ…まあ…ってかどんな競技に決まったか俺にざっくり教えろ」
未だ呼吸の辛そうな五条を見上げながら、は簡単に拠点制圧のルールを説明した
「なるほどね…で、今は傑がアタッカーで相手の拠点を目指してんのか」
「うん、多分。灰原くんと七海くんは足止め部隊だから、そこが一番激戦区かも…」
「んじゃー傑には足止め部隊に援護に行ってもらう。俺がアタッカーやってやるよ」
「そっか…悟ならすぐ中間地点より先に移動出来るもんね…。でもその身体で――」
「だーからオマエに力借りてぇの」
「…私?」
ニヤリと笑う五条を見上げると、五条はの手を引き、先ほど皆で作戦会議をしていた部屋に入った。
「…悟?」
「俺にの妖力喰わせて」
「…え、」
「そしたら俺も自分の仕事が出来るくらいには回復すると思うから」
「あ…そっか…。でも妖力喰らった後じゃ余計にフラフラしちゃうよ…?」
いつも交換の儀を行った後は五条も多少は酔っ払ったみたいな状態になり、その後に高揚感が来ると言っていた。も似たような症状になるので分かるのだ。
「分かってる…でもそんな長くは続かねぇし、そんな大量に喰らう気もねぇよ。それに俺はみたいに睡魔は襲って来ないしな」
「……う」
だいたいは五条と同じような症状なのだが、の場合は生気を喰らった後は決まって最後、睡魔が襲って来るのだ。
満腹感のせいだとは思うが、交換の後にだいたい眠くなってしまうのは子供みたいで恥ずかしいと思っていた。
「…いい?」
こんな公の場所で唇を合わせるのは恥ずかしいが、そんなことを言っている暇も迷っている暇もない。今も相手のアタッカーはこちらの拠点を奪いに移動してきてるはずなのだ。
灰原と七海が足止めするには限界がある。ひとり、そこから消えたとしても戦闘中では気づくのは困難のはずだ。
「…うん」
が頷くのと同時に、五条の指が顎にかかり、すぐに持ち上げられる。
腰を抱き寄せられ、更に上を向かされた瞬間、唇を塞がれた。
「…ん…」
今回は交換ではなく、五条にだけ自分の妖気を喰らわせる。
口内から力を吸われて行く感じがして、は目を瞑った。
僅かに足がよろけそうになり、五条の胸元にしがみつきながら、は妖気を自分で巡らせる。
触れている五条の唇が熱いのは、まだ熱があるせいだろう。
「……はあ…クラクラすんな…」
必要な分だけ妖力を喰らった五条は唇を離すと、深い息を吐いた。
数分はこの酔っ払ったみたいな感覚が続くのですぐには動けないが、治まる頃には全身にエネルギーが生き渡ったように力がみなぎって来るのだ。
「…大丈夫か?」
「…私は…平気。動けるだけの妖力は残ってる」
「戦えそうか?」
「大丈夫だよ。本当の戦闘じゃないし」
「そっか…じゃあ…オマエはディフェンダーなんだろ?拠点守りに行けよ」
「うん…悟は?」
「俺は動けるようになったらソッコーで相手の拠点に向かう。途中で傑に電話して七海たちの援護に行かせるから」
「分かった。じゃあ行くね――」
は言われた通り自分達の拠点へ戻ろうと歩き出す。
だがその時、不意に腕を引き寄せられ、気づけば五条の腕の中へ引き戻されていた。
「さ…悟?」
「助かったよ…ありがとな」
五条はそう言って微笑むと、の額に軽く口付ける。
それにはもぎょっとして「な、何…?」と腕から逃げようとした。
「お礼のちゅーだろ。んな嫌がらなくても」
の慌てぶりに五条は苦笑すると、すぐに腕を放した。
「い…嫌がったわけじゃなくて…」
「…」
「え?」
「旗は絶対死守しろ。俺がアッチの旗を奪うまでな」
「…うん」
せっかく五条が参戦したのだから、こうなれば絶対に勝ちたい。
はしっかり頷くと、すぐに校舎を出て拠点へ戻るのに走った。
「そろそろ第二弾の呪霊が放たれる頃だし…上手く足止めになってるのかも」
その時、五条が術式を使って飛んでいくような気配がした。
ふと空を見上げれば、五条が高いところで浮いているのが見える。
「良かった…思ったよりも動けるのが早かったんだ…」
これで五条がアタッカーになれば夏油が中間地点での戦闘に集中出来る上に、七海や灰原の負担は減る。後はが拠点を守り抜いている間に、五条が相手の旗を奪えれば、東京校の勝ちだ。
その時――急にビリビリと肌を刺すような呪力を感じ、は息を飲んだ。
「……え?」
拠点の近くにそれはいた。
ぎょろりとした一つ目を不自然にキョロキョロ動かしているその呪霊は、確実にを認識している。大きさ的には二メートルほどの、形は蛇のような長い体をくねらせていた。
しかし何故こんな場所に、とは疑問に思った。
この呪霊が第二弾で放たれたものだとしたら、何故こんなにも凶悪な力を感じるのか。
少しでも動けば、あの大きな口で襲い掛かって来ると本能がそう訴えて来る。
(何でこんなものが…今日フィールドに放つのは三級から二級の呪霊だって言ってたのに…)
目の前の呪霊はどう見ても一級相当だ。
いくらが高専では特級扱いとはいえ、まだ戦闘経験が少ない上に、鬼の力も全て使いこなすまでに至っていない。
一級の、それも目の前にいる呪霊は今のでは厳しいと肌で感じる。
(どうしよう…アイツがいる場所は旗の近く…もし今、京都校の生徒が来たら…)
京都校のアタッカーが来れば、その生徒が危険だ。
あっちの生徒は一番上の階級が一級術師がふたりと聞いてる。その術師達は足止め部隊として中間地点にいるはずだ。
コッチの拠点が手薄だと思っているなら、強い術師はアタッカーに選ばない気がした。
ならば二級術師辺りがアタッカーとしてくる可能性が高い。
「…マズい。今来られたらその生徒は間違いなくコイツに…」
の額に汗が吹き出し、僅かに足を後退させた。
その瞬間、呪霊が大きく裂けた口から長い舌を伸ばして攻撃を仕掛けて来る。
咄嗟に飛びのき、ギリギリで交わすと、鬼火を出して呪霊を囲む。
だが今のには目の前の呪霊を燃やし尽くすほどの妖力は残っていない。
「…ぁっ」
走って高い場所へ飛ぼうと思った瞬間、足に呪霊の舌が巻き付き、凄い力で引き寄せられた。
慌てて舌を燃やそうとした刹那、呪霊の大きな口が目の前まで迫って来ていた。
(喰われる――!)
そう思った時、横から何かの攻撃が飛んできて呪霊の舌をスパッと切り裂いた。
え、と思った時にはの体が自由になり、そのせいで真っ逆さまに落ちて行く。
前にもこんな状況になったことがある為、は咄嗟に体勢を変えようとしたが、その前に誰かの腕に抱えられた。
その人物は空中でを受け止めると、しなやかな動作で着地をした。
「ふう…危なかったなぁ?大丈夫か?」
「……ア、アナタ…は?」
そこで初めて自分を抱きかかえてる人物を見上げる。
は知らない顔だった。
「ああ、自己紹介は後回しや。今はアイツ、倒さなあかん」
その男は流暢な京弁を話し、をそっと下ろすと、未だ攻撃態勢の呪霊の前に立ちはだかった。
「あ、あの――」
「ここは俺にまかしとき」
男はそう言って微笑むと、平然とした様子で呪霊の方へ歩いて行く。
呪霊は動くものに反応し、すぐに男に飛び掛かった――が、次の瞬間にはバラバラになっていた。
「…え…つよ」
一瞬のことで何が起きたのかは分からないが、男の術式なのだろう。
舌を切られて興奮状態で男に飛び掛かった呪霊は、空中で細切れにされ塵となって消えた。
「まだ一級になりたての子ぉやったみたいやね」
「…なり…たて?」
「ああ、知らん?呪霊も育つんやで?」
「…あ…何か授業でそんな話をされたような…」
でもそれは人間を大量に襲ったり、強い呪物を摂りこんだ時だったような気がする。
交流会で放たれた呪霊が育つなんてあるんだろうか。
しかしそれ以外に一級相当の呪霊が紛れこんでいる理由は考えられない。
「えっと…助かりました。ありがとう御座います」
京都校の生徒なのは高専の制服を着ているのと京都弁で分かった。
「ええよ、礼なんて。たまたま拠点を取りに来たら可愛い女の子が喰われそうんなってたから、こらあかん思て飛んで来ただけやし」
男はニコニコしながらの方へ歩いて来る。
だが京都校の生徒がここにいるということは彼がアタッカーのはずだ。
呑気に挨拶なんてしてていいんだろうかと思っていると、男が小さく吹き出した。
「そないに警戒せんでも旗は取らへんよ」
「…え?」
「悟くんが先に取らはったみたいやし」
「……ッ?」
男はそう言いながら、ふと上を見上げると、空から凄い勢いで五条が降り立った。
その手にはしっかりと京都校の旗が握られ、計画通り向こうの拠点を制圧したようだ。
しかし五条の乱れた髪の合間から、碧い双眸がの隣に立っている男を睨みつけている。
「さすが悟くん。早いお戻りで」
「…直哉。から離れろ」
「……直哉?」
五条の口にした名前に何となく聞き覚えのあったは、隣で笑みを浮かべている男をゆっくりと見上げた。
交流会、次も続きます。
御三家の人間は高専に通っても通わなくてもいいみたいで直哉が通ってたかは分かりませんが、今回は高専生という設定です笑
メッセージもありがとう御座います🥰やる気エナジー頂いたので海月更新してみました笑✨
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