05-もう少しで愛が微笑む-①
無事に合宿も終わり、部員全員が大きなケガもなく更に実力をつけて京都へと戻って来てから三日後。
赤司くんと約束したデートの日がやって来た。前の晩と言わず、京都に戻って来てからずっと緊張状態が続いている。食事もあまり喉を通らず、三日で三キロくらいは体重が減ってしまったけど、玲央ちゃんが着々とデートの準備を手伝ってくれて、当日に着ていく服はもちろん、靴やアクセサリーまで用意してくれていた。子供の頃から知ってるからこそ、私好みで構成されていて、もちろんサイズもバッチリだ。
「じゃ、じゃあ行って来るね、玲央ちゃん」
朝からヘアメイクなどを手伝ってくれた玲央ちゃんに何とか声をかける。洛山に入ることになり、本当なら一人暮らしをしたかったのに女子高生をひとりで住まわせるわけにはいかんというお父さんの鶴の一声で、私は玲央ちゃんが一人暮らしをしていたマンションに預けられた。一応玲央ちゃんも性別的には男なのにお父さんはその辺を全く気にしてない。というよりシッカリ者の玲央ちゃんに全幅の信頼をよせてるようだ。
実家を出て気づいたのは親がいないと色々と大変なんだということ。洗濯も食事の準備も全て自分達でやらないといけない。まあ今は殆ど玲央ちゃんがやってくれてるんだけど。
「ほんと大丈夫?何か忘れ物ない?あーもう心配だわ……何かドジするんじゃないかしら!やっぱり私もついて行こうか?」
今日は天気も良くてデート日和だと言えよう。けれど、私を見送る玲央ちゃんの周りは私よりもピリピリとした緊張が漂っていた。
「デートに従妹同伴で行く子なんていると思う……?」
「そ、そうね、それもそうだわ」
玲央ちゃんは我に返ったのか、すぐに納得しているけど心配なのは変わらないようだ。まあ幼い頃から私のドジっぷりを見て来た玲央ちゃんだからこそ、心配は尽きないんだろう。それは私も分かってる。
「大丈夫だよ。私も不安だけど……なるべくやらかさないよう気をつけるから」
「アンタの"気をつける"は空回りするから心配なのよ……。まあ征ちゃんに迷惑だけはかけないように――って言っても、征ちゃんはその辺気にしなさそうだけどね」
洛山の中でも全てにおいてトップクラスの存在である赤司くんは、敗北、失敗などマイナス要素に当てはまるものを殆ど経験したことがないという。そんな赤司くんを唯一マイナスに導いてしまう私を、彼は好きだと言ってくれた。最初は驚いたし、からかわれてるのかと思ったりもしたけど、意外にも赤司くんは真剣で。だから私も真剣に向き合う決心をした。
本当は自分のドジに巻き込むんじゃないかって今も心配だけど、赤司くんのことをもっと知りたいと思ってる私もいる。ただの部活仲間と思っていた人を、ひとりの男の子として意識してしまった私が。
「行ってきます」
日よけの麦わら帽子を手にして、待ち合わせ場所へ向かうのに私は玄関のドアを開けた。玲央ちゃんは最後までオロオロしてたけど、それでも笑顔で手を振ってくれている。色々心配かけてしまったから今日のデートは何とか成功させたい。そう思った。
「えっと……次のバスは5分後。よし、ピッタリ」
待ち合わせ場所に行くまでのルートやバスの時間。それよりも少し余裕を持った時間表は玲央ちゃんが作ってくれたのでチェックする。次のバスに乗れば確実に待ち合わせ時間の15分前につくはずだ。
"いい女ってのは少し早めに到着して相手を待ってるものよ"
なーんて言うものだから、ギリギリで行こうと思っていた私は慌ててしまった。別に無理していい女になろうと思ってるわけじゃないけど、赤司くんを数分でも待たせてしまうのは申し訳ないと思ったのだ。それに途中で何かやらかして時間通りに到着できないかもしれない。大げさと笑う人もいるかもしれないけど、こういう時にやらかすのが私だ。何トラブルが起きるかも、ということも視野に入れて少し早めに家を出ることにした。
「あ、来た」
バスが走って来るのを見てホっと息を吐き出す。このバス停は駅前行きのバスしか来ないから間違えようもない。普段通りにお金を払って乗り込むと、夏休みのせいか子連れの女性が多く乗っていた。これから親子で遊びに行くのかもしれない。小さな男の子が水着の入ったクリアバッグを抱えているから駅前にあるプールに行くんだろう。
毎日暑いし久しぶりにプールもいいかもしれない。そしてふと赤司くんとプールに行くのでも良かったかなと思う。
でもすぐにその考えを打ち消した。プールに行くということはお互いに水着にならなければいけない。水着になるということは――普段は見えない部分を晒すということでもある。
(無理……胸がないのバレちゃうじゃないっ!)
合宿中だって休みの日に皆は海に泳ぎに行ってたけど、私は頑なに泳がなかった。一応水着は着たけど上からTシャツを着て、皆が気持ち良く泳いでるのを眺めてただけだ。
(そう言えば赤司くんも泳いでなかったなぁ……)
ふとその時のことを思い出した。あれはまだ告白される前のことだ。海の家でジュースを飲んでた私のところへ赤司くんがやってきて、ふたりで少しの間お喋りをした。水着は着てるけど私同様Tシャツを着てたから、泳がないの?って聞いたら、赤司くんはこうして話してる方が楽しいからと言っていた。
今思えば赤司くんはひとりでいる私を気にして来てくれたんだと思う。でも鈍い私は赤司くんが練習で疲れてるのかなって思ったから持ってたビタミン系のサプリをいっぱいあげたんだっけ。
ほぼ無理やりあげた形になってた気もするけど、赤司くんは嫌な顔をするでもなく、むしろお礼にってカキ氷を奢ってくれて、ふたりで食べた。私は定番のイチゴ味で赤司くんは真っ赤なりんご味。お互い舌が真っ赤になって笑ってしまった。
そう言えば赤司くんと緊張せず話せたのはあの時が初めてだったかもしれない。バスケの練習中はやっぱり怖くて近寄りにくい雰囲気だったし、あんな風に気さくに話せたことはなかった気がするから少し意外で印象に残っていた。赤司くんの違う一面を見た気がしたから。
そんなことを考えていたらバスが駅前に到着した。バスを降りて、今度は改札を抜けるとちょうど来た電車に乗り込む。学生の私たちは休みでも大人は仕事があるようで、数人スーツ姿の男の人達が乗っていた。でもラッシュを過ぎた時間帯のおかげで意外と車内は空いている。合間にスマホで時間を確認する。このまま行けば玲央ちゃんが書き込んでくれた予定通りの時間に待ち合わせ場所へ着くはずだ。
(京都はまだ良く知らないけど、どこに行くのかなぁ……)
流れる景色を眺めながら、ふと夕べ届いた赤司くんのメッセージを思い出す。待ち合わせは京都駅でということだったけど、玲央ちゃんと時々買い物に行く程度にしか知らない。
「あ……次だ」
住んでいる最寄りの駅から京都駅は近く、すぐに大きな駅が見えてきた。電車がホームに滑り込み、扉が開くまでの間にスマホの鏡アプリでメイクや髪型をチェックしておく。玲央ちゃんが出がけに直してくれたままの状態でホッとした時、目の前の扉が開いた。
「うわ、暑い……」
ホームに降り立った瞬間、むわっとした蒸気を感じて息苦しい。家を出る時より更に気温が上がったようだ。
京都の夏は暑い。それはもう笑えないくらいに暑い。山に囲まれた盆地だから湿度がまず高くて空気が重いのが特徴だ。それがサウナ並みの暑さ最大の理由かもしれない。
「これじゃ服着てサウナに入ってるようなもんだよ……」
赤司くんに会うまでなるべく汗なんかかきたくない。ノロノロとした足取りで改札まで向かう。玲央ちゃんが選んでくれたコットンリネンの白いワンピースにして良かったと思った。軽いだけでも涼しく感じるし風通しもいいから体温を逃がしてくれる。太陽の下に出る前にしっかり日よけの麦わら帽子をかぶっておいた。
「うわ、やっぱり駅前は凄い人だなあ……」
改札を抜けると、平日の午前中なのに人で溢れかえっていた。大半は親子連れで駅ビル内は随分と賑やかだ。
今では美術館のように近代化した京都駅も数年前は古くてそれほど大きな駅ではなかったようだ。駅前には京都市電と呼ばれる路面電車が走り、ほのぼのとした風景が広がってたらしい。
京都出身の担任の先生が授業中に教えてくれた。車も走る道路の真ん中を電車が走ってるなんて想像がつかないけど見てみたかったなと思う。
「いけない。急がないと10分前につけないよ……」
時計を確認してすぐに待ち合せている中央改札口へと急ぐ。ごった返している人混みをすり抜けて改札を出ると、同じように待ち合わせをしているのか、正面にはずらりと人が並んでいて圧倒された。これじゃ見つけられないかもしれないと心配になりつつ、待っている場所はどこにしようかと辺りを見渡す。けれど視界の端に見覚えのある赤を捉えたような気がして慌てて視線を右側に戻した。
「、こっち」
「え……赤司くん……?」
てっきり私の方が早いと思ってたのに赤司くんがすでに来ていることに驚いた。切符売り場の前辺りは比較的空いていて、そこで待っていたらしい。
「凄い人だから見つけられるか心配だったけど、すぐ分かったよ」
赤司くんのところへ走って行くと、彼はそう言って笑った。その笑顔が何とも爽やかでドキっとしてしまう。赤司くんは白のTシャツに黒のサマージャケットを羽織り、同じく黒のイージーパンツを合わせていて凄く大人っぽい。
さりげなくブランド物を着こなしている辺りさすがだ。そう言えば彼の私服姿を見るのは初めてだった。
「赤司くん、早いね。私が先に着いたかと思ったのに」
「待ちきれなくて家を出たら少し早く着いちゃって」
「……そ、そっか」
何となく照れるような台詞をサラリと言われて頬が熱くなる。私服姿も制服や練習着とはまた違うカッコよさ。絶対不釣り合いだよ、と自虐的なことを思いながら、明司くんと並んで歩くのが恥ずかしくなってきた。
「じゃあ行こうか」
「あ、うん」
どこに行くのか決めてるのかなあと思いながら赤司くんについて行く。でも駅へ入って来る人波に逆流して歩いていると、知らない人に何度かぶつかってしまった。すみませんと謝りつつ、赤司くんを見失わないように追いかけようとした。
「」
「……え?」
赤司くんから差し出された手に驚いてボケっと見ていると、その手が私の手を優しく掴んだ。
「はぐれないように手を引いても?」
「あ……う、うん……」
思わずドキっとしてしまった。掴まれた手が今度はふわりと繋がれて指先から赤司くんの体温が直に伝わってくる。思わず頷いてしまったけど、こんな風に男の子と手を繋いで歩くのは初めてだ。私の全神経が指先に集中してしまう。
「京都タワーで軽く食べてから水族館とかどうかな?」
「えっ?」
「あ、それとも他に行きたいとこある?」
不意に話しかけられ、緊張のあまり変な裏声が出てしまった。それを否定と取られてしまったのか、赤司くんが私の返事を待つように首を傾げている。
「え、えっと……な、ない、です」
「何で敬語?普通に話して欲しいな」
「あ、ご、ごめん……」
赤司くんが苦笑いを浮かべたのを見て思わず謝る。どうしよう、何かホントにデートみたいになってきた。いや、デートなんだけども。
「じゃあ、水族館でいい?」
「うん。私も行ってみたかったの」
これは本当だ。前、玲央ちゃんに連れてってと頼んだことがあるけど、練習が忙しくてまだ行けてなかった。もしかしたら赤司くんはそのこと知ってるのかもしれない。
「は何か食べたいものある?」
京都タワーに入ると一階には色んなお店が並んでいる。土産売り場の他に軽食を食べられる店などもある為、ここも観光客らしき人達で賑わっていた。
「赤司くんは何が食べたいの?」
「……僕?僕は何でもいいよ。の食べたいもので」
「え、でも……私に合わせると甘いものになっちゃうよ?」
ランチとか軽めのものだと、つい甘いものに走ってしまうので、いつも玲央ちゃんや友達からは「空腹時に良く甘ったるいものなんか食べれられるわねー!」と驚かれることがある。さすがに赤司くんを付き合わせるのは申し訳ないと思った。でも彼は笑みを浮かべて「いいよ」と言ってくれた。その時の笑顔が言葉で表せないほど優しくて胸がキュンと鳴った気がする。え、これってときめいてるのかな、と自分でも驚いた。
「じゃあドーナツとクレープ、どっちがいい?」
「あっえっと……クレープ」
「分かった。じゃあコッチに入ろう」
赤司くんは私の手を引いてクレープとタピオカ専門店と書かれた店に入って行く。店内は圧倒的に女の子やカップルが多いようで、何となく照れくさい。
「は何が好き?」
「あ、私はいつも定番のチョコバナナで……あっ!でもコッチも美味しそう…バナナイチゴクリームにしようかなぁ。イチゴとバナナを同時に食べられるのって贅沢な気がしない?」
好きなフルーツが一緒になっているのを見て思わず目を輝かせると、赤司くんは「好きなの選びなよ」と言いつつ何故か笑いを噛み殺している。何で笑ってるんだろうと思いながらも、ここはやっぱりイチゴバナナクリームを注文した。
赤司くんは甘いクレープじゃなく、クリームチーズとツナマヨネーズという総菜になっているクレープを注文している。でもタピオカはふたりで同じコーヒーゼリーミルクティを選んだ。
「僕、タピオカって初めてかもしれない」
「えっホントに?あ、でも赤司くんには似合わないよね、確かに」
「ドリンクに似合う似合わないってあるんだ」
「え、だって赤司くんって、こういうのよりコーヒーブラックで飲んでそうだもん」
赤司くんは軽く吹き出すと「あながち間違ってはないけど」と笑っている。そんな話をしている間に、注文したクレープとタピオカドリンクが出来上がってきた。会計は赤司くんが払うと言うので、ここは甘えてご馳走になる。これは玲央ちゃんに何度も念押しされたことだ。
"いい?征ちゃんは絶対、アンタにお金を払わせるようなことはしないと思うから、そこは変な遠慮をして断っちゃダメよ?逆に失礼に当たるから。そこは可愛くご馳走様♡……でいいの。分かった?"
最初は払わせるなんて嫌だと思ったけど逆に失礼と言われると素直に頷くしかない。男たるものデート代を払うのは当然と思うタイプと、ふたりで楽しむものなんだから割り勘で当たり前というタイプに分かれるそうで、赤司くんは絶対に前者だと玲央ちゃんは言い張っていた。
そしてそれは当たっていたようで、私が「ありがとう」とお礼を言うと、赤司くんは「これくらい当然だよ」と微笑んでくれたのだ。
さすが玲央ちゃん、心は女子力高くても男の心理も心得ている。頼もしい従妹であるのは間違いない。
「どーする?フードホールで食べてく?それとも食べながら水族館に向かう?」
「え……と、た、食べてこう……かな。いい?」
「もちろんいいよ」
食べ歩きも捨てがたいけどドジな私が絶対に零さないとは言い切れない。特にこの暑さの中ではクリームは溶けてしまいそうだ。
幸いフードホールは空いていて、私と赤司くは空いてる席へと座った。
「んータピオカ美味しい」
「この粒々がそうなの?」
「うん」
一口飲んで不思議そうに容器の下に溜まっているタピオカを眺めている赤司くんは何となく可愛い。と言うかあの赤司くんがタピオカドリンクを飲んでいる姿はレアかもしれないと気づいた。学校の赤司くんファンが見たら絶叫しそうだ。
「ん~クレープも美味しいぃ~!イチゴとバナナで二つの味が楽しめる」
クリームもボリュームがあり、ふわふわで最高だと思いながら食べていると、目の前の赤司くんがクスクス笑っている。何かおかしなことでも言ったっけと思っていると、彼は「本当に美味しそうに食べるね」と微笑んだ。改まって言われると恥ずかしい。一瞬さっきの緊張が解けていたというのに、目の前で見られていると再び緊張して来るのを感じる。
「あ、赤司くんのも美味しそう。今は総菜系のクレープも流行ってるもんね」
「甘いのとしょっぱいのが絶妙だよ。今度ウチのシェフに作ってもらおうかな」
ふと赤司くんの口から出たシェフという言葉にギョっとした。もしかして赤司家専属のシェフがいるってことだろうか。でも確かに赤司くんがこういったファーストフードを食べているところは見たことがない。練習後、皆でバーガーショップへ寄ることもあるけど、赤司くんは先に帰ってしまうのだ。
「赤司くんって普段はあまりこういう店とか来ないよね」
「そうだね。でも嫌いなわけじゃないよ。習い事があるから寄り道が出来ないだけ。中学の頃はそれなりに皆で、それこそハンバーガーとか食べてたかな」
「え……中学って……帝光中だよね」
「うん。ウチの部に寄り道のエキスパートがいてね。しょっちゅうお腹を空かせて帰りに絶対、ハンバーガーショップに寄るんだ。僕も時々付き合わされてたよ」
「そうなんだ……」
それは"キセキの世代"の人達だろうか。バスケをかじってる人間なら誰でもその名前を知っている。私も小学校の頃から玲央ちゃんの影響でバスケに興味を持って自分でやってたこともあるけど、才能がないのと身長が小さいせいで向いてないと言われて止めたのだ。
その頃よく耳にしていたキセキの世代は私と同じ歳なのに凄い才能を持っていると知って羨ましく思ったこともある。まさかその一人、それもキャプテンだった赤司くんと同じ高校になるなんて思ってもみなかったけど。
「今も交流はあるの?帝光中の仲間だった人達と」
「……いや。前ほど連絡は取りあってないよ」
「そうなんだ。でもインターハイで顔を合わせるかもしれないよね」
私の言葉に、赤司くんは「そうだね」と言ったけど、その表情はどこか冷めたもののように見えてドキっとした。彼の周りの空気が、近寄りがたいと思っていた頃の赤司くんに戻っているように感じたのだ。でも彼はすぐに笑みを浮かべると、不意に私の方へ手を伸ばして来た。何?と聞く間もなく、赤司くんの綺麗な指先が私の口元を拭っていく。
「クリーム、ついてた」
「えっ嘘?」
慌ててスマホの鏡アプリで口元を確認すると、確かに唇の端に僅かなクリームが付着していた。すぐにテーブルに設置されていたナプキンで拭きとり、もう一度鏡でチェックをする。でも私の意識はもっと別のところへ向いていた。先ほど赤司くんが拭ってくれた時、彼の指が私の唇にほんの一瞬だけ触れたのだ。それがやたらとハッキリ感触が伝わって来て、心臓が驚くほどに跳ねた。しかもむず痒いような、くすぐったいような感覚が走ってビックリした。
あげく赤司くんは自分の指についたクリームを舐めとっていたのを見て、顏の熱が一気に上がった気がする。これって俗にいう間接キスではないんだろうか。そう考えたら耳まで熱くなった。
「、暑い?」
「……え、え?」
「何か顔が赤いから」
「えっと……そ、そう……今日暑くて」
笑って誤魔化しながら手でパタパタと顔を扇ぐ。いちいち意識しすぎて無駄に熱を上げている気がする。赤司くんはいつも通り涼しい顔をしているから少しだけ悔しい。これも異性に免疫があるかないかの違いだろうか。というか赤司くんは今まで彼女のひとりやふたりはいたはずだ。先ほど自然に手を繋いだ感じが慣れている人のそれだった。
(どんな人と……付き合ってたんだろ……)
赤司くんに告白されるまで、そんなことを考えたこともなかった。学校の女の子達が練習を見に来てキャーキャー騒いでるのを見ていても赤司くんはそういうものだろうと思っていたのだ。
何でも出来て、完璧で、人気者。それが赤司くんだと思っていたし、どこか引いて見ていたかもしれない。まるでテレビの中のアイドルを見るように、違う世界の人だと思ってた。だから彼に彼女がいるのかな、とかプライベートのことを深く考えたこともなく、ただ凄い人だと尊敬に近い想いを抱くくらいだった。
なのに今、赤司くんが過去にどんな女の子と付き合っていたのかが気になっている。
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