まだまだ慣れない触れ合うだけのキスにドキドキして、つい青峰くんの制服をぎゅっと掴んでしまった。それを合図に腰を抱き寄せられて更に身体が密着する。 同時に重ねている唇も深く交わるから上手く呼吸が出来なくて、喉の奥でくぐもった声が漏れた。 するとゆっくり唇が離れていく。キスをされた後にどういう顔をすればいいのか分からず、とにかく恥ずかしくて俯いていると「」と名前を呼ばれた。青峰くんの低い声に名前を呼ばれるだけで、また胸の奥がざわめくのは仕方ない。それくらい彼のことが好きでたまらなかった。 「顔上げろって」 「……うん」 言われた通り顔を上げると、青峰くんの鋭い双眸が私を見下ろしていた。でもその瞳は普段よりも甘い感情が見え隠れしていて、また小さく鼓動が鳴ってしまう。 「の顔、真っ赤」 「い、言わないでよ……。恥ずかしいから」 「恥ずかしそうにするが可愛いから見てぇんだよ」 「あ、悪趣味……」 精一杯の私の強がりを青峰くんはただ笑うだけで、でもその大きな手で優しく頭を撫でられると、このまま彼の腕の中で眠りたいなんて思ってしまう。 前は練習をサボってばかりだった青峰くんも、最近は人が変わったようにバスケに打ち込んでいるから、送ってもらった帰りにこうして家で会う時間も以前よりは減ってしまったのが寂しい。 でも楽しそうにバスケをしている青峰くんが好きだから、我慢できる。 「今週はあんま会う時間なくてわりぃな」 「ううん。青峰くんがバスケしてる姿を見てるだけでも私は楽しいから」 「見てるだけなんて退屈じゃねぇの」 「退屈じゃないよ。それにチームの皆も時々話し相手してくれるし、さつきちゃんもいるし」 放課後になると、帰宅部の私はすぐ体育館に行ってバスケ部の練習を見学するのが日課になっていた。帝光中の頃はさつきちゃんと一緒にマネージャーをやっていたけど、青峰くんが練習をしなくなってからはマネージャーをやってたらもっと会えないと思って、桐皇学園ではバスケ部に入らなかったのだ。 こんなことになるなら入っておけば良かったと少し後悔していた。 「あーそういや何か話しかけられてたな、眼鏡に」 「眼鏡って……今吉センパイね」 「アイツ、のこと気に入ってるからな。気をつけろよ?」 「え、何それ……初耳」 「オレがバスケ部入った時、しつこくはもうマネージャーやらんのかーって聞いて来てたし狙ってたんじゃねぇの」 「まさか……」 と言いつつも、そう言われてみると確かに今吉センパイはやたらと優しい。私が練習を見学してると退屈やろーって言って色々お菓子とか飲み物とかくれるし、今日だってファンの子からもらったという可愛いキャンディをくれた。 「オマエ、さっき何かもらってたじゃん」 「あれは……いつものお菓子くれただけで――」 「何、餌付けされてんだよ」 青峰くんは不満げに目を細めると、私の額を軽く小突いて来る。何かヤキモチ妬いてくれてるみたいで嬉しいけど、やっぱり機嫌が悪くなるのは嫌だ。 「でも……青峰くんの彼女だって知ってるんだし今吉センパイが私を狙ってるとかないと思うけど」 「アイツはオレと付き合ってようが全く気にしねえだろ。腹ん中じゃ何考えてっか分かんねえタイプだし、性格わりぃし」 「そうかなぁ?優しいセンパイだと思うけどなあ」 「は?オマエ、すでに騙されてんじゃん」 青峰くんは不機嫌そうに目を細めると、私の腕を強引に引き寄せて抱きしめて来た。青峰くんとは中2の頃から付き合ってるけど、こんな風に触れて来るようになったのはごく最近だ。前は途中で色んなことを悩んだりしてたから私達の間には甘い時間など皆無だった。 だから彼に初めてキスをされたのだって、ウインターカップで黒子くんのいる誠凛に負けて、昔の青峰くんに戻って来た頃だった。 「つーか、オレの前で他の男のこと優しいとか言ってんじゃねえよ」 「……ご、ごめん」 なんて謝りつつ、頬が緩んでしまう。こんな風に嫉妬をしてもらえるのは全くしてもらえないより幸せに感じる。抱きしめる腕の強さでも、シッカリと彼の愛情を感じてしまう。 でも不意に身体が離れたと思った瞬間、青峰くんと目が合った。 「てめ、何笑ってんだよ」 「だ、だって……青峰くんがヤキモチ妬いてくれるの嬉しいんだもん」 「チッ……ムカつく」 「ひゃ……」 舌打ちが聞こえたと思ったら、いきなり視界が反転して、気づけば青峰くんが私を見下ろしている。 押し倒されたと気づいた時にはもう遅くて、再び唇を塞がれてしまった。 触れ合うだけのいつものキスじゃなく、食べられたのかと思うほどに深く交わる唇に、鼓動が次第にうるさくなっていく。 「ん……っ」 柔らかい唇が角度を変えるたびに深くなっていくせいで息が出来ない。酸素を求めるように薄く開いた唇の隙間から舌が侵入してきたからビックリした。キスは強引なのに優しく絡められた舌に全身が震えて熱く火照って来た。口内を優しく舐められると、頭の後ろがジンジンしておかしくなりそうだった。思わず青峰くんから離れると、途端に意地悪な笑みを浮かべた彼と目が合う。私はこんなにも呼吸が乱れてるのに、青峰くんは少しも乱れていないのが悔しい。 でも次の瞬間、そんな気持ちを一瞬で消し去るような言葉が、青峰くんの口から降って来た。 「これ以上、妬かせるつもりなら、の全部もらっちまうけど、いいのか?」 「ぜ、ぜん……ぶ?」 「他の男なんか入る余地もないくらいな」 その意味くらい私も分かる。顔が一瞬で熱を持って心臓はさっきの非じゃないくらいにドキドキしてる。口調はいつもの余裕を残しているような気がしたのに、青峰くんの瞳が私の知らない熱を孕んでいるように見えた。 「……真面目な話……嫌か?」 いつもの低音でいて、優しさが含まれた音にゆっくりと首を振る。付き合いだしてから今日まで本当に色々とあったけど、もうダメかと思ったこともあったけど、私は彼から求められるのをずっと待っていた気がする。 「嫌じゃ、ないよ。青峰くんが大好きだから」 この時の彼の表情は、きっと一生忘れない。 例えばこの先、また青峰くんが壁にぶち当たって、些細なことでケンカをしたとしても、この手を離したくない。最後はふたりでこうして抱き合うことが出来たら、私達はきっと大丈夫だと思えるから。