尸魂界を、仲間を、裏切って、私の罪はまた一つ、増えた。
その罪の罰を、私はいつか受ける事になるだろう。
それでもいい……望んだ世界へ、こうして来る事が出来たのだから。
この場所は、私を満たしてくれる気がする―――
何処までも続く砂漠、枯れた木々たち、そこに息づく不思議な生物……そして空には細い細い、三日月。
そのど真ん中に、それはそれは大きな建物が一つ。
――
虚夜宮
ここは破面が住む宮らしい。
迷路のような廊下を歩き、更に奥深く歩いて行くと、グリムジョーは、ある扉の前で足を止めた。
「……ここだ」
見上げれば大きな扉。
どうやら、ここに噂の藍染隊長がいるらしい。
話にだけしか聞いたことのない噂の人物に会えると思うと、さすがの私も緊張してくる。
怖いわけじゃない。半分はミーハーな気持ちだった。
あれだけ聞かされていた――先輩達は彼の事を"尸魂界・史上最悪の犯罪者"だと言っていた――藍染隊長に実際に会える、なんて思ってもいなかったのだから、少しはテンションも上がるというものだ。
残り半分は、不安。
藍染隊長が何故私を連れて来ることを許可してくれたのかは分からないけど、実際に会って、結果、受け入れてもらえなかったら…と心配になる。ここを追い出されたら最後。
私は行き場を失うだけじゃなく、最悪の裏切り者として、元仲間から追われる日々になってしまう。
……それはそれで刺激のある人生を送れそうだけど。
暫し、扉を見上げ、そんな事を考え込んでいると、グリムジョーが顔を覗きこんできた。
「――怖いか?」
「ううん…怖いって言うより…楽しみって気持ちの方が強いかも」
「…楽しみ?」
グリムジョーが訝しげに眉を上げる。
彼を見上げて、私は微笑んだ。
「だって尸魂界をひっくり返した伝説の隊長さんだもの。一度、会ってみたかったの」
「………大した奴だよ、お前…」
「あ、呆れてる?」
「…んなもん最初からな」
グリムジョーはそう言って苦笑すると、私の頭をクシャリと撫でた。
「…オレの役目はここまでだ。一人で行けるな?」
「うん。あ、ねぇ…」
「あ?心配しなくてもオレはここで待っててやる」
「そうじゃなくて……ディ・ロイの怪我、大丈夫かな……」
先ほど、十一番隊の斑目一角に負わされた傷は少し深かった。彼ほどの死神にやられたのだから、いくら破面と言えどキツイだろう。
イールフォルトやエドラドは「ドジ」とか言ってイジメてたけど、ディ・ロイはかなり痛がってたし、少し心配だ。
「ああ…今頃、治療してもらってんだろ。あれくらいの傷はすぐ治る。アイツが大げさに騒いでただけだ」
「…なら良かった。私を守る為に怪我しちゃったんだし気になってたんだ」
「……………」
「な、何?」
ジっと見つめてくるグリムジョーに首を傾げる。
見た感じ、ちょっと呆れ顔だ。
「…ったく…他の奴の事、心配してる余裕があんなら大丈夫だな…。早く行け。藍染が待ってる」
「う、うん…」
背中を押され、扉の前に立つ。
軽く深呼吸をしていると、音もなくその扉が開いた。
驚いて振り返ると、グリムジョーは壁に寄りかかりながら、小さく頷く。
私も頷き返すと、ゆっくりと扉の向こうへ足を進めて行った。
「―――ようこそ。我らの城、虚夜宮へ」
無駄に広い部屋の真ん中まで歩いて行くと、前方に大きな椅子がある。
そこに、一人の男が座っていた。
前髪を僅かに額へたらし、優しげな微笑を湛えているその男は、頬杖をつきながら私を見ているようだ。
黒い装束の上に白い羽織り……この男が、尸魂界を裏切ったという、元、護廷十三隊・五番隊、隊長…藍染惣介――
「どうした?そんなに緊張しないでいいんだよ。もっと近くへおいで」
「……あ、はい」
――優しい声。
私はゆっくりと足を進めた。
特別、怖いものは感じない。
あの唯我独尊っぽいグリムジョーがいう事を聞いているんだから、それ以上に強いのだろうけど、今は多分、霊圧を抑えているんだろう。
私の体は特に苦しくもならず、彼の前へ、すんなりと行く事が出来た。
「…、と言ったかな?」
「…はい。と言います」
「いい名だね」
藍染隊長は笑みを絶やさず、私を見ている。
私も彼の事を黙って見つめた。
――なるほど。
確かに、女性から人気があったというだけあって、綺麗で凛々しい顔立ちをしていた。
尸魂界にいた頃は、物腰の柔らかい雰囲気だったというが、今は柔らかい、というよりも、どこか冷たそうでいて妖しいムードがある。
この人が…皆の話していた、史上最悪の裏切り者…
自分の死を装い、四十六室を手にかけ、部下でもある副隊長を殺そうとした。
そして六番隊、隊長の妹、朽木ルキアという人から『崩玉』を盗み出し、三番隊、隊長の市丸ギンと、九番隊、隊長の東仙要を率いて虚圏へと逃げた男――
そのとてつもない犯罪を仕組んだ人物と相対しているのかと思うと、不思議なくらいドキドキした。
尸魂界からしたら重罪人かもしれないけど、あの場所に愛着もない私にしたら、彼が凄い事をしでかした英雄のような気もしてくる。
「一つ…聞いていいかな」
藍染隊長は、そう言って微笑んだ。
こうして見ると、確かに皆が口を揃えて言っていた、柔らかい雰囲気を感じる。
でもその瞳は、どこか私を観察しているような、そんな冷静さがあった。
「……何ですか?」
「君はどうして……尸魂界での生活を捨てて、我々の元へ来たかったのかな?」
藍染隊長はそう言って微笑んだ。
やっぱり、彼も私をスパイだと疑ってるんだろうか…。
「…そんな顔しないでくれ。別に君の事を疑っているわけじゃない」
「……え?」
何もかも見透かしたような目で、彼は笑った。
「ただ、死神になろうと学院に通ってた君が、何故、敵でもあるグリムジョーと仲良くなったのかと思ってね」
「……それは…」
「グリムジョーの何に惹かれたのかな?」
「…………」
藍染隊長の問いに、自分が何故、あんなにも彼に惹かれたのかを考えてみた。
出会いは突然で、その頃の私は、ただの人間だった。
自分の存在を消してしまいたい、と願っていただけの、弱い生き物……
そんな私の前に、彼が現れて……私の世界よりも数倍、楽しい世界にいる、と言った。
どうどうとした、その姿に見惚れ、彼の強い眼差しに――ただ、憧れた。
それが何故なのか、自分でも未だによく分からない。ただの直感…本能でそう思っただけ。
「彼の傍にいたら……退屈しないと思っただけです」
私の答えに、藍染隊長は楽しそうに笑った。(笑うと可愛いかも)
「彼も……同じような事を言っていたよ」
と、頬杖をついて私を見つめる。
その瞳はどこか、楽しそうだ。
そして、不意に立ち上がると、
「退屈な事ほど、生きていて空しいものはない。君もそう思うだろう?」
「はい…凄く」
真っ直ぐに藍染隊長を見つめ、応える。
彼は、「いい、眼だ」と微笑んで、ゆっくりと歩いて来た。
「いいだろう…ここに好きなだけいてくれて構わないよ」
「……え」
「君を……我らの同胞と認めよう」
思わず顔を上げると、藍染隊長はニッコリ微笑んだ
アッサリと告げられたその言葉に、ちょっとだけ驚く。
「…いいんですか?」
「もちろんだ。そのために君をここへ呼んだのだから」
藍染隊長は、私の頭にそっと手を置いた。
認めてくれた、と思った瞬間、全身の力が抜ける。
知らないうちに、ひどく緊張していたらしい。
そんな私を見て、藍染隊長はふっと笑みを零すと、頭に置いた手をそっと私の頬に添えた。
男の人に顔を触られたのは初めてで、その感触にドキっとする。
恐る恐る見上げると、藍染隊長は優しい瞳で私を見つめ―――
「では……着ているものを脱ぎなさい」
「―――――ッ?」
その一言に、全身が固まった。
「―――ぶ…ぁあはははは………っ!!!」
部屋の中に大きな笑い声が響き、私は首まで真っ赤になった。
笑い声の主はテーブルをドンドンと叩きながら、腹がいてぇ、と言いつつ、まだ笑っている。
孔があいてるそのお腹のどこに痛みが走るんだ?
「グリムさん、笑いすぎっっ!!」
「…ぁはははは…!だって…よぉ……あまりにバカすぎて…っ」
「だ、だって普通、脱げとか言われたら、そう思うでしょっ!!」
「だからって…ぶは…っ…あの藍染がてめーみたいなガキなんかに欲情するわけねぇだろ!!つかオレなら出来ねぇ!ありえねぇ!」
「――――ッ!!(ムカッ)」
あまりの言い草に、今度は怒りで顔が赤くなってきた。
そりゃ勘違いしたのは私で、それは自分でもバカだなぁとは思うけど、そこまで笑わなくたって…
未だお腹を抱えて笑っているグリムジョーを半目で見ながら、私は溜息をついた。
どうして、彼がこんなにも笑っているのかと言うと……
先ほど「着ているものを脱ぎなさい」と言われ、一瞬混乱した私は、藍染隊長に"夜伽の相手をしろ"と言われたのかと大きな勘違いをしてしまった。
自慢じゃないけど、今日まで男の人と付き合った事もなければ、もちろんキスだってした事がない。
当然、裸なんか見せた事もない私は、藍染隊長の言葉に思い切り固まってしまった。
そんな私を見て藍染隊長も気づいたのか、困ったように苦笑いを零し、
「いつまでも処刑用の着物では嫌だろう?着替えを用意してあるから、それを着るといい」
そう言って、私を隣の部屋へと案内してくれたのだ。
そこで初めて、自分の勘違いに気づき、真っ赤になった。
その話を、ポロっとグリムジョーにしてしまった。
その結果がこれだ……こんなに笑われるなら言わなければ良かった、と後悔した。
「…あ〜しっかし…こんな笑ったのなんか初めてだぜ…やっぱお前といると退屈しねぇな」
「―――ッ!!(ムカッ)」
散々笑い倒した後、グリムジョーはそう言って楽しげに私を見た。
「…その服、胸がもう少しありゃ文句なしだ」
「―――(カッチーン)」
「ま、でも…なかなか似合うじゃねぇか」
自分と同じ白装束を着ている私をマジマジと見ながら彼はニヤリと笑った。
と言っても全く同じというわけじゃなく、私のはきちんと女の子用になっている。
上のジャケットは胸元のジッパーが少し大きめに開き、丈が短く(ボレロみたい)何気にオヘソが出るようなデザインになっている。
もちろん下はスカートで、それもかなりのミニだった。靴は膝上までのブーツで、ちょっとカッコいい。
あまりに露出が多くて、最初は抵抗のあったソレも――尸魂界では着物しか着た事なかったし――今はなかなか新鮮だから気に入っている。
こういうところは人間だった頃の好みが出てるのかもしれない、とふと思った。(多分、女子高生だったんだろうし)
「すっかり破面もどきだな」
「(もどきって)…それはどうも」
「あん…?どうしたよ」
プイっと顔を背ける私に、彼は訝しげな顔でこっちに歩いてくると、ドサリと隣に腰を下ろした。
このソファは大きいから十分に余裕はあるけど、私はわざと一個分の距離をとる。(怒ってるぞ、という意思表示)
「何だよ…怒ってんのか?」
「あれだけ笑いものにされて怒らないと思う?」
「あ?おかしいから笑ったんだよ。悪いか」
ヌケヌケと言い放つグリムジョーに、私の目は更に細くなった。
ある意味、物凄く正直で自分の気持ちに素直なんだろうけど……でも何かムカつく。
「それだけじゃないもん」
「何だよ」
「人のことガキ扱いしたでしょ?しかも……出来ないとか…ありえないとか、貧乳だとか…!年頃の女の子に向かって失礼じゃないっ」
「あ?ホントの事だろーが。ガリガリで胸もなければ色気もねぇだろ」
「……(ムカッ)スリムって言ってよ!」
「スリムだぁ?男は出てるとこ出てるグラマーな体が好きなんだよ。お前に興味持つとしたら、ロリコンのノイトラか、変態趣味のザエルアポロくらいだっつーの」
「……誰それ…っていうか何それ!何で私に興味持つのがロリコンの変態野郎なのよ!これでも一応、同じ特進クラスの男の子にデート誘われた事だってあるんだから!」
あまりに頭に来て、ついそんな事を叫ぶ。
グリムジョーは一瞬だけ驚いたような顔を見せたけど、すぐにまた笑い出した。
「じゃあソイツもロリコンで変態だったんだろ――」
「あ!そう言えば阿散井副隊長にも何度かランチ誘われた事あったなぁ!もしかして阿散井副隊長ってば私の事、好きだったのかも!」
グリムジョーの言い草に頭に来て、わざと大きな声で言ってみた。もちろん本気でそんな事は思っていない。
阿散井副隊長は面倒見のいい人だったし、きっと単にコミニュケーションをとろうとしてただけだと思う。
ただ悔し紛れに言ってみただけだ。(だって私には変態しか近寄ってこない、みたいに言うし)
多少の効果はあったのか、グリムジョーは訝しげな顔で、私の顔を覗きこんでくる。
「……阿散井…?」
「さっき会ったでしょ?六番隊の副隊長よ。赤い髪の」
「ああ……刺青いれた変な眉毛野郎か…(!)アイツ、副隊長なのか?」
「そうよ?会うといつも話しかけてくれたし、実習に来た時も何気に優しくしてくれたし、私を捕まえに来た時も凄ーく心配してくれてたなぁ〜」
「……けっ!副隊長クラスにも物好きな奴がいるんだな」
「物好きとは何よ!そっちこそ、そんな性格じゃ女にモテないんじゃないの?」
「あ?てめぇ、誰に向かって言ってんだ?十刃のオレがモテねぇとでも思ってんのか?」
グリムジョーは鼻で笑って私の頭を小突いた。
その自信たっぷりの顔にカチンときたけど、気になっていた"えすぱーだ"という言葉に、ディ・ロイが言っていた事を思い出す。
"グリムジョーだって、めちゃくちゃ強えーから。何て言っても元十刃だし…"
――そう言えば…"元"ってどういう意味だろう。
「…あん?何だよ、その顔」
「ねえ…"えすぱーだ"って何?さっきディ・ロイが、"グリムジョーは元えすぱーだ"って言ってたんだけど…」
「……元は余計だ。そのうち返り咲くつもりだしな」
「…って答えになってない。それ、何?何かの階級?」
「まあ…そんなようなもんだ。破面の中でも最強の奴らだけが入れる。NO10以下の奴らは生まれた順で番号がつけられるが、十刃だけは別だ」
「強さの順位で…って事?」
「ああ…」
「ふーん…じゃあグリムさんは…さっき言ってたけど
NO6…だっけ?6番目に強いってこと?」
私の問いに、彼は怖い顔で舌打ちをした。
「単に6が好きなだけだ。1から5なんて目じゃねぇよ」
「……そっかぁ。グリムさんって凄く強いんだってディ・ロイも言ってたし…」
そう…それと"今は腕のせいで落ちてっけど"って言ってたけど…。
でもそれを言えば、彼が怒るような気がしたから、言うのはやめた。
……彼の左腕は、どこにいったんだろう?
「つーか、てめぇ、何でオレの部屋で寛いでんだ?そろそろ自分の部屋に戻れよ。部屋、もらえたんだろ?」
ふと思い出したようにグリムジョーが言った。
それには驚いて、
「え…?だって、この部屋は藍染隊長が私の部屋だよって……」
「はあ?!ふざけんな!誰がてめーの部屋だよ!ここはオレの部屋だっ」
ギョっとしたように叫ぶ彼を見て、私も驚いた。
だって藍染隊長はハッキリ、この部屋へ行けと言ったのに。
"今日から、ここが君の部屋だ。好きなように使うといい"
そう言ってルームキーをくれた。
ここへ一緒に来たグリムジョーは、てっきり部屋に案内してくれたんだと思っていた。
「で、でもほら、これ藍染隊長がくれたのよ?これって、この部屋のキーでしょ?」
そう言って"6"の数字が刻まれたキーを見せる。
グリムジョーはそれを見て、ギョっとしたように目を見開いた。
「…チッ!藍染の奴…オレにお前のお守りをしろってか?」
「お守りって何よ!私は子供じゃないってばっ」
「うるせぇ!お前と同じ部屋なんか冗談じゃねぇ!別の部屋に行けよっ」
「そ…そんなこと言ったって藍染隊長がそう言うんだから仕方ないでしょっ?私はここでいいもん」
「はあ?ふざけんな!寝るとこねぇだろ!」
「あんなに大きなベッドがあるじゃない」
そう言って部屋の奥にドーンと置いてあるキングサイズのベッドを指差す。
って言うか一人であのサイズに寝てるのか、グリムさんは。
「あれはオレ専用のベッドだ!……つか、マジでお前、この部屋に住む気か?」
「だって慣れない場所だし一人よりはいいかなぁって」
「バ…てめぇも一応女だろ!少しは考えろ!」
グリムジョーは呆れたように私を見ている。
でも別に意識するような仲でもないし、グリムジョーしか知ってる人もいない私にとって、一緒の部屋というのは安心できる事だった。
「さっきはガキ扱いしたじゃない。あ…それとも…」
「な…何だよ…」
彼の顔を覗きこむと、顔を顰めて後ずさっている。
そんな彼にニッコリ微笑んだ。
「もしかして私に欲情して襲っちゃうかもしれない、とか心配してる?」
「あぁ?!誰がてめぇにその気になるか!ありえねぇっつったろ!」
「じゃあ、いいじゃない。私も気にしないし。一人より二人の方が楽しいよ?」
「…はあ?」
「それに…藍染隊長がそう言ってるんだから、本気で嫌なら藍染隊長に私専用の部屋をくれるよう頼んでよ」
「……くっ」
さすがのグリムジョーも、藍染隊長には弱いみたいだ。
深々と息を吐くと、ソファにもたれ、天井を仰いだ。
「クソ…!これじゃ女も連れ込めねえ…」
「え!グリムさんって彼女いたの?」
「んなもん、いねぇ!いねぇけどヤらせてくれる女は腐るほどいんだよっ」
「……ふーん。グリムさんってモテるんだ。意外」
「あぁっ?」
「だって女の子には優しくなさそうだし、てっきりモテないんだと思ってた」
「…バーカ。女は優しい奴より強い男が好きなんだよ」
「あ、そうか。私も強い人好きだし、それは分かる。ふーん、グリムさんてやっぱり強いんだね」
「……てめぇ、バカにしてんのか?」
一人で納得している私を見て、彼が怖い顔で睨んできた。
そんな彼を見て「してないよ」と苦笑する。
遠慮なく好き勝手、言い合える感じが凄く楽しい。
――ああ、そうか。今までの私は、本音を言い合える友達って、一人もいなかったんだ。
「何笑ってんだ?」
「何か楽しくて」
「楽しい?」
「うん。こうやって誰かと好きなこと言い合ったり、ケンカしたりするのって初めてなの」
「……ケンカすんのが楽しいって、つくづく変な女だなお前」
グリムジョーはそう言って苦笑すると、ソファに凭れて大きな溜息をついた。
多分、私の事を呆れてるんだろう。
彼はガシガシと頭をかきながら横目で私を見ると、「しゃぁねぇな…」と一言、呟いた。
「ただし…この部屋をお前が使うのに一つ条件がある」
「え?条件って?あ!まさか使わせてやる代わりにヤラせろっていう気じゃ――」
「ふざけんな!!ありえねぇっつったろ!」
「…ジョークだよ…そんな青筋たてて怒らなくても…」
「チッ!」
物凄い剣幕のグリムジョーに、思わずクッションを抱えて笑いを噛み殺した。
いちいち過剰反応する彼がちょっとだけおかしい。
だいたい私だって彼のこと、男として意識してるわけじゃないし、そもそも破面って恋とかするのかな。
彼を見てると、とてもそうは思えない。(ヤる事はしっかりヤってるみたいだけど)
「――で、条件って何?部屋の掃除とかなら、ちゃんとするよ?」
タイミングを見て彼の顔を覗きこむ。
ムスっとしていた目が、私を見て半分に細められた。
「んなもん当たり前だ。条件のうちに入るか」
「…(偉そう)じゃあグリムさんの言う条件て何なの?」
「それだよっ!」
「……へ?」
「……オレの事を"さん"づけで呼ぶな。気持ちわりぃんだよ」
「え、それだけ?」
どんな条件をつけられるかと思っていたけど、そんな事だったとは。
グリムジョーはジロっと私を睨むと、「今度呼んだら、すぐ叩き出すからな」と言った。
あの呼び方がよっぽど嫌だったみたいだ。(そう言えば何度も怒られたっけ)
「叩き出されたら行くとこないじゃない」
「知るか。ディ・ロイの部屋でも行けよ。アイツなら喜んで使わせてくれるぜ?ただし、ヤラせてやれば、の話だけどな」
「…何それ。そんな事で処女喪失とかしたくないんだけど」
「はっ!やっぱお前処女かよ。だっせー。だから胸が育たねーんだよ」
「ほっといてよ!」
またしてもバカにするグリムジョーの腕を叩こうと手を振り上げた。
でも、そこにあるはずの左腕は、ない。
「何だよ、その顔…」
「…何でもない」
振り上げた手を下ろし、顔を反らす。
何でも言い合えるけど、でも腕の事は何となく踏み込んじゃいけないような気がした。
「じゃあ……何て呼べばいいの?って言うか、名前なんだっけ……グリムジョー・ジョガージョック…?」
「あぁ?!誰だそりゃ!つーか、グリムジョーしか合ってねぇよテメェ!」
「…えぇ?そんな名前じゃなかった?一回しか聞いてないし、そんな長い名前覚えられないもん…」
「お前の頭は空っぽか?!振ったらカラカラ音すんじゃねぇのかぁ?」
「い、痛いよグリムさ――」
頭を掴まれ、振り回された私は、思わず"禁句"を言ってしまいそうになって慌てて口を閉じた。
グリムジョーは私の頭を掴んだまま――何気に痛い――唇の端を上げると、
「今…何つった?」
「ま、まだ全部言ってない」
必死に首を振ってニッコリ微笑む。こうなれば愛想を振るしかない。
グリムジョーは目を細めながら見ていたけど、すぐに苦笑すると、やっと手を離してくれた。
「今回だけは許してやる。でも次はねぇぞ?」
「わ、分かってる。ちゃんとグリム…なんて呼べばいいんだっけ」
「…!!グリムジョーだよ!フルネームは覚えなくていいっ」
「グリムジョーね。良かった、短くて」
「つか、普通、フルネームで呼ばねーだろ!って……はあ…何か疲れてきたぜ…」
グリムジョーは深々と溜息をついて頭を振ると、徐に立ち上がってベッドの方へ歩いて行った。
そのままキングサイズのベッドに倒れこむと、
「お前といると退屈しねぇけど、すげぇ疲れる」
「…勝手に疲れないでよ。っていうか寝るの?」
「ああ…尸魂界で暴れたし、お前はバカだし疲れたんだよ…」
「………ふーん(バカって何だ)」
そう思いながら、私もベッドの方に歩いていく。
そっと上に上がって、彼の方に這って行くと、グリムジョーはすでにウトウトし始めていた。
「バカとかガキとか、つくづく失礼な奴…」
「………んぁ…?」
「…でも……さっき助けに来てくれた時は、ちょっとカッコ良かったよ…グリムさん」
「……………」
最後の"禁句"を呟き、彼の顔を覗きこむ。
返事はなく、代わりに小さな寝息が聞こえてきた。
寝るの早すぎだよ、と苦笑しながら、そっと彼の鮮やかな色の髪に触れてみる。
硬いのかと思ったら、意外にふわっとしていて柔らかい。
「気持ちい…」
そう言いながら彼の隣に寝転がる。
うつ伏せのまま、こっちに顔を向けて寝てるグリムジョーは、子供みたいな顔をしていた。
起きてる時は怖かったりムカついたりするけど、こうして見ると綺麗な顔立ちをしていて、なかなか男前なんだ、なんて思った。
グリムジョーは安心したように、寝息を立てていて、それを見ていたら私まで眠くなってくる。
彼に寄り添うようにして目を瞑ると、何だか凄く安心した。触れている腕が彼の温もりを感じてる。
自分以外の体温が、こんなにも心地いいなんて知らなかった。
ここが、私の初めての、居場所になる―――扉は開かれたのだ。
(その罪の向こうに、どんな罰がある?)
BACK
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
前に虚だった時のグリムジョーが見てみたいとアトガキでも書きましたが、
とうとう32巻で見れました(´¬`*)〜*
アジューカスだったグリムジョーも、なかなかカッコ良かったです♪
そういやデスノ読みきりのために買ったジャ●プで、つい見てしまったブリーチ…
ノイトラの数字が舌に刻まれててビックリ。そこかよお前!
どうでもいいけど、あのタトゥーは誰がいれたんだろー
他の破面も、どこに数字のタトゥーがはいってるのか、見るの楽しみにしてます☆
この作品にもコメント頂きまして、ありがとう御座います!<(_
_)>
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■グリムジョーの何気ない動作がカッコイイ!(大学生)
(そう言って頂けると嬉しいです〜!(*ノωノ)
■グリムジョー素敵でした!あたしも助けられたいです!(笑)(大学生)
(ありがとう御座います!グリムジョーいいですよね♪)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆