春の陽気が温かい5月初旬。飽きもせずに上った屋上。
「――よぉ、」
突然、背後から声をかけられて、私は静かに振り向いた。
「…誰だっけ?」
「お前…同じクラスだろ?いい加減、覚えろよ。オレは黒崎。黒崎一護」
――ま、オレも人のこと言えねぇけどな。
そう言って苦笑いを浮かべたのは、少し派手な色の髪をした、目つきの悪い男だった。
この高校に入学して数週間。未だに私はクラスメートの顔と名前を覚えていない。
あまり興味がなかったんだろう。
入学当初は色々と話しかけて来る人もいたけど、素っ気ない態度しかとらない私は、いつしかクラスから浮いた存在になっていた。
「お前…だっけ?屋上によくいるよな。好きなのか」
「…別に。一人でいるのが好きなだけ」
「…ふーん。ま、オレも好きだけどな。一人の時間って」
オレンジ色の艶やかな髪をかきあげ、笑みを浮かべる黒崎一護とは、何度か屋上で顔を合わすようになった。
今、思えば、きっと彼も一人になりたい時に、屋上へ来ていたんだろう。
でも私は、一人の時間を邪魔するあいつが、うっとうしくて、他の人と同じように、素っ気ない態度で接していた。
黒崎一護は特に気にする風でもなく、顔を合わせるたび、懲りもせずに話しかけてくる。
教室にいると、仏頂面ばかりしている彼も、屋上に来た時だけは、良く笑っていた。
「…あ」
「何?」
「いや…何でもねぇ」
黒崎は屋上の隅をジっと見ながら、首を横に振った。その先に私も視線を向ける。
そこには、さっきまでいなかったはずの少女が、悲しそうな顔をして立っていた。
「…あの子、見たことない子ね。浮遊霊かな」
「おま…あれ、見えるのか?」
「まあね」
黒崎はギョっとしたように目を見開いた。でもすぐに笑うと、「やっぱな」と呟く。
「お前、時々あさっての方見たりすんだろ」
「え?」
「皆が見向きもしない場所とか見てるお前見て、オレと同じかなって思ったことがある」
「ふーん。黒崎もそうなんだ」
「まぁな。ガキの頃からな」
「私も」
「そっか。何か同じ匂いすると思ったんだよな」
「やめてよ。変に仲間意識とかもたれてもウザいだけ」
「ウザいって…お前ホント、ひねくれてんなぁ」
私がどれだけ冷たくしても、黒崎は一向にめげない奴だった。
いつも、当たり前といった顔で、私の空間に無断で入ってくる、そんなクラスメート――
「……お前…何してんだよ……どうして…グリムジョーと――」
「………ッ」
(目の前の死神代行の男が……あの黒崎なの―――?)
現世での記憶が堰を切ったように、私の頭の中に流れ込んでくる。
記憶が混乱してるみたいだ。現世の記憶、その後の記憶、全てが混ざり合って息苦しい。
「おい、!大丈夫か?」
グリムジョーが心配するように抱きしめる腕に力を入れる。
その腕の強さに縋るように、彼にしがみついた。
「――チッ!てめぇ…コイツの何なんだ?」
「グリムジョ…」
不意に腕が離れ、顔を上げると、グリムジョーは殺気だった目で黒崎一護を睨んでいる。
「何なんだよ、てめぇ…。の何だってんだぁ?」
「………っ?」
ゆっくりとグリムジョーが立ち上がった。
黒崎は未だ地面に手をついたまま、動けないでいる。
血まみれのグリムジョーよりも、黒崎の方がつらそうだ。
殺気をまとったグリムジョーが彼の方へ歩いていく。それを見て、黒崎は再び手を顔へとかざした。
またあの仮面を出す気なのか、とドキっとした。グリムジョーもそれを見て一瞬足を止めている。
でも、あの不気味な仮面は出ることなく、今度は一瞬で消滅した。
「ハッ!どうやら、さっきの仮面は一度壊れたらもう出せねぇらしいな!」
「く…っ」
「いや…出す構えを取るって事はそういう訳でもねぇのか…」
「……………」
「だがダメージを受けすぎたせいか、霊力を削られちまってるせいか、それとも回数制限か…」
一歩、一歩、グリムジョーが黒崎に近づいていく。そして斬魄刀を高く振り上げた。
「何が理由かは知らねぇが、とにかくあの仮面は――」
「――――ッ」
振り上げた斬魄刀が、黒崎の両腕を貫く。
黒崎は言葉もないまま、ただグリムジョーを見上げていた。
「――今はもう出せねぇ」
「――――ッ?!」
「そうだろ?」
黒崎の顔の前で、グリムジョーが掌をかざす。あの構えは――――虚閃!
「…ちょ…グリムジョー!」
「うるせぇ!!お前は黙って見てろ!」
グリムジョーは怖い顔で振り向いた。
「…コイツはオレの敵だ」
「グリムジョー…」
「お前の知り合いとか、そんなもん関係ねぇ…。お前も知らないって言っただろ」
そう…確かに知らないはずだった。でも今はもう思い出してしまっている。
皮肉めいた笑顔、ぶっきらぼうな手、あの屋上でのやり取り……
あの学校で唯一、私が覚えていたクラスメート――
「グリムジョー!待っって――」
「心配すんな。この距離での虚閃だ。仮面を被る頭ごと消してやるよ!!」
「…グリムジョー!!」
掌が赤く光り、熱が増幅していく。黒崎が目を見開いた。
やめて、と叫んだ言葉が声になっていたか、分からない。
どんどん膨れ上がっていくエネルギーが、黒崎の顔に光を放って、私は思わず顔を覆った。
「――な……っ?!」
が、グリムジョーの掌が、虚閃を放つ事はなかった。代わりに聞こえてきたのは、静かな始解の言葉――――
「――次の舞。"
白漣"!」
「―――ッ」
その声にハッと顔を上げる。視界に飛び込んできたのは、グリムジョーの凍った右手。彼の驚愕の表情。
そして―――白い斬魄刀を構えた、一人の少女。
一瞬で、グリムジョーの全身が氷に包まれていくのを、私は声もなく、ただ見ていた。
「……ルキア…」
黒崎が荒い呼吸の合間に呟いた。
ルキアと呼ばれた少女は斬魄刀を構えたまま、私の方を振り向く。が、一瞬、息を呑んで、目を見開いた。
死神特有の死覇装、大きな瞳に黒い髪……見覚えのない顔だ。だけど…その名前は聞いたことがある。
ルキア……そして死神代行の男、黒崎。
あの藍染さまの起こした暴動の際、関わった二人だ。何度も話を聞いた覚えがある。
この少女は『崩玉』をその身に宿していた朽木ルキア――実際に会うのは初めてだ。
「貴様……破面ではないな…」
「ルキア、止めろ!ソイツは……オレの知り合いだ…」
「…何?!」
「………ッ」
ゆっくりと近づいてくる朽木ルキアに、私はすぐに身構えた。自分の斬魄刀は持ってきている。
腰にさしている刀を手で確認しながら、私は少しづつ距離をとった。万が一の時は、攻撃をしかけるつもりだった。
彼女の実力は知らない。でも死神見習いだった私よりは強いはずだ。それでも、グリムジョーを早く助けなければ…
今はそれしか頭にない。だが、朽木ルキアは驚いたように私を見て、その足を止めた。
「貴様……か…?」
「―――ッ?」
斬魄刀を抜こうとした瞬間、少女が口を開いた。あまりの事に驚いて、声が出ない。
何故、この少女までが私の事を知っているのか。その答えは黒崎が口にした。
「…コイツも…ルキアも一時、同じクラスだった…覚えてないか?…」
「…な……」
「ルキアは……転校生になりすまして…少しの間、同じクラスにいた…だろ?」
「な、なりすましてとは人聞きが悪いぞ、一護!それに現世を離れる時、皆の私に関する記憶は全て消した!覚えてるはずがなかろう!」
黒崎の言葉に、少女が反論する。でも私はどうしても、思い出せない。
だいたい、何故彼女が人間界の学校に転校したのか。その理由すら意味不明だ。
――いや…朽木ルキア……彼女は一度、極刑になったんだった。私と同じように、"双極"に繋がれた人物。
その罪状は……死神の能力を人間に譲渡した事による、第一級重禍罪……
そして彼女は尸魂界に連行される前、現世で人間として暮らしていた……
そうか…それで少しは分かってきた。
黒崎は私が人間だった頃のクラスメート。そして…彼女はその学校に転校してきた、死神――
普通ならありえないことだ。でも今、思い出した記憶と、二人の会話を聞けば、そう言う結論になる。
彼女の事は記憶にない。彼女が言うように、朽木ルキアに関する記憶を消去されたのかもしれない。
でも…まさか、こんな形で人間だった頃の知り合いと再会するなんて――
「…ホントになのか…。だが何故、その破面と…」
「…来ないで!!」
「……?」
「あんた…グリムジョーに何したの?!彼を元に戻して!」
斬魄刀を抜いて構える。未だ凍ったままのグリムジョーを見て、鼓動が早くなっていくのが分かった。
まさか死んだ?いや、そんなはずはない。彼が一死神にやられるはずがない。
朽木ルキアがどれほどの力を持っているのか知らないけど、彼よりも霊圧は劣る。
グリムジョーがあんな氷にやられるはずがない。
この二人が現世にいた頃、クラスメートだったのかなんて、私にはどうでもいい。今、大切なのは――
「…どうして貴様が破面といる?貴様は破面ではないだろう…何故そのような格好を――」
「うるさい!あんたなんか知らないわ!いいから早く彼を戻して!じゃないと…」
「…っ」
「ルキア…は…記憶が混乱してる…人間だった頃の記憶が…ないみたいなんだ…」
「何?」
黒崎の言葉に、朽木ルキアが振り向いた。その一瞬の隙を見て、瞬歩で移動する。
「…!!」
「早く彼を元に戻して。じゃないと…黒崎の首、切るわよ?」
「貴様……っ」
黒崎の背後に回り、首筋に斬魄刀をあてる。朽木ルキアは唇を噛み締め、私を睨んだ。
が、黒崎は私を見上げ、驚いたように目を見開いている。
「お前…思い出したのか…?」
「………ッ?」
「今…黒崎って…言ったよな……」
「……うるさいわね。本当に首、切るわよ?」
「……お前…本当にどうしたんだ…?いや……それ以外にも聞きたい事がある…」
黒崎はそこで言葉を切ると、悲しげな目で、私を見つめた。
最初に言葉を交わした時と同じような、深い孤独を纏った瞳……少しも変わっていない。いや、あの頃よりも一段と色濃くそれが見えている。
「何で……お前は……あそこから飛び降りたんだよ」
「――――ッ」
そうだ……私は……学校で唯一、好きだったあの場所から…この世に別れを告げた。
あの夜の事は今もハッキリ覚えている。それは……
ふと、グリムジョーを見た。あの夜、突然現れた破面。私の運命は、彼と出会ったあの時から決まった…。
「皆……泣いてたぞ…?ケイゴも…井上…も…」
黒崎はそう言いながら、辛そうに息を吐き出した。
両腕を貫いたままのグリムジョーの斬魄刀は、今の黒崎の様子じゃ抜けないみたいだ。
「言っただろ…オレ…言ったよな…?あっち側に行くなって…」
「うるさいっ!黙ってて!私は自分の望む世界で生きたかっただけよ!黒崎にそれを止める権利なんかないっ」
「……」
「いいから早くグリムジョーを戻して!!」
「貴様……」
朽木ルキアが一歩、こっちへと近づいてきた。それを見て斬魄刀を黒崎の首筋に食い込ませる。
黒崎は僅かに顔を顰めて、唇を噛み締めた。
「そうか…貴様、先日、尸魂界で処刑されそうになった者だな…?」
「処刑…?が…?」
朽木ルキアの言葉に、黒崎が顔を上げた。
「………それが何?」
「やはりな…」
朽木ルキアは何もかも理解したかのように、息を吐き出した。
「おい…何の事だ、ルキア!が処刑って――」
「この者は…尸魂界を裏切り、破面と密会していたがそれがバレた。敵と密通していた死神は重罪。第一級重禍罪として私と同じように"双極"に繋がれたのだ。
だがその時、この者を助けに破面が数体、尸魂界に現れ…裏切り者の死神を連れて虚圏へと消えた……」
「何だって?!」
「この目で見たわけじゃないが…その破面たちと相対した恋次が言っていた。その中に片腕ながら恐ろしく強い破面がいた、と」
「……まさか…」
「それがそこの破面だろう。あの更木隊長とも互角でやりあっていたらしい」
朽木ルキアはそう説明すると、凍ったままのグリムジョーを見上げた。
「だとすると…このまま見過ごすわけにはいかない。貴様は尸魂界へ連行する」
「……おい、ルキア!は――」
「一護は黙っていろ!例え、現世で友人だったとしても……今は裏切り者の死神だ」
「……無理やり浚われたのかもしれねぇだろ!」
「莫迦か貴様。こやつを見ていれば分かるだろう?この破面を助けようと、お前に刀を向けているではないか!」
朽木ルキアはそう言うと、再び斬魄刀を構えた。
彼女の本気が伝わり、私も斬魄刀を持つ手に力を入れる。
「一護を離せ。でないとお前もこの破面と同じ運命だ」
「……それはこっちの台詞よ。彼を元に戻して」
「出来ぬ相談だ」
「黒崎が死ぬわよ?」
私の言葉に彼女は斬魄刀をすっと引いて構えをとった。
一瞬緊張する。朽木ルキアの斬魄刀は氷雪系のもの…あれに攻撃されれば、グリムジョーのように一瞬で凍る。
「もう一度、言う。一護を離せ、。そして私と尸魂界に行くのだ」
「二度とごめんよ。あんな退屈な場所」
「なら仕方ない。無理やりにでも来てもらう――」
そう言って朽木ルキアが斬魄刀を構える。
その瞬間―――突然、グリムジョーを覆っていた氷が弾け飛び、彼の腕が朽木ルキアの顔を掴んだ。
「―――ッ」
「…ナメんじゃねぇぞ、死神……薄皮一枚、凍らせて…それでオレを殺したつもりか…っ?!甘ぇんだよ!!」
「ルキア!!!」
グリムジョーの掌が赤く染まっていき、朽木ルキアの目が大きく見開かれる。
エネルギーが膨れ上がり、彼女の顔を覆ってくのを見て、黒崎が慌てて動いた。
が、両腕を貫いている斬魄刀で、身動きが取れない。
「ぐ…ク…ソ…!!――!!アイツを止めてくれ!!」
黒崎が哀願するように私に叫んだ。
が、私が動く前に、何かのエネルギーの塊が物凄いスピードで飛んできて、朽木ルキアを押さえていたグリムジョーの腕を弾いた。
グリムジョーは驚いたように自分の焼け爛れている腕を見つめている。
「な……っ」
「は…っ…はっ…」
朽木ルキアが息も荒くその場に崩れ落ちる。
何が起きたの?そう口に出そうになった瞬間、見知らぬ霊圧が一つ増えている事に気づき、ハッと顔を上げた。
「…やれやれ。ほんまは死神の戦いに手ェ出すん嫌やねんけどなァ……しゃァない」
「―――ッ?」
「こんだけ近くでドンパチやられたら、シカトするわけにも行かんしなァ」
「…平子…」
「ひらこ…?」
黒崎の言葉に、その声の方へ視線を向けると、民家の屋根の上に一人の男が立っている。
オカッパ頭で肩に斬魄刀らしきものを乗せている男に、黒崎は驚いている様子だった。
グリムジョーも訝しげに眉を寄せると、屋根の上にいる男を見上げた。
「…何だてめぇ。こいつらの仲間か?」
「何でやねん」
グリムジョーの問いに、オカッパの男は徐に顔を顰める。
「じゃあ何だ…」
「何でもええやろ」
「違いねぇ……てめぇが誰だろうが…」
グリムジョーがゆっくりと動いた、と思ったその時。
「――くっ…」
黒崎の両腕を貫いていた斬魄刀は一瞬で抜き取られていた。
「――てめぇを殺すには関わりねぇ事だっっ!!」
「ちょ、グリムジョー!!」
物凄い速さでオカッパの男に飛び掛っていったグリムジョーの攻撃で、目の前の建物が一瞬で崩壊した。
あの男が何者かはしらないけど、グリムジョーはかなりの怪我をしている。あのまま戦わせるわけにはいかない。
が、慌てて追いかけようとした瞬間、黒崎が私の腕を掴んだ。
「つっ…」
「黒崎?!離して!!」
「待て…よ…。お前…にまだ話がある…」
「何の話?!私にはないわっ」
「ふ…ざけんな…っ!お前が急に自殺して……どんだけ…悩んだと思ってんだ…っ」
「……ッ」
腕を掴む黒崎の手に力が入る。グリムジョーの斬魄刀で貫かれたのだ。かなりのダメージを負っているはずだ。
「離して…!あまり無理するとその腕、使い物にならなくなるわよ?」
「うる…せぇ!!お前…何で死んだ…?いや…どうしてグリムジョーと…」
「関係ないでしょ?」
「バカヤロ……お前…騙されたんだろ?…藍染と…アイツに…お前は――」
「いい加減にして!そんなんじゃなってば!離してよ!グリムジョーを止めなきゃ――」
そう言った瞬間、遠くで激しい爆発音が聞こえ、ハッと息を呑む。
見れば、グリムジョーの攻撃を交わしたオカッパの男が、不意に手を、顔にかざした。
「な……っ」
それは先ほど見たものとまるで同じだった。
オカッパの男の顔が、不気味な仮面に覆われている。グリムジョーもそれを見て目を見開いた。
「な…何なの?アイツ…黒崎と一緒…」
「………」
「ねぇ…あれは何なの?あの仮面は一体何?」
「…お前には関係ねぇ……」
「何よそれ。私には色々聞いてきたくせに、自分の事は言わないつもり?」
「………」
「なら腕、離してよ。私より、彼女を見てあげたら?殺されそうになって苦しそうじゃない」
「……ルキア…っ」
後ろで地面に座り込んでいる朽木ルキアを見て、黒崎の手の力が一瞬緩んだ。
その隙を見て彼の腕を振り払おうとした。が、すぐに捕まえられる。
「どこ…行くんだよっ」
「離してってば!」
「アイツ助けに行く気か?やめろ、巻き込まれる!」
「いいから離し――」
力いっぱい、黒崎の腕を振り払おうとした、その瞬間。物凄い大きな霊圧を感じ、すっと音もなく、背後から延びてきた手が、黒崎の手を掴んだ。
「―――その手を、離せ。死神」
「………てめぇっ」
黒崎の瞳が驚愕の色に染まっていく。ゆっくりと振り向けば、そこには意外な顔があった。
「…ウルキオラ…?」
感情のない瞳と、至近距離で目が合う。
彼は掴んだ黒崎の手を、いとも簡単に私の腕から外していく。
「…くっ……」
「戻るぞ、女。任務完了だ」
「……え?でもグリムジョーが…」
そう言って見上げたその時、大きな爆発音と共に、グリムジョーが吹っ飛んだのを見て、目を見張った。
グリムジョーは目の前の建物に激突し、激しい衝突音と共に土煙が上がる。
その瞬間、ウルキオラが私の体を抱えた――。
大きなエネルギーに吹き飛ばされ、オレは激しく咽た。
地面に手をつき、何とか起き上がろうと、足に力を入れる。が、今のダメージで僅かにフラついた。
「…くそッ!くそッ…!」
「咄嗟に自分の虚閃をぶつけてダメージを削ったか…。やるやないか」
音もなく目の前に姿を現した仮面の男に、頭の血が上がる。
理由は分からないが、あの死神といい、この男といい、仮面をつけた時は爆発的に強い。
このままじゃやられる。これまでの戦いの中で得たオレの本能が、そう告げていた。
――は?アイツは無事か?
僅かに前方へ視線を走らせるが、土煙でよく見えない。
あいつの傍には、死神が二人いる。あのままじゃアイツは捕らえられてしまう。考えてる暇はない。
ここはサッサと終わらせてしまわなければ……
「…くそがっ!!」
解放するしか、目の前の男を倒せない――オレは思い切り斬魄刀を握り締めた。
「―――軋れ…っ」
始解の句を叫ぼうとしたその瞬間、静かな風が吹き、オレの周りをよく知った霊圧が包んでいた。
「…ウル……キオラ…!」
「任務完了だ。戻るぞ」
そう言ったのと同時に、
反膜が体を包む。
言い返す暇もない。その瞬間、アイツの顔が頭を過ぎった。
「な……ちょっと待て!は――」
「ここにいる」
「………っ?」
ウルキオラの言葉に、視線を落とす。そして思わず目が半目になった。
はウルキオラの右手に、抱えられるようにしてぶら下がっていたからだ。
「何してんだ、てめぇ…」
「だ、だって…」
呆れたように溜息をつくと、は恥ずかしそうに唇を尖らせた。
「いきなりウルキオラが私を担ぐから――」
「モタモタしている暇などなかった。不満なら下ろすが?」
「い、いえ…ありがとう御座います…」
無表情のまま答えるウルキオラに、の顔が引きつっている。
が、オレの傷を見て、心配そうな顔をした。
「…グリムジョー大丈夫…?」
「…チッ、こんなもん何でもねぇよ」
「で、でも血が…」
「大丈夫だって言ってんだろ?!それより……」
オレはウルキオラにチラっと視線を向けると、「後でお前に話がある…」との鼻を指で弾いた。
うっと声を上げたも、分かっていたのか素直に頷く。
ウルキオラはそんなオレ達を見ると、無言のままの体をオレに預けた。
「オレは先に行く。藍染さまが待っているからな」
「……勝手にしろ」
その瞬間、虚圏の領域に入った。ウルキオラは
響転で姿を消し、オレは軽く息をつくと、腕に抱えているを見た。
同じようにオレの腕にぶら下がっているの顔は、かなり不満顔だ。
「ちょっと!私は荷物じゃないんだから、もう少し抱えた方があるでしょっ」
「うるせぇなあ…。お前、怪我してねぇーんだろ?自分で歩け」
「いたっ」
徐に手を離せば、ドスンという音と共に、の体が落ちる。
痛いじゃないっと文句を言いながら、ケツをさすっている姿を見て、軽く噴出した。
「何笑ってんの…?」
「別に。さっきまで泣きそうな顔してたクセに、もう元気になりやがって」
「…な、泣きそうになんか――」
「なってただろ?オレが凍らされてる時」
「…み、見えてたの?」
ギョっとしたようにが目を丸くした。
「ああ。声も聞こえてたぜ?あんなもん、すぐぶっ壊せたけどな」
「な…じゃ……何ですぐに逃げなかったのよ…!心配したんだから」
「……お前らの話を聞いてた」
「………っ?」
「お前……あの死神と知り合いだったんだな」
が僅かに息を呑む。が、すぐに肩を竦めて、「さっきまで忘れてたけどね」と言った。
確かあの黒崎とかいう死神は、こいつの事を"クラスメート"と言っていた。
がまだ現世で暮らしてた頃の知り合いって事は分かったが、こんな偶然があるのか、と少しは驚く。
「私とアイツは――」
「いい。まずは部屋に戻ろうぜ」
「あ…うん。傷の手当てもしなくちゃ…」
「けっ。こんなもん大した事ねぇ……」
そう言った矢先、体のあちこちに痛みが走り、僅かに顔を顰める。
その痛みが、オレの怒りを増幅させた。
――黒崎……そしてあの見知らぬ男……何だってんだ?アイツら…
あの仮面も気になる。あれを出しただけで、黒崎も爆発的に強くなった。一体、何をしやがったんだ…
このオレが……あんな奴らに後れをとったなんて、冗談じゃねぇ!絶対にこの手で殺してやる……
そう思いながら、今はない左腕にそっと触れた。
救護室。そこでグリムジョーは怪我の治療をしてもらっていた。
そこには、一緒に現世へ行った、ルピやヤミーもいて、皆それぞれ怪我をしたみたいだ。
機嫌の悪そうな顔で治療してもらってる所を見ると、かなり死神相手に手こずったんだろう。
「…クソ!アイツら絶対ぶっ殺してやる」
包帯を巻き終わったグリムジョーが立ち上がった時、ルピが拳を握り締め、呟いた。
その横ではヤミーも大きく頷いている。
「あの下駄帽子、今度こそ八つ裂きだぜ」と、それまで治療してくれていた部下を弾き飛ばした。
グリムジョーはそんな二人を見ながらも、「行くぞ」と私の腕を掴んだ。
「あの二人も…相当やられたみたいね」
「油断でもしたんだろ。特にルピはな」
グリムジョーはそう言って鼻で笑った。
自分だって怪我したクセに…と思ったけど、それは敢えて口にしない。
そのまま二人で部屋へ戻ると、グリムジョーはベッドに倒れこみ、「あー疲れた」とボヤいた。
私も軽く息をつきながらベッドに腰を掛ける。
「でも…藍染さまの命令って何だったの?」
「…さぁな。詳しくは聞いてねぇ。ウルキオラに全部任せてたらしいしな」
「…ふーん。でもウルキオラって何かよく分からないキャラだよね。感情出さないし」
「けっ。アイツは藍染に言われたとおりにしか動けねぇような腰抜けだ。十刃のクセに甘ぇんだよ」
面白くなさそうに舌打ちをしながら、グリムジョーは天井を仰いだ。
何だかよく分からないけど、グリムジョーとウルキオラは、あまり性格が合わないらしい。
いや、シャウロンも言ってたように、グリムジョーと合う奴なんかいないんだろうな、と内心苦笑した。
「ところでよ…」
「…え?」
「あの死神……」
「ああ…黒崎のこと?アイツがまさか死神代行なんてしてるとは思わなかった」
「人間だった頃の記憶、全部思い出したのか?」
「全部じゃないと思う。黒崎の事は思い出したけど、他の事は断片的にしか思い出せない」
あの時、一気に現世での記憶が頭の中に流れ込んで、まるで映画を見ているみたいだった。
バラバラだった記憶が、最後には一つに重なり、目の前の黒崎を見た時、最初に交わした言葉さえ、思い出したのだ。
「私と最初に会った時のこと、覚えてる?」
「ああ……確か…」
「高校の屋上。あの場所が……私が通ってた高校だったの」
「……高校?」
「そう。そこに黒崎も通ってた。私とアイツは同じクラスだったの。と言っても…仲良くはなかったけど」
「アイツはそんな感じじゃなかったぜ?」
グリムジョーはそう言って目を細めた。面白くないとでも言いたげに私を睨んでいる。
もしかして何か疑われてるのか、と慌てて首を振った。こんな事で変に疑われたくはない。
「別にアイツが勝手に友達とか思い込んでるだけだってば。ホントにさっきまで忘れてたし、グリムジョーには何も隠してないよ?嘘もついてないっ」
必死で説明すると、グリムジョーは僅かに目を丸くして、すぐに苦笑いを浮かべた。
「別にアイツと通じてたなんて思ってねぇよ。ただちょっと…驚いただけだ。現世の頃の知り合いと会う確立なんか低いんだしよ」
「そう…だね。それも私が知ってる黒崎のままなんて…」
人は死んで尸魂界に行くと、死んだ時の年齢のままだ。
私は気づいたら流魂街にいて、ただ毎日、グリムジョーの事を探してたっけ。
それは不思議な感覚だった。他の事は一切、覚えてないのに、彼の鮮やかな髪の色、少し低い声、他者を圧倒するような霊圧…
それだけはハッキリ覚えてて、長い時間、流魂街を彷徨ってたような気がする。
でもそれはきっと、そう感じてただけで、それほど年月が経っていたわけじゃないんだろう。
「私…どうしてグリムジョーの事だけは覚えてたのかな…」
「最後に会ったのがオレだったってだけだろ。オレの霊圧は普通の人間にはキツイ。それに一瞬でも中てられた事で強い記憶として残ったんじゃねぇか?」
「そっか…そうかも。でもホント凄い偶然。グリムジョーと黒崎が知り合いだったなんて。どういう流れでアイツと戦ったの?」
そう尋ねると、グリムジョーは僅かに顔を顰めた。あまり思い出したくないのかもしれない。
それでも仕方ないといった顔で、彼は息を吐き出した。
「一ヶ月前…藍染がウルキオラに、黒崎っていう死神の事を探りに行かせた」
「藍染さまが?」
「ああ。尸魂界でアイツに会った時、厄介な存在だと、少しは感じたんだろう」
「…あの暴動の時ね…」
「藍染の命令は"我らの妨げとなるようなら、殺せ――"。が、ウルキオラの奴はアイツの力を見て"殺す価値なし"と判断して戻ってきた」
「…ウルキオラが黒崎と戦ったって事?」
「いや…実際に一戦交えたのはヤミーだ」
「あ…さっきの…」
「ああ。最初、黒崎の方が圧してたくらいだったぜ?途中から極端に霊圧が落ちて、ヤミーにボコボコにされてたけどな」
グリムジョーは楽しげに笑いながら、「が…」と言葉を続けた。
「その後、すぐ邪魔が入ってウルキオラ達はその場から撤退した…。オレはそれ見て決めたんだ」
「決めた…?」
「黒崎って死神をオレが殺してやろうってな。まあ…暇つぶしみてぇなもんだ」
ニヤリと笑うグリムジョーに、なるほど、と頷く。
「で…シャウロン達を連れて現世に行った。そこで黒崎と会って…もう少しで殺れるって思った時…東仙に邪魔された」
「東仙…?」
――誰だっけ?どこかで聞いた名前だ。
「…オレが勝手に破面どもを連れ出した事もお見通しだったってわけだ。やなヤローだぜ」
忌々しげに呟いたグリムジョーは、溜息をつきながらベッドに寝転んだ。
「黒崎はオレに初めて傷をつけた人間だ。オレがぶっ殺さなきゃ気が済まねぇ」
「ふーん。黒崎って強いの?っていうか…アイツが見せた仮面って何なのかな」
「オレが知るか!クソ…!思い出しただけでムカつくぜ」
そう言ってグリムジョーはベッドを拳で殴った。相当、頭に来てるらしい。
この分だと、また黒崎を探しに、勝手に現世へ行ってしまいそうだ。
でも……黒崎だけじゃない。あの仮面をつけた奴はもう一人いた。アイツが何者だったのか、気になる。
「クソ…この腕さえありゃ…」
ふと、グリムジョーが呟いた。その言葉にドキっとする。
今まで私は、あの腕はグリムジョーが探していた男…つまり黒崎がやったんだと思っていた。
でもそれが違うと、二人の会話を聞いて分かった。
「ねえ…」
「あ?」
「前から気になってたんだけど…」
「…この腕の事か?」
「…うん…まあ」
「お前、いつも聞きたそうにしてたもんな」
グリムジョーは軽く笑うと、「これは奴らにやられたんじゃねぇ」と一言、呟いた。
「じゃあ…誰にやられたの?まさか…藍染さま?」
「いや……藍染の腰ぎんちゃくだ」
「…腰ぎんちゃくって…」
「東仙要……コイツも元、護廷十三隊の隊長さんだってよ」
「え…あ!東仙って…もしかして九番隊の……」
「さあな。何番かは知らねぇが……藍染はこっちに自分の他に二人、隊長格を連れて来た。知ってるか?」
「う、うん。それは聞いた…。三番隊の市丸隊長もでしょ?」
「ああ…東仙は統括官だ。オレが無断でシャウロン達を引き連れ現世へ行った事を命令違反だって言ってオレの腕を切り落としやがった…」
忌々しげに呟いたグリムジョーは、怖い顔で拳を握り締めた。
彼ほどの破面の腕を一瞬で切り落とした東仙という死神は、それほどの力があるというんだろうか。
でも藍染さまが連れて来たのなら、それもありうる。
「それで…十刃からも外されたの?」
「……チッ。そのうち戻るっつってんだろ?ルピの野郎なんか目じゃねぇよ」
面白くなさそうに舌打ちをするグリムジョーに、私は小さく噴出した。
さっきのルピの顔を思い出したのだ。
「…そうだね。さっきも、あんなにボコボコにされちゃってたし」
「………あ?」
「日番谷隊長にアッサリ凍らされたって言うし、偉そうにしてたわりには大した事ないんじゃない?」
――グリムジョーの方がずっとずっと強いよ。
そう言って肩を竦めると、グリムジョーも軽く噴出した。
そして私の額を指で小突くと、「…見る目あんじゃねぇか」と楽しそうに笑う。
「いつか返り咲いてやるぜ…。ルピの野郎を殺してでもな」
グリムジョーの力強い言葉に、ふと笑顔になる。自分の思いを口にして、実行できる強さが、彼にはあると思った。
「グリムジョーならすぐだよ」
私の言葉に、グリムジョーが笑った。でも、その言葉がすぐに実現するなんて、この時の私には気づくはずもなかった。
次の日、グリムジョーは藍染さまに収集され、「メンドくせぇ」と言いつつもどこかへ行ってしまった。
私は一人お留守番。暇つぶしするにも、この部屋には退屈しのぎになるようなものなど何もない。
そこで、ふと思いついた。シャウロンやディ・ロイはどうしてるだろう。グリムジョーも何も言ってなかったし、彼らは呼ばれていないはず。
すぐに起き上がり、部屋を抜け出す。ここへ来て、もう4日は経っている。そろそろ一人で出歩いてもいいはずだ。
「どこかなぁ…」
この一帯は十刃の居住区だから、近くには、それ以外の破面の霊圧も感じない。
静かな廊下を歩きながら彼らの霊圧を探ってみる。
「あ…いた」
かすかにディ・ロイの霊圧を感じ、私は瞬歩ですぐに移動した。
行ってみるとそこは、以前ディ・ロイがいた場所だった。今は他にも数体の破面がいる。
全てNO11以下の破面たちだ。私が来た事に驚いたような顔で、様子を探るようにこっちを見ている。
でも別に気にする事はない。私はもう死神ではないし、この先もずっと彼らと過ごしていくのだ。いちいち身構えていられない。
ゆっくり歩きながら、ディ・ロイやシャウロン達を探す。周りには様々な柱が立っていて、全てを見通しにくいのだ。
「さん?!」
その時、背後から声をかけられた。振り向くと、そこにはシャウロンが驚いたような顔で立っている。
「どうしたんですか?急に貴女の霊圧を感じたので驚きましたよ」
「暇だから抜け出してきちゃった」
「暇って…。グリムジョーは?」
「何か藍染さまから呼ばれて行っちゃったの」
「そうですか」
そこへ「おう、ちゃん」と、ディ・ロイの声が聞こえた。
柱の影から顔を出し、こっちに歩いて来る。その後ろから尸魂界に一緒に来ていたイールフォルトも歩いて来た。
「何だよ。一人か?」
「うん。グリムジョーは藍染さまのとこ」
「ああ、それで暇だからってオレらんとこ来たのか?」
「だって他に知ってる破面もいないし……見ての通り、あまり良く思われてないから」
そう言って周りの破面たちへ目を向ける。それを見て、ディ・ロイが笑った。
「その内それもなくなるって。結局、藍染さまに逆らえる奴いねぇし。気にすんな」
「ありがとう」
ディ・ロイの言葉が嬉しくて、素直にお礼を言う。傍で聞いていたイールフォルトは鼻で笑うと、
「それより…お前、昨日現世へ行ったんだって?」
「あ、うん。ウルキオラに頼んだら一緒に行ってもいいって言ってくれて」
「………ウルキオラが?」
私の言葉に、シャウロン、ディ・ロイ、そしてイールフォルトが顔を見合わせている。
そして再び私を見ると、「お前、怖いもんなしだな…」とイールフォルトが呆れたように呟いた。
「え、何で?」
「何でって…ウルキオラは十刃の中でも格が上だ。藍染さまもアイツを信用しているしな」
「それは何となく分かるけど…。でも別に怖いって感じじゃなかったわ?昨日だって私の事、助けてくれたし――」
「えぇっ!マジ?!」
ディ・ロイが大きな声を張り上げ、目を丸くした。そんな驚く事のものなのかと、こっちがビックリする。
助けてくれたって何があったんだ?と、ディ・ロイにしつこく聞かれ、昨日のことを簡単に説明した。
「へぇ…人間だった頃の知り合い…」
「そんな事もあるんですね」
「ケッ下らねぇ。知り合いだろうが何だろうが、そんな奴、動けなくした瞬間にぶっ殺しときゃいいんだ」
私の話を聞いて、三人三様ならぬ、三体三様、様々な反応を見せる。
でもイールフォルトの言うとおり、黒崎が人間だった頃のクラスメートだからといって、今はグリムジョーの敵だ。
藍染さまも危惧してたのなら、いつかは戦う運命になりそうだと思った。
その時、不意に背後から数体の霊圧を感じた。
「あーら、こんな死神崩れの子と仲良くおしゃべり?」
「…あ?何だよ、テメェら」
女の破面が4体ほど歩いてきたのを見て、ディ・ロイが睨みつけた。
見れば、その中に、ロリとメノリという破面もいる。藍染さまが私を紹介してくれた時、スパイかもしれないと騒いだ女だ。
「話、聞こえたわよ?グリムジョーだけじゃなく、ウルキオラにまで媚を売ってるんだ」
「私はそんなつもり――」
「じゃあ何のつもり?ちょっと藍染さまに認められたからって調子に乗ってんじゃないわよっ」
物凄い殺気のこもった目で睨まれ、私は言葉を切った。こういう時は何を言っても無駄だという事は分かる。
が、シャウロンとディ・ロイが私の前に立ち、女達を睨み返した。
「彼女はもう我々の同胞と同じ。それ以上、侮辱するのは許さない」
「何よシャウロン!あんたまで、そんなガキの味方ってわけ?それともグリムジョーが怖いのかしら」
「それはお前らだろう?」
「……何ですって?!」
イールフォルトの言葉に、メノリが拳を握り締める。
「文句があるならグリムジョーに直接言えばいい。それをしないのはお前らがグリムジョーを怖がってるからだろう。カスが」
「…くっ…イールフォルト…あんたまでその死神をかばうってのね…あんたもグリムジョーと同じでバカだわ」
「かばうも何もない。藍染さまが同胞と認めたなら、この女はオレ達の仲間だ。お前らの下らない嫉妬でこの女を罵倒する権利はない」
「…何ですってぇっ?!言わせておけばよくも――!!」
「やめて!!」
メノリが拳を固め、イールフォルトに殴りかかろうとしたのを見て、私は慌てて叫んだ。
それと同時に、ディ・ロイやシャウロンはメノリよりも一歩早く、身構えていたのか、素早く私の前に立つ。
「いいの。シャウロン…ディ・ロイ。私は大丈夫」
かばうように立っているシャウロンとディ・ロイにそう言って、私は一歩、前に出た。
メノリ達は殺気だった目で私を睨みつけながら、僅かに後退した。
「何よ…やるっていうの?」
「まさか。あなたと戦っても、私は負けるもの」
「……ッ?」
「でも……私の事がどうしても気に入らないなら…殺せば?」
「さん!!」
シャウロンが慌てて間に入ろうとする。そんな彼を静止して、メノリを睨んだ。
「私はグリムジョーに出会って、彼の生きる世界に行きたくて、連れて来てと我がままを言った。
彼はそんな私の我がままを受け入れて、ここへ連れて来てくれたわ。でも私だって他の破面や貴女たちと、すぐに打ち解けられるなんて思ってない。
元々敵だったんだし、受け入れてくれるとも思ってなかった。だから何を言われても気にしない…だけど……」
そこで強く拳を握り締めた。
「グリムジョーの事をバカと言うのは許せない。私を連れて来たせいで彼が仲間から罵倒されるのは嫌なの」
「…は?何言ってんの、あんた…」
「シャウロンやディ・ロイ、イールフォルト達の事をバカにするのも許せない…」
「……」
ディ・ロイが驚いたように私を見た。でも言った言葉は本心だ。
私が原因で仲間同士が争うのなんか、見たくない。
「そんなに私が邪魔なら…いつでも殺しに来てよ」
真っ直ぐに彼女達を見据える。私の言葉に、メノリはまた一歩、後退した。
ここ虚圏で生まれた破面たち……尸魂界から来た私とは相反する関係なんだろう。
だけど……私だって、ただ負けるつもりもない。
殺意で向かってくるなら、殺意で応える。それがここで生きていく私の覚悟――
「こんな風にネチネチと下らない事で皆に絡んでくるなら…直接私のところへ来たらいいわ。そして――」
(殺せばいい、と、叫んでみても)
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一護とかルキアを書くのって何だか新鮮です(笑)
この作品にも少しづつ励みになるコメントを頂いております〜(*TェT*)
ホントにありがとう御座います!<(_ _)>
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■グリムジョーがかっこいいです!お陰でブリーチ熱が再び復活しました!!(高校生)
(ありがとう御座います!私の描いた作品でブリーチ熱が再燃したなんて感激です!ホント面白いですよね,ブリーチ♪)
■このお話がきっかけで破面が大好きになりました!とくにグリムジョーがかっこよすぎです。惚れましたww(高校生)
(ヲヲ!私の描いた作品で破面を好きになってもらえたなんて感激です!グリムジョーはホントかっこいいんですよね♪)
■グリムジョーの行動、言動一つ一つにときめきを貰ってます!グリムジョー大好きです(大学生)
(そう言って頂けて嬉しいです!グリムジョーに大事にされるなんて幸せだろうなぁ(*ノωノ)
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