辺りは砂漠で何もない。これなら思う存分、暴れても大丈夫。
「はぁぁぁ!!」
斬魄刀を構え、目の前にいるディ・ロイにかかっていく。が、次の瞬間、背後にシャウロンの霊圧を感じ、瞬歩で回避した。
「よく交わしましたね。今のは早かったですよ」
「もう〜ディ・ロイもシャウロンも本気でやってよ。じゃないと修行してる意味ないじゃない」
「そんなこと言ってもさぁ」
「レディに攻撃をしかけるなんて、私には出来ませんよ」
「…………」
彼らの言葉に、はぁ、と溜息をつく。後ろで退屈そうに見学しているイールフォルトも、それには苦笑いを零した。
「オレが相手してやろうか?」
「ホント?」
「その代わり……怪我しても知らないぜ?」
「そのくらいじゃないと困る」
「いい度胸だ」
イールフォルトはニヤリと笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
それを見て慌てたのは、今まで私の相手をしていたディ・ロイとシャウロンだ。
「ちょ、ダメだって!イールフォルトは手加減するような奴じゃ――」
「そうですよ、さん!貴女が怪我をしたら、グリムジョーに何と言えばいいんですっ」
「大丈夫だってば!これは修行なんだから」
そう言いながら斬魄刀を構えると、イールフォルトが目の前に立った。
彼も十刃ではないが、かなり強い霊圧を放っている。
「行くぜ?」
「いつでも」
言った瞬間、強い風が砂を巻き上げ、視界が霞んだ。目に頼らず霊圧を追えば、私の頭上に、それはあった。
「はぁぁ!!」
振り下ろされる斬魄刀を自らの剣で受け、それを流す。
が、次の瞬間、イールフォルトの姿は消え、今度は私の背後に霊圧を感じた。
「――くっ」
「…さん!」
瞬歩で回避したが、ほんの僅かに彼の斬魄刀がかすり、右手の甲から赤い血がじわりと浮かんだ。
シャウロンが慌てたようにこっちへ走ってくる。私はそれを手で静止すると、イールフォルトは笑みを浮かべた。
傷口を軽く舐めながら、私は再び斬魄刀を構えると、瞬歩で高速移動をしながら、イールフォルトの背後に回る。
振り下ろした私の斬魄刀と、それを受け止めた彼の斬魄刀がぶつかり合い、激しい金属音が響き渡った。
「どうした?もっと本気で来い」
「そっちこそ」
「ふん…言うじゃねーか…。なら……これはどうだっ!!」
物凄い力で斬魄刀を押し戻され、私は素早く後ろに飛びのいた。
その時、目の前にいたイールフォルトの姿は一瞬で消え、次の瞬間、背中に激しい衝撃を感じた。
(――早い…!!)
その衝撃で砂漠の上に倒れこむ。が、急いで体勢を整えると、上空からイールフォルトが斬魄刀を構えて姿を現した。
――受けきれない!
そう感じた私は、イールフォルトに向かって素早く左手をかざした。
「――
破道の三十一!
赤火砲!!」
「―――くっ!」
私の掌が一気に熱を持ち、赤い光を放つ。空中にいたイールフォルトは一瞬、回避が遅れ、その塊を斬魄刀で受け止めた。
激しい衝突音と共に黒煙が上がる。その間に起き上がり、彼の霊圧を探って空中へと飛んだ。
「…てめぇ…」
煙が晴れた時、イールフォルトが姿を現した。直撃を避けたせいか、怪我はしてないようだ。
だが、肩にかけて僅かに焼けた跡がある。
「…なかなか、やるじゃねぇか。今のは驚いたぜ?」
「…"
鬼道"っていうの。私、そっちの方が成績良かったのよね。
詠唱破棄してなかったら、もっと威力があるわ」
「面白い……もう一度、撃って来いよ!!全力でな!」
イールフォルトが素早い動きで向かって来る。それを瞬歩で回避しつつ、彼から距離を取った。
ここからなら全力で撃てる――!
「”
君臨者よ!””血肉の仮面・
万象・
羽搏き・ヒトの名を
冠する者よ!”
”
真理と
節制””罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!”――破道の三十三!
蒼火墜!!」
今度は掌が青白い光を放ち、物凄い威力で、私を追ってくるイールフォルトへと向かっていく。
それを見た彼が目を見開き、再び斬魄刀を構えた。
が、それでは回避できないと一瞬で判断したのか、響転で移動し、攻撃をギリギリ避けた。
私の放った攻撃は枯れた木々に辺り、それが一瞬で砕け散ると一面青い炎に包まれる。
「……チッ!これが本来の威力ってやつか」
「言ったでしょ?鬼道の成績はトップクラスだったって」
「死神見習いにしちゃぁ、やるな。が……まだオレに傷一つ負わせちゃいねぇ!――行くぞ!」
イールフォルトは楽しげな笑みを浮かべ、私へと向かってきた。
が、その時、一瞬で大きな霊圧を感じ、思わず息を呑む。
イールフォルトの振り下ろした斬魄刀が、思い切り何かに弾き返されるのを見て唖然とした。
「――なーにしてんだぁ?こんなトコで」
「…グ、グリムジョー!」
私の前に立ちはだかったのは、グリムジョーだった。
下で見守ってくれていたディ・ロイとシャウロンも顔が引きつっている。
「グリムジョー!もう用事は終わったの?」
迎えに来てくれたのかと、声をかける。
が、グリムジョーは怖い顔のまま、「てめぇ、コイツに何する気だったぁっ?」と、目の前のイールフォルトを睨んだ。
「何って―――」
「事と次第によっちゃ、てめぇを殺すぜ?」
「ち、違うよ、グリムジョー!オレ達、の修行の相手してただけだって!」
グリムジョーの異変に気づいたディ・ロイが慌てている。その"殺気"に、私もやっと気づいた。
今の戦いをグリムジョーが誤解したのだ。そこに気づき、私も「そう!修行してたの!」とすぐに説明した。
「チッ!そうかよ…。ったく、まぎらわしい…」
事情を把握したグリムジョーは呆れたように舌打ちをすると、砂漠に下りて、近くの岩に腰を下ろした。
後ろではシャウロンとディ・ロイがホっとしたように息を吐き出している。
イールフォルトだけは苦笑交じりで「オレ達がコイツを殺すと思ったのか?」と肩を竦めた。
「の霊圧探ってる時に大きな衝撃音が聞こえて来てみりゃお前と戦ってたんだ。誰だってそう思うだろが」
「…わざわざ尸魂界まで行って助けたのに、殺すはずないだろう。この女はすでに我々の仲間だと認めてるさ」
イールフォルトはそう言って笑った。が、彼はふとグリムジョーを見ると、訝しげな顔で眉を寄せている。
「グリムジョー…お前その腕…」
「え?あ!!!」
イールフォルトの言葉に私も改めてグリムジョーを見た。
あまりに普通に現れたせいで気づかなかったが、明らかに今朝、会った時とは違う。
「嘘……ど、どうしたの!その腕!!」
今まで何もなかったグリムジョーの左肩からその下が、今はちゃんとある。
グリムジョーの左腕が、ある。思わず口が開いてしまった。
「…元に戻っただけだ。つい、さっきな」
「え、さっきって…どうやったの?!あ!分かった!藍染さまが腕の生える薬を作ったとか――」
「バカかてめぇ!腕が生えてくるかよ!!」
私のボケにグリムジョーが顔を真っ赤にして怒っている。
軽く流せばいいのにホントに短気な破面だ。そこが面白いから、からかいたくなるんだけど。(!)
それに藍染さまなら本当に腕の生える薬の一つや二つ、作ってしまいそうだ。
「まさか……ウルキオラの連れて来た女か?」
イールフォルトが思いついたように呟いた。グリムジョーはニヤリと笑みを浮かべ、
「まあな……あの力は凄げぇぜ。藍染が手に入れようとすんのが分かる」
女…力?何の話だろう。全く話が見えず、「何の事?」と尋ねた。
「昨日、オレ達が現世に行っただろう?あれは陽動作戦だ。真の目的は…人間の女を虚圏に連れて来ること」
「…人間の…女?何で?」
「その女は不思議な能力を使う。以前にも見た事はあったが、あそこまでとは思わなかったぜ」
「…じゃあグリムジョーの腕を元に戻したのは…」
「ああ、その女の力だ」
「嘘…凄い…」
失った肉体を以前と全く変わらずに元に戻すなんて、何て能力だろう。
しかも、それが人間の能力?とても信じられない…。
「信じられねぇか?」
「だ、だって…」
「オレも信じられないよ…人間にそれほどの力があるなんてさ…」
「だったら今ここで、オレがお前の腕か足を切り落としてやろうか?それでその女に治してもらえ。そしたら嫌でも信じる」
「……え、遠慮します」
ディ・ロイは顔を引きつらせ、一歩後退した。それを見てグリムジョーも笑っている。
でも何にせよ、グリムジョーの腕が治って良かった、と私はホっとしていた。
「ね、それじゃグリムジョーはまた十刃に戻れる?」
「そうですね。どうなんですか?グリムジョー」
私とシャウロンの問いに、グリムジョーはニヤっと笑みを浮かべ、着ていたジャケットをめくってみせた。
それを見て思わず息を呑む。今朝まで、彼の背中にあった火傷の跡は消え、今は"6"という数字が刻まれている。
「それって……」
「戻れるも何も……オレは十刃だ」
誇らしげに笑うグリムジョーに、その場にいた全員が同じ気持ちになった。
彼がその地位に拘ってた事は知っている。だからこそ、この瞬間が嬉しかった。
「じゃあルピは?十刃落ち?!」
ディ・ロイの言葉にグリムジョーは苦笑すると、「そんな奴もういねぇよ」と肩を竦めた。
ディ・ロイやイールフォルトは顔を引きつらせている。
それはグリムジョーの言葉の意味を良く分かっているからに他ならない。
という事は……
「お前も言ってたろ。あんな奴、オレの敵じゃねぇ」
「…そっか、だよね」
いつものグリムジョーの台詞に、思わず笑顔になった。彼が本来の居場所に戻れたのは私も嬉しい。
「で、その子、どこにいるの?」
「あ?」
「お礼が言いたいの。会ってきちゃダメ?」
「……………」
私の一言に、それまで笑顔だったグリムジョーの目が一気に細められる。
後ろにいたシャウロンも困ったように微笑み、ディ・ロイやイールフォルトは呆れたように溜息をついた。
その態度にムっとしたが、どうやらグリムジョーも呆れているのか、「ホント、バカだなお前」と頭を軽く振っている。
「あの女は藍染のもんだ。そう簡単にお前が会えるはずねぇだろ」
「どうして?仲間にする為に連れて来たんでしょ?仲間なら会えるじゃない」
「…そうじゃねぇ。だいたいあの女はウルキオラが藍染から預かってる。アイツがすんなり――って、ちょっと待て!」
歩いていこうとした瞬間、首根っこを掴まれ、ぐえっと変な声が出た。
グリムジョーのバカ力につかまれたら、私の細い首がへし折られかねない。
「く、苦しいでしょ!何するのよっ」
「そりゃこっちの台詞だ!てめぇ、今ウルキオラのとこに行こうとしたろ!」
「だってウルキオラに頼めば会えるかもしれないんでしょ?」
「バカか!昨日みたいにすんなりOKするはずねぇだろ!」
「頼んでみないと分からないじゃない。ウルキオラって何気に優しいし」
「優しくねぇよ!ったく…ホント見る目ねぇ女だなお前は」
「む…」
頭をグリグリと回され、ムッと唇を突き出す。そもそもグリムジョーはどうしてウルキオラと仲が悪いんだろう。
まあ、どう見ても相性のいい感じには見えないけど。それに仲が良くても気持ち悪いだけかもしれない(!)
でもグリムジョーが本気で反対してるのは分かる。ここは素直にいう事を聞いておいた方がいいだろう。(居候の身だし)
「分かった…。でもそのうち紹介してよね。人間の女の子なら少しは仲良くなれそうだし」
「……はあ?どういう意味だそりゃ」
「だって、ここじゃ同姓の友達出来なさそうだしね」
私の言葉に、グリムジョーが訝しげに眉を寄せた。その時、シャウロンがこっちへ歩いて来た。
「グリムジョー。何故さっき彼女が我々と修行をしていたか分かりますか?」
「あ?」
「先ほど、ロリのグループとぶつかったんですよ」
「何だと?」
「彼女達はさんの事を認めてないようです。そのうちあなたや私達に隠れて、彼女に何かするかもしれない」
「………ッ」
「それをさんも感じたんでしょう。彼女達と戦えるくらいの力は欲しい、と私達に相手を頼んできました」
シャウロンの説明に、グリムジョーは怖い顔で私を見た。僅かだけど殺気が感じられる。
「本当かよ…」
「…う、うん、まあ」
「…チッ!あのクソアマ…」
「ちょ…グリムジョーは何もしないでねっ!これは私の問題なんだから」
「ああ?んなもん関係ねぇ!お前はオレが連れて来た。そのお前を狙ってんならオレにケンカ売ってんのと同じ事だろがっ」
「で、でもまだ何もされてないし――」
「されてからじゃ遅せぇんだよ!今からオレがアイツらぶっ殺して――」
「ダ、ダメ…!」
歩いていこうとするグリムジョーの腕を慌てて捕まえる。彼なら本気で彼女達を殺しかねない。
「グリムジョーが手を出しちゃったら私が勝った事にならないでしょ!」
「はあ?」
「ちょっとイジメられたからって、そこで十刃のグリムジョーが出てったら、それこそ私の負けだもん」
「勝つとか負けるとか、何言ってんだ?あんなバカ女どもに舐められていいのかよ」
「だから舐められないように修行してたんじゃない。それに勝ち負けはグリムジョーが一番拘ってる事でしょ?」
「…………ッ」
「私は他の誰かの力で彼女達に勝っても嬉しくないの。自分の力で何とかしたい。じゃないと今後、ここで生きてけないもの」
私は彼女達の事は嫌いだけど、でも殺したいとは思わない。相反する関係でも共存していけたら、それだけでいい。
少しでも認めてくれれば、もっと嬉しい。だから今ここで誰かの力を借りちゃダメなんだ。
それをしてしまえば、この先ずっと、私は認めてもらえない。
彼女達に言われる事は腹も立つけど、本気の言葉だから構わない。陰でコソコソされるよりずっといいのだ。
グリムジョーは私の言葉を黙って聞いていた。そして深々と息を吐き出すと、呆れたように肩を竦める。
「チッ…分かったよ…」
「……ありがとう」
「でもアイツらがお前に何かした時はオレも黙ってねぇ。お前が舐められるって事はオレを舐めてるのと同じ事だからな」
グリムジョーは怖い顔でそう言うと、「戻るぞ」と宮の方へ歩いていった。
何とか思いとどまってくれた事でホっと息をつく。そんな私を見て、シャウロンが苦笑いを零した。
「全く素直じゃない」
「…え?」
「グリムジョーはああ言いましたが…あなたの事が心配なんですよ」
「…心配って…やたらと怒ってたのに?」
「彼は今まで、自分以外の事で、怒りを露にした事がありません。先ほどさんも感じたでしょう?一瞬ですが彼の殺気を」
「…あ…」
「あそこまで怒るのは珍しい。もちろん…自分以外の存在の為にという意味ですが」
シャウロンの言葉に、ディ・ロイやイールフォルトも苦笑している。彼らも同じように感じたらしい。
「オイ、!何してんだ、サッサと来い!」
私達がついて来てない事に気づいたグリムジョーの怒鳴り声が聞こえて、急いで後を追った。
どう見てもグリムジョーは怒りっぽい性格のような気がする。
すぐ怒鳴るし、殴るし、一日の半分は怒ってるようなものだ。(!)
けど、彼を遥か昔から知ってるシャウロンのいう事なら、本当にそうなのかもしれない、とふと思う。
少しだけくすぐったい気がした。私の為に怒ってくれる存在なんか、今までいなかったから…
「何してんだ。置いてくぞ」
「…グリムジョーが歩くの早いんでしょ」
「お前が遅せぇーんだよっ」
また頭をグリグリしてくるグリムジョーに、痛いと文句を言う。
でも、そんなやり取りも今は楽しかった。
現世での日々も、尸魂界での日々も、少しづつ色褪せていく。
(ここに来て良かった…)
心の底から、そう思った。
それから数日経っても、私は皆との修行を続けていた。
虚圏で生きていくには、多少の力がないとダメだと気づいたからだ。
弱者はいつか弾き出される。そんな場所だった。
時々グリムジョーも相手をしてくれる。「虚閃を教えて」って言ったら頭を小突かれた。
「アホかてめぇ。ありゃ破面にしか出せねぇんだよ」
「えぇ…ズルイ」
「ズルイだぁ?てめぇだって鬼道っての使うだろが。似たようなもんだろ?」
「だって、いちいち詠唱すんの面倒なんだもの。破棄したら威力は多少落ちるし…。でも虚閃は一気に放てるじゃない?」
「威力落ちるって言っても、お前のはその辺の死神が使う力より強いぜ?霊圧もここへ来てかなり上がってる」
「ホント?」
「ああ。ま、剣の扱いは、落ちこぼれのディ・ロイといい勝負だけどな」
「……げ、そこでオレを出さなくても」
ディ・ロイのへコんだ声が聞こえてきて、思わず噴出した。いや私が笑うっていうのも変だけど。
「じゃあ剣が上手くなるように教えてよ」
「お前、才能なさそうだしなぁ…。鬼道の才能の方があるんだし、いーだろ別に」
「何よそれ!」
「だいたい斬魄刀を解放できないだろーが」
「そ、それは…そうだけど」
そんなもの習う前に退学、いや尸魂界を追放されてしまったんだから仕方ない。
まあ斬魄刀の解放は力がついてきた時点で自分で何とかするものらしいけど。
よく阿散井副隊長が「剣と対話する」って言っていたけど、その意味がよく分からない。
「これと話すって…どうすればいいんだろ」
「何ブツブツ言ってんだぁ?そろそろ戻るぜ」
グリムジョー達はサッサと戻ろうとする。でも私はもう少し修行していたかった。
「先に戻ってて。ちょっと斬魄刀と話してみる」
「はあ?」
グリムジョーがアホの子を見るような目で私を見た。
ムッとしたけど今はケンカをしている場合じゃない。いいから戻っててと声をかけ、砂漠の真ん中に座り込む。
グリムジョーは呆れたように頭をかくと、「一人で大丈夫かよ」と言った。
「大丈夫!別にここには敵もいないし」
「…んじゃあ…何かあったらオレに霊圧飛ばせよ?」
「分かった。あ、修行付き合ってくれてありがとね」
「…おう」
「皆もありがと」
シャウロンやディ・ロイにも声をかけると、彼らも笑顔で手を振ってくれた。
そのまま戻っていく皆が見えなくなると、私は軽く深呼吸をして、斬魄刀を抜く。
「さて、と…。対話ってどうするのかな…。何か話しかけるとか?」
阿散井副隊長に詳しく聞いておけば良かった、と思いながら、どう話しかけようか迷っていた。
いくら一人とは言え、剣に向かって話しかけるというのは何気に恥ずかしい。
軽く咳払いをすると、剣を持ち上げ、ジっと見つめてみた。
「…えっと…コホン。こ、こんにちは…ってのも変かな…。う〜ん…君の名前を教えてください」
思い切って声をかけてみる。が、辺りはシーンと静まり返ったまま、寒い空気だけが流れた。
「何よ…何も反応ないじゃない。――もしもーし。斬魄刀さん。お名前教えてくださいな」
言いながら軽く振り回してみる。が、やはり何の反応もなく、思い切り溜息をついた。
「何やってんだろ、私。これじゃバカみたい――」
「何をしている」
「ひゃっ!!」
突然、背後から声が聞こえて、思い切り飛び上がった。
気づけば一つの大きな霊圧を感じる。
「ウ…ウルキオラ…っ」
振り返ると、そこには相変わらず無表情のウルキオラが立っている。
思わず辺りをキョロキョロ見渡したが、他に誰の気配もなく、ただ広い砂漠と、遠くに虚夜宮が見えるだけだ。
「な、何してるの?こんなトコで」
「それはオレが聞いたことだ。お前こそ何をしている」
「あ…何っていうか…ちょっと修行を…」
「一人でブツブツ言っているように見えたが?」
「う……そ、それはだから…斬魄刀を解放する為に剣と対話というか…」
「斬魄刀と?」
ウルキオラは特に表情も変えず、私の手にしている斬魄刀を眺めた。
彼ら破面も斬魄刀は持っているが、死神のそれとはまるで違う。
解放したところは誰のも見たことがないけど、シャウロンがそう言っていた。
「斬魄刀と対話か…死神はそうやって解放に至るのか?」
「そ…そう聞かれると困るんだけど…多分。私も詳しく聞いてなかったし」
でも確か名前を聞かなきゃ始まらないと、阿散井副隊長がチラっと言っていた気がする。
ウルキオラは私の説明を聞いて、「面倒なものだな、死神は」と呆れたように呟いた。
「それで…ウルキオラは何してるの?藍染さまに何か頼まれた?」
「いや……お前を探してた。霊圧を探ったらここにいたので来たまでだ」
「……え?私を探してたって…何で?」
普段から他の破面と行動を共にしないウルキオラが、何故私なんかを探してたのか、と驚いた。
が、彼は「お前、これを借りたいんだろう?」とその手に持っていたものを差し出した。
「あ!それ私が探してた本……」
「以前、書室の者にメモを渡されていた。これはお前が書いたものだろう」
「…あ、これ…」
本と一緒にメモを渡され、思わず苦笑した。
それは私が、「借りた人が返しに来たら渡しておいて」と、書室の係りに頼んでおいたものだ。
"読み終わったら返す前に私に届けてねん♡ By"
この、ふざけたメッセージを受け取ったのが、まさかウルキオラとは驚いた。
更に、律儀に届けてくれた事すら驚きだ。
「これ借りてたのウルキオラだったのね。ありがとう、届けてくれて」
「…届けろと書いてあったから持ってきただけだ」
「うん。でも嬉しい。返されたら、また借りられちゃうかもしれないし…。これ読みたかったの。面白かった?」
「下らん。暇つぶしに目を通しただけだ」
「そう。でもこれ現世の本よね。尸魂界にいた頃、よく読んでたんだけど、続きが気になってて…ここにあった時はビックリした」
「藍染さまが時々、現世のものを持ってくる。それもそのうちの一つだろう」
なるほど…という事は藍染さまに頼めば、また色々な本を現世から持ってこれるのかな。
なんて、グリムジョーに聞かれれば、また怒られそうな事を考える。
「あ…待って!」
唐突に歩き出したウルキオラを慌てて引き止める。
彼は僅かに顔を顰めながら、振り向いた。
「何だ。本は渡したぞ」
「違うの。えっと……現世から連れて来た子って…元気?」
「井上織姫の事か」
「そう、その織姫って子。ウルキオラが面倒を見てるんでしょ?」
「…それが何だ」
目を細めるウルキオラに、うっと言葉が詰まる。無表情の顔だけに、ちょっと怖い。
でもグリムジョーに止められはしたけど、こうして会ってしまったのなら聞かずにはいられない。
「ちょっと…会わせてもらえないかな、と思って……」
「……どうしてだ?」
間髪入れずに答えてくるウルキオラに、笑顔も引きつってくる。
彼は表情がないから、怒っているのか怒ってないのか、良く分からないのだ。
「えっとだから…その子がグリムジョーの腕を治してくれたんでしょ?」
「……それが?」
「だから…ちょっとお礼が言いたくて…」
「何故お前が礼を言う。それにあれは井上織姫の力を同胞に見せる為やった事だ。グリムジョーの為ではない」
「そ、そうかもしれないけど…私も嬉しかったから一言、お礼が言いたいなぁと思って…」
「…………」
(う……怖い)
不意に黙ってしまったウルキオラに、更に顔が引きつる。やっぱりグリムジョーの言うとおり、まずかったかなと後悔した。
が、ウルキオラは静かにこっちへ歩いてくると、「本当にそれだけか?」と真っ直ぐ私を見据える。。
「…どういう意味?」
「…井上織姫は黒崎一護の仲間だ」
「…は?…」
「確かお前は黒崎一護と知り合いだったな。なら井上織姫の事も知ってるんじゃないのか?」
「な…まさか!知らないわ、井上なんて子……」
「本当か?覚えてないだけじゃないのか。現世での記憶は曖昧なんだろう?」
「そ、そうだけど…」
そこまで言ってハッと息を呑んだ。
この前、黒崎に言われた事が頭に過ぎる。確か…何か言ってた気がする…。クラスメートの名前を…
「とにかく…たとえ知り合いでも覚えてないし…。別に逃がそうだなんて思ってない。ただ会いたいなって思っただけ」
ウルキオラは無言のまま私を見つめている。心の中まで見透かされそうなほどの青い瞳に、吸い込まれそうだ。
「待って…」
不意に踵を翻したウルキオラに、声をかける。彼は振り向かないまま、静かに答えた。
「別に会いたければ会うといい」
「え…いいの?」
「構わん。逃がそうとしても無駄だからな」
「だから、そんな事は思ってないってば――」
「井上織姫は虚夜宮、一階の奥の部屋だ。別に立ち入り禁止にしているわけじゃないから勝手に行け」
ウルキオラはそれだけ言うと、響転で一瞬のうちに姿を消した。
辺りに静けさが戻り、今は砂の流れる音がかすかにするだけだ。
一人になって、急に力が抜けた。
「はあ…怒らせたかと思った…」
表情がないというのは、こんなにも相手の心が読みにくいのか、と変なところで感心する。
が、一応、ウルキオラの許可を得た事でホっとした。
「井上…織姫かあ。やっぱ思い出せないなぁ。黒崎の仲間、か…」
斬魄刀を鞘に収めると、小さく溜息をつく。
同時に黒崎の顔が浮かんだ。私を見た時の、黒崎の驚いた表情、悲しそうな目、叫ぶような言葉…
"お前が急に自殺して……どんだけ…悩んだと思ってんだ…っ"
悩む?何を?それほど仲が良かったわけじゃない。
あの時はそう思った。でも…悩むくらいには、私の事を考えてくれてたんだ、という思いも、またあった。
「何か変な感じ…。死んだ後に元クラスメートに会うなんて…」
苦笑しながら立ち上がると、衣服についた砂を落とした。
そしてウルキオラが持ってきてくれた本を拾うと、軽く捲ってみる。
それは、多分私がまだ人間だった頃、読んでいた本だ。尸魂界でも見つけて、何か懐かしい気持ちになった事がある。
(そう言えばこれ…黒崎が持って来たんだっけ…)
いつもの如く屋上にいると、黒崎がやってきて、隣でこの本を読んでいた。
確かクラスの誰かに借りたとか言ってた気がする。そして面白いからお前も読め、とこれを私にまた貸ししたのだ。
黒崎に貸したクラスメートはいい迷惑だったろう。
「…バカみたい」
すぐムキになるところなんか、グリムジョーと似てるかもしれない。
そんな事を思って苦笑が漏れる。きっとこんな事を言えばグリムジョーは烈火のごとく怒るだろう。
でも…互いに似てるからこそ、グリムジョーと黒崎は戦うのかもしれないと思った。
破面と、人間。敵として出逢った二人。そして私――
どちらも人間だった頃の私を知っている。似たもの同志の敵と味方…
私に手を差し伸べてくれた、二人は―――相反する、関係。
(それは不思議な繋がりだった)
BACK
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アニメが少しづつ原作に近づいてきております。
今週はブリーチのアニメお休みだそうですが、それと関係ないですよね?ね?
お休みはちょっと寂しいです。今いいとこだし(* ̄m ̄)
グリムジョーと一護のマジバトルですので、見ごたえあり☆
でもこのシーンとか、かなり引き伸ばさないと、単行本の方は確実に近づいちゃいます(苦笑)
ジャ●プは更に少し先を進んでるでしょうけどね。
いつも励みにあるコメントをありがとう御座います<(_
_)>
■グリムジョーとウルキオラがかっこ良過ぎてキュン死です(●^^●)(高校生)
(ありがとう御座います!カッコいいと言って頂けて感激です〜(´¬`*)〜*
■更新されていたのでさっそく読ませて頂きました。グリムジョーが素敵すぎです!!これからも応援させていただきます!(高校生)
(早速読んで下さって嬉しいです!しかも素敵だなんて励みになりますよー!今後も頑張りますね(>д<)/
■グリムジョー素敵過ぎます!破面サイドのお話もいいですね。(大学生)
(素敵だなんてありがとう御座います!私はたいがい敵キャラにハマってしまうタチです(笑)
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