× story.09 記憶の中の少女










静かな水面に、いくつもの波紋が広がってゆくように、曖昧だった記憶が、少しづつ、ゆっくりと戻ってきてる気がした。





「はあぁっダメだ…!」

その場に倒れ、思い切り息を吐く。斬魄刀を持った手を空にかざすと、三日月と重なってキラキラと光って見える。

「…もう…剣と対話ってどうすればいいのよ…」

何を語りかけても返事など返ってこない。どうやったら解放までに至るのか、サッパリ分からず、は途方にくれた。
一人で剣に向かって話しかけている自分にも、失笑が漏れる。

「…ホントに名前なんかあるのかなぁ…これ」

もう一度大きな溜息をつき、剣を下ろすと、大の字になって目を瞑った。
辺りは相変わらず静かで、何の音も気配もしない。こうして目を瞑っていると、本当にここは虚圏なのか、と疑いたくなるくらいに平和だ。
死神達が恐れていた破面の世界は、思っていたよりもずっと静かだと思った。

(学院の子達が見たらきっとビックリするだろうな…)

ふと、尸魂界での事を思い出し、苦笑を零す。
破面のいる虚圏は暗黒の世界で、化け物たちが常に暴れている…そんな噂をよくしていた。
でも実際来てみれば、別に化け物たちがウヨウヨいるわけでもなく、暴れているわけでもない。
確かに外は常に夜、という事を除けば、虚夜宮の中はいたって健全なところだろう。
宮内は綺麗だし、藍染の意向で作られた"太陽"が見られる場所もある。
書室や談話室のようなところもあって、破面も実は普通に生活しているんだと分かり、も驚いたくらいだ。

(食事も美味しいしね……って、そろそろお腹空いたかも…)

戻って食事にしようかなと斬魄刀を鞘へと戻した。
が、ふとウルキオラに聞いた人間の事を思い出す。

(そうだ…部屋に戻る前にちょっと会って来ようかな。せっかくウルキオラから許可をもらったんだし…)

そう思いながら立ち上がると、先ほど借りた本を抱える。そして目の前に聳える虚夜営を見た。

「はあ…あそこに戻るのも大変なのよね…」

こうして近くに見えていても、これが結構遠い。思い切り修行できるよう、宮から少し離れたのはいいが帰りが面倒だった。
仕方ない、とノンビリ歩き出す。が、その時、背後から何か地響きのようなものが聞こえた気がして、ふと足を止めた。

(…何…何か揺れてる気がする…。まさか虚圏で……地震?!)

足元がかすかに揺れる感じがして、は慌てて辺りを見渡した。
その瞬間、さっきまでいた所の砂が一気に盛り上がり、そこから大きな物体が突然、飛び出して来たのが見えてギョっとする。


「ウガァァァッ」
「きゃ…っ」


大きな口を開けて突進してくるその物体に、さすがのも驚いて逃げようと走り出す。

(――これが虚圏の怪物?!なんて大きさ…っていうか食べられるかも…っ!)


「…ゥガァァ!」
「きゃぁぁっ!何でこっちに来るのよ〜〜!!…っっわ…っ」


突然の事にパニックになりながら、追いかけて来る化け物から必死に逃げる。が、砂に足を取られて思わず転んでしまった。
それでも勢いよく向かってくる化け物は止まらず、はすぐに鬼道を使おうと左手をかざす。
だが、それと同時に追いかけてきた化け物もピタッと止まった。

「……え?」

その行動に驚き、は目の前の大きな化け物を恐る恐る見上げる。
その時、化け物の上から何かが顔を出し、ギョっとした。


「…あんれまぁ…!こんなとこに破面がおる…」


「……な…っ?!」


顔を出したのは小さな子供だった。
こんな化け物に乗っている事にも驚いたが、その後ろから更に二体の破面らしきものが顔を出した。

「おお!何て可愛いらしい!」
「………ッ!(カブトムシ?!)」
「…こらぺッシェ!気軽にそんな事言っちゃダメでヤンス!この方は"数字持ちヌメロス"の方かもしれないでヤンス!」
「……(ヤンス?!ってか顔でかっ!)

子供の後ろから顔を出したのは、どこか虫っぽい顔をした細身の破面と、大きな顔をした破面だった。

「な…何なの、アンタ達……」

化け物から降りてきた三体を交互に見ながら尋ねると、子供の破面がの前に来てペコリと頭を下げた。

「驚かスて申ス分けねぇっス!バワバワは前を走るものがいると、つい追っかけてしまう習性があるっス」
「……は…?バ、バワ…?」
「あ、このデケェのがバワバワっス!こいつはネルたつのペットっス」
「はあ…」

よく分からない説明には首を傾げつつ、目の前にいる破面を眺めた。
殆ど霊圧も感じないし、どう見ても虚夜宮にいる破面たちとは違う。


「あの…アンタ達は…破面…よね」
「もちろんっス!ネル・トゥと申スまス!あの細いのが――」
「ネルの兄のぺッシェです」
「その兄のドンドチャッカでヤンス」
「…はぁ。兄弟…なんだ」


全然似ていない三体を見ながら、は小さく頷いた。が、ドンドチャッカという破面が前に出ると、


「ネルがあんまり可愛いらしかったもんで兄キになっちまったでヤンス」
「同じく!私もだ!」
「エヘへ☆」
「……他人なのね」
「「「……………っっ」」」


の突っ込みに三体は一気に顔面蒼白になっている。

「ネ、ネルたつが他人…!!じ、じゃぁネルたつは一体、何で一緒に…っ」
「い、いいわよ、兄弟で」

あまりの動揺っぷりに、はめんどくさいのと関わってしまったと後悔しながら肩を竦めた。
だいたい虚に兄弟意識があるのかすら不思議だ。

「そ、それより貴女のお名前は?美しいお嬢さん」

カブトムシ顔(!)の破面、ペッシェの問いに、「よ」とだけ応える。
それにはネルも「可愛い名前っス〜」とニコニコ微笑んだ。

はここで何してたんスか?」
「修行よ。もう帰るトコだけど」
「はあ。そーっスかぁ。ネルたつは暇でお散歩中だったっス」

聞いてもいない事を言われ、は笑顔が引きつった。
――虚圏ってホント色んな虚がいるんだなぁ。
そんな事を思いながら、立ち上がると衣服についた砂を手で払う。

「あ、あの」
「え?」
「虚夜宮に帰るんスか」
「うん。ちょっと疲れたし…」
「なら、驚かしたお詫びに送るっス!」
「え?」
「バワバワに乗っていけばすぐっスから!」

その申し出には戸惑ったように後ろにいる大きな化け物を見た。
全体的にナマズのような形の虚らしい。

「でも…」
「お近づきのしるしっス!」
「そーですよ、さん!どうぞ遠慮なさらずに!ささ、どうぞ!」
「わ、分かったから――」

ペッシェに背中を押され、は仕方なく、バワバワの背中へと上がる。
バワバワはかなり大きいので見晴らしもいい。

「虚夜宮までレッツラゴー♪」
「…………」

他の三体も同時に上がってくると、楽しげに叫ぶ。その声を合図にバワバワが動き出した。

「うわ、結構、早いのね」
「はい♪すぐ虚夜営につくっスよ」

ネルはニコニコしながらを見る。ペッシェもドンドチャッカも興味津々といった顔での隣に座った。

「ところで…は何番なんっスか」
「…え?何番って…何?」
「だから…その衣装を着てるっつー事は"数字持ちヌメロス"なんっスよね。ネル、"数字持ちヌメロス"に憧れてるっス」
「…あの…言ってる意味がよく分からないんだけど…」

ネルの説明に首を傾げながら尋ねると、ネルはケラケラ笑いながら、「またまた〜」との背中をドンと押した。

「"数字持ちヌメロス"は大虚メノスグランデ以上で破面化したヒト達の事じゃねぇっスかぁ」
「………は?(破面化…?)」
「その白い衣装は"数字持ちヌメロス"のヒト達しか着れないんっスよね?」
「え、そうなの…?」

の反応に、ネルの笑顔が固まった。
が、その時、ネルの言ったとおりバワバワのお陰で、虚夜宮もすぐ前に見えてきた。
子供の相手は苦手だし、とすぐに立ち上がる、

「――じゃ私ここで降りるね。送ってくれてありがと」

そう言って振り返る。
するとネルが訝しげな顔でをマジマジと見つめていた。

「あ…あの…」
「ん?」
「さっきから気になってたんスけど……」
「何?」
「…の仮面は……どこにあるんスか…?」
「仮面…?」

恐る恐るといった様子で訊いて来るネルに、は軽く息を吐いた。――やっぱ破面と間違えられてたんだ。

「あのね…私は破面じゃないの。見れば分かるでしょ?」
「えっ!!!破面じゃない?!!じ、じゃぁ……はアジューカスっスか?!」
「は?」
「でも、見た感じどっちかと言えば死神っぽいっスけど…」
「だから私は死神だってば!見てよ、どこにも仮面なんかないでしょ?孔もあいてないし!」
「―――ッ!!!」

呆れたように笑うと、ネル達の顔色がさっと変わった。そして一斉にから離れると、

「し、ししし、死神…っっ」
「……わぁぁぁっ虚圏に死神が乗り込んできたっ!!」
「大変でヤンス!殺されるでヤンスー!!」
「こ、殺さないわよ……………」

突然、バワバワの背中の上を走り出した三体に、の方がギョっとした。
これ以上付き合ってられない、と下へ飛び降りれば、ネルが驚いたように顔を出す。

「ど、どこ行くっスかっ」
「え?もちろん帰るのよ?虚夜営に…」
「し、死神が行っちゃ危ないっス!ここにはネルたつよりも怖〜〜い破面がいっぱい――」
「知ってるわよ。でも私は大丈夫。死神だけど、君達とは仲間なの」
「へ?仲間…?死神なのに?」
「そうよ。これからも宜しくね。ネルちゃん」
「はぁ…。よ、よろすくっス」
「じゃあ送ってくれてありがと。またね〜」

唖然としているネル達に手を振ると、はそのまま宮の中へと歩いていく。
が、その瞬間、後ろから、「待つっス!」とネルが走って追いかけてきた。

「どうしたの?」

目の前に走ってきたネルの視線まで屈むと、ネルはニッコリ可愛い笑顔を見せた。

「よく分かんねっスけどがネルたつの仲間なら怖くないっス。んだがら一緒に遊ばねっスか?」
「…へ?」
「これからペッシェたつと"無限追跡ごっこ"して遊ぶんス!もやらねっスか♪」
「………遠慮しとく」

思わず引きつりながらも笑顔を見せると、ネルは寂しそうな顔で俯いた。
そんな顔を見ると少しは可愛そうかなぁとも思う。

「あのね。今からちょっと用事があるの。だから今度また遊ぼ?」
「ホ、ホントっスか♪」
「うん。私、毎日さっきの場所で修行してるから、ネル達もまたおいでよ。ま、怖いお兄さん達もいると思うけど大丈夫だから」
「分かったっス!ネル、また行くっス!」

本当に嬉しそうな顔で両手を上げて喜ぶネルを見ていると、の顔も自然に笑顔になる。
子供は苦手だが、何か憎めないキャラだ。

「じゃあ、またね、ネル」
「はい!またっス!」

が手を振ると、ネルは笑顔で手を振りながら、外へと戻っていく。
それを見送りながら、は小さく苦笑した。

「あんな天然キャラの破面もいるんだ…。ここに住んでるヒト達とはかなり違うなぁ」

さっきの様子を思い出し、小さく噴出した。が、「いけない」と呟き、急いで廊下を歩いていく。
部屋に戻る前に、グリムジョーの腕を治してくれた人間に会いに行かなくちゃならない事を思い出したのだ。

「ここかな?」

ウルキオラの言っていた奥通路を発見し、軽く深呼吸をした。

(どんな子なのかなぁ…黒崎の仲間だっていうし、かなりガサツな子だったりして…)

色々と思いを馳せながら、はゆっくりと奥へ続く通路を歩き出した。








「遅いですね、さん」

虚夜宮に戻って暫く経った頃、シャウロンがふと呟いた。その声にディ・ロイが顔を上げる。

「見に行かなくていいの?グリムジョー」
「あ?ガキじゃあるまいし…。そのうち戻ってくんだろ」

いつもの場所に寝転がったまま、グリムジョーが答える。
だが少しは気になっているのか、頭をかきつつも起き上がると「部屋に戻る」と立ち上がった。
それを見送った三人は、互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべている。

「全く…素直じゃないな、グリムジョーは」
「だね。絶対、様子見に行ったよ、アレ」
「…まあ、ロリ達の事もありますからね。グリムジョーも気にしてるんでしょう」

イールフォルトとディ・ロイの言葉に、シャウロンが微笑んだ。
あれ以降、ロリ達がに絡んでくる事はなかったが、時々顔を合わすと、敵意丸出しで彼女を睨んでくる。
藍染やグリムジョーの手前、直接何かをしかけてくる事はないが、気をつけるのに越した事はない、とシャウロンは思っていた。

「まあ今はロリ達も、あの人間の女の方に気が行っているようですし…大丈夫だとは思うんですがね」
「ったく…女の嫉妬は嫌だ嫌だ」

ディ・ロイが肩を竦めつつ、溜息をつく。
それにはシャウロンやイールフォルトも苦笑しながら、大きく頷いたのだった。

一方、部屋へ戻ると言ったグリムジョーは、皆の予想通り、先ほどまで修行していた場所へとやって来た。
皆の手前ああ言ったものの、やはり少しは気になる。

「チッ。何でオレが…」

そう思いながらも足が勝手に向いていた。
は一度熱中すると、疲れるまで切り上げない。ここ数日、修行の相手をしていてよく分かった。
どうせ、また時間も忘れてやってるんだろう、と溜息交じりで歩いて行く。
が、前方に目を向けても、どこにもの姿はなく、グリムジョーは思わず足を止めた。

「……あ?どこ行ったんだアイツ…」

いつも同じ所でやっているから場所を間違えるはずもない。
だが辺りを見渡してみても、の姿はどこにもなく、グリムジョーはすぐに霊圧を探ってみた。

「……ッ?これは…ウルキオラ…?」

の僅かな霊圧の名残と共に、意外な人物の霊圧を感じ、グリムジョーはハッとした。

「アイツ…ここへ何しに…」

といって特に大きな力も感じず、に何かあったのではないとホっとする。
が、それ以外にも、何体か不明の霊圧の名残を感じ、グリムジョーは首を傾げた。

(何だ…知らねぇ霊圧だ…。アイツ誰と会ってたんだ…?)

と言って、その力は微弱で破面とはいっても、どうやら下っ端の方らしい。
―――まさか…何かあったのか?
小さな不安を感じ、とにかく探そうと、今の居場所を特定するのに探査神経ぺスキスを全開にして、の霊圧を探った。

(――いた)

虚夜宮の方から、破面の中に混じって死神特有の霊圧を何体か感じる。巨大なものは藍染、市丸、東仙だろう。
その中でも最も微弱なものを探し出し、グリムジョーは目を開けた。

「この感じは……宮の奥からか?アイツ何でそんなところに…」

ここへ来て数日も経つと、も虚夜宮の中を色々と歩き回るようにはなっていた。
は本を読むのが好きなようで、ここ最近よく書室へ出入りしている。
が、宮の奥には特にが興味を持つようなものは何もない。

(…まさか…あの女か?)

ふと思い出し、グリムジョーはハッとした。
ウルキオラがここに来たのは間違いない。と言う事は…ウルキオラがをあの女のところへ?
――いや、今の傍に奴の気配はない…

「チッ…あのバカ…」

グリムジョーは小さく舌打ちをすると、すぐに虚夜宮の方へと戻って行った。









「ここ…かなぁ」

奥へと続く廊下を覗き込みながら、は呟いた。特に見張りもなく、確かに封鎖されてはいないようだ。
奥の方からかすかながら人間の霊圧を感じる。何となく優しい、そんな感じの霊圧だった。

「よし…」

軽く深呼吸をして、はゆっくりと歩き出した。が、その瞬間、背後から――


「どこ行くんだァ?」

「―――ッ」


突然、声が聞こえてビクっとした。慌てて振り返ると、そこには一体の破面が笑みを浮かべて壁によりかかっている。
ひょろりと背の高いその破面は、十刃のノイトラだった。ノイトラとは何度か顔を合わせたが、普通に言葉を交わすくらいには打ち解けていた。
シャウロンはあまり近づかない方が、と心配するのだが、にとったら特に怖い相手でもない。

「ノイトラさん…驚かさないでよ」

気配を消して近づいてきた事で苦情を言うと、ノイトラは笑いながら歩いて来た。

「お前が一人でウロウロしてんのは珍しいから、どこ行くのかと思ってな。そっちは何もないぜ?」
「いえ、あ…人間の子がこの奥にいるってウルキオラから聞いて…」
「ウルキオラから?へぇ…アイツ、そんな事、教えたのか…」

ノイトラは少し意外そうな顔をすると、

「で、ちゃんは人間に何の用だ?」
「グリムジョーの腕を治してくれたっていうし、ちょっとお礼に…あと、どんな子か興味もあるし」
「お礼…ねぇ…。やっぱ変わってんな、お前」

ノイトラは小さく笑いを噛み殺すと、ゆっくりの方へ歩いて来た。
彼はよりも、かなり高いから思わず見上げてしまう。

「オレもついてってやろうかァ?ちゃん一人じゃ危ねぇだろ」
「え?あ…大丈夫よ。ちょっと会ってみたいだけだから…それに相手は人間だし」
「まあな。でも……妙な力を使う。油断は出来ねぇ。たかが人間でもな」

そう言ってノイトラは奥の部屋へ視線を向けた。その瞳が真剣でハッとする。

(…十刃でも人間の、それも女の子に警戒するんだ…)

ノイトラの様子を見て、は少しだけ緩んだ気を引き締めた。確かに自分は今、油断していた。
黒崎の仲間だと聞いていたのもあったし、相手が同じ女だという事に、心のどこかで危険はないと思っていたのだ。
でもノイトラでさえ、その人間の力には畏怖の念を抱いている。そりゃそうだろう。完全に失っていたグリムジョーの腕を元通りに治したのだから。
そんな力を人間が持っている事だけでも不思議なのだ。

「…本当に一人で行くのかァ?」

奥の部屋の方に歩き出したを見て、ノイトラが慌てて呼び止めた。

「うん。ちょっと女の子同士で話したいの。それに……」
「それに?」
「その子、私の知り合いかもしれないから」
「あ?知り合い…?」
「あ、と言っても、私がまだ現世で人間やってた時のだけど…」

そう説明すると、ノイトラは驚いたように目を丸くした。

「人間って…お前、その頃の記憶あんのかよ?」
「この前までは殆ど忘れてたんだけど…最近少しづつ思い出してきたの」
「…へぇ……そりゃ珍しいな…。で、その女が知り合いかもってのはどういう事だ?」
「話すと長くなるから、また次の機会に話すわ」

の言葉に、ノイトラは僅かに眉を上げたが、すぐに苦笑いを零し肩を竦めた。

「…はいはい。ま、油断はすんな」
「うん、ありがとう」

そう言って手を振ると、ノイトラも片手を上げて戻って行った。
何気に心配してくれたらしい。顔に似合わず(!)優しいところもあるようだ。

「さて、と……どんな子かな…」

一人になったは、扉の前に立つと、大きく息を吸い込んでそれを見上げた。








「ノイトラ様」
「…テスラか」

その声に振り返ると、テスラが音もなく姿を現す。
ノイトラは気にも留めず、そのまま廊下を歩いていくと、テスラも後から続いた。

「どうして、あの死神に関わるのですか?」
「あ?」

不意に問われ、ノイトラは足を止めた。振り向くと、テスラが真剣な顔でノイトラを見つめている。
その表情を見て、ノイトラは苦笑を漏らすと、「悪りぃかよ」と一言、言った。

「あの者はグリムジョーが連れて来た死神です。それも特に力もない下級の…」
「だから何だよ?」
「ノイトラ様がお声をかけるほどの者では――」

そう言いかけた時、ノイトラの三日月を二つくっつけたような斬魄刀が、テスラの喉元に突きつけられた。

「てめぇ、オレに指図しようってのかァ?」
「…そういうわけでは…。ただ死神のような下級の者をノイトラ様のお傍に近づかせるのは――」
「うるせぇなぁ。どうでもいいんだよ、そんな事はァ」

ノイトラは斬魄刀を下げると、軽く舌打ちをしてテスラを睨んだ。

「アイツは弱いからいいんだ。オレは強い女は嫌いだからな」
「……………」
「…弱いクセに生意気な女も嫌いだが……はそうじゃねぇ」
「ノイトラ様…」
「自然なんだよ、アイツはな。この虚圏に来て間もないのにもう溶け込んでやがる」

楽しげに口元を歪めるノイトラに、テスラは軽く目を伏せた。

「オレが十刃でも変に怯えるわけでもねぇ。普通に接してきやがる。面白れぇだろ?」
「……そうですね」
「お前ですら、オレに対し、そうやって構えて話すがアイツにはそれがねぇ」
「それは彼女が理解していないからです。ノイトラ様の力を」

思い切って口を開いたテスラに、ノイトラはふと目を細める。が、僅かに笑みを零し、再び歩き出した。

「関係ねぇよ。オレがどれだけの力を持っていようと、はオレを怖がらねぇ。その必要がないというように普通に笑いかけてくる」
「…………ですが――」
「ナメてるわけでも、バカにしてるわけでもねぇ。友達のように普通に笑いやがる。だから面白れぇんだ」
「ノイトラ様…」
「この前、アイツがオレに話しかけて来た時も、どうやったら強くなれるだの、剣が上手くならないだの散々泣き言言って最後は笑顔で"またね"だとよ」

楽しげに笑うノイトラに、テスラは少し驚いたように顔を上げた。
前を歩く大きな背中を見つめると、これまでとは違う雰囲気が、ノイトラを包んでいる。

「拍子抜けすんだろ。最初はグリムジョーの奴が何か企んで連れて来たのかと思ったが…
聞いてみれば本当に、がここへ来たいと頼んだだけだという。
そんな死神もいるって事に多少は驚いたがな。――ま…アイツと話してると……何つーか……」
「ノイトラ様?」

ふと言葉を切ったノイトラに、テスラは訝しげな顔で声をかけた。だがノイトラは何でもねぇ、と前を歩いていく。
その後ろをついていきながら、テスラは小さく溜息をついた。

…あの少女が来てから、若干ここの空気が変わったような気がする。
グリムジョーがきっとそうであったように、皆、あの少女に知らないうちに惹かれて行くのだ。
一度シャウロンに、何故あの少女が虚圏へ来る事になったのか、その経緯を聞いたが、それは少し驚くような内容だった。
人間だった頃、あの少女は一度グリムジョーに会っている。そして、同じ世界へ行きたいと、グリムジョーの前で命を絶った。
それから少女はその記憶だけを残し、尸魂界へといき、そこでも絶望した頃…グリムジョーと再会を果たした。それも少女が命を絶ったという現世で。
不思議な話だ、と思った。人間の頃に出会い、死神として再会したグリムジョーに、少女がまた同じ事を言ったなんて。
それを受け入れたグリムジョーでさえ、最初は驚いただろう。
が…藍染さまに頼みごとをしてまで、あの少女の願いを叶えてやった。
わざわざ尸魂界へ助けに行ってまで、約束を果たそうとした……
破面でもあるグリムジョーに、そんな情があったとは、さすがに驚く。
そしてシャウロンやイールフォルト……彼らもまた、グリムジョーと同じだった。

――あの少女は死神であって死神ではない。

シャウロンが最後に言った言葉の意味が、良く分からなかったが、ここ最近の少女を見ていると、何となくだが分かってきた。
少女は尸魂界を裏切ってここへと来た。虚圏へ来たって、敵ばかりだというのに、臆することなく。
どの種族にも属さず、ただ自由に皆と接する姿を見て、最初は警戒していたはずの破面達も、徐々に打ち解けてきているようだ。
ノイトラがそうであるように、他の者も皆、あの少女を今では"敵"と思っていないだろう。いや、すでに"同胞"と認めているのかもしれない。
元々仲間意識のない破面にしては珍しい事だ。
藍染さまは全て分かっていて、あの少女を連れて来る事を許したのだろうか……

(何かの火種にならなければいいが………)

ふと、不安が過ぎり、テスラは小さく溜息をついた――








扉を開けた瞬間、その少女は驚愕の表情で、の事を見つめた。
その様子を見て、も目の前にいる少女が自分の事を知っているのだ、と悟った。
薄茶色の長い髪に大きな瞳と、高校生とは思えないほど豊かな胸。
想像していた"黒崎の仲間=ガサツな女"とはかなり、かけ離れている。
でもやはり記憶にはない。

「…あ、あの…こんにちは」

言葉を失っている少女に、どう話し掛けようかと思った結果、普通に挨拶をしてしまった。
その第一声に、少女も驚いているようだ。

「えっと……井上織姫さん…だよね」
「…………」

その問いに、井上織姫は小さく頷いた。だがその瞳は未だ驚愕に染まっている。
は少し考えたが、ここはストレートに言おうと、軽く微笑んで、織姫の方へ歩いて行った。

「…私、って言うの。って言っても、その顔じゃ知ってるって感じね」
「……ッ!や、やっぱり…さん……なの?」
「…うん。と言っても……私はアナタの事、覚えてないんだけど」
「………え?」

その一言に織姫は息を呑んだ。は苦笑いを零すと、ソファに座り、織姫を見上げた。

「この前…現世で黒崎に会って…その時に少しだけ思い出しただけなの。アイツと同じ高校だったって事」
「え…黒崎くんに?!でも…何でここに……さんは…破面…なの…?」
「ううん。私は死んだ後、尸魂界にいったの」
「……っ嘘…じゃあ…死神になったって事…?なのに何でここにいるの…?!その格好も――」
「色々とあったの。それは後で説明するわ」

今はそう言うしかない。は軽く息をつくと、唖然としたまま自分を見つめている織姫を見つめた。

「私がここへ来たのはアナタにお礼が言いたかったから」
「………お礼…?」
「そう。アナタが治してくれたんでしょ?グリムジョーの腕」
「………ッ」
「彼は私の恩人なの。だから……ありがとうって、一言、言いたかった」
「……あの破面が……恩人…?」

織姫は混乱したのか、フラフラと床に座り込むと、潤んだ瞳でを見上げた。
何が何だか分からない、と言いたげな織姫は、「どうして…」と繰り返している。

「アナタは……私が現世で生きてた頃の事を知ってるのね…」
「…………ッ」
「黒崎の仲間なら…もしかして同じクラスだった?私達…」
「…ホ…ホントに覚えてないの…?」
「うん。死んだ時の事とかはかすかに覚えてるんだけど…高校の時の事は黒崎しか思い出せなくて…」
「そんな………」
「ゴメン。今の私は現世にいた頃の私じゃないの。だから、その頃と同じようには思わないで」

そう言いながら織姫の顔を見つめた。同時におぼろげな記憶を辿ってみる。
でも、その中に織姫の記憶はない。同じクラスといっても、特に親しくもなかったはずだ。

「一つ…聞いていい…?」
「何?ああ、もしかして私が死んだ理由?」

織姫の問いに、この前、一護と会った時にもそう聞かれた事を思い出し、自分から口にする。
織姫は一瞬ハッとしたが、小さく頷いた。その顔を見て、一護が話していたクラスメートの名前が急に浮かんだ。

(そうだ…黒崎が言ってたっけ……)


"皆……泣いてたぞ…?ケイゴも…井上…も…"


――井上。そうか…井上織姫……黒崎が言ってたのは、この子の事なんだ。


冷静に織姫を見ながら、は小さく溜息をついた。

「死んだ理由なんて覚えてない。ただあの場所からいなくなりたかった…その気持ちだけはハッキリ覚えてる」
「…ど…どうして……さんが死んで…皆ショックを―――」
「ショック?でも特に仲が良かったわけじゃないでしょ?」
「…さん……」

の言葉に、織姫は悲しげな顔をした。そういう顔をされるのはも好きじゃない。
どこか同情されてるような気がするからだ。

「そんな顔しないで。人間だった私は死んだかもしれないけど、今はちゃんと生きてる」
「…………ッ」
「それに私は今、凄く楽しいの。記憶の隅で消えかけてる人間だった頃の自分より、尸魂界で嫌々死神の修行をしてた頃より、ずっと幸せ」
「……死神の修行…?そんな…だったら何で…ここにいるの…?教えて」

織姫の瞳は真剣だった。は軽く肩を竦めると、「いいよ」と小さく頷く。
そして今までの経緯を簡単に、織姫に話して行った。
自殺した後、自分がどうなったのか、どうして今、虚圏にいるのか。織姫は黙ってそれを聞いていた。

「…というわけで、アナタのところへお礼を言いに来たってわけ。あと黒崎の仲間だって言うから、どんな子かなって興味もあったし―――」
「………………」

全てを話し終えたは、そう言って苦笑した。が、織姫はずっと俯いたまま、黙っていた。

「分かった?何で私が虚圏にいるのか」
「………うん…」
「別にアナタのように無理やり連れてこられたわけでもないし、尸魂界を潰そうとかも思ってない。ただ―――」
「…うん、分かってる…。彼と……生きていきたかったんだよね、さん…」
「…………」
「じゃあ仕方ないよ」

そう言って顔を上げた織姫に、はハッとした。てっきり尸魂界を裏切った事で罵られると思ったからだ。
でも織姫はの気持ちを否定することなく、彼女の思いを受け止めている。それにはも嬉しそうに微笑んだ。

「…そう。私はただ…グリムジョーと一緒にいたかっただけ。だって退屈しなさそうでしょ?」
「好きなのね、彼の事」
「……は?」

その一言での顔から笑みが消える。そんなを見て織姫はキョトンとした顔で首を傾げた。

「…何でそうなるの?」
「え、違うの?」
「ち、違っ…嫌いじゃないけど…でもアナタが言ってるような意味じゃ…っていうかグリムジョーには感謝してるけど―――」
「だって彼に会って迷う事なく死を選らんで…死神になった後に再会…。それで尸魂界を裏切ってまでここに来たんでしょ?それって好きだからだよね?」
「…………」
「凄く運命的だよ!ね?」

ニッコリ微笑む織姫を見て、は思わず目が細くなった。
なんて順応性のある子なんだろう、と溜息をつく。さっきまで死ぬほど驚いていたというのに、今では呑気に運命論なんか語っている。

「何か羨ましいよ。そこまで好きになれる人と出会えて……って、あ、破面だっけ。うわ、でも破面と死神…これって禁断の恋?!現代版ロミオとジュリエットかも!」
「………あのねっっ(赤面)」

ロミオとジュリエットォォ?何言ってるの、この子!!呑気にシェークスピア語ってる場合じゃないでしょーが!
ってか自分が誘拐されてるのに何でこんなに呑気なわけ?だいたいグリムジョーは"ロミオ"ってガラじゃないわよ(!)

真っ赤になりつつ、目の前でキャッキャと騒いでいる織姫を見て、はゲンナリとした。
黒崎って何でこんな天然少女を仲間にしたんだろ…あ…不思議な力があるんだっけ…?それにしても、この子と一緒に尸魂界に乗り込んだなんて、何か信じられない。

「あ、あのね井上さん…私とグリムジョーはそういうんじゃなくて――」
「でも彼ちょっと怖そうよね。あ!もしかしてさんだけに優しいとか♪」
「…………私にも怖いけど?」
「え、そうなの?あ、でも彼ってちょっとシャイなタイプだよね!照れ臭いのかな……で、でも二人とも凄くお似合い―――」
「私とグリムジョーがお似合いなわけないでしょっっ」

一人先走っている織姫に、もとうとうキレた(!)というよりも恥ずかしいのが先に来たのかもしれない。
真っ赤になっているを見て織姫もギョッと目を丸くしている。

「はあ……井上さんってかなり天然の妄想っ子なのね」
「え?あ、それよく言われる…かも」
「やっぱり……っていうか、アナタ浚われてきたんでしょ?なのに何でそんなに呑気なの?」
「……あ、そ、そっか……」
「悪いけど私はアナタの事、助けてあげられないし―――」
「あ、うん。それはいいの。私、逃げる気ないから…」

織姫はそう言って、テヘへと頭をかいた。その笑顔を見た時、何となく懐かしいものを感じ、はハッと息を呑む。
記憶の片隅に眠っていたものが、少しづつ目覚めているようで、軽い眩暈がした。

「どうしたの?さん…」
「……何でもない…ちょっと眩暈がしただけ。―――じゃあ……呑気に思い出話って感じでもないし…私戻るね…」
「あ…待ってさん!」

目頭を押さえ、フラリと立ち上がるを見て、織姫は慌てて腕を掴んだ。その温もりにドキっとする。

「何――」
「また会えて嬉しかった…」
「……え?」
「…突然会えなくなったから…。でもまたこうして会えて……元気でいてくれて…良かった。凄く嬉しい」

それだけでも、ここへ来て良かった、と微笑む織姫に、は言葉を失った。

「…アナタが知ってる私じゃないのに?」
「…さんはさんだよ。人間でも、死神でも…。ちっとも変わってないもの」
「……アナタにとってクラスメートでも、私にとったらアナタは初対面の人間よ…」
「それでも嬉しい。それに今度こそ友達になれるかもしれないし」
「………ッ」

その言葉にドキっとして振り返ると、織姫は嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
その時、再びフラッシュバックのように、色んな映像がの頭の中に流れ込んでくる。


"一緒にお弁当食べない?さん"


そう言って微笑む少女と、目の前にいる織姫の笑顔が重なっていく。

「井上……」
さん…?どうしたの?」
「……織姫……」
「え?」

一護を思い出した時のように、色々な映像が一瞬で現れては消えていく。
その度に胸の奥が何かに掴まれたように苦しくなって、は強く目を瞑った。


さん…?」


「―――そいつの手を離せ」


「―――ッ」


その声と同時に、突然背後に大きな霊圧を感じ、ハッと目を開ける。
振り返ると、そこには怖い顔をしたグリムジョーが立っていた。

「グ、グリムジョー!何でここに……」

驚いているを尻目に、グリムジョーは真っ直ぐ部屋へ入ってくる。
そしての腕を掴んでいる織姫を冷たい目で見下ろした。

「その手を離せ。コイツが苦しがってんだろ」
「…え…あ…」

グリムジョーの言葉に、織姫は慌てて手を離した。
それにはホっとしたが、はすぐに間に入ると、「別に何でもないから」とグリムジョーを見上げる。
が、ジロっと睨まれ、は軽く首を窄めた。

「何でもねぇだ?青い顔しやがって……」
「こ、これは…」
「おい、女…井上織姫とかいったな。コイツと現世で知り合いだったか何だか知らねぇが、ここじゃお前はオレ達の奴隷だ。コイツに馴れ馴れしくすんな」
「ちょ、ちょっとグリムジョー」
「うるせぇ!人間だった時の過去なんかどうでもいいだろ!お前は今、ここで生きてる。それだけで十分だろが」

グリムジョーはそう言うと、の頭をクシャっと撫でる。怒っているものの、その手が優しくて、はハッと顔を上げた。

「…オレが傍にいりゃいいんだろ?」
「う、うん…」
「なら余計な事は思い出さなくていい」
「…うん…そうだね」

グリムジョーの言葉に、も笑顔を見せる。その様子を見て、織姫は一人、ニヤケていた(!)

(さっきは違うとか言ってたけど、やっぱり二人はいい雰囲気なんだ。いいなぁ、羨ましい)

「何、笑ってんだ?てめぇ」
「え?あ、ゴ、ゴメンなさい!私、お邪魔ですよねっ」
「あ?」 「は?」

慌てて背中を向ける織姫に、もグリムジョーも訝しげに眉を寄せた。
が、だけはその意味に気づき、一気に顔が赤くなる。

「ちょ、だから違うってば」
「何がだ?」
「い、いい!何でもない」

何も分かっていないグリムジョーに、も思い切り首を振る。
織姫が二人の事を変な風に誤解している事がバレれば何て罵られるか分かったものじゃない。

「それより早く戻るぞ。腹減った」
「あ、うん…そうね」

お腹を押さえ、溜息をつくグリムジョーを見て、も頷く。同時に自分も空腹だった事を思い出した。
グリムジョーも空腹でイライラしているのか、を横目で見下ろすと、

「ったく…何でオレがお前を探しに来なくちゃならねぇんだ……」
「…な、何よ。頼んでないもの。私はちょっと彼女にお礼を言いに来ただけだし」
「あ?お礼?」
「言ったでしょ?腕のお礼」
「何でお前がお礼言うんだよ」
「いいじゃない。言いたかったんだから」

不思議そうな顔をするグリムジョーにはそう言うと、サッサと部屋を出ようと歩いていく。
が、思い出したように振り返ると、

「あ…えっと…またね、井上さん」
「あ…う、うん」

の言葉に、織姫は嬉しそうな笑顔を見せた。

「ウルキオラが面倒見てるって言うし大丈夫だとは思うけど…時々私も来るから…」
「…さん…あ、ありがとう」

織姫は泣きそうな顔でそう呟くとは照れ臭そうに視線を反らした。
そんな二人を見てグリムジョーは軽く舌打ちをすると、そのまま部屋を出て行こうと扉を開けている。
が、その瞬間、空間が割れるような、そんな感覚が体を襲い、とグリムジョー、そして織姫までがその場に固まった。

「……この霊圧……」
「…チッ。侵入者かァ?」
「…な、何…?」

織姫が不安そうな顔で二人を見る。

「黒崎……」

はそう呟くと、不安げに窓の外を見ている織姫を見た。

(まさか……!ここは虚圏だ。アイツが来れるはず…)


「行くぞ!」
「え?ひゃっ」

そう思っていると、グリムジョーがの腕を掴み、部屋を飛び出した。

「ちょ、ちょっとグリムジョー何…」
「お前は部屋に戻ってろ。オレは藍染に呼ばれた」
「え、え?いつ?」
「今だ。アイツは十刃に集合をかけている。頭ん中に直接な」

その言葉に顔を上げると、グリムジョーは軽く笑みを零し、自分の額を指差した。

「んな顔すんな。心配しなくても大丈夫だ」
「……う、うん」

ポンっと頭に手を乗せるグリムジョーにホっとしながら、小さく頷く。
でも、もしこれが黒崎の霊圧なら二人はまた戦う事になる…そう思うと、やっぱり心の奥がざわめいた。
ふと先ほどの織姫の不安げな顔を思い出し、軽く首を振る。
――私がグリムジョーを心配なように、彼女も黒崎の事を心配してるんだろうか。
一瞬、黒崎と織姫が笑い会っている光景が浮かび、ドキっとした。
過去の記憶と今の記憶が入り混じって、次第に大きくなっていく。
関係ない……過去なんか。グリムジョーが言ったように、今ここで生きていく事だけを考えればいいんだ…


「グリムジョーは強いから心配してないよ」


そう呟くと、グリムジョーはかすかに笑った気がした。









(胸が痛いよ。記憶はないのに)








BACK









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

昨日、新刊33巻を買ってきましたァ♪まさかネルがあんなだったとは(驚)
子供のネルの方が可愛くて好きかも(´¬`*)〜*
そしてノイトラは若かりし頃も何だかハードでカッコいい(何がだ)
あの変なマント?ない方が素敵よね。あと髪が短いのも☆
やっとこ、このお話も原作沿いになって参りましたよ。




■好きな夢は一応ブリーチにしちゃいましたが、こちらのサイト様の夢全部大好きです!心理描写というのでしょうか・・・
感情移入してしまって読みだすと止まらなくまります←素直じゃないジョーさんが大好きです。主人公サイドを好きにならない人間なのでorz(高校生)
(当サイトの夢を全部好きと言って頂けて感激です(*TェT*)感情移入してもらえるとホント嬉しいですよ〜!私も主人公サイドより敵キャラに惹かれる方です(笑)

■グリムジョーにはまったきっかけになりました!このお話大好きです:)!(高校生)
(この作品でグリムジョーにハマって頂けて凄く嬉しいです(*ノωノ)

■心配症のグリムジョーにキュンときました!とても読みやすい話で面白かったです。(大学生)
(読みやすい&面白かったと言って頂けて感激です!とても励みになります(>д<)/







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆