× story.12 軋むのは心か、それとも









「ご報告申し上げます!先ほど破面NO.103。"十刃落ち"ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ様が、侵入者に撃破されたとの報告が入りました!」
「そうか…」


そう言ってゆっくりと椅子から立ち上がった藍染は、傅いている下僕の方に向き直った。藍染の隣には市丸ギンも控えている。

「予想より少し手間取ったようだね」
「…は」
「彼ならドルドーニ程度の相手はもう少し早く片付けられると踏んでいたんだが…まあいい。それより―――」

藍染はそこで言葉を切ると、冷たい笑みを浮かべ下僕の前に立った。


「―――彼に葬討部隊エクセキアスを差し向けたのは誰だ?」


「…は…っ」


ミシミシ…とその場の空気が軋むような恐ろしい圧迫感を体に受け、下僕は苦しそうな声を上げた。
気を抜けば体ごと潰されそうなほどの藍染の霊圧に、冷や汗が垂れてくるのを感じながら、「それは…」っと言葉を濁す。

「…どうした?難しい質問だったかな?」

静かに、それでいて殺気に満ち溢れた藍染の声。それに反応するかのように下僕はゆっくりと顔を上げる。
その時、開け放されたドアから、一体の破面が姿を現した。


「―――僕です。藍染さま」

「…ザエルアポロか…」


藍染がその名を口にするのと同時だった。ドアのところに立っていたザエルアポロがいきなり藍染の前に傅いた。

「申し訳ありません!!!」

その大げさとも言える振る舞いに、藍染の後ろで一部始終を見ていたギンが怪しい笑みを浮かべる。

侵入者インパソールを確実に誅殺する為には手負いの瞬間を逃してはならないと考え、独断での命令を発しました!」
「……………」
「藍染さまに利すると考えての事とはいえ、ご命令にない行為…いかなる罰も受ける覚悟で御座います!」

頭を深々と下げたまま、必死に訴えるザエルアポロを、藍染は無表情で見下ろし、そして静かに口を開いた。



「いや……構わないよ」

「――――ッ」



その一言に、ザエルアポロがハッと顔を上げると、藍染はそのまま踵を翻し、椅子へと腰を掛けた。

「理由があるならそれでいい。罪には問うまい」
「あ……ありがとう御座います!」

藍染の言葉に、ザエルアポロは再び頭を下げる。そしてすぐに「失礼します」と部屋を出て行こうとした。
そんなザエルアポロの背中に、藍染は「…ただ」と静かに声をかけた。

「報告はもう少し、正確に頼むよ。ザエルアポロ」
「……………ッ」

その言葉に、息を呑み、ピタリと足を止めるザエルアポロに、藍染は言葉を続けた。

「ドルドーニから採取した侵入者の霊圧記録は……君の研究に役立ちそうかい?」
「………………はい」
「そうか。何よりだ」

背中を向けたまま、答えるザエルアポロに、藍染は怪しい笑みを浮かべる。
ザエルアポロがそのまま部屋を出て行くと、それまで黙っていたギンが苦笑いを浮かべながら藍染の方に歩いて行った。

「…何や、自分の部下がやられた言うのに、えらい楽しんではりますなァ」
「…そう見えるか?」
「違いますか。――あの子らがここへ向かって勝ち進んで来とるのが、楽しゅうてかなわん……そういう顔してはりますよ」

ギンの言葉に、藍染はふっと笑みを浮かべると、「楽しむ…か」と小さく呟いた。

「何故かな。確かにそれに似た感情は感じているよ。――おかしいと思うか?ギン」
「まさか」

その問いに、ギンも笑みを浮かべると、「不思議と…ボクもおんなし気分ですわ」と藍染の方に振り向いた。
そんなギンに藍染は微笑むと、静かに椅子から立ち上がる。

「ところで……あの少女はどうしてる?」

思い出したように問う藍染に、ギンはああ、と薄く笑う。顎に手をやりながら、ふと先ほどモニターで見ていた恋次とグリムジョーの戦いを思い出した。
ザエルアポロの策略で、今頃は恋次も罠にハマっている頃だろう。

「さっき阿散井くんと接触しましたわ」
「そうか…。それで?」
「まあ……何や…思てなかった展開ゆうか…」

歯切れの悪いギンに、藍染は初めて訝しげな表情をしながら視線を上げた。その視線に気づき、ギンもハハハっと頭をかいている。
先ほど盗み見た恋次とのやり取りを、藍染にどう伝えよう、とギンは軽く首を捻った。

「…あの子、思たよりも…男を惹きつける何かがあるみたいですわ」

ギンの一言に、藍染は何かを感じ取ったのか、一瞬だけ目を見開くとすぐに、そうか、と苦笑いを浮かべた。
それだけで通じてしまうのは、きっと二人の過ごしてきた長い時間、そしてどこか歪んだ信頼関係から来ているのかもしれない。

「…実に面白いね、あの子は」
「ボクもそう思います。あァ、それに真っ直ぐで可愛えし…東仙さんも気に入ってはったようですよ」
「要が?…そうか」

僅かに眉を上げ、楽しげに笑うと、藍染は口元を緩ませた。

「要が気に入るなんて珍しい。ますます興味が沸くよ」
「……どうします?もう一人、誰かにぶつけてみるとか」

ギンが言うのと同時に、藍染が手を翳す。何もない部屋の壁には無数のモニターが現れ、そこにいくつかの映像が流れ始めた。
ドルドーニを倒し、通路を走る一護。残りの"十刃落ち"と戦う、石田や茶渡、未だ一人、通路を行くルキア…そしてザエルアポロの巣に堕ちた恋次…
それらを楽しげに眺めながら、藍染はゆっくりと顎を撫でた。

「…やはり…黒崎一護…この死神が一番面白そうだね」

藍染の言葉に、ギンも怪しく笑う。

は今どこに?」
「グリムジョーが部屋に連れて帰ったようですわ。何や珍しく入れ込んでるようで」
「…そうか」
「あの分やとちゃんを彼らに会わせへんつもりかもしれへんなぁ」

藍染は何も答えないまま、モニターに映る一護を見つめた。
尸魂界で会った頃とは比べ物にならないほどに力をつけてきた事は、モニターを通していても伝わってくる。

「…ギン。ウルキオラを呼んでくれないか」

藍染の言葉に、ギンはニッコリ微笑むと、静かに部屋を後にした。











「―――ちょっと!下ろしてよ!自分で歩けるってばっ」

そう怒鳴りながらジタバタと暴れるを軽く肩に担いでいるのは、仏頂面をしたグリムジョーだ。
さっきと同じように不機嫌さを隠す事もなく、真っ直ぐに廊下を歩いていく。
そして自分の部屋の中へ入ると、抱えていたの身体を徐にベッドの上に放り投げた。

「い…痛いじゃない!何なのよもうっ」

そのグリムジョーの暴挙&理不尽な態度に、は身体を起こして文句を言った。
だいたい恋次と話していたら突如ブチギレ状態で現れ、いきなり戦闘。
あげくをその場から無理やり引っ張って十刃の居住区まで戻ってきたかと思えば、「お前はオレのモンだ」発言。
その事で苦情を言ったに、更にキレて、嫌がるのも無視したあげく、こうして抱えて運んできたのだ。
ワケの分からない怒りをぶつけられれば、さすがのも怒りたくなるというものだ。が、グリムジョーは全く反省の色も見せず、今も仏頂面のまま、黙ってを見下ろしている。
その殺気すら漂うグリムジョーの視線に、怒っていたも少しだけ顔が引きつってきた。

「何よ…まだ怒ってるの?」
「………怒ってねぇ」
「怒ってるじゃない…その顔はぜーったい怒ってるもん」
「うるせぇ!怒ってねーって言ってんだろーがっ!」
「怒ってるじゃないーっ」

いきなり怒鳴ってベッドに腰を下ろすグリムジョーの背中に、は軽くパンチを繰り出す。そんなものは痛くも痒くもないと言いたげに、グリムジョーは軽く舌打ちをした。

「怒ってンじゃねぇ。イラついてるだけだ」
「お、同じでしょ?」
「同じじゃねーよ。つーか、お前うるせぇし少し黙ってろ」
「む…何よ…いきなり怒鳴ってきたのはグリムジョーじゃない…」

勝手気ままなグリムジョーに、は僅かに唇を尖らせた。

(ホント勝手なんだから。そりゃ…私も敵である阿散井副隊長と会ってたのは悪いけど、あれは不可抗力ってものだし、それに別に私はグリムジョーのものでも何でもないし…)

そこでふと、先ほど言われた言葉を思い出す。あの時はまるで自分の所有物のように言われ、頭にきた。
でもこうして冷静になってみると、アレは何となく、そう言った感じのニュアンスではなかったようにも思う。
じゃあ、どういう意味だ、と考えてみても、答えなんか出てくるはずもなく、ただハッキリしているのは、今こうしてグリムジョーと二人きりでいる状況が、少しだけ気恥ずかしいと言う事だけ。
いつもと同じようでいて、今日は何となくいつもと違う空気が、二人の間に流れている気がした。

「あ、あの、さ―――」
「さっきの奴……あの時いた奴だよな」

気まずい空気がイヤで、何か話さなきゃ、と思ったの言葉を、グリムジョーは唐突に遮った。ドキリと鼓動が鳴る。

「あ…あの時…って?」
「…尸魂界にお前を助けに行った時だよ。アイツ、あの時いたよな。他の死神と一緒にオレの前に立ちふさがった奴だ」

グリムジョーはに背を向けたまま、イライラしたように話しつづける。

「あの赤髪…覚えてるぜ。お前のこと"スパイだったのか"とか何とか抜かしてやがったな…そうだろ?」
「……うん…」
「なのに何でアイツはお前を連れて行こうとしてた?裏切り者ならその場で殺せばいいはずだ。それともお前を連れ帰って、また処刑させる気なのか?」

そこで初めてグリムジョーが振り返る。はグリムジョーの目を見てハッと息を呑んだ。
その瞳に、静かな怒りが見えた気がしたのだ。

「どうなんだよ。アイツはお前に何て言ってた」
「……し、知らない。私は偶然、あそこで阿散井副隊長に会って…それで―――」

そこで恋次の真剣な告白を思い出し、は頬が赤くなった。


"……あの時と同じ後悔だけはもうしたくねぇ…"


恋次の真剣な言葉は、今も耳に残っている。

ただの…おせっかいな先輩だと思っていた。ちょっと口が悪くて、でもさり気なく優しくて、後輩からも人気がある、そんな先輩だと…
なのに、あの時は…どこか二人の間に感じたことのない空気が流れて、彼が一人の異性だったんだ、と認識したような、そんな感覚。


"オレは……お前のことが……"


―――言いかけて途切れたあの言葉の続きは、何だったんだろう?

そんな風にトボケられるほど大人じゃない。でも全く分からないほど、子供でもない。



「―――おい。何考えてんだ?」
「……あ…」

不意に声をかけられ、が顔を上げると、グリムジョーが怖い顔で睨んでいる。
その苛立っている様子に、は内心、参ったなぁ、と思っていた。
以前、グリムジョーに冗談半分で、言った事がある。
グリムジョーにガキだ、色気がないと散々バカにされ、ムキになったは、頭に来てつい言い返してしまった。


"あ♪そう言えば阿散井副隊長にも何度かランチ誘われた事あったな〜!もしかして阿散井副隊長ってば私の事、好きだったのかも!"


…なんて、今思えば、笑えない冗談だった、とは思った。

「…どうしたよ。やっぱり、あの死神が心配か?」
「…そんなこと言ってないでしょ」

ジロっと睨んでくるグリムジョーに、そう言い返す。
――関係ない。そう、私にはもう何の関係もない人だ。

「今頃ザエルアポロの罠にハマってボロクソにやられてるかもしれねぇぜ?」

グリムジョーはまだ疑うように、そう言ってくる。そんなグリムジョーに、は「そっちこそ気にしてるじゃない」と言い返した。

「あぁっ?オレは別に―――」
「あ♪もしかしてヤキモチ?」
「――――ッ」

何の気なしに言った言葉だった。グリムジョーがあまりに気にしているから、ちょっとだけからかうつもりで言っただけ。
なのに、グリムジョーの反応は想像と違っていた。

「…グ、グリムジョー?」

のヤキモチ?という他愛もないジョークに、グリムジョーは怒鳴るでもなく、ドキっとしたように口をつぐみ、僅かに視線を反らした。
その反応にはも驚き、それ以上何も言えなくなくる。一瞬、気まずい空気が流れた。だがその空気を壊すように、グリムジョーが鼻で笑った。

「ケッ…バカじゃねぇのかァ?何でオレが、あんな赤髪ヤローにヤキモチ妬くんだよっ」

それでも普段の彼らしかぬ、静かな口調に、は内心驚きながらも、「自分だって青髪じゃない…」と突っ込んだ。
グリムジョーはうるせぇっと小さく舌打ちしながら、の額を軽く小突く。その優しい反応にも驚き、は言葉を失いつつ、小突かれた額をさすった。
いつもなら、あんな事を言えば「ふざけんな!」と思い切り怒鳴られるくらいはするのに、と思いながら、未だ気まずそうにそっぽを向いているグリムジョーに、何となく顔が赤くなる。

(いきなり優しくならないでよ…調子狂っちゃうじゃない…)

そう思っていると、不意にグリムジョーがを見た。いきなりの事に目が合い、ドキっとする。

「つーか…アイツ、本当にお前のことも連れ戻しに来たのか?」
「え…?」
「さっき言ってたろ。"お前を人質にする気はねぇ……このまま連れて帰る"ってよ」
「………聞こえてたんだ…」
「あ?オレは耳はいーんだよっ」

ガックリ項垂れるに、グリムジョーは軽く目を細めた。だがすぐにの顔を上げさせると、真剣な顔で見つめる。

「…アイツがその気なら…オレは容赦しねぇぞ」
「……え?」
「言ったよなァ?"お前をも連れて行こうとしたら、オレは迷わずアイツを殺す"って」
「グリムジョー…」
「黒崎だけじゃねぇ…。あの赤髪の死神も、他の奴らも…同じだ。お前をここから連れて行こうとする奴は…オレが全てぶっ殺す」

そう言いはなったグリムジョーの瞳は真剣で、静かな怒りが見え隠れする。本気で言っているんだ、と分かり、は小さく頷いた。
何だかんだとケンカをしても、はグリムジョーの傍にいるのが一番心地いいのだ。
こんな自分を必要としてくれる、グリムジョーの傍が一番安らげる居場所だから。
自分を偽らずに、自然体でいさせてくれるグリムジョーは、にとって最も大切な存在で、出逢った時の心の昂ぶりは、今も消えずに残っている。

そう…あの夜から私は…グリムジョーの存在を求め続けてここまで来たんだ…それを一時の仲間感情で助けに来た人たちのせいで、手放したくない。
私は彼らのものじゃない。私の意志を否定する人たちに、邪魔されたくはない。そう……私は…やっぱりグリムジョーのものなんだ…

そこで初めて、グリムジョーの言葉が胸に響いた。

"お前はオレのものだ"

求めている相手に求められるという事が、こんなにも空っぽだった心を埋めてくれるなんて、は思いもしなかった。
―――そして、こんなにも胸を熱くするのは、グリムジョーの存在そのものが愛しいから……


「……っ」

不意に先ほど感じた息苦しさに襲われ、は頬が熱くなった。同時に自然に溢れてきた"愛しい"という感情に、思わず目の前のグリムジョーを見る。

(…私……今、グリムジョーのこと…)

先ほど体を触られた時のように、心臓がドクドクと早くなっていく。体中の熱が顔に集中してるんじゃないかと思うほどに、頬が火照り、はそんな自分に戸惑った。

「…どうした?つーか……お前、何気に顔赤くねぇか?」
「な、何でもな―――」
「やっぱ熱い…お前、熱あるぜ」

不意に額に手を添えるグリムジョーに、の顔の熱が更に上昇する。一度意識してしまった心は、もう二度と消えない。

「…ウロチョロとほっつき歩いてっから風邪でも引いたんじゃねぇーか?やわだな、死神って奴は」
「べ、別に風邪なんか――」
「いーから寝てろ」
「ひゃ…」

軽く肩を押され、ベッドに寝転ぶ形になり、は驚いた。ついでに自分を見下ろしているグリムジョーと目が合い、更にドキっとする。

「やっぱ顔、赤いな…ったく、具合悪いなら早く言いやがれ、このバカっ」
「ち、違…具合悪いわけじゃ―――」

そう言って起き上がろうとしたものの、グリムジョーの腕にアッサリ止められ、は再びベッドに寝転ぶハメになった。

「いーから横んなってろ。つか、薬とか飲んだ方いいのか?」
「え、いやそれは…」
「あいにく、ここに薬はねーし…ああ、同じ死神なら市丸の奴に聞けば――」
「い、いいってば!そんな事しなくても平気だし…別に病気ってわけじゃないと思うし…」

どこか慌てた様子のグリムジョーに、は困ったように首を振る。だいたい風邪で熱があるわけじゃないし、この熱は薬で治るものでもない。
この顔の火照りの原因に気づいてしまった今となっては、それを説明できるはずもない。は内心焦りながらも、心配そうに顔を覗きこんでくるグリムジョーを見上げた。

「…大丈夫かよ…」
「だ、大丈夫……」

とは言ったものの、そんな顔をされれば余計に悪化する(!)いつもみたいに「バカ」だとか「弱っちい奴」と詰られた方が、数倍マシだ、とは思った。

「…少し休んでろ」
「…う、うん……グリムジョーは…?」
「オレはどこにも行かねぇ。傍にいてやるから…」

そう言ってグリムジョーはの頬にそっと手を添えた。その温もりにドクンと鼓動が跳ねる。
を見つめるグリムジョーの顔には、いつもの皮肉めいた笑みもなく、本当に心配そうな表情を浮かべていた。
その顔を見ているだけで、鼓動がいっそう早くなっていく。手を離そうとしないグリムジョーに、は次第に恥ずかしくなってきた。

「あ、あの…」
「……ホント熱いな」
「……だ、大丈夫だってば…」

というか、その手を離して欲しい、と内心思いながら、はぎゅっと目を瞑った。頬に添えられた手は、少しヒンヤリとしていて心地がいい。
でも、それ以上に顔が熱くて、ゆっくりと頬を撫でていく指に、また反応してしまう。
グリムジョーを愛しいと感じている心が、勝手に熱を上げているようだ。
その時、不意にグリムジョーの指が、唇に触れて、ビクンっと体が跳ねた。慌てて目を開けると、グリムジョーは優しい目でを見下ろしている。

「髪…食ってる」
「……へ?」

その言葉に一瞬、目が丸くなったが、グリムジョーはの口元にかかった数本の髪を、そっと指で払った。
たったそれだけの事なのに、昨日までとは違う反応をする自分の心に、は戸惑い、どうしていいのか分からなくなる。
自分以外の存在を大切に想う気持ちを知ったのも、異性を愛しいと想う気持ちを初めて知ったのも、グリムジョーの存在があったからだ。
何もかも初めてのにしてみれば、こういう時、どんな顔をすればいいのかさえ、分からない。

「…お前やっぱ具合悪いんじゃねーか?目ぇ潤んでるし―――」
「な、何でもないってば……グリムジョー心配しすぎっ!そんなの似合わないよ…」
「あぁ?テメー誰に向かって、んなこと言ってんだ?」
「…い、痛ひってば…っ」

いきなり目を細めたグリムジョーが、片手での口元をぎゅっと寄せる。必死に抵抗してみても、力で敵うはずもない。
あげく、グリムジョーはの尖った口を見て、小さく噴出している。

「クク……変な顔だな」
「な…グリムジョーがやってるんでひょっ離ひてっ」
「……ぶ…ッックック…」

文句を言ってみたところで、口元を寄せられているせいで変な喋り方になり、グリムジョーが笑うだけ。
頭にきたは、自由のきく両手で、グリムジョーの脇腹を思い切りくすぐってやった。

「…離ひてよっ」
「な…バ…カ…!やめ…っ!」

その突然の攻撃に、無防備だったグリムジョーは慌ててから離れようとした。だが思い切りくすぐられた感触で、自分の体を支えていた腕の力が一気に抜ける。
そのせいで、の顔を覗きこむような体勢だったグリムジョーの体は、当然のようにの上へと倒れこむ。
急に覆いかぶさってきたグリムジョーに、さすがのも驚いて手を離した。

「ってぇ…」
「ちょ…痛いのは私…!ってか重たいってばっ」
「あぁ?テメーがいきなりくすぐっから悪りーんだろっ」

そう怒鳴りながらグリムジョーはぶつけた胸の痛みに顔を顰めつつ、僅かに起き上がった。だがその瞬間、至近距離でと目が合い、ハッと息を呑む。
そしても同じように目を見開き、言葉を失ったように、文句を言っていた口を閉じた。
互いの吐息がかかるくらい、近い距離で、暫し見詰め合う。
さっきの事で少しだけ冷めつつあったの頬の熱が、再び上がっていった。

「ちょ…っと…どいて―――」
「…悪りぃ…痛かったか?」
「……グ、グリムジョー…?」

不意に優しい言葉をかけられ、はドキっとした。グリムジョーはさっきまで笑っていたとは思えないほど、真剣な顔でを見つめている。
その瞳の熱さに、の胸が、大きく音を立てた。

「…だ、大丈…夫…」

そう言いかけた時、グリムジョーの手が優しく髪を撫でる感触に、ビクンとなる。
体全体にグリムジョーの体重を感じているせいで、動く事さえ敵わない。
そのうえ、どこかいつもとは違う様子のグリムジョーに、は再び頬が赤く染まっていくのが分かった。

「ど…どうしたの…?どこか…ぶつけた?」

誤魔化すように、そんな事を言ってみる。
グリムジョーは無言のまま、そんなを見つめながら、髪を撫で、時折指にそれを絡めている。
それが伝わり、の鼓動はどんどん早まっていった。
いつものように振舞わなきゃ、と思えば思うほど、体に力が入り、は僅かに目を伏せた。
グリムジョーの目を、まともに見ていられない。そう思った時、額にグリムジョーの前髪が触れ、ハッと視線を向けた。

「…グ、グリムジョ……」
「お前は……オレのもんだろ…?」
「………ッ?」

唇が触れ合いそうなほどの距離で囁かれ、は小さく息を吸い込んだ。
唇に、グリムジョーの吐息がかかるのを感じ、目を見開く。
グリムジョーは今まで見た事もないようなほど優しい眼差しで、を見つめながら、


「……誰にも……渡さねぇ…」


その言葉に声を出そうとした刹那―――言葉はグリムジョーの唇に飲み込まれ、喉の奥で消え去った。


「――――ッ」


唇と唇が重なる―――その初めての感触に、の体がビクリと跳ねる。
それを押さえつけるように覆いかぶさり、グリムジョーはの唇を愛撫するように口付けた。

「…………ん…っ」

重ねている唇に舌先が触れ、の驚いたような声が漏れる。
その声に煽られるように、グリムジョーは更に深く口付けようと、舌先での唇を強引にこじ開けた。

「、んん…っ…」

他人の舌が自分の口内に押し入ってくるという、感じた事もない刺激に、は僅かに体を捩った。
それでもグリムジョーの手が頭を押さえつけるようにしているせいで、顔すら動かせない。
グリムジョーの舌が暴れるように動くたび、唾液の交じり合う音がの耳に響く。自分の舌が他人のそれで、舐められ音を立てて吸われる、という何もかも初めての行為。
驚きと、恥ずかしさで、は力いっぱい、グリムジョーの服を握り締めた。それが合図になったのか、不意に絡められていた舌が自由になる。
同時に薄く開いていた唇をぺロリと舐められ、はぎゅっと目を瞑った。

「……ん…グリム…ジョー…」

急に新鮮な空気が送り込まれた事で、唇が解放されたのだと気づく。ゆっくりと目を開ければ、グリムジョーの熱を帯びた瞳と目が合った。

「………っ」

いきなり、こんなキスを仕掛けてきたグリムジョーに、文句を言いたいのに、言葉が出てこない。
気づかないうちに、今の行為で体全ての力を使い切ってしまったようだ。
グリムジョーの服を握り締めたままの指先さえ動かせず、は乱れた呼吸を整えようと、小さく息を吐いた。

「……そんな潤んだ目で見んじゃねぇ。このまま犯すぞ」
「……な…っ」

息も絶え絶えになっているを見て、グリムジョーは薄く笑みを浮かべた。
それにはも耳まで赤くなる。何度か口をパクパクと動かしていたが、やっとの思いで深呼吸をすると、至近距離でニヤついているグリムジョーを睨んだ。

「か…勝手にキ、キスしておいて…」
「うるせぇな……したくなったからしたんだよ。悪りぃか」
「ひ…開き直る気……?私の――」
「どうだった?初めてのキスの味は」
「…………ッ」

その一言に真っ赤になるを見て、グリムジョーは小さく噴出した。

「……お前には激しすぎたみてーだな…」
「な…何……」
「何なら……次はもっと優しくしてやろうか?」
「ひゃっ」

ドキっとするような発言の後、ぺろりと唇を舐められ、は首を窄めた。そんなを見て、グリムジョーが何とも言えない笑みを漏らす。

「……可愛い反応すんじゃねぇーよバーカ。また勃っちまったじゃねぇか…」
「な……っっっ」

その言葉にドキっとして、僅かに体を動かす。だがグリムジョーが覆いかぶさっている状態で逃げられるわけもない。
しかも反応したグリムジョーの体の一部が太腿辺りに当たっている事に気づき、カッと頬が熱くなった。

「ちょ…は、離れて―――」
「ま、このままヤっちまえばいーか。お前も初キスと初セックス同時に味わいたいだろ」
「な…バ…バカ言うなっ」

ニヤニヤしながら唇を近づけてくるグリムジョーに、はこれ以上赤くなれないんではないかというほどの顔で怒鳴った。
それでもグリムジョーはどこ吹く風といった顔で、ニヤリと笑う。

「……痛いのは最初だけだ。そのうち気持ちよくなるからよ」
「…な…何言って…っグリムジョーの変態っ…んんっ」

不意にグリムジョーがの首筋に顔を埋め、舌先を這わせ始める。その刺激には溜まらず声を上げた。

「ちょ、」
「…そんな声だされりゃ我慢も限界だっつーんだよ」
「や…ちょ…ふざけないで…ん!」

首筋を這っていた舌先がゆっくりと上がり、耳朶を甘咬みされると、その刺激で声が跳ねる。
ファーストキスを強引に奪われたあげく、ヴァージンまで奪われそうな、この危険な状況に、本気で冷や汗が浮かんできた。
でも本気で嫌なわけじゃなく、ただ怖さと恥ずかしさの方が勝っているのだ。それに自分の中に眠っていた想いに気づいたばかりで、この急な展開に心がついていかない。
それでもグリムジョーはの小さな耳朶を口に含み、舌を使って舐め上げてくる。そのたびに卑猥な音が直に耳に響いて、はぎゅっと服を握り締めた。

「や…やだ…ってば…グリムジョー…」

本気で襲われるかもしれない、と怖くなって、は何度も首を振った。それでもグリムジョーは耳元に舌を這わせながら、の胸へと触れていく。
そして大きく開いた胸元のジッパーをゆっくりと下ろし始めた。が、はこの下には何も身につけていないのを思い出し、慌ててその手を止めようとした。

「ちょ、やだ…っ」
「…うるせぇ…。一度触れちまったんだ……止められるわけねぇだろ…」
「……グ、グリムジョー…?」

耳元でそう囁かれ、はドキっとした。その時、不意にグリムジョーが顔を上げ、を見つめる。

「……ホントに……イヤか…?」
「……え…?」
「オレは……冗談でもからかってるんでもなく………お前を抱きてぇ…」
「―――ッ」

いつもの意地悪な顔でもなく、冗談めいた口調でもない。真剣なグリムジョーの瞳に、の鼓動が大きく跳ねた。
本気で自分を抱きたいと言っているのだ、と分かり、更に心臓がうるさいくらいに早くなっていく。

「な…何で……?いつも……ガキだって……バカにしてたのに…」
「…お前はガキだろ」
「……ちょ、」
「でも………」

文句を言いかけたの唇をそっと指でなぞると、グリムジョーは僅かに目を伏せ、そこに触れるだけのキスを落とした。



「女として………抱きたくなったんだからしょーがねぇだろが…」

「………グリムジョ…−」



その優しい告白に、の中で何かが弾けた。グリムジョーの顔を見ただけで、今の言葉が本心なのだと分かる。
そして、もその思いに答えたい、と思っている自分に、初めて気づいた。
こんな自分を求めてくれる唯一の存在で、いつの間にか愛しい存在へと変わっていったグリムジョーは、にとって、失いたくない、たった一人の宝物だと。

「………?」
「…で…でも……怖いよ…」
「なるべく…優しくするよう努力はしてみる」
「な、何よそれ…っ。私は初めてだし、ホ、ホントに怖いんだから―――」
「分かってるよ!けど…処女の女とヤんのはオレだって初めてなんだよっどう扱っていーのか分からねぇだけだろっ」
「……そ、そんなに他の女の人とエッチした事あるんだ…」
「…ぐっ…つか涙溜めた目で見んじゃねぇっ」

変なところで過去の行いを口にしてしまい、グリムジョーは言葉に詰まった。だがは焦っているその姿に、笑みを零すと、

「…死ぬほど優しくしてくれたら……許してあげてもいーよ」
「あぁ?何でオレがテメーに許してもらわなきゃなんねーんだ、コラっ」
「…じゃあいい。せっかく決心したけど、ヴァージンはあげない」

のその一言に、グリムジョーの言葉が更に詰まる。そしてほんの数秒考えてから深く溜息をついた。

「……チッ…分かったよ…」
「……ホントに?」
「ああ……優しくすりゃいーんだろ?初めからそのつもりだし…お前をオレだけのモンに出来るんならお安い御用だよ」
「…………ッ」

皮肉めいた顔でそんな台詞を言われ、は頬が赤くなった。あれだけ他人の意見に耳を貸さないグリムジョーが、今は素直に同意してくれている。
それだけでは泣きそうになった。

「ズルイ…」
「あ…?」
「そんな急に優しくされたら……もう怖いってごねられないじゃない…」
「…テメー、まだ焦らす気だったのかよ」

僅かに目を細めつつ、それでもグリムジョーは真っ赤になっているを見て、優しい笑みを浮かべた。
火照ったその頬に触れ、そこへと口づける。そこで初めて、さっきのの熱の意味が分かった。

「……お前…さっきの熱って具合悪くなかったんだな」
「え…?あ、あれは…」
「何で赤くなってたんだよ」

ニヤリと笑うグリムジョーに、はドキっとした。まさか意識しすぎて、とは言いにくい。

「な、何でもない…」
「へぇ…言えねぇ事でも考えてたのか?」
「ち、違うもん…!ただ……」
「ただ?」

得意げな笑みを浮かべるグリムジョーに、は少しだけ悔しいと感じた。でも今となってはそんなところも全てが愛しいのだ。

「ただ……グリムジョーが………」
「オレが?」
「す……好きだなぁって……思ってた…だけ」

小さく呟かれたの告白に、今度はグリムジョーの顔がかすかに赤くなる。実際これまで女と体の関係はあっても、好きだとかいう言葉なんか交わした事がない。
に会うまで、自分以外の存在に愛情を持った事がなかった。だからこそ、その言葉が胸に強く響く。

「…お前…そんなにオレのこと、好きだったのかよ」
「……な…」

照れ隠しにそんな事を言ってみても、頬を膨らませているを見れば、自然と顔が緩んでいく。

「…そんなにほっぺた膨らませんな。ブスが余計にブスになるぜ」
「な、ブスで悪かったわね…っだったら他の女とエッチでもなんでも―――」
「うるせぇ。それでもお前がいいっつってんだよ!気づけバカ」
「………ッ」

優しいのか意地悪なのか分からない告白に、は真っ赤になりながらグリムジョーを見上げた。
グリムジョーはの瞳からポロっと零れた涙を指で拭うと、そこへ優しく口づける。


「―――オレがお前の初めてを全部もらってやるよ」


そう囁いた瞬間、奪うように口づけると、はグリムジョーの服を強く握り締めた―――












「ん……」

かすかに唇に触れる熱で、は薄っすらと目を開けた。その瞬間、視界にグリムジョーの顔が映り、慌てて起き上がる。

「起きたかよ…」
「え?あ、あれ…?私―――」

そこでは初めて自分の格好に気づき、ぎゃっと短い声を上げた。着ていた服は前が肌蹴け、もろに胸の膨らみが見えてしまっている。
慌てて前を引き寄せると、目の前でニヤニヤしながら横になっているグリムジョーに気づき、顔が真っ赤になった。
一瞬、犯された?!とパニックになりかけたが(!)不意にさっきの事を思い出す。

(そうだ……私さっきグリムジョーと初エッ……きゃーっ)

そこでハッキリと思い出し、顔から火が出るんじゃないかと思いながら慌てて頭から布団を被る。
それを見ていたグリムジョーは、笑いながらその布団をまくった。

「隠さなくてもいーだろ今更」
「い、今更って問題じゃないっ」
「じゃあ、どんな問題だ?」
「ちょ…何して…」

得意げな顔でに覆いかぶさってくるグリムジョーに、は顔が引きつった。

「何って……もう一回ヤろうかと―――」
「じょ、冗談でしょっ。あんな痛いのもうやだ…んっ」

言い終わる前に、深く口付けられ、また熱に飲み込まれそうになる。グリムジョーは焦らすようにの舌先をゆるりと絡めとり、弄ぶようにねぶり始めた。

「ん…ちょ…っ」

その優しい舌の動きに、先ほどの行為が脳裏に過ぎる。が怖がらないように、と、あのグリムジョーが壊れ物を扱うように優しく肌に触れてきた。
それでも自分の肌を他人、それも異性に見せる事はもちろん初めてで、怖さの次に恥ずかしさがくる。
それだけはどうしようもなくて、体にグリムジョーの唇が触れるたび、行為を中断させてしまった。
グリムジョーはその度に、お預けを喰らった犬のような顔で「焦らすんじゃねぇっ」と怒り出す。

「ここまでさせといてオレを殺す気か、テメーっ」
「そうじゃなくて恥ずかしいのっ」

なんて言い合ったり、とても甘い初体験だったとはいえないが、にとったら凄く幸せな時間でもあった。
それでも痛いことは痛い。グリムジョーが入って来た時の痛さは、これまで経験した、どの怪我よりも痛かった(!)
どんなに甘いキスをされようが、その恐怖はまだ体が覚えている。そこでは軽く体を捩りながら、抵抗を試みた。

「何だよ、この手……」
「だ、だって……」

グリムジョーの体を両手で突っぱねながら、は困ったように首を窄めた。それにはグリムジョーも不満そうに目を細め、その手を簡単に拘束してしまう。

「ちょ、何…」
「邪魔だからな」

そう言ってニヤリと笑うグリムジョーに、は顔が引きつった。両手を頭の上で拘束されたまま、再び口付けられる。
最初から唇を割って入ってくる舌先に、ビクンと体が跳ねた。

「ん…グリ…ムジョ…」
「……まだ抱き足りねぇ」

唇を解放された瞬間、耳元でそう囁かれ、は羞恥で顔が赤く染まる。その表情さえ、グリムジョーを煽るだけだという事を、経験のないは気づかない。

「…ん、…や…」

首筋から伝っていくグリムジョーの唇は、の肌蹴た胸元へと滑り落ち、露になっている小さな膨らみへと下降していく。
そしてツンと立ち上がった先を口に含まれ、短い声がの喉から漏れた。

「ん…や…」

は頭を振りながらも、ビリビリと背中を走る電流のような刺激に、体を震わせる。
その反応に答えるかのように、グリムジョーは舌先で立ち上がったそれを舐め上げた。

「んんっ」

恥ずかしさで震えながら、それでも先ほどより甘い刺激が伝わってくるのを感じ、は唇を噛み締めた。
それに気づいたグリムジョーは、そっと手を伸ばし、唇が切れないよう、そこをなぞる。

「……咬むな、バカ…切れんだろ」
「……だ、だって…」
「いーから声、我慢すんな。別に恥ずかしい事じゃねえ」

体を起こし、泣きそうなを見つめると、グリムジョーは触れるだけのキスを、赤くなっている唇へと落とす。
そのまま角度を変えながら、優しくキスを繰り返すと、も少しづつ体の力を抜いていった。

「ひゃ…ちょ、っと」
「何だよ…」

の頬や首筋にキスを繰り返しながら、グリムジョーの手が胸の膨らみを撫でる。それが恥ずかしいのか、は潤んだ目でグリムジョーを見上げた。

「あ、あまり…触らないで…恥ずかしい」
「あ?さっきも散々触ったじゃねぇか」
「そ、そういうこと言わないでっ」

しれっと答えるグリムジョーに、は泣きそうになりながら叫んだ。
だがグリムジョーは「揉まなきゃでかくなんねぇだろ」と、意味深な笑みを浮かべ、更にの羞恥を煽る。

「…ヒドイ、気にしてるのにっ」
「だからオレが手伝ってやるって言ってんだろーが。いいから黙って触らせろよ」
「………その言い方、なんかエッチ…」
「つか、やらしいことしてんだろ、さっきから」
「………ッ」

呆れたように目を細めるグリムジョーに、はぐっと言葉に詰まった。

「グリムジョーが勝手にしてるんでしょ…っ」
「いちいち、うるせぇなあ、テメーは…大人しくオレに抱かれてろ」

言い方は乱暴だが、の肌に口付ける唇は優しい。それを感じ、は恥ずかしいながらも、ぎゅっと目を瞑った。

「……んっ」

ゆるゆると降りていったグリムジョーの指先が、の太腿を撫で上げながら、少しづつ足を開いていく。
そのまま中心部を撫でられ、甘い痺れが襲ってきた。
身につけたままのスカートをたくし上げられ、それが更に恥ずかしさを煽る。
その時、不意にグリムジョーの手が止まり、は驚いて目を開けた。

「…グ、グリムジョー?」
「……はあ……」

突然、深い溜息をつくと、グリムジョーはの胸の上に顔を埋めた。その感触にひゃっと声を上げつつ、自由になった手でグリムジョーの体を軽く揺さぶる。

「どうしたの?具合でも――」
「…邪魔しやがって」
「え…?」

グリムジョーが忌々しげに呟いた時だった。突然部屋のドアがノックされ、はドキっとした。

「…チッ、何しに来やがった…」

そう言いながら体を起こすと、グリムジョーは自分の服を身につけ、ベッドから降りた。
が、すぐに戻ると、の服へと手を伸ばし、胸元のジッパーを上げる。
その行動にキョトンとしているを見て、グリムジョーは照れ臭そうに視線を反らした。

「…そんな格好、他の奴に見せんじゃねえ」
「………ッ」

がドキっとして顔を上げると、グリムジョーは不意に屈み、触れるだけのキスを落とした。
ただセックスをしただけで、こんなにも優しくされるとは思ってもみなかったにとって、グリムジョーの行動一つ一つにドキドキしてしまう。

「……お前はそこにいろ。オレが出る」
「う、うん…」

グリムジョーの言葉に素直に頷くと、はベッドの上に座り、ドアの方へ歩いていくグリムジョーを見ていた。
いったい誰が来たんだろう、と思いながら、視線を送る。すると、開いたドアの隙間から「はいるか」という、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あぁ?アイツに何の用だァ?ウルキオラ」

少し不機嫌そうなグリムジョーの声に、ケンカになっちゃ大変だ、とは慌ててベッドから飛び降りた。その際、少し体が痛み、思わず顔を顰める。
初めての行為をした痛みは、やはり少し残っているらしい。それでも急いでドアの方へ行くと、グリムジョーが何しに来た、というような顔で睨んだ。

「あ、あの…聞こえちゃって。私に何の用ですか?」

廊下には想像通りの顔があり、は訝しげに首を傾げた。グリムジョーは面白くもないといった顔でそっぽを向いている。
そんな事も気にしないといった顔で、ウルキオラは無表情のまま、を見た。

「女、オレと一緒に来い」
「え…?」
「…テメー、ウルキオラ!どういう意味だ!」

ウルキオラの言葉にグリムジョーがカッとなる。それでも表情を崩さないまま、ウルキオラは言葉を続けた。

「藍染さまの命令だ。少しこの女を借りるぞ」
「あぁ?こいつをどーする気だよ!」
「………」

グリムジョーが食って掛かると、ウルキオラは静かな声で「オレと一緒に黒崎の下へ行ってもらう」と一言、告げた。
それにはもギョっとする。

「私が…黒崎のところへ…?」
「そうだ」
「ふざけんじゃねぇ!何でがあんな死神のとこへ行く必要がある!」
「それは藍染さまの考えだ。いいからオレと一緒に来い」
「おい、ちょっと待てウルキオラ―――」

の手を掴んだウルキオラに対し、グリムジョーがキレた。思い切りウルキオラの胸倉を掴み、壁へと押し付ける。
それを見たが慌ててグリムジョーの腕にしがみ付いた。

「やめて!ケンカしないで…。私ちょっと行って来るから……」
「……あぁ…っ?」
「藍染さまの命令なら仕方ないでしょ?私なら大丈夫だから…」
「………チッ」

の説得に、グリムジョーはウルキオラの胸倉を掴んだ手を離した。そして未だ無表情のウルキオラを睨み、

「コイツを連れて行くなら、お前がきちんと護れ。怪我なんかさせたり、奴らに奪われでもしやがったらオレがテメーを殺す」
「……………」

鋭い目で睨みつけるグリムジョーを、ウルキオラは無言のまま見つめた。
が、軽く息を吐くと、「分かった」とだけ言ってへと視線を向ける。

「…行くぞ」
「あ、はい。――じゃあ、ちょっと行って来るね…グリムジョーは大人しく部屋で――」

そう言いかけた時、腕を引き寄せられ、気づけばグリムジョーの腕の中で唇を奪われていた。
でもそれは一瞬の事で、熱い唇はすぐに離れていく。

「グ、グリム…ジョー!」

ウルキオラの前――といっても、ウルキオラは二人に背を向け廊下をサッサと歩いて行く――でキスをされ、は真っ赤になった。
そんなを心配そうに見つめながら、グリムジョーはそっとの頭を撫でる。

「いいか…もし危険な命令を受けたら無視して逃げて来い…オレがずっと探査神経ペスキスを全開にしててやる。すぐにオレに霊圧を飛ばせ」
「…で、でも…」
「デモもクソもねぇ。いいか?約束しろ……危険だと思えば、すぐにオレを呼べ、分かったな」
「……う、うん…」

グリムジョーの迫力に、は渋々頷いた。グリムジョーはを軽く抱きしめると、耳にも軽くキスをする。



「……お前はもうオレのモンだ…。ちゃんと言った事、守れよ」


「グリムジョー…」


「―――オレは……お前以外に大切なモンなんて何もねえからな…」




耳元で囁かれたグリムジョーの想いに、は泣きそうになるのを堪えて、何度も頷いた。

「じゃ…行って来ます」

名残惜しげに離れると、は急いでウルキオラを追いかけていく。その後姿を見送りながら、グリムジョーは思い切り壁を殴った。



手に入れたと思えば、すぐに離れていく―――それが、こんなにも苦しいなんて。




「クソ……胸がいてぇ……」




軋むのは心か、それとも―――







 (捨て切れなかった、それは感情)









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無事に二人がくっつきました(半ば強引)(え)
番外編か何かでグリムジョーの心情なども描きたいなぁとか思ってますが、とりあえず…
これから、また一波乱ありそうです…うふ。
最近この作品に励みになるコメントが多く寄せられて、管理人はホントに感謝感激です(*TェT*)
ブリーチは私の大好きな漫画ですので余計に嬉しいですーありがとう御座います<(_ _)>



■グリムジョーが素敵すぎて妄想が止まりません(笑)HANAZO様の夢はすべて大好きです!(高校生)
(素敵だなんて、ありがとう御座います!私の書く夢が全て大好きだなんて、もったいないお言葉、大感激ですよ〜(*TェT*)

■HANAZO様の描くグリムジョーは最高です!グリムジョーの言葉1つ1つにキュンキュンしてますww(高校生)
(ひゃー;私の描くグリムジョーでキュンキュンしてもらえて嬉しいです!これからも頑張りますね!)

■このサイト様のお陰でグリムジョー熱再発しました!愛してますこっそり応援してますヽ(*ゝω・)ノ。+゚ファーィト。+゚(大学生)
(ヲヲ★グリムジョー熱が再発なんて嬉しいですね!応援もありがとう御座いますー(*ノωノ)これからも頑張ります!)

■ここのサイトが大好きでたまりません!(高校生)
(当サイトなんかを大好きと言って頂けて大感激です(TДT)ノ






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