波乱の
始まり
"オレ、兄貴のために一肌脱ごう思て、英徳に転校してきたんや"
私の知らないところで、思いも寄らない事が起こってる気がした―――――――――
あれから一週間。
結城大和は幾度となく、私の前に現れては、馴れ馴れしく話しかけてきた。
少しづつ慣れてきた英徳での学校生活も、彼のせいで更に私を孤立させている。
「なぁーちゃん。何で無視すんの?」
「………」
「一緒にランチしよー誘ってんのに冷たいなぁ…」
そう言いながら今日も後ろからついて来る結城大和に、私は思い切り溜息をついた。
「あの…大和さん」
「大和でええって」
「…ついて来ないで下さい」
「えっ何で何で?」
私が足を止めると、大和は慌てたように私の顔を覗き込んだ。
いきなり綺麗な顔が目の前に現れ、ギョっとしたが、ここで怯んだら負けてしまう。
「…あ、あなたといると目立つの。一人にしておいて」
「ええやん!それに一人でランチすんのも寂しいやろ?」
「寂しくなんか…」
「そうかー?女の嫉妬、モロに受けてるやん。ツライんちゃう?」
「平気だってば…っ。って言うか半分はあなたのせいなんだから放っておいて―――――」
そこまで言って言葉が途切れたのは、周りから突き刺さる冷たい視線。
「あらさん。またその方と一緒なのね」
「…浅井さん…」
廊下の向こうから歩いてくるクラスメートに、私は内心溜息をついた。
彼女はあの日以来、何かっていうと絡んでくる。
「彼のこと聞いたわ。あなたも上手くやったものね。結城グループのご子息を手玉に取るなんて」
「…そ、そんなんじゃ…彼は――――――――」
「倒産しても…お金持ちの方をたぶらかせば、また贅沢できると思ってるのかしら?」
「…ちょっと…ッ」
あまりに頭にきて言い返そうとした。
が、その時、大和が私の前に出て、浅井さんの方へと歩いていく。
「へぇ。手玉っておもろいこと言うなぁ?オレがに転がされてる言いたいんか?」
「な、何よ、あなた―――――」
「東京一セレブが集まる英徳学園っちゅうから、お上品なお嬢様ばっかや思てたけど、あんたみたいな下品な女もおるんや」
「何ですって?!」
「そういうの…僻み根性丸出し言うねんで?」
「な…何て失礼なの!あなたみたいな跡取りじゃ結城グループも終りね!」
「跡取り?はて…何の事やろ。オレは気ままな二男やし、よう分からん」
「…覚えてらっしゃい!そんな子に肩入れしてたら道明寺さんにも目をつけられるんだからっ」
浅井さんはそう怒鳴ると、プリプリしながら行ってしまった。
そんな彼女を見て大和は呑気にケラケラ笑っている。
「何や、あの女。性格わるう〜」
「…大和さん…」
「も大変やなぁ?あんな女とクラスが同じなんて」
「…もう…あんなこと言って…。人気下がるよ?女子から」
彼は英徳に転校してきて二日目で、すでに女子から騒がれる存在になっている。
まあルックスも抜群だし、性格も気さくだからか、今ではかなり人気者のようだ。
「別にそんなん、どうでもええし。オレのファンは関西にぎょうさんおるから」
「………」
(自分で言ってるよ…。どうしてボンボンという生き物は、道明寺といい、こうも自信過剰なわけ?)
「なあ?それよりランチ――――――――」
「行きません。私は一人がいいの。ついてこないで」
そう言いながら歩いて行くと、大和は慌てて追いかけてきた。
「ちょっと…隣歩かないで――――――――」
「んなこと言うて、ちゃん、時々男と一緒にランチしてるんやろ?」
「…え?」
隣に並んだ大和はそう言いながら軽く肩を竦めた。
「同じクラスの女が教えてくれてん。ちゃんは隣のクラスの花沢いう奴と一緒におるとこ何度か見たってな」
「…そ、それは別に…」
花沢類の話を持ち出され、ドキっとした。
確かに彼とは、あれ以来、あの非常階段で顔を合わすようになった。
でもそれは道明寺のいるカフェテリアに行きたくないという理由で、私があそこに行くと花沢類がいるだけ。
そう、偶然に会うだけで、約束をしてるわけじゃない。
ただ…彼と話してると、何故かホっとするから。
と言って、それほど会話を交わすわけじゃないけれど…。
「と、とにかく!あなたのお兄さんとは会うつもりも、お見合いする気もないですから。その前に私の今の立場で結城の社長がOKするはず―――――――」
「んじゃオレならどう?」
「――――――――は?」
いきなりの言葉に驚いて足を止めると、大和はニカッと笑った。
「オレなら、只今、放置プレイ真っ最中の二男やし、ちゃんの立場がどうとか関係ないで?」
「な…何言ってるの…?会ったばかりでそんな事出来るわけないでしょ?」
「何でぇ?ええやん。オレ、ちゃんとは気が合う思うねんけど――――――――」
「合いません!それじゃ!」
「あ!ちゃん!」
そこで一気にダッシュをかまし、階段を駆け上がった。
あの人と押し問答してたら休み時間が終わってしまう。
「はあ…まいたかな…?」
後ろを見て、つい来てないことを確認すると、ホっと息をついてドアを開けた。
ここのとこ、休み時間には、つい足が非常階段に向いてしまう。
「あれ…いない」
外に出てみて少しだけガッカリした。
「何だ…今日は…カフェテリアに行ったのかな…」
溜息をついて、その場に座り込むと、花沢類がいた時のためにと買ってきたジュースを、そこに置く。
そして一応いなかっ時、暇つぶしのためにと持ってきた小説を開いた。
そこには短く切った、一本の薔薇が挟まっている。
子供の頃に、あの男の子にもらったもので、何となく家に帰ってからも捨てられず、ずっと栞代わりに使っていたものだ。
枯れてはいても、まだ色鮮やかで、甘い香りが漂ってきそうだ。
「ホント…誰だったんだろ…」
あの時の光景は鮮明に思い出せるのに、あの男の子の顔だけは靄がかかったように出てこない。
どんな顔だったかも、どんな髪型だったかも、全く思い出せない。
この前、花沢類と話してた時、彼だ、と確信したのに本人は知らないというし、
最近話すようになって、もう一度だけ尋ねた時も、暫し考え込んだあと、
「ごめん…ホント思い出せない」
と、困ったような顔で言われた。
「もしかして…その男の子のこと…好きだったの?」
あまりに私が気にするからか、花沢類は苦笑しながら尋ねてきた。
別に隠してても仕方がないから、「初恋…だったのかも」と話すと、彼は少しの間、考え込んでいたっけ。
「でも…あの日は色々なお客さんが来てたって言うし…もしかしたら全く知らない人だったのかもね…」
そう言って誤魔化しておいた。
私は…何故か、この間まで、あの男の子は道明寺家の子、イコール道明寺司だって思い込んでた。
でもよく考えれば庭なんて誰でも行けるし、別にその家の子だけってわけじゃない。
それに会ってみて、あんな男があの時の子じゃないとハッキリ思った。
逆に…花沢類を見て、絶対に彼だ、と変な確信を持っちゃったんだけど、本人があの調子じゃハッキリさせるのは無理な話だ。
「もう…いいかな…」
初恋は綺麗なままで残した方がいいのかもしれない。
今更、あの時の子が誰だったのかなんて知っても、幻滅するだけかもしれないし…
強い日差しに目を細めながら、空を見上げると真っ白な雲がゆっくりと流れていた。
(今日みたいなポカポカ陽気には、絶対いると思ったんだけどな…)
花沢類は殆ど授業を受けないみたいで、大抵はここに一人でいるか、あとはF4の皆と中庭にいる事が多いのだ。
そして私は、週に何度か花沢類と一緒に過ごす事が心の支えになっていた。
と言って、道明寺の愚痴を聞いてもらってるといった方が早いだろう。
道明寺とは、なるべく顔を合わせないようにしている。
お手伝いさんには悪いけど、食事の時間も微妙にズラしてもらって、学校の送り迎えも断って徒歩で通っていた。
ただ時々、間が悪いのか、朝帰りのアイツと顔を合わせてしまうことがある。
今朝もそうだった。
学校に行こうと、エントランスホールに下りた時、アイツが帰宅。
向こうは一瞬ギョっとした顔をしたけど、私は話もしたくなくて無視して出て行こうとした。
それが気に入らなかったのか、アイツはムっとしたように振り返ると――――――――
「…お帰りくらい言えねぇのか」
「…お酒と女物の香水プンプンさせて朝帰りするような人に、何でそんなこと言わないといけないの?」
「…う…っうるせぇ!オレだって色々と付き合いがあるんだよっ」
「あっそう。そんなの私には関係ないからいいけど」
そう言って出て行こうとした瞬間、いきなり腕をつかまれて驚いた。
「な、何よ、離して――――――」
「何で毎朝先に行くんだよ」
「そんなの決まってるじゃない。あなたと顔を合わせたくないの」
「あぁ?!どういう意味だよっ」
「どうって、そのままの意味だけど。離して、遅刻しちゃう」
そう言って腕を振り払うと、お手伝いさんたちはハラハラしたような顔で私たちを見ている。
よほど、このバカボンが怖いらしい。
「ケッ!可愛くねー女…昔の方がまだマシだぜ」
「…え?」
「何でもねぇよ!とっとと行け、ブス!」
「………っ!(ムカァッ)」
朝からムカつく一言を言われ、私はそのままお屋敷を飛び出した。
あまりにムカついて、「送ります」という運転手さんも振り切って、学校まで走ってきたのだ。
「思い出したら、また腹が立ってきた…」
あの憎たらしい顔を思い出して思い切り溜息をつく。
こういう時、何となく花沢類と話したくなるのだ。
何でだろう、彼の独特の雰囲気のせいかな…
彼の周りは、どんな時でも時間がゆっくり流れてる気がする。
「あ…もしかして…花沢類も夕べ司と飲んでたとか…」
今朝の事を思い出し、ふとそんな事を考える。
F4は大抵、一緒に夜遊びをしてるらしいし、そこに花沢類が行ってもおかしくはない。
「って…アイツら、一体どんな遊びしてるのよ…」
まあ、今朝もあれだけお酒と香水の匂いをプンプンさせて帰ってきたんだし、何となく想像はつく。
(どっかのバーでお酒を飲んで、女の子を引っ掛けて、朝まで…)
「う…」
その時、花沢類と見知らぬ女の子がベッドの中で抱き合ってる映像が浮かび、慌てて頭を振った。
「ま、まさか…ね。彼、そんな雰囲気じゃないもの…。どっちかって言うと獣は司のバカボンよ、バカボンッ!」
勝手に想像して赤くなってる自分に、少しだけ呆れつつ、ふと腕時計を見た。
休み時間も、もうすぐ終わる。
「今日は…来ない、か…」
溜息交じりで呟くと、私はゆっくりと立ち上がって、その場を後にした。
「ふぁぁぁ…」
特大の欠伸をかます司に、総二郎とあきらは僅かに目を細めた。
「類みたいだな、司…」
「そんなに眠たいんだったら家で寝てればいいだろ?何でオレ達まで迎えに来るかな…」
「天気いいから眠れなかったんだよっ」
「そんな理由かよ!ったく…いつもは遊んだ次の日は学校、来ねぇクセして…」
総二郎はブツブツ言いながらコーヒーを口に運び、小さく欠伸を噛み殺した。
「皆、眠そうだね。夕べは遅かったの?」
珍しくスッキリした顔でニコニコしている花沢類に、皆は思い切り目を細めた。
「全く…類が昨日、すっぽかすから余った女、オレたちで相手したんだぞ〜?」
「総二郎はいつもの事でしょ」
「アホ!あの女はお前が目当てだったんだよ!お前が来ないせいで散々カクテル、ヤケ酒しやがって…最後は泥酔!家まで送るの大変だったんだからな…」
「そうそう。他の女もつられて飲みまくるし…仕方ないから司にも一人運んでもらったんだぞ」
「おかげで香水くせーの何の…。即効で捨てたよ、あのジャケット…」
「ふーん…皆、大変だったんだね」
「「「お前が言うな!!」」」
類の一言に、3人が声を揃える。
そこで司はテーブルに突っ伏すと、「おかげで、あの女にまで朝から嫌味言われたんだからな…」と類を睨んだ。
「あの女…ああ、のこと?」
「おま…呼び捨てかよ…」
「司だってそうじゃん。で、何て言われたの?」
類は楽しそうに笑うと、少しだけ身を乗り出した。
それには司も面白くなさそうに顔を背け、「言いたくねぇ」とだけ答える。
「またケンカしたのかよ、司〜」
「うるせぇっ。オレは悪くねぇんだよっ」
「いーや、大抵、悪いのは司の方だろ」
「言えてる」
「お前らなぁ…っ」
総二郎とあきらの言葉に、司の額がピクピク動いている。
その時、ふと思い出したように、あきらが顔を上げた。
「そういや…今朝、クラスの女に聞いたんだけどさ。最近、転校してきた奴がちゃんを追いかけまわしてるらしいぜ?」
「あ?転校生…?」
「マジかよ」
「……へぇ。どんな人?」
司と総二郎が顔を上げると、類も訝しげな顔で首を傾げた。
「聞いた感じだと…めちゃくちゃカッコいいらしい。で、関西出身で性格も気さくだから、今、学校内の女子から人気急上昇中だとか…」
「関西ぃ〜?」
「チッ、面白くねぇな…。学園のアイドルは俺たちF4だけで十分だろ」
総二郎は椅子に寄りかかると、「ちょっくら、イジメとく?」と司を見た。
「…あ?放っとけよ。そんなお笑い芸人」
「あのな…関西イコールお笑い芸人じゃねぇだろ!しかも、どんな奴か知らないのに」
「そうだよ。ちゃんに、ちょっかいかけてるんだぜ?いいのかよ」
「い、いいも悪いもねえっ。オレには関係ないだろがっ」
かすかに顔を赤くしながら、司はドンっとテーブルを叩いた。
「へぇ、そうなんだ。オレは司も何だかんだ言って、のこと気に入ってるのかと思ってた」
「あぁ?何言ってんだ、類」
「あーオレも!」
「あきら…何だよ、お前まで」
その言葉に司はジロっと二人を睨んだ。
「だってさぁー文句言いながらも、何かとちゃんの気を引こうと話しかけてるじゃん」
「まあ、司の場合、心と裏腹な言動で、どんどん嫌われてるけどなぁー!あはは!」
「何だと?コラ!」(額ピクピク)
あきらと総二郎の言葉に、司の顔がだんだん赤くなっていくのを見て、類は溜息をついた。
「総二郎の言うとおりだよ。に好かれたいなら、司が優しくすればいいのに」
「う、うるせぇ!何でオレがあの女に好かれなくちゃいけねーんだっっ」
しまいには耳まで赤くして、椅子から立ち上がる司に、類は半目になって溜息をついた。
「…、言ってたよ?」
「あ?何をだよ」
「…司は…初恋の人だって」
「――――――――ッ?!」
「「えぇ?!!」
類の一言に司は一瞬で首まで真っ赤になり、総二郎とあきらは眉を吊り上げて椅子から立ち上がった。
「嘘だろ?類!あのちゃんの初恋が…司だぁー?!」
「って、それいつの話だ?あ!この前話してた奴か?子供の頃、司の誕生日パーティに来たっていう…」
「さあ、知らない。それに…正確には…"初恋の人なんかじゃない"って言ってたし…」
「はあ?どっちだよっ」
「何で総二郎が怒るんだよ」
一人熱くなっている総二郎に、類は顔を顰めた。
ちなみに司は未だ赤いハニワのような顔で固まって突っ立っている。
「だから…初恋の人だったのに、司が初対面からあんな態度だったし、ガッカリしてそう言ったんじゃないの」
「「あー」」
類の説明に、総二郎、あきら共に深く頷いた。
が、そこでやっと司が我に返り、「マジかよ…」と呟いている。
「あ、でもよー。ちゃん、類に、前に会わなかったかって聞いてたよな?あれ、どういう意味?」
「さあ。オレは覚えてないし」
「あ、でもそう言えばちゃん、薔薇の花がどうとか言ってなかった?前にもくれたとか何とか…」
「それも覚えてない」
総二郎とあきらの言葉に、類は相変わらずトボケた顔で首を振った。
が、それを聞いていた司が突然、ガンッと椅子を蹴り倒したのを見て、3人はギョっと顔を上げた。
「あんの、バカ女…!!」
「は?何、怒ってんの?司…」
「うるせぇ!!何、考えてんだ、あの女っ!!」
「あ、おい、司――――――!」
いきなりカフェテリアを飛び出していく司に、その場にいた3人は唖然とそれを見送った。
「やーっと出てきた♪」
「…大和…」
非常階段から中に入ると、廊下の壁に、結城大和が寄りかかっていた。
「な、何して…るの?」
「何してって、待ってたんやん」
大和はそう言いながら、こっちへ歩いてくると、非常階段の方に目を向けた。
「今日は来なかったん?花沢…類やったっけ」
「…か、関係ないでしょ?それに私は別に彼を待ってたわけじゃ――――――――」
「あれ…これ何?」
「あ、ちょっと…」
持っていた本から僅かに出ていた薔薇を見て、大和はそれを引き抜いた。
「薔薇の…押し花?」
「返してよ」
取り返そうと思って手を伸ばすも、私より10センチ以上は高い大和は、ひょいっと腕を上に上げた。
「ちょっとっ」
「どうしたん?これ」
「関係ないじゃない…返してよっ」
「あームキになって怪しいなあ…。これ、何か思い出でもあるん?」
「だから関係ないってば…っ」
何度も私の手を交わす大和にイライラして睨みつけると、彼は悲しそうな顔で眉を下げた。
「そない怒らんでも…。はい、ちゃんと返すよ」
そう言って私の手に薔薇を乗せてくれた。
それをすぐに本に挟むと、大和は小さく息をついている。
「それ…誰かからもらったんか?」
「え…?」
「何や大事そうにしてるし…」
「これは…」
「ん?」
軽く俯くと、大和は身を屈めて顔を覗き込んできた。
「ちょ、近い」
いきなりのアップにビックリして後ずさると、大和は楽しそうに笑って近づいてくる。
「可愛いなあ、ちゃんは。こんな事くらいで真っ赤になって」
「な…」
「で、その薔薇、誰にもらったん?」
「ちょ、ちょっと…近寄らないでよ」
どんどん押しやられて、背中に壁が当たったのが分かった。
すると大和は壁に両手をついて、更に顔を近づけてくる。
恐る恐る視線を上げると、大和の綺麗な顔がすぐ近くにあってドキっとした。
長い睫…ホント、この人、カッコいい…
まあ…F4の皆もそれぞれ美形だし、特に花沢類も綺麗な顔立ちをしてるけど…
大和の切れ長の目で見つめられると、何だか身動きがとれない。
「どうしたん?顔、真っ赤になってくけど」
「ちょ、ちょっとどいてよ…」
「ん〜どうしょうかな〜。ちゃんが薔薇のこと教えてくれるなら…どけてあげてもええけど♪」
「……(こ、この人も屈折少年かっ)」
内心、突っ込みつつ、この密着した状態に、顔がどんどん熱くなっていく。
かすかに漂う、メンズの香水の香りが、妙に胸をドキドキさせた。
「だ、だからこれは…」
「何?」
「昔…もらったもので…捨てられないから栞に――――――――」
「……誰にもらったん?」
そう言いながら、わざと顔を近づけてくる大和に、慌てて目を伏せた。
さっき以上に香水の香りが鼻をついて、顔の熱が上がっていく。
「し、知らない子…。道明寺家で昔やったパーティの時に…もらったの」
「…道明寺の…パーティで?」
「…そう。アイツ…司の…誕生日パーティだったみたい。私も小さかったから、よく覚えてないけど…」
「へぇ…なるほど、ね。やっぱオレとちゃんって、縁があるみたいやな」
「……は?」
その言葉に驚いて顔を上げると、大和はニヤリと笑った。
「それ…その薔薇、ちゃんにあげたの…オレの兄貴や」
「――――――――――ッ?!」
その言葉に驚いて目が丸くなった。
そんな私を見て大和は、「そない驚かんでも」とクスクス笑っている。
「な、何で…あなたのお兄さんだって…分かるのよ…」
「ああ…最初は忘れとったけど…前に言うたやろ?兄貴も誰かの誕生日パーティでちゃんに一目惚れしたって」
「…う、うん…聞いた…」
「その時のこと、オレが大きくなってから兄貴に聞いた時…兄貴、言うててん。その時…その子に薔薇の花をあげたって」
「な……っ」
「今、その薔薇見て、ちゃんの話を聞いたら…どっかで聞いたことあるなあ思てん。間違いないで、それあげたんは兄貴やな」
「嘘…」
「オレからしたらガキのクセにマセてんなあ思て聞いててんけど…ちゃんが今でも大事にその薔薇持っててくれてるんなら…兄貴も凄いやん」
「……?」
「今でも大事そうにしてるって事は…ちゃんも、その時のガキを忘れてないって事になるやろ?」
大和はそう言って、意味深な笑みを浮かべた。
「という事は…兄貴の片思いも無駄やなかったっちゅう話や。もしかして…ちゃんも兄貴が初恋やったりするんちゃう?」
「そ、それは――――――――」
いきなり核心をつかれ、言葉を失った。
でも、ホントに彼のお兄さんが、あの時の男の子なら――――――――
「――――――――おいっ!!そこで何してんだ!!」
「「――――――――ッ?」」
その時、凄い怒鳴り声が、静かな廊下に響き渡った。
「ど…道明寺っ?」
その声の方に顔を向けると、道明寺司が怖い顔で歩いてくるのが見えて、ギョっとした。
「てめぇ…誰だ?に何してる…」
「ああ…道明寺クンやん。オレ、結城大和。君のクラスの隣のクラスに転校してきたばかりやねん。まあ道明寺クンは教室行くこと殆どないから知らんと思うけど」
「あぁ?!何だ、てめぇ…」
道明寺の目つきが普段と違う気がして、思わず大和から離れようとした。
「変な言葉しゃべりやがって…てめぇ、ナニジンだ!」
「はい…?」
「……ぷっ」
いきなりのボケっぷりに(バカなだけとも言うけど)思わず噴出してしまった。
大和も大和で一瞬、目が点になってたけど、すぐに噴出すと、
「ぶはは!ほんま噂通りおもろいやっちゃなぁー♪オレとええコンビ組めそうやん。もち道明寺クンがボケでオレが突っ込みっちゅう事で」
「ああっ?何言ってんだ、てめぇ!慣れ慣れしいんだよっ!」
「人懐っこい言うてぇなー」
「…うるせぇ…ふざけてねぇでを離せ…」
「……っ?」
いつもより目つきが怖い道明寺に、ドキっとして大和を見上げると、彼はゆっくりと私から離れた。
「へぇ…普段、あんなに仲が悪いのに…何でそんな怒ってはるの?オレとちゃんは友達やねんけど」
「ひゃっ」
大和はそう言うと、いきなり私の腕を引き寄せた。
「てめぇ、ぶっ飛ばされてぇのかよっ!!」
「……道明寺…?」
普段の数倍、迫力のある道明寺に驚いていると、大和が苦笑しながら私の腕を離した。
その瞬間、今度は道明寺が凄い勢いで私の腕を引っ張り、自分の方へ引き寄せる。
「…痛っ」
「あららーアカンで、道明寺クン。女の子は優しく扱わないと―――――――」
「うるせえ!てめえ、二度とコイツに近づくな!分かったなっ!!」
「ちょ…道明寺―――――――」
「いいから来い!!」
そのまま私は腕を引かれて、非常階段に出ると、道明寺は凄い速さで歩いていく。
気になって後ろを振り返ると、大和はいつもの笑顔で手を振っているのが見えた。
道明寺にあれだけ怒鳴られたのに、ちっともビビってる様子がない彼に、ちょっとだけホっとする。
けど…人の心配の前に、今の自分の状況の方が心配になってきた。
何故か分からないけど、いつも以上にキレてる道明寺に何をされるか分からない。
「ちょ、ちょっと…離してよっ!痛いってば…!」
「…………」
すでに授業も始まってる、この時間の中庭は人っこ一人いなくて、やけに静かだ。
「何なの?もう…」
やっと手を解放され、手首をさすっていると、道明寺が怖い顔のまま振り向き、「お前、バカか!あんな男に隙見せやがってっ」と、いきなり怒鳴られた。
「す、隙なんて見せてないわよっ」
「見せてるから、あんな状態になってんだろっ?」
「う…っ」
そう言われて、さっきの状況を思い出した。
体も密着した状態で、逃げ場もなく、至近距離に大和の顔があったのを思い出し、カッと顔が熱くなる。
「で、でも別にあれは道明寺が思ってるような事じゃなくて――――――――」
「じゃあ何だよっ?お前、あのナニジンか分かんねぇような男が好きなのか?」
「ナニジンって…同じ日本人でしょ…?関西の人ってだけで――――――――」
「ほらみろ。関西人じゃねぇか!バカだな、お前」
「…………」
何故かそこで得意げな顔をする道明寺に、目が細くなった。(あんたにだけは言われたくないっ)
「どうでもいいけど…何でそんなに怒られなくちゃいけないの?」
「な、何がだよっ」
「そんな真っ赤になって怒るほど、私、悪い事した?」
「オ、オレはお前が困ってると思って――――――――」
「そんなんじゃ…大和は友達っていうか…知り合いの弟っていうか…でも大人になってから会ってないから知り合いとか言わないけど…」
「はあ?」
「だ、だから別に私は困ってたわけじゃなくて驚いてたって言うか…」
自分で何を言ってるのか分からなくなっていると、道明寺がイライラしたように、「あーもう!訳分からねぇっ」と髪をかきむしった。
それを見て少し驚いたけど、何でこの男がイライラしてるのか、全く分からない。
「とにかくっ!よく知りもしない男と二人きりで会うな!分かったなっ」
「な…何よそれ!言ったでしょ?私はあなたの所有物じゃないのっ。それに大和は知らない人じゃないもの」
「…んだとぅ?」
「あなたより大和の方が優しいし面白い――――――――」
「うるせぇ!やまと、やまと言うな!!」
「……っ」
またしても怒鳴られてビクっとなった。
「オレの事は苗字で呼んで…アイツは名前かよ…」
「…え?」
「オレは…お前の親戚だぞ?一緒に住んでるんだぞ?なのに何で苗字で呼んでんだ?」
「何…言ってんの?今そんなこと関係ないじゃない…」
「関係あんだよっ!いいか、今度から"司"だ。次、苗字で呼んだらぶっ飛ばすからなっ!」
「…はあ?」
偉そうに何を言うのかと思えば…自分のこと、名前で呼べって…?
頭おかしいんじゃないの、このバカボンはっ
「べ、別に呼び方なんかどうでもいいじゃない」
「よくねぇ!アイツだけ名前で呼んだら、オレの方が下扱いみたいじゃねえかっ」
「…何それ…訳分からない」
「こっちだって分かんねぇよっ!でも―――――――」
そこで言葉を切ると、道明寺は僅かに俯いて視線を反らした。
「頭くんだよ…」
「…え?」
「お前が…他の男とヘラヘラ話してんの見てると…」
「………ッ?」
「ってか、アイツ誰だ?アイツも転校生なんだろ?何でお前、仲良くなってんだよっ」
ムっとしたように睨んでくる道明寺の顔が妙に赤くて、私は頭の中にクエスチョンマークがいっぱい並んだ。
????…何なの、コイツ…何でいちいち怒鳴ってくるわけ?
だいたい私がヘラヘラしてるのがムカつくって、何?!こっちがムカつくわよっ
「大和は…あなただって知り合いなんじゃないの?」
「はあ?何でオレがあんな奴のこと知ってんだよ?」
「だって彼のお兄さんも道明――――――――つ、司の誕生日パーティに招待された事あるみたいだし…」
一瞬、苗字で呼びそうになると、怖い目で睨まれ、慌てて言いなおし説明した。(額に怒りマーク出さなくても…)
「は?オレの誕生日パーティ…?!アイツが?」
「ええ。大和は結城グループの社長の息子よ?知ってるでしょ?」
「結城…グループ…。結城って、あの結城か…?関西の…」
「そうそう、その結城グループ」
「アイツが…結城社長の息子…」
司は何かを考えるように黙り込むと、軽く舌打ちをした。
「何でそんな奴が英徳に来るんだ?」
「そんなの知らない。東京の高校に行きたかったから親に頼んだって言ってたけど…」
「ケッ。オレに近づいて会社ぐるみの付き合いでもしようって魂胆か…?」
「はあ?そんなわけないじゃない。何であなたは、そんな風にしか考えられない―――――――」
「バカヤロウ!結城グループって言やあ、うちの一番のライバル会社なんだぞっ!そういう奴らがババァに近づけないからってオレに近づいてくる事はよくあるんだよっ」
「……ッ」
いつもとは違う、真剣な顔の司を見て、一瞬息を呑んだ。
普段はバカで偉そうなお坊ちゃまにしか見えないのに、会社の話をする時の、彼の威圧感は凄い。
やっぱり彼は、天下の道明寺財閥の跡取り息子なんだ…
普段とはあまりに違う姿に驚いていると、司はハッとした顔で目を伏せた。
「…悪い…お前には…分からねぇよな…」
「…司…?」
何よ…何で急にそんな顔するの?
それに今、何か、らしくない言葉を聞いたような―――――って…えぇぇっっ?!
い、い、今コイツ私に…"悪い"って言わなかった…?!
今まで一度だって、まともに謝ってきた事なんかないのに―――――――
「な、何だよ、その顔…すげぇブスだぞ」
あまりに驚いて目を丸くしてると、司は訝しげな顔をしつつ、体を屈めた。
いきなり至近距離に司の顔が来て、思わず一歩、後ずさる。
「ブ、ブスで悪かったわね…っ」
「…別にそういう意味じゃ…それより…お前…あのお笑い芸人とはもう関わるな」
「…え?お笑い…芸人…?」
「さっきの奴だよ!結城グループの息子!」
「あ、ああ…。って言うか、何でそんな事、あなたに言われなきゃいけないの?私は――――――――」
「アホ。アイツはお前がオレの親戚だってこと知ってて、わざと近づいてるかもしれねぇだろっ?」
「……っ?」
その言葉にドキっとして顔を上げると、司は真剣な顔で私を見ていた。
「いきなり転校してくんのも、絶対うさんくせぇ。だから近づくな。分かったか?」
「…うん…」
有無も言わせぬ強い口調に、つい頷いていた。
でも…大和のさっきの話…もう少し詳しく聞いてみたい…
お兄さんが…私に薔薇をくれた、あの男の子なのかどうか…知りたい。
「お、おい」
「…え?」
「それよりよ…。おま…お前…」
「…何?」
いきなり、しどろもどろになった司に、思わず眉を寄せた。
何だか顔まで赤いし、視線が落ち着きなく左右に泳いでいる。(何の病気かしら)(!)
「…パーティって言やぁ…お前も…昔…オレの誕生日パーティ…来てたろ…?」
「えっ?」
その話をされ、驚いて顔を上げると、司はさっき以上に視線を泳がせながら、
「そ、その時よ……オレがお前の…初恋っつーか…」
「は…?!何……あぁ!もしかして…花沢類から何か聞いたの…っ?」
道明寺家に引っ越してきた日の夜、花沢類に独り言を聞かれた事を思い出し、一気に顔が赤くなる。
「あ、ああ…。し、知らなかったぜ。お、お前の初恋の相手が…オレだったなんてよ…ッ」
「な―――――――」
…に言ってんの?この人!!
って言うか、司に何て言ったのよ、花沢類っっ!
一気に眩暈がしてクラっときたけど、ここで気を失ってる場合じゃないっ!
この誤解を解かないと、コイツに何を言われるか―――――――
「あ、あのね、司…!そ、それは…私が勘違いしてたと言うか―――――――」
「ま、まあ…オレくらいの男となれば、お前が惚れるのも分かるけどよっ!」
「…は? (何?コイツ、偉そう!)」
「あの夜は…お前もそれなりだったっつーか…。まあ来てた女の中じゃ一番マシだったっつーか…」 (←※当時7歳)
「はあ?何言ってんの…?」
「ま、まあ…こ、この前見た感じだと、あの時から比べたら、今は少しだけ体も成長したようだけどな…」 (←※若干セクハラ)
「え?…って言うか、あの日、私が行ってたって…司は覚えてるの?」 (←※殆どど聞いてない)
「あ!そうだ!それとお前…何か勘違いしてねぇ?」 (←※更に聞いてない)
「だから、その事を今、話そうとしてるんじゃ―――――――」
「いいか?あの夜、お前が――――――――」
「お!みっけ!!」
「司ぁーーー!!」
「うがっ」
その時、校舎の方から、西門さんと美作さん、そして花沢類が歩いてくるのが見えた。
「何だよ、司〜!急に飛び出してったと思えば、ちゃん連れ出して…またイジメてんのかっ?」
「あ?!イジメてねぇよ!!」
「ちゃん、大丈夫?コイツに何か意地悪されなかった?」
「え?あ、はあ…」
「総二郎、人の話を聞け!」
「つーか、さみぃ〜!ガッコふけて、どっか行こうぜ〜っ」
冷たい風が吹き付けると、美作さんは首を窄めてサッサと歩き出した。
その後を司と総二郎もケンカをしながらついていく。
私は学校に戻ろうかと思っていると、不意に花沢類と目が合った。
「風邪、引くよ。行こう」
「え?で、でも授業――」
そう言った途端、チャイムが鳴り響いて、午後の授業が終わった事を告げた。
「もう終わりだよ」
「そうだけど一緒に行けばアイツが…」
言って慌てて首を振ると、遠くから、「!類!サッサと来い!」という司の怒鳴る声が聞こえてきた。
「ほら、呼んでる。行こう」
「あ…」
不意に花沢類に腕を引っ張られ、ドキっとした。
今日は初めて顔を見るから、少しだけホっとしながらも、今朝、司からした女物の香水の事を思い出す。
「あ、あの…今日は…来なかったのね…」
「え?」
「非常階段…」
「ああ…。途中で司たちにつかまってカフェテリアに行ってた」
「あ、そう…だったんだ…」
そう答えながらも、少し気になってるのは、花沢類も夕べ、皆と夜遊びをしてたのかってこと。
聞いてみようか、と思いながらも、何て切り出そうか、あれこれ考えていると、前を歩いていた司がクルリと振り向いた。
「お、おい!そこ何、手ぇつないでんだよ!」
「な、つ、つないでなんかないわよっ」
言い返しながらも慌てて花沢類から離れると、彼はキョトンとした顔で私を見た。
「ああ、ごめんね」
「う、ううん…それより…どこ行くんだろ…」
「多分、よく行ってるラウンジだと思うよ」
「ラウンジ…?って、でも高校生なのに…」
「ああ、そこ司の会社が経営してるとこだから簡単に入れるんだ」
花沢類はそう言うと寒そうに首を窄めた。
やっぱり彼の周りには独特の空気がゆったりと流れてる気がする。
ぐうぅぅ…
「―――――――――ッ」
その時、いきなりお腹が鳴って、顔が赤面した。
花沢類はキョトンとした顔で私を見ていて、思わず笑って誤魔化してみる。
「あ、あの…ランチ食べ損ねて…」
「ああ、そっか。じゃあラウンジ行ったら食事しなよ。そこフードも美味しいから」
「う、うん…」
クスクス笑うと花沢類はポンと頭に手を乗せた。
「何だか…っていつもお腹空かせてるような気がする」
「えっ?そ、そうかな…」
「うん。そんな顔してる」
「…わ、私、そんな食い意地はってる…?」
恥ずかしさを我慢して、思い切って顔を上げると、花沢類はふっと頬を緩ませた。
「と言うより…何となく…寂しそうな顔ってこと」
「…え?」
その言葉にドキっとした。
花沢類の瞳は、いつも澄んでいて、心の中を見透かしてしまえそうなくらい綺麗だ。
「コラ!そこの二人!何、見つめ合ってんだっ!!早く来い!置いてくぞっ」
またしても遠くから司の怒鳴り声が聞こえてきて、思わず溜息をつく。
「司がうるさいから、早く行こうか」
「うん…」
柔らかく微笑む花沢類の存在に、この寒空の下、心の奥が暖まるような気さえしていた。
あれから六本木にある会員制バー・ラウンジにつくと、いきなり支配人と数人のお偉いさんが出迎えてくれて、店の奥にあるビップルームへと案内された。
その広いスペースにはビリヤード台から、バー・カウンターまでがあって、大人な空間を演出している。
「ほらよ…。く、食いなさい」
「あ…ありがと…」
目の前に出された小皿。
その上には、こんもりと料理が乗っていて、思わず口が開く。
だって、それを取り分けてくれたのは、あの高飛車、勘違いバカボンの道明寺司だから(ヒドイ)
司がこんな優しいなんて、明日は関東地方に何十年ぶりかの大雪が降りそうだ。(!)
「凄い…いつもこんなとこで遊んでるの…?」
バーカウンターの方に行った司を見ながら、隣にいる花沢類に尋ねる。
彼は窓の外を眺めながら、「オレは時々かな」とだけ答えた。
「時々…?じゃあ…夕べも?」
「夕べ?何で?」
「今朝…司が朝帰りしたから…皆も一緒だったのかなぁ…なんて」
そう言いながらバーテンにカクテルを頼んでいる司に視線を向ける。
あいつは珍しく、今日は楽しそうだ。
西門さんと美作さんも、さっきからビリヤードで対決しながら遊んでいる。
「ああ。総二郎やあきらとは一緒だったと思うよ。オレは家で寝てた」
「え?じゃあ…夕べは遊んでないんだ…」
「うん。冬はやたら眠いし、夜遊びなんか出来ない」
何だか子供みたいな事を言う花沢類に、つい笑みが零れる。
それと同時に、昨日は家にいたと聞いてホっとするのを感じた。
(って…何で花沢類がいなかったからってホっとしてるの?私…)
あの司を相手にしてるから、間逆なタイプの花沢類に癒されてるだけで、それ以上の感情はないはずだ。
それにやっぱり彼は初恋のあの男の子じゃなかったのに。
そこに司がカクテルを持って戻ってきた。
「ほらよ、、類。飲め」
「あ…ありがと」
「さんきゅ、司」
「お前ら、ビリヤードやんねぇのか?」
「オレはいいよ。は?」
「わ、私も…これ食べてる」
「そっか。んじゃ食べ終わったら来いよ。オレが教えてやる」
司はそれだけ言うと、西門さんたちの方に歩いていった。
それを見送りながら、何となくさっきから感じてた違和感を口にしてみる。
「何か…不気味」
「え?」
「司が…普段と違って、妙に優しいの…。明日、アルマゲドンなんじゃ――――――――」
「ぷ!あははっ。まさか…!」
私の一言に花沢類が、お腹を抱えて笑っている。
そんな姿は珍しい気がして、私まで笑顔になった。
「で、でもホントよ?今日は普段の倍は優しいし…今みたいに料理とってくれたり、カクテル運んでくれたり…おかしいと思わない?」
未だクスクス笑っている花沢類の方に身を乗り出すと、彼が不意に顔を上げた。
至近距離で目が合い、その大きな瞳に吸い込まれそうで見惚れてしまう。
「…きっと…オレのせいかも」
「え…花沢類のせいって?」
「…何でフルネームなわけ…?」
「え、何となく…?」
そう言うと、花沢類は照れ臭そうな何ともいえない顔をして目をそらした。
そんな表情も見た事がなかったから、何となく嬉しい。
「それより…どうして自分のせいなの?」
「ああ…だから…さっき司に…の初恋の話をチラっとしたから」
「……あっ」
それを聞いて思い出した。
さっき司もそんな事を言ってたような気がする。(オイ)
でも、それは勘違いだったという前に、皆が来たから言いそびれてしまった。
「ごめん、言っちゃダメだった…?」
「えっ?あ、いや、と言うか…アイツ何か勘違いしてたみたいだし…」
「勘違い…?」
「あ、それが…私が司だと思ってた男の子…どうやら違ったみたいで…」
「え?」
花沢類は驚いたように私を見た。
その綺麗な顔が僅かに引きつってる。
「あ、ほら…それで一度は花沢類だと思ったんだけど、それも違って…」
「オレ…?」
「うん…前に話したでしょ?子供の頃に…薔薇をとってくれたの、花沢類かと思ったの。最初に会った夜…」
「ああ…。ごめん、オレ、子供の頃の記憶って、抜けてる事多くて」
「い、いいの。それに今日、その男の子が誰かって分かったから」
「え、今日…って…何、誰だったの?」
訝しげな顔をする花沢類に、簡単に大和の話をすると、彼も司と同じような事を言った。
「何か…怪しいな、そいつ」
「え、で、でも…そんな悪い奴じゃ…」
「は人がいいからね。でも…素顔を隠してる人間なんか大勢いる」
「…花沢類でも…そういうこと言うのね」
「そう?オレ、見ためボーっとしてるから、あんま気づかれないけど…皆の中じゃ一番、腹黒いと思うよ?」
「え…?」
言ってニヤリと笑いながら顔を近づけてくる花沢類にギョっとして、後ろへ下がる。
そんな私を見て、彼はまた小さく噴出したが、すぐにビリヤードをしている司に目を向けた。
「でも…その話は司にしない方がいいよ」
「え…何で?だって勘違いしてるし…」
「させておけばいいよ。じゃないと、アイツ、またすぐ怒り出すと思うし…に優しくなるなら勘違いでも何でもさせておけば?」
「……え…」
そう言って黒い笑みを浮かべる花沢類に、少しだけ顔が引きつった。
(でも…何で私の初恋の相手だと聞いた司が私に優しくなるわけ…?逆に迷惑だーとか言って怒りそうなんだけど)
そこが妙に気になって、首を傾げると、花沢類は楽しそうに笑った。
「が考えてる事…あててやろうか」
「え…」
「"何で、の初恋の相手が司だって言ったら、司は私に優しくなったんだろう…"」
「…っ」
「当たり、でしょ」
「…な、何で…」
「分かるよ。、分かりやすいもん」
「な、何よ…単純って言いたいの?」
そう言って唇を尖らせると、花沢類はクスクス笑い出した。
「そうとも言うね」
「ヒドイ…ハッキリ言わなくても…」
「ごめん。でも…そういうとこ、可愛いと思うけど」
「……な、ど、どうしたの…?今日…いつもと少し違う…」
いきなり、可愛いと言われて、顔が赤くなった。
そんな私を見て、彼は苦笑いを零すと、「そう?機嫌がいいからかな」と言ってカクテルを口に運ぶ。
その意味深な言葉にふと顔を上げると、花沢類はニッコリ微笑んだ。
「夕べ…静から電話が来たんだ」
「…え?」
「来週…帰って来るって」
そう言って嬉しそうに微笑む彼に、何故か胸の奥がチクリとした。
「そ、そうなんだ…。良かったね」
「うん。これで…クリスマスは一緒に過ごせるかな」
「あ…そっか…来週は…クリスマスね…」
そう言って笑っても、どこか引きつってるような気がして、私は花沢類から視線を反らした。
「ああ、それより、さっきの話だけど…」
「え…?」
「司のこと。司にはの初恋の相手だって思わせておけばいいんじゃない?」
「…でも…」
「いいじゃん、それで司が優しくなるなら、だって、一緒に住みやすいだろ」
「…そうだけど…でも何で司が優しくなるの?どっちかと言えば怒りそうなんだけど」
さっき思った疑問を口にすると、花沢類が怪しく含み笑いを零した。
「ああ、それは…やっぱ司ものこと、意識してるからじゃない?」
「…は?」
あまりに現実味のない言葉に、一瞬、目が点になる。
でも花沢類はチラっと司を見て、「オレには…最初からそう見えてたけど」と言った。
「…う、嘘…。だってアイツは最初から私にヒドイ事――――――」
「司は素直じゃないからね。言ったろ?あれで悪気はないんだ。アイツが本気で怒ったら手がつけられないからさ。に対する態度はまだ序の口だよ」
花沢類の言葉に、何だか怖い物を感じ、思い切り息を吐き出す。
アイツが…私を意識してる…?ありえないってば…っ
だって初対面であれだし、顔を合わせればヒドイこと言われて、偉そうな態度されて…
あれで意識してるなんて言われても、絶対に信じられない…
でも……
「おい、いつまで食ってんだ?早くこっち来いよ。教えてやっから」
この普段の何倍も優しい司はどう説明すればいいんだろう。
「ほら、行って来なよ。司、短気だから、そろそろ怒り出すよ?」
「え、あ…」
花沢類にグイっと背中を押され、私はゆっくりと司の方に歩いていく。
途中、振り向くと、花沢類は笑顔のまま、手を振っていて、最後にとんでもない事を口にした。
「ああ、もしかして、さっきの転校生に怒ったって話も…もしかしたら司のヤキモチかもね」
「――――――――ッ?!」
「おい、!」
そのまま司を見ると、彼は見せた事もないような笑顔で、私に手を振ってきた―――――――――

ああー凄い一気に書きなぐってます。
お話思いついてるとこまで、このまま突き進むしかないですよ(笑)
原作のもどかしさを上手く出していけたらいいなぁ…
やっぱ表現が下手な司には天然鈍感少女がお似合いかも…(* ̄m ̄)(オイ)
そう言えば設定はドラマと同じく今ぐらいって事で♪
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●花男 好きです
(花男子に初コメント、ありがとう御座います!)
●花沢類にどっぷりはまってます!!
(ヲヲー花沢類ですか!司の次に私も大好きです♪ハマって頂けて嬉しいー(´¬`*)〜*