バカ男と
お笑い芸人、
時々王子様@
"司のヤキモチかもね"
――――――――なんて、爽やかな笑顔を浮かべながら言った、花沢類の言葉が頭の中を回ってる。
「ここを指で押さえて…こう…この指は広げて…そう、そんな感じだな」
真剣な顔で私にビリヤードを教えてくれている司は、この前までの乱暴で横暴なバカボンとは思えないほど…優しい。
でも、その理由というのが、自分が"私の初恋の相手"だと勘違いしてるから、だなんて笑うしかない。
死ぬほど単純なのか、それとも、よほど女にモテないのか――――学園での騒がれっぷりを見てれば、それも違うと思うけど――――
突然現れた邪魔な居候(自分で言うのもなんだけど)の初恋の相手、というものが、そんなに嬉しいのか?と首を傾げたくなる。
だいたい、コイツは私の事を迷惑がってたクセに、そんな理由でこんな楽しそうに笑ってるなんてありえない。
そう…コイツが私を意識してるなんて事も、花沢類の勘違いとしか思えないもの。
「…おい!聞いてんのか?」
「え?あ……」
ボーっとしてると司が怖い顔で私を見ている。
慌てて教えられた通りにボールを打つと、狙ったところとは全く逆の方向へ転がっていってしまった。
「おま…ヘタクソ!今、教えただろ?」
「な、何よ…そんなすぐには出来ないわっ」
「ドン臭い女だなっ!これくらい、すぐ覚えろっ」
「な、偉そうに言わないでっ。横からグチグチ言われたら出来ないわよっ」
「何ぃ〜?」
「まあまあまあーケンカしないで」
「こんなとこでもケンカなんて進歩ないなあ、お前ら」
そこで西門さんと美作さんが呆れたように笑った。
って言うか私だってケンカなんかしたくない。(体力使うしイライラするし)
でもコイツが私の怒りのツボをグリグリと刺激してくるんだから仕方がないじゃない。
「うるせぇぞ、総二郎、あきら!――――――――、いいか。よく見てろよ?これは、こう打つと真っ直ぐに行くんだよ」
司は仕切りなおして構えると、綺麗なフォームでボールを打ち落とした。
その姿はやっぱり、コイツもバカボンと言えどカッコいい、と素直に思う。
「どうだ?すげぇーだろ」 (超〜得意げ)
「…はいはい」
「何だよ、てめえ!そのどうでもいいって態度はっ」
いちいち自慢げな顔をする司に、つい素っ気ない態度をしてしまう。
だってやっぱり最初から、いがみ合ってたコイツと、すぐに仲良くなんて出来ないし、いくら花沢類が"司はいい奴だよ"と言っても、
私にはそうは見えない。
「ったく可愛げのねえ女だな、は…」
「あなたに可愛い、とか思われたくありません」
「んだとぅ?」
「はいー!そこケンカしない!」
そこで西門さんが見てられないといった顔で割り込んできた。
「じゃあ次、オレが教えてやるよ」
「え…?西門さんが?」
「司よりは優しいと思うけど?」
そう言ってニッコリ微笑む西門さんは、さすがF4きってのプレイボーイと言われるだけあって、思わずドキっとするほどカッコいい。
「おい、総二郎!お前、を口説く気じゃねえよな?」
「何言ってんだよ。オレはお前にイジメられてるちゃんが不憫で仕方ないだけ♪」
「あぁ?オレがいつ、コイツをイジメたよっ」
「あんなこと言ってるぜ〜?あれだけ怒鳴っておいてよく言うよなぁ?」
「あ、あの―――――――」
そう言いながら西門さんは私の肩を抱いて隣の台に移った。
司は司でいつものようにギャーギャーと文句を言ってたけど、それを宥めてるのは美作さん。
美作さんは、いつも冷静に皆を見てて、あんな風に暴走を止める役割をしてるみたいだ。
それでF4きってのマイペースな花沢類はというと…
「あれ…アイツ、あんなとこで寝ちゃってるよ」
西門さんはそう言って苦笑した。
見れば花沢類は大きな体を丸くしてソファに横になっていて、何だか子供みたいだ。
「アイツ、どこでも寝れるんだよなぁ。ある意味、特技だよ」
「…彼、いつも眠そうですよね」
「そうそう。冬は冬眠中の熊かってくらい、よく寝るし…あ、でも春先も寝てるから類の冬眠は一年中かも」
「子供みたい…」
「あははっそうとも言うな。アイツはオレらん中でも一番、純粋だし赤んぼみたいなトコあっから」
そんな話を聞いてると、つい笑みが零れてしまう。
最初はつかみ所がない人だと思ったけど、今はそんなところも私を癒す要素になってるから不思議だ。
「あれぇ?ちゃん、もしかして……」
「え…?」
不意に西門さんが身を屈めて顔を覗き込んでくるから、ギョっとして一歩後ろへ下がる。
「類のこと、気になってるとか?」
「―――――――えっ?!」
いきなりの突っ込みに一瞬で顔が赤くなる。
そんな私を見て、西門さんは、「げ、マジか?」と顔を引きつらせた。
「ちち、違います、私は―――――――」
「類はダメだよ。やめときなって」
「……え?」
「アイツ、好きな女が――――――――」
「し、知ってますっ」
「え?」
勘違いされそうになり慌ててそう言うと、西門さんは驚いたような顔で私を見た。
「知ってます…。静さん、でしょ?」
「あ、ああ…何だ、そんな事までちゃんに話したの?アイツ…」
「…話したって言うか…何となく…分かっちゃったって言うか…」
そう言いながら、この前、静さんと間違えて抱きしめてきた花沢類を思い出す。
「へえ、そっか。ちゃんも、なかなか鋭いね。まあ、アイツはオレ達にもそんな話はしないけど…
子供の頃から見てるし、すぐ分かるんだよな」
苦笑しながら、そう言うと、西門さんは不意に私を見た。
「と言う事で…」
「え?」
「ガキの頃から静一筋の類なんかやめて……オレとかどう?」
「―――――――は?」
西門さんは意味ありげな事を言って整った顔を近づけてくる。
「あ、あの…私、別に花沢さんの事は何も―――――――」
「オレじゃ不服?」
「ふ、不服って言うか…だって西門さんは付き合ってる人いるんじゃ…」
こんないい男に彼女がいないはずがない、と思って、そう言ってみると、彼は小さく苦笑を漏らした。
「いるよ?不特定多数。でも別に付き合ってるってわけでもないし――――――――」
「な…じゃあ……遊びって事…ですか?」
「割り切った付き合いって言ってよ。相手だってオレが時期家元って肩書きあるから近づいてくるような女ばかりだしさ」
あっけらかんとした顔で、そんな事を言う西門さんに、唖然とした。
さすがF4きってのプレイボーイと名高い男だ。
「あ、あの……」
「ん?」
「私……男と女の事なんて、良く知らないし、割り切った付き合いって言うのが、どんなものか分かりませんけど…」
「うん」
「私は……どうせ付き合うなら相手を幸せにしたいと思うし、自分も幸せになれる恋愛がしたいんです」
「幸せになれる……恋愛?」
「…相手がどんな肩書き持ってようと…普通の人だろうと…私が一緒にいて、そう思える人じゃないと、お付き合いしてても意味がないです」
そう言って顔を上げると、西門さんはキョトンとした顔で私を見ていたが、不意にクスクスと笑い出した。
「へえ・・・さすがお嬢様。可愛いこと言うね」
「バ、バカにしてます?」
「いや…でもまあ…恋愛に夢見るのもいいけど…それだとズルイ男に騙されちゃうかもな」
「…どういう意味ですか?」
「そう言う意味だよ。ちゃんはもっと色々な男と付き合って、男を見る目を養った方がいい」
「男を見る目って……」
「だからオレなんか色々と教えてあげられると思うんだけどなぁ?」
「………………」
そういう事か、と一瞬、目が細くなる。
「結構です。私は――――――」
「ちゃんって、まだ男知らないんだ」
「―――――――――ッ」
いきなり顔を近づけて来る西門さんに、とんでもない事を言われ、顔が赤くなる。
「男と付き合った事ない、とか?」
「あ、あります、それくらい!」
「へえ、じゃあ、そいつと、どこまでいった?キスとか、した?」
「な、何でそんなこと西門さんに言わないといけないんですか?」
「ああ、ないんだ」
「あ、ありますっキスくらい―――――――」
ついムキになって、そう言った瞬間、西門さんが私の腕をグイっと引っ張り、ニヤリと笑った。
「それって、お子ちゃまキスじゃないの?オレがホントのキス、教えてあげよっか♥」
「は?ちょ……っ」
そう言って唇を近づけてくる西門さんにギョっとして離れようとした瞬間、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。
「な、何してんだ、そこ!!」
それと同時に凄い勢いで西門さんが私から離れ、見てみれば司が彼の首根っこを掴んでいた(!)
「何だよ、司〜。いいとこなんだから邪魔すんなっ」
「バカヤロウ!!何がいいとこだ!ちょっと目を離したら、すぐがっつきやがってっ」
「はいはい!分かったよっ!ったく…。あ、この続きは今度しよーね、ちゃん♥」
「…な!し、しませんっ!」
真っ赤になって怒鳴ると、西門さんは楽しそうに笑いながら、バーの方に歩いていってしまった。
それを見てホっとしたが、気づけば怖い顔で睨んでくる司と目が合い、ドキっとする。
「お前なぁ…隙ありすぎだって、さっきも言っただろっ」
「す、隙なんて見せてないわよっ」
「自覚してねぇーだけだろが!ったく…総二郎にかかったら、世間知らずなお前なんか数分で口説かれてるぞ?」
「そ、そんなわけないでしょ?ちゃんと断ったものっ」
頭にきて言い返すと、司は私を見て、眉を寄せた。
「アイツに……何か言われたのか?」
「な、何かって…オレにしろ、とか……色々な男と付き合って見る目を養わないと騙されるよって…」
「はぁ…アイツが騙そうとしてて、よく言うぜ…」
呆れたように溜息をつくと、司は私の頭に手を乗せた。
「あんなぁ…お前は今のままでいいんだから、アイツの口車に乗せられるな」
「の、乗せられてないし!……って…今のままでって…どういう意味よ」
気になって尋ねると、司はプイっと顔を反らして頭をかいた。
「だから……た、単純っつーか…」
「単純っ?」 (ムカッ)
「いやその……違う…す、素直…」
「何?聞こえないんだけど」
「う、うるせぇな!だからお前は単純すぎるくらい素直なとこがいーんだから、バカな男と付き合って淫乱女になる事ないって言ってんだよっ」
真っ赤な顔でそう怒鳴ると、司は美作さんを連れて、バーの方に戻っていってしまった。
その場に取り残された私はと言えば、今の言い草に一瞬頭に来て怒鳴り返そうとした。
だけど、よくよく考えてみると、今の言葉は司なりに心配してくれたのかな?とふと思い直す。
(もう少し言葉を考えればいいのに…だいたい私のどこが単純なの?それは自分じゃない…)
寝ている花沢類を無理やり起こして、皆と騒いでいる司を見ながら、私は軽く苦笑いを零した。
アイツも…少しはいいとこ、あるのかな…
いっぱい腹が立つとこもあるけど……初めから決め付けちゃいけないのかもしれない。
今までの環境を考えれば、多少捻くれるのは無理ないし、(アイツの場合、多少じゃないけど)
あんな性格になるのも仕方ない事なかも…少しは大目にみてあげないとダメかな…なんて私もたいがい偉そうだわ。
「ちゃんもこっち来て飲もうよー」
その時、司や西門さんの相手が疲れたのか、美作さんが助けを求めるような顔で手を振ってきた。
「おい、大丈夫か?お前…」
「大丈夫だもん〜」
「大丈夫じゃねぇだろっ。フラフラしやがって…いくら軽いカクテルだっつっても飲みすぎだっ」
リムジンで家につくと、司が文句を言いながらも私を部屋まで支えてくれた。
こんなにお酒を飲んだのは初めてで。
甘くて美味しいなんて、つい飲みすぎてしまった私は、当然のように酔っ払ってしまった。
頭がぼわーんとする中、司の怒鳴っている声も、何となくいつもより優しく聞えてくる。
「ほら、部屋だぞ」
「ん〜」
「ああ、制服で寝たら皺になるだろ?」
「ちゃんと着替えるから平気らってば〜」
そう言いながらベッドに倒れこむと、頭の中がぐるぐると回ってる。
もう少しも動けないと言うように寝返りを打つと、司が「おい寝るなっ」と怒鳴った。
それでも、マトモに思考が動かない。
はあ、という司の溜息も、どこか遠くで聞えるようで、まるで夢の中に自分がいるようだ。
「ったく…総二郎の奴、飲ませすぎだ。あのスケベ…!」
司が何か言ってるのは分かるのに、それに反応することも出来ず、私はフワフワする意識の中、動けないでいた。
「おい…そのまま寝ると風邪引くぞ…?手、すげぇ冷てぇし…」
(はいはい……分かってますよ、うるさいなぁ…)
「おい…コラ、」
(コイツ、いつの間にか人のこと、当たり前のように名前で呼んでるし…)
遠のく意識の中、心の中で文句を言っていると、ギシッと小さくスプリングの軋む音が聞こえた気がした。
「…チッ。呑気な顔して寝やがって…」
(……優しい声…司じゃないみたい…)
何となく不思議な感覚だった。
現実なのか、夢の中なのか、フワフワした意識の中で司の声を聞いてると、不意に前髪をはらうように頭を撫でられた気がした。
「…コロッと忘れやがって…冗談じゃねぇよな…」
(コロ……?何?何…言ってるの…?)
そう声に出して聞きたいのに、意識はどんどん落ちてくように遠のいていく。
その時、司が何かを呟いた。
「……のは…オレなんだぜ…?」
(何…?よく聞えない…もう一度……)
ここで私の意識は途切れた。
最後に、司が何を言ったのか、凄く大事な事だった気がするのに。
深い眠りの中に引きずり込まれてしまった私に、その言葉は届くことなく、頭の隅に消えてしまった。
(ああ…気持ち悪い…)
何とか学校に辿り着いたものの、夕べのお酒のせいで、完璧に二日酔いだ。
最後の方なんて殆ど記憶にないし……参ったなぁ…。
確か美作さんが、「オレのオリジナルカクテル作ってやるよ」なんて出してくれたのが、凄く美味しくて、西門さんに進められるまま、何杯も飲んだ気がする。
花沢類も途中から酔っ払って天然ボケかましたりして、結構楽しかったはず…
それで……それで?
どうしても、その後くらいから記憶がスッポリ抜け落ちてる。
気づけば自分の部屋で、何故かこの寒空にキャミソール一枚で布団に潜って寝てた。
制服はしっかりクローゼットに入ってたから、酔いながらも自分で脱いでかけたって事かな?
司に聞こうにも、アイツは起きてこなかったし、私はそのまま一人で家を出てきてしまった。
何か失敗とかしてなきゃいいけど…
「はあ…ダメ…。やっぱり家で寝てた方が良かったかな…」
教室のある階まで辿り着いたはいいけど、何だか胸がムカムカして頭も痛い。
一歩歩くたびに襲ってくる偏頭痛に、私は泣きそうになった。
「グッモーニン♪ちゃん」
「…う?」
不意に後ろからポンと肩を叩かれ、一瞬、頭がぐわんと動き、ヨロっと壁にもたれかかった。
「な、何や何や?どうしたん?顔色悪いでぇ?」
「…大和…ちょっと大きな声出さないで」
振り向かずとも、誰と分かる関西弁に、私は指でこめかみを押さえた。
「おー?その反応…もしかして二日酔いか?」
「ち、違…関係ないでしょ…?」
「何やー夕べ飲んでたん?ならオレも誘ってくれればええのに〜」
「…………」
朝から妙にハイテンションな大和に、思わず顔を顰めた。(というかコイツはいつもハイテンションだ)
だいたい呼べるはずないじゃない……F4揃い踏みだったっていうのに。
って言うか、昨日あれだけ司にすごまれたのに、大和ってば普通に話しかけてくるって、どういう神経してるんだろ。
そうそう、それに、この階は……
「ねえ…ここ一年のクラスしかないのに…何してるの?」
「そらちゃんの顔、見に来たに決まってるやん♪」
「…来なくていい」
「そんな冷たいこと言わんでもええやんー。オレ達、姉弟になるかもしれんねんで?年下なのにオレの義姉って何やゾクゾクするなあ?」
「な、なりませんっ。ぃたた…」
大きな声を出すと、自分の声ですら頭に響き、気持ち悪くなった。
「もう…ついてこないで…」
「何でー?教室まで送るで?フラフラしとるし」
「大丈夫だってば…。クラスの子に見つかったら、また何を言われるか分からないもの」
そう言って睨みつけると、大和は軽く両手を上げてニカッと笑った。
「それもそうやな。オレのせいでちゃんが意地悪言われるのも可愛そうやし…ここは大人しく引き下がるわ」
大和は明るくそう言うと、「ほな、後で一緒にランチしよなー♪」と、私が返事をする間もなく去っていった。
「もう…勝手に決めないでよ…」
溜息をつきつつ教室に入ると、自分の席に座って机に突っ伏した。
その時、目の前に人が立つ気配がして、
「あら、随分と具合が悪そうねえ、さん」
「ホーント。夕べは誰と夜遊びしてたのかしら」
「あの結城グループのご子息とかいうイケメンくんじゃないのー?まあF4の皆さまよりは落ちるけどぉ〜」
いつもの3人組が、またしても現れて、正直ウンザリした。
(よく言うわよ…。大和見た時は浮き足立ってたクセに)
内心ツッコミながらも、具合の悪さが先にたち、そのまま彼女達を無視して教科書を出すと、浅井さんがムっとした顔で睨んできた。
「あら、社長令嬢じゃなくなると、返事も出来ないのかしら」
「嫌ねぇ。こんな人と道明寺さんが親戚だなんて」
「それより一緒に住んでるのが許せないわぁ…」
だったら、あなたが住めば?と言ってやりたくなる。
私だって好きでお世話になってるわけじゃない。
あんなバカボン…
そこで、ふと昨日の司を思い出した。
そう言えば昨日の司は、口は悪くてもどことなく優しかった気がする。
まあ花沢類が言ってた事は置いといたとしても…
「あら、また無視?ホント腹が立つ人ね」
「行きましょ、浅井さん」
私がボーっとしていると、3人組も張り合いがなかったのか、つまらなそうに向こうへ行ってしまい、ホっとした。
いちいち嫌味を言うのが楽しみだなんて、とんだお嬢様たちだ、と内心苦笑する。
(それにしても…気持ち悪い…)
今朝も朝食なんて食べられるはずもなく、すきっ腹だと余計にムカムカ度が増していく。
これじゃ最後まで持ちそうにないなと思いながら、溜息をついた。
F4の連中は、まだ登校してないみたいだし、今頃ヌクヌク寝てるのかと思うと、ちょっとだけ腹が立つ。
(私だけマジメに出てくるんじゃなかったかも…)
そんな後悔と共に、HRを告げるチャイムを聞きながら、小さく欠伸を噛み殺した。
何とか4時間目の授業を終えた時、限界が来た。
二時間目が終わった後、保健室に行って薬を貰ってきたのに、ちっとも吐き気が治まらず、体が火照ってきてどんどん悪化していく気がする。
(二日酔いって、こんな具合悪かったっけ…?これじゃ午後の授業なんて無理…早退させてもらおう…)
フラつく体で立ち上がり、何とか帰る用意をすると、私は浅井さん達のジトッとした視線を無視して教室を出た。
早退するには職員室に行って担任に早退届を提出をしなければならない。
ぼわーっとする頭を軽く振りながら、重たい足取りで何とか階段を下りていく。
その時、上からひょいっと大和が顔を出した。
「あれぇ?ちゃん、どこ行くねん。今からランチ誘いに行こう思てたのに」
「…………」
能天気な声に思わずガックリ来た。
が、大和は慌てたように降りてくると、「どないしたん?顔色さっきより悪いで?」と体を支えてくれる。
「…ちょっと…顔が熱いし気持ち悪くて…」
「気持ち悪いて…いくら二日酔い言うてもヒドイなぁ…って、お前…!熱あるんちゃうっ?」
「…え?」
いきなり大和が額に手を当てて、「うわ、めちゃ熱いやんっ」と両頬を手で包んだ。
「お前、これ二日酔いちゃうぞ?熱で熱いねん」
「…熱…?」
「そうや…。と、とにかく保健室に―――――――」
「い、いい…もう早退しようと思ってたから…」
「あ、そうか…その方がええな…ほなオレ、家まで送ったるし―――――――」
「ちょ…いい!そんな事までしてもらわなくても平気だってば……っ」
「アホかっ平気なわけないやろっ。こんなフラフラして」
そう言って大和が私の腕を引き寄せた時、「おいっ!」という怒鳴り声が聞こえて来てハッとした。
「また、てめえか…」
「司…」
その声に顔を上げると、階段の上に司、そしてF3が驚いたような顔で立っていた。
「昨日、に近づくなって言わなかったか…?」
「…そうやなぁ。でもオレ、了解した覚えもないねんけど」
「あぁ?!」
「ちょっと…ケンカしないで…」
険悪なムードに慌ててそう言うと、司が私の異変に気づいた。
「お前…どうした?フラフラして―――――――」
「ちゃん、熱あんねん。昨日、誰かさんが無理させたんちゃうの?」
「―――――――熱っ?」
「それなのに薄情な誰かさんは重役出勤みたいやし、オレが送ったろ思てたとこや」
大和は司相手に怯むことなく、堂々とした態度でニヤリと笑った。
「てめえ…」
「大和…!司は関係ないってば…」
「あ、おい、危ない―――――――」
大和の腕から離れると、フラリと足がよろめく。
それを受け止めてくれたのは司だった。
「司……?」
ボーっとした頭で見上げると、司は怖い顔のまま、大和を睨みつけた。
「コイツはオレが連れて帰る…。てめえには関係ねえっ」
「ふーん。ま、オレはどっちでもいいけど…ちゃんに無理させたら……許さへんで」
「……あ?」
大和の一言で歩きかけていた司が振り向いた。
「何だぁ?コイツ。司とやりあおうって言うわけ?」
「身の程知らずだよなぁ」
そこに西門さんと美作さんも歩いてきたけど、司が二人を静止して、大和を睨んだ。
「お前…結城グループの息子だそうじゃねぇか」
「…ああ、ちゃんから聞いたん?」
「「マジ?コイツがあの結城グループの?!」」
西門&美作コンビも知らなかったのか、さすがに驚いている。
そんな中、花沢類は相変わらずボーっとしていたが、不意に無言のまま司の方に歩いて来た。
「司…、ツラそうだよ。早く送ってあげなよ」
「ああ…。――――――――おい、お笑い芸人。コイツを利用しようって魂胆なら、こんな回りくどいマネすんな。直接オレんとこ来いっ」
「(お笑い芸人?)…利用…?何の事や?」
「うるせぇ!またコイツの周りウロチョロしてたらタダじゃおかねえ…。――――――――赤札が行くぜ」
「………??(赤札?)」
司はそう言うと、いきなり私を抱きかかえた。
「ちょ、ちょっと司―――――――」
「うるせぇな!病人なら大人しくしてろっ!」
「………ッ」
いきなり怒鳴られ、ビクっとなった。
でも私もすでに限界で体の力が抜けていく。
司がそのまま私を抱えて廊下を歩いていくと、他の生徒達が騒いでる声が、ボーっとした意識の中、聞こえた。
これで、また色々言われそう…と思いながら、それでも強い腕の中で安心してる自分がいる。
(あ…ダメ…ホントに限界みたぃ……)
司の腕の中、ゆらゆらと揺られてるうちに、私の意識は深い底へと落ちていくように、ぷつりと途切れた。
携帯片手に、結城大和は廊下の窓枠に肘を突き、下に止めてある大きなリムジンを眺めた。
そこへ出てきたのは、を抱きかかえた道明寺司。
司はそのままリムジンの後部座席に乗り込んで、見送りに出てきているF3に何か話している。
大和はそのまま携帯を開くと、ある番号を出して通話ボタンを押した。
「ああ、オヤジ?オレや…今、大丈夫か?ああ…もうこっちの学校にも生活にも慣れたで。けど東京っちゅうトコは住みにくい街やわ」
苦笑気味にそうボヤキながら、下にいる司達を見下ろす。
「…ん?ああ彼女か?まあ…ボチボチやなぁ。まだ多少は警戒されとるけど…オレの事は気にしとるみたいやし出だし好調や。
ああ…それより…あのオバはんの方は大丈夫なん?…そうや。あのオバはんが上手いことやらなオレも困るで。
話持ってきたんは向こうやし、途中で気が変わられたら難儀や…ああ…それと"坊ちゃん"が少し困ったことになっとるし…それ報告しよう思てな」
リムジンのドアが閉められ、ゆっくりと動き出すのを見ながら、大和は軽く舌打ちをした。
「…邪魔が入れば、あのオバはんかて困る事になるし…早めに手を打ってもらわな。ああ…それと……」
そこで言葉を切り、門を出て行くリムジンから視線を外す。
「……来月の命日には…そっち戻るから」
それだけ告げると、大和は溜息交じりで、青い空を見上げた―――――――――

徐々に徐々に暗雲立ち込めますね(オイ)
いや私の描く作品って、何か落とし穴あるよな(゜ε ゜;)(ウガッ)
でもこの作品も少しづつ感想も増えてきたので嬉しい限りです(>д<)/
今後もガンガン頑張りまするー(キモッ)
嬉しいコメントありがとう御座います(●´人`●)
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●何か好きvv
(ありがとう御座います!)
●司夢大好きですv
(大好きなんて言って頂けて小躍りしちゃいますっ(´¬`*)〜*
●連載凄く楽しいです!これからも頑張ってください☆
(楽しんで頂けてるようで書き手としましても嬉しい限りです!これからも頑張りますよー(>д<)/オー
●花沢 大好き
(類は漫画もドラマもカッコいいですよねぇ♪)
●総二郎とあきらも何気に大好きですw
(この二人、何気に美味しいトコどりで今後も登場回数多そうですw)