雪の魔法―
遠くから届いた声









行く気のなかった旅行なのに、少しだけ楽しみなのは、やっぱり彼が楽しみだって言ってくれたからかな。







「サッサと来い!置いてくぞ!」


かけたサングラスをズラし、いつもの如く怒鳴ってくる司は、それでもどこか楽しげだ。
空港についてからは特に、先へ先へと歩いて行き、遅れ気味の私や、西門さん、美作さんを、さっきのように睨み付ける。
(二人は若干二日酔いと寝不足らしい)


「げぇ…アイツ何であんな元気なんだよ…」
「夕べサッサと寝たからだよ…気づけばいなかったし」


二人はゲッソリしたように溜息をつくと、前方で早く来いと言わんばかりに手を振ってくる司を見た。
そんな二人を見ながら笑いを噛み殺すと、腕時計に目をやる。
もう後30分もすれば、ここ成田から、道明寺家の自家用ジェットがカナダへ向けて旅立つ手配になっていた。


「あーそういや…類は先に出ただろ?もうゲートにいるかな」
「静を迎えに行ってから向かうってさ。もう乗り込んでんじゃね?」
「起きたら、すでに出かけてるとこからして、相当浮かれてそうだしなー」
「まあ類にしたら久しぶりに会うんだし、仕方ないんじゃん?アイツ、静の事になるとフットワーク軽くなるし」
「言えてる!普段は起こしても起きないクセして」


そんな二人の会話を聞いていると、少し緊張してくるのを感じた。
これから、花沢類の想い人でもある、あの藤堂静さんと会うんだ、と思うと、それは当然の事で。


彼女は私が通っていた学校でも有名で、憧れの的だった。
藤堂商事、社長の一人娘で頭脳明晰の上に、かなりの美人、とくれば、女の子なら誰でも憧れてしまうだろう。
彼女が有名なのはそれだけではなく、色々な資格を持っている事から、女性誌でも取り上げられる事が多かった。
彼女が雑誌に載れば、次の日にはクラスメートの誰かがそれを持ってきては「綺麗」だの「羨ましい」だのと騒ぐ。
私はそれほど熱中して見ていたわけじゃないけど、子供の頃に道明寺家のパーティでチラっと見かけた事があったから、周りの友達から羨ましがられたりもしたっけ。
きっと、もう会う事はないだろうと思っていたし、まさか一緒に旅行をするなんて思いもしてなかった。
友達に話したら、きっとズルイと文句を言われるだろう。
でも、そんな完璧な人と、これから一週間、共に過ごすなんて、やっぱり緊張する。
同じ"お嬢様"といったって、向こうは格が違うだろうし、その前に私はもうお嬢様じゃないんだから少しは引け目を感じるってものだ。
花沢類には話し相手になってあげて、と言われたけど、そんなに気軽に話しかけられるはずもない。


「遅い!」


やっと司の待つ、ゲート入り口まで歩いて行けば、すぐに怒鳴られる。
遅いって言っても自家用ジェットなんだし、多少ゆっくりでも大丈夫じゃないの。
内心、そう思いながらも、「司が早すぎるの」と言い返した。


「何だ?お前、青い顔して。まさか飛行機が怖いってんじゃねーだろーなー。だっせぇーっ」
「…怖くないわよっ。あんたが朝っぱらから大きな声で起こすから寝不足なのっ」
「あ?寝坊しねーように起こしてやったんだろ?」
「それが余計なお世話なの!私はちゃんと目覚ましをかけてたのに!おかげで一時間も早く起きちゃったじゃないのっ」
「女なら早めに起きて化粧とかしねーか?フツー」
「はあ?」
「オレたちF4と海外に行くってのに、何でお前はスッピンなんだよ」


偉そうな顔でそんな事を言われ、ムカッときた。


「あのね、これでもメイクはしてるの。だいたい何で私があんたの為にバッチリメイクしなくちゃいけないのよ」
「なにぃ〜っ?んなもん、女の見出しは並だからだろっ?たしなめろよ、お前もっ」
「…は?何言ってるのかサッパリ分からない」


相変わらずバカ王だわ、と呆れながら肩を竦めると、司の額に怒りマークが浮き出た。
そこへ美作さんが慌てたように走ってくると、いつものように私達の間に入る。


「はいはい。こんなトコまで来てケンカしない!それと司、それ言うなら"女の身だしなみ&たしなみ"ね」
「ぶははっ知らないなら使うなって言ってんだろー?」
「うっうるせぇ!総二郎!あきらも、んな事、分かってんだよっっ」


見事な訂正をされて、司は耳まで赤くなっている。
そして私はと言うと、西門さんの言葉に大いに頷いた。


「お、類だ」


その時、西門さんが通路の方へと視線を向けた。
ドキっとして振り返ると、今、私達が歩いて来た方向から、花沢類が歩いてくるのが見える。
その隣にはスラリとした綺麗な女性が寄り添っていた。


(静さん、だ…)


大人になってから、実際に見るのは初めてで、あまりのオーラに、私は言葉を失った。


「遅せぇぞ、類」
「皆が早いんだよ。もっとギリギリで来ると思ってたから静とお茶してたんだ」


花沢類がいつもよりも明るい笑顔で言った。
その顔を見るだけで、何となく胸がチクチクした。


「静!久しぶり〜!」
「司!あきらに総二郎も、皆、元気そうね!」
「おう、静は相変わらず綺麗だな!」
「会いたかったよ!」
「私もよ!」


花沢類より、少し遅く歩いて来た静さんは皆の前まで来ると、一人一人と軽くハグをして、皆からのキスを頬に受けている。
その姿はさまになっていて、私までドキドキさせられた。


「おはよ」
「あ…お、おはよう」


その時、花沢類が、後ろにいる私の方に歩いて来た。


「よく眠れた?」
「う、うん…まあ…」


ホントは司のせいで眠かった。
でも花沢類の明るい笑顔を見てると、こっちも明るく振舞わなくちゃいけない気がして、そう答える。


「あ、紹介するよ。彼女が藤堂静さん」


そう言って振り返ると、静さんがこっちに歩いて来た。
目の前で見ると、本当に圧倒されてしまうほど、彼女は優雅で、まるで女優さんみたいだ。


「あなたがちゃん?初めまして。藤堂静です」
「は…初めまして。です…」


柔らかい笑顔で微笑むと、静さんは細くて綺麗な手を差し出した。
恐る恐る握手をすると、「宜しくね」と、優しい言葉が耳に響いた。
彼女の全てが、とても華やかで、思わず見惚れてしまう。


(静さん、ホントに綺麗…花沢類が好きになるのも…分かる気がする…)


やっぱり、きちんとメイクしてくれば良かったかな、と小さな後悔が浮かんだ。



「なーに赤くなってんだよ。バーカ」
「う、うるさいわねっ」


その時、司に頭をこずかれて、つい、いつものように怒鳴ってしまった。
ハッとして振り返ると、静さんはクスクス笑っていて、「類の言うとおり、可愛い子ね」と、こっちを見ている。
それだけで、ますます顔が赤くなった。


「司、女の子にバカなんて言ったらダメよ?ホント、昔から変わらないんだから」
「う…」
「そ、そうですよね?ホントにコイツときたら―――――――」


そこまで言って言葉を切った。
思わず、静さんの言葉が嬉しくて、いつものノリで話しかけてしまったのだ。


「ご、ごめんなさいっ」


慌てて謝ると、彼女は少し驚いた顔をしていたけど、すぐに微笑んでくれた。


「二人はしょっちゅうケンカしてるんですってね。類から聞いてるわ?」
「え…」
「司にイジメられたら、すぐ私に言ってね?私がお説教してあげるから」
「お、おい静!オレは別にイジメてなんか――――――――」


さすがの司も、静さんには弱いのか、慌てて言い訳している。
そんな司の頬に、静さんは軽くキスをすると、「嘘よ。司は素直でいいわよね」と微笑んだ。
それには司もぐっと言葉を詰まらせ、困ったように頭をかいている。


(さすがだ…。あの司を大人しくするなんて…)


そのやり取りを見ながら、私は感心してしまった。
それに思ったよりも気さくで、凄く優しそうな人だからホっとした。


「あ…っと、もう時間だ。早く乗ろうぜ」
「了解♪やーっと狭い日本を脱出だー!」


司の号令で、西門さんが嬉しそうな声を上げた。
そんな二人の後からゲートを潜り、普通は通らない通路を歩いていく。
空港関係者の案内で歩いて行くと、そこには普通のジェット機よりも数倍大きい、ジャンボジェット機があった。
機体の横には大きく"DOMYOJI"のロゴが入っている。


「…でか…」


思わず見上げてしまうほどの大きさで呆気に取られていると、隣に司が歩いて来た。


「どーだ、でけーだろ。乗り心地も最高だぜ?」
「うん、ホント大きい!凄いね、司!中は?どーなってるの?」
「え?」


自家用ジェットの凄さに感動して、思わず素直に聞いてしまった。
司はそんな私を驚いたように見ながら、「じ、じゃあ…乗ったら探検でもしてみろよ…」と何故か頬を赤くしている。


「うん!っていうかそれ言うなら"探索"だけど…」
「…あっ?」
「ご、ごめん。あ、ねね、私、飛行機って中を見学した事ないの。普通の機内だとあまりウロウロ出来ないから…ね、もう乗ってもいい?」


一瞬ムっとした司を宥めるように、そう尋ねると、司は軽く視線を外して咳払いをした。


「…あ…ああ」
「やった!一番乗り♪ありがとー司!」
「う……」 (予期せぬ反応で赤面)


そう言って飛び跳ねると、司は何故か頬を赤くしてチラっと私を見た。


「…つか…いつもそうやって…可愛いけりゃな…」
「え?何?」


すでにジェット機に向かって走り出してた私は、聞き取れずに振り向いた。


「何でもねーよ!つか、んな走って転ぶなよ!」


後ろから叫んでくる司に軽く手を振って、そのまま一気に機体の入り口まで走る。
昔から飛行機とかいった乗物は大好きだったから、好きなように中を探索出来ると聞いてワクワクした。
あんなに憂鬱だった旅行でもあるのに、ゲンキンな私は、この旅行がだんだん楽しくなってきているみたいだ。


「どうぞ、お嬢様」


空港スタッフの人だろうか。
機内に続く入り口のところに二人立っていて、私に会釈をする。
つられて私も会釈をすると、中へと促された。


「…わ…ぁ…」


一歩、入って圧倒された。
まだ誰も乗っていない機内を見るのは初めてだ。


「凄い…」


中は普通の飛行機とは違って、独特の装飾が施されている。
普通の飛行機のように、沢山の椅子が並ぶようにあるわけじゃない。
広い空間を、まるでリビングのようにデザインしてあり、三人は座れるんじゃないかと思うような大きな椅子がその空間にいくつも設置されている。
四人がけのソファと、食事専用なのか、少し大きめのテーブルまであり、思わず溜息が零れた。
何となく、温かみのある色使いに、道明寺家の部屋を思い出させるような雰囲気で、落ち着く。


「どうよー道明寺家のジェット機は」
「あ、西門さん…」


気づけば皆も乗り込んだのか、後ろから西門さんが歩いて来た。


「凄すぎて圧倒されてました。お客が私達だけなんて嘘みたい」
「だよなあ。オレも何度か乗らせてもらってるけど、やっぱ最高だよ。コレ乗ると普通の飛行機とか乗れねーし」
「そうですよねえ…。ファーストクラスよりも凄いもの…」


言いながらキョロキョロしていると、後ろから司の声が聞こえてきた。


「おい、お前ら、そろそろ離陸するし、一旦こっち来て座れ!」
「OK!――んじゃ、空の旅を堪能するとしますか」


西門さんは楽しげにそう言うと、私の手を引いて皆の下へと歩いて行った。












「忘れ物は…なし、と」


日も傾きかけた午後3時。
熱も下がったオレは、荷造りを簡単に済ませ、最後のチェックをしてた。
と言っても、確認するほど荷物なんかないし、一分もしないうちに終わる。
リビングの真ん中に立ち、バッグを持った。
だがカーテンがかすかに揺れてるのを見て、窓が開いてる事を思い出し、テラスの方へと歩いていく。


「ひゃー眩しいなあ」


オレンジ色の太陽がもろに飛び込んできて、思わず目を細めた。
この時期だと、この時間はすでに夕方になりつつある。
急がないと、新幹線も混みそうだ。


ははるか上空やろなあ…よく、あんな鉄の塊に乗れるわ…」 (実は飛行機嫌い)


手をかざし空を仰ぐ。
くったくのない笑顔が脳裏を掠めた。






RRRRRRR…RRRRRRR…





その時、携帯の着信音が鳴り響き、ハッと我にかえる。


「…誰や…」


軽く舌打ちしてジャケットの内ポケットから携帯をつまみ出した。


「ぅげ…」


そこに出ている名前を見て思わず半目になる。


「ややこしなあ…こんな時に―――――もしもしぃ〜?」


ブツブツ言いながらも電話に出ると、受話器の向こうから相変わらずの冷めた声が聞こえてきた。


『もしもし。私よ』
「はいはい。分かりますけどー。何の用やろ。ボク、今から大阪戻るとこなんですよー」
『…どういう事?』
「はあ?」


相手のことなんか、お構いなしで自分の用件だけを口にする。
相変わらずやな、このおばはん。


『今、報告が入ったの。司が友人を連れてカナダへ経ったって』
「ああ…その事…」
『その事じゃないわ!あの子も一緒だって言うじゃないの。あなたは何をしてたのっ?』
「何て…熱出して寝込んでましてん」
『はあ…だったらあの子を呼び出して看病させておけばいいのに。もうだいぶ親しくはなったんでしょう?』
「そら、まあ。でも"司坊ちゃん"が強引に誘ったらしいですけどー?ボクも彼には困ってるんやけどね…彼女の事、かなり気に入っとるし――――――」
『バカ言わないでちょうだい!とにかく、司と彼女が一緒にいても仕方ないの。分かったらサッサと行動してちょうだい。分かった?お父様にも連絡しておきますから』


そこまで言うと、電話は唐突に切れた。


「チッ。何や、このおばはん、ムカツクわぁ…えらそーに何やねん」


ツーツーと空しい音がしてる携帯を勢い良く閉じて毒づくと、オレはソファにドサっと腰を下ろした。


「何とかしろて、どうせいっちゅうねん、ったく…」


溜息交じりでソファの背もたれに頭を乗せて天井を仰ぐ。
すると再び携帯が鳴りだし、軽く舌打ちをした。
見れば運転手からだった。


「今降りるし待っとってー」


それだけ言うと仕方なく立ち上がり、バッグを持った。
とにかく今は一度、実家に戻らないといけない。


「はあ…人気者はツライわあ…って、誰が人気者やねんっ……。はあ、一人やとむなしぃなぁ…」


一人ボケツッコミをしつつ、オレは足取りも重くキーを手に取ると、そのまま何もない部屋を後にした。










ゴォォォ…っという轟音と共に、ジェット機が無事に着陸した。
久しぶりの空の旅は、ファーストクラスなんかよりも快適なもので、私は移動中も殆ど休まず、外の景色を見て過ごした。


「あ、静、それ持つよ」
「ああ、ありがとう、類」


その声に振り向くと、二人は仲良さそうにタラップを降りてくる。
機内でも、二人は並んで座り、本当の恋人同士のように見えた。
花沢類は片思いだと言っていたけれど、私には静さんも彼の事を少なからず、想ってるように見えてならない。
って言うか…悔しくなるくらい、お似合いだと思う。
そんな事を思いながらボーっと二人を見ていると、持っていた荷物がいきなり奪われた。


「え?」
「貸せ。トランクに入れるから」


そう言いながら司が私の荷物をリムジンに積んでくれる。


「あ、ありがと…」
「いいから乗れ!寒いし、とっとと別荘に行くぞ」
「あ、うん」


そのまま皆でリムジンに乗り込み、道明寺家の別荘へと向かう。
窓から見える景色は、一面真っ白で、思わず身を乗り出した。


「綺麗…」
「そうかー?俺は―――――――」
「ホントだね」
「…っ?」


その声に視線を向けると、目の前に座っている花沢類が、私と同じように窓の外を眺めていた。
彼とは、こういうところで感性が合うと、ふと思う。
文句を言いかけた司は、面白くなさそうに目を細めていたから、軽く無視しておいた。(ここでモメても皆に迷惑かけるだけだし)


20分ほど走ったところで、リムジンが止まった。


「おら、ついたぞ!」


司はサッサと降りると、運転手に指示して、皆の荷物を別荘へと運ばせている。
真っ白な銀世界に降り立った私は、目の前の大きな別荘に圧倒されて、思わず口を開けて見上げてしまった。


「うわ、別荘もおっきい…」
「ここも部屋が50部屋くらいあるよ」
「あ、美作さん…って、え、別荘なのに、そんなにあるんですか?」
「当たり前だろ?オレを誰だと思ってんだぁ?」


そこに偉そうに、ふんぞり返った司が歩いてきて、ジロッと睨み付けてやった。


「別に司が偉いわけじゃないでしょ」
「ぬ…テメ〜誰のおかげでカナダに来れたと――」


ちゃーん、早くおいでよ。風邪引くよー」
「あ、はーい!」
「あ、オイ待てコラ、!」


西門さんに呼ばれて走っていくと、後ろから司が追いかけてくる。
そんな私達を見て、静さんが楽しそうに笑っていた。





「うわぁ、中も素敵!」
「暖炉ある部屋はこっちだよ」


西門さんに促されるままついていくと、「勝手に案内すんなっ」と司が後ろから文句を言ってくる。
ホントに子供みたい、と思いながら歩いて行くと、だだっ広いリビングがあり、そこには映画に出てきそうな暖炉があった。


「う〜さみー!早く火つけようぜ」


司は身震いしながら、手馴れた手つきで暖炉に火をともす。
そこに他の皆も集まって来た。


「部屋とかテキトーに使えよ。二階がゲストルームだしよ」
「ああ、んじゃ荷物とか運んじゃおうぜ。各部屋も温めておかないとね」


シッカリ者の美作さんは、そう言いながら、何度か来た事があるのか、二階へと連れて行ってくれた。


「お、おい、。それ運んで―――――――」
「え?」
「あ、ちゃん!」


司に呼ばれて振り返ったのと同時に、名を呼ばれた。


「オレが案内してやるよ。ここ何度も来た事あるし」
「あ、ありがとう、西門さん」
「……っ」


荷物を持ってくれる西門さんに、お礼を言ってから、再び司の方に振り返った。


「司、何か言った?」
「べ、別に!サッサと荷物置いて来いよ。紅茶頼んでおいてやっから」
「うん…じゃあ…行ってくる」


何となくスネたように顔を背ける司に軽く首を傾げつつ、私は西門さんについて二階の部屋へと向かった。


「ったく、アイツも素直じゃないねえ」
「え?」


階段を上がりながら西門さんが苦笑いを零し、首をかしげると、彼は「いや別に」と言って微笑んだ。
クエスチョンを頭の中に並べてると、西門さんは、二階の右端の部屋の前で立ち止まり、


「…あ、じゃあ、この部屋にしたら?ここ日当たり良くて、比較的あったかいから」
「あ、はい。ありがとう御座います」
「オレは向かい側の部屋だし、何かあったら気軽に呼んでよ」
「はあ…」


やたらと愛想のいい笑顔に戸惑いつつ、部屋は東京の家と同じくらい素敵で、とても気に入った。
美作さん、花沢類、静さんも、それぞれ部屋が決まったようで、荷物を置いて廊下に出ると、皆が階段のところで待っている。


「どう?気に入った?」
「あ、はい。凄く広くて…ちょっと夜は怖いですけど…」


美作さんにそう答えると、西門さんがニヤリと笑った。


「そういう事だったらオレの部屋にいつ来てもいいからね♪ちゃん」
「…はぃ?」
「オレが朝まで添い寝してあげるよ」
「ひゃ」


いきなり肩を抱き寄せられたかと思えば、頬にちゅっとキスをされ、飛び上がる。


「な、何するんですかっ」


頬を手で抑えて睨みつけるも、西門さんは悪びれた様子もなく、ニッコリと微笑んだ。


「かーわいい♪真っ赤になっちゃって。ホント純情ー」
「わ、ちょ、」


またしても顔を近づけてくる西門さんに、ぎょっとして後ろへのけぞろうとした。
が、その時、後ろから伸びた手が、私の肩を抱く西門さんの腕を持ち上げ―――――――


「やめなよ。困ってるだろ?」
「…っ?」


振り返ると、花沢類が顔を顰めて立っていて、隣にいる静さんも、そして目の前の西門さんも、かなり驚いた顔をしている。


「それより…寒い。早く下に降りよう」


花沢類はそれだけ言うと、「静、行こう」と言って階段を下りていく。
それを見ながら、西門さんと美作さんは首を傾げつつ、ついていった。


「何だ?類の奴…ちょっと怒ってなかった?」
「さあ…眠くて機嫌悪かったんじゃないの」
「ああ、なるほど。アイツは睡魔が襲ってくると、突然不機嫌になるからなー」
「でも静の前で珍しいよな。静もビックリしてたみたいだし」
「ああ、それもそうだな…」
「しっかし、お前も司がいないんだから、あんな事すんなよ。意味ないだろ」
「いや、つい可愛くって――――――――」


そこでハッとしたように後ろを振り返る西門さんにギョッとした。
私の存在を忘れてたのか、振り返った西門さんは笑顔が引きつっている。


「あ…いたんだ…」
「そりゃいますけど…ダメですか」
「い、いや、そういう事じゃなくて…あ、腹減らない?ほら早く下に行こう」
「……バーカ」


慌てたように降りていく西門さんに、美作さんが呆れたように呟く。


(一体何だって言うの?変なの…。それに…司がいないんだからって…どういう意味だろ)


内心そう思いながら、二人の後をついていく。
でもハッキリ言って二人の会話なんか殆ど聞いてるようで耳に入って来てはいなかった。
まだ、かすかに頬が熱い。


"やめなよ。困ってるだろ"


あの花沢類が、あんなにハッキリとものを言うのを初めて聞いた。
私の事を…庇ってくれたみたいだった。


(やだ…顔がニヤケちゃいそう…)


花沢類にとっては何でもない事だったかもしれない。


でも少なくとも私は、彼の態度が素直に嬉しかった――――――――












ついて暫くリビングで休んでいると、すぐに夜になった。
ここへ来ると、いつも呼んでいるという、シェフの料理を食べて、その後には皆でナイターへ繰り出そう、と話が盛り上がっている。
ふと外を見れば、チラホラと雪が舞っていた。


「おい、。そろそろ用意しろよ」


窓際のソファに座り、ココアを飲みながら外を眺めている私に、司が言った。


「え、私はいいよ。ここで待ってる」
「あ?何言ってんだ?こんなトコまで来てスノボーやらねー奴いねーぞ」
「…ここにいるじゃない。いいから行っていいわよ」


どうせ滑れないんだし、行っても足手まといになるだけだ。
そう思っていると、いきなり腕を引っ張られた。


「痛…っ何するの?」
「お前一人で置いてっけっか!いいから行くぞ!サッサと用意しろ」
「ちょ、ちょっと!痛いってば!分かったから離して!」


そこで司の手を振り解く。
ホントに何でこう勝手なんだろう。


「ホントか?」
「…皆も行くんでしょ?」
「ああ、もちろん。いつも総二郎たちと滑ってんだよ」
「ふーん…」


チラっと見れば、確かに西門さんも、美作さんも準備を終え、今か今かと言わんばかりに、こっちを見ている。


「でも…ウエアない」
「んなもん向こう行けばレンタルしてるよ。明日になれば街出てお前用のウエア買ってやっから」
「え、い、いいよ…っ」
「うるせえなあ。とにかく今は早く出かける用意しろっつーの」


私の抗議も無視して、司は面倒くさそうに睨んでくる。
しかも西門さんまで、「早く行こうぜ!」なんて言いながら、すでにマイスノボを抱えてリビングを出て行こうとしていた。
が、そこで足りない人物に気づく。


「あ、ねぇ、花沢類と静さんは?」
「あ?ああ…そう言えば…いねーな。さっきまでいたんだけど…」


司もそこに気づき、部屋の中をキョロキョロ見渡す。
でも、いくら広いとは言え、二人がどこにもいない事くらい、すぐに分かる。


「アイツ、あんまスノボとかやんねーからバックれたかもしれねぇ」
「…あ、そっか…。そう言えばそんなこと言ってた気がする…」
「ったく!団体行動を乱す奴だな…」
「…司の口から"団体行動"なんて言葉が出るのね」
「あぁ?」
「いえ何でも」


いつも、その団体行動を乱してるのは自分のクセに、と内心、苦笑する。


「おい、司!早く行こうぜ!ナイター終わっちまう!」
「おう!」


早く早く、と急かすように、西門さんと美作さんが手招きをする。
それを見て、ピンと頭の中に光が弾けた。


「あ…じゃあ司、先に行ってて?」
「あぁん?んなこと行って、テメー来ない気じゃねぇーだろうな」
「い、行くわよっ。ただ私が用意するの待ってたら西門さん達に悪いでしょ?」
「用意って…ジャンパー着るだけでいいだろが」
「バ、バカ言わないでよ。こんな寒い中で…ちゃんと厚着しなくちゃ凍えちゃう」
「…そりゃ…そうだけどよ…」


なかなか"うん"と言わない司に、「着替えたらすぐ行くから。あ、ついでに花沢類も引っ張ってく」と付け加える。
すると、渋々ながらも、「…分かったよ…」と言ってくれた。


「テメー絶対来いよ。来なかったら後でぶっ殺すからなっ」
「はいはい。じゃあ行ってらっしゃーい」


グイグイと司の背中を押して廊下に追い出す。
西門さん達も、「寂しいから早く来てねー♪」と言いつつ、足取りも軽く待たせてあった車に乗り込んだ。


「じゃあ運転手に戻らせるから、それ乗って来い」
「うん。分かった。後でね」


言いながら手を振ると、司は仕方ないといった顔で、リムジンに乗り込んだ。


「よし、と」


F3を乗せた車を見送った後、私は軽く息を吐くと、一度自分の部屋へと戻り、厚手のセーターを着込んでからジャンパーを羽織った。


「これで少しはマシかな…?」


マフラーもシッカリ巻いて首元を保護すると、私は急いで別荘の中を簡単に探し回った。
花沢類の部屋、静さんの部屋。
それでも二人の姿は見当たらない。


「…おかしいなあ…。花沢類はともかくとして…静さん、さっきはスノボーするの楽しみにしてたはずなのに」


食事をしながらの会話を思い出し、首を傾げる。
それでも別荘の中に人の気配はなく、もしかして二人は先に行っちゃってたのかな、という不安にかられた。


「あーあ…せっかく花沢類と見学しよーと思ってたのに…」


静さんも滑るみたいだったし、だったらスノボは苦手だと言ってた花沢類と一緒に、ロッジでお茶でも飲んでようと思ったのだ。
司達と一緒に行けば、無理やりやらされそうだったから、先に行かせたのに。


「仕方ない…車待とう…」


スキー場から、この別荘まで、そう時間はかからないみたいだった。
家の中で待つよりも、外で待ってた方がいいかもしれない。


「う…寒い…」


一歩外に出ると、冷たい風が顔に当たり、首を窄める。
こんな寒い夜にスキーだかスノボだか知らないけど、出来るわけないじゃない。
私は生粋の東京育ちなんだから。


「はあ…もう行きたくなくなってきた…」


ブツブツ言いながらもその場で足踏みをしつつ、車が来ないか、通りに目をやるが、今は真っ暗な闇しか見えない。
この辺りはこの別荘以外、建物はなく、周りはシーンとしていて、ちょっとだけ怖くなってきた。
その時、かすかに人の話し声が聞こえてきて、ハッと振り返る。


「あれ…今、声が…」


別荘の裏手の方から、確かに人の声が聞こえたような気がした。
一瞬、ゾっとしたけど、もしかしたら、と思いながら、声のした方へと歩いていく。
その時―――――――リビングから続いているテラスの辺りに、人影が見えた。


「あ…花沢類…」


暗い中でも分かる、真っ白なコートが見えて、ホっと息をついた。
あそこにいたんだ、と、雪に足を取られないよう、近づいていく。
その時、「が…」という声が聞こえてきて、思わず足を止めてしまった。


(え、今…私の名前…言ってた…?)


花沢類がいるという事は、当然、静さんもいるわけで、あの二人の会話に自分の名前が出た事が多少なりとも気になった。


(何を話してるんだろ…)


そう思いながら建物の陰から、そっと聞き耳を立てる。
二人はテラスに設置されてある椅子に、腰をかけていた。


「…そう。そんな事があったの」
「うん。それで司がムキになってさ。あれは笑ったよ」


そう言いながら楽しそうな笑顔を見せる花沢類に、胸がドキンと鳴る。
あんな顔で、静さんに私の話をしてくれてる、と思うと、少しづつ鼓動が早くなっていく気がした。


「でも司も変わったわ?前はあんなに明るい顔、見せてくれなかったし」
「だろ?オレも総二郎もあきらも驚いてるよ。ああ、最近じゃケンカもしなくなったしね」
「やっぱり家族が増えたからかな。あの子、いい子みたいだし」
「うん。色々あったと思うけど、そんな顔見せないしね。まあ、あの司に食ってかかるくらいだし」
「ホントね」


ふふ、と静さんは綺麗に笑った。
自分の話をされてると、やっぱり少し恥ずかしい。(しかも内容が内容だけに)


「でも…」
「ん?」
「さっきは驚いた」
「え?」


ふと静さんが空を見上げた。
白い吐息が宙に舞って弧を描くように上がっていく。


「類があんな風に感情を出すなんて…よっぽど気に入ってるのね」
「…何の事?」


花沢類は静さんの言葉に、軽く首をかしげた。
そんな彼に、静さんは優しく微笑むと、髪に落ちてきた白い雪を払ってあげている。


「総二郎からちゃんを守ったじゃない?」
「…ああ…」


静さんの言葉にドキっとした。
花沢類は小さく笑みを零すと、「別に守ったとか、そんな大げさなものじゃないよ」と一緒に空を見上げる。


だって本気で嫌がってたわけじゃないと思うし」
「そうね。まあ…あの様子だと男の子にあまり免疫ないからだと思うわ」
「ああ、言えてる。いつも総二郎のスキンシップに真っ赤になってるし」


「……………」



その会話に思わず赤面してしまった。
会ったばかりの静さんにまで見抜かれてるなんて、何だか凄く恥ずかしい。
寒いというのに何故か頬が熱くなってきて、そっと両手で覆った。


「でも…ホントにビックリしたな…」
「…そう?オレは別に――――――――」
「あ、もしかして類、彼女のこと、好き?」
「…え?」
「だから総二郎に触れられるのが嫌だったとか?」
「…何言ってるの?静…」


花沢類が驚いたように静さんを見た。
私はといえば、今の話に一気に顔の熱が上昇して、鼓動もバクバクと早くなっていく。
これじゃいつまで経っても声をかけられない。
でも―――――――まだ聞いていたい気がする。
そう思っていると、不意に花沢類が立ち上がった。


「類?」
「静は…オレを試してるの?」
「…え?」
「オレの気持ち…知ってるだろ。なのに何で他の子が好きって言えるの」
「類…」


花沢類は大きく溜息をついたようだった。
この静けさは聞きたくないものまで、ハッキリと私の耳に届けてしまう。




「オレが好きなのは…昔も今も…静だけだ」




切ない響きで告げられる、花沢類の想い。
二人が抱き合うような音。
声も何も聞こえないのは、二人の吐息が交わった証拠だ―――――――


気づけば私は、その場から逃げ出していた。






どこまで走ったんだろう。
雪に足を取られ、転んだ時には、すでに別荘からだいぶ離れていた。
はるか上の方に、司達がいるであろう、スキー場の明かりが見える。


「はあ……冷た…」


雪に埋もれながら、白い息を吐き出す。
鼓動が早く打っていて、少し息苦しい。
それと同時に胸が痛むのは走ったせいだけじゃなかった。


「やだ…なん…で…涙が出るのよ…」


冷えた頬に熱い涙が伝っていくのに気づいて苦笑した。


バカみたいだ。
バカみたいじゃない?私…
この胸が痛い理由も、彼の言葉に一喜一憂してた理由も、こうなってからハッキリ気づくなんて。


「…ふふ…やだ…私…結構鈍いなあ…」


ゴシゴシと零れる涙を拭く。
気づいた途端に失恋だなんて、ホント笑えない。


花沢類の柔らかい雰囲気も、優しい笑顔も、温かい手も、みんな、みんな――――――――好き、だったんだ。


彼と一緒にいると私まで優しい気持ちになれるから。
あの穏やかな空気に触れると、心が癒されるから。


彼が誰を好きでも――――――――あの笑顔で見つめられるなら、どんな関係でもいいと思えるほどに、私は花沢類が好きだったんだ。





「バッカだなぁ…最初から無駄だって…分かってたのに…」




その場に寝転がり、冬の空を見上げた。
日本の空にはない美しさが、そこにはあって、綺麗な星たちがキラキラと頭上を飾っている。
こんな気持ちの時じゃなければ、凄くロマンティックなはずなのに。


「はあ…帰りたい…」


今はこの綺麗な空よりも、日本の、ううん、東京の汚い空が恋しく思える。

その時、携帯の着歌が突然鳴り出し、ドクンと心臓が跳ね上がる。
今、日本で一番ヒットしているラブソングで、その切ない詩が、また胸を痛くさせる。


「誰よ、こんな時に…」


グスっと鼻をすすりながらもジャンパーに押し込んでおいた携帯を取り出した。


「もしもし…」


どうせ遅いからって司から催促の電話だろう、と安易な気持ちで出てみれば―――――――



『おう、出たやん♪』


「―――――――なっ」


その声を聞いた途端、ガバっと起き上がった。


『ぁはははっ!驚いてる驚いてる!ビックリしたかー?』
「…や、大和…っ?!」


思ってもみない人からの電話に、一瞬ここは日本だったか?と辺りを見渡した。


『周り見渡してもオレはおらんでー?』
「な、何で分かるのよっ!」
『そらもう、のやりそうな事は全てお見通しや


能天気な声で笑う声が、冷えた耳に届く。
でも…さっきより胸が温かくなった気がした。


「あ、あっそ!悪かったわね…って、それより…どうしたの?今…」
『あー今は大阪向かってる途中の新幹線の中。、ついた頃かなー思て電話してみたんや』
「え…って、今そっち何時?」
『こっちは夕方の4時なるとこ。そっちは…』
「え、えっと…夜の…11時になるとこだと思う…」


慌てて腕時計を見れば、ちょうどデジタルの数字が11:00を示した。


『ひゃーもう夜中やん。ごめん、寝とった?時差あるの忘れとったわ』
「う、ううん…大丈夫…って言うか…これからナイター行こうとしてたから…」
『嘘やん、ええなー!もう滑ったん?』
「え、ま、まだ…」
『そっか。ああ、怪我には気ぃつけや?』
「うん……」


あれ、私…何普通に話してるんだろう。
これじゃ日本にいる時と変わらないじゃない。
でも―――――――ちょっとだけ落ち着く…大和の関西弁。


『でも出て良かったわ。海外やと携帯も繋がらんかなー思っててん』
「あ…海外でも使えるようにしてあったから…」
『そっかー。なら、また話せるな♪』
「…ぅん…」


明るい大和の声が聞こえるたび、胸の痛みが少しづつ和らいでいく気がする。
こんなタイミングでかけてくるなんて、ホント、何なんだろ、この人…


『どうしたん?声に元気ないで。何や鼻声やし…』
「そ、そんな事ないよ?」
『そうかー?あーもしかして、また風邪引いたとか!そっちは寒いんやから暖かい格好せなー』
「…大丈夫だってば…」


まるでお父さんみたいな事を言う、と笑みが零れる。
それと同時に胸が熱くなって、喉の奥が痛くなった。


『ならええけど…って、おーいー?聞いてるかー?』
「…ん…聞いてる…聞いてるよ…」


泣いてるのを悟られたくなくて、必死に声が震えないよう堪えながら答える。
それでも遠くに見えるスキー場のネオンが、どんどん歪んでいく。


『……?』
「……っ…」


優しい響きで名前を呼ばないでよ…
こんな時に…そんな風に…呼ばないで。


『…もしかして…泣いてるん?』


だから…そんな声出すから涙が止まらないんじゃない…。
大和はお笑い芸人なんだから…いつもみたいに笑わせてよね。


『…おい…』
「泣いて…ないってば」
『でも…声が震えてる』
「…こっちは凄く寒いの…今外だし…って言うか雪に埋もれてるしっ」
『はあ?』


涙を拭きながらヤケクソのように言えば、大和の素っ頓狂な声が鼓膜を劈いた。


『アホか、お前…何しとるん?』
「何も。ただ…星が綺麗で見てただけだよ…」
『はあ…夜中に寒い中、星見てたって…お前は究極のロマンティストかっ』
「…ぷ…っ」
『笑ってる場合かっ!はよ、あったかいトコ戻っとけよ』
「だ、だって…何かホントに芸人さんと話してるみたいで…」


泣きながらも、何だか笑いが止まらない。
だって想像できるんだもの。
大和がどんな顔で話してるか。


「…ありがとう」
『は?何やありがとうて…お礼言われるような事してへんで?』
「うん…でも…ありがとう、大和」
『…はあ…変なやっちゃなー。まあでも…元気なったみたいやしええか』
「うん…なった」
『そっか』
「うん」


笑ったら、ほんとに少し元気が出てきた。
白い吐息が上がっていくのを見ながら、また星を眺めた。
別に気持ちを言って振られたわけでもないし、何をセンチメンタルぶって、こんな寒いとこで泣いてるんだろ。


『おい』
「…ん?」
『…ほんまに…大丈夫か?』
「うん。星が綺麗だし、大和の関西弁も聞けたし。何か元気になった」
『お、関西弁バカにしとんのか』
「違うよ。誉めたんじゃない」
『そうかー?オレかて関西弁しか話せへんわけやないでー?』
「嘘…他に何弁話せるの?名古屋弁とか?」
『アホか。そんな言葉話すか。標準語や、標準語!』


得意げに言う大和にちょっと驚いて、「嘘、話せるの?」と聞けば、またしても「当たり前や」という返事。


『ええか、よう聞いとけよ?』
「う、うん…」
『んっん!』
「ぷっ」


何故か咳払いをする大和に、また吹き出すと、『笑うな』と怒られた。
そして小さく深呼吸するのが受話器の向こうから聞こえた後に、真剣な声が、耳にやさしく届いた。





「…え?」

『お前は…笑ってる顔が可愛いんだから…ずっと笑ってなさい』

「……大和…」



いきなり標準語で、そんな事を言う大和に、ドキっとさせられる。



『オレは…お前の笑顔が一番、好きだ』

「…え?」

『…ぜよ』

「―――ぶっ…ぁははは!」



突然、訛り、それも違う方言が出て、思わず爆笑してしまった。
当然のように受話器の向こうから、『爆笑すなっ!』という抗議の声が届く。


「だ、だって…途中までいい感じだったのに…急に何で土佐弁?!」
『うるさいわ、アホ!標準語、めっちゃ難しいんやでー?かて関西弁、話せへんやろ?』
「そんな事ないでー」
『…オイコラ…今、ぜってー関西弁、バカにしたろ』
「してへんまんねん…ぷぷ…っ」
『その使い方が間違っとるわっ!アホっ』
「ご、ごめ…ぁはは…ダメ…っお腹痛い…っ」
『あのなあっ』


何だか妙におかしくて、お腹を押さえて笑う。
大和はブツブツ文句を言いながらも、私につられたのか、
それとも最初から怒ってさえいなかったのか、気づけば一緒に笑っていた。


「ありがとう…」


いいだけ笑ったあと、やっぱり少し涙が溢れてきたけど、さっきよりは心が晴れた気がして、もう一度だけ、そう告げれば。


『…何や、今の距離がちょっとだけ悔しいわ…』


と、大和が小さく呟いた。











やっとこカナダへと旅立ちました、ぜよ(オイ)
ここから、やっとこ少しづつ話が動きそうな…予感じゃない。
後半、宇多田聴きながら頑張りました(笑)
(↑今、後半と打ったつもりが、何故か「睾丸」と間違えた…何故?Why?(死んじゃえばいいのに)(最近のマイツボ)


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●やっぱり花男大好きです!連載の続きが気になります!!
(ありがとう御座います!今後も頑張りますよー(>д<)/


●花より男子が大好きです!短編で類の夢をみていたいです。
(ありがとう御座います!類のドリも考えてますので、気長に待っててやって下さい<(_ _)>


●道明寺がサイコーに面白い。
(面白いなんて言って頂けると、ホント嬉しいっす!(笑)


●花男おもしろすぎです!!それぞれの性格もセリフにでていて、読みやすいですw
(げふん;;面白すぎなんて嬉しいお言葉!しかも性格出てますか?読みやすいと言ってもらえるとホント励みになります!)


●道明寺司が大好きですv
(ありがとう御座いますー(´¬`*)〜*