今までの私の恋愛は、恋に恋をしてたんだと思う。
相手を想って、こんなにも心が揺さぶられる事、そして苦しくなる事なんて、きっと一度もなかったから。
クリスマス当日。
夕べの猛吹雪が嘘のように、朝から快晴。
そのせいで遅くまで騒いでいたにも関わらず、司や西門さん達は、張り切ってスキー場へと出かけて行った。
もちろん、それほどスノボーなんてしたくもない私と花沢類も、半ば無理やり連れ出された。
花沢類はともかく、ヘタクソな私は少し練習して、上で滑られるくらいにはなってろ、という理由で…
そんな急に上手くなるはずないじゃない、と思いつつも、花沢類が付き合ってくれるというので、少しは気分が明るくなったんだけど。
「う…眩し…」
雪に反射する太陽の光に、思わず目を細める。
花沢類は殆ど目を瞑ってる状態で、もしかしたら立ったまま寝てるのかも…なんて思わせるほど。
「はあ…もう何で私まで…」
ブツブツ言いながらも上級者コースを見上げる。
アイツらには二日酔いとか寝不足といった言葉はないのか、と思いながら溜息をついた。
「花沢類、ごめんね?私に付き合ってもらっちゃって」
「…別にいいよ。皆といると疲れるまで滑らされるし…」
「でも静さんと一緒にいたかったでしょ…?」
「…そんな長い時間、離れるわけじゃないし…いいよ」
欠伸を噛み殺しながらも、そう言ってくれる彼に、思わず笑みが零れた。
「どーせ別々になるなら、私たち来なくて良かったのにね」
「司は自分達が遊んでるのに、オレたちだけ別荘で寝てるのが気に入らないだけだよ」
「…ったく…我がままな奴」
そうグチると、花沢類は小さく笑みを漏らした。
「でもオレたちがここで何しようといいわけだし…合わせて滑る必要もないでしょ」
「…え?」
「一足早くレストランでお茶しない…?」
「あ…うん…」
ニコッと微笑まれ、ドキっとした。
よく考えれば、こんな風に二人きりになれるなら、多少の寝不足はいいかもしれない。(我ながらゲンキンだわ)
「あ、じゃあ空いてる席あるか、ちょっと見てくる。は板、外して待ってて」
「うん、分かった」
欠伸をしながらも、レストランの方へ歩いていく花沢類に軽く手を振る。
少し緊張もほぐれて、小さく息をつくと、足からスノボーの板を外そうと腰を屈めた。
「わ…っ」
ドシンッ
その瞬間、バランスを崩し、僅かに滑り落ちた後、その場に尻餅をつくハメになった。
「いったぁ…もう…こんな緩い坂で何で転んでんの、私…」
自分自身に呆れつつ、何とか板を外して立ち上がる。
その時、ウエアのゴーグルポケットに入れていた携帯が鳴り出し、ドキっとした。
それも電話の着歌が流れ出し、慌てて中から引っ張り出す。
「もしもし?」
てっきりレストランを見に行った花沢類からだと思って、すぐに出た。
すると…
『……ぷっ』
「…??」
『…オレや、オレ!』
「……は?」
花沢類の声とは全く別の声に一瞬、戸惑った。
が、すぐに、あのニヤケた顔が頭に浮かぶ。
「…まさか…大和…?」
『大当たり〜♪そんなに、カナダで大和くんとクリスマスを過ごせちゃう、特別、豪華ディナーチケットをプレゼント!』
「………」
陽気なその声に、思わず大きな溜息が洩れた。
「あのね…何ふざけたこと言ってるのよ…」
『何や〜冷たいなあ。もう少しノッてくれてもええやん』
昨日メールを送ったのに返事もくれへんし…と大和はスネたような声を出した。
その言葉に、昨日大和から届いていた写メ付きのメールを思い出す。
「あ…ご、ごめ…昨日はちょっとバタバタしてて…」
『ふーん…ほんで今朝は早くからスノボーなんかしとんの?』
「えっ?な、何でっ」
そこまでバレてる事に驚き、つい聞き返す。
が、大和は苦笑しながら、
『そんなん分かるわ。どーせ何でもない場所でコケて、ケツが雪まみれなんやろ?』
「ちょ…どうして―――――――」
そこまでバレてる事にギョっとした。
が、周りはガヤガヤしているし、時々アナウンスの声も響いている。
これが聞こえたなら、私が今どこにいるのかなんて、すぐに分かるに違いない。
そう思って、また大和が当てずっぽうで言ってるんだ、と気づき、溜息をついた。
「それもどうせ勘なんでしょ?おあいにくさま!この二日間で上達して、今じゃ上級者コースだわよ」(!)
なんて大嘘だけど、日本にいる大和には分かるはずはないし、と内心、舌を出す。
すると受話器の向こうでケラケラと笑う声が聞こえた。
『ほな、そのケツが真っ白いのはどうしたん?』
「………ッ?」
『そんな慌てて手で隠さんでも』
「…ちょ…」
私の動作を詳しく言い当てる大和に、さすがに驚き、辺りを見渡す。
まさか、アイツがこんなトコにいるはずなんてない。
『そっち見てもおらんで?』
「な、またそれも当てずっぽうなんでしょっ?」
キョロキョロしながらも、そう言うと、大和は楽しそうに笑った。
『ほな後ろ見てみい』
「は?」
『上の方や』
「上って…」
半信半疑で恐る恐る振り返る。
そこには上から滑ってくる人たちが数人見えるくらいで、別に大和らしき人もいない。
また、からかわれてるんだと溜息をつきながら文句を言おうと口を開いた。
その時、すぐ近くで日本人観光客らしき女の子が見事にすっ転び、「痛ったぁいー!」という叫び声を上げた。
そして、その声は受話器を通しても聞こえてきた気がして、私はその場で固まった。
「ちょ…大和…あんた今、どこに――――――――」
『だから後ろ、見てみい言うたやん
♪』
「…………っ?」
その声がやけに近い気がして、私は思い切り振り返った。
すると携帯電話を片手に、スノボーで滑り降りてくる背の高い茶髪の男が一人―――――――
「Hello〜
♥ !」
「――――――――ッ!!」
綺麗なフォームで、見事に目の前に止まった男は、ゴーグルを外してニカッと笑った。
「司〜!ナイス!」
ジャンプを見事に決めた司に、総二郎はハイタッチをした。
「はぁ〜やっぱ、このコース気持ちいいな」
「だよなあ?類も来りゃ良かったのによー」
そう言った途端、司の片眉がピクリと上がる。
それに気づいた総二郎はニヤリとしながら、さり気なく溜息をついた。
「アイツ、ちゃんと一緒にいたくて下に残ったのかもなあ?」
「…………っ?」
総二郎のその一言に、更にピクリと眉毛が動く。
その様子に総二郎は笑いを噛み殺した。
「ま、まさか!類があんな女と一緒にいたいだなんてあるはずねーだろ…っ?」
「でも、類の奴、何気にちゃんと気が合ってるみたいだしよ〜」
「な、気、気が合うって…」
「ちゃんもちゃんで類と話してると、楽しそうだし」
「………」
次々に追い討ちをかけていく総二郎に、司の顔色が見て分かるように変わって行く。
そんな司を見ながら、総二郎はニヤリと笑った。
少し上では、あきらと静が楽しげに滑っている。
時折、静も二人に手を振ったりしていて、総二郎も笑顔で手を振り返した。
「…お、おい」
「ん?」
「そ、そろそろ…腹減らねー?」
案の定、司が落ち着きのない顔で、そんな事を言いだした。
さっきの話で、下の二人が気になってきたんだろう。
総二郎は気づかないフリをして、「朝、あんなに食ったろ?まだ減らねーよ」と素っ気なく返した。
すると司は困ったように頭をかきながらも、さり気なく時計を確認している。
「んじゃーオレ、先に下りてメシ食ってくるわ」
「あれだけ食って、もう腹減ったのかー?司」
「そ、そんな食ってねーよ、オレは…。じゃあ静やあきらに、そう言っといてくれ」
「…りょーかーい
♪」
いかにも怪しい司の態度に、総二郎はそれ以上、何も言わず笑顔で見送った。
司は慣れた様子で、急斜面を見事に滑りながら、下へと降りていく。
それをニヤニヤしながら見ている総二郎の下へ、静、あきらがやって来た。
「司、どうだった?」
「ああ、思ったとおり、速攻で降りてったぜ?」
「やっぱなー。これじゃ司も本気って事かな」
あきらはワクワクしたように言い出し、静も嬉しそうに、「そうね」と微笑んだ。
が、総二郎は軽く首を捻ると、
「でも…司に言ったように…類までって事…ねぇーよなあ?」
「…え?」
その一言に、静がドキリとした顔で振り返った。
そんな様子に気づかず、総二郎は手を顎に当てると、
「アイツも何だかんだ言って、ちゃんの事、気にかけてるって感じじゃん?昨日だって、アイツだけちゃんの元彼事情知ってたし」
「あれは二人でいる時にあったからだろ?類は妹みたいに可愛がってるだけなんじゃん?類は元々静一筋なんだし」
「まあ…そうなんだけど…。類は今まで、あまり他人に興味示さなかったしな…」
「ちゃんは他人じゃねーだろ。司の親戚なんだし。類もその辺、大人になったって証拠だよ」
あきらはそう言いながら呑気に笑っている。
静は二人の会話に軽く目を伏せた。
「ま、でも、女にあまり社交的じゃなかった二人がちゃんの出現によって、いい方向に変わりつつあるなら、いい傾向だけどな」
総二郎はそう言いながら、すでに見えなくなった司の姿を思い出すように、目を細めてゴーグルを下ろした。
「な…何…してんの…?!」
私は信じられないものを見たように固まって、目の前でニヤケている大和を頭から足の先まで眺めた。
「何て…旅行やで?オレんトコの別荘も、この近くにあんねん。まあ道明寺家の別荘とは反対方向やけど」
「な…だからって…だって大和、実家に行くって…」
「行って来たで〜?でもと電話で話してから、何となく気にかかってなあ。まあ、見た感じ、元気そうやけど」
「き、気になったからって…普通来る?こんな海外までっっ」
ありえない返答に思わず怒鳴った。
それでも大和はヘラヘラしながらゴーグルを外すと、
「ええやん。オレも久々に滑りたくなったし」
「滑りたくなったって…。え?!って事は昨日メールにくっついてた写真は…」
「ああ、昨日、ここで撮ってん。気づかんかった?」
「…き、気づくわけないでしょっ!一体いつから来てたのよっ」
「ああ、ついたんは昨日や。別荘行く途中にスキー場見えたし、を探しがてら初滑りしたなって」
「……………」
呆れてものも言えない、とはこの事だ、と息をついて、その場にしゃがみこんだ。
てっきり日本にいると思ってた人が、いきなり目の前に現れれば、誰だって驚く。
「で…いつから見てたの…?」
脱力しながらも尋ねると、大和はニヤリと笑いながら、目の前にしゃがんだ。
「メールの返事もないから、ここ来れば会えるかなー思て初心者コース見て回ってたら、最初に花沢クンが目に付いてん」
「…え?」
「んで、もしかしたら、と彼の周りを見てたら、ちょこまか滑ってはコケてるを発見したっちゅうわけ」
「…!ちょ、ちょこまかは余計よ!だいたい初心者コースにいるって決め付けてるのが気に入らないっ」
ムキになってそう言うと、大和は楽しそうに笑って、「でも当たってたやん」と得意げな顔をする。
その顔を見てたら、司じゃないけどヘッドバット&ヘッドロックをかましてやりたくなった(!)(昨日、司が光輝相手に炸裂させてたし)
でも身長差がありすぎて、到底無理な話だと諦める。(というか、あんなプロレス技、生で見たのすら初めてだし!)
(やっぱり司のガサツさが移ってるのかな…)
自分の思考に少々不安になりながらも、とりあえず、この状況をどうしようかと考える。
司の顔を思い出した事で、かなり不安になってきた。
現実問題、大和がF4に見つかったら、相当ヤバイ。
司は大和の事をよく思ってないみたいだし、こんなとこにまで来たなんてバレたら大和は昨日の光輝のようにボロ雑巾の如く―――――――
(…本気でマズイかも…)(ゾ)
司の暴れっぷりを思い出し、背中に冷たいものが走った。
「どうした?。まだ怒ってんの?」
「………」
呑気に顔を覗き込んでくる大和に、呆れ顔で溜息をついた。
「ホントに呑気ね…」
「おー何や、その呆れ顔は」
「普通呆れるでしょ?もし司たちに見つかったら、どうするの?」
「どうするて…挨拶するで?ちゃんと」
「っ?!そういう問題じゃないでしょっ!」
「……っ」
思わず怒鳴ってしまうと、大和はギョっとしたように飛び上がった。
「…何で怒鳴るん?はるばる会いに来た未来の義弟に向かって…」
「な、何よそれ!義弟になんてならないわよっ。だいたい大和の方が年上でしょっ?」
「ああ、ならオレがフィアンセになるっちゅう手もあんねんけど♪」
「な・ら・な・い!!」
息をゼェゼェさせながら怒鳴ると、大和はスネた顔で「冷たいなぁ…」とイジケ出す。
が、ふと視線を遠くに向けると、ゴーグルを下ろして私の頭をクシャリと撫でた。
「花沢クンが戻って来たみたいやし、オレは消えるわ」
「…え?!あっ」
その言葉に振り返ると、確かに花沢類がこっちに戻ってくるのが見えてドキっとした。
そして素直に消えると言い出した大和は、
「見つかるとは困るんやろ?オレ、を困らせる為に来たわけとちゃうし…ここは大人しく帰るわ」
「…あ、大和、ちょっと…っ」
「ああ、これ、うちの別荘の住所と地図。暇やったら遊びに来てな?オレも暫く滞在しとるし」
その優しい笑みに思わず差し出されたメモを受け取る。
大和はそんな私にニッコリ微笑んだ。
「あの…大和…」
「ん?」
「ホントに…心配して来てくれたの…?」
冷静になって考えてみれば、そこまでしてもらうような仲でもない。
なのに大和は日本からカナダまで来てしまった。
彼は結城グループの息子なんだから、私が思うより難しい事ではないのかもしれないけど、それでも普通じゃない気がした。
そう思っていると、大和はちゃかすような笑みを浮かべ、「何?感激してうっかり惚れた?」などと軽口を叩く。
私は思い切り半目になってしまった。
「あのね…」
「うそうそ、ジョークやって!まあ…でも心配やったんはほんまの事や。ただ…他にもちょっと野暮用っちゅうか…個人的に用があるけどな」
「…ふーん…」
「おっと…モタモタしとったら花沢クンに見つかってまうなー。ほなオレは消えるし!今度はメールちゃんと返信してや!」
「あ…っ」
そう言うや否や大和はあっという間にスノボーで滑って行ってしまった。
「嘘…何、上手いじゃない…」
大和の滑りに唖然としていると、不意に後ろからポンと肩を叩かれた。
「…?」
「ひゃ…っ」
字の如く、飛び上がって振り返ると、私と同じように目を丸くしている花沢類が立っていた。
「な、何だよ、そんな驚いて…」
「あ、ご、ごめん…なさい。ちょっとボーっとしてて―――――――」
「…っていうか…今の誰?」
「――――――――えっ?!」
見られてたとは思わず、目を丸くすると、花沢類は訝しげな顔で首を傾げた。
「今…誰かと話してたろ?」
「あ、あの」
「ああ…ナンパでもされた?」
「…へ?」
そう言いながら目を細めた花沢類に目が丸くなった。
「ち、違うの…!えっと…」
幸い、花沢類は大和だとは気づいていない。
どうやって誤魔化そうかと考えていると、花沢類は僅かに顔を顰めながら、私の頭をクシャっと撫でた。
「…あまり知らない人と話すなよ」
「…え?」
「スキー場なんてナンパ目的で来てる奴が多いんだし…は人が良さそうだからさ」
そう言って顔を背ける花沢類は少しだけ怒ってるような気がした。
もしかして心配してくれたのかな、と鼓動が早くなる。
「…あの―――――――」
「でも…」
「…え?」
「さっきの奴…誰かに似てた気がするんだけど…」
「―――――――――ッ」
そう言って振り向いた花沢類に、さっきとは違う意味でドキっとした。
あの距離ではハッキリ分からなかっただろうけど、大和の事は花沢類も何度か会ってるし知っている。
「だ、誰かって…?」
「さあ…それより…空いてる席あったよ」
そう言って花沢類はレストランの方へと歩いて行く。
それ以上、気にもしてない様子にホっとしながら、私も慌てて後からついて行った。
「、何飲む?」
「あ…えっと…紅茶にする」
そう言うと、花沢類は流暢な英語でウエイトレスに注文してくれた。
なかなか愛想のいい子で、「YES」と応えると可愛らしい笑顔を振りまき、厨房の方へと戻っていく。
花沢類にだけ視線を向けてたところを見ると、どうやらウエイトレスの子も彼が好みらしい。
外国の女性にまでモテるんだと思うと、やっぱり綺麗な顔は世界共通なんだ、と変なとこで感心する。
「…何?」
頬杖をつきながら窓の外を眺めていた花沢類が、ふと私を見た。
綺麗な瞳で真っ直ぐ見つめられたらドキっとして自然と頬が赤くなってしまう。
「あ、ううん…何でもない…。あ、皆はまだ滑ってるかな」
わざとらしいくらいに笑顔を見せながら窓の外に顔を向けた。
真っ青な青空から、明るい太陽の光が降り注ぎ、ゲレンデを滑ってくる人たちを照らしている。
「まだ時間も早いし…夢中で滑ってるよ」
「そっか…元気だよね。昨日、あんなに騒いだのに」
「慣れてるからね。どうせ今夜も飲むよ。クリスマスだし…」
花沢類はそう言いながら運ばれてきた紅茶を受け取ると、私の方へと置いてくれた。
「あ、ありがと」
カップを受け取り、砂糖を入れてかき混ぜる。
花沢類も紅茶を口に運びながら、軽く息をついた。
その横顔はどこか遠くを見ていて、こんなに近くにいるのに何となく距離を感じる。
その事にやっぱり寂しくなった。
花沢類の隣が似合うのは、静さんしかいなくて、夕べだって二人を見てて思い知らされた。
「ん?」
「…え?」
黙って見ていると、花沢類は怪訝そうな顔をしながら窓の外を見た。
「どうしたの?皆、戻ってきた?」
「…いや…」
渋い顔をした、花沢類は、「会いたくない顔が見えた」と入り口の方に視線を向ける。
私もつられて顔を向けると、レストランの入り口から、夕べ、司に追い返された光輝と唯、そして友坂さんと堺くんが入ってくるところだった。
げ…っと思って慌てて顔を反らす。
が、堺くんが気づいて、こっちへ歩いて来た。
「よ、。また会ったな」
「こんにちは」
「……どうも」
きっと昨日の事情を知らないんだろう。
堺くんと友坂さんは普通に挨拶をしてきた。
けど光輝と唯は苦虫を潰したような顔で私を見てプイっと顔を反らした。
唯は見た感じ、怪我もしてないようだけど、光輝は明らかに殴られた顔をしている。
しかも顔中にバンソウコウが貼られていたから、思わず噴出してしまった。
「てめ…何笑ってんだよっ」
「あー笑うでしょ。コイツ、夕べ出かけたきり帰ってこなくてさあ。帰ってきたらこの状態だったんだ。酔っ払いとケンカしたって言うし驚いたよ」
何も知らない堺くんはそんな事を言いながら笑っている。
光輝もそれ以上、何も言えなくなったのか、私の事をジロっと睨むと、再び顔を反らした。
「それはお気の毒。光輝、昔からイキがるとこあったから」
「…あぁ?何だと、コラ…」
紅茶を飲みつつ、澄ました顔でそう言うと、光輝が顔を真っ赤にした。
そして向かいにいる花沢類はと言えば、「ぶ…っ」と吹き出して、クックックと肩を揺らして笑っている。
それを見て光輝はますます口元を引きつらせた。
「偉そうな口、利くようになったじゃねーか」
「別に。ケンカが弱いんだから忠告してるだけよ」
「……っ!」
「ぷ…うくく…」
私の言葉に花沢類は更に笑っている。
すると唯がムっとした顔で私の前に立った。
「ちょっとF4にかまってもらってるからって随分な態度じゃない?」
「…F4は関係ないわ。興味津々だったのは唯でしょ?」
そう言い返すと、唯はムっとしたように目を吊り上げた。
プライドだけはエベレスト並みに高い彼女は、倒産して落ちぶれた私に、こんな事を言われるのが我慢ならないんだろう。
「よく言うわよ…。だって相当なものじゃない」
「…何の事よ」
「あんただって金持ちの男には興味津々じゃないって言ってるのよ」
「…何ですって?」
さすがにムカッと来て、唯を睨む。
すると唯は鼻で笑って花沢類を見た。
「花沢さんや、道明寺さんに媚売ってるクセに、また金持ちの男を引っ掛けてるなんて恐れ入ったわ?」
「…だから何の事よ!」
私の事だけじゃなく、花沢類のことまで持ち出され、カッとなる。
椅子から立ち上がると、唯は一瞬、ひるんだ様に一歩後ろへ下がり、それでも私を睨みつけた。
「私、さっき見たの」
「だから何をっ?」
「あんた…結城グループの跡取り息子と話してたでしょ」
「……っ?」
いきなり大和の事を口にされ、ギョっとした。
慌てて花沢類を見れば、彼も驚いたように私を見上げている。
「…な、何の事…?」
「とぼけないで。私、知ってるのよ?結城グループの跡取り息子の顔くらい」
「…ちょ…彼は―――――――」
「さっき仲良さげに話してたわよね。道明寺グループとはライバル関係にある会社の息子にまで手をつけようとしてるなんて最低ね」
「違うわよっ!大和は別にそんなんじゃ―――――――」
「大和?随分親しげじゃない。花沢さん、知ってました?」
そう言って花沢類を見る。
花沢類は唯の言葉に動じることなく溜息をつくと、いきなり椅子から立ち上がった。
「知ってるよ?彼なら英徳の学生だから。でもあんたには関係ない」
「………っ」
そう言って唯を冷たい目で見下ろす。
すると唯はムっとしたように唇を噛み締めた。
「怒らないんですか?花沢さん、と付き合ってるんですよね?夕べそう言ってたし」
「ちょっと唯…!いい加減にしてっ」
これ以上、私の問題に花沢類を巻き込みたくない。
そう思って唯の肩を押す。
「結城グループの跡取り息子とが二人でコソコソ会ってたんですよ?は金持ちの息子なら誰でもいいんだから」
そう言った瞬間、花沢類が怖い顔で唯の事を睨みつけた。
「それ以上、を侮辱したら…昨日みたいに、店から放り出すよ」
「……っ」
「花沢類…?」
その言葉に、唯だけじゃなく、私も驚いて顔を上げた。
こんな風に激しい感情を出す彼を初めて見た。
「おい…昨日って…何の事だよ」
そこで堺くんが訝しげな顔で割り込んできた。
それには唯もしまった、といった顔で目をそらす。
「何でもないの。夕べ、買い物に出た時、ちょっと彼女達と偶然会っただけ」
私がそう誤魔化して説明すると、唯はジロっと睨んできた。
余計な事はするなと言いたげだ。
「…おい行こうぜ」
光輝も嘘がバレると厄介だと思ったのか、それとも花沢類がいると分が悪いと思ったのか、気まずそうな顔で奥の席へと歩いていく。
友坂さんは怪訝そうな顔で見ていたが、光輝の後ろから慌ててついていった。
それを見て唯と堺くんが追いかけていくのを見ながら、内心ホっと溜息をついた。
が、一つ聞き捨てならない事があったのを思い出し、「唯」と呼び止める。
「何よ…まだ文句あるの?」
「そうじゃないけど…大和…結城大和は…跡取り息子なんかじゃないわよ?」
「…え?」
「彼はおき楽な二男だもの。跡取りは彼のお兄さんだし、当然私も彼らとは関係ないわ」
どうせ金持ちリストなんか持ってる唯の事だから、適当に調べたんだろうと、そう説明すると、彼女は訝しげな顔のまま、私を見て苦笑した。
「何言ってるの…?」
「…何って…」
「結城グループの跡取り息子の顔くらい知ってるって言ったでしょ?」
「だからそれは…アイツが双子の弟で――――――――」
「そうよ?でも…」
そこで言葉を切ると、唯は得意げな顔で、一言、
「彼のお兄さん、とっくの昔に亡くなってるじゃない。そんな事も知らないで会ってたの?」
「…え……?」
唯の言葉に、私は思わず言葉を失った。
「…はあ…」
携帯を見つめながら重苦しい溜息だけが零れ落ちる。
気づけば日も暮れて、空には真っ赤な夕焼けが広がっていた。
「…電話…かければ?」
隣にいた花沢類は、呆れたように読んでいた本から顔を上げた。
その言葉に「う、」とつまり、再び携帯のディスプレイに目を向ける。
でもどうしても通話ボタンが押せなかった。
あんな話を聞かされ、滑る気分でもなくなった私は、花沢類と早々に別荘へ戻ってきていた。
それでも落ち着かず、大和に真相を聞こうかと悩みながら、とうとう、こんな時間になってしまった。
「で、でも彼の家の事情だし、関係ない私が立ち入った事を聞くのは…」
「だったら放っておきなよ。元々嘘をついたアイツの方が悪いんだし」
「で、でも…」
そう言いかけると、花沢類の目が細くなった。
ハッキリしない私にきっと呆れてるんだろう、と、そこで言葉を切る。
すると花沢類は小さく息を吐き出して、しゅんと項垂れている私の頭を優しく撫でた。
「と彼がどういった関係で仲良くなったのかは分かったけど…でもそれで彼がお兄さんの事を話さなかったのは、の事をからかっただけなんじゃない」
「…花沢類…」
「元々婚約の話だって怪しいよ。のお父さんの方にだけ話がいって、当の本人は後から聞かされたなんてさ。そもそもが婚約したのは誰だったわけ?」
「…それは…」
「話では彼のお兄さんだったらしいけど、そのお兄さんはだいぶ前に亡くなってるみたいだし…普通その時点で婚約はなかった事になるだろ?」
花沢類の言葉に私は小さく頷いた。
でも、じゃあ何故彼はそれを隠して、お兄さんの話をしたんだろう。
そもそも、どうして私に近づいてきたりしたんだろう。
よく考えると分からない事だらけだ。
「…そうだよね…。ホント…からかわれただけなのかも」
そう言って溜息をつくと、花沢類も小さく息を吐き出した。
「は人が良すぎるよ。すぐ知らない奴、信用したりして」
「だ、だって…お父さんから聞いてた話とか、色々知ってたし…それに…」
「それに?」
「…大和のお兄さんが…子供の頃、司の家のパーティで私に花をくれた人だって言うから…」
それだけ言って顔を上げると、花沢類は呆れたように目を細めた。
「そんな事で信用するなよ…」
「だって…!私にとったら、あの思い出は凄く大切なもので…初恋…だったんだもん…」
だからこそ知りたかったんだ。
大切な子供の頃の思い出だから…
それに…大和が嘘をつくような人には何となく思えなくて。
軽くていい加減そうな奴だけど、でも…悪い奴じゃないって思う。
だからこそ今だって、心のどこかでアイツの事を信用してる。
ちゃんと大和の口から本当の事を聞きたいって思う。
「はあ…」
私が黙っていると、花沢類は困ったように溜息をついた。
「行ってきたら?」
「…え?」
「アイツの別荘…知ってるんだろ?さっき話してたみたいだし…」
「あ…あの…ごめん…隠してて…」
さっき、大和の事を話さなかったという気まずさで目を伏せると、花沢類は軽く苦笑した。
「いいよ、別に。どーせ司とケンカになっちゃ困るとか心配したんだろ?」
「…う…」
「まあ実際そうなるだろうし…」
「や、やっぱり…?何で司は大和のこと、そんなに嫌うんだろ…ね?」
「……はあ…」
「え、な、何で溜息つくの?」
呆れ顔で軽く頭まで振っている花沢類に首をかしげると、彼は目を細めたまま、
「分かってたけど…って想像以上に鈍だね」
「…どん?って、どういう意味?」
「…いいよ。それより…行かなくていいの?早くしないと、そろそろ司たち帰ってきちゃうけど」
「え?あ…いけない…」
そう言って立ち上がると、花沢類も一緒に立ち上がり、私の頭にポンと手を乗せた。
「司には上手く言っておくし…心配しないでいいから」
「…う、うん…ありがと…」
「ああ、でも」
「え?」
「なるべく早く戻る事」
花沢類はそう言うと少しだけ怖い顔をした。
「どーせ、アイツ別荘に一人で来てるんだろ?」
「え、あ…多分…」
「だったら…何かと危ないから…出来れば外で会った方がいいよ」
「え…な、何で?」
思わず、そう尋ねると花沢類の目がますます細められ、
「あのさ。一応アイツも男だろ?二人きりになったら何されるか分からないじゃん」
「…え、えっ?!ま、まさか!」
やっと言ってる意味が分かり、一気に顔が赤くなる。
「大和は…そんな奴じゃないわ?それに前だって家に…」
そこで言葉を切った。
大和のマンションに行って看病した、なんて事まで話す事はない。
変に誤解されても困るし…
「と、とにかく、心配しないでいいから」
慌てて、そう言うと花沢類は訝しげな顔のまま、それでも「何かあれば電話して」と言ってくれた。
それが凄く嬉しくて、笑顔で頷くと、花沢類は「んじゃ早く行っといでよ」と背中を押してくれる。
私はそのまま彼に見送られながら、大和の別荘の近くまで、リムジンに乗せてもらった。
「えっと…この辺…かな…」
さっき大和にもらった住所を見ながら、裏通りに入る。
すると長い一本道が続いていて、そこを上がって行った。
さすが別荘地ともなると、殆ど徒歩でなんか歩かないんだろう。
かなりの長い距離で坂道が続いていて、上についた頃には、私も息が切れて、足まで痛くなっていた。
「はあ…やっとついたぁ…」
目の前に聳え立つ大きな別荘を見上げる。
ここも司の別荘と負けず劣らず、かなり豪華だ。
私はエントランス前まで歩いて行くと、軽く深呼吸をしてからドアの横に設置されている装飾されたチャイムのボタンを思い切り押した。
するとリンゴーンという鐘のような音が響いて聞こえてくる。
なかなか返事がなく、もう一度押してみると、暫くして大和の声らしきものが聞こえてドキっとした。
そして思い切り目の前のドアが開いた瞬間、
「…ぅるさいなあ!いちいち来なくていい―――――――ッ?」
煩わしそうな顔で大和が現れ、私を見た瞬間、ビシっと固まった。
「な…何でおんねんっ?」
「あ、あの…こんばんは…」
あまりの驚きように、ついそんな言葉が口から出る。
それでも大和は唖然とした顔で口をポカンと開けていた。
「きゅ、急に来ちゃってごめん…。あ、出かけるとこだった…?」
「え?あ、ああ…いや…」
目の前の大和は何故かスーツを着ていた。
ネクタイを締め、いかにも、これから出かけるといった感じだ。
でも大和は何故か首を振ると、
「別に…それより…お前、どうしたん?ってか来るなら電話してくれたら良かったのに…」
「う、うん…そう思ったんだけど…」
「と、とりあえず…入り」
やっと落ち着いたのか、大和はそう言うと、私を中へと促した。
「お、お邪魔します…」
広いエントランスロビーへと足を踏み入れながら、私は小さく深呼吸をすると、リビングに案内してくれる大和の背中を見た。
もし唯の言った事が本当でも…きっと何か言いたくなかった事情があるんだ。
大和は…からかうだけで、あんな作り話、しないよね…?
「適当に座って」
「…うん」
そう思いながら、私は促されるまま、広いリビングへと足を踏み入れた。
「おい、類!てめー何で先に帰ってんだよ!」
が出かけてから30分後、司たちが帰ってきた。
暖炉の前で本を読んでいた類は、司に頭を小突かれ、煩わしそうに顔を上げると、「メールしたろ?」とだけ応えて、再び本に目を戻す。
それでも司は納得いかないような顔でソファに座り込んだ。
「けっ。何が疲れたから帰る、だよ!疲れるほど滑ったのか?」
「…滑ったよ…」
本から顔を上げずに応える花沢類に、司はムっとしたように目を細めた。
「んで…アイツは…?」
「…アイツ?」
「だから…だよ!」
分かってるクセに、わざとトボケた類は、だんだん前より分かりやすく態度に出ている司に内心噴出しそうになった。
「ああ…部屋で休むって。風呂入るって言ってたかな」
「…ふーん…」
「皆は?」
「…先に風呂入るってよ」
「あっそ。じゃあ司も入ってきたら?滑りまくって汗かいたろ」
そこで本から顔を上げると、花沢類はニッコリ微笑んだ。
「な、何だよ。気持ち悪りーな…。やけに機嫌いいじゃねーか」
「そう?」
「ああ…。何か…いい事あったのか…?」
「別に」
「…ふーん…」
訝しげな顔で自分を見ている司に、類は笑いを噛み殺した。
どうせ司が気にしているのは、と二人で何をしてたんだ、というとこだろう。
「んじゃあ…オレも風呂、入ってこよーかな…」
「そうしなよ。そろそろシェフも料理運んでくる時間だろ?」
「ああ、今夜のディナーは昨日よりすげーからな」
「まあ今夜が本番だしね、クリスマスは」
類がそう言って笑うと、司も「まあ、そうだな」と言いながら椅子から立ち上がった。
その瞬間、大きなチャイムの音が響き渡り、二人は顔を見合わせた。
「お、噂をすれば…来た様だな」
「良かった。オレ、腹減ってたんだ」
「お前、皆が揃うまで待ってろよ?先に食うな」
「…分かってるよ」
そう言って口を尖らせる類に苦笑すると、司は上着を脱ぎ捨て、そのままエントランスへと向かった。
「おう、キッチンに運んで――――――――ッ?!!」
ドアを開けた瞬間、言葉を失う。
その様子に奥から類が顔を出した。
「司?料理届いた……っ?」
そこで類も固まる。
「―――――――て、てめぇ…何しに来たっ」
「…相変わらずね、司…久しぶりに会ったって言うのに初めの挨拶がそれなの?」
エントランスに立っていたのは、司の母、道明寺楓だった。
花男小説のデザインを変えてみました。明るくなったかしら★
で、今回はまた中途半端なとこで終わりましたねー(;^_^A
次辺りから…どんどこ話は進んでく…かな?
いつも励みになる感想をありがとう御座いますー<(_ _)>
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●花男大好きですww(高校生)
(ありがとう御座います〜(´¬`*)〜*
●全ての作品を読ませてもらっています。いつも楽しい時間をありがとうございます。(社会人)
(ぎゃふ;;す、全ての作品ですか!そ、それはありがとう御座います!こちらこそ励みになるコメント頂けて凄く嬉しいです(*TェT*)
●L夢もスキですが、花男夢大好きです!類を思いながら悩んで苦しんで頑張っているとところがたまらなくイイです!更新は焦らずマイペースに、HP運営頑張ってくださいね♪(大学生)
(ヲヲーありがとう御座います!そう言って頂けると嬉しいですよー♪これから少しづつ動いていくと思われますので待ってて下さいね(´¬`*)〜*
●花より男子の花沢類の雰囲気にどきどきします。(実は私、こちらの小説を読んでドラマ見ました!)(高校生)
(ひゃー;;当サイトの小説を読んでからドラマ見たんですか!そ、それは光栄です(>_<)これからも頑張りますね!)
●花男夢、とても気に入りました!F4の魅力にキュンキュンしながら読んでます(ノ´∀`*)(その他)
(花男夢、気に入って頂けて凄く嬉しいです!原作のように、これからもF4にも活躍させちゃいますね(笑)
●類の「渡したくない」発言に「キャー!!」と叫びました(笑)類がヒロインを特別視してくれると嬉しいのですが静さん居ますもんね(苦笑)この先も頑張って下さいませvv応援してますー!!(高校生)
(キャー!(*ノωノ)そこに反応頂いて嬉しい限りです!ちょっと類にあんな台詞を言わせてみたかった…(個人的かっ)これからも頑張ります!)