未来の夢









目が覚めると、大阪は朝から澄み切った青空が広がっていた。
よく枕が替わると眠れない、なんて聞くけど、私に限っては一切、そういうこともなく。
初めて来た家だと言うのに、昼頃までグッスリと爆睡してしまったようだ。


「ご馳走様でした」


豪華なランチを用意してくれた梅さんに、食事の後、声をかけると、「親に連絡はついたんか?」と聞かれた。


「はい。今朝、電話してみたらやっと繋がって。夜までには戻るそうです」
「そうかい。なら良かったやないの」
「はい、ホントお世話になりました」


そう言って頭を下げると、梅さんは「大した世話はしてへんよ」と苦笑いを浮かべた。


「で…夜までどうする気なんや?」
「あ…それが…時間つぶしに大和が大阪を案内するって言ってくれて」
「…坊ちゃんが?ああ、それで車頼んでたんやね」


そう言いながら梅さんはニヤリと笑い、「あんた…さんの娘さんなんやってね」と言った。


「え…あの、父を知ってるんですか?」
「知ってるも何も…旦那さまに話だけは聞いてるよ。あんた…海斗坊ちゃんの婚約者やったんやろ?」
「……っ」


いきなり、その話を持ち出され、ドキっとした。
そんな私を見て、梅さんは「まさか大和坊ちゃんが連れてくるとはね」と呟いた。


「あ、あの…」
「まあ詳しい事は知らんけど…不思議なもんやねえ…。双子ってのは、好きな子まで同じになるものなのかねぇ…」
「…え」


いきなり核心をついた事を言う梅さんにギョっとしていると、不意に後ろから声がした。


「梅さん、余計なこと言わんでええって」
「あ…大和…」


振り返ると着替えを済ませた大和が苦笑いを浮かべて立っている。
梅さんは、「乙女の話を立ち聞きなんてするもんやないで」と言って深々と溜息をついた。


「はいはい…って、誰が乙女やっ」
「ほう?そない口利くんは、この口か?」


間髪入れずに突っ込んだ大和に対し、梅さんは怖い顔で睨んでいる。
そんな梅さんに、大和は舌を出すと、私の手を掴んだ。


「ほなサッサと行こか」
「え、あ…あの…お邪魔しました」


グイグイと腕を引っ張られながらも梅さんに声をかけると、苦笑しながら、「また、おいで」と言ってくれて、私は笑顔で頭を下げた。
最初は怖い人だと思ったけど、道明寺家のタマさん同様、根はいい人のようだ。
きっと子供の頃からお世話してる"坊ちゃん"が心配なだけなんだろうな。


「はい、乗って乗って」


二人で外に出ると、目の前に止まっているベンツに押し込まれ、隣には大和が乗ってきた。
それを合図にベンツは静かに走り出し、一体どこへ行く気だ、と大和を見れば、大和はニコニコしながら、「どこ行きたい?」と尋ねてくる。
どこへ行きたいと聞かれても、ハッキリ言って大阪初心者の私には、そんな事すら分からない。
そうこうしているうちに、ベンツは住宅街を抜けて、都心を走っていた。


「よく分からないし…大和がいつも遊んでたとこでいいよ」
「…オレ?そやなあ……ほんじゃ梅ブラでもしよか」
「…梅ブラ?何それ…」
「知らん?ほら東京なら、銀ブラ言うやん。銀座でブラブラ。大阪の若者はまず梅田やろ」
「…大和に任せる…」


意味不明な切り替えしに、そう言うと、大和はスネたように目を細め、


「そないアホ見る目ぇで見なくてもええやん…。もっと楽しそうにしてくれな」
「……はいはい」
「何や、やる気のない返事やなあ」


大和は苦笑交じりで、そう言うと運転手に何か指示を出している。
私は窓を少し開けて外を眺めると、小さく息をついた。
別に楽しくないわけじゃない。
知らない街に来たんだし、普通に観光とかもしてみたい。
でも今の私は他に気になることがあって、どうしても、そっちに気がとられてしまう。
今朝、父に連絡がついたものの、これから話さないといけない事は、私の今後にも関わる事だ。
やっぱり呑気にしてはいられない。


なんてボーっと考え込んでいる間に、ベンツは目的地に到着したようで、大きなビルの前で止まると大和が先に車を下りた。


「ほら、着いたで」
「え?」
「え、やあらへん。はよ下りぃ」


グイっと腕を引っ張られ、車を下りると、そこは若い男女が溢れている、東京で言えば渋谷みたいな場所だった。


「この辺、前はよう来ててん。女の子が好きそうなもん結構あんで?」


大和はそう言いながら、慣れたように歩き出す。
仕方なく手を引かれながら着いて行くと、不意に赤いビルの前で立ち止まり、「ここ入ってみよか」と振り向いた。
そう言われて見上げてみると、ビルにはHANKYUと書かれていて、中も人で溢れかえっていた。


「ここは?」
「んーまあ、ショップやらアミューズメントパークやら色々あんねん。ここの上にジョイポリスもあるしな」
「…へえ…大阪にもあるんだ」
「お、今バカにしたな?」
「そ、そういう意味じゃなくてっ」


額を小突かれて睨むと、大和は楽しそうに笑いながらエレベーターに乗り込んだ。
大和はさっきから一人で楽しそうだ。


「ここ、よく来てたの?」
「ああーまあ。学校帰りにツレと暇つぶしにな」
「そう。ああ、もしかしてデートとか」
「お、気になる?」
「そ、そういうんじゃないわよ」


ニヤリと笑いながら顔を覗き込んでくる大和に、そう言って顔を反らす。
大和は苦笑しながら、「そんな即答せんでも…」と言いつつ、


「そういう事もなかった言えば嘘になるけど…まあ対外は男女入り混じって大勢やったわ」
「…ふーん」
「ほらオレ、モテモテやから、後輩の子に"大和せんぱーい、私とデートして下さい〜"言うて泣かれたら、しないわけにもいかんやろ〜?」
「………」
「あれ…無視かい。寂しいなぁ」


聞こえないフリをしてると、大和は悲しげに溜息をついている。
そんな大和を見ていると、思わず噴出してしまった。


「何や、今度は笑われてるし」
「ごめん。でも大和は友達も多そうだね」
「あー。アホな奴らばっかやけどなあ」
「そりゃ大和がアホだから」
「お、言うやん、言うようになったやん!どーせオレはアホの子や…」


大げさにへコむマネをする大和に、笑っていると、エレベーターは目的地へと到着した。
冬休みなだけあって、そこも、かなりの人が賑わっている。
あちこちから聞こえてくる関西弁は、ここにいる全員がお笑い芸人かと思うようなノリで、さすが大阪といった感じだ。


「凄いね、大阪って」
「何が?」
「んー何となく活気に溢れてるっていうか」
「そうか?まあ…東京のノリとは全然ちゃうやろなあ」


そう言いながらも、大和はさり気なく手を繋ぎ、人ごみから私を庇うように歩いてくれる。
そこでふと気づいた。
さっきのエレベーター内でも、私が周りの人に潰されないよう、自分の体で支えてくれてた気がする。
普段ふざけた事ばかり言っている大和だけど、こういうところは優しいんだなぁと改めて思った。


「ん?どないしたん?オレの顔、ジィーっと見つめて。あ、もしかして見惚れてた?」
「…そ、そんなんじゃないもん」
「また即答ですか…。相変わらずバッサリ切るやっちゃなぁ…。って何気にSやろ」
「…S?」
「そう、サド。オレみたいに、いたいけな少年イジメて楽しんでるんちゃうん?」
「な…何よそれ!」
「ま、オレはどっちかってーとMやし、ええけど♪」
「……バカじゃないの」


ニカッと笑う大和に呆れつつ、ボソっと呟くと、またしてもオーバーに「バカって関西人には禁句やでー?」と自分の両頬を包んでいる。


「やっぱはSっ子やな。言葉攻めタイプ!」
「違うってばっ。大和が変なこと言うからでしょ」


そう言って大和の背中をバシっと叩けば、「痛っ!やっぱ女王様?体も攻めちゃう?」と笑っている。
それには私もつられて笑ってしまった。
その時、不意に大和が立ち止まり、


「あ、これ入らへん?」


そう言って指を刺したのは……


「"渋谷怪談"…?」
「そ、ホラー仕立ての映画みたいなやつ♪」


大和はそう言ってニヤリと笑った。
私は大きく首を振り、「む、無理!」と言って逃げようとした。
だがすぐに手を引っ張られ、「じゃあ、こっちは?」と指指すほうへ目を向ける。


「"生き人形の間"…」
「おーなになに?"人の移し身としての人形」が引き起こす様々な怪奇現象…"って、これも結構おもろそうやん!」
「ど、どこが?」
「あれー、怖いの苦手?」
「べ、別に」


ニヤリとしながら聞いてくる大和に、思わず視線を反らす。
とは言っても、ハッキリ言って私は小さい頃からホラー系は苦手で、遊園地とかでもお化け屋敷といった類には入った事がない。
そんな私の心を見透かしたように、大和はニヤニヤしながら、顔を覗き込んできた。


「とか言うて顔色悪いやん?」
「そ、そんな事ないわよっ」
「ほな入ろか♪」
「え、ちょ、ちょっと―――――――」


繋いだままの手を引っ張られ、さすがにギョっとした。


(こんなトコ入ったら最後、一ヶ月は眠れなくなる――――――――!)


そう思って最後の足掻きをしようと足に力を込めた時――――――――




「――――――――あれぇ?大和っ?!」


「「―――――――――?」」





その声に同時に振り向くと、そこには派手なメイクをした女の子が3人、驚いたような顔で立っていた。













「真に申し訳御座いません!!こちらの手違いで、着陸体勢が整わず――――――――」


さっきから休む間もないほどペコペコと頭を下げる空港関係者。
相手が頭を下げるたび、薄くなった頭部をひっきりなしに見せ付けられ、司は内心吹き出しそうになった。
おかげで待ちくたびれたイライラも吹き飛び、「着陸できたんだし、もういいですよ」と、普段の素行では考えられないような模範解答をしてみせた。
とは言え、予想よりもだいぶ時間がかかり、朝にはついてるはずが、すでに正午になろうとしている。
急がないと、こっちの体力が持ちそうにない。


その後も頭を下げ続ける空港関係者を残し、司はすぐに用意させておいたリムジンに乗り込むと、待ち構えていた運転手に「大阪に行ってくれ」と一言、言った。
それには運転手も驚いたように振り向く。


「は、大阪…で御座いますか?」
「そう言っただろが。早くしろ!!あーそれと飛ばせよっ?オレは急いでんだっ」
「は、はいぃ!」


司が怒鳴ると、慌てたように間の窓を閉じ、車を発車させる。
リムジンが動き出したのを確認し、司は深々とシートに体を沈めた。


「クソ…あのバカパイロット、何で成田に下りたんだっ」


忌々しげに呟くと、イライラしたように時計を見る。
先ほど上空でさんざん待たされたあげく、ジェット機が降り立ったのは関空ではなく、何と成田空港だった事で、司のイライラは最高潮に達していた。
てっきり大阪に着いたものと思っていた司は、待ちくたびれたイライラもあり、思わずパイロットを怒鳴りつけた。
が、そのパイロットに、「ですが坊ちゃん、"日本に戻れ"としか仰りませんでした…」と言われ、司もそれ以上、文句を言えなくなってしまった。
普段はジェット機で大阪に行く事などないに等しいのだから、パイロットが通常通り成田に下りてしまったのは仕方のない事だ。
だが、そこで、このまま大阪に飛ぶよう言ったが、燃料が足りないと言われ、あげく普通の飛行機で行こうとしたが、運悪くすでに発ったばかりで、それも乗り損ねた。
次の便まで待つのも嫌だったが、自家用ジェットは燃料を入れるのと、多少の整備の時間がかかる為、今日中に飛ばすのは無理との事。
結果、時間はかかるけど、仕方なく車で向かう事にしたのだった。


「チッ…大阪まで何時間かかんだ…?」


窓の外を眺めながら、大きな溜息をつく。
そして、ふと携帯を取り出し、すぐにリダイヤルを押した。
だが聞こえてくるのは空しい機会の声。
それには軽く舌打ちをした。


「アイツ…どんだけ電源切ってりゃ気が済むんだ…っ」


一向に出る気配のないに、苛立ちは募る一方で、司はシートに凭れかかると、疲れた目を閉じ、瞼を指でもんだ。
飛行機で移動の際も殆ど睡眠をとっておらず、体力も限界に近い。
ずっと気を張っていたが、大阪に着くまでする事もない、この状態に、ふっと意識が朦朧としてくる。
そして、もう限界だよ、とでも言いたげに、欠伸まで出てきた。


「はあ…無理…限界…」


人の倍以上、体力のある司も、このカナダ―――日本―――大阪、という長旅には勝てず。


気づけばシートに寝転がった状態で、夢の中へと落ちて行き、渋滞に巻き込まれた半泣き状態の運転手に起こされるまで、一度も起きなかった。















「ウッソー!やっぱ大和やーん!何しとんのー!」
「ほんまー!いつ大阪に帰ってきたーん?」


キャイキャイ言いながら、ケバイ女の子3人に取り囲まれ、私は唖然とした。
それと同時に甘ったるい香水の香りに包まれ、一瞬クラリとする。
チラっと大和を見れば、一瞬あちゃーといった顔をしたが、すぐに愛想のいい笑顔を浮かべた。


「何や、ミアにサキにトモカやん!久しぶりやんなー」
「久しぶりやないわー。ちーっとも連絡よこさへんし、ほんま冷たいわぁ!」
「ほんまや!ミアなんか、ずーっと大和からの連絡、待っとってんでー?なあ?ミア。あんたも何か言うたりっ」
「大和、ちーっともメールよこさへんし…冷たいやん」
「ごめん、ごめん。ほら、オレ不精やから」
「不精にもほどがあるわぁ〜!」


彼女達は私の存在を無視するかのように、一気に話しまくっている。
最初に声をかけてきたトモカという子は胸元まである茶髪を巻いて、スラリとしたスタイルのいい子で、少し大人びた顔立ち。
もう一人一緒に騒いでるサキという子は、少しポッチャリしているが、髪にカラフルなエクステーションをつけていて、かなり派手だ。
最後に話しかけられたミアと言う子は、見た感じ大人しそうで身長は私と同じくらいの小柄な子。
大きな目に長いツケまつ毛が印象的な、可愛らしい顔をしている。


私は何となく気まずくて、繋いでいた手をパっと離せば、大和がふと私を見た。
そこで彼女達の視線も初めて私に向けられ、「そう言えば誰なん?この子」と、一番最初に声をかけてきたトモカという子が訝しげな顔で私を見てくる。


「あーこの子は…東京の学校で一緒の子ぉや」
「ウッソ、東京の子ー?何で大和とおるん」
「まさか彼女?!」
「ちゃうちゃう…。そんなんとちゃうって」


女の子達の剣幕に、あの大和がひるんでいる。
そんな大和は見たことがなくて、内心驚きつつも、大阪で人気がある、と言うのは、あながち嘘でもなかったんだ、と感心していた。


「えっと…この子は…ちゃん。オレらの一つ下や。両親が大阪で働いてるから、会いに来たんやて」
「ふーん…そうなん?」
「ああ、紹介するわ。コイツがサキで、こっちがトモカ、んで、そっちがミア。皆、オレの前の学校の奴」


大和が困ったように頭をかきつつ、紹介してくれた。
私は軽く会釈をしたが、彼女達はどうやら私の存在を気に入らないらしい。
私を見る目つきで、何となく分かる。


「でも親に会いに来たなら何で大和とおるんー?」
「そうやでー。しかもジョイポリスに来るなんて、なーんか怪しいわぁ」
「怪しない、怪しない。大阪来たの初めて言うから案内しとっただけやって。オレ、冬休みには大阪帰る言うてたし。なあ?」
「え?あ、うん…」


不意に振られ、慌てて頷く。
それでも彼女達は訝しげな顔で私を見ている。


「それにしたってなあ?その子、後輩やろ?何で知り合いなん?」
「そら、オレも可愛い子には目ざといし?お友達になって下さいー言うて仲良うなったんや。な?ちゃん」
「…………」
「あれ…また無視ですか?」


黙ったままの私を見て、大和はニカッと笑う。
でもこの時、心の中で思わず"バカ大和!"と怒鳴ってしまった。
ホントに男っていうのは……場の空気を読んで欲しい。
今の大和の何気ない一言で、彼女達の表情が一瞬でキツくなったのを、私は見逃さなかった。


(自分で人気があるって自覚してんなら、もっと言葉は慎重にしてよねっ)


そう訴えるように大和を睨んではみたけど、大和は鈍いのか、それともわざとか、ササっと視線を反らす始末。
その態度に一瞬殴ろうかと思ったけど、そこはグっと我慢して、この気まずい空気をどうしようかと思っていると、トモカという子が、わざとらしく大和の腕に自分の腕を絡めた。


「なぁなぁ、大和。今夜、空いてる?」
「…今夜?いや…予定は別にないけど…」
「ほんま?なら雄大ゆうだい達と集まんねんけど、大和も来ぉへん?皆、大和に会いたがってたし!」
「あーアイツら元気?暫く連絡してへんかったわぁ」
「相変わらずアホやで?でも大和おらんようなってからつまらへんー。せやし大和もおいでぇなぁ」
「…そやなあ…。久々にアイツらのアホ面でも拝みに行こか」
「ほんま?なら約束な!絶対やで?」


トモカという子は甘えるように大和の腕に体を寄せると、何故か私の方にチラっと視線を送り、ニヤっと笑った。
それにはムっとして、すぐに視線を反らした。


(…って何で視線反らしちゃったんだろ。そんな事をしたら、まるで私が彼女に嫉妬してるみたいじゃないっ)


自分で自分にダメ出ししていると、もう一人のサキという子が、「あ、そーだ。彼女も誘ったらええやん」と言い出しギョっとした。


「ああ、そうやね〜。ね、さん言うたっけ」
「…え?」
「今夜、さんもおいでぇな。大和のツレばっかりやし、楽しいで?」
「お、おい、お前ら…は今夜は用があるし無理やって」
「えーそうなん?」
「あ…はい…」


何とか答えると、トモカという子は、「残念やなあ。でも早めに用が終わればおいでぇな。遅くまで遊んどるし」とニッコリ微笑む。
さっきまでとは打って変わったように思えたが、そこは仕方なく、「そうですね」と無難に答えておいた。


「ほな、大和。後でメールするし!」
「おう。後でな」


そのまま手を振り去っていく彼女達に、大和も軽く手を振る。
が、3人の姿が見えなくなった途端、深々と溜息をついた。


「はあぁぁ…ビックリしたぁ…」
「…そうなの?」


文句の一つも言ってやろうと思ってたが、いきなり、その場にしゃがみこんだ大和を見て、思わず苦笑してしまった。


「普通の顔してたクセに」
「そら、あんまし素で驚いてたら、余計に怪しまれるやん…」


そう言いながら立ち上がると、困ったような笑みを浮かべる大和に、つい吹き出してしまい、怒る気も失せてしまった。


「でもホント、人気者みたいね」
「ああ、アイツらはちゃうちゃう。遊び仲間っちゅうか、タダの友達。オレが人気あるんは後輩からやもーん」


そう言いながら笑っている大和を見て、思わず半目になった。
大和も何気に鈍感タイプらしい。
さっきの子達だって、かなり大和に気がある風だったし、特に最後まで、あまり話さなかった、あのミアって可愛い子。
あの子は本気で大和に気があるように見えた。(ずっと私の事、嫌な目つきで見てたし…)
トモカって子も私に見せ付けるようにベタベタしてたし、友達を装ってホントは大和の事が好きなのかもしれない。


「それより…ごめんなあ。何か強引に誘ってたけど…」
「え?ああ…別にいいよ。あてつけで誘っただけだと思うし」
「え?」
「ううん。何でもない」


そう言って首を振ると、ふと思い出したように大和が時計を見た。


「ああ、もうこんな時間かぁ。腹減らない?」
「え、あ…もう夕方なんだ…」
、何時頃に戻る?まだ大丈夫やろ?」
「うん。お父さんたちは7時頃に家に戻るって言ってたし…」
「なら、それまでは大丈夫やな。まあディナーは無理そうやけど」
「え、でも大和、約束してたじゃない。それまで付き合わなくてもいいよ?」
「アイツら集まるのは、どーせ9時10時やし大丈夫や。知らん街で一人で時間潰すの大変やろ?」


大和はそう言うと私の頭をクシャリと撫でた。
確かにそうだな、と思いながら、こういう気遣いは凄いなあと改めて感心する。(そういうとこ女の子の気持ちに向けばいいのに)
きっと司とかなら、一人で遊んでろ!なんて言って、自分はサッサと遊びに行っちゃいそうだ。


ふと、あの小憎たらしい顔を思い出し、小さく笑いを噛み殺した。
司はきっと今頃カナダの青空の下でスノボーなんか滑りまくってるんだろうな。
またワインの飲みすぎでダウンしてなきゃいいけど…
アイツ、適量って言葉知らないんだから。


(―――――――ハッ!って、何、あんな奴のこと思い出してんの、私ってば!)


ふと我に返り、慌てて脳内から司を追い出す。
そもそも私と司は今、ケンカ中なんだ。
セクハラまがいの事をした奴なんて、どうでもいい。
というか、あんな奴と、例え義理でも兄妹になんかなりたくない。


チャラ…


その時、ふとネックレスに手がいった。


"こんなもん、わざわざ作らせたのは…別に妹にやるためじゃねぇ"


いきなりプレゼントをくれたかと思えば、あんなこと言って…キスまで……
一体どういうつもりなんだ、アイツは。
それに……あの時は何となくもらっちゃったけど…こんな高価なもの、どうして私にくれたんだろ。
司はクリスマスだからって言ってたけど……って、まさか――――――――アイツ…私の事……?


いやいやいや、まさか、そんな。
ありえない。


一瞬、頭を過ぎった事を慌てて取り消す。
そんな事、天地がひっくり返ってもありえないってば。
だいたいアイツは私のこと、いつもバカにしてからかってるし、殆どイジメだ、あれは。
そしてあのキスは嫌がらせとしか思えない(オイ)
そうよ、きっとそうなんだ。
じゃなけりゃ、盛りがついただけ!(酷)
そういう事なら、もっとぶん殴っておけば良かったかも…
いきなり女の子にあんな事するなんて、失礼にもほどがある。


(よし、今度会ったらその時は……)



何故かあれこれ思い出し、腹がたってきた私は、思い切り握り拳を握った。
すると、大和が恐る恐る私の顔を覗き込み―――――――――



「おい、……何、百面相してんねん…ちょい不気味やで…?」



その一言にハッと我に返ると、大和は危ない人を見るような目つきで、私を見ていた…。













「んじゃ何かあったら、すぐ携帯に連絡せえよ?」
「…ん。色々とありがとう」


すっかり日が暮れて、大阪での二日目が終わろうといている。
あれからアメリカ村、心斎橋、と色々と案内してもらい、時間が来ると、大和はちゃんと家まで送ってくれた。


「大和も久しぶりに友達と楽しんで来て」
「ああ。ま、朝までコースやな…。夕べ寝といて良かったわ」


大和はそう言って笑うと、「ほな、またな」と言って車に乗り込んだ。


「…何度も言うけど…ほんまに困った事あったら遠慮せんと、ちゃんと連絡してな?」
「…うん…。今日はホント、ありがとね」
「お礼なんてええよ。オレが楽しかったしな。―――――――――じゃ…ご両親にヨロシク!」



大和がそう言って手を振ると、車がゆっくりと動き出した。
私も笑顔で手を振ると、大和を乗せたベンツは、もと来た道へと戻っていく。
先ほど、さっきの子からメールが来ていたから、きっと待ち合わせの場所へ行くんだろう。
確か最後に行った難波にあるプールバーだとか言っていた。


「はぁ…私も行こ…」


マンションを見上げながら、そう呟くと、荷物を持ってロビーへと入った。











ピピピピ…ピピピピピ…



突然、静かな部屋に響く機会音。
そして、その音に反応するように、ベッドの上で、モソモソと大きな塊が動いた。


「ふあぁぁぁぁ…」


大きな欠伸と共に、布団の中から手がヌっと伸び、ベッドの脇にあったサイドテーブルの上の携帯を掴む。
そしてノッソリと起き上がると、類は再び小さい欠伸を噛み殺しつつ、寝ぼけ眼で通話ボタンを押した。


「…もしも―――――――」
『類か?!』
「………っ(キーーン)」


寝起きの頭に響く、聞き覚えのある大きな声に、類は思い切り顔を顰めた。


「…司…?」
『おう!お前、何度も電話してたんだぞ?!何してやがったんだっ?』
「ちょ…あんまし大きな声出さないでよ…。耳が痛い…」
『あ?まーた寝てたのか?この三年寝太郎めっ』
「……司、それ古いよ…」


何だかハイテンションの司にウンザリしつつ、類は大きな欠伸をした。
そしてガシガシと頭をかきながら、辺りをキョロキョロ見渡し、今、自分がどこにいるのかを思い出す。


「あーそっか…オレ、ホテル泊まったんだ…」
『…何っ?ホテルだ?!類、お前今どこにいんだよっ。家に電話しても帰ってねーって言われたぞっ』
「……っていうか用事は何?先に帰った事なら――――――――」
『うっせぇ!いいから今、どこにいんだよっ』
「………はあ…」


何を言っても聞きそうにない司に深い溜息が零れる。
今、大阪にいると言えば、司の事だから、きっとアレコレ聞かれるんだろうなと思いながら、類はベッドに横になった。


「……大阪」
『…やっぱりか!』
「え、何で分かったのさ」


司の思ったとおり的な言葉に、類は目をパチクリと見開いた。
すると司は得意げに、『お前の考えてる事くらい、オレにはお見通しなんだよ』と声高らかに笑っている。
何でこんなに元気なんだと思いながら、時計を見ると、すでに夕方の6時を過ぎたところ。
と言う事はカナダは朝方の5時くらいだろう。
そんな時間に起きてるなんて、ますます変だ、と首を傾げる。


「…って言うかそっちは朝方だろ?何で起きてんの…?」
『あん?ああ、オレ、今は日本にいるんだ』
「えぇ?!何で?」
『何でもクソもねえ!お前も勝手に帰っただろが。だから追いかけて来たんだよっ』
「…追いかけてきた…?だって総二郎達は?」
『知るか。置いてきたからな』
「置いてきたって…」


司の言葉にさすがの類も驚き、すっかり眼が覚めてしまった。
昔からそうだったが、司は思い立ったら吉日というように、行動だけは早かった事を思い出す。
そして司が本当は自分ではなく、の事が心配で追いかけて来たんだと言う事も、すぐに気づいた。


「…司…今、どこ?まさか、もう大阪にいるとか…」
『あ?あーそれがよー渋滞にハマっちまって、まだ途中なんだよ』
「…渋滞って…司、ジェットで来たんじゃないの…?」
『チッ、それがパイロットの奴のドジで成田に着いちまってよ。あげく燃料入れるから、すぐには飛ばせないなんて抜かしやがるし参ったぜ…』


実際のところ、司が行き先を言うのを忘れたのだが、都合の悪い事はすぐに忘れているようだ。


『それで一般の飛行機で行こうと思ったら、発ったばかりだって言いやがるから仕方なく車で向かってんだよ』
「…次の便、待ってれば良かったじゃん…」
『あぁ?んなもん何時間も待ってられっか!』
「…けど車で何時間かけて来るより、空港で待ってれば、一時間もしないうちに次の便が出たんじゃないの…?そしたら今頃はとっくに大阪着いてたと思うけど」
『……………』


類の言葉に、司は黙り込んだ。
多分そこは深く考えてなかったらしい。


『コホン…!』
「…司?」


物凄く単純な事に気づき、恥ずかしくなったのか、司は徐に咳払いをすると、『そ、それより類は今どこだ?』と訊いて来た。


『さっきホテルがどーとか言ってたな…?まさかアイツと一緒なんて事――――――――』
「アイツ?オレ一人だけど」
『そ、そうか……ならいい』
「……ぷっ」


司の言いたい事が分かり、類は小さく吹き出した。
ホント素直じゃないんだから、と思いながら、「今、メープルホテルのスイートにいるんだ」と教える。


『何だ…うちのホテル泊まってんのか』
「うん。だって他に知らないし…」
『つか、類…お前何で大阪行ったんだ?』
「…何でって」
『…を追いかけて行ったのかよ』
「うん、まあ」
『―――――――っ』


アッサリ肯定する類に、司は言葉を詰まらせた。


『お前…まさか…』
「だって心配だろ?あんな置き手紙がオレ宛てにあったんだし…どうしたかなと思ってさ」
『……ケッ…あんな手紙だけで大阪まで行くなんて、お前もお人よしだなっ』


自分には置き手紙がなかった事をまだ根に持ってるのか、司はスネているようだ。
そんな司に笑いを噛み殺しつつ、「司だってそうじゃん」と言い返す。


『バ、バカかっ。オレは別にそんなんじゃ…た、ただの観光だよっ』
「わざわざカナダから大阪に?しかも車で」
『う、うるせー!つか、アイツに会ったのかよ?』


きっと今頃、赤面してるだろうな、と思いながら、類は苦笑いを浮かべると、「まだ会ってない」とだけ答えた。


「このホテルに来てみたけど、の両親は休暇取ってるみたいでいなかったんだ。それにも来た形跡がないし」
『あぁ?じゃ、アイツも親と一緒に出かけたって事か?』
「それはないと思う。が来る前にご両親は休暇に入ったみたいだし…。もきっと会えてないんじゃないかな」
『んじゃアイツ、どこ行ったんだよ?親もいねーんじゃアイツ、行くとこねーだろ』
「そっか…そうだね」


類もそこに気づき頷くと、『呑気な奴だな!』と司に突っ込まれ、ちょっとだけムっとする。


『だいたいお前、大阪ついて何してたんだよ?』
「…さっきまで寝てた」
『はあ?寝てたって…じゃあを探してねーのか』
「探すって言ったって携帯は繋がらないし、どこ探せばいいのか分からないから」
『…何だそりゃ。それじゃ行った意味ねーだろ』
「…悪かったね」


痛いところを突かれて類もスネたように目を細める。


「とにかく…司はまだ着かないんだろ?」
『ああ。あと4時間はかかるな…渋滞してっからハッキリとは分かんねーけど』
「じゃあ着いたら電話してよ。オレ、副支配人さんにが来たかどーか聞いとくし」
『ああ…そうだな…何か分かったら電話くれ』
「了解」
『じゃーな』


そこで電話が唐突に切れて、類は溜息をつくと、ゴロリと寝返りを打つ。
その途端、また欠伸が出て、ゴシゴシと目を擦った。


「眠い…」


あれだけ寝たというのに何となく頭がボーっとしている。
だがフロントに電話をしなくちゃ、と何とか体を起こした。
すると部屋の電話についている"メッセージ"を知らせる赤ランプが点灯しているのに気づいた。
何だろうと思いながら、そのメッセージを聞いてみると、今ちょうど電話をしようと思っていた、このホテルの副支配人からだった。
内容は、尋ねていたの事で、従業員に訊いてみたところ、は昨日の午後に一度ホテルに電話してきて両親の事を聞いてきたらしいというもの。


「そっか…やっぱりもここへ連絡したんだ…」


その事が分かり、ホっとする。
そして再び携帯を取ると、の番号に電話をしてみた。
が、未だ留守電になったままで、類は仕方なく電話を切った。


「ご両親いないのにどこ泊まったんだろ…」


もしこのホテルに泊まってるなら副支配人が教えてくれるはずだ。
でもそんな事は一言もメッセージでは言ってなかった。
と言う事は、はどこか別のところへ泊まっているという事になる。


「あれ…の両親、休暇はいつまでだったっけ…」


その事を思い出し、類はもう一度、部屋の電話の受話器を取った。












カチッカチッと時計の音が聞こえるくらい、リビングは静かだった。
想像していたよりも豪華なリビングに存在感を示している大きな液晶テレビも今は電源が消され、気を紛らわす術もない。
父は高級そうなソファに凭れながら、時折、咳払いをしていて、私の様子をチラチラと伺っている。
数ヶ月ぶりに会ったというのに、親子の間には気まずい空気が流れていて、さすがに私もいたたまれなくなってきた。


「あの…」
「な、何だ?」
「いや、だから…」


いきなり顔を上げる、父にギョっとしつつ、小さく息をつく。
母は困ったような顔をしたまま、時折、紅茶を口に運び、チラチラっと父の顔を伺っては溜息をついていた。
もう、いい加減、話を進めようと、私はもう一度父を見る。


「お父さん…」
「………」
「楓おば様が言ってた事…ホントなの?」
「………」
「お父さん…答えて」


黙ったままの父にそう言うと、やっと私を見て、深く溜息をついた。


「ああ…本当だ」
「…お父さん…ホントにそれでいいの?本心?」
「…お父さんだって考えたよ。でも楓さん…いや社長の言うとおりだと思ったんだ」
「何が?」
「お前の将来を考えて、養子縁組の話を受けるのが一番いい方法だと思った」
「…そんな勝手に…」
「いや、だから、もちろんお前の気持ちを一番に考えて、お前が了承したら、と言ったんだ」
「だからって…道明寺家の養子なんて私は…」
「でもな…今のままじゃお前は夢を諦めないといけなくなるんだ。お父さん、それだけは嫌なんだよ、もちろんお母さんもな」


そう言って母を見ると、母も小さく頷いた。


「ふがいなくも会社を倒産させたのは父さんだ。そのせいでお前が将来の夢を諦めるなんて事して欲しくはないんだ」
「…お父さん…」
「それにな、養子に出すとは言っても、父さんとの親子の縁が切れるわけじゃない。社長も会いたい時に会ってくれたって構わないと言って下さってる」
「そうよ?今までと変わらないの。だったらの為になる方を選びたいじゃない」


今まで黙っていた母もそう言って微笑んだ。
以前とは違って、少しだけ痩せた母を見て、かすかに胸が痛む
楓おば様に貸してもらったお金を必死で返そうとしている二人を見ていると、自分だけ、いい思いをしてもいいのか、という気がした。
でもそんな私の気持ちを分かっているのか、父は優しい笑みを浮かべると、「お前は自分の事だけを考えろ」と言った。


「親子とは言っても、歩んでいるのは別々の道だ。お前はこれから父さんたちよりも長く生きていかなくちゃならない。お前の人生なんだ」
「お父さん…」
「自分の人生を歩むなら、それなりの仕事を選ばないといけないだろう?その為の勉強を今、してるんだ。親の事を考えて、その可能性を潰すなんて、父さんは許さない」
「………」


キッパリとそう言われ、泣きそうになった。
父と母の言っている事は分かる。
でも私の事を考えて、その結論を出したなら、やっぱり悲しい事だ。


…楓さんのご好意に甘えてみようじゃないか。幸いにも楓さんはお前を可愛がって下さってる」
「そうよ、。それに道明寺家の養子ともなれば、お前の進みたい方向に必ず道が開けるわ。それはお金じゃ買えないものなのよ」


父と母は私の事だけを考えてくれている。
確かに留学するだけなら、お金さえあればどこでも行けただろう。
でも道明寺の名を背負って行くのと行かないのとじゃ、天と地ほどの差があることは私にだって分かっている。
二人はその事も踏まえて話しているんだろう、と思った。


「もう少し…考えさせて…」


私がそう言うと、父は静かに頷いた。


「ああ、自分の将来の事だ。ゆっくり考えなさい」
「…ありがと」


そう言ってすっかり温くなった紅茶を口に運ぶ。
すると話して少し気が楽になったのか、父がふと思い出したように、「そう言えばお前、夕べはどこに泊まったんだ?」と訊いてきた。
それにはドキっとして紅茶を吹きそうになったが(!)何とか堪え、「と、友達の…トコ?」と答える。
だが父は訝しげな顔で、母と顔を見合わせた。


「お前、大阪に友達なんていたのか?」
「え?あ、あのだから…ほら、あれよ。英徳に大阪出身の子がいて…冬休みで実家に帰ってたから…」
「ああ、なるほど。そうか」


苦しい言い訳かと思ったが、父はスッカリ普段の顔に戻り(能天気)大して気にもしてないようだ。
母も、「お腹空いちゃった」と言いながら、キッチンへと歩いて行く。
その時、不意にメールを告げる着信音が響いた。
ずっと電池切れだったが、今は父の充電器を借りて充電していたのだ。
チェックしてみると、それは大和からだった。


"家なき子ちゃんへ。無事、家に入れたかー?ヾ(。・ω・`*)ヨチヨチ"


という、その文面に思わず吹き出すと、父が訝しげな顔で覗き込んでくる。


「誰からだ?」
「な、何でもない。友達から」
「そうかー?男の子じゃないだろうなー?」
「な、そんなわけないでしょ?」


ニヤニヤする父の顔を押しのけて携帯を閉じると、父は悲しそうな顔で目を細めている。


「高校生にもなって彼氏の一人もいないのか?」
「お、大きなお世話!って言うか、普通、父親って心配するもんじゃないの?」
「心配してるさ。こんな可愛いのに、世の男どもは何故、放っておくのかってな!あはは!」
「あ、あははじゃない!全く…」
「何も怒らなくたって…。ああ、そうだ。そう言えば司くんはどうだ?」
「は?つ、司が…何よ…」


突然、司の名前を出され、再び脳内に、あのバカ面(!)が浮かぶ。
すると父は更にニヤリと笑い、「久しぶりに会ってみてどうだった?男前になってただろう!」と、何故か自慢げに言っている。


「あ、あんな奴、いくら顔は良くても、モデル体型でも嫌よっ」
「何?何でだ?楓さんは仲良くしてると教えてくれたぞ?」
「な、仲良くって…別に普通よ、普通!」
「そうなのか?まあ父さんとしたら、お前と司くんが結婚でもしてくれたら、我が家も安泰だな、と思っていたんだが…」
「は、はあ?私と司が…け、結婚って…あ、ありえない!」


父のとんでもない発言に思わず声がひっくり返る。
そんな私を見て、父は不思議そうに、「どうしてだ?」と首を傾げた。
父は司のあの本性を知らないから、呑気なものだ。


「ど、どうしても何も…。とにかく、それだけは絶対ありえないっ」
「そうなのか?でもお前の初恋の相手だろう」
「…な、何でそれ…!」
「そりゃ知ってるさ。お前が子供の頃、何度も話してたしな。そうそう、あの薔薇の押し花も大事に取ってただろう?」
「う……」


そ、そうか……私は小さくて覚えてなかったけど、お父さん達は別だ。
あの当時の事は覚えてるんだろうし、だから私が花をもらった相手を司だと認識してた……


「と、とにかく、それはそれ!昔の事でしょ?今はぜーんぜん眼中にないもん」
「そうか…まあでも結婚はなくても、もしかしたら兄妹になるかもしれないんだし仲良くはしておけよ?」
「……兄妹…」
「今度父さんにも紹介してくれ。久しぶりに会ってみたい」
「……兄…妹…」


そうだ、忘れてた!
養子になると言う事は、アイツと兄妹になる、という事で、と言う事は一生、アイツとは家族になる、と言う事………きゃーっ


「わ、私は会いたくないっ」
「お、おい。?どこ行くんだ?」


携帯を握ったままリビングを出て行こうとする私に、父が驚いたように振り返る。


「ちょっとコンビニ行って来る」
「えぇ?こんな時間にか?」
「すぐ戻るから」


それだけ言ってコートを羽織るとリビングを飛び出した。
後ろから「ご飯はー?」という母の声も聞こえたけど、この際、聞こえないフリをして靴を穿く。
これ以上、お父さんと話してたら、司の事を根掘り葉掘り訊かれそうだ。


「はぁー冗談じゃない…」


外に出ると、マンションのロビーに座り、溜息をつく。
何だか色々と考えることが多すぎて、頭の中がゴチャゴチャしていた。
その時、携帯が鳴りだし、ドキっとしてディスプレイを見れば、そこには大和の名前が出ていた。


「も、もしもし…」
『もしもーし。家なき子ちゃんですか〜?』
「ぷ…何よそれ…」


少し酔っているのか、陽気な声が受話器を通して聞こえてくる。
後ろも僅かながらに賑やかで、きっと友達と飲んでいるんだろうと思いながら、「メールありがと」と言った。


『返事こーへんし、どうしたかなあ思て。ちゃんと家に入れたん?』
「…うん、大丈夫」
『なら良かった…と言いたいとこやけど〜。何や、声に元気ないなあ?何かあったん?』
「………」


どうして大和は、そんな些細な事でも分かるんだろう?
そんな事を思いながら、「何でもない。ちょっとね」とだけ答える。
養子縁組の事は大和には話していないし、相談しても仕方ない。
そう思っていると、ふと大和が私の名を呼んだ。


『……
「…え?」
『…何や悩みでもあるなら、お兄さんに相談しなさい』
「……な、誰がお兄さんよ」


少しおどけたような、それでいて、どこか真剣な大和の声にドキっとしながら、笑って誤魔化した。


『一応、オレの方が年上やしな』
「そうだけど…」


苦笑交じりでそう言う大和の後ろからは、『大和ー誰と話してんねんー』という声が聞こえてくる。


「今、友達と一緒でしょ?話してていいの…?」
『あーええねん。と話してる方が楽しいし』
「な…何言ってんの?酔ってるんでしょ」
『まあ多少はね。それより…ほんまに平気なん?オレ、今からそっち行こか』
「い、いいよ…せっかく友達と一緒なんだから…悪いし」


そう言いながらも、ホントは大和に聞いて欲しかったのかもしれない。
気分が滅入っている時、大和の明るい声を聞いてるとホっとする。




『ほな……がこっち来るか?』





だから――――――――大和にそう言われた時、私はいつもみたいに素っ気なく、断ることが出来なかったんだ。














あれ…今回も絡みナッシン…;;
続きは長くなったんで一旦、終わります(゜ε ゜;)


何気にこの作品にも嬉しいコメントが届いております(*TェT*)
いつもありがとう御座います!


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■このお話をドラマ化して欲しいと思いました!(社会人)
(ド、ドラマ化ですか!Σ(゜人゜;!!そ、それはもったいないお言葉です;;)


■類短編の欄が無かったので、ここに。類話とても甘くて読んでいて幸せな気分になりました。ヒロインがうらやましい〜!!花男話最高です!(社会人)
(ヲヲー!類、短編にコメント下さって嬉しい限りです!試作品として書いたんですけど、喜んで頂けて良かったですー!これからも頑張ります(´¬`*)〜*


■F4も好きですが、大和も好きなんです!!!関西弁がツボ///笑(大学生)
(ひゃー;大和が好きなんて嬉しいです!昔ずっと関西に暮らしてたので私も西方面は愛着あります(笑)


■類と大和が大好きです!いつもキュンキュンさせられてます☆これからどんな展開になるのか、めっちゃ楽しみですvv(高校生)
(類と同等に大和も好きと言って頂けて嬉しい限りです!これからも頑張ります(>д<)/オー


■花男の中では、類が一番大好きです!今度はぜひ類と結ばれるお話をお願いします!!テニスの鳳君も大好き・・・。お体に気をつけてこれからも頑張って下さい。楽しみに通わせていただきます。(社会人)
(これが終われば類の連載も考えてますので待っててやって下さいませ☆


■新規が楽しみです!待っていますので頑張って下さい!応援しています!!(高校生)
(ありがとう御座います!これからもマイペースに頑張りたいと思います!(*・∀・`)ノ