二つの初恋








「「――――――はあ?!ちゃんと付き合うだぁ?!」」


大阪から東京に帰って来た夜。
広い道明寺家のリビングに、ハモリの効いた素っ頓狂な声が響き渡り、この屋敷の主は一瞬にして顔を赤く染めた。

「バッ…ちげーよ!!"付き合うかもしれねえ"っつったんだ!!」

ソファから立ち上がり、二人以上の大声で怒鳴る司に、西門総二郎と美作あきらは互いに顔を見合わせる。
そして再び司を見ると、またしても綺麗にハモってみせた。

「「…って、何でオレ達がいない間にそんな話になってんだよ!!」」

二人は司とがそうなるよう、色々と仕掛けてきた張本人だったが、実際にその話が現実味を帯びてきた事で、かなり驚いた。
また司の気まぐれか?とも疑ったが、目の前で赤面している顔を見れば、どうやら本気らしい。
あの唯我独尊男である幼馴染OR親友が、たかが女一人の事で、こんな表情を見せるのは今まで一度もなかった。

「ア、アイツがオレの彼女になりたいっつーから考えてやってる最中なんだけどよ」

真っ赤な顔で頭をかきつつ言いながら、司は再びソファにふんぞり返ると、運ばれてきたシャンパングラスを手にした。
しかし総二郎とあきらは司のその発言に思い切り目を細めると、「「嘘つけ」」とみたびハモる。
二人の、その全て分かってます的な突っ込みに、司は遂に耳まで赤くなった。

「て、てめーらっ何が嘘だよ!!」
「んなの考えなくても分かるね。ちゃんが司に対して意識してるとか、そういうの感じた事ねーし」
「何だと、総二郎!」
「オレも同じく」
「あ、あきら、てめえまで…っ」

二人に突っ込まれ、司の顔が今度は怒りで赤くなる。そんな司を見ながら、総二郎は苦笑交じりで肩を竦めた。

「つーかオレ的にはどっちかっつーと司の方がちゃんを意識してたように見えたけど?」
「ああ、オレもオレも」
「…ぐっっ」

親友二人からあしらわれ、あげく本心を見抜かれていた事に、司は思い切り言葉を詰まらせた。

「ふ、ふん…。てめーらに男と女のビミョーな感じとか分からねえだけだろっ」
「いや、それ司にだけは言われたくねーよ」
「ホント、ホント。もともと女心も分かってねーだろ?」

総二郎とあきらが呆れたように笑う。それには司の額もピクリと動いた。

「だいたい司、女と付き合った事、ねーじゃん。今時めずらしいぜ?オレらの歳で童貞――――――」
「だぁ!総二郎、てめえぶっっ飛ばすぞ!!その話は出すな!!もしアイツに聞かれでもしたらどーすんだっ!」

これ以上、赤くなれないだろうというところまで赤面した司は、呑気にシャンパンを飲んでいた総二郎の胸元を凄い力で掴む。
掴まれた当人はこんな暴力にも慣れてるのか、ニヤニヤしながら事実じゃん、と追い討ちをかけた。

「寄って来る女なんて腐るほどいんだからテキトーに脱・童貞しときゃいーんだよ」
「ぐ…っ!好きでもねー女とヤレるか!あんな尻軽女どもと平気でヤレる不潔なてめえとは違うんだよっ!」
「不潔って何だよ。じゃあ司はちゃんとならヤレんのか?」
「……な、何ぃ?」
「付き合うって事になれば、当然そういう"体の付き合い"も含まれてくるだろーが」
「かっっっ体って、おま…っ」

当たり前のように言い切る総二郎に、何を想像したのか、司の顔から湯気が出そうな勢いだ。

「…そっ…そりゃ…そうなれば、自然とアレなわけで…そうなるっつーか…だな…」
「……………何、想像してんだよ。司のスケベ」
「…っっうるせえ!!」

ニヤリと笑われ、プシューっと音が出そうなほど赤面した司は、掴んでいた総二郎を思い切り突き飛ばした。
その勢いで後ろへ転がった総二郎はバランスを崩し、当然のように床へと転がり、後頭部をしたたか打ち付ける。
ゴンっという鈍い音が響くのと同時に、「痛てえな!」と総二郎は頭を擦りつつ、起き上がった。

「って、あれ?司は?!」

起き上がって周りを見ても司の姿はなく、総二郎は呑気にソファで寛いでいたあきらに訊いた。

「キッチン。茹蛸みたいな顔で動揺しながら何かツマミあるか探しに行った」

あきらはシャンパンを飲みつつ、指だけ廊下に向けた。その顔には呆れたような表情が浮かんでいる。

「ったく…。この手の話すっと、いっつもこれだよ…。いつまで経ってもガキだな、司は」

ズキズキ痛む頭に顔を顰めつつ、総二郎もソファに座ると、背もたれに頭を乗せて天井を仰いだ。

「でも女と付き合うかもしれないって話になってるだけ成長したんじゃねえ?」

あきらはそう言って笑うと、総二郎のグラスにもシャンパンを注いでいく。
そのグラスを受け取り、総二郎も「そうだな」と苦笑いを零した。

「しっかしあの調子じゃ、やっぱ司がちゃんに惚れてるって事か?もしそうなら、あの司が自分から女に興味を持つって変な感じだな」
「今までは、どんなにイイ女が言い寄ってきても、キスどまりで手も出さなかったしなあ〜。どっかおかしいのかと思ったりもしてたけど…」
「貞操観念、強すぎなんだよ、男のクセに。据え膳食わねえ男なんてオレ達ん中じゃ司と類くらいだろ」

シャンパンを煽りながら総二郎が呆れたように笑う。あきらもウンウンと頷きながら、それでもふと思い出したように首を傾げた。

「…でも今思えばちゃんがこの家に来た時から司のあからさまな態度もおかしかったぜ」
「あーオレもそれは気になってた。だから司けしかけてちゃんとくっつけようとしたんだし…」
「最初は殆ど付き合いのない親戚の女の子が一緒に住む事になって、それで意識してるのかと思ってたけど…何か違う気がしてきたな」
「…でもあの司が女に一目惚れするような奴か?今までどれだけ沢山色んなタイプの女、見てきたよ」
「言えてる。でも……初対面に近い状態で司の横っ面ひっぱたいた女はいなかったじゃん?」
「殴られて惚れたんだったら、どんだけMだよ」

呆れたように言うと、総二郎はシャンパンを飲み干した。
あきらも苦笑しつつ、新しくシャンパンを開けると、

「殴られたからって事もないと思うけど…。ああ、そういやガキの頃も、司、どっかの女の子にグーで殴られてた事あったよな」
「えー?んな事あったかー?」
「あったじゃん。ほら…何かのパーティん時…司がその子の綺麗にセットしてた髪を思い切り引っ張ってグチャグチャにしちゃってさ。で、その子が怒って―――――」
「おぉ!あったあった!つーか、それ、アレじゃねえ?オレらやちゃんが唯一、同席してたっつー、司の誕生日パーティ」
「あ!そうだ…!あの誕生日パーティだ!」

あきらも記憶を探りながら思い出し、思わず指を鳴らす。そしてふと、ある事が浮かび、総二郎を見た。
総二郎もまた何かに気づいたのか、あきらの方を見ると――――――

「つーか………あの時の女の子が、ちゃん…って事ねえよな…」
「…いや……マジでホントそうかも…。あの時の女の子と今のちゃんの面影を比べると……似てんだよな…何気に」
「あきら、お前ホント記憶力凄いなあ。オレは顔とか覚えてねえよ」
「いや、だってその子、ホントお人形さんみたいに可愛くてさ。結構、自然と目が向くっつーか…多分司もそうだったんじゃねえ?で、気を引こうとして――――――」
「髪の毛を引っ張ってグーで殴られたって?何かあんま今と変わんねーとこが痛いな…。気を引こうとイジメて、あげく嫌われるっつーところが」

総二郎の言葉にあきらも「ぷ!」っと噴出す。

「司は今でもガキだからなあ。でも…前に類が言ってたろ。ちゃんの初恋が司かもって」
「ああ…花をくれた男の子ってやつね。でもさすがに髪引っ張られて自分が殴った男、花くれたからって好きになるかあ?」
「バーカ。ガキの頃ってちょっとした事が嬉しかったりするじゃん。意地悪だと思ってた奴から優しくされてホロっときたのかもよ」
「…なるほど……って、でもあの司がバラの花やると思うかー?それも7歳のガキだぜ?」

「――――――あら、どうして?女を口説くのに歳なんか関係ないじゃない」

「まあなあ。オレらもあのパーティで色々な子に声かけてた………って、誰――――――?!」

思わず聞こえてきた声に反応して返事をしていた総二郎は、その声が女だった事に気づき、慌てて振り向いた。

「お…っ…っ」
「お姉さん……っっ?!!」
「ハーイ、久しぶりじゃない。総二郎、あきら」

二人が驚愕の表情を浮かべたのを見て、入り口に寄りかかるようにして立っていた女が中へと入ってくる。
その時、ワゴンに大量のツマミを乗せて、司が戻ってきた。

「おい!今夜は朝まで飲む…………って………ね、姉ちゃん?!」
「司!久しぶりね!」

その女は嬉しそうな笑顔を見せると、総二郎やあきらと同じく固まっている司に、思い切り抱きついた。

「な…ななな何で、ここに…!!だ、旦那はっ?!」

姉である道明寺椿にギュウギュウと抱きしめられ、司は固まりながらも声を張り上げた。
椿は数ヶ月前、ホテル王と結婚し、今はロサンゼルスに住んでいるはずだ。

「急な出張に出ちゃったの。一ヶ月くらい戻らないみたいだし一人で家にいても暇じゃない?だから里帰りでもしてくればって言ってくれて」
「な、だからって連絡くらい入れろよっ!ビックリするだろ――――――」
「そんな事より、今タマに聞いたんだけど、あのちゃんが一緒に住んでるんですってね。どこにいるの?」

そう言いながらやっと腕を放すと、椿はキョロキョロしている。
椿のその様子に、司はギョッとしたように後ずさった。

「な、何で…アイツのこと覚えてんだよ…っ」
「あら、だって子供の頃、何度か会ってるもの」
「会ってるって…」
「当時あんたは知らなかっただろうケド、私は子供の頃から公の場に出ていたのよ。行った先のパーティに、ちゃんも時々ご両親に連れられて来てたから」
「な…そ、そんな事、アイツ一言も…」
「そりゃちゃんも当時は5〜6歳だったし覚えてないのよ。さっき総二郎たちが話してた司の誕生日パーティで会ったのが最後だったし」
「…あ?」
「椿お姉ちゃまって懐いてきて、もうお人形のように可愛いかったのよ〜?早く会いたいわ。今は凄く綺麗になってるでしょうね」

ウキウキしたように話す椿に三人は唖然とした。だがそこで司だけ後ろにいる二人を睨むと、「誕生日パーティの話って?」と目を細める。

「二人で何の話、してたんだよ」
「え?あ、いやだから…あの時、確か司の事、殴った女の子がいたなーって……話?」
「…………ッ」
「な、何だよ、顔赤くして…」

一瞬にして顔を赤くする司に、あきら、そして総二郎までがギョっとする。
司の反応に、もしかして司も覚えてるのか?と首を傾げた時、三人のやり取りを見ていた椿は苦笑しながらソファへと腰を掛けた。
そしてテーブルの上にあるシャンパンのボトルを持って、グラスへと注ぐ。

「そうそう、その司を殴ったっていう子がちゃんよ」
「「えぇっっ」」
「バッ!言うな!」

二人の反応に笑いながらシャンパンを飲んでいる椿に、一瞬で司の目が釣りあがる。

「あら昔の事だしいいじゃない。そこの二人も興味あるみたいだし―――――」
「よ、よくねえ!!つーか、いきなり現れてペラペラしゃべってんじゃねえよ!」

司がそう怒鳴った瞬間、椿の顔から笑みが消えた。この瞬間が一番怖い。

「司ぁ…。あんた誰に向かって口利いてんの?」
「うっっいや、だ、だから――――――」

女神のような顔から一転、般若のような形相になった姉に怯んだ瞬間。
椿の鉄拳が司の顎に炸裂し、その大きな体が後ろへと倒れていくのを、総二郎とあきらは青い顔で見ていた。

(こ、こえぇ…相変わらずだ、この姉ちゃん…)
(ガキの頃から何度この場面を見てきたことか…)

司が屈折したのも、この姉に暴力で従わされていたからじゃないか、と二人は密かに思っていた。

「さ、うるさい奴はいなくなった事だし、話の続き、しよっか」
「「………ッ(ゴクリ)」」

一瞬にして普段の女神スマイルを浮かべた椿に、二人は顔が引きつる。恐る恐る後ろを見てみれば、司は床に倒れ伸びていた。
あの凶暴な司を一撃でノックアウトした椿を見て、ハンパねえ、と内心ビクビクの二人だったが、それでも話の内容が気になる、と大人しく椿の前に座る。

「で、どこまで話したっけ」
「あ、えっと…あのパーティで司を殴ったってのがちゃんだって…」
「そうそう。そうなのよねえ…。私がちゃんに教えたの。男の子によくイジメられるって言ってたから、そういう時は思い切りグーで殴れって」
「「―――――!!(あんたが元凶かよ!!)」」

ケラケラ笑う椿に、総二郎とあきらも言葉を失う。

((どおりで姉ちゃんとかぶると思った…))

がこの家に来た当日、司をひっぱたいた気の強さの根っこを見た気がする。
そんな二人に気づかず、椿は楽しげに話しだした。

ちゃんねえ、ホントに可愛らしくて…だから周りにいる男の子達も気を引こうと、彼女をイジメてたんだと思うわ」
「…じゃあ司も?」

あきらが聞くと、椿は溜息交じりで、床に伸びたままの司を見た。

「そうみたい。司の奴、あのパーティでちゃんをチラチラ見ちゃって凄く気にしてたから、私が話しかけてきたら?って言ったんだけど…」
「ああ…それで上手く話しかけられずに髪を…」
「ええ。何だかモジモジしながら近づいては離れ近づいては離れって繰り返したあげく、何を思ったのか…」

"何だよ、この頭!ウンコみてえ!"

「なーんて言って、お団子にしてたちゃんの髪を無理やり引っ張って、崩しちゃったのよ」
「「……(司ならやりそ〜)」」

椿の話に二人は内心そう思いつつ、当時のに同情した。

「それで私が慌てて止めようとしたんだけど、ちゃんは泣くどころか思い切り怒っちゃって」
「…ああ、オレその辺は何となく記憶にあるかも…」
「あーオレも。何するの!って女の子が怒鳴って、その後…」
「ええ…私が教えたとおり、ちゃんはグーで司の顔面を思い切り殴っちゃって…」

椿は溜息交じりで首を振ると、ソファに凭れかかった。

「そうそう!で、司の奴、あの後、しばらくは放心状態だった気がする」
「ああ。ハニワみたいな顔になってたよな。あの時の写真、確かアルバムにあった気がするわ」

総二郎とあきらは思い出したように笑った。
それには椿も苦笑いを零す。

「まさか、あんなに思い切り殴るとは思わなかったけど…でも司の方が悪いんだし仕方ないわ」
「で…その後は…どうなったっけ」
「私がちゃんを連れ出して髪だけ直してあげたの。だってグチャグチャのままじゃ可愛そうでしょ?」

椿はそう言うと、あきらの注いだシャンパンを一口飲んだ。

「でもちゃんも心の中では傷ついてたのね。私と二人きりになったら急に泣き出しちゃって…」
「え…マジ?」
「そりゃそうよね。あんなパーティで髪型をバカにされたんだし…。そこで慰めるつもりでうちの庭に案内したの」
「庭って…ああ、バラ園」
「ええ。ちゃん凄く喜んでたわ」

そう言って椿は微笑むと、未だ伸びたままの司を見た。

「でも、このままじゃいけないと思って司に言ったの。謝ってきなさいって」
「え…で、司は謝った?」

あきらの問いに、椿は優しく微笑むと、「ええ、もちろん」と頷く。

「最初は嫌がったけど、泣いた事を教えたら渋々頷いたの。だから庭にいるちゃんのところに行かせたわ」
「…庭に?」
「で、私もちゃんと謝るか心配だったからコッソリ着いて行ったんだけど…司がちゃんにバラをとってあげてるのが見えて。あの時はホっとしたわ」
「えっ!じゃあやっぱり、花をあげたっつーのは…」
「司だったんだ…」

類から聞いた話を思い出し、総二郎とあきらは驚いた。そんな二人を見て、椿は「何のこと?」と訝しげに眉を寄せる。
そこであきらが類から聞いた話を、詳しく椿に説明した。

「まあ!じゃあちゃんも司が初恋だったっていうの?」
「多分…って、え?ちゃん、も?」

目の前ではしゃいでいる椿の言葉に、総二郎とあきらはギョっとしたような顔だ。
そんな様子に気づかず、椿は楽しげに笑うと、

「司もそうだったんだと思うの。あの後にしょっちゅうちゃんのこと聞いてきたし。そのたび顔を真っ赤にして…その様子見て好きなのかなって思った記憶があるわ」
「えぇぇぇっ?!じゃ、じゃあ…司とちゃんって、お互いが初恋の相手って事かよ…っ」
「マジか……。じゃあやっぱ司の奴、もっと前からちゃんの事……?」

気になっていた事がクリーンになり、二人は呆然としている。
まさかあの司が、そんな子供の頃の想いを未だに引きずってるとは思わなかったのだ。

「で、でもよ…。だから頑なに女作らなかったんじゃねえ?」
「あ……そうか。つじつまは合うな」
「素敵!初恋の子をいつまでも思い続けるなんて!我が弟ながらイイ男だわ〜!」
「「…………(って、さっき思いっ切りぶん殴ってただろ!)」」

両手を揉みながら感動している椿を見て、総二郎とあきらは心の中で突っ込んだ。
そんな事は気づきもせず、椿はシャンパンを飲み干すと、楽しげに身を乗り出した。

「じゃあ二人は今、いい感じになってるとか?」
「え?!あ、い、いやあ……」

視線が泳ぐ総二郎。

「私、司のようなデカくて可愛げのない凶暴な弟より、ちゃんみたいな可愛い妹が昔から欲しかったのよー。もし司と結婚、なんて事になれば嬉しいんだけど」
「………い、いや…そ、そこまで上手くいくかどうか…」

口元が引きつるあきら。
そんな二人に気づかず椿は、「初恋同士の二人が結ばれるって素敵じゃない」とワクワクしている。

「そうなったらウエディングドレスは私が選んであげたいし…。あ、そうだ。新居でもプレゼントしちゃおうかしら」
「い、いや…それはまだ気が早いっつーか…」
「そこに行く前の問題っていうか…」
「……何よ。司とちゃん、イイ感じになってるんじゃないの?」

二人の様子にやっと気づいた椿は、徐に目を細めた。

「い、や、だからさ。司はガキの頃からぜっんぜん成長してねえっつーか…」
「同じことを繰り返してるっていうか…なあ?」
「同じ事……?」

二人の説明に、椿は片眉をあげると、床に伸びたままの司を睨んだ。

「もしかしてこの男……懲りもせず今もちゃんをイジメてるとか…?」
「えっ?あ、いや今は…そうでもねえけど…」
ちゃんがこの家に来た初日にちょっと……」

総二郎とあきらは、椿の迫力に押されながらも、その時の事をきちんと説明した。
話の途中から、徐々に椿の怒りのオーラが放たれていく。
そして聞き終わった後には、その拳を固め、気絶している司の足を思い切り蹴り上げた。

「…う」
「このバカ司が!」

蹴られた衝撃で、司が薄っすらと目を開けるのを見て、総二郎は青くなった。
このままでは余計な事を椿にチクったと、司から制裁が加えられるかもしれない。
だが司は一瞬目を開けた瞬間、またしても椿に頭を殴られ、そのまま気を失った(!)

「それでちゃんとは険悪なのね…」
「え?ああ、でも今は前ほどじゃないし…司もちゃんと付き合うかも、なんて、さっきも話してて―――――」
「それホント?!」
「う…あ、でもちゃんがどう思ってるかは分かんねえけど…」

また余計な事を言ったような気がして、総二郎は後ずさったが、その時、あきらがふと思い出したように指を鳴らした。

「でも司とちゃんがそうならなくても、養子の件が上手く行けば妹になるのは変わらないじゃん」
「え……?」
「あーそうそう!そんな話も出てたな。つーか司の奴、そうなったら、どうする気だったんだ?いくら血が繋がってなくても兄妹になれば付き合うなんて―――――」
「ちょっと!!それ何の話?!」

二人の会話を聞きながら青くなった椿は、総二郎の胸倉を掴んだ。
その迫力に総二郎の顔から血の気が引いていく。

「え、だ、だから司の母ちゃんがちゃんを養子にしたいらしくて…」
「な…なんですって?!」
「え、つーかまさか…姉ちゃん知らなかった、とか?」

椿の動揺っぷりに、二人は顔を見合わせた。だが椿は放心したように総二郎を放すと、フラフラとソファに座り込む。

「養子…って…どういうつもり…?」
「え、マジで知らなかったんだ」
「でもフツー養子縁組するなら家族には相談しねえか?」

呆然としている椿の様子に、二人はそう言いながらも、あの"鉄の女"がそういうガラじゃないという事も良く分かっている。
世界の要人すら動かしてしまえる、その圧倒的な権力を持つ司の母親、楓が昔から何でも全て一人で決めてきたのは、二人も何度となく見てきた。
当然、椿もその辺は二人以上に理解しているだろう。

「何も聞かされてないわ…。本当なの?ちゃんを養子にするなんて話…」
「その話する為にカナダまで来て司とちゃん呼び出してたから…本気だと思うけど」
「カナダまで?そう……お母様ってば何を考えてるのかしら…」
「二人には、姉ちゃんが結婚して寂しいから、もう一人娘が欲しいとか言ってたそうだけど」
「寂しい…?ありえないわ、お母様に限ってそんな理由…」
「それとちゃんの夢を叶えるためにも、道明寺家の人間になった方がいいとも言ってたらしい」
ちゃんのお父様の件は耳にしたわ。でも…だからってご両親がいるのに養子にするなんて強引よ。絶対、何か企んでるに決まってる」

キッパリ言い切る椿に、二人もぐっと言葉が詰まる。
椿がどんな状況に追い込まれ、今の夫であるホテル王と結婚したのか、二人も良く知っているからこそ反論できない。

「と、とにかく…当事者であるちゃんはどこにいるの?」
「え?あ…多分、自分の部屋。着替えるって言ったきり下りてこないけど…」

総二郎がそう言いながら上を指差す。椿はそう、と頷くとすぐに立ち上がった。

「部屋はどこ?」
「司の部屋の隣…」
「前の私の部屋ね。分かった」

そう言って椿はスタスタとリビングを出て行く。その後姿を見送りながら、総二郎とあきらは顔を見合わせ、同時に溜息をついた。

「…なーんか一波乱ありそうな予感…」
「…同じく」

そう言いながら顔を見合わせ、床に伸びている司に視線を向けると、二人は思い切り溜息をついた。












「はぁ…スッキリ」

部屋のシャワーから出ると、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一気に飲む。
そのままソファに倒れこむと、私はゴロリと仰向けになった。
ここ数日ハードな日々が続いたからか、こうして家に戻ってきた途端、何とも言えない疲労感が襲ってくる。
その疲労の中で一番の問題は、やっぱり司の事だった。

"……オレは…マジで言ったんだからよ。それだけは覚えとけ"

飛行機の中で言われた言葉がさっきからグルグルと頭の中で回っている。
それでも考える事はそれだけじゃなく、養子の事とか色々とあった。

(っていうか司は私が妹になったら、どうするつもりなんだろう…。前はお前の好きにしろって言ってたのに…)

そう考えると、やはり養子にしたくないから、男女の仲になってしまえばいい、とか企んでそうだ、という結論に達してしまう。
もし私と司がそういう関係になってしまえば、きっとおば様だって養子縁組の事は考え直すだろう。
いくら血は繋がっていなくても、兄と妹になる以上、その二人が恋愛関係にあると世間に知られたら、道明寺グループにとっても大打撃だ。

「って、その前に司と恋愛なんか想像出来ないってのよ…」

体を起こし、ソファに凭れかかると、自然と溜息が出る。
確かに最近の司は最初の頃よりも優しい。でも自分勝手で我がままな司に何度怒ったかしれない。
まるで私を自分の所有物みたいに扱うところを見れば、アイツが私を好きっていう感情で、あんな事を言ったんじゃないような気がするのだ。

「だいたい私の事だって良く知らないクセに…」

まあ私も司を知らないし、その前に私が今好きなのは花沢類だ。
彼に静さんがいようと、この気持ちは変わらない。諦めたくても、自然と溢れてくる花沢類への気持ちは、簡単に消えてくれそうになかった。
それなのに司と付き合うとか、今の私には考えられない。
そう、それに養子縁組の話だってある。まだ決めたわけじゃないけど、夢を叶えたいという気持ちがあるのも事実だ。

「…もう…こんな時にこれ以上、悩みを増やさないで欲しい…」

何度目かの溜息をつき、私は着替えよう、とバスローブの紐に手をかけた。
その時、充電中の携帯が鳴り出し、ドキっとする。それはメールの着信音だった。

「もしかして大和かな…」

大阪で色々とお世話になったんだし帰る時くらい連絡しないと、と先ほど東京に帰るとメールを送っておいたのだ。
でも携帯をとろうとした時、再び鳴り出し、慌てて開いた。

「…嘘…っ」

その名前を見た時、ドキっとした。
最初の着信は予想通り大和からだったけど、今の着信メールには…

「花沢類…」

つい先日まで一緒に大阪にいたはずなのに、何故か凄く久しぶりのような気がして、私はすぐに花沢類のメールを開いた。

『無事にカナダに到着。でもすぐに静とパリへ向かいます。司達にはテキトーに言っておいて。あと、色々ありがとう』

たった、それだけの文章。
でも今の私にとっては、重苦しい胸の痞えをとってくれた気がした。

「良かった…静さんと一緒に行く事にしたんだ」

花沢類を好きな私には、辛い内容だけど。でも彼が悩んで苦しんでる姿を見るより、笑顔で静さんと過ごしてくれた方が、よっぽど嬉しい。
静さんに会えるというだけで、あんなに嬉しそうな顔をしていた花沢類を、私は好きになったんだ。

「最初なんか、話しかけても素っ気なかったのに…メール送りあうようになるなんて変な感じ…」

花沢類に『行ってらっしゃい。体に気をつけてね!静さんにも宜しく伝えて下さい』と短い返事を打って送信した。
今頃、あの笑顔で、静さんの隣にいるんだろうか、と思うと、無性に花沢類に会いたくなる。
あの柔らかい笑顔を思い出すと、胸の奥が自然と暖かくなった。こんな風に思える人は、なかなかいない。

「…いけない。大和のメール忘れるトコだった」

そのまま携帯を戻そうとして慌てて前のメールを開く。そして読んだ瞬間、目が一瞬で細くなった。

のいない大阪はつまらんからオレも今から東京帰んでぇー(^^)v 
いやあ、「戻らんといてー」って大和くんファンの女に泣かれて参ったわぁ〜。
新幹線やから着くんは夜中やけどCMみたいにホームで待っててくれてもかまへんで(*´∀`)ノ゛』

「…………アホか」

あまりに呑気な内容で、思わず大和の口癖が出てしまった。
せっかく花沢類からのメールで浸ってた気持ちも、一瞬にして現実へと戻る。

「何がホームで待っててくれても、よ…。誰が待つかっての!」

呆れつつ、さっき口に出た言葉を、そのまま送る。そして携帯を戻すと、クローゼットを開けて今度こそ着替えようとした。
そこへ突然ノックの音が響き、体が小さく跳ねる。

(ま、まさか司?!遅いから呼びに来たのかな……っていうか私、またバスローブ姿だし!)

一人慌ててドアの前でオロオロしていると、またノックの音。
仕方なく、「誰?司?」と声をかけた。その瞬間、返事もないまま勢い良くドアが開けられ、ギョッとする。
そのせっかちな感じで一瞬本当に司かと思った。でも目の前で両腕を広げて飛び込んできたのは――――――

ちゃん?!私よ、椿!久しぶり、元気だったー?!」
「え…え?!」

突然綺麗な女の人が乱入してきたかと思えば、その豊満な胸に顔を押し付けられる。
あまりの驚きに固まっていると、その女の人は私を離し、ニッコリ微笑んだ。

「私、司の姉の椿よ。覚えてない?」
「…司の…お姉さん……?って、あ!!」

まじまじと目の前の女性を見詰めると、この家に飾ってあった肖像画を思い出した。

(さすが司のお姉さん、豪快だわ。ドアの開け方もそっくり…)

そんな事を思いながらも、慌てて頭を下げた。

「あ、あの…初めまして!です。今ここにお世話になってて―――――」
「やーだぁ!初めてじゃないわよー。子供の頃に何度か会ってるの」

動揺しまくりで挨拶をすれば、椿さんは大きな声で笑った。

「い、いえ…その頃の事は薄っすらとしか覚えてなくて」
「そっかーやっぱりねー」

椿さんは気を悪くした様子もなく、ソファに座ると、「ちょっといい?」と微笑んだ。
思わず、はいと応えて隣に座ったけど、子供の頃に会って以来――――しかも殆ど記憶が薄れてる――――だから初対面みたいなものだ。
それに、こんな綺麗な人、それも数々の凄い経歴を持つ椿さんと二人きりというのは緊張してしまう。

「やだ、緊張しないで普通にして。久しぶりにちゃんと話したいだけなの」
「は、はい…」

この強烈なオーラをヒシヒシと感じてる私に、緊張するなというのは無理だと思いつつ、引きつった笑顔を見せる。
それでも椿さんは優しい笑みを浮かべながら他愛もない話を振って、私の緊張をほぐしてくれた。

「お父様の会社の件は残念だったわね…。かなり大きな企業に育ってたのに」
「はい…。お父さんが頑張ってる姿を見てきたから余計にそう思います…」
「でも…ちゃんもよく頑張ったわ。転校したり引っ越したりで環境もガラリと変わったのに…。大変だったでしょう」
「い、いえ。楓おば様が色々と助けて下さったから両親共々、路頭に迷う事なくいられるし、とても感謝してるんです」
ちゃん…」
「おば様が助けて下さったからこそ、こうして名門校にも通わせてもらえてるし、こんなお屋敷にまで住んでいられるんですもの」

その気持ちは本当だった。
もしおば様がいなければ、私と両親は十億もの借金を抱えて住む所も転々としていたかもしれない。
もちろん私だって高校なんか通えなかっただろうし、借金返済のため、両親と一緒に朝から晩まで働きづめになっていたと思う。
でも今はこうして恐ろしいほどの贅沢な生活をさせてもらってる。環境が変わったくらいで大変だと言っていたら、それこそ贅沢だと思った。

「そう…ならお母様のした事は役に立ってるのね。良かったわ」

椿さんはそう言って微笑むと、それでも心配そうな表情を見せた。

「でも…そのお母様のことなんだけど…」
「…え?」
「今、総二郎たちに聞いたのよ。養子縁組の話が出てるんですって?」
「あ…はい…」

その話をされてドキっとした。椿さんも嫁いだとはいえ、道明寺家の人間だ。
私みたいなよそ者が家族になるのは反対かもしれない。

「…そう。お母様ったら何を考えてるのかしら…」
「あ、あの…私の夢の為にって言ってくれてるんですけど、私はまだ決めてなくて…」

何となく椿さんが反対しているような気がして、慌てて説明した。
でも椿さんはハッとしたように私を見ると、「ああ…私は別に反対だから言ってるんじゃないの」と微笑む。
その意味が分からず首を傾げると、椿さんは困ったように息を吐いた。

「私はね、ちゃん…。うちの母が、ただちゃんの事を思って養子にしたいと言ったとは思えないのよ」
「え…?どういう…意味ですか」
「私は子供の頃から母を見てきた。あの人は情に絆されて動くような人間じゃないわ」
「そんな…でもおば様は私達を助けてくれて…」
「その話も聞いた時、意外に思ったくらいよ。遠い親戚だからっていう理由だけで母は人助けをするような優しい人じゃないの」

椿さんの話を聞いて、私は唖然とした。
まさか、とは思う。でも私なんかよりも、椿さんの方がおば様の事をよく知っているはずだ。

「なら何故おば様は私達を…?十億の借金を肩代わりしてくれたのに――――――」
「そうね…。借金を肩代わりして、ちゃんの家族を助ける。それでちゃんに恩を売ってから養子縁組の話を持ちかける、とか」
「で、でも私を養子にしておば様に何のメリットが…」
「それは分からないけど…。でも、もしまだ迷ってるなら悪い事は言わないわ。その話は断った方がいい」
「…え、でも」
ちゃんの夢の話は聞いた。でもそんなの養子にならなくても費用くらい出せるはずでしょ」

椿さんはそう言うと、驚いている私の手をそっと握った。

「確かに""として留学するよりも、"道明寺"として留学した方がちゃんの将来もかなり違ってくるわ。でも母に飼い殺しにされるくらいなら――――」
「か、飼い殺しって、大げさな…」
「大げさじゃないわ。道明寺グループを背負ってる母はそれくらい平気でやる人よ。そんな事になるくらいなら初めから養子になんかならない方がいい」
「…椿さん…」

あまりに話が大きすぎて、私は混乱してきた。優しい楓おば様の顔を思い出し、言ってくれた言葉も全て嘘なのか、と不安になった。
そんな私を見て、椿さんは優しく手を握り締めると、

「それに、どうせちゃんが妹になるなら…司のお嫁さんとして道明寺家に来て欲しいのよ」
「………は?」

しんみり話を聞いていたが、不意に司の名を出され、私は目が点になった。

「お、お嫁さん…?!」
「そうよ。だって司もちゃんもお互いに初恋同士なんでしょ?何だかそれって運命感じない?」
「ちょ、ちょっと待って下さい、椿さん!わ、私はともかく…司の初恋が私なんて聞いた事も――――――」
「あら、やっぱりあの事も覚えてないのね。でも私はちゃんと覚えてるのよ」

椿さんはそう言って笑うと、何故司が私にバラの花をくれたのかという経緯を説明してくれた。
私は花をもらった事しか記憶になかったから、椿さんの話を聞いて、かなり驚かされた。

「じゃ、じゃあ…私が司を殴ったから…」
「まあ司もちゃんと話すキッカケが欲しかっただけだと思うの。でも子供だし、そんな事まで分からないじゃない?で、ちゃんが怒っちゃって」
「ぜ、全然覚えてないかも……」

おぼろげなパーティの記憶や、綺麗なこの家の庭。そしてバラをくれた男の子。
それくらいしか思い出せない。
っていうか、司が私の事をそんな風に思ってたなんて事も、信じられなかった。

「信じられません。あの司の初恋が私だなんて…」
「まあ…アイツも大きくなってからは、かなーり屈折した男になっちゃったからね。小学校、高学年になったくらいからケンカばっかしてたし」

椿さんはそう言って笑いながらも、「でも根は優しいとこもあるのよ」とフォロー(?)を入れた。

「だから私としてはちゃんと付き合って、そろそろ落ち着いてもらいたいなあ、なんて思ってるの」
「えっ?で、でも私、司と付き合うなんて事は……」
「あら、そんな話が出てるんじゃないの?さっき総二郎が言ってたけど…」
「…………(何で知ってるのよ、西門さん!)」

という事は必然的に美作さんまで知っているという事だ。司の奴、ペラペラと!

「司に付き合おうって言われたんじゃないの?」
「えっ?あ、いやその……それ、は…ハッキリ言われたわけじゃなくて…」
「そうなの?んもー何チンタラしてんのよ、司の奴!」

椿さんはプリプリ怒りながらクッションを殴っている。その時の感じが、司と良く似ていて、さすが姉弟だなと感心した。
って、ここで感心なんかしている場合じゃない、と私は座りなおし、椿さんに体を向ける。
今日は何だか色々ありすぎて、そろそろ頭が混乱して来た。

「あ、あの椿さん…」
「ねえ、ちゃん!私からもお願いするわ」
「へ?」
「司ってば自分でちゃんと言えないかもしれないし…私から言うけど…司と…付き合ってみるって事は出来ないかしら」
「いっ、いや、だからそれは……」
「司はがさつで乱暴だし獣並に頭も悪いけど(!)凄く優しいところもあるし、きっとちゃんの事は大切にすると思うの」
「は、はあ…」
「だから、どうかしら」
「ど、どうって言われましても……」

強引なところは司そっくり、と思いながらも、ジリジリと追い詰められていく気がして怖くなる。
このまま追い詰められれば、司と付き合う流れに持っていかれそうだ。

「それとも他に誰か好きな人でもいるの?」
「えっっ?!」

不意に聞かれた事で、私は思わず大きな声を上げてしまった。その様子で椿さんは驚いた顔をすると、小さく息をついている。

「そっか…。いるんだ、好きな人…」
「え、ま、待って下さい。私そんな事は一言も―――――」
「言わなくても顔を見れば分かるわよ」

椿さんはそう言いながら苦笑いを零し、

「で…相手は誰?まさか総二郎とか言わないわよね。あの男はダメよ。女たらしで一人の女と真剣に付き合えない性質なんだから」
「ま、まさか!西門さんの事は何とも―――――」
「じゃあ、もしかして、あきら?あきらもダメっていうか…アイツは年上の女にしか興味は―――――」
「し、知ってます知ってます!っていうか……何で全部F4なんですか……?」

この世に彼らだけが男じゃあるまいし!と思いつつ、一人で先走っていく椿さんに、私は素朴な疑問をぶつけた。
椿さんはちょっと笑うと、それもそうね、とソファに凭れる。

「でも今、ちゃんの一番近くにいる男はアイツらくらいでしょ?だから、もしかして、と心配になっただけ」
「はあ…」
「まあ、でもそうよね。英徳は共学なんだし他にも男はいるわよね」

椿さんが苦情交じりでそう言った事で、内心ホっとしていた。
ここで花沢類の名前まで出されていたら、きっと私は顔に出てしまってた。

「そっかぁ…。でもちゃんに好きな人がいるなら無理に司なんかオススメ出来ないわねぇ」
「…は、はあ」
「残念…って、そう言えばF4で思い出したけど……今日、類は?さっき姿が見えなかったけど来てないのかしら」

ホっとしていた後の、その不意打ちにドキっとして顔を上げた時、椿さんと思い切り目が合ってしまった。

「…ど、どうしたの?そんな驚いた顔して」
「い、いえ……えっと…花沢類なら今、静さんとパリに…行ってます」
「え、ホントに?!やだ、なかなかやるじゃない、類の奴!静ちゃんが最初にパリに行った時、何で追いかけないんだって思ってたけど…へえ、そう、やっと行ったのね」
「…はい」
「…………」

笑顔で頷いてみたものの、顔が引きつってないか心配だった。
椿さんは鋭そうだし、もしさっきみたく"類の事が好きなの?"とハッキリ訊かれたら、上手く誤魔化せる自信はない。
それに椿さんは花沢類と静さんの事を知ってるみたいだし、だったら報われない恋より司と、とでも言い出しかねない。
そんな事を考えていると、椿さんが私を見ている事に気づき、ハッとした。

「…ちゃん…」
「は、はい」
「…あなた、まさか――――――」

椿さんが何かを言いかけたその時、部屋のドアが勢い良く開け放たれて、その大きな音にビクっと跳ねた。
驚いて振り返ると、そこには司が怖い顔で立っていて、椿さんは「はあ」っと大きな溜息をついている。

「姉ちゃん!何、勝手にの部屋あがりこんでんだよ!つーか人を気絶させといて放置すんな!」
「………ッ(き、気絶?!)」
「うるさいわねえ…。いいでしょ?久々の再会なんだから。女同士の話もあるのよ。それにあれくらいで気絶する方がだらしないんじゃない」
「な、なにぃ〜?!つーか女同士の話ってな、何だよ…」
「顔を赤くするな!このスケベが!」
「うがっ!」

何を想像したのか、赤面している司に、椿さんが蹴りを入れる。その凄まじい姉弟のやり取りに、私は唖然としてしまった。

「はあ、とんだ邪魔者が来ちゃったわ。これじゃ、ゆっくり話せないし続きはまたね、ちゃん」
「え、あ…はい」
「おい、邪魔者って何だよ!オレが何邪魔したって――――――」
「はいはい。いーから、あんたはちゃんと一緒に飲んでれば?私はロスから来たばっかで時差ぼけなの。お風呂に入って寝るから」

司を押しのけると、椿さんは欠伸をしながら出て行ってしまった。それを司が呆然と見送っている。
まるで嵐が通り過ぎたみたいに一瞬シーンとして、私はソファに座り込むと、思い切り息を吐き出した。

「何だぁ?姉ちゃんの奴…"台風家族"みたいだな」
「それ言うなら、台風一過ね…。でも一過って家族の一家じゃないから」
「う、うるせえ!」

私が冷静に突っ込むと、司は顔を真っ赤にして怒鳴った。そして更に顔を赤くすると、いきなりそっぽを向く。

「つ、つーか、お、お前、その格好何とかしろ!」
「…え?」
「バスローブ姿で寛いでんじゃねえっつってんだよ!この家には総二郎とあきらもいるんだぞっ」
「え?あ!」

突然の椿さん登場で驚いて、スッカリ着替えるのを忘れていた。
慌ててクローゼットの前に行くと、未だドアのところに立っている司に「着替えるから出てってよ!」と叫ぶ。
司は一瞬ムっとしたけど、すぐに溜息をつくと、私に背中を向けた。

「…食事の用意させたからよ。着替えたら下りてこい。朝から何も食ってねーんだし腹、減ったろ」
「あ…うん…そう言えば」
「…早くしないとせっかくの料理が冷めちまうからサッサと来いよ」
「うん…分かった」

私が素直に頷くと、司は大人しく部屋から出て行った。ドアの閉まる音にホっとすると、すぐにバスローブを脱ぎ捨てる。
あの変な告白以来、司と二人きりという状況が、どうも緊張してしまう。

「……っていうか…司の初恋の相手が私って…嘘よね…」

ふと先ほど聞かされた椿さんの話にも戸惑っていた。
あのパーティの日、アイツが私と似たような感情をもっていたなんて思うと、それだけで更に混乱してくる。

「はあ…ダメだ。何だか頭の中がウニウニしてきた…。養子の事もよく分からなくなってきたし…」

椿さんが言うように、楓おば様に何か考えがあってわたしを養子に、と言ってるのなら、それは何なんだろう。
椿さんの言い分を借りれば、私を養子に迎えれば、おば様にとって、それは何かの役に立つ、という事なんだろうか。
もし本当にそうなら恩返しってわけじゃないけど、おば様の望むようにしてあげたい。ふと、そんな事も考える。
きっと養子縁組の話を了承した両親も、そんな風に思ったからこそ、私に決定権を譲ったんだろうと思った。
その時、またしても携帯の着メロが鳴り響き、私はすぐに相手を確認した。

「…何だ、大和?」

一瞬、花沢類かと期待した自分に苦笑しつつ、届いたばかりのメールを開く。

『…アホの一言メールはキツイやん(T-Tゥゥ 今一人寂しく東京駅に到着。
これから帰って風呂入って枕濡らしながら寝る。PS.風呂と聞いてオレの裸、想像したらアカンでぇ(* ̄m ̄)』

「……アホかっ!!」

能天気なセクハラメールに、思わず携帯をソファへ叩きつける。
大和のメールで、何だか一人で悶々と悩んでるのがバカらしくなってきた。

「ったく!ホント大和って呑気…呑気ってゆーかバカ?司と対張るわね…」

ブツブツ文句を言いながら、サッサと着替える。また遅くなれば司に文句を言われるかもしれない。
今日、西門さん達がいてくれて良かった。司とあのまま、この家に二人きりにされてたら本当に気まずかった。

(まあ…お姉さんが帰って来たし…それはそれで良かったかも)

そんな事を思いつつ、気づけばお腹が鳴りだし、私はダイニングへ向かうべく部屋を飛び出した。











「はあ〜腹いっぱい!食いすぎたー」
「オレも。後は酒しか入らないかも」

西門さんと美作さんはダイニングから隣にあるリビングへと移動し、ソファにひっくり返っている。
でも私も少々食べ過ぎて、苦しくなってきた。

「…別に無理して食わなくていーぜ」

私の手が止まったのに気づいた司が、不意に言った。

「う、うん…じゃあ…ご馳走様」

そう言ってナイフとフォークを置く。そこへ食後のデザートが運ばれてきて、思わず笑顔になった。

「そういうのは入るのかよ」
「もちろん。だって別腹って言うでしょ?」

目の前に置かれる飴細工に囲まれたケーキにウキウキしながら言えば、司は「何ぃ?お前、別に腹があんのかっ」とアホな事を言っている。
それには溜息しか出てこない。っていうか何でこんなにバカなんだろう…。

「おい、無視すんな」
「司がワケの分からない事を言うからでしょ。わぁ、美味しそう。いただきまーす」
「…おぇ」

私がクリームたっぷりのケーキにフォークを入れると、司は気持ち悪いものを見るような目つきで顔を背けた。

「よくメシの後に、そんな甘ったるそうなもん食えるな」
「男には分からないわよ。食後のデザートって女の子には大事なの」
「…ふーん。そんなもんか」

司は不思議そうに私を見ながら、最後のステーキを口に放り入れた。

「と、ところでよ…」
「んー?」

無言のままケーキと格闘していると、不意に司がこっちを見た。

「さっき…姉ちゃんと何、話してたんだよ」
「……え?べ、別に何でもいーじゃない…。ちょっとした思い出話よ」
「……そ、それってオレの、事とか?」
「………ち、違うもん」

明らかに動揺している司に、こっちまでドキドキしてくる。
あの初恋の相手という話が再び思い出されて、自然と顔が赤くなった。

「そ、それより…綺麗な人よね、椿さんて」
「あったりめーだろ。オレの姉ちゃんなんだぜ?世界最強の女だよ」

何を得意げな顔で…と思いつつ、確かにこの司を一撃出来るんだから最強には違いない。
でも綺麗でサッパリしていて、女として完璧なところは静さんと似ているけど、また違った魅力のある人だなと思った。

(花沢類は今頃、パリ行きの飛行機の中かな…)

ふと、彼の笑顔を思いだし、胸の奥がキュンとした。
こういう些細な事で、やっぱり花沢類の事が好きなんだな、と思い知らされる。
だけど彼にパリに行くよう話した事は、後悔したくなかった。

「…何考えてんだよ」
「え…?」

フォークを止めたままボーっとしている私を見て、司はビールを煽りながら訝しげな顔をした。
その真っ直ぐな瞳にドキっとさせられる。今、花沢類の事を考えていた事さえ、見抜かれてしまいそうな気がした。

「…食わねえのかよ。好きなんだろ?食後のデザート」
「う…た、食べるわよ…」

ニヤリと笑う司に何故か顔が赤くなる。コイツってばバカのクセに顔だけはいーんだからやりづらい。

「司ぁ〜ワイン飲んでもいい?」

そこへ西門さんが顔を出した。

「その辺にあるやつ、勝手に飲めよ。あ〜オレにもくれ」
「あいよー」
も飲むか?」
「え?」

司に聞かれ、思わず頷くと、西門さんがグラスに注いだワインを持って来てくれた。

「何か時差ぼけで逆に目が冴えてんの。酒でも飲まなきゃ寝れなさそう」

西門さんはそんな事を言いながら、美作さんの方へ歩いていく。けどふと思い出したように振り向くと、

「そういや、ちゃん決めた?養子の件」
「えっ?あ、いえ…まだ……」
「そっかー。まあでも一生もんだからなぁ。じっくり考えて結論出した方がいーよな」
「う、うん…まあ」
「ま、オレ的にはちゃんが司の妹になるなんて考えらんねえけど。なあ?司、お前もだろ」
「………っ(何でそこ司にふるかなっ)」

司はワインを飲みながら黙って私達の会話を聞いてたけど、ふられた事で、ふと私を見た。
その人を射抜くような視線に、またドキっとさせられる。

「オレは……のこと、妹なんて見れねえな」
「やっぱなー。まあお前の姉ちゃんは妹にしたがってたけどー」
「……っ(余計な事、言わないでよ西門さんっ)」

心の中で突っ込みつつ、誤魔化すようにワインを流し込む。
その間も司はジっと見ていて、その熱い視線に顔が赤くなってきた。

(やだ……そんな目で見ないで欲しい…)

思わず視線を反らし、気づかないフリをする。オレは本気なんだ、と言われてる気がして、勝手に鼓動が早くなった。

「ご、ご馳走様。私もあっちで飲もうかなー」

司の視線に耐えられなくなり、私は椅子から立ち上がると、リビングへと移動した。
お手伝いさん達がお皿を下げに、入れ替わり立ち代り入って来てたとはいえ、あのまま司と二人でテーブルについていると緊張してしまうのだ。
私はワイングラスを片手に持ち、西門さんと美作さんが寛いでいるソファへ座った。

「はい、ちゃん。このワイン美味しいでしょ」

西門さんはそう言いながら新たにワインを注いでくれる。
でもダイニングに残っている司に気づき、「司もこっち来いよ」と声をかけた。

「みんなで飲もうぜ」

その一言に司も「おう」と返事をして、こっちへ移動してくる。私は何となく西門さんの隣に座りつつ、司から距離をとった。

「つーか、何かDVDない?ただ飲むってのも退屈じゃん」

テレビのチャンネルを変えつつ、美作さんが振り向く。司はテレビの方を指差すと、「その辺に色々あるぜ」と立ち上がった。

「つーか映画見るならシアタールームに移動した方がいんじゃねえの?」
「それも思ったけどさあ、あそこ無駄に広いし絶対さみーじゃん。あったまるまで待つの面倒だろ。ここのテレビだってデカイし暖炉もあってあったかいしー」
「………(って、この家、シアタールームまであるの?!知らなかった…)」
「いーけど何でも」

内心驚いてると、司は西門さんの言葉に苦笑しながら、テレビ脇の棚から色々とDVDを取り出し、二人に渡した。

「お!いーのあるじゃん。ホラー見ようぜ」
「あ〜?真冬にホラーかよ」

一つのDVDを手に振り向いた美作さんに西門さんが突っ込む。
それでも「真冬にホラーも乙だろ」、という美作さんの一言で、結局みんなでホラーを見る事になった。

「はい、ちゃんはここ!司の隣ね」
「え?ちょ、ちょっと―――――」

端っこで見ようと思っていた私を、西門さんが無理やり司の隣に連れて行く。
苦情を言いかけた時、ふと背中に視線を感じ振り向くと、司は何も言わず黙って私を見ていて。
その強い視線に、また顔が熱くなった気がした。

「…いーじゃん。ここで」
「う、うん…」

自分の隣にあるクッションをポンポンと叩く司に、私も仕方なくそこへ座る。
ソファを背もたれにして、ふかふかの絨毯に座りながら、前方でDVDプレイヤーを操作している西門美作コンビを見た。
二人はいい加減酔っているのか、ワインを飲みつつ、始まる前から騒いでいる。

「だから絶対こっちの方が怖いってー。何て言っても実話だぜ?」
「でも気持ち悪さ的にはこっちじゃねえ?血と内臓がドバーって派手な感じで」
「それもそうだな。つーか、まだ夜の11時だし、二つとも見る?」

そこで西門さんがこっちに振り向いた。

「ああ、いーぜ。オレはどっちでも」
「OK!んじゃー、どっち先に見るー?やっぱ酔う前にサスペンス・ホラー見とく?」
「だな。いいだけ酔ったら頭使わないでも見れる方がいーし」

そんな会話をしつつ、二人はDVDをセットしていて。映画が始まるのと同時に美作さんが「じゃあー消すよー」と部屋のライトをリモコンで消した。

「え、暗くして見るの?」
「当たりめーだろ。明るいとこでホラー見てもつまんねえ」
「そ、そりゃそうかもしれない、けど…」

一気に暗くなり、テレビの明かりだけが照らす部屋でホラーを見るのは少し抵抗があった。
だいたい私はホラー映画が大の苦手なんだから。

「何だよ、。お前怖えの?」
「べ、別にそんなんじゃ―――――」

からかわれてムっとした私は、苦笑している司を睨んだ。
でも、その距離があまりに近くてドキっとする。互いの肩も触れ合うくらい近くて、絨毯に置いたままの手は、司の指先にも触れそうだった。

「な、何だよ…」
「べ、別に何でもない」

そう言って顔をテレビに向ける。熱くなった頬を手で押さえ、ここが暗闇で良かった、と内心ホっとした。
明るい場所で見られたら、頬が赤くなっている事がバレてしまう。
司にあんなことを言われ、椿さんが教えてくれた話と重ねると、自分でも気づかないうちに随分と司を意識している事が分かった。

(ダメダメ…意識なんてしちゃ。私が好きなのは花沢類で司じゃないんだから…)

でもそう思えば思うほど意識してしまい、映画を観ている最中も気になって、紛らわすのにワインを沢山飲んでしまった。
途中から映画の内容もよく分からなくなって、自然と瞼が落ちてくる。ついでに小さな欠伸まで出てきて、私はグッタリとソファに凭れかかった。

「お、おい…大丈夫かお前…」
「んー。ちょっと酔っただけ。ちゃんと見てるもん」
「…つか飲みすぎじゃねえ?」
「大丈夫だってば…。それより映画見てないと内容が分からなくなるよ」

ふわふわとする中、司のいる方に視線を送る。でも視界までがボヤけていて、良く見えない。

(すでに映画の内容を分かってないのは私かも)

内心そう思いながら、瞼が重くてゆっくりと目を瞑る。その時、左側の腕に体温を感じた。

(あ…司の腕が触れてる…ひょっとして映画が怖くてくっついてきたとか?でも今はもう意識なんかしてないもん…)

目を瞑りながらそんな事を考える。酔っていれば何も感じない。ただふわふわする感覚に身を委ねるだけだ。

(…っていうか頭が傾いてる?でもこの感じ…もしかして私が司の方に傾いてるのかな…)

少しづつ体も重くなって、力が抜けていく。
意識が朦朧としてくる中、不意に頭を寄せられた気がしたけど、何かを言う前に私は眠りの中に落ちて行った。











「…ったく…飲みすぎだ、このバカ」

自分の肩に頭を乗せて寝息を立て始めたに、司は顔を赤くしつつボヤいた。
最初は映画に集中していたが、はワインで酔ううちに、少しづつ司の方に体が傾き、最後には完全に寄りかかっている状態になっていた。
それには司も固まったが、怒る気分にはなれず、黙って知らないフリをしていたのだ。

「あれー?ちゃん寝ちまったの?」
「お、おう」

二本目の映画が終盤になる頃、総二郎が目を擦りながら振り向いた。
あきらは、すでにテレビの前で大の字になり眠ってしまっている。

「ホラー見ようって言った張本人も寝てるよ…」
「い、いーんじゃねえの。時差ぼけだろ、お前ら」
「まーねー。オレもそろそろ寝るかなぁ。でもこれラスト気になるし…」

総二郎は横になりながらブツブツ言っている。
司も一応は映画を見ていたが、どうしても意識は自分に寄りかかっているへ向いてしまう。

「…人の気も知らないで無邪気な顔だぜ、ったく…」

安心したように眠っているを見ながら、司は小さく舌打ちをした。
でも色んな事がを襲って精神的にも疲れているのは司も分かっている。その悩ませている中に自分の事が入ってる事も。

「…クソ。妹なんて冗談じゃねえっつーの…」

小さく呟き、スヤスヤと眠るを見つめる。その寝顔は幼い頃の面影を少しだけ残してる気がした。

(何、焦ってんだオレは…)

ふと自分に失笑しつつ、それでもが養子の件を承諾する前に、伝えておきたかった。
が養子縁組として道明寺家に入れば司とは家族となってしまう。そんな状態で気持ちを伝えるのは、さすがに出来ない。
上手な告白でもなく、充分に伝わってるとは司も思っていなかったが、それでも何も言わないよりはマシだ。

「…どんなに嫌でも…お前にはお前の夢があんだよな…」

それを邪魔する事は出来ない、と思う反面、と家族になるのは嫌だ。
そんな気持ちに挟まれ、司なりに最近はずっとキツかった。

「はあ…」

こんな風に溜息が出るのも、色んな事が不安だからだ。
養子の件、類の件。二人を取り巻く環境は、司にとって決して楽な道じゃない。

「ったく…総二郎も寝たのかよ…」

ふと前を見れば、さっきまで起きていた総二郎も、横になったまま寝息を立てている。
その姿に苦笑しつつ、肩に寄りかかるに目を向けた。
テレビの明かりだけで、良く見えないが、艶やかに光る唇だけはハッキリと司の視界に浮かび上がる。

「……少しは警戒しろ、このバカ女…犯すぞ」

男ばかりの中、警戒心もなく眠りこけるにそう呟くと、司はゆっくりと顔を近づけ、の唇へと触れるだけのキスを落とした。













続けて更新。
昨日、花男の映画を観ましたが無人島行く前までは本当に面白かったです★
開始30分でオチが分かってしまった…;;
でも前半でザイルのAKIRAと戦うシーン、司(松潤)はめっちゃかっこ良かったっすー。
あとベガスへ向かう道中の司もGOOD!サングラスとか似合うね。壮大なベガスの風景に道明寺司…イイ(笑)
しかーしラストの類の格好は……ビミョー(涙)