転校して来た初日の放課後。


この学校へ来て、初めて言葉を交わした人は手が血まみれだった――――。






――01.転校生









人と一緒にいるのが苦手で、どちらかと言えば一人の時間が好きだった。
だから転校先で話し相手がいないというのも苦じゃなくて、むしろ気楽だった。

放課後、真っ直ぐ帰る気もしなくて、まだ行った事のない裏庭までノンビリと歩いて行く。
人気の少なくなった放課後は私の大好きな時間だ。
そんな私の前に、可愛い小鳥が飛んで来て、不意に肩に止まった。


「わ・・・・なつっこい」


私の肩に小さな足を乗せ、ピーと鳴く姿に思わず笑みが零れる。


「お前・・・・どこの子?迷子?」


返事なんて返ってくるはずもないのに、そんな事を口にする。


「――――それ、僕の小鳥なんだけど」


突如、背後から聞こえたその声に顔を上げて、ビックリした。


「あ、あなた・・・・怪我してるの?」


声をかけてきたのは先輩らしい学ランを着た男。
腕に風紀委員とかかれた腕章をした、その男は手を真っ赤な血で染めながらも平然とした顔で歩いてくる。

その異様さに驚いたけど、何故か怖いとは感じなかった。


「返してくれる?」
「え・・・・?」


血まみれの手を差し出された。一瞬、目が丸くなる。
それにホントにこの人の鳥かしら、と不信に思ったけど、意外にも小鳥を見つめる彼の目はとても優しいことに気付く。


「はい」


指に小鳥を乗せ、彼の真っ赤な手へ差し出すと、小鳥は羽をバタつかせ、彼の指ではなく肩に止まった。


「ありがとう」
「い、いえ・・・・」


そう答えながら、怪我は大丈夫なんだろうかと、もう一度聞こうとした時、逆に彼から質問された。


「君、鳥の扱い慣れてるね。飼ってるの?」
「え?あ・・・・子供の頃にインコを飼ってて」
「ふーん」


その男は小鳥に頬を寄せながら、それだけ言うとチラっと私を見てきた。


「あ、あの・・・・怪我されてるんじゃ――――」
「ああ、これ?平気だよ。僕の血じゃないから」
「・・・・え?」


あっけらかん、と言い放った彼に少しだけ唖然とする。
僕の血じゃない、という事は、この血は他人のもので、怪我をしてる人が他にいるという事。
で、彼の手に血がついてるという事はその"怪我人"を出したのが彼・・・・?
そう思いながら目の前の彼を見上げると、男はかすかに笑った気がした。


「君、変わってるね」
「え・・・・?」
「会ったばかりで堂々と僕の顔を見てきた女は初めてだよ」
「・・・・はあ」


どういう意味だろう?と思いつつ首を傾げる。
確かに手は血まみれで、どう見ても怪しい男なんだけど、何となく怖いとは思わなかった。


「ああ・・・・君、もしかして転校生?」
「え?あ、そうです。今日来たばかりで・・・・」
「そう。で、一人で何してるの?こんな場所で」


そういう貴方は何を?と質問したかったけどやめておいた。


「一人でいるのが好きなだけです。ここなら誰もいないし静かでいいなあって」


素直に思ったことを口にすれば、彼はジっと私を見ながら、「奇遇だね、僕もだよ」と言った。
その瞬間、急に騒がしい足音がして振り向くと、またしても学ランを着たゴツイ男二人が走ってくる。


「ヒバリさん!奴らの処理、済みました」
「そう、じゃあ帰っていいよ」
「ではお先に失礼します!」


どう見ても彼より図体のデカイ男、二人が丁寧に頭を下げて帰って行くのを見て、ちょっと口が開いた。
それに今、彼のこと、『ヒバリさん、、』なんて呼んでたけど、どう見ても彼らの方が見た感じ年上っぽいのに。


「えっと・・・・。ヒバリ・・・・さん?」


少し変わったその名を口にすると、彼は表情も変えないまま、「うん。僕は雲雀恭弥」と名乗った。


「あの・・・・今の人たちはお友達、ですか?」
「友達じゃないよ。同じ委員ってだけ」
「あ、風紀委員・・・・・」
「そう。それに僕は群れるのが嫌いだから」


雲雀と名乗ったその男はそれだけ言うと、小鳥をあやしながら歩き出した。
彼の行く先には、中学校に似つかわしくないバイクが止めてある。


(もしかして・・・・あれで登校してるのかな。彼ってやっぱり・・・・不良?)


でも風紀委員なんてやってるのに・・・・・。
いやでも手が血まみれだったし、アレはきっと誰かとケンカしたんだ。
それにさっきの人たちも奴らは処理したとか何とか言ってたし。

あれこれ考えながら、雲雀恭弥の背中を見送る。――――が、不意に彼が振り向いた。


「そう言えば・・・・君、名前は?」


「え?あ・・・・あの・・・・・・・・です」


、か。覚えとくよ」


雲雀恭弥はニヤリと笑うと、私の思った通りあのバイクにまたがりエンジンをかけた。
ブォォンという派手な音に、思わず耳を塞ぐ。そのまま視線を向けると、彼も私を見ていた。
どこか、そう何となく、優しい瞳で。


「・・・・変な人」


そう呟きながら、再び歩き出す。すると今度は目の前に小さな子供が走ってきた。


「ランボさん、悪くないもんねー!!!!」


「袵衙袤襠褂襁褪褞裄褊褓!!!」


「ま、待てー!!ランボー!イーピン!!」


「・・・・・・・」


目の前を嵐の如く、牛の格好をした子供と、ちょんまげを結った子供と、
そして確か同じクラスだった気弱そうな何とかくん(!)が走り去って行った。


「何で学校に子供・・・・?しかも微妙に格好が変だし!」


3人が走り去った方向へ目を向けながら溜息をつく。


「・・・・変な人の多い学校に来ちゃったな」


個性的な人が多いのかな、と首を傾げつつ、私も家に帰る事にした。


まさか次の日、あんな事になるなんて思いもよらずに――――








雲雀夢、手直ししました(^^)

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