あんな事があっても、今日もいつもと変わらない朝を迎える。
ただ違ったのは学校へ行くのに家を出ると、そこには学ランを来た怖い顔の男が立っていた事だ。
「風紀委員、副委員長の草壁だ」
男はそう名乗り、私に先日の件の話を詳しく話してくれた。
――05.Two persons' beginning...
「え、じゃあ私が狙われてるって事前に分かってたんですか?」
「そう言うことだ。奴らがうちの生徒を脅して委員長の弱みを探っていた事を知ってな」
草壁さんはそう言うと溜息交じりに空を見上げた。
「そこでアンタの名前が出た事を知った委員長は、アンタと距離を置き、その間に奴らの正体を調べてたんだ」
「そうだったんだ・・・・」
「ああ、だから委員長の態度が変わったのはそういう事だ・・・・。うん」
草壁さんはそこまで話すと、どこか照れくさそうに視線を反らした。
きっと、こういうのは苦手な人なんだろう。
でも雲雀さんの事を、少なくとも他の皆よりは理解してる人なんだと思う。
「だ、だからその・・・・悪く思わないでやって欲しい・・・・。ち、違うな・・・・。え〜と――――」
「分かってます」
「・・・・え?」
「雲雀さんは詳しく言わなかったけど・・・・他の人からも私のためだったんだって事、聞きましたから」
私がそう言うと、草壁さんはホっとしたように息をついた。
「そ、そうか。なら・・・・良かった。じゃあ私はこれで――――」
「え?」
草壁さんはそれだけ言うと慌てたように踵を翻した。
が、どうせ、これから行くところは同じだし、と、「待って下さい」と声をかける。
「な、何だ?」
「あの・・・・私も学校に行くところだし一緒に行きませんか?」
「えっ?!」
私の言葉にギョっとした顔で振り返る草壁さんに首をかしげると、彼は動揺したように首をブンブン振り出した。
「そ、それはマズイ!俺がこうしてアンタのところに来てるのもハッキリ言ってマズイのに一緒に学校に行くなんて――――」
「え、どうしてですか?だって行く方向は一緒だし・・・・」
そう言って彼の方に歩み寄る。
雲雀さんの一番近くにいる草壁さんに、普段の彼はどんな人なのか、聞こうと思ったのだ。
でも草壁さんは何だか青い顔をして左右に首を振るばかり。
「ダ、ダメだ・・・・!こんなところを委員長に見られてはお仕置きを受ける!」
「へ?お、お仕置き・・・・?」
「そ、そうだ!アンタに勝手に会いに行ったなんて知れたら当然だっ」
「でも・・・・歩く方向は一緒ですけど」
「だ、だから・・・・お、俺のずっと後から歩いて来い。あ、あと・・・・俺が来た事、委員長には言うなよ・・・・?」
「あ・・・・」
草壁さんはそれだけ言うと、競歩の如く、物凄い速さで前を歩いていく(!)
それを唖然としながら見ていると、後ろからバシっと背中を叩かれた。
「よ!」
「あ・・・・山本くん」
振り返ると、あの爽やかな笑顔を浮かべた山本くんが立っていて、その後ろには獄寺くんが欠伸をしながら歩いて来た。
「な、どうしたの?」
「俺んち、この先なんだ。獄寺とは途中で会ってさ」
「オッス、」
「あ、おはよう、獄寺くん」
前より打ち解けてくれた獄寺くんに挨拶すると、彼はニヤリと笑って、
「あれって風紀委員の草壁だよなぁ。何しに来てたんだ?」
「あ・・・・この前の件の事でちょっと・・・・」
「何だ。てっきりヒバリに言われて、の護衛でもしに来たのかと思ったよ」
山本くんはそう言って笑いながら、「一緒に行こうぜ」と言って歩き出す。
まあ向かう方向は一緒なので、私もそのまま彼らと歩き出した。
「ところで・・・・その後、ヒバリとはどうよ」
「え?どうって・・・・」
獄寺くんに聞かれ、答えに困った。
一昨日、送ってもらってから彼とはまだ顔を合わせてないからだ。
「昨日は学校休んでたみたいだし・・・・あれから会ってないの」
「えぇ?そーなの?」
「ああ、そう言えば・・・・俺もあれから見てねーな」
山本くんもそう言いながら首を傾げている。
獄寺くんは呆れたように溜息をつくと、
「連絡とかとってねーの?」
「れ、連絡って言われても・・・・私、彼の連絡先なんて知らないし、それに私たちは別に――――」
「はあぁ?!知らないのっ?」
「――――っ」
獄寺くんの驚きように、ビクっとなって言葉を失う。
「な・・・・何で、そんなに驚くのよ・・・・」
「だ、だってお前ら付き合ってんだろ?だったら携帯番号くらい――――」
「ちょ、と…バカ言わないでよ!付き合ってなんか・・・・」
そこで言葉を切った。
目の前の二人が半目のまま大口開けて振り返ったからだ。
「な、何よ、その顔――――」
「マ、マジで言ってる・・・・?・・・・」
「嘘だろ・・・・?」
「な、何で嘘つかないといけないの?ホントだもん・・・・」
2人のリアクションに恥ずかしくなって目を伏せれば、山本くんが唖然とした顔で目の前に歩いて来た。
「だ、だってお前、この前ヒバリさんと抱き合って――――」
「――――っ!」
「お、おい山本!!」
真っ赤になるような事をケロっと言った山本くんを、獄寺くんが慌てて止めている。
そりゃ私だって、見られただろうなとは分かってたけど、面と向かって言われると凄く恥ずかしい。
昨日は皆、気を遣ってくれたのか、その事には触れてこなかったからホっとしてたのに。
「あ、悪い・・・・。あ、いやでも別に覗き見したわけじゃなくて――――」
「い、いいの・・・・。分かってるから・・・・」
彼らだって心配して来てくれたんだって事は分かってる。
ただ、あの時は少なからず私も怖かったし、動揺もしてたからあんな風に流されてしまって・・・・
それを見られてたんだと思うと、今さらながらに恥ずかしい。
それにまたしても唇を奪われて少し動揺してるのに。
"お前ら付き合ってんだろ?"
分からないよ、そんなの。
だって彼に何か言われたわけじゃない。連絡先だって聞かれたわけじゃないし、彼のだって教えてもらってもいない。
こんな関係に名前をつけるとしたら、何てつければいいのよ。
「おーい、!早く来いよ!遅刻すっぞ!」
「あ、うん・・・・!」
いつの間にか学校前に来ていて、慌てて校舎まで走っていく。
――彼は今日、来ているんだろうか。
ふと、気にかかりながら、チャイムの音と同時に校内へと駆け込んだ。
終了のチャイムを聞きながら、私は教科書を鞄に入れて立ち上がった。
あれから5日
まだ雲雀恭弥は姿を見せない。
たまに彼と出会ったあの場所に行ってみるけど、来た気配もなければバイクもなかった。
(どうしたんだろう・・・・。何かあったのかな・・・・)
あんな事があったばかりだから、そんな心配さえ脳裏を掠める。
知り合ってから振り回されてばかりで、何を考えてるのか分からない人だけど、ずっと姿を見せないとやっぱり気になってる自分がいて。
彼の担任にでも聞いて家を訪ねてみようか、とすら考えた。
(でも・・・雲雀さんって何年の何組・・・・?)
皆に聞いても知らないって言うばかりで、ホントに彼は謎だらけの人なんだという事を思い知らされた。
「あれ、。帰らないのか?」
「え?あ・・・・」
自分の席の前で立ったままボーっとしてたらしい。
山本くんが振り向いて首をかしげている。
「か、帰るよ・・・・?」
「んじゃ一緒に出ようぜ。おーい、ツナ!帰るぞー」
山本くんはいつものようにゴーイングマイウェイで私の手を引き、沢田くんを呼ぶ。
沢田くんは私に気付くと、ギョっとした顔で、笑顔を引きつらせた。
「ちょ、ちょっと山本ー。さんにそんな事したらヒバリさんが――――」
「ずっと来てないし大丈夫だろ?ほれ、一緒に帰るぞ」
「はぁ・・・・。やっと怪我も治ってきたってのに・・・・」
沢田くんは何やらブツブツ言ってるけど、山本くんは全く聞く耳を持たず、楽しそうに口笛を吹きつつ先を歩く。
そんな彼を見て笑いを堪えつつ、皆と一緒に家路についた。
「おう、。ツナんち寄ってけよ。帰りは俺が送ってくからさ」
ちょうど沢田くんの家まで歩いて来た時、山本くんがいつものように誘ってきた。
沢田くんは諦めたのか、「今度ヒバリさんに殴られる時は山本も道連れだ・・・・」なんて肩を落として家の中に入っていく。
その時、私が返事をする前に家の中から例の子供が顔を出した。
「ちゃおっス、」
「あ・・・・。リボーンくん、こんにちは」
「元気そうだな。ヒバリとは上手くいってるのか?」
「う、上手くなんて・・・・」
いきなりの質問に顔が赤くなった。
すると山本くんが苦笑交じりで、「ヒバリはここんとこ休んでるんだ」と説明してくれる。
「そうか・・・・怪我でもしたのかな」
「・・・・え?」
リボーンくんの言葉にドキっとした。
そう言われれば、この前はあんなに大勢を相手にしたんだし、いくら強くても怪我の一つくらいしたかもしれない。
どうして今まで気付かなかったんだろう。
「どうした?」
「え、あ・・・・ごめん、私やっぱり帰るね」
「え、おい――――」
「ごめんね!また明日!」
驚いた様子の山本くんと、ニコニコしているリボーンくんに手を振り、私はそのまま自分の家に向かって歩き出した。
リボーンくんが言ってた言葉を思い出すと、何となく心配になってくる。
(やっぱり明日も来なかったら・・・・どの先生でもいいから彼のことを聞いてみよう)
そう思いながら、思った以上に彼の心配をしている自分に、少し驚いていた。
次の日、学校に行っても、やっぱり雲雀さんの姿がなくて、昼休みを待って応接室へと行ってみた。
でも、そこにもいなくて本気で心配になってくる。
「今日で6日か・・・・。どの先生に訊いても皆知らないって言うしなあ・・・・。しかも何気に怯えてたし」(!)」
ソファに座り、溜息をつく。
ボーっと窓の外を眺めていると、初めてここに足を踏み入れた日の事を思い出す。
彼の言動の意味が分からなくて、ここまで会いに来た日だったっけ。二人で夕日を見たのは。
(凄く綺麗だったな・・・・)
あの日の事を思い出すと、かすかに胸が痛んだ。
何もない日常に色がついたみたいに心の奥が暖かくなって、よく知らない彼の事が、何故かずっと前から知ってるような、そんな気すらして。
今だって彼の事、何も知らないのに、こんなにも気になってる。
これって――――
不意にあの日のキスを思い出し、顔が赤くなった。
「ダメだ・・・・。完全に振り回されてる・・・・」
軽く頭を振って立ち上がると、窓を開けて空を眺めた。
今日はいい天気で青い空が眩しいくらいに綺麗だ。
少し目を細めて、手で日差しを遮る。
その時、視界の中を何かがかすめて行ったような気がして、視線を横に向ければ――――
ピ〜!
「――――あ!」
あの小鳥が空を旋回していて思わず声を上げる。
すると小鳥はふわりと方向転換して、私の方へ飛んで来た。
「お前・・・・何でここに?」
当たり前のように私の肩に止まる小鳥を見て、つい笑みが零れる。
小鳥は私の頬に頭を寄せながら、羽を何度かばたつかせ、また空へ飛び立った。
「あ、待って――――」
(小鳥がいるのなら、もしかして彼が来てるのかも・・・・!)
そう思って窓から身を乗り出し下を覗いてみた。
すると雲雀さんらしき人影が校内へ歩いていくのが見えて、思わず応接室を飛び出す。
(今のは・・・・きっと彼だ)
そう確信しながら一気に階段を下りると、いつもバイクが止めてある場所までやって来た。
「はぁはぁはぁ・・・・」
息を整え、ゆっくりと近づいた。
目の前には見慣れた彼のバイク。
(やっぱり・・・・彼は来てる!)
そう思うと自然にドキドキしてくるのを感じながら辺りを見渡した。
でも、どこにも彼の姿はなくて軽く息をつく。
(もしかして・・・・すれ違っちゃったかな)
もう一度、応接室に戻ろうか、と思っていると、人の気配がしてハっと振り返った。
「あれぇ・・・・?こんなとこに可愛い子、発見♪」
いきなり奥から二人の男が歩いて来た。
茶髪にピアス、そして制服のズボンを腰まで落とした、だらしない格好。
口には煙草を咥えていて、どう見ても真面目な生徒には見えない。
(3年生だ・・・・)
そう思って戻ろうと踵を翻した瞬間、腕を掴まれ、ドキっとした。
「・・・・あれぇ?この子ってアレじゃん?あのヒバリが気に入ってるって女」
「うっそ、マジ?」
「ちょっと・・・・放して下さい!」
いきなり腕を掴まれ、驚いていると、二人の男は顔を見合わせ、笑い出した。
「かーわいいー。放して下さい、だってさ」
「いいねー気が強い子、好きだぜ?」
「ちょ・・・・っと・・・・っ」
いきなり顔に煙草の煙をかけられ顔を背けた。
でも男達はケラケラ笑いながら、「暇なら一緒に遊びに行かない?」なんて誘ってくる。
「おい、でもこの女にちょっかいかけたらヒバリが怒るんじゃねーの?」
シャツのボタンを三つも外し、ネックレスをしている男が辺りを見渡す。
が、茶髪の男が笑いながら、「でも最近、来てねーじゃん」と言って私の顔を覗き込んできた。
「ねえ、アイツ、最近ヤクザとモメてたって本当?」
「え・・・・?」
「やっぱヤクザに殺されて、どっかに埋められた?」
「な・・・・」
「さすがにヒバリでもヤクザには敵わねーだろーなー」
「・・・・・」
そう言いながら男が笑った。
あのことが噂になってるんだ、と思ってドキっとした。でも彼は――――
「そういや後輩が言ってたけど、アンタ、アイツと付き合ってないんだってねー」
「・・・・っ?」
「あーそうなんだ。じゃあ俺らと遊んでもいいって事じゃね?」
勝手なことを言って笑っている二人を見て、私は腕を放そうともがいた。
「放して下さい・・・・!もうすぐ授業、始まりますよっ?」
「あはは!バカじゃねーの?授業なんてかったるくって出れるかよ」
茶髪の男はそう言って笑うと、「いいから一緒に遊びに行こうぜ?」と言って私の手を無理やり引っ張った。
「痛・・・・!放して!」
「少しくらい、いいじゃん。アンタ、ホント可愛いよなぁ〜。アイツにはもったいないって」
「ちょっと――――っ」
男達が笑いながら裏門の方に歩いていくのを見て、何とか足を止めようと力を入れる。
でも男の力には敵わず、もう一人の男も私の肩を抱いて顔を覗き込んできた。
「暴れるなって。あまり聞き分けないとお仕置きするぜ?」
「・・・・っ?」
「最近、女と別れて欲求不満なんだよねー俺ら♪」
そう言って肩から背中、そして腰まで撫でると、男はニヤリと笑った。
「へぇ♪お前、スタイルいいじゃん」
「・・・・っ!やめて下さい・・・・っ」
「おいヌケガケしてんじゃねーよ」
「はいはい。んじゃーお前んち行く?どーせ親いねーんだろ?」
「ちょ・・・・っ」
その会話を聞いてギョっとした。
このまま連れて行かれたら何をされるか分からない。
「誰か――――」
怖くなって助けを呼ぼうとした。
が、その瞬間、私を掴んでいた腕が解けてハっと顔を上げれば、目の前の男は顔を強張らせて前方を見ている。
もう一人の男もギョっとした顔で私を見て、パっと肩から手を離した。
「ヒ、ヒバリ・・・・!」
「――――?」
男の言葉を聞いてドキっとした。
視線を前に向ければ、確かに彼が真っ直ぐこっちへ歩いてくるのが見える。
それを見て、男達は青い顔をして後ずさった。
「・・・・こんなとこにいたんだ。探したよ」
「雲雀・・・・さん?」
雲雀恭弥はそう言って表情も変えず、私を見た。
そして後ろにいる男二人を見て、ゆっくりと歩いて来た。
「・・・・彼女に手を出したら、どうなるか分かってるよね」
「「――――っ?!」」
その言葉に二人は更に青ざめ、「い、いや・・・・でも付き合ってないって聞いて・・・・」と茶髪の男が顔を引きつらせた。
さっきの勢いはどこへいったのか、今にも逃げ出しそうになっている。
そんな二人の前に立ちはだかり、雲雀恭弥は戦闘態勢に入った。
「関係ないよ。付き合うとか付き合ってないとか。彼女に手を出す奴は噛み殺すって決めてるんだ」
「ひぃ・・・・っ」
トンファーを構えた彼を見て、二人の男は慌てて逃げ出そうとした。
でも途中で足がもつれて、その場で転んでいる。
それを見て私は彼の腕を掴んで、「やめて」と頼んだ。
「何もされてないから・・・・殴らないで」
そう言って見上げると、彼は黙って私を見つめた。
「何もされてないって?」
その瞳には僅かに怒りが見え隠れしていてドキっとする。
「――――奴らはに触れただろ?」
「え・・・・?」
(そ、それだけーっ?!)(※男二人)
雲雀恭弥はそれだけ言うと、掴んでいた私の腕をそっと放して、腰を抜かしてへたり込んでいる二人の方に歩いていった。
「わ、悪かったよ!」
「も、もう彼女にちょっかいかけませんから・・・・!」
哀願する二人を、彼は冷たく見下ろすと、
「そうしてくれる?僕も彼女の前でこんな事したくないんだ」
と言って、ふっと口元を緩めた。
それを見て二人は一瞬ホっとしたような顔をした。
が、その瞬間、雲雀恭弥は彼らを一発づつ殴ると(!)二人は簡単に吹っ飛ばされ、気を失ってしまった。
「雲雀さん・・・・!」
その行動に驚いて駆け寄ると、彼は溜息交じりで振り向いた。
「…って隙がありすぎじゃない?」
「・・・・え?」
「おちおち学校も休んでられない」
「・・・・」
その言葉に驚いて顔を上げると、ふわりと体を包まれた。
「・・・・あの、」
「こうして腕の中にしまっておかないとダメなのかな・・・・」
彼はそう言うと私の肩に顔を埋めた。
彼の柔らかい髪が頬に触れ、ドキドキが加速していく。
いつも勝手な事ばかり言って、私を振り回すくせに、何故こんなに優しく抱きしめてくれるんだろう。
「雲雀・・・・さん」
「恭弥だって言ってるだろ」
顔を埋めたまま答える彼の声が、少しくぐもって聞こえる。
耳に直接響いてくすぐったい。
「どこか・・・・怪我でもしてたの・・・・?」
「・・・・何で?」
「だってずっと休んでたから・・・・」
そう言って僅かに体を放すと、彼はゆっくり私を見下ろし、軽く笑みをこぼした。
「まさか」
と言って私の手をそっと握る。
「じゃ、じゃあ・・・・何で?」
「入院してただけ」
「えっ?だ、だったらやっぱり怪我して――――」
「・・・・風邪、こじらせちゃって」
「・・・・」
ケロっとした顔でそう言うと、雲雀恭弥は、「っくしゅ」っと小さくクシャミをした。
「はぁ・・・・。まだ治ってない・・・・」
鼻を擦りながら不満げな顔をしている彼を、思わず半目で見上げてしまう。
なのに彼は平然とした顔で、もう一度私を抱きしめると、
「ねぇ・・・・看病してくれない?」
「・・・・は?」
「病気の時は一人がいいんだけど・・・・になら傍にいて欲しい」
「・・・・」
そんな甘えたように言われたら何も言えなくなってしまう。
ドキドキして顔が熱い。
彼の匂いに包まれてると、何も考えられなくなる。
ぎゅっと制服を掴んで黙っていると、不意に彼が屈んで顔を近づけてきた。
それにはギョっとして体を離すと、彼は「・・・・何?」と不満げに目を細める。
「なな、何って・・・・そっちこそ――――」
「・・・・キスしたい」
「な――――」
アッサリ言われて顔が一瞬で熱くなる。
彼の一言でこんなに心が乱れるのに、そうさせている本人は無表情のまま私を見つめているだけ。
それが余裕にすら見えて、少しだけ悔しくなった。
「ちょ・・・・何言ってんの・・・・?私とあなたは別に――――」
「別に・・・・何?」
「だ、だから・・・・」
流されて二度も唇を許してしまったけど、私たちは付き合ってるわけじゃない。
そんな思いが頭を過ぎって彼を見上げた。
「か・・・・風邪がうつるじゃない・・・・」
なんて、こんな事を言うつもりじゃなかったのに、つい彼の瞳の熱さに圧されてしまった。
すると彼はクスっと笑って、私の腰を抱き寄せると、
「そうなったら・・・・僕が看病してあげるよ」
と言って、再び顔を近づけてきた。
それには私も慌てて俯き、彼の胸をグイっと押した。
「・・・・」
その行動に彼はムっとして目を細めている。
「・・・・キス、したいんだけど」
「ダ、ダメ・・・!」
「・・・・何で」
「な、何でって、だから――――」
(もうー!何て聞き分けないんだ!)
そう思いながら真っ赤になっていく自分が分かり、彼から離れようとした。
なのに、ちっとも距離は縮まず、雲雀恭弥は更に力を入れて抱きしめてきた。
「ちょっと・・・・私は――――」
「付き合ってる、とか、形がそんなに大事なの?」
「・・・・え?」
「こんなに必死に守るのも・・・・キスしたいって思うのもだけなんだけど」
「・・・・・」
「・・・・ワォ。真っ赤だよ」
耳まで赤くなった私を見て、彼はクスクス笑っている。
その余裕もまた悔しくて、涙目で彼を睨んだ。
でも、私を見つめる彼の瞳はやっぱり優しくて、結局私は流されてしまうんだろう。
「あの・・・・私――――って、ちょ・・・・ちょっと、どこ行くのっ?」
いきなり手を繋ぎ歩き出した彼に驚いた。
「邪魔の入らないとこ」
「――――は?だ、だってまだ授業が・・・・」
「勉強なら僕が教えてあげるよ」
彼はそう言って私を軽々抱き上げると、バイクの後ろに座らせた。
そのせいで目線が同じ位置に来て、ドキっとする。
「あの、雲雀さ――――」
そう言いかけた瞬間、
「あーーー!ヒバリ!待て、てめぇ!!」
空から怒声が振ってきた。
「ご、獄寺くんっ?」
上を見上げると、教室から獄寺くんが半分、身を乗り出していてギョっとする。
「てめぇ、また10代目をボコにしやがって!!許さねーぞ、コラァ!」
「・・・・はい?」
彼の言葉に驚いて、目の前で無表情のまま上を見上げている彼を見た。
「ま、まさか・・・・沢田くんを・・・・?」
「ああ。だって僕が休んでた間、を家に呼んでたんだろ?だから、さっきそのお仕置きにね」
「――――え!」
(ってか、そ、それって、どっちかと言えば山本くんなんだけど――!!)
それを聞いて、また包帯だらけになっている沢田くんの姿が頭に浮かぶ。
もしかして、また私のせいで・・・・なんて思っていると、上から再び獄寺くんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「逃がすか!果てろ!!!」
「―――ッ?!(何あれ!)」
獄寺くんの声と共に、何やら赤いものがたくさん飛んで来るのが見えた。
そして投げた張本人は、私を見つけて「げ、もいたのかよ?!――――ヤベ、逃げろ!」なんて言っている。
逃げろって何で?と思った瞬間、雲雀恭弥が素早い動きで飛んできた赤いものをトンファーで軽く弾き返していった。
「死に急ぐなって言ってるのに・・・・しつこいね」
そう呟いたのが聞こえた瞬間、頭上で
ドガァンドガァンッという凄まじい音がして、獄寺くんのいた辺りが煙に包まれた(!)
「な、何・・・・あれ・・・・?花火?」
「気にしないでいいよ。彼の自業自得だから」
「・・・・は?」
雲雀さんはそう言って笑うと、上の騒ぎは気にもせずバイクにまたがった。
「じゃあ僕の家に行く?」
「・・・・えぇっ?」
「勉強、教えてあげるって約束したろ?」
「あ、え?(あれって約束だったの?)」
彼の言葉に唖然としてると、ブォォンとエンジン音が辺りに響いた。
「僕の家も誰もいないから静かでいいよ」
どこかで聞いた台詞を言って笑う彼に何も言えないでいると、雲雀さんは私の腕を自分の腰に回して微笑んだ。
「しっかり掴まってて」
「あ・・・・」
その声に顔を上げると、触れる程度に唇が重なった。
「ちょ・・・・」
「続きは後にするよ」
不意打ちのキスで固まっている私を見て、彼は余裕の笑みをこぼした。
でも、今はそんなに悔しくなくて。
彼のペースも心地がいい、なんて思ってしまう。
だったら、彼が言うように形なんてどうでもいいのかもしれない。
いなかったら心配で、傍にいて欲しい、なんて、そう思ってしまう私がいるから。
「少し、飛ばすよ」
曖昧だった心の奥がはっきり見えたのを確信してると、彼の言葉が風に消えた。
空には、あの小鳥が一羽。
私たちを見守るように、颯爽と飛んでいくのが見えた――――。
ちょっと番外編?あの話の続きって事で(゜ε ゜;)
この関係でボチボチ描いていこうかなあ?なんてw
この作品にも励みになるコメントを投票処で頂いております<(_ _)>
●雲雀のカッコよさが120%出てると思いました!
(ひゃーそ、そんな風に言って頂けて恐縮です〜。゜(゜´Д`゜)゜。)
●雲雀がすごーく愛しい存在になりました///
(ヲヲ…それは嬉しい限りですよー(*ノωノ))
●雲雀さんは私の中で恰好イイ存在だったけれど、此方の夢を読んでカワイイのも好きだなぁと思いました!
(か、可愛いなんて嬉しいです!雲雀ってカッコいいのに可愛いなぁ、なんて(笑))
●雲雀さん最高でした!私もヤクザに誘拐されたい・・・(●´Д`●)
(最高なんて嬉しい♡私も雲雀に助けてもらえるならヤクザくらい!(オイ))
●此方の夢小説を読んでREBORNと雲雀が好きになりました!
(うぉ!と、当サイトの小説でリボーン&雲雀好きに!!か、感激っす(*TェT*))
●雲雀連載・・・とても面白いです。続きが気になります。
(面白いと言って頂けて嬉しいです〜!励みになります!)
●リボーン夢開始、すごく嬉しいです。雲雀夢、楽しみにしてますw
(リボーン、これからも他に色々と描きたいキャラがいるので待ってて下さいね♡)
いつも投票、ありがとう御座います!
皆さんのコメントを読んでるとムクムクと気合いが入り、とっても励みになっておりますのよー♡
今後も頑張りますね!感謝(●´人`●)