――06.一人じゃないよ、僕の運命の人――後編
「――――え?」
いつもの事だけど、やっぱり突拍子もない彼の一言で私は石のように固まってしまった。
「い、今、何ておっしゃいました・・・・?」
あまりに驚きすぎて言葉までおかしいぞ、私。
さすがに彼も少しだけムっと目を細めて、「聞こえなかったの?」とスネたように言った。
「え、き、聞こえたとか聞こえないとかじゃなくて――――」
「泊まってけば?」
「――――ッ!!」
「・・・・って言ったつもりだけど」
「・・・・・」
(い、言っちゃった・・・・。言っちゃいましたよ、この人。しかも二度も・・・・!
何でこの人はそんな淡々とした表情もない顔でそんな大胆な台詞が言えるんだろう?何で?)
すっかり涙も引っ込んで、一人、脳内でアレコレ考えていると、雲雀さんはつまらなそうに眉を顰めて、私の顔を覗き込んできた。
「何、一人でブツブツ言ってるの?」
「えっ?い、言ってた・・・・?」
「うん」
「・・・・」
心の中の呟きだったはずなのに、あまりに動揺してるからか、勝手に口から出ていたらしい。
私は笑って誤魔化しながら、「な、何でもない」と言って首を振った。
すると雲雀さんは何かに気付いたのか、ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「な、何その顔――――」
「もしかして・・・・意識とかしてるわけ?」
「――――は?」
何だか楽しげにニヤニヤし始める雲雀さんに、私の頬が赤くなる。
だって泊まっていけば、なんて言われたら誰だって意識くらいするじゃない。
「まさか僕に襲われる・・・・とか思ってるんだ」
「ち、違――――」
「そう言えば・・・・さっきの続きもまださせてもらってないしね」
「な、何のこと・・・・?」
「これ」
「・・・・っ」
不意に指で唇を突付かれ、ドキっとした。
そう言えば学校を出る時に、そんな事を言われた気がする。
「あの続き・・・・してもいい?」
「は?!」
雲雀さんは何とも艶っぽい顔を近づけてサラリとそんな言葉を吐くから、一瞬で鼓動が早くなる。
でもすぐに苦笑いを浮かべると、
「ああ、でも今夜は泊まってくんだし後でゆっくりさせてもらおうかな」
「な、な・・・・っ」
楽しそうに笑って立ち上がる雲雀さんに、私は口がパクパク動くだけで何も言い返せない。
すると雲雀さんはクスクス笑いながら、再び私の隣に座った。
「親から了解もらったんだしいいんじゃない?それとも・・・・誰もいない家に帰りたい?」
「それは・・・・」
スルドイところをつかれて目を伏せると、ポンと頭に手が乗せられた。
「それに・・・・赤ん坊の家にだけ泊まったなんて許せないし」
「・・・・えぇ?だ、だってあれは――――」
(って雲雀さんがらみで狙われてたからじゃなかったっけ?!)
「思い出したら、また腹が立ってきちゃったな・・・・。明日、もう一発くらい殴らないと気が済まないかも」
「・・・・?!」
(きょ、脅迫ですか?風紀委員長殿・・・・)
ニヤリと笑いながらヌケヌケと私を脅してくる彼に、顔が真っ赤になった。
やっぱり雲雀さんは変なとこでヤキモチ妬きみたいだ。
「でもが今夜、僕の腕の中で眠ってくれるって言うなら――――」
「・・・・っ?う、腕の中って――――!」
「だって看病してくれるんだろ?」
(・・・・看病?って、ピンピンしてるじゃない!と言うか、どんな看病よ、それ!)
「それが嫌ならやっぱりアイツは咬み殺す――――」
「・・・・わ、分かったからっ!」
別に友達とは思ってないけど、私のせいで何度も殴られる沢田くんが気の毒になり、慌ててそんな事を口走ってしまった。
すると彼はしてやったり、と言いたげな顔で私を見る。
「ホントにいいんだ?」
「い、いいって言うか・・・・。だって・・・・そうしないと沢田くんが――――」
「それだけ?」
「え・・・・?」
「僕の家に泊まる理由」
「・・・・それは・・・・」
――――ううん、そうじゃない。
やっぱり私も一人ぽっちの家には帰りたくないんだ。
そして・・・・それ以上にまだ彼と・・・・雲雀さんと一緒にいたい、なんて思ってる。(腹立つし口が裂けても言いたくないけど)
そんな私の気持ちを見抜いてるのかのように、雲雀さんは顔を上げた私にニッコリ微笑んだ。
「じゃあ決まり、だね」
「で、でも寝るのは別々の部屋で――――」
「それじゃ意味ないだろ?」
「――――ッ」
ニヤリと笑って立ち上がると、雲雀さんは静かに部屋を出て行ってしまった。
その場に取り残された私は、「嘘・・・・」と呟き、ガックリ項垂れる。
少しだけ・・・・操の危機を感じていた。
「はい、パジャマ」
「あ、う・・・・ありがとぅ・・・・」
ニッコリ笑みを浮かべている彼からパジャマを受け取る。
沢田くんの家には泊まったけど、あんなに大所帯で賑やかだったから、それほど構えることもなかった。
でも今日は家政婦さんがいるとはいえ、実質2人きりで (特に相手が男なんだし)
「それ僕が子供の時に来てた奴だからサイズは大丈夫だと思うよ?」
「え、子供って・・・・」
「は体が小さいんだから大丈夫じゃない?」
「・・・・悪かったわね、チビで」
彼の皮肉に目を細めて文句を言うと、雲雀さんは楽しそうに笑った。
彼のこんな笑顔は滅多に見られない。今日は機嫌がいいみたいだ。
急遽、雲雀さん宅にお泊りする事になった後、凄く豪華な夕飯をご馳走になり、(あの家政婦さんが作ってくれた)
その後、雲雀さんが食後に必ずするという、バイクでお散歩、というのをしてきた。
そして帰ってきたら温泉みたいな大きなお風呂に入れられ、(もちろん一人で入った)出てきたらパジャマを渡されたのだ。
「奥で着替えておいでよ。僕はお風呂に入ってくるから」
「う、うん・・・・」
濡れた髪をバスタオルで拭きながら頷くと、雲雀さんはちょっと屈んで私の頬にちゅっとキスをしてきた。
その不意打ちにドキっとして後ずさると、彼はクスクス笑いながら部屋を出て行く。
人の心を乱すだけ乱しまくって、何であんなに余裕なんだ、あの人は。
「はぁぁぁ・・・・」
一人になった途端、力が抜けて、床にへたり込む。
何だか全てが初めての経験で、さっきから心臓の動きがやたらに激しい。
「・・・・・」
そっとキスをされた頬に手をやると、お風呂上りで火照ってるのか、今のキスで火照ってるのかが分からないくらいに熱い。
「私の体・・・・大丈夫かな・・・・」
さっきからドキドキしたり緊張したりで酷使してるし、少しだけ不安になる。
(初めて彼氏の家に泊まる時って・・・・こんな感じなのかな)
なんて事が頭を過ぎり、ぶんぶんと首を振る。
違う、違う!これはそんなロマンティックなものじゃない!半分、脅迫されたようなものだし(!)
それに誰もいない家に一人でいるのはもうたくさんだったから――――
「・・・・そんな事も分かってくれちゃうんだから…」
"誰もいない家に帰りたい?"
さっきの彼の言葉を思い出し、ふっと笑みが零れる。
(やっぱり雲雀さんも、私と同じような寂しさを持ってる人なのかもしれない・・・・)
そう思いながら貸してもらったパジャマに着替えてみた。
子供の頃に着てたわりには黒のシックなデザインだ。
「ぁれ・・・・ちょっと・・・・大きい、かな」
着てみると少し袖が長く、丈も長めで私の手や足が隠れてしまう。
でもこれは雲雀さんが子供の頃に来てた奴だって言ってたのに。
(ちくしょう・・・・。という事は子供の頃の雲雀さんも、今の私より大きかったって事ねっ)
嫌な所に気づき、ムっとしつつも腕と足を少しだけまくってみる。
でも元々肩幅が合ってないので、肩がずり落ちて服が歩いてるとまではいかないまでも、子供みたいな格好になってしまう。
「まあ・・・・いっか。後は寝るだけなんだし・・・・」
奥にある大きな鏡を見ながら、自分の情けない姿に軽く溜息をつくと、そのまま後ろに下がってベッドに腰をかける。
「わ・・・・」
が、あまりにフカフカでお尻がふわりと沈み、後ろにひっくり返ってしまった。
「何これ・・・・。凄いフカフカ。気持ちいい」
このまま目を瞑ったら寝てしまいそうだと思いながら、ゴロンと寝返りを打つ。
その時、かすかに雲雀さんの香りがしてドキっとした。
いつも彼がここで寝ていると言う証のような気がして、急に鼓動が激しくなってくる。
(は!そうだ・・・・。もしかして今夜は、ここで一緒に・・・・?!)
そこに気づきガバっと起き上がった。
真っ黒で統一されたベッドカバーも何とも肌触りが良くて、キングサイズという事もあり、かなり大きい。
「そっか・・・・。これだけ大きいんだし、かなり離れて寝れるかも」
そこに気づき、ちょっとだけホっとしていると――――
「あれ、何してるの?」
「――――ッ!!」
慌てて振り返ると、雲雀さんもパジャマに着替え、バスタオルで髪を拭きながら立っていた。
「あ、あの、ごめんなさい・・・・」
勝手にベッドの上でゴロゴロしてたのが気まずくて、慌ててベッドを降りようとした。
が、何しろサイズの大きいパジャマなので、お約束通り足のあまった丈を踏んでしまった。その結果――
「ひゃ、」
ドタン…!
私は見事にベッドの下に落下した。
「痛ぁ・・・・っ」
痛みと恥ずかしさで顔が上げられずにいると、目の前に雲雀さんの足が見えた。
「・・・・大丈夫?」
「う、うん・・・・。何とか」
おずおずと顔を上げると、雲雀さんがクックック・・・・と笑いながら私を見下ろしている。
それには顔が赤くなったが、雲雀さんはすぐにしゃがむと私の腕を引っ張って起こしてくれた。
「ホント・・・・ドジだね、は」
「な、何よ・・・・。元はといえば恭弥がこんな大きいパジャマ貸すから・・・・」
そこまで言って言葉を切った。
と言うのは、目の前の彼が驚いたような顔で私を見たからだ。
「な、何・・・・?そんな顔して――――」
「・・・・今、何て言った?」
「はい?」
「僕のこと」
「え?あ――――」
そう言われて彼の名前を呼び捨てした事に気づいた。
別に意識をしてなかったし、恥ずかしさと怒りで興奮してて自然に出てしまったらしい。
「い、いや、だから今のは――――んう・・・・」
そんなに驚かれると急に恥ずかしくなった。
言い訳めいた事を言おうとしたけど、その後の言葉は彼の胸に顔を押し付けられて途切れてしまう。
「な、ちょ・・・・」
「もう一回呼んでみて」
「・・・・んん?」
ぎゅっと抱きしめられていて、変な声にしかならないのに、雲雀さんは力を緩めてくれない。
だんだん息苦しくなってきて彼の背中をバンバン叩くと、やっと力を抜いてくれた。
「・・・・ぷは!な、何するのよ・・・・・。く、苦しいでしょ・・・・っ?」
やっとまともに空気を吸えて、私は文句を言いながら顔を上げた。
でも雲雀さんは何だか嬉しそうな顔をしていて、「もう一回、呼んでみてよ」なんて言っている。
「よ、呼んでって言われても・・・・。改めて言われたら呼びづらい・・・・」
困ったように上目遣いで彼を見れば、「・・・・ふうん」と言って少しだけスネた顔をした。
でもすぐに私を立たせると、「まあ、いいよ。今後もそう呼んでくれれば」と言って、改めて私の格好を見下ろした。
「ぷ・・・・。ホント、大きいみたいだね、には」
「な、何がおかいしのよ・・・・」
「だって袖も丈もブカブカで、子供みたいだし」
「な、何よ!自分が貸したんでしょ?」
そう言って笑いを噛み殺している彼を見上げると、雲雀さんはニヤリとした。
「でも・・・・ここは妙に色っぽいかな」
「え?ひゃ・・・・っ」
いきなり屈んだかと思うと、雲雀さんは私の首元、というか鎖骨辺りに軽くキスをしてきて、くすぐったい刺激に驚いた。
大きなパジャマは肩が下がって右の首元が少しだけ露出が多いから鎖骨が見えてしまうのだ。
「ちょ、ちょっと何する――――」
「僕と同じ匂いだ」
「・・・・っ?」
ふと顔を上げて呟く彼から離れ首の辺りを隠すと、雲雀さんは、「そんな警戒しなくても」とクスクス笑いながら電器を消してベッドに上がった。
「ねぇ・・・・髪、乾かさないの?まだ濡れたままだよ」
そのまま布団に入ってしまうのを見て、慌てて彼の腕を引っ張った。
「ん〜。面倒くさい・・・・。ちょっと眠いし・・・・」
「で、でも風邪引いてたんでしょ?だったら尚更ちゃんと乾かさないと、また風邪引く・・・・っきゃっ」
何とか起こそうとしてる私の腕を雲雀さんが強く引っ張るせいでベッドの上に倒れこんでしまった。
「な、何する――――」
「も寝なよ。もう12時過ぎたよ?」
少しだけ体を起こし、そう言って来る雲雀さんにドキっとして目を伏せた。
彼がお風呂から上がってきた時点で感じていた緊張が、ここで一気に倍になる。
「・・・・ずっと起きてる気?」
「ね、寝るけど・・・・」
「だったらほら、早く来なよ」
「・・・・」
恐る恐る顔を上げると、雲雀さんが布団を捲って私を見ている。
その光景に一気に熱が上昇した。だって離れて寝ようと思ってたのに――――。
「、寒いから早く」
「い、いい、私、こっちで・・・・」
「やだ」
「・・・・っ」
ベッドの上を這って窓際に行こうとすると、秒殺で却下された。
そのまま固まっている私を切れ長の目でジっと見つめながら、自分の隣をポンポンと叩く雲雀さんに、また心拍数が上がっていく。
「え、あの、」
「早く」
「・・・・はい・・・・(鬼ー!)」
有無も言わさぬ彼の威圧感に、私は仕方なく体の向きを変えて彼の方に這って行った。
「お、お邪魔します・・・・」
何だか変な挨拶だと自分でも思ったけど、この緊張と上がった心拍数を考えれば仕方がない。
そっと彼の隣に入り、横になると、すぐに布団をかけられ、雲雀さんも横になった。
ハッキリ言って男の人と一緒の布団で寝るのなんかも初めてで、体が硬直してるのが分かる。
「」
「・・・・っ。は、はいぃ?」
「ぷ・・・・何、どうしたの?変な声出して」
「・・・・」
固まりすぎてる私に、雲雀さんはクスクス笑うと、「頭上げて」と言って自分の腕を私の頭の上に持ってきた。
その行動に、これが噂の(?)腕枕?!と、更に緊張が増す。
「い、いいよ・・・・。腕、痺れちゃうんでしょ?それ・・・・」
「そんなやわじゃないつもりだけど」
雲雀さんはそう言うと、強引に私の首の下へ腕を差し入れ、体をこっちに向けた。
この状況で至近距離に顔、というのは私の心拍数を更に上げるだけだ。
「・・・・何だか変な気分」
「・・・・え?」
思い切り金縛り状態に陥ってると、彼がボソっと呟いた。
「がこうして僕の隣にいることが・・・・凄く不思議」
「そ、それは私だって・・・・って言うか・・・・。女の子を泊めて親とか家政婦さんに何も言われないの?」
何か話さないと、と思って、ついそんな事を聞いてみた。
雲雀さんは小さく笑って、「僕が決めたことには誰も口なんか出せないよ」と呟く。
その言葉を聞いて、もしかして雲雀さんてば実の親をも支配してるんじゃなかろうか、と怖い想像が過ぎる(彼ならありそうだ)
けど私のお母さんだって、ああなんだから、そんな親が他にもいたって不思議じゃない。
「・・・・」
そこで一瞬、沈黙になり、自分の鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと少しだけ焦る。
雲雀さんは黙ったまま、私の方に体を向けていて寝てるのか起きてるのかさえ確認できない。(単に恥ずかしくて見れないだけ)
どうしよう、このまま寝ていいかな・・・・とあれこれ考えていると、不意に「・・・・?」と呼ばれドキっとした。
「な、何・・・・?」
このまま起きてても間がもたないから寝たフリをしても良かったのに、バカ正直に返事をしてしまった。
その瞬間、雲雀さんが体を起こし、私の上に覆いかぶさってくる。それには本気で固まってしまった。
「な、ななな、何ですか・・・・っ?」
「ぷ・・・・。何、敬語使ってるのさ」
「べ、別に・・・・」
薄暗い部屋にかすかな明かりだけがついていて、その中に雲雀さんの顔が見える。
その顔は何となく優しい表情をしていて、またドキドキが大きくなった。
「な、何よ・・・・」
「続き・・・・してなかったなぁ、と思って」
「・・・・は?」
「さっき、しそこねたから」
「・・・・っ」
その言葉で思い出し、顔が熱くなった。
「い、今・・・・?」
「うん。していい?」
「・・・・・(何気に厭らしく聞こえるのは気のせい・・・・?)」
雲雀さんが言ってるのはキスのことであって、それ以上しようなんて思ってない・・・・はず。
でも何だか改まって"していい?"なんて聞かれると、ホントに返事に困ってしまう。
と言うか何で彼は、そういう事はケロっと言うのに肝心な事は何も言ってくれないんだろう。
私は・・・・やっぱり、その一言が聞きたいのに――――
「・・・・?」
「・・・・え、あの、やっぱり・・・・ここじゃ――――」
「・・・・ここ?」
「そ、それに眠いし、その、」
――――嘘。
ホントは緊張しまくりのドキドキで心臓がうるさくて眠気なんて完全に吹っ飛んでる。
だけどこうでも言わないと、こんな覆いかぶさられた状況でキスなんてされたら、私の操が――――(オイ)
「・・・・もしかして嫌なの?」
「・・・・ぅ」
私があれこれ考えていると、雲雀さんの目が僅かに細くなった。
嫌・・・・と言うか何で私、こんなに脅されなくちゃいけないんだろう?
そりゃ付き合うとか言葉はなかったけど、でもきっと今はお互い同じ気持ちである事は間違いなくて、(多分)
でもだからって好きだとも言われてないのに、こんなに急にあんなことは――――(!)(脳内パニック中)
「もういい・・・・。の返事待ってたら朝になっちゃうよ」
「え、ちょ――――」
何も応えない私に痺れを切らしたのか、雲雀さんは強引に顔を近づけてきた。
その瞬間、心臓が壊れるんじゃないかと言うくらいに跳ね上がって、本気で死ぬんじゃないかと思うくらい息苦しい。
何度かキスされた事はあっても、こんなシチュエーションじゃ全然違うから、普段以上に恥ずかしい。
だいたい体が密着しすぎてるし、ハッキリ言ってこの体勢も何だかエッチだし、もうどうしていいのか分からない。
(ああ、やっぱり大人しく帰れば良かったかな・・・・。寂しいのなんて慣れてるはずだったのに!)
少しくらいの覚悟はあったけど、実際に襲われそうになって往生際が悪い自分に気づく。
そして、その往生際の悪さが自然と出てしまった。
「・・・・何これ」
「だ。だって・・・・」
何とか腕で彼の胸を押さえると、雲雀さんは更に目を細めた。
「ふうん、そう来るんだ」
「え、や・・・・だって――――」
「は分かってないな。それって逆効果なんだけど」
「・・・・へ?」
ちょっとスネたように言う雲雀さんにキョトンとすると、彼は軽く唇の端を上げて、
「さっきも言ったけど・・・・抵抗されると逆に意地悪したくなるよ」
「な・・・・っ?」
そう言ったのと同時に胸を押さえていた手を掴まれ、ベッドに固定されてしまった。
「あ、あの・・・・」
てっきりキスされるのかと思って目を瞑ったが、何も起こらず、そっと目を開けてみた。
恐る恐る視線を上げると、無表情で私を見下ろしている彼と目が合う。
やっぱり怒らせちゃったのかな、と胸の奥がざわざわするのを感じた。
「・・・・あの――――」
「ねぇ、聞いていい・・・・?」
「・・・・え?」
不意に口を開いた雲雀さんにドキっとする。その表情はさっきと違って、少しだけ寂しそうだ。
「はさ、僕のこと・・・・」
「・・・・っ?」
「どう思ってる・・・・?」
「・・・・」
その言葉にドキっとして顔を上げると彼は軽く目を伏せてしまった。
「どう・・・・って・・・・」
そんなの、とっくにバレてるんだろうと思ってたから、その質問に少しだけ驚く。
でも今なら・・・・と私も素直に聞いてみた。
「そっちこそ・・・・どう思ってるの・・・・?」
彼の寂しそうな顔を見て、私もずっと前から聞きたかった事を口にする。
すると彼は私を見て、真剣な顔をした。
「・・・・言葉で表せないよ」
「な、何それ・・・・。好きだとか嫌いだとか・・・・色々あるじゃない」
「じゃあは?僕が先に聞いたんだけど」
「な、何で私だけ答えるの?ズルい・・・・」
「そんな問題?」
「そ、そうよ・・・・」
こんなところで意地を張ってる自分にちょっとばかり呆れながら、彼の目を真剣に見つめた。
会ったばかりだから、まだお互いの事は何も知らない。
だからこそ、言葉は必要なんじゃないかと思うのは間違ってるんだろうか。
彼は黙ったまま私を見つめている。私も反らさず、見つめ返した。
すると根負けしたのか、彼が先に大きな溜息を零しドキっとする。
「・・・・僕は・・・・結構、態度に表してるつもりなんだけどな」
「それは――――」
「僕、こういうこと言うの苦手なんだ」
「・・・・え?」
「でも・・・・伝わってないみたいだから言うよ」
「・・・・っ」
雲雀さんはそう言うと、ゆっくり顔を近づけてきた。一瞬キスをされるのかと体に力が入る。
でも彼は私の肩越しに顔を埋め、小さく、それでもハッキリと――――
「僕の運命の人――――」
「……っ?」
肩越しで呟かれた言葉は私の心にストレートに入って来た。
「・・・・って思ったんだけど・・・・変かな」
そっと顔を上げ、そう言葉を続けた彼を見て、思い切り首を振った。
彼の顔は、どことなく照れくさそうで、それでいて真剣だったから。更に胸が一杯になっていく。
「・・・・泣いてるの?」
「・・・・」
勝手にポロポロと溢れてくる涙を振り切るように首を振ると、彼は少し笑ったようだった。
「泣いてるだろ?それ」
「な、泣いて・・・・なぃ・・・・もん」
「はぁ・・・・。ホント意地っ張りだね」
「な、そ、そっちこそ――――」
「僕は素直だよ?元々ね」
「・・・・っ(嘘つき)」
その言葉に凄く反論したい気分だったけど、今、何かを言えば嗚咽がもれそうだから黙っていた。
彼は苦笑しながら私の涙をパジャマの袖で拭きながら、「ぷ、変な顔・・・・」なんて笑っている。(蹴っ飛ばしてやろうかしら)
「さあ、次はの番だよ?」
「・・・・ぇ?」
泣いたせいで呼吸が苦しいから、変な声が洩れる。
それにも笑みを零しながら彼は手首を掴んでいる手に力を入れた。
「このままキスされてもいいって・・・・思ってる?」
「な・・・・(そ、そんな聞き方ズルいっ)」
「何も応えないなら・・・・YESと受け取ってキスしちゃうけど、いいよね」
「・・・・ちょ・・・・!ひっ・・・・ダ・・・・っく・・・・っ」
「何言ってるか分からないから却下」
「な――――ッ!(鬼!鬼畜!)」 (心の声)
文句を言おうと顔を上げた瞬間、もう彼の顔は目の前にあった。
「・・・・ん、」
挑戦的な事を言ってたのにその唇は優しくて、全身が一気に熱を持った。
昼間の続き、なんて言ってたけど、あの時の触れるだけのキスよりも全然、濃厚で、ただでさえ敏感な唇から送られる刺激が全身に行き渡る。
「・・・・ふ・・・・ぁっ」
押し付けられるように塞がれた唇から割って入ってくる舌に、体がビクっとした。
初めてのその行為にドキドキが加速して、全身が一気に熱を持つ。
「・・・・んっ」
やんわりと絡め取られた自分のそれが耳の奥で厭らしい水音を立て、凄く恥ずかしくて僅かに体を捩った。
でも拘束された手は動かせない。
その時ゆっくり唇を解放され、今まで苦しかった呼吸が少しだけ楽になった。
「・・・・そんな顔されたら止められないんだけど」
「なっ何・・・・」
鼻先が触れるくらいの距離でそんな事を言われ、顔が熱くなった。
彼はかすかに笑みを浮かべると、目じりに溢れた私の涙を唇で掬い、唇にもちゅっと軽いキスをする。
「・・・・ん、」
「・・・・もっと・・・・口開けて、・・・・」
「・・・・・っ」
その言葉にドキっとして首を左右に振ると、彼はクスリと笑って私の唇をぺロリと舐めた。
「ん、」
その刺激にビクっとなった瞬間、また深く口付けられる。
「・・・・ん・・・・、ゃ・・・・っ」
さっきよりも強引に舌を絡められ、無意識に体を捩る。
口内を雲雀さんの舌が動き回ってると思うと恥かしさで全身が熱い。同時にくちゅっという卑猥な音が響くと背中がゾクリとした。
気づけば手首は自由になっていて、彼の服をぎゅっと掴む事しか出来ない。
その手がかすかに震えている事に気づいた雲雀さんはそっと唇を離しぺロリと自分の唇を舐めた。
「・・・・苦しかった?」
「あ、当たり前・・・・じゃない・・・・」
恥ずかしいのと苦しいので、涙で潤んだ目を彼に向ける。
すると雲雀さんは額にちゅっと口付け、優しく微笑んだ。
「・・・・やっぱり可愛いよ、は」
「バカにして・・・・」
「してないよ。本当に・・・・可愛い」
「・・・・」
いきなり優しい顔してそんな事を言うから、今度は違う意味で顔が赤くなる。
彼は私の頬にキスを落とした後、隣に寝転がると私の手をぎゅっと握り締めた。
「・・・・こうして寝てもいい?」
「え・・・・?」
あんなキスを仕掛けてきたくせに、そんな事を言う彼に驚いた。
そんな気持ちを察したのか、雲雀さんは苦笑すると、
「これ以上したら我慢できなくなるから今日はもう寝るよ」
「・・・・な!何言って・・・・」
「でも我慢しなくていいって言うなら、まだ続けるけど――――」
「い、いい!寝る・・・・寝ますっ」
慌てて体を離すと、彼は一瞬スネたような顔をしたけど、すぐに吹き出し布団に顔を埋めて笑っている。
「ックックック・・・・」
「な、何がおかしいの・・・・?」
「・・・・だって・・・・可愛いからさ」
「・・・・・」
真っ赤になった顔をプイっと反らし、「お休みなさい!」と怒鳴る。
少しだけいつもの自分を取り戻し、呼吸も整ってきたのが分かった。
と言うか、少しだけ覚悟を決めた私はいったい何だったの、と思わないでもないけど、我慢してくれるって言うなら我慢しててもらおう(!)
そんな事を思いつつ目を瞑ると、少しして繋いだ手にキスをされたのが分かった。
「――――お休み、」
どこか遠くでそんな声が聞こえた気がしたのは、きっと思った以上に体力も精神力も消耗して、目を瞑った瞬間、眠りについてたからかもしれない。
だから知らなかった。
先にスースー寝てしまった私を優しい目で見つめながら、彼が「好きだよ」なんて台詞、呟いてた事――――
一人じゃないよ、僕の運命の人
甘々な二人を書きたいなーなんて思ってたら、何だかどんどん変な方向に;;_| ̄|○;;
いんです、ただのエロっぽい雲雀とか意地悪な雲雀とか描きたかったんですカラー
あとヒロインの親の話は本編の方で書こうと思ってたんですけど、出番がなかったので、こっちでチラリと入れました。
そして雲雀は何となくどっかの御曹司っぽい生活してそうで勝手に創造しちゃいましたよ。
だって風邪で入院してた病院の院長でさえも顎で使ってたし、きっと凄い金持ちなのかも?
此方の作品もデスノの次にコメント多くて嬉しいです。
ヒロイン大好きな雲雀さんが大好きです♪
(ヲヲ、大好きだなんて嬉しいですー(´¬`*)〜*)
ランボがすごい可愛かったです!!雲雀さんが助けてくれるなんて本当に夢みたいです!!
(ぐぴゃ!ランボ可愛いだなんて嬉しい!ホント雲雀に助けてもらったら腰砕けます(オイ)
いつもHANAZOさんの雲雀にキュンキュンしています!!!
(\(◎o◎)/!キュンキュンだなんて何て萌えな響き!(待て)