ねぇ――――"運命の人"なんて・・・・信じていいのかな。



そんな映画みたいな台詞、言わないでよ。








――07.おはよう、の代わりに咬み殺すようなキスを








薄っすらと意識が戻ってきたのを感じて、瞼が少しづつ開いていく。
でも辺りは薄暗くて、今が朝なのか夜中なのか、よく分からない。
少しだけ喉が渇いた気がして水が飲みたくなったけど、でも下まで降りるのは面倒だなぁなんて思いながら寝返りを打つ。


「――――ッ?!!」


その時、肘が何かに当たってドキっとした瞬間、昨日の事が凄い速さで脳内を駆け巡った。
そして今、自分がいる場所を思い出し、慌てて寝ボケた頭を働かせる。


こ、ここ私の部屋じゃない!
夕べ私は・・・・泊まったんだった・・・・。あの―――雲雀恭弥の家に。


(彼のベッドに二人で寝て・・・・うわぁっ(赤面っ)私、男の人の家に泊まっちゃったんだ・・・・!)


そこまで思い出し一気に覚醒すると、私はそぉっと顔を背後に向けてみた。


「ぅ・・・・っ」


至近距離に彼の寝顔が見えて心臓がドクンと跳ねた気がした。
寝起きからこれじゃ、いつ心臓発作が起きても仕方がないかもしれない(!)


どどどどうしよう・・・・!こ、このままコッソリ帰ったら怒るかな・・・・。
って言うか、今何時・・・・?ああ、でもそれより喉が渇いて死にそう・・・・っ
って、よく見れば、まだ手なんか繋いじゃってるし、この人っ!


あれこれ考えながらも、彼から少しづつ少しづつ離れていく。
繋がれた手も力は抜けてるから、スルリと抜いてホっと息をついた。
そのままゆっくりとベッドの端に来た時、布団の中から静かに出ようと片足をまず出し、
床につけようとした、まさにその瞬間――――


「どこ行く気・・・・?」


「―――ッ!!(ビクゥッ)」


後ろから冷んやりとした雲雀恭弥の声が聞こえて体が固まってしまった。
けど、すぐに腕が伸びてきて腰をグイっと引っ張られたと思ったら、気づけば視界は反転し、真上に彼の顔があってギョっとした。


「な、何――――」
「・・・・どこ行こうとしてたの?」
「え、えっと・・・・」


寝起きのクセに普段と変わらない表情の彼を見上げつつ、「ちょっと喉が渇いて・・・・」と素直に言えば、彼は軽く息をついて苦笑を浮かべた。


「なーんだ。てっきり黙って帰る気かと思った」
「(ギクッ)ま、まさか・・・・」


エヘへと笑って誤魔化すと、雲雀さんは、「ちょっと待ってて」と私の上から降りて向こうの部屋へ歩いて行った。
そしてすぐにミネラルウォーターのペットボトルを手に戻ってくる。


「部屋の冷蔵庫に色々あるから好きに飲んでいいよ」
「あ・・・・ありがと」


目の前に差し出された水を受け取ろうと、上半身を起こして手を伸ばす。
でも目の前にあった水は私の手を掠めて雲雀さんが引っ込めてしまった。
ビックリして顔を上げると再び彼は私の上に覆いかぶさってくる。


「なななな何する――――」
「僕が飲ませてあげるよ」
「はい?!」


彼の言葉にギョっとして見上げると、雲雀さんはミネラルウォーターを自分の口に含み、目を丸くしてる私を見下ろした。


「あ、あの・・・・ん、」


何をする気だと思った瞬間、雲雀さんが身を屈めて私の唇を塞いでくるから体がビクリと跳ね上がる。
でも熱い唇を感じたのは一瞬で、すぐに冷たい液体が私の口の中に注ぎ込まれ、軽くむせてしまった。


「・・・・ん、ゲホッ!ゲホッ・・・・な、何を――――」
「眠そうな顔してたから飲ませてあげただけだろ?」


雲雀さんは自分の顎を伝う水を手の甲で拭うとニヤリと笑って、今度は私の濡れた唇の端をを軽くぺロっと舐めてきた。


「ひゃ・・・・ゴホッ!な、なに・・・・ケホッ」
「零れたら服が濡れて冷たい思いするのはだよ?」
「だ、だからって・・・・コホッ」


いきなりの舐め攻撃に耳まで真っ赤になる。(アンタはワンコかっ)
寝起きから意地悪全開だと思いつつ軽く睨みつけると、雲雀さんは楽しそうに、「もう一回、飲む?」と訊いて来た。
それには、「け、結構です・・・・っ」と言って体を捩るも、雲雀さんが覆いかぶさっているので上手く逃げられない。


「ちょ・・・・どいて――――」
「やだね。どけたら、帰るだろ」
「だ、だってもう朝だし・・・・」
「って言っても、まだ6時だけど?」
「え・・・・?」
「もう少し一緒に寝れるよ?」


雲雀さんはそう言うと私の前髪を指ではらい、額にちゅっとキスを落とした。
それだけで一気に顔が熱くなる。


だいたい寝起きからハードなのは気のせい?!
起きた瞬間、ビックリさせられるわ、キスされて水まで飲まされるわ、今だって夕べの時みたいに、かなりエッチな体勢だわ・・・・。
こんなんじゃ私の心臓、ホントにもたないよ。


「ひ、ひば・・・・恭弥・・・・さん?」
「さんはいらないって言ったよね」
「きょ、恭弥・・・・?」
「よく出来ました。で、何?」


相変わらずの対応だけど、今の私はそんな余裕はない。
夕べだって同じだったけど、思ってた以上に疲れてたのか、コロっと寝ちゃったみたいだ。(ていうか、よく眠れたな、私・・・・!)
こんな風に男の人とベッドの上で密着してるなんて、考えただけでドキドキしちゃって、どうしようって言葉がさっきからグルグルしてる。
だから、まずはこの状況を何とかしないと私の心臓に負担が――――!


「よ、避けて・・・・くれないの?」
「何、嫌なの?」
「い、嫌って言うか・・・・。は、恥ずかしぃ・・・・」


から、と言う前に、彼は小さく笑って私の頬にそっと手を添えた。
それだけで反応して耳が一気に熱くなる。
そんな私の状態をとっくに気づいてるのか、彼はクスクス笑いながら目を細めた。


が焦る顔って可愛いし・・・・このまま見ていたいな」
「な、何それ・・・・。意地悪?」
「ぁはは・・・・。まあ、そうかな」


私の言葉に楽しげに笑う。でもやっぱり私を見つめる瞳は優しくて。
胸の奥がキュンと鳴ってしまうのは気のせいじゃない。


"運命の人"


なんて言葉、信じていいの――――?

会ったばかりなのに、彼の事、まだ何も知らないのに。
どんどん彼に惹かれいく自分が・・・・ちょっと怖い。


どうしよう…私―――恭弥の事が好き、だ。












彼女の体温が伝わってきて胸の奥が何だか疼く。
ついこの前までの自分じゃないみたいで、正直戸惑ったりもしたけど。
今、目の前で真っ赤な顔をして僕を見上げている女の子を、ホントに大切に感じている自分がいて――――


最初に会った時、ひどく寂しげな目をしてる子だと思った。
それはとうの昔に、僕が心の奥に沈めてしまった感情を思い出させて、何となく親近感が沸いた。
話してみて、もっと自分に似た何かを感じて。
会ったばかりなのに、の前では自然体でいられた自分に少し驚きながらも、衝動のままに会いに行ったりもした。

僕にしか懐かなかった、あの小鳥も、には懐いた。
誰かと一緒にいる事が苦痛だった僕も、といる時だけは心がやけに安らいで。


"不快じゃない"


最初に会った頃、彼女にそう言った事があるけど、本当の気持ちだった。
不快どころか、癒されてる自分に、やっぱり少しは戸惑ったりもしたけど。
でもこの気持ちは何だろう、なんて考える暇もなく、彼女が狙われてる事を聞いて・・・・。
それまで落ち着いていた心の奥が急にざわつき始めた。


自分のせいで彼女が危ない目にあうかもしれない。

そう思ったらガラにもなく、心配で、そして怖くなった。
他人を心配したのも、何かに怖いと感じた事も、生まれて初めてだったから、どう表現していいのかも分からなくて、冷たく突き放したりしてしまったけど、 事情を話して彼女を怖がらせたくなかった。
僕のせいでが危険なんだ、という事を知られたくなかったんだ。


会ったばかりの子に嫌われたくない、なんて、ホントどうかしてる。


でも―――きっと僕と同じような気持ちを、は抱いているという事だけは何となく感じていた。


僕たちは似たもの同士なんだ。


きっと、どうしようもないくらいに――――








切れ長の目が私を見つめてくるから、視線が反らせない。
ついこの前まで、恋愛になんて縁がなかった私が、今はこうして彼の腕の中でドキドキ、胸を高鳴らせてる。
短気で、つかみ所がなくて、勝手で我がまま。いつも私をケロっとした顔で振り回す。
ファーストキスだって不意打ちみたいなもので、普通だったら一発くらい殴られても文句だって言えないんだから。


なんて思ってたら、恭弥の顔がゆっくりと近づいてきて、ドキっとしたついでに体が勝手に、そうホントに勝手に動いていた。


「・・・・また無駄な抵抗?」
「だ、だって・・・・」


グッと腕で恭弥の胸を押さえてしまったからマズイ、なんて思ったけど、彼はガックリ項垂れ深い溜息つく。
そしてさっきとは違う意味で細められた目に、少しだけ唇を尖らせた。


「言ったよね、抵抗されたら意地悪したくなるって・・・・」
「恭弥はいつでも意地悪だもん・・・・」
「・・・・」


前から思ってた事を言うと彼は僅かにドキっとした表情を見せた。
きっと素直に名前で呼んだ事が驚いたのかもしれない。
でもその後に照れくさそうに視線を反らした恭弥に動揺の色が見え隠れしていて、いつも主導権を握られている私は内心ちょっと楽しくなった。


「・・・・何、笑ってんの」
「な、何でもない・・・・。それより・・・・あまり意地悪だとモテないよ?恭弥」


ちょっとだけ、からかいたくなり、わざと彼の名前を強調すると、思ったとおり恭弥の視線が僅かに反れた。
あんなに名前で呼べって言ってたのに、まさかこんな反応するなんて思わなくて、こっちも少しだけドキとする。


「別に・・・・モテなくてもいいけど」
「何で?恭弥くらいの年齢だったら、皆、女の子にモテたいなぁって思ってると思うけど」
「・・・・しつこいな。僕はそんな事に興味ない」
「嘘・・・・。女の子に興味ないってこと?」
「・・・・ないね」


恭弥はいとも簡単にそう言うと、面倒くさそうに息をついた。


(でもじゃあ・・・・私は・・・・?)


そんな疑問が沸いて、照れくさかったけど素直にそれを口にした。


「じゃ、じゃあ・・・・何で私は――――」
「・・・・・本気でそんなこと訊いてるわけ?」
「だ、だって・・・・」


呆れたような口調で言われ、ちょっとだけムッとすると、恭弥は怒ったように私を見下ろした。


「昨日も言ったのに、まだ分かってないんだ」
「・・・・え?」
「僕は以外の女に興味はないし、別にそんな子達にモテたいなんて、これっぽっちも思ってない。分からないの?そういうの」
「な・・・・」
「もし本気で分からないって言ってるなら鈍感もいいとこだね。だんだんムカついてきたよ」
「そ、そんな言い方しなくたって・・・・」


ちょっとからかっただけで、別に疑ってたわけじゃないし、まるっきり分かってないわけじゃない。
ホントは恭弥の言葉が凄く嬉しかったりするんだけど、でも目の前で怖い顔をしてる彼を見て、少しだけ目を細めた。


「・・・・そんなにムカついたなら・・・・私も咬み殺せば・・・・?」
「・・・・」


言い方のキツイ彼に対して、売り言葉に買い言葉。
つい、そんな言葉が口から出てしまって、しまった、と思った時はすでに遅かった。
恭弥は更に目を細めると、私の両手首をグッっと掴んで冷たい目で上から見下ろしてくる。


「ふうん・・・・。それもいいかもね」
「え・・・・っ」


恭弥の言葉にドキっとした。


そ、それもいいかも?!いいかもって言った?この人!
ど、ど、どうしよう!本気で怒らせちゃったかな・・・・。
もしかしてトンファーとか隠し持ってたりしたら・・・・私、朝から流血って事態になりかねない!
だいたい恭弥って相手が女でも関係なさそうだし(!)グーはなくても平手くらいは飛んできそう!
そうよ、だって恭弥は誰が見たってハードS以外の何者でもないもの!(オイ)
ああ・・・・やくざの返り血まみれだった恭弥の顔が頭に浮かぶ――――!



「そんなに咬み殺されたいなら・・・・咬み殺してあげるよ」


「え?あ、いや、そ、そうじゃなくて――――」


グイっと顔を近づけてくる恭弥に慌てて首を振ると、彼はニヤリと口の端を上げた。


「でも――――別の方法でね」


「――――っ?!」



意地悪な笑みを見た瞬間には、恭弥は私の唇を強引に塞いでいて、その言葉どおり咬み付くようなキスをされてしまった。
最初から舌が滑り込んできて絡め取ると、軽く噛まれてビクッとする。
口内をあますとこなく愛撫されて絡んだ舌を強く吸われると、目の前がチカチカしてきた。
わざとなのか、激しく舌を動かしてピチャピチャと卑らしい音を立てる恭弥に、全身が熱くなって掴まれてる手首もじっとり汗ばんでくるのが分かった。
苦しくて息を吸おうと口を開ければ開けるほど、恭弥のそれは口内を犯していって、頭の後ろがジーンとして来た頃、喉の奥から甘い声が洩れてしまう。


「ん・・・・ふ・・・・っ」


恥ずかしくて止めたいのに、恭弥の舌に弄ばれると勝手に洩れてしまう声は、何だか自分の声じゃないみたいに卑らしく耳に響いてくる。


「ん・・・・ゃ・・・・」


それでも限界に来て、僅かに首を振ると、気づいていたのか、手首を掴んでいた力が緩み、私の口内から恭弥の舌がゆっくり出て行くのが分かった。
いつの間にか私の目からは涙が零れていて、恭弥は目じりにも口づけると、鼻先が触れるほどの距離で笑みを浮かべている。
その勝ち誇った顔が頭にくるけど、今のキスで息もままならないから何も文句をいう事は出来ない。
ホントに言葉どおり、恭弥に咬み殺された気分だ。


でも・・・・本当は――――嫌なんかじゃなかった。


頬が上気している私を見つめて、恭弥が艶っぽい笑みを浮かべて、かすれた声で囁いた。


「可愛い声・・・・もっと聞かせてよ」


"何度でも咬み殺してあげるから、さ"


恭弥はそう囁いて、ぺロリと私の唇を舐めてきた。


ああ、ホントに私、このまま死んじゃうかも。












おはよう、の代わりに―――



咬み殺すような
キスを。







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前回の続きネタで、朝から野獣の雲雀くんなんぞ♡(待て待て)
少しづつ二人の距離が近くなってきたような?



投票処へのコメント、ありがとう御座います(*・∀・`)ノ
↓でレスさせて頂きました<(_ _)>



●色っぽい雲雀さんがもう大好きですー!!雲雀さんはエロっぽい雰囲気がありすぎですー!!
(きゃーそうですよね!彼にはエロスが似合いますよね!この先もっとエロスでいくかも!)(オイ) 


●連載が面白かったです。
(面白いなんて言って頂いて嬉しいです(>д<)/)



いつも凄く励みになっております!
自分的に上手く雲雀を表現出来ず、連載は無理かなと思ってた
話なのに、色々と感想を頂けて本当に嬉しくて、毎回励みになってます〜(*TェT*)
ありがとう御座います(●´人`●)