恭弥の言葉や、態度で一喜一憂するのは、もう疲れた。
形がないから不安なんだってこと、いいかげん分かってよ――――
煌びやかなシャンデリアが飾られた広い空間で、シャンパンを抜く音が聞こえている。
グラスの当たる音、人の話し声、その全てが遠いところから響いてくるような、そんな感覚。
「どうしたの?恭弥」
背後から呼ばれ、振り返ると、弥生が心配そうな顔で歩いて来た。
「おじ様たちが探して来いって。恭弥ってば食事の後、すぐいなくなるんだから」
「大人の話を聞いてても退屈だろ」
言ってソファに凭れると、弥生も隣に座った。
レストラン二階にあるカフェは、食後のコーヒーを飲むカップルで溢れている。
真ん中は吹き抜けになっているので、下のレストランで食事をする客達がよく見えて、恭弥は軽く失笑した。
「・・・・あんな群れの中にいたら気が狂う」
「え?」
「何でもないよ」
苦笑しながら髪をかきあげる恭弥を見て、弥生はふと目を伏せた。
「もしかして・・・・あの子のこと気にしてるの?」
「あの子?」
「って子よ」
「・・・・・」
の名を出すと、恭弥は視線を外し、窓の外を眺めた。
ホテルの中庭にはキラキラとしたイルミネーションが飾られ、周りにはカップルが腕を組んで大勢歩いている。
それを見ていると、自然と溜息が洩れた。
「恭弥・・・・本気じゃないわよね?」
「何が」
「だから・・・・」
そっぽを向いたままの恭弥に、弥生は言葉を切った。
これまで見せた事のない寂しげな横顔が、今自分が投げかけた問いへの答えのように感じ、静かに立ち上がる。
「遊びなら許すわ。私も適当に遊んでるし。でも・・・・分かってるでしょ?私と恭弥は――――」
「分かってるよ」
不意に弥生を見上げ、恭弥は皮肉めいた笑みを浮かべると、静かに立ち上がった。
「僕らは同じ境遇だしね」
「恭弥――――」
一歩、前に出ると恭弥は弥生の腰を軽く抱き寄せ、微笑んだ。
「お互いに自由なんてない。でも・・・・大学までは僕の好きにさせてもらう。そういう約束だろ?」
「それは――――」
顔を上げた瞬間、不意に唇を塞がれた弥生は目を見開いた。
軽く唇を甘噛みされ、ドクンと鼓動が跳ね上がる。
触れ合う唇が熱くて、恭弥の腕を掴む手に力が入る。でも次の瞬間、ゆっくりと唇が離れていった。
「心配しないでも今日みたいな時はちゃんとやるよ。これでも家族の前では優等生なんだ」
恭弥はそれだけ言うと、下にいる両親に手を振った。
手を振り返す両親達を見て、弥生は今、皆がこっちを見てたんだ、と気づき、唇を噛み締めた。
恭弥は時々家族の前でこういったアピールをする事がある。
「じゃあ戻ろうか。皆が変に思う」と、恭弥は足早に歩いて行く。
その後姿を見ながら弥生は喉まで出かかった言葉を必死に飲み込んだ。
「"同じ境遇"か・・・・」
小さく呟くと、まだかすかに濡れている唇をそっと指で触れた。
「また、電話するよ」
南條くんはそれだけ言って帰っていった。
初めての告白というものを憧れてた人からされたと言うのに、気になるのはやっぱり恭弥のこと。
あんな態度をされたのに、今日こそは電話をかけてくれるんじゃないかって、淡い期待をしている自分が嫌だ。
でも携帯は一向に鳴らなくて、今夜もまた、携帯を抱いて眠るハメになった。
眠りに着くまであれこれ考えていたせいか、恭弥と弥生さんが夢の中に出てきた。
しかも恭弥のベッドの上で、二人が抱き合いながらキスをしているところを、私が見てしまう、というオチ付き。
でもショックを受ける前に、私はうるさい音で現実の世界へと一気に引き戻された。
〜♪〜♪〜♪
「・・・・ん・・・・何・・・・?」
寝不足も手伝って、なかなか目が開かない。
でも耳元でガンガンと響く音が、携帯の着信音だと気づいた瞬間、ガバっと起き上がり、通話ボタンを押していた。
「・・・・も、もしもしっ!恭――――」
『あ、?俺、俺♪』
「・・・・・え?」
一瞬、苗字で呼ぶから南條くんかと思った。
でもこの能天気な声は――――
「山本くん・・・・?」
『おう、よく分かったなー♪』
「こんな朝から元気なのは山本くんくらいじゃないの・・・・?」
恭弥からじゃなかったという失望感で、つい嫌味を言ってしまった。
けど山本くんは、『そっかー?』なんて大きな声で呑気に笑っている。
私は溜息混じりに欠伸を噛み殺すと、もう一度ベッドへと寝転がった。
「それで・・・・どうしたの?こんな時間に」
時計を見れば、朝の9時。
日曜日のこんな時間に電話してくるなんて何の用事なんだろう?
そう思いながら寝返りをうつと、受話器の向こうから、『あーやっぱ忘れてるな』という苦笑する声が聞こえた。
「え、忘れてるって・・・・?」
『少し前に誘ったろ?今日は秋の大会前に隣町の学校と練習試合するから観に来いよって』
「え、あ・・・・あれって今日だった?!」
そう言われて思い出す。
先日、山本くんから、「野球の試合があるから見に来いよ」と誘われたが、あれが今日だったんだ。
『はぁ・・・・ったく。忘れるなよ』
「ご、ごめん・・・・。ちょっと色々あって・・・・。あ、試合どこでやるの?何時から?」
『場所はうちの学校のグランドで、時間は午前11時!』
「わ、分かった!すぐ用意して行くから」
『ああ、でも・・・・大丈夫か?用事あるとかならいいんだぜ?』
「平気!ちゃんと行くわ?」
『そっか?んじゃツナんちに寄ってけよ。アイツもそのつもりで待ってると思うし』
「あ・・・・うん、分かった」
『おう。んじゃ後でなー』
そこで電話を切り、息を吐き出す。
「はぁ・・・・。すっかり忘れてた・・・・」
体を起こし携帯のスケジュール機能をチェックすると、確かに今日の午後、山本くんの試合、と入れてある。
恭弥の事があったからコロっと忘れてた。
(恭弥・・・・また電話くれなかったな・・・・)
携帯を閉じながら、ふと思い出した。
夢の中のシーンと夕べの二人の後姿が重なり、軽く頭を振る。
(何て最悪な夢なんだろ・・・・。現実になりそうで・・・・ちょっと怖い)
やっぱり何だかんだ言って、恭弥は気まぐれで私の事をからかってるんじゃないだろうか、という思いが過ぎる。
弥生さんの言ってた事がどこまで本当なのか分からない。でも昨日の様子を見ていると、あながち嘘でもないように思えた。
「何よ、バカ・・・・」
電話の一つもくれない恭弥に腹が立った。それに、よく考えれば私は何も悪くない。
そりゃ南條くんと二人きりで出かけたりしちゃったけど・・・・。
恭弥だって弥生さんと、家族も一緒とは言えホテルのレストランで食事をしたんだろうし、その前に二人きりで買い物までしてたみたいだったし。
私には沢田くん達と話しただけで怒るくせに、自分はいいっていうの?
そんなの納得いかない。
私の心をかき乱すような事ばかりするくせに、肝心の言葉はなかなか言ってくれないで・・・・勝手じゃない。
「私だって・・・・勝手にするんだから」
こんな苦しいのなんて、もう沢山。
どれだけ傍にいても、何度キスをされても、恭弥の事を何も知らない自分が妙に悲しく思えた。
「獄寺くんが場所、とってくれてると思うから」
沢田くんはそう言って振り向いた。
「うん。って、あの・・・・」
「え?」
「そんなに離れて歩かなくてもよくない?これじゃ一緒に行く意味がないよ」
「あ、そ、そっか・・・・。ごめん」
私の言葉に沢田くんは慌てて足を止めた。
山本くんに言われて沢田くんの家に迎えに行ったはいいが、さっきから私のはるか前を歩いていて、会話をするにもいちいち大変なのだ。
「そんな怖がらなくても・・・・もう大丈夫だよ?」
「え?」
「恭弥は・・・・もう何もしないと思うし」
「え、どうして?」
キョトンとした顔で聞いてくる沢田くんに、私は軽く肩を竦めて見せた。
「別に理由なんてないけど・・・・。それに今日は日曜日だし彼がいるはずないでしょ?」
立ち止まっている沢田くんを追い越し、校門の中へと入る。
(夕べ、弥生さんと食事をして・・・・その後に恭弥はどうしたんだろう・・・・)
ふと今朝の夢が脳裏をかすめて胸が痛み、自然に足が速まっていく。
すると沢田くんが慌てたように追いかけてきた。
「で、でも雲雀さんは風紀委員だし、今日は来てると思うよ?」
「――――えっ?」
今度は私が足を止め振り向いた。
「な、何で?野球の試合に風紀委員が関係あるの?」
「まあ他校の生徒とか来るだろうし、雲雀さん、そういうの嫌うんだ。マナー悪い奴らもいるしこういう時は必ず来ると思うよ」
「そう・・・・なんだ」
(恭弥が来る・・・・)
それを知って、今は顔を合わせたくないと思った。
夕べの今日で、どんな顔で会えばいいのか分からない。
「ごめん、沢田くん・・・・私、やっぱり帰る――――」
「あー!十代目!こっちですよー!!」
「あ、獄寺くん!」
そこに獄寺くんが走ってきて手を振っている。
「おう、!ちゃんと来たな?一番いい席、とってやったから早く来いよ」
「え、ちょ、ちょっと――――」
獄寺くんはいきなり腕を掴むと、そのままグランドの方まで私を引っ張っていく。
結局、そのまま席まで連れてこられてしまった。
「あ、今、何か飲みもんでも買って来るし、十代目とここで待ってて」
そう言って走っていく獄寺くんを見送りながら軽く溜息をつくと、隣に座った沢田くんが心配そうな顔をした。
「さん・・・・帰りたかったんじゃないの?」
「え、あ・・・・そういうんじゃないんだけど・・・・」
「もしかして・・・・雲雀さんと何かあった?」
「・・・・・・っ」
普段、ボーっとしてるくせに、なかなか鋭い沢田くんに言葉が詰まる。
でも表立ってケンカをしたわけでもないし、何もないと言えば何もないんだ。
ただ私が勝手に怒ってるだけで、恭弥は特に何も感じてないのかもしれない。
「何もないよ?それに・・・・私と彼は別に沢田くんが思ってるような関係でも何でもないし・・・・」
自分で言ってて胸が痛む。でも実際そうなんだ。
思わせぶりな言葉は言うくせに、私が欲しい言葉は何もくれない人だもの。
「何も・・・・関係なんかない人だよ・・・・」
それだけ言うと、沢田くんは驚いたように私を見た。
「何もないって、でも・・・・雲雀さんはさんのこと、好きだと思うけど」
「・・・・どうしてそう思うの?」
今となっては、そんな言葉すら空しく聞える。
なのに沢田くんは当たり前のような顔で私を見つめた。
「え、だって嫉妬するっていうのは、その人の事が好きだからでしょ?好きだから嫉妬するんだよ」
彼は私が欲しかった言葉を、さも当然、といった顔で言ってのけた。
「沢田くんって・・・・」
「ん?」
「凄〜く単純ね」
「えっ!ひ、酷いなぁ・・・・」
私の一言に彼はシュンと頭を下げた。
そんな彼を見て優しい人なんだな、と笑みが零れるのは、私が少しは変わったという証拠だろうか。
前の私なら、こんな風に人と話す事さえ苦手だった気がする。
それもきっと・・・・恭弥に会ったから――――?
「彼が沢田くん達の事を怒るのも・・・・私の事を自分の所有物とか思ってるからだよ・・・・。それ以上の意味はないと思う」
「え、所有物って・・・・」
「だって私、彼に好きだとか、付き合おうとか・・・・言われた事ないもん」
真っ青な空を見上げながらその言葉を口にすると、何故か泣きそうになった。
沢田くんは驚いてたみたいだけど、それ以上は何も言わない。ただ黙って隣にいてくれて、それだけでも嬉しいと感じた。
「十代目〜♪はい、ジュース買って来ましたっ」
そこへ明るい声と共に獄寺くんが戻ってきた。
沢田くんと私にジュースを渡すと、「そろそろ始まるみたいっすよ」と言ってグラウンドを指差す。
その時、ちょうど選手達がベンチから姿を現した。
「あ、そうそう。今、ヒバリと会ったぜ?」
「・・・・え?」
彼の名を出され、ドキっとすると、不意に沢田くんと目が合った。
けど獄寺くんは、そんな空気に気づかないまま、「ああ、ほら。あそこ」と言って後ろを振り返る。
私も同じように視線を向けると、グランドの入り口に寄りかかっている恭弥の姿が見えて、心臓がドクンと鳴った。
「あれ・・・・アイツ、試合見ないのかな」
私達に気づくと、恭弥はふいっと視線を反らし、校舎の方へ歩いて行く。
「変な奴ー。何しに学校来たんだ?って、アレ?でも・・・・今こっち見てた気がしたけどよく怒らなかったな」
獄寺くんは首を捻りながら頭をガシガシとかいている。
その言葉に胸の奥がズキンと痛んだ。
(やっぱり恭弥はもう私の事なんかどうでも良くなっちゃったのかもしれない・・・・)
「・・・・行って来たら?」
「――――え?」
不意に肩を叩かれハッと顔をあげると、心配そうな顔の沢田くんと目が合った。
「行って来なよ。ヒバリさん、何だか寂しそうだった」
沢田くんはそう言うと、ニッコリ微笑んでくれた。
「な、何言ってるの?そんなはずないよ。それに試合が――――」
「でもさんも悲しそうな顔してたよ?」
「――――ッ」
ハッキリとした口調で言われてドキっとする。沢田くんは普段とは違う、真剣な顔で口を開いた。
「僕は事情も知らないし、二人の事だって何も分かってないかもしれないけど・・・・今、さんがツライ思いをしてるって事だけは分かるんだ」
「沢田くん・・・・」
「少なくとも・・・・ヒバリさんはきっとさんに会いに来たんだと思う」
真剣な顔で素直な言葉をぶつけてくる沢田くんに、何だか心の奥のモヤモヤしたものが晴れた気がした。
今なら素直になれる気がする。
「ほら・・・行って来いよ、。山本の試合なら後からでも見れるだろ?まだ一回の表だ」
「・・・・獄寺くん」
煙草に火をつけながら軽くウインクをする彼に、「煙草、見つからないようにね」と声をかけ立ち上がった。
「じゃあ・・・・ちょっと行って来る。ごめんね」
そう声をかけると、二人は笑顔で頷いてくれた。
それほど親しいわけじゃないと思っていたのに、彼らはいつだって会ったばかりの私を仲間のように扱ってくれる。
この時、初めて、友達になれるかもしれない、と思った。
こんな風に思えるようになったのも・・・・恭弥に会ったからだ。
校舎に向かって走りながら、私は今の自分の気持ちを、どんな言葉でもいいから、恭弥に伝えようと思っていた――――
バンッと音を立ててドアを開け放った。
「恭弥――――」
声をかけ、中を見渡すけど、応接室には誰もいない。
それを確認すると、私はすぐに踵を翻した。
――――どこに、行ったんだろう?
廊下の窓の外からは、試合を応援している声援が聞えてくる。
ちょっとだけ立ち止まってグラウンドの方を見てみると、試合は二回表に入るところだった。
山本くん率いる、うちの学校が勝ってるようで、応援席も賑やかに沸いている。
その中に沢田くんと獄寺くんを見つけた。
獄寺くんは退屈そうに座っているけど、沢田くんはスッカリ夢中のようで、席から立ち上がって応援してるのが見える。
「無邪気だなぁ・・・・。沢田くんは」
「あれは単純って言うんだぞ?」
「・・・・ひゃぁ!」
いきなり後ろから返事が返って来て、その場に飛び上がった。
「リ、リボーンくんっ?」
「ちゃおっス。」
振り返ってみると、足元には沢田くんちにいたリボーンくんが立っていた。
「あ、リボーンくんも野球見に来たの?」
「そうだぞ。さっき朝食を食べてたら、ツナに置いていかれたからな。後でお仕置きだ」
「そ、そう・・・・」
(沢田くんってば、こんな子供にまでイジメられてるのかな・・・・)
そんな事を考えながら、早まった鼓動を抑える。
「あ、沢田くん達なら、あそこにいるよ?」
そう言って外を指差すと、リボーンくんはニッコリ微笑んだ。
「ヒバリは屋上にいるぞ」
「・・・・え?」
「何だか、いつもより元気がなかったな」
「あ、あの・・・・リボーンくん、会ったの・・・・?」
「ああ。今話して来たんだ」
「そ・・・そう」
「ヒバリは・・・・何か重たいもんでも抱えてそうだな」
「――――え?」
その言葉に首を傾げると、リボーンくんは私を見上げて、
「が行けばヒバリも元気になるぞ」
「リボーンくん・・・・」
「俺は山本の試合でも見てくる」
そう言うとリボーンくんは一人歩いて行ってしまった。
それを見送ると、私も屋上に向かって歩き出す。
さっきは勢いで来てしまったものの、こうして落ち着きを取り戻すと、少しだけ怖くなってきた。
今までも恭弥の気持ちが分からなくて同じような思いをした事もあったけど、今回はそれ以上に怖い。
それは私が恭弥の事を今は本気で好きになってるから。
誰もいない静かな校舎をゆっくりと歩き、屋上に続いている階段を一段一段、ゆっくりと上がって行く。
リボーンくんはああ言ったけど、恭弥が私の顔を見てどんな態度をするのか怖かった。
最後の階段を上がると、軽く深呼吸をする。目の前のドアが、やけに重そうに見えた。
その時――――外から大声援が聞えてきて、その声に押されるように静かにドアを開ける。
柔らかい風が頬をかすめていって、長い髪が一気に浚われていった。
「恭弥・・・・・?」
一歩、一歩と足を進めていく。
まるで人の気配のない屋上に、ホントに彼がいるんだろうか、と首を捻った。
けど、その時、頭上であの小鳥が飛んでいるのを見て、再び鼓動が早くなっていく。
「あ・・・・」
ゆっくり歩いていくと、奥に人影が見えて足を止める。
その人影はその場に寝転んでいて、それが恭弥だと分かった時、静かな声が聞こえて来た。
「誰・・・・?また赤ん坊かい?」
私の気配を感じたのか、恭弥は起き上がることもないまま、そう言った。
どう答えようか迷ったけど何も言わずに彼の方に歩いて行くと、そのまま隣に座り込んだ。
「いいの?風紀委員長さんがこんなトコでサボってて」
「・・・・?」
隣に座った私を見て恭弥は眩しそうに目を細めると、ゆっくりと上半身を起こした。
「試合、勝ってるみたいよ?」
「・・・・僕には関係ないよ。仕事は他の奴に任せてる」
「そう・・・・」
恭弥の声を間近で聞いて胸が熱くなる。
たった一日、話してなかっただけなのに、何だか懐かしささえ感じた。
「・・・・は何しに来たの?」
恭弥は同じように座ると、軽く息をついた。その冷めた言い方に少しづつ鼓動が早くなっていく。
「何しにって・・・・」
「アイツらと一緒だったんだろ?だったら、こんなトコに来ない方がいいよ」
「あ、あれはだって・・・・」
冷たい言葉、冷めた横顔。それだけで泣きたくなるなんて。
「何・・・・怒ってるの・・・・?」
「怒ってないけど」
「怒ってるじゃない・・・・っ!」
「怒ってないよ」
「じゃあ・・・・何でそんなに冷たいの?昨日だって無視するし・・・・」
思い切って口にすると、恭弥がやっと私に視線を向けた。
でもやっぱり、どこか冷めた目でドキっとする。
「おかしなこと言うね」
「・・・・え?」
「勝手に怒って帰って、何の連絡もしてこなかったクセに。あげく他の男とデートをしてたのはだろ?どっちが冷たいのかな」
「あ、あれは・・・・」
「良かったじゃないか。どこかに連れて行ってくれる男がいて」
「そ、そっちだって・・・・電話くれなかったじゃないっ!それに――――」
「それに・・・・何?」
「恭弥だって・・・・弥生さんと一緒にいたじゃないの・・・・」
「またその話・・・・?」
「またって・・・・」
恭弥はウンザリしたように息をつきながら立ち上がった。
「・・・・弥生の家族と僕の家族は仲がいいって話したよね」
「それは・・・・聞いたけど――――」
「月に何度か食事会を開いてるだけだよ。それに電話かけてこなかったのはも同じだろ?」
「恭弥・・・・」
冷たい目で見下ろしてくる恭弥に泣きそうになった。
どうして私達はいつもこうなってしまうんだろう。
よく分からない関係のまま、ただ同じ時間を共有して、それでも彼の事を好きだって感じた途端、こんな風になるなんて。
「話はそれだけ?だったら――――」
「待って・・・・っ」
立ち上がって歩いて行こうとする恭弥の腕を掴まえると、彼は驚いたように振り向いた。
「・・・・何?」
やっぱり言わないと伝わらない。恭弥の顔を見てそう思った。
言葉でちゃんと伝えないと・・・・。私は思い切って口を開いた。
「わ、私は・・・・恭弥の事が好・・・・」
そう言いかけた時、不意に唇を塞がれて、続くはずたった言葉は恭弥に飲み込まれた。
「ん、恭・・・・弥・・・・?」
「言わなくていいよ」
恭弥は私をギュっと抱きしめると、小さく呟いた。
「言葉なんかいらない。口では何とでも言えるから。例えば嘘でもね。だから聞きたくない・・・・」
「違う!私は本気で――――」
そう言った時、恭弥がゆっくりと離れていった。
「本気・・・・?」
「・・・・っ?」
「本気ってどの程度?」
そう言って恭弥は私に背を向ける。
「僕には形ばかりの婚約者がいるんだけど・・・・それでも本気になれるの」
「――――え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。恭弥の声がやけに遠くから聞こえるようだ。
"婚約者がいるんだけど"
その言葉ばかりが頭をめぐり、ふと弥生さんの顔が浮かんでは消えた。
「"好きだ"とか"付き合おう"なんて口ではいくらでも言えるよ」
「・・・・恭弥?」
「でも実際には別れを前提にした付き合いになるし、僕には全て無意味な言葉なんだ」
「ど、どうして・・・・」
「どうして?」
喉の奥がジリジリ痛くなってくる。
「どうして言ってくれなかったの・・・・っ?弥生さんなんでしょ・・・・?その婚約者って・・・・」
胸も息苦しい。体中が引き裂かれそうだ。
「言ったらどうだったの?」
クスっと笑って恭弥が振り向いた。
「言ってたらは僕を受け入れなかったって事?それで本気なんて言えるんだ」
「そんなの分からない・・・・!恭弥はズルイよ・・・・。振り回すだけ振り回してそんな大事な事、今更言うなんて・・・・!」
動揺と苛立ちと怒りで、心がグチャグチャになっていく。
こんなに好きになった後で、そんなこと聞きたくなかった。
その時、恭弥の肩にあの小鳥が止まった。恭弥はいつものようにその小鳥を指で撫でている。
「僕は・・・・傍にいて欲しかっただけなんだ。こんな風に思ったのは・・・・だけだよ」
ふと顔を上げ、真っ直ぐな瞳で、恭弥は私を見つめた。
不意に吹いた風でパタパタと、彼の学ランが揺れるのを見ながら、私はぎゅっと唇を噛み締めた。
胸の奥から熱いものが一気に込み上げてくるのが分かる。
私が欲しいのは、そんな言葉じゃない――――。
「私は――――恭弥の人形じゃないっ!」
私は"好きだ"って言って欲しかった。
そう思いながら恭弥の横を駆け抜けた時、彼の学ランが、フワリと宙に舞った――――
彼女の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、指に移動した小鳥にキスをした。
"ただ傍にいて欲しかった"
あの言葉に嘘はない。
僕は怖かったんだ。
事実を話した時、彼女が僕の傍からいなくなるんじゃないかって――――
「あんな言い方したら誤解されるぞ、ヒバリ」
「・・・・まだいたの。盗み聞きなんて失礼だよ、赤ん坊」
小鳥を空に飛ばし、振り向くと、そこには、あの赤ん坊が立っていた。
「言っておくけど・・・・今の僕は最高に機嫌が悪いんだ。近づくと咬み殺すよ?」
「好きだって言ってやればいいじゃないか。それが真実ならな」
「・・・・どうやら咬み殺されたいみたいだね」
そう言うのと同時にトンファーで攻撃したが、一秒の差で交わされ軽く舌打ちをした。
「まあ落ち着けよ、ヒバリ。俺はお前とやりあう気はないぜ?」
「うるさいな。いいから逃げてないでかかってきなよ」
「それよりを追いかけた方がいいんじゃないのか?このままだと本当に――――おっとっ」
またも寸でのとこで交わし、赤ん坊はフェンスの上に立った。
「降りてきなよ。それとも落としてやろうか」
「お前はホントに戦闘マニアだな。といる時は穏やかな顔をしてたってのに」
「・・・・ホントに落とすよ」
「いいから追いかけろよ。はお前にからかわれたと思ってるぞ?いいのか?」
「・・・・ぅ・・・・るさいっ!」
聞きたくなくて攻撃をしかける。
捕えたと思ってもスルスルと逃げていく赤ん坊に苛立ちながら、胸の奥の痛みを振り切った。
追いかけたって同じなんだ。
またが欲しくなって、触れたくなって、壊してしまいそうになる。
にどうしようもないくらい惹かれて行く自分を制御できず、ずっと怖かった。
会った時から欲しくて、仕方なかった。
手に入れたら、ずっと傍にいて欲しくなった。
好きだって・・・・言いたくなった。
本当は・・・・それらの全てが彼女を傷つける事になると分かっていたのに―――
「素直に自分の気持ち、言ってやれよ、ヒバリ」
本当にこの赤ん坊は憎たらしい。
それが言えたら、苦労はしないよ。
好きと言うのは簡単だけど、
ほんとうに伝えることは難しい
新年、第一弾は雲雀夢でしたw
ちょっと更新をサボってましたよ〜ひぃ〜お許しを〜;;(老体に鞭打って働いてたの(TДT)ノ
今回は修羅場っぽい?
う〜ん…ちょっとタイトルも変えて、一部、二部といった感じに分けてみました。
これは…三部までかなぁ?いや…長くなりそうな…
出来れば原作と繋げたいんですよね(無謀か、お前)
投票、ありがとう御座います!(●´人`●)
ホント、日々の励みとなっております!
●この小説見て、雲雀さんにハマりました!本とに文才ありますねvVこれからも更新頑張ってください!
(うぉー!当サイトの小説で雲雀にハマって下さったなんて大、大感激です!ぶ、文才はすみません…ホントないですけど..._| ̄|○;;
●この雲雀はヤバイです。彼女にしてー!!
(きゃーヤバイですか!私も彼女になりたいですー!)
●ここの雲雀夢のストーリー大好きです!!!!
(私の描くストーリが大好きなんて…感涙に咽びます…。・°°・(((p(≧□≦)q)))・°°・。)