自分から本気で何かを手に掴もう、なんて。君に会うまで思った事もなかった。
今更、願ったって無駄な事は知っていたけど、でも、それでも本当は――――
どんな事があっても、揺らがない想いが欲しかったんだ。
遠くで歓声が上がるのを聞きながら、真っ青な空を見上げた。
それでも頬を伝っていく涙は、どうしたら止まるんだろう。
「皆のとこに戻らないのか?」
「リボーンくん・・・・?」
後ろから聞えた声に、振り向かず答える。
いつも思うけど、本当に不思議な子だ。
「・・・・もう少ししたら戻るよ」
「泣き顔は見られたくない、か」
そう言いながらリボーンくんは窓枠の上に上がって一緒に空を見上げた。
グランドが見える廊下は静かで、皆のいる場所がまるで違う世界のように見える。
「ヒバリと・・・・納得いくまで話したのか?」
どうしてリボーンくんは私と恭弥の事を、こんなに気にしてくれるんだろう。
どう見たって子供なのに、中身は全てを知り尽くした大人のようだ。
「話にもならないよ・・・・。恭弥は・・・・結局、私を好きじゃなかったんだもん。ただの気まぐれで――――」
「そんな事ないと思うぞ?ヒバリは単に不器用なだけだ」
「不器用・・・・?彼のどこが?私には・・・・いつでも冷静で器用に立ち回ってるようにしか見えない」
「そうか?俺にはあれが自分を偽る仮面のようにも見えるんだけどな」
「仮面・・・・?」
おかしな事を言うものだと、軽く苦笑する。でも・・・・確かにそうかもしれない、とふと思った。
人を振り回すだけ振り回して、挙句には婚約者がいるなんて言える人だ。
私の前でも、きっと嘘の顔を見せてただけなのかもしれない。そして私は彼の掌で踊らされた、バカな女の子。
「そうだね・・・・。恭弥はいつだって本当の自分を見せてくれなかった・・・・」
「俺はといる時のヒバリが、本当の姿だと思ってたぞ」
「まさか・・・・!だったら何で――――」
そこで言葉を切った。リボーンくんに言っても仕方がない。
「どうした?」
「ううん、何でもない・・・・。もういいの。恭弥なんて弥生さんと婚約でも結婚でもすればいい・・・・」
どんなに好きになっても、無駄なんだ。
弥生さんの、あの余裕な態度の意味が、今ハッキリと分かった。
「はそれでいいのか?」
「いいも何も・・・・二人は親公認で婚約だってしてるみたいだし・・・・。恭弥だって私の事なんか――――」
「それは違うぞ、」
「・・・・違う?」
僅かに怒気を含んだ声にハッと顔を上げると、リボーンくんは真剣な顔で私を見ていた。
「さっきが去った後、ヒバリは凄く追いかけたそうにしながら、でもそれを出来ずに寂しそうな顔をしてたぞ」
「え・・・・?」
「まあ・・・・ワケを聞こうと思ったら、いきなり殴りかかってきて話にならなかったけどな」
そこでリボーンくんは小さく息をついた。
「ヒバリは・・・・わざとを突き放してる気がするんだ。前にもそういう事があっただろ?」
「あ・・・・」
そう言われて思い出した。
出逢った頃、私が危ない目に合わないように、彼が距離を置いた時のことを。
「で、でもあの時と今じゃ状況が違う・・・・。それに婚約してるって・・・・」
「それでもに傍にいて欲しかったんだとしたら・・・・どうする?」
「・・・・え?」
「多分ヒバリも最初は怖くて言えなかったんだと思うんだ。でも・・・・今敢えて言ったのはの気持ちがどれくらいなのか・・・・知りたかったんじゃないか?」
「私の・・・・気持ち?」
「そうだぞ。どんな事になっても自分の傍にいてくれるのか・・・・。いや、傍にいて欲しい、とそう思ったんじゃないか?」
リボーンくんの言葉一つ、一つが、胸の奥をざわつかせる。
―――まさか、でも。
そんな言葉が頭の中で繰り返し響く。
"僕は・・・・傍にいて欲しかっただけなんだ・・・・"
あの言葉は・・・・そういう意味だったの?恭弥――――
「どうして・・・・リボーンくんは私と彼のこと、気にかけてくれるの?」
「もう一度・・・・きちんと二人で話してみろ」
リボーンくんは私の問いには答えずに、ただ優しい目で微笑むだけだった。
「おめでとー山本!」
「おう!最後ギリギリでヤバかったけどな!」
そう言いながらも山本くんは嬉しそうに笑った。
私がリボーンくんと一緒に皆のところに戻った時には、試合も終わりに近い時間だった。
序盤はうちの学校がリードしていたものの、後半に追いつかれ、同点。
でも追い込まれた最後の攻撃で、山本くんは満塁ホームランを放って勝利を掴んだ。
「まあ練習試合でも勝った事には変わりねーし、本大会でも頑張るよ」
「うん。オレ達、また応援に行くよっ。ね?獄寺くん」
「じゅ、十代目がそう言うなら・・・・。(ドゥーでもいいー!コイツの試合なんてっ)」※本音
「さんもさ、一緒に」
「え?あ・・・・うん、そうだね」
沢田くんに言われ、慌てて笑顔を作る。
そんな私の様子に、沢田くんは一瞬、表情を曇らせたけど、すぐに笑顔を見せてくれた。
さっき戻ってきた時も特に何も聞かなかったのは、もしかしたら気を遣ってくれてるのかもしれない。
恭弥は・・・・あれから、どうしたんだろう。
「・・・・ぉい、。・・・・?」
「え、あ、何?山本くん」
ポンポンと肩を叩かれ、ハッとした。
「どうした?ボケっとして」
山本くんはそう言いながら苦笑を零すと、
「これから皆でオレんちに行くんだ。も来ないか?」
「え、山本くんちって・・・・」
「山本の家は寿司屋なんだぞ」
「寿司屋?」
リボーンくんの説明に少しだけ驚いた。(だってイメージが違うし)
「そ。オレんちの寿司、なかなか美味いし、一緒に来いよ。オヤジも転校生が来たって話した時から会いたがってたしな」
「ワーイ。ランボさんお寿司食べたいぞ!」 (途中参加したランボくん。相変わらず牛の格好)
「うるせぇ!バカ牛!」
「ぐぴゃっ!」
いつものように獄寺くんが蹴ると、ランボくんは私の方に泣きながら走ってきた。
そしてガバっと抱きついてくると、
「〜!ランボさん、お鼻が痛いよぉぉうー」
「あらら・・・・お鼻が真っ赤。もう獄寺くん、子供にやりすぎだよ」
「いいんだよ、そんなバカ牛。も放っておけよ」
獄寺くんはそう言って煙草を咥えると、「先に行きましょー!十代目♪」と言って歩き出す。
無常にもリボーンくん、山本くんまでもが、「腹減ったぁー」と言いながらサッサと歩いて行ってしまうのを見て軽く溜息をついた。
「ランボくん大丈夫?皆、冷たいよね」
ハンカチでランボくんの鼻を押さえながら抱っこしてあげると、今の今まで泣いてたランボくんは急に笑顔になった。
「エヘへー♪ランボさん抱っこ好きー」
「・・・・・・(こ、この子わっ!)」
急にニコニコしだしたランボくんに若干呆れていると、そこへ沢田くんが慌てたように戻ってきた。
「ごめん!さんにランボ押し付けてっ!」
「あ、ううん。別にいいの。もう泣き止んだよ?」
「はぁ・・・・。何をズーズーしく抱っこされてるんだ、お前は。ほらランボ、俺が抱っこしてやるから」
そう言って沢田くんが両手を伸ばすと、ランボくんは急にべぇーっと舌を出して、私にしがみ付いてきた。
「やーだよー!ランボさんはツナよりがいいのだー♪」
「な!何言ってんだよ、バカ!いいから早く――――」
「あ、いいよ、沢田くん。私、抱っこして行くから」
「え、で、でも・・・・」
「ホント大丈夫だから。ランボくん重くないし、それに早く行かないと置いてかれちゃう」
「あっったく〜!みんな薄情なんだからー」
すでに校門を抜け、遠くに行っている皆を見て、沢田くんは溜息をついた。
「おーい!早く来いよー!」
「十代目ー!」
急いで後を追うと、皆が途中で立ち止まり手を振っているのが見えた。
「ー!ランボなんか、その辺に放り投げていいぞー!」
またしても、そんな事を言う獄寺くんに軽く噴き出すと、ランボくんが急にしがみ付いてきた。
落とされたくない、と必死に抱きついてくるランボくんは可愛い。
「大丈夫。落とさないから」
そう言うとランボくんは嬉しそうに、エヘへと笑った。
何となくその笑顔にホっとしながら、今日、一人じゃなくて良かった、とふと思う。
「何か・・・・嬉しいな・・・・」
「え?」
「前の学校じゃ・・・・こんな風にクラスメートの人たちと遊んだ事もないし」
そう言って皆の方に歩き出す。
沢田くんは私の隣を歩きながら、「オレも・・・・そうだったよ」と呟いた。
「・・・・オレさぁ。皆と仲良くなる前はホントに何をしてもダメダメで・・・・"ダメツナ"とか呼ばれてたんだ」
「・・・・沢田くんが?」
「うん。でも今はこんなオレでも慕ってくれる奴もいて・・・・。何だか嘘みたいだなって」
そう言って沢田くんは照れたように笑った。
皆の中心にいると思っていたから、その話は少し意外だったけど、でも沢田くんが皆に好かれる理由が、分かった気がした。
沢田くんは素直なんだ。
きっと、誰に対しても優しい。
私も・・・・そうなりたい、と、この時、何故かそう思った。
「じゃあ、ご馳走様でした」
「おう、また来てくれよな!ちゃん!」
山本くんのお父さんは、そう言ってニカッと笑ってくれた。
彼同様、凄く明るくて優しいお父さんだ。そして確かにお寿司も凄く美味しかった。
皆はまだ座敷の方で注文してるようだ。(遠慮というものを知らない)
「ま、今度は武のガァルフレンドとして来てくれれば、オレも嬉しいんだがな!」
「えっ」
「おい、オヤジ!何、ワケ分かんねーこと言ってんだよ!」
父親の言葉に、山本くんが呆れたように笑った。
「だってよー。こんな美人さんが武のガールフレンドになってくれたら、父ちゃんも安心だろーが!」
「・・・・バッカじゃねーの?!には、最強の彼氏がいるんだよっ」
「ちょ、ちょっと山本くんっ」
「何っ?最強?!何だ・・・・ソイツはおめぇーより強ぇーのか?」
「まあ悔しいけどなぁ。な?」
「・・・・し、知らない、そんなの。それより・・・・そろそろ帰るね?遅くなっちゃったし」
この親にして、この子ありだわ、と思いつつ帰る用意をしていると、山本くんのお父さんが何かのキーを投げた。
「お、何だよ、オヤジ」
「自転車使っていいし、彼女送ってやんな。夜道は危ねぇーしな」
「ああ、了解。んじゃ行くか、」
「え、え?いいよ、そんな――――」
「いいって。女の一人歩きは物騒だろ」
山本くんは笑いながら私の頭を撫でると、サッサと表に出てしまった。
それを見て断っても無駄だと察して軽く息をつくと、お父さんが寿司を握りながら「また来てくれよな」と声をかけてくれる。
暖かいその笑顔に、ふと自分の父親の事を思い出した。
「ほら、後ろ乗って」
山本くんのお父さんや、まだ食べていた皆に挨拶をして出ると、山本くんはすでに自転車に跨って待っていてくれた。
「い、いいよ・・・・。歩いていくから」
「こっちの方が早いって」
「あ」
グイっと腕を引っ張られ、仕方なく後ろに乗ると、「ちゃんと掴まってて」と腕を山本くんのお腹に回された。
その時、恭弥のバイクに乗せてもらった時の事を思い出し、胸がかすかに痛む。
ほんの些細な事ですら思い出となっていた事を改めて実感して泣きそうになった。
「んじゃー行くぞ」
ゆっくりと自転車が動き出し、ぎゅっと山本くんに掴まる。
静かに髪を浚う風のせいで鼻をつくのは、恭弥とは違う男の人の匂い。それすらも寂しさを覚えた。
「さっきは悪かったなー」
「・・・・え?」
ボーっとしていると、不意に話しかけられドキっとした。
「父ちゃんが変なこと言ってさ」
「あ・・・・別に謝る事は・・・・」
「まあ、ちょっとうるさいオヤジだけど、また遊びに来いよ。のこと気に入ってたみたいだし」
少し照れながら話す山本くんは、うるさいと言いながらもお父さんの事が凄く好きなんだろうと思った。
「いいお父さんだね。羨ましい」
「そっかー?どこにでもいる普通のオヤジだけど・・・・。の父ちゃんは?どんな感じ?」
父親の事を聞かれ、ドキっとしたが、「別に・・・・うちも普通だよ」とだけ答える。
両親が別居してからは、お父さんと一度も会っていない。
「は凄く可愛がられてそうだな」
「・・・・そんな事ないよ」
「いやいや、父親って娘は特別な存在なんだろ?うちのオヤジも娘が欲しかったって、いつも話してるし――――」
「お父さんは私の事なんか・・・・忘れてるよ。能天気な人だし・・・・」
「・・・・?」
キキッというブレーキの音がした後、不意に自転車が止まった。
ずっと心の中にしまってた気持ちを思わず口にしてしまったのは、私も山本くんみたいにお父さんに愛されたいと思ったからかもしれない。
「忘れてるって・・・・」
「私の両親、別居中なの。もう離婚してるようなものだし、離れてからはお父さんとも会ってないんだ。向こうも会いに来ないし」
「・・・・」
「あ、ごめん。変なこと言って・・・・。でも別に寂しくないし――――」
「嘘つくなよ」
「・・・・え?」
振り向いた山本くんの顔は真剣で、私の心の奥まで見透かしてしまいそうだ。
「寂しくないなら・・・・そんな泣きそうな顔しないよ・・・・」
「・・・・・っ」
「ったく・・・・。ホント、って意地っ張りなのな」
山本くんはそう言って苦笑すると、優しく頭を撫でてくれた。
違う、と言い返したくても、喋ると涙が出そうで声が出せない。
彼の優しさの前じゃ、下らない意地なんか綺麗に消えてしまうようだ。
「・・・・泣くなよ?」
「な・・・・泣いてないもん」
顔を覗き込んでくる山本くんにムっとして顔を反らすと、彼は楽しそうに笑った。
「ま、それだけ元気ありゃ大丈夫か。それにには俺達がいるしな」
「・・・・え、俺達って――――」
「だからぁ。オレだろ?それにツナ。獄寺とその姉貴に笹川先輩。あの子供にランボ、イーピン。あ、それとツナの兄貴分でディーノ・・・・」
指を折りながら楽しそうに話している山本くんに、堪えたはずの涙腺がまた緩みそうになる。
「ディーノさんはめちゃくちゃカッコいいぞ〜?それに優しくて強い!イタリア在住だけど今度来た時、ツナに紹介してもらえよ」
そう言いながら山本くんは優しく微笑んだ。
「皆、何かあれば助けに来てくれる俺達の仲間だ。もちろんもさ。だから寂しいなんて思うなよ」
「・・・・・・っ」
・・・・・ホントに泣きそうだ。
こんな風に、誰かに仲間なんだと言われた事なんかない。
ずっと仲の悪い両親を見てきた。
ケンカのたびに互いを醜く罵り合ってる二人を見ていると、いつの間にか冷めた子になって。
そのうち愛情とか、友情とか、そう言ったものが信用出来なくなった。
好きになっても、信じても、いつか裏切られるくらいなら一人の方がマシ・・・・。
そう思って生きてきたのに。
彼らは会ったばかりの私を必死で守ってくれる。元気づけてくれる。
そう・・・・恭弥だって、そうだった。
恭弥にとったら気まぐれだったのかもしれないけど、でも私の事を守ってくれた。
あの時の恭弥は、嘘じゃないと信じたい。
「あ、泣かないって言ってなかったかー?」
涙を隠すのに俯いた私の頭を、山本くんはくしゃくしゃっと撫でた。
「おっと、もう一人、大事な人忘れてた」
「・・・・・・?」
パチンと指を鳴らす山本くんに目を擦りながら顔を上げると、彼はニッコリ微笑んだ。
「にはヒバリもついてる」
そう言って赤くなった私の鼻をぎゅっと摘む山本くんに、思わず笑みが零れる。
「やっと笑ったな。は・・・・笑顔の方が可愛いぜ?」
「・・・・ありがとう」
彼らのおかげで、少しは他人を信用してみるのもいいかもしれない、なんて、信じてみたいって、この時初めてそう思った。
「さてと・・・・んじゃ帰るか」
「・・・・うん」
山本くんは照れ臭そうに鼻先をかきながら、再び自転車をこぎ出そうとした。
その時――――不意に後ろから車が走ってきて、何故か私達の真横で静かに停車した。
「あらさんじゃない?」
「・・・・・っ?」
いきなり車の窓が開いたと思った瞬間、名前を呼ばれて驚いた。
「弥生・・・・さん?」
「やっぱり。さんに似てるなって思ってたの」
そう言いながらニッコリ微笑んだのは上本弥生だった。
「偶然ね。ああ、デート中だった?この間の男の子とは違うみたいだけど」
「い、いえ彼は――――」
「今度はクラスメートの男の子?いいわね。仲良く二人乗りだなんて」
弥生さんは嫌味のように笑いながら私と山本くんを交互に見る。
それに対して山本くんは気にした様子も見せずに明るい笑顔を見せた。
「オレとはただのクラスメートですよ。そういう上本先輩もデート中ですか?」
「・・・・・・っ?」
その言葉に驚いて運転席を見ると、見た事もないような派手な男が煙草をふかしているのが見えて驚いた。
こんな時間に知らない男の人と車で出かけている彼女に対して訝しげな視線を送ると、弥生さんは「ボーイフレンドの一人よ」とだけ言って微笑んだ。
「もちろん恭弥も承知してるわ」
「・・・・え?」
「だって文句言えないでしょ?恭弥だって、あなたと遊んでたんだもの」
「・・・・・っ」
挑戦的な言葉を言いながら、弥生さんはそれでも笑顔を崩さない。
でも、どんなに悔しくたって言い返すことも出来ないのは、恭弥の気持ちが分からなくなったからだ。
「あら、その表情を見るともう聞いたのかしら。私と恭弥が婚約――――」
「そのくらいでいいんじゃね?」
「山本くん・・・・?」
不意に口を開いた彼に驚いて顔を上げると、山本くんは今までに見せた事もない冷たい目で弥生さんを見ていた。
「先輩が誰と遊ぼうと関係ない。でもにあれこれ言うのは筋違いでしょ。それじゃヒバリをに盗られた当てつけでイジメてるみたいだぜ?」
「何ですってっ?!」
山本くんの言葉に弥生さんの顔が強張った。
「あなた、何様のつもり?失礼でしょう!」
「おーこわ。学校でマドンナ的な存在の先輩でも、そんな怖い顔できるんですね」
「な・・・・っ」
「それに・・・・失礼って言うなら先輩も失礼ですよ」
「や、山本くん・・・・っ」
弥生さんの目が次第に吊り上がっていくのを見て慌てて彼の服を引っ張る。
でも山本くんは私の頭にポンと手を置いて、
「さっきの言い分じゃヒバリは遊びで女と付き合えるような男だって侮辱してるのと同じだし・・・・。の事も遊ばれた女だって侮辱してる」
そう言って弥生さんを射すくめるような目で見ると、山本くんは静かに言葉を続けた。
「言っとくけど・・・・先輩よりの方が何倍も可愛いぜ?ヒバリだってそれくらい分かってるさ」
「・・・・山本くん・・・・」
その言葉に驚いて顔を上げると、もうそこには普段の笑顔を浮かべた山本くんがいた。
「・・・・っ。覚えてらっしゃい!」
弥生さんは怖い顔で私を睨み、「出して!」と運転席の男に怒鳴っている。
男は慌てたように煙草を投げ捨てると、そのまま車を発車させ、通りの向こうへと消えてしまった。
「はー女って怖いのな」
山本くんは溜息をつくと苦笑しながら頭をかいている。
その呑気な姿を見ていると、さっき静かな怒りを見せていた彼と、同じ人とは思えなかった。
「山本くんってば・・・・弥生さんに睨まれちゃうよ?」
ホントは嬉しかった。
あんな風に私を庇ってくれたことも、彼女に言ってくれた言葉の一つ一つも。
「別にいいさ。オレ、彼女って趣味じゃないし」
「ぷ・・・・っ。そういう問題?」
「あ、違うか」
山本くんはそう言って笑うと、ゆっくりと自転車をこぎ出した。
でも急に角を曲がり、自転車は私の家とは反対方向へと向かっている。
「え、ちょ、ちょっと、どこ行くの?私の家はあっち――――」
「ヒバリとちゃんと話せよ」
「――――え?」
ドキっとして顔を上げると、山本くんは前を見たまま、「さっきリボーンに少しだけ話聞いたんだ」と言った。
「ケンカ・・・・してるんだろ?」
「ケンカっていう事じゃ・・・・」
「ケンカだよ。オレからしたら、ただの痴話ゲンカ」
「な、何よ、それ・・・・」
「だって、そーだろー?想いあってるクセに、どっちも素直じゃないったら・・・・」
「それは・・・・」
痛いところをつかれ、言葉に詰まる。
「冷静にきちんと話せよ。素直になって今の気持ちぶつけてみろよ。そしたらヒバリだって素直になるさ」
「・・・・あの恭弥が素直になっても怖いけどね・・・・」
「あはは!それもそーだな。まあ、それだけ言えれば大丈夫だろ?今、ヒバリんちに送ってやっから」
「え、い、いい!ホント今日はもう――――」
「ダメだ!お前らがそんなだから上本先輩だって付け入ってくるんだろー?ライバルなんてぶっ千切れよ」
「でも二人は婚約して・・・・」
「関係ねえよ」
「・・・・・・っ?」
「大事なのは本人の気持ちだ。二人の気持ちがシッカリしてれば後はどうにでもなるさ」
「山本くん・・・・」
「さー見えてきたぞ?」
山本くんはそう言って少しだけスピードを上げた。
少し冷んやりとした風が耳の近くを吹くたびに、鼓動がどんどん早くなっていく。
「あ、でもヒバリの奴、いるかなー」
「・・・・・・」
その独り言のような言葉に、返事は出来なかった。
ぎゅっと唇を噛み締めると、涙の味が口の中に広がっていく。
こんな風に心を奮い立たせてくれる友達が出来た事が、ただ嬉しかった。
「ほら、行けよ」
「で、でも・・・・」
恭弥の家を見上げながら私は困ったように山本くんを見た。
「ったく、しょーがねぇなー」
私が押し渋っていると、山本くんが代わりにインターフォンを押して、
「あ、夜分にすみません。山本と言いますけど恭弥くんいますか?」
『少々お待ち下さい』
「はい。――――いるようだな、ヒバリ」
振り返ってニカッと笑う山本くんに、私は顔が引きつってきた。
だいたい昼間に屋上で話した時、恭弥に酷い事を言ったのは私だ。
(なのに、またのこのこ会いに来て、呆れられるんじゃ・・・・)
「おい、大丈夫か?顔色悪いけど・・・・」
「だ、大丈夫・・・・じゃない・・・・かも」
「おいおい・・・・。初めての告白じゃないんだしもっと堂々としてろよ。キスまでした相手なんだからさ!」
「・・・・いたっ」
バシッと背中を叩かれ、思わず顔を顰める。
(そうだ、山本くんには恭弥とキスしてるの見られた事があったんだっけ・・・・!)
それを思い出し改めて恥ずかしくなった。
「んじゃオレは帰るよ」
「え!帰っちゃうのっ?」
いきなり帰ろうとする山本くんの腕を慌てて捕まえると、彼は苦笑いを零し肩を竦めた。
「そりゃオレだってヒバリに殺されたくないしな。こんな時間にとオレが尋ねたんじゃ、アイツ誤解しそうだろ?」
「ご、誤解って・・・・?」
「だから――――」
「僕の家の前で何してるの」
「「―――――っ」」
不意に後ろで声がしてビクっとなる。
ゆっくり振り返ると、そこには恭弥が怖い顔で立っていた。
「恭弥・・・・」
「何か用?」
恭弥は私にチラっと視線を向けると、隣にいる山本くんを睨みつけている。
でも山本くんは笑顔のまま「いや、用があるのはなんだ」と言って私の背中を押した。
「ふうん・・・・。で、何・・・・?こんな時間に男と二人で来るなんて」
「あ、あの・・・・」
恭弥の感情のない声に言葉が出てこない。初めて恭弥が怖いと思った。
「おいおい・・・。そんな冷たい態度はないだろ?オレは単なる付き添いだし」
「お前・・・・。あの赤ん坊と一緒だった奴か」
山本くんが私の前に立つと、恭弥はニヤリと笑った。
「また咬み殺されたいの」
「いや、それは遠慮する。オレはホント付き添って来ただけだしこれで帰るよ」
山本くんはそう言って苦笑すると、恭弥の肩に手を置いて何かを呟いたようだった。
その声は私には聞えなかったけど、恭弥の顔色が一瞬で変わり、冷たい目で彼を睨みつけている。
「怖いなぁ。そんな殺気満々の目で見ないでくれよ。オレはこれで退散するし」
「あ・・・・山本くん・・・・」
「じゃあ。ちゃんと話し合えよ?」
そう言って自転車にまたがると、山本くんは手を振りながら帰っていってしまった。
いきなり恭弥と二人きりにされた私は体も動かずに、どうしようという言葉だけが頭を回っている。
(な・・・・何か話さなくちゃ・・・・って、でもこんな急に二人にされても何も思いつかないっ!)
「・・・・」
「・・・・・・・っ」
不意に名を呼ばれ、体がビクっと跳ね上がる。
「――――こっち見てよ」
恭弥の声は、かすかに震えているようだった。
"あんたがのこと大事にしないなら・・・・オレがもらうから"
さっきの男の言葉を思い出しながら、ゆっくりと振り向く彼女を見ていた。
胸の奥が焼け付くように痛む。
「あ、あの・・・・」
緊張しているのか、少し顔を強張らせて僕の事を見上げてくるを、思い切り抱きしめたい衝動に駆られる。
でも・・・・今それをしてしまえば、また彼女を傷つけるかもしれない。
「・・・・何、用事って」
「用事・・・・って言うか・・・・」
口篭ると、彼女は僅かに目を伏せた。
「昼間の・・・・話の続き・・・・。してもいい?」
「・・・・いいけど。僕の人形になるのは嫌なんだよね」
「それは・・・・っ」
僕の言葉に反応してパッと顔を上げた彼女は、さっきまで涙目だったのに、もう勝気な瞳で僕を見ている。
それでいて寂しげで、孤独な瞳。初めて会った時、彼女の・・・・この瞳に惹かれた。
「・・・・私は・・・・恭弥にとって何?」
「・・・・・・」
「退屈を紛らわせる相手・・・・?からかってただけなの?」
「そう思うんだったらそう思えばいいよ。でも・・・・僕はそんな事のために他人に声なんかかけない」
「だったら・・・・どうして弥生さんとのこと話してくれなかったの?」
「婚約してるって?そう言ったらはどうしてた?」
「どうって・・・・」
怖かったのもある。
伸ばした手を振り払われる事が・・・・何より怖かったんだ。
本当は・・・・どんな事があっても傍にいる、そう言って欲しかった。
言葉なんか信用してなかったのに、彼女の口からは聞きたいだなんて・・・・。僕は最高に我がままだ。
いや、でも一番、欲しいのは――――
「・・・・僕の事が好きなの、」
「・・・・え?」
「本気で好きだって言える?」
「恭弥・・・・」
「でも僕は・・・・言葉よりも何よりも・・・・が欲しかった。は・・・・そんな風に僕を想ってくれてる?」
僕がそうしたように、何も見えなくなるくらい。
言葉でなら何とでも言える。
でも・・・・思うより先に動くのは、止められないこの衝動だけだ――――
「言わなくても・・・・分かって欲しいって思うのは・・・・僕の我がままなんだろうね」
「・・・・・っ」
「に傍にいて欲しいと思うのも・・・・傍にいてくれと願うのも・・・・」
「恭・・・・弥・・・・?」
「最後に傷つけるだけなら・・・・もう、会わない方がいい」
「・・・・・っ」
「ごめんね・・・・。・・・・」
こんな事なら・・・・最初から出逢わなければ良かったね。
君と出逢って惹かれ始めたあの時から、こうなる事は分かっていたはずなのに――――。
さよなら、と告げると、彼女の涙が頬を伝っていった。
欲しいと望みながら、
絶対に手に入れられはしないことを
僕は知ってる―――
何だか修羅場・・・・?
今回もリボーンが友情出演で頑張ってます(笑)
でもって何故か私の中では、それほど萌えキャラではない(オイ)山本くんがナイスな位置をキープ中(笑)
結構、逆ハーになっていったりしてね(テキトーかっ)
一応、二部はこれで終わりで御座います。
また三部でお会いしましょー(>д<)/
何だかリボーンを読んだ事がない方もこの雲雀夢を読んで下さってるようで、凄く嬉しいですー(*ノωノ)
●雲雀さん素敵ですwヒロインが『運命の人』って言われて泣いちゃう所もこっちが感動しちゃいました((照
(雲雀、素敵だなんて嬉しいです!しかも感動して頂けたようで、私が感動しちゃいますよー(>д<)/
●雲雀夢は初めて読んだのですが,惚れました…!!
(ヲヲ…初めて読んで下さった上に、惚れたなんて…感激ですっ(*ノωノ)
●こちらのサイト様のお陰であまり原作も読んだことのないリボーンの雲雀さんにはまってしまいました!最高ですv
(ひゃー;原作読んだ事ないのに雲雀にハマって頂けて感激で御座いますー!(*TェT*)