君と出逢ってから一人が寂しいと感じるのは何でなんだろう。
あの綺麗な夕日を見せたくて、君を連れ出した時の気持ちに嘘はないんだ。
初めて君にキスをした時に胸が痛くなった理由も、今ならハッキリと分かるのに――――。
「アホ共は呼ぶなって言ったのに・・・・」
獄寺くんの一言に、私は内心苦笑した。
「まさか皆、来ちゃうなんてね」
そう言って抱っこしているランボくんを抱えなおす。
今日は補習をサボって皆で遊びに出てきた。
他にリボーンくんや、風太くん、イーピンが一緒に来て、獄寺くんはさっきからウンザリ顔だ。
「いいのだー!ランボさん、とデートー♪」
「ウザいんだよ、バカ牛!」
「ぅひゃっ」
獄寺くんが殴るマネをして拳を振り上げると、ランボくんが私にしがみついて来た。
獄寺くんはランボくんの事を必要以上に気に入らないらしい。
「もーケンカしないの」
「けっ。もそんなバカ牛、放っておけよ。重たいだろ?」
「そうだよ、さん。こら、ランボ!自分で歩けよっ」
沢田くんもそう言いながらランボくんのツノを引っ張る。
それでもランボくんは離れまいと必死に私の首にしがみ付いた。
「いーやーだー!ランボさんはといるー!」
「我がまま言うな!さんが疲れるだろっ?」
「あ、あのいいよ、沢田くん。私なら大丈夫だから・・・・」(しがみ付かれる方が痛いし)
「そ、そう・・・・?でも疲れたら、すぐ言ってね」
「うん」
そこへ風太くんが走ってきて、「僕、ゲームセンター行きたい」と言い出すと、山本くんと獄寺くんも賛同した。
「よーし、んじゃ勝負すっか!」
「負けねーぞ、コラ!」
「じゃあ皆で行こうか」
「うん。――――あ!ランボくんっ」
皆でゲームセンターに行こうとした時、急にランボくんがぴょんと飛び降りて、どこかへ走っていく。
慌てて追いかけたけど人ごみに紛れたのか、ランボくんの姿が見えない。そこへ沢田くんが走ってきた。
「さん、どうしたの?」
「ごめんなさい!ランボくんが急に飛び降りてどっか行っちゃって――――」
「いいよ、さんのせいじゃないし。ったく・・・・どこ行ったんだ、ランボの奴〜」
そう言いながら辺りを見渡すと目の前にペットショップがあった。
何となく違和感を感じて近づけば、外に置いてあるペット用の箱に犬や猫と混じって見たことのあるクセ毛が見える。
「あ」
「げっ!違和感ないけどさー!」
私と沢田くんが唖然としてるのをよそに、中でスヤスヤとお昼寝しているランボくんはホントに売られているペットのようだった・・・・。
急いで沢田くんがランボくんを出して、私も外に出てきた店員さんに謝った後、二人で顔を見合わせ大きく息を吐き出した。
「ビックリしたぁ」
「ホントだよ、ったく、ランボ!もう二度とこんなマネは――――」
「・・・・あ」
「目ん玉魚雷、発射ー!」(※隣の下着屋にあったブラジャーを目に当ててるランボ)
「もー!ランボ様、許してくださいぃっ!!」 (土下座する勢いの沢田くん)
さすがの沢田くんもランボくんのイタズラに泣きそうになりながら、急いで抱きかかえて皆の後を追う。
「はぁぁ・・・・。疲れた。ごめんね、さん・・・・」
「ううん。結構楽しいよ?」
「えぇぇ?」
くすくす笑うと、沢田くんがグッタリした顔で振り返る。
沢田くんには申し訳ないけど、こんな予測のつかない驚きが逆に新鮮だった。
「ランボさん、喉渇いたー」
「喉乾いた?」
ランボくんの言葉に立ち止まると、ちょうど反対側に自動販売機を見つけた。
「ツナー!ジュースー」
「分かった、分かった。あ、じゃあさんは皆と先に行ってる?」
「んーと・・・・」
「ランボさん、も一緒がいい!」
「あ、こらっ」
すっかり懐かれたのか、ランボくんは私のスカートをぎゅっと握り締め、離そうとしない。
それを見て私はランボくんを抱き上げた。
「一緒に行くわ」
「え、いいの?」
「うん。沢田くん、一人じゃ大変でしょ?」
「あ・・・・ありがとう」
「んじゃーオレたち行ってるよ。すぐそこの店だから」
「うん」
山本くんたちは私たちを残し、目の前のゲームセンターへと入って行った。
「ほら、ジュース」
沢田くんはランボくんにジュースを渡して、目の前にある小さな椅子へと座った。
私もジュースを買って振り返ると、沢田くんはグッタリとテーブルに突っ伏している。
「はい、お疲れ様」
「あ・・・・ありがとう」
ジュースを目の前に置くと、沢田くんはホっとしたように微笑んだ。
「さんいてくれて助かったよ〜。オレ一人じゃ相手しきれないし」
「沢田くんちって子供が沢山だもんね。ホントに親戚の子なの?」
「えっ?あ、まあ・・・・。あははっ」
私の問いに沢田くんは引きつりながら笑っている。
前から気になってはいたけど、どうもその様子を見ていると何かを隠してるような気がする。
でもそれが何なのかは分からない。
「はぁ・・・・。何かこんな風に大勢で出かけるなんて初めて」
「ごめんね。うるさい奴ばっかりで・・・・」
「ううん。凄く楽しい。私、前の学校じゃ友達なんかいなかったし・・・・」
そう話している時だった。
近くで何かが爆発したような音がして、ふと顔を上げた。
「どうしたの?さん――――」
「ねぇ、これ何の音だろ・・・・」
「え・・・・?」
沢田くんが振り向いた瞬間――――ドゴォォンッという物凄い音と共に目の前のビルから煙が上がり、
その中から何かが飛んできたように見えた。
「な、何――――」
「――――ええっ?」
二人で立ち上がったのと同時に飛んできた"何か"が沢田くんに直撃して、沢田くんは一緒に吹っ飛んでいった。
「沢田くんっ?!」
彼が飛んで行った方向に目を向けて唖然とした。何故か沢田くんの上には見知らぬ男の子が倒れている。
(な、何これ?!今飛んできたのって・・・・人間っ?!)
あまりに信じがたい光景に呆然と立ち尽くしていると、その男の子がゆっくりと体を起こした。
「す、すみませ・・・・」
「・・・・いてて・・・・」
「・・・・っ?お、おぬし!」
その男の子は倒れている沢田くんを見て驚いたように息を呑んだ。
「21世紀に・・・・"おぬし"?」
「――――沢田くん!大丈夫?」
そこで慌てて二人に駆け寄ると、今の音を聞きつけて獄寺くんと山本くんがゲームセンターから飛び出してきた。
「十代目〜!!」
「大丈夫か?ツナ!」
私も沢田くんに手を貸して抱き起こす。
勢い良く吹っ飛んだ割に怪我はしてないようでホっとした。
「大丈夫?」
「う、うん、何とか・・・・」
「良かった・・・・」
そう言って息を吐き出したのと同時だった。
「――――う゛お゛ぉい!」
大きな声が頭上から聞こえて顔を上げると、ビルの上に見た事もないロン毛の男が私たちを見下ろしていた。
「なんだぁ?外野がゾロゾロとぉ。邪魔するカスはたたっ斬るぞぉ?!」
「な・・・・」
「何なの・・・・?いったい・・・・」
沢田くんもわけが分からないといった顔で、その怖そうな男を見上げている。
そこへリボーンくんが歩いて来た。
「嵐の予感だな・・・・」
「え・・・・?」
ポツリと呟く声が聞こえ、ドキっとした瞬間、ドゴォン!という激しい音と共に目の前で突風が巻き上がった。
「きゃぁぁっ」
目の前が見えないくらいの風と衝撃音に、急いでランボくんを抱きかかえる。
何が起きてるかサッパリ分からず、恐怖だけが襲ってくる。
その時、服をツンと引っ張られ、顔を上げると、リボーンくんが目の前に立っていた。
「リボーンくんっ!あの人いったい――――」
「女子供は非難するぞ」
「・・・・え?で、でも」
「ここは危ない。はイーピンや風太を連れて非難してろ」
リボーンくんの表情には有無を言わせない雰囲気があり、私は言われた通り皆を連れてこの場所から離れる事にした。
沢田くんたちが心配で振り返ると、先ほど上から吹っ飛んできた男の子が何故か沢田くんを連れて走っていくのが見える。
そしてその後をロン毛の男が追って行った。
何が起きてるのか分からず戸惑っていると、獄寺くんと山本くんもその後を追いかけて行くのが見えた。
「さん!早く逃げよう?」
「あ、うん・・・・」
風太くんに手を引っ張られ、私は仕方なく頷いた。
いったい何が起きたの?
さっきの男の子やロン毛の男は何者?
わけが分からない。
リボーンくんは何か知ってるようだったけど・・・・。
あれこれ考えながらも、とにかく今はランボくん達を守らなくちゃ、という気持ちが先に立ち、近くの駅へと向かった。
今の騒動で逃げ惑う人たちが次々に走ってくるのを見ながら、遠くから聞える衝撃音にドキっとして、皆は大丈夫かと心配になる。
よくは分からないけど、普通じゃないこの騒ぎに嫌な物を感じた。
「ツナ兄、大丈夫かなぁ・・・・」
沢田くんの家に向かいながら風太くんは溜息をついた。
あの場所にいても危ないという事で、一度戻ってきたのだ。
「携帯も繋がらないし・・・・」
さっきから山本くんの携帯にかけてるが一度も繋がらない。
「それにしても・・・・さっきの人は誰なんだろ」
突然、飛んできた男の子と、いきなり襲ってきたロン毛の危なそうな男。
不良同士のケンカでもなさそうだった。
だいたい、ただのケンカであんな剣を振り回す人なんかいない。
(見た感じヤクザにも見えなかったし・・・・)
「ホント・・・・この町に引っ越してきてから変なことばっかり」
「え?」
「ううん、何でもない」
風太くんの頭を軽く撫でて苦笑した。
この半年で色々な事があったけど、どれもここに来る前には想像もしてなかった事ばかりだ。
いい加減、普通じゃないと嫌でも思う。
「は何も知らないんだね」
「・・・・ん?」
「皆のこと・・・・。と言うより・・・・ツナ兄の立場、とか?」
「・・・・え?沢田くんの立場・・・・って?」
いきなり意味深な事を言う風太くんに首を傾げる。
"皆のことを知らない"とは何をさして知らないと言ってるんだろう。
知らないも何も沢田くんだって獄寺くんや山本くんだってクラスメートで、普通の中学生のはずだ。
それ以外に何があると言うんだろう。
「どういう意味?」
「ん〜。僕から説明するのも何だし・・・・後でツナ兄に聞いてみなよ」
「・・・・う、うん」
風太くんはそれ以上、説明してくれる事はなく、気付くと沢田くんちについてしまった。
「ママン〜ただいま〜!」
「現在返回了!」
風太くんやイーピンが元気に中へと入っていく。
「お邪魔します」
「おう!お帰り!」
「・・・・ぇっ!」
ランボくんを抱っこしたまま玄関へ入ると、そこには知らないオジサンが立っていて一瞬、言葉を失った。
そのオジサンはランニングシャツ姿で仁王立ちしてニコニコと出迎えてくれている。
「あ、あの・・・・」
「ん?君もツナの友達か?あ!もしかして彼女?!可愛いじゃねぇかー!やるな、アイツ!」
「・・・・は?いえ、あの私は学校のクラスメートで――――」
そこまで言ってハッとした。
(このオジサン、まさか・・・・)
「何だー彼女じゃねーのか?そりゃ残念!あっはっは!」
「あ、あの・・・・もしかして・・・・沢田くんのお父さん、ですか?」
「お?何だ。オレのこと聞いてる?」
(・・・・やっぱり!)
オジサンはガハハと笑いながら、「まあ入りなよ」と中へ促してくれた。
リビングに顔を出すと、風太くんやイーピンも驚いたような顔をして、目の前のオジサンを見ている。
そこへ沢田くんのお母さんが顔を出した。
「あら、ちゃんも帰ってきたの?」
「あ、お邪魔してます」
「もうツっくんたらちゃんに皆を任せて何してるのかしら・・・・。ね?あなた」
そうは言いながらもおばさんはニコニコ顔だ。
久しぶりにオジサンと会えて機嫌がいいらしい。
(何だ・・・・。沢田くんの様子じゃ色々問題あるのかと思ったけど夫婦仲はいいみたいだし、優しそうなお父さんじゃない)
「あのちょっと・・・・沢田くんたち、遅くなるかも――――」
そう言いかけた時、私の携帯が鳴り出しドキっとした。
「あ・・・・山本くんだ」
着信を見て急いで電話に出ると、『・・・・大丈夫か?』と少し元気のない声が聞こえてきた。
「それはこっちの台詞!皆、大丈夫なの?」
『ああ・・・・まあ、な。それより、今どこ?』
「あ、今は・・・・沢田くんち」
『そっか。なら安心だ』
「ちょ、それより沢田くんと獄寺くんは?さっきの男、誰だったの?」
色々な事が気になり、沢田くんのお父さん達には聞えないよう廊下に出る。
『ツナも獄寺も無事だよ。ただ・・・・怪我人が出て今、近所の中山病院にソイツ運んだらしい』
「え、怪我人って・・・・もしかしてさっきの男の子?」
『ああ。オレは誰か知らないけどディーノさんの知り合いだったみたいで――――』
「ディーノ・・・・さん?」
『あ、そっか。はまだ会った事ないんだっけ。ツナの兄貴分みたいな人。前に話したろ』
「ああ・・・・」
言われて思い出した。
「その人が・・・・何で?」
『まあオレも詳しいこと知らないんだ。とにかくはそこにいろよ。もうすぐツナも帰ると思うし・・・・』
「うん・・・・。あ、山本くんは?」
『オレは家に帰るよ。とりあえず明日な』
「あ、ちょっと・・・・っ」
そこで電話が切れて溜息をついた。でもまあ何だかよく分からないけど、皆は無事のようでホっとする。
ただ少し山本くんの元気がなくて心配になった。
「〜どうしたんら〜」
そこへランボくんが真っ赤な顔でフラフラと走ってきてギョっとした。
「ちょ・・・・っと、どうしたの?顔が赤い――――」
「ツナのパパンが美味しい水らって言うから飲んらんら〜♪」
「う・・・・!この匂い・・・・お酒っ?!」
アルコールの匂いがして驚いていると、そこにオジサンが顔を出した。
「お、ちゃんもこっち来て一緒に飲もう!」
「え、えっ?い、いえ私はもう帰るので――――」
「んな冷たいこと言わないで!さ、ほらほら!今、奈々が美味いメシ作ってるからさ♪」
「ちょ――――(えー!!何この人っ?!)」
必死の抵抗も空しくグイグイと腕を引っ張られ、リビングに連れて行かれた。
そこにはランボくんばかりじゃなく、風太くんやイーピンも顔を真っ赤にしながら日本酒の瓶を抱えている。(眩暈)
「あ〜ら〜」
「一起喝酒〜♪」
「ちょっと二人とも!」
「ほらちゃん」
「え?あ、あの私はまだ未成年で――――」
グラスにトクトクとお酒を注がれ、慌てて首を振る。
それでもオジサンは「そんな硬いこと言いっこなし!」と言いながら私の手にグラスを持たせた。
「ほらグイっと♪」
「い、いえ!だから私は――――」
そう言いかけて言葉に詰まった。
と言うのも、オジサンが悲しそうに瞳を潤ませていたからだ。
「そっかぁ・・・・。お近づきのしるしに、と思ったんだけどな・・・・。オジサン、悲しい・・・・」
「え、あ、いやそんな落ち込まなくても・・・・」
「グス・・・・。じゃあ一人で飲もうかな・・・・。寂しいけど・・・・」
オジサンは"寂しい"を強調すると、一人でコップに酒を注ぎ、それをグビグビと飲みだした。
・・・・その姿を見て根負けした。
「わ、分かりました!じゃあ・・・・ホントに一杯だけ・・・・」
「え♪ ホントに?じゃあ乾杯しよう、乾杯♪」
「・・・・・・・(こ、この人ってっ!)」
急に笑顔になってコップをカチンと当ててくるオジサンに、少しばかり目が細くなる。
それでも仕方なく息を吸い込みコップを口に運んだ。
「ぅ――――っ!!」
「ぷはー!やっぱ可愛い子ちゃんと飲むと酒が美味しいね〜♪・・・・ん?どうした?ちゃん」
「・・・・○×▽・・・・っっ(言葉にならない)」
「あ、おい!」
ドターンッ!
一口、飲んだだけなのに体中が一気に熱くなり、私はそのままひっくり返ってしまった。
"もう・・・・会わない方がいい"
恭弥の声が聞こえる。
どうして?どうして、そんな事を言うの?
私が聞きたかった言葉はそんな言葉じゃない。
"さよなら"なんて言わないでよ――――
夢の中の私は泣いていて、胸が痛くて、痛くて、苦しかった。
でも少しづつ意識が戻る感覚と同時に襲ってきたのは、胸の痛みよりも先に最悪なほどの頭痛だった。
(あ〜頭が痛い・・・・。何でこんなに体がだるいの・・・・?)
徐々に頭痛と吐き気を感じ、一瞬風邪でも引いたかな、と思った。
でも寝返りを打った瞬間、普段の感覚と少し違う事に気づき、パチっと目を開ける。
「・・・・・・っ」
ガバっと起き上がると、頭がぐわ〜んと揺れて少しフラっとしたけど、何とか持ちこたえて辺りを見渡した。
「あれ・・・・ここ・・・・」
そこは自分の家でも部屋でもなく、前にも泊まった事のある沢田くんちの客室のようだった。
「嘘・・・・。私・・・・泊まっちゃった?」
見れば洋服のまま寝ている自分に、慌てて携帯を取り出し時間を確認した。
「嘘でしょ・・・・?月曜の・・・・午前7時っ?」
ディスプレイに表示されている日付と時間に軽い眩暈を感じ、そのまま布団の上に寝転がる。
そこへドアが開き、リボーンくんが顔を出した。
「ちゃおっス、。大丈夫か?」
「あ・・・・。リボーンくん。あの私・・・・」
「パパンに酒を飲まされて倒れたんだぞ。覚えてるか?」
「な、何となく・・・・。一気に飲んだら急に体が熱くなって・・・・」
「慣れない酒を一気に飲むなんて倒れるのは当たり前だぞ?」
「そ、そうだね・・・・。お正月とかに飲むお屠蘇と同じかなと思って・・・・」
「ツナが心配してたぞ」
「あ・・・・沢田くん帰ってるんだ」
それを聞いてホっとするのと同時に、ふと昨日の出来事を思い出した。
あの変な男はどうなったんだろう。
「あの・・・・昨日の人たちは・・・・」
「一人は病院に運んである」
「あの髪の長い男の人は・・・・?」
恐る恐る聞いてみると、リボーンくんは軽く肩を竦めた。
「アイツはファミリーのところへ戻ったぞ」
「・・・・ファミリー?」
(ファミリーって・・・・"家族"って事よね・・・・)
このおかしな状況の中、家族のとこに戻ったなんて言い方にも違和感を感じていると、リボーンくんは小さく息をついた。
「・・・・そろそろにも全てを話しておいた方が良さそうだな」
「え・・・・?」
不意に真剣な顔つきになったリボーンくんを見てドキっとした。
確かに気になる事がいくつもあったし、リボーンくんが普通の子供じゃない事も何となくだけど感じてる。
いったい、彼らは何を隠してるんだろう・・・・?
「いったい何の事・・・・?」
「まあ、まずは朝食でも食べて出かける用意をしよう」
「え、出かけるって今日は学校が・・・・」
「そんなの行ってる暇はないぞ?奴らはすぐ動くと思うしな」
「奴らって・・・・?」
意味が分からずスタスタと歩いていくリボーンくんを追いかける。
するとリビングの方から沢田くんの怒鳴る声が聞こえてきた。
「お、ツナの奴、早速家光とケンカしてるな」
「家光・・・・?」
誰の事かと足を止めた瞬間、リビングから沢田くんが飛び出してきた。
「あ、リボーン!お前だな?このリング、首にかけたの!」
「オレじゃねーぞ」
「嘘つけ!お前以外いないだろっ?!」
「・・・・あいつから何も聞いてないのか?」
「あいつ・・・・?と、とにかく――――。あ!さん!」
「お、おはよう。昨日は迷惑かけてごめんね?」
やっと私に気づいた沢田くんに謝ると、「こっちこそごめんね!」と逆に謝られた。
「うちの父さんがお酒飲ませたって聞いて・・・・。ホントごめん!」
「え、い、いいよ・・・・。飲んだ私も悪かったんだし・・・・」
「でも――――」
「ホント大丈夫だから。それより・・・・面白いお父さんね。優しそうだし」
「えぇ・・・・?最悪だよ、あんな父親・・・・」
私の言葉に沢田くんは徐に顔を顰めた。
「あ、と、とにかく・・・・リボーン!オレはこんなリングいらないし関係ないからなっ」
沢田くんはそう言うと階段を上がって自分の部屋へと行ってしまった。
(リング?何の事だろ・・・・。それに沢田くん昨日はあんな指輪してなかったけど・・・・)
無言のままリビングに入っていくリボーンくんを見ながら、何となく得体の知れない何かに流されてるような気がして、軽く息をついた。
「ホント、お世話になりました」
「いやいや〜ちゃんみたいな可愛い子なら、いつでも大歓迎だよ!またいつでも来てくれよなっ」
「はあ・・・・」
「もう〜余計なこと言わなくていいよ。行こう?さん」
「あ、待って・・・・。――――それじゃ・・・・お邪魔しました」
ニコニコと見送るオジサンとは正反対に、不機嫌そうに家を出て行く沢田くんを慌てて追いかけた。
でも何故か学校とは反対方面に向かって歩いていく。
「ちょ、ちょっと、どこ行くの?こっちは私んちの方向だよ?」
「あ、ちょっと寄ってくとこがあって・・・・。さんは一度、家に戻って制服に着替えるんだよね」
「うん」
そう言いながらも、ふと先ほどのリボーンくんの言葉を思い出す。
"・・・・そろそろにも全てを話しておいた方が良さそうだな"
私をどこかに連れて行こうとしてた感じだったのに、リボーンくんはさっきも何も言わず朝食を食べていた。
(特に深い意味なんてなかったのかな・・・・)
昨日から感じている"何か"も気のせいなのかも・・・・と思いながら前を歩いていく沢田くんを見た。
彼は昨日の出来事を驚いてはいたようだけど、それでも私ほどじゃないように感じる。
こう感じることさえ、気のせいなんだろうか。
「あ・・・・じゃあオレはこっちだから」
そこで沢田くんが立ち止まった。
ふと顔を上げると、目の前には小さな病院がある。
(ああ・・・・もしかして昨日の子のお見舞い?)
そう思ったけど病院のドアには"閉院"の張り紙がしてあるのに気づいた。
「ここに何の用事・・・・?」
「ああ、えっと・・・・」
「十代目!」
「・・・・・・っ?」
その時、病院の中から獄寺くんが顔を出した。
「獄寺くん・・・・っ?」
「オッス、も一緒か!」
「よう、ツナ、」
「や、山本くんも・・・・!」
後ろから山本くんも顔を出し、更に驚いた。
「な・・・・。二人とも何してるの?こんなとこで・・・・」
「それが・・・・」
私の問いに山本くんも複雑といった顔をして沢田くんを見た。
当の沢田くんは泣きそうな顔で急に頭を下げると、
「あ、あの・・・・昨日はごめん!助けてもらったのに・・・・」
「あ・・・・いや・・・・」
「・・・・・・?」
沢田くんの言葉に一瞬、獄寺くんと山本くんの表情が曇った気がした。
でもすぐに笑顔を見せると、
「んな事より・・・・妙な事があってさ」
「そーなんスよ!」
「え?」
二人はそう言うとポケットから指輪らしきものを取り出した。
「ポストにこんなもんが入っててさ」
「もしかして昨日の奴がらみかと思いまして、跳ね馬にここの場所を聞いてたんで・・・・」
「ああ〜〜っ!!そのリングってまさか・・・・!」
二人の指輪を見て沢田くんがひどく驚いている。でも私には会話の内容すら意味が分からない。
「何だ、ツナ。知ってたのか、これ」
「やっぱり十代目も持ってるんですね」
「ヤバイって!それ持ってると狙われるんだよっ!つーか何で?何で獄寺くんと山本にも――――」
「選ばれたからだぞ」
「「「「――――ッ?」」」」
その時いきなり声がしてギョっとした。
「ディーノさん!リボーンも・・・・いつのまに?」
振り返るとそこにはいつの間に来たのかリボーンくん、そして見たことのない綺麗な顔立ちをした男の人が立っていた。
柔らかそうな金髪にスラリとした外見は、一目で日本人じゃないと分かる。
「ボンゴレリングは全部で7つあるんだ。そして7人のファミリーが持って初めて意味を持つんだからな」
「え?」
「お前以外の6つのリングは――――時期ボンゴレボス、沢田綱吉を守護するにふさわしい6名に届けられたぞ」
――ファミリー?ボンゴレ・・・・ボス?
いったい彼らは何の話をしてるんだろう。
以前にも聞いた事があるような、ないような、そんな言葉が耳に滑り込んでくる。
「」
名を呼ばれ視線を下げると、リボーンくんが私の前に立っていた。
「にも話さないとな。少なくとも・・・・これからはも関わる事になるからな」
「・・・・え?」
「ちょ、リボーン!何でさんが関わるんだよ!彼女は関係ないだろ?!巻き込むなよっ!」
いつも温和な沢田くんが珍しく本気で怒っている。
そんな彼を見て、今から聞かされる話はそんなに怒ることなの?と不安になった。
でもリボーンくんは淡々とした様子で私を見上げると――――
「関係あるぞ?リングのうち、一つは――――ヒバリの手にあるからな」
リボーンくんの話はあまりに現実離れしすぎていて、平凡な生活を送ってきた私には理解するのに少し時間がかかった。
「はあ・・・・。嘘みたい」
一度家に帰り、制服に着替えて戻って来た私は、誰もいないロビーのソファに座りながら溜息をついた。
「さん・・・・」
そこへ沢田くんが心配そうな顔で歩いて来る。
「ごめんね・・・・。こんな事に巻き込んじゃって。オレも・・・・最初は驚いたんだ」
「・・・・そうだね。まさか沢田くんがマフィアのボス候補だなんて・・・・ビックリ。映画みたいだよ」
「で、でもオレ、まだなると決めたわけじゃないし・・・・」
「それでも・・・・その・・・・ボンゴレリング?持ってたら昨日の怖そうな人が襲ってくるんでしょ?」
「それは・・・・」
沢田くんは困ったように目を伏せた。
分かってる。沢田くんだって戸惑ってるんだ。
でもそれが事実なら・・・・恭弥も選ばれたなら・・・・彼もマフィアの抗争に巻き込まれる事になる。
それが心配だった。
山本くんも獄寺くんも、10日後には日本に来る敵に備えるために、どこかに行ってしまった。
それに後から来た同じクラスの笹川さんて子のお兄さんという人。(やたら体育会系のノリで驚いた)
彼もまた、沢田くんを守るために鍛えに行ってしまった。
まだ中学生なのに、イタリアマフィアの暗殺部隊と戦うなんて突拍子もない話、信じろという方が無理な話だ。
「ヒバリさんまで巻き込んじゃって・・・・ホントごめん」
本気で申し訳なさそうな顔をする沢田くんに、私は軽く苦笑いを零した。
「リボーンくんが沢田くんの仲間に彼を選んだのなら・・・・恭弥も凄い男って事だ」
「で、でもヒバリさん群れるの嫌いだし入るわけないよっ!だから心配しなくても――――」
「そうは行かないぞ」
「リボーン・・・・っ」
いつの間にか後ろにリボーンくん、そして先ほど紹介してもらった、沢田くんの兄貴分だというディーノさんが立っていた。
「ヒバリにはディーノをつける」
「えぇっ!じゃあディーノさんはヒバリさんの家庭教師ー?!」
「ああ。さすがに今回の件では同盟の問題でオレは手が出せねーから・・・・。今やってやれる事はこれくらいしかねーんだ」
「そんなー!頼りにしてたのにーっ。ってかヒバリさんの家庭教師って・・・・」
「ああ、かなりの問題児らしいな?」
「そうだぞ。で、はそいつの恋人だ」
「へぇ・・・・」
「ちょっとリボーンくん・・・・!」
その説明に慌てて立ち上がると、ディーノさんがニッコリ微笑んだ。
「何だ。先約済みかぁ。オレのタイプだったのに」
「は・・・・?」
ディーノさんの言葉にギョっとした。
「・・・・って言うか、私は関係ありませんからっ。恭弥とはもう――――」
「終わらせていいのか?」
「・・・・え?」
リボーンくんの言葉にドキっとした。
「まだ好きなんだろ?」
「そ、そんな事・・・・っ」
「だったら何でさっきから心配そうな顔してるんだ?」
「・・・・・っ」
リボーンくんの鋭い言葉に何も言えなくなった。
でもだって・・・・暗殺を仕事としてる人たちと戦う事になるかもしれないと聞かされたら・・・・少しは心配にもなる。
「大丈夫だよ、ちゃん。オレが鍛えてみせるから。だからそんな泣きそうな顔すんな」
ディーノさんはそう言って私の頭を優しく撫でた。
「んじゃ、オレも行くとするかな。ツナも頑張れよ」
「え、え?もう行くの?」
「当たり前だ。時間がないんだからな。ツナもオレと修行だ」
「えーっ」
沢田くんは嫌そうな顔をしたけど、リボーンくんはまるで無視だ。
「じゃあディーノ。ヒバリは任せたぞ」
「ああ」
「は学校に行くんだろ?ディーノに送ってもらえ」
「うん・・・・。あの・・・・皆は?」
「修行が終わるまで学校には行けない。病欠にしてあるから心配するな」
「そう・・・・。気をつけてね」
そう告げるとリボーンくんは未だブツブツ言っている沢田くんを連れて行ってしまった。
「さて、と。んじゃ行きますか」
「はい・・・・」
そのまま私はディーノさんと学校に向かった。
彼はきっと恭弥のところに行って、さっき私が聞いたこと全てを彼に話すんだろう。
それを聞いて恭弥はどう思うのか、少し心配だった。
「あの・・・・恭弥が素直に話を聞くとは思えないんですけど・・・・大丈夫なんですか?」
「まあ・・・・リボーン曰く、相当な問題児らしいからな。まあでもオレが何とか説得するよ」
「リングを与えられたら・・・・絶対に拒めないんですか?」
私の質問にディーノさんは困ったように微笑むだけだった。
(本人の意思とは関係なく、危険な戦いに身を置かないといけないなんて・・・・)
そんな私の気持ちを察したのか、ディーノさんは何も言わずに私の頭をクシャリと撫でた。
「そんなに好きなんだ、雲雀恭弥って奴のこと」
「それは・・・・」
「まあ・・・・何があったのかは知らないけど、好きなら意地を張るなよ」
「そういうんじゃありません・・・・。好きになっても・・・・無駄だって分かっただけです」
そう・・・・どれだけ想いを寄せても、惹かれても。私と恭弥は結局、別れる運命にある。
悲しい未来が見えてるなら、今ツラくても耐えなくちゃいけない。
それに恭弥だって、そうなる事が分かってて私に近づいた。
どんな言葉を紡ごうと、彼の気まぐれだとしか思えない。
未来が決まってる人の、単なるお遊び。ただそれだけ・・・・。
だから好きになったって無駄なんだ。
「人が人を好きになるのに・・・・無駄なんてないと思うけどな」
「・・・・え?」
ドキっとして顔を上げると、ディーノさんは小さく息を吐いて空を見上げた。
「人を好きになって学ぶことも多いし得られるものも多い。ツライ事ばかりじゃないよ」
「ディーノさん・・・・」
「結ばれるだけがハッピーエンドじゃない。ハッピーエンドだけが恋愛じゃない。だろ?」
「ハッピーエンドだけが・・・・恋愛じゃない・・・・」
「好きな相手が自分を見てくれなきゃ好きにならないのか?何かを与えられなきゃ好きにならない?そんなの本物じゃない」
「本物じゃ・・・・ない・・・・」
ま、もう少し大人になれば分かるよ、と言って、ディーノさんは笑った。
でも今の言葉は素直に私の心に入ってきて、重苦しかったものが、ほんの少し軽くなったような気がする。
私は・・・・恭弥に与えてもらう事ばかりを考えて、自分からは何も与えようとはしなかった。
恭弥に背を向けられたら、未来を考えて無駄だと思ったなら、それで消える想いなら・・・・それは確かに嘘だ。
「ありがとう・・・・。ディーノさん・・・・」
「別に礼なんていいよ。それより・・・・オレがちゃんを大人の女性にしてあげたいな〜なんてね」
「な、からかわないで下さい・・・・っ」
身を屈めて顔を覗き込んでくるディーノさんにドキっとして、頬が赤くなる。
彼のようなカッコいい大人の男の人に免疫がない私にとって、こんな時どう返したらいいのか分からない。
そんな私を見てディーノさんは楽しげに笑った。
「真っ赤になっちゃって可愛いな〜。日本の女の子ってやっぱいいな、うん」
「・・・・バカにしてる」
「してないって。今時こんな事で赤くなる子は少ないからさ。オレにとっては凄く新鮮。皆が可愛がるの分かるよ」
「皆・・・・?」
「そう。ツナも獄寺も山本も・・・・リボーンだってちゃんの事は意地っ張りだし武器用で放っておけないって言ってたぞ?」
「・・・・不器用って・・・・。沢田くんにだけは言われたくない」
「あはは!確かにな!」
私がスネると、ディーノさんは豪快に笑った。
でもホントは・・・・凄く嬉しい言葉だった。
最初は苦手だったのに、いつの間にか私は彼らを頼りにしてる。
人と上手く付き合うのが苦手で、会うたび素っ気ない態度をしてた私に、いつも笑顔で話しかけてくれた山本くん、
無愛想だけど、強気の言葉で励ましてくれる獄寺くん。頼りなさそうだけど誰より優しい沢田くん・・・・。
皆、私の初めての友達・・・・。そして皆と仲良くなるキッカケをくれたのは――――
「雲雀恭弥、か・・・・。オレも会うの楽しみになってきたかな」
「た、多分・・・・凄く大変だと思いますけど」
「ま、そこはオレの人当たりのよさで何とか頑張るよ」
「ぷっ・・・・。自分で言ってる」
「あ、そんな笑わなくてもっ」
そう言ってディーノさんは私の髪をクシャクシャと撫でた。
笑いながらも乱れた髪を直し、再び彼を仰ぎ見る。
彼と話してると、何となく意地を張ってる自分がバカみたいに思えてきた。
「ディーノさん」
「ん?」
「私・・・・見てていいですか」
「・・・・え?」
私の問いに、彼はふと足を止めた。
「恭弥を――――見ていたいんです」

すみません、今回も絡みないです(汗)
しかも登場すらしてないし!(゜ε ゜;)
ちょっと繋ぎな話ですのでご勘弁をー;;
最近、この作品へのコメントが増えて、感謝感激している管理人です<(_ _)>
●ここの雲雀夢大好きです!!!!内容がしっかりとしてて読みやすいです♪
(大好きなんて、ありがとう御座います!うぎゃ!内容シッカリしてます?!かなり無理やり感が漂ってる気が(;^_^A
●ストーリーがとても好きなので、雲雀夢に一票です。
(ヲヲー☆ストーリーが好きなんて嬉しいです!!でも無理やり繋げてるので後で修正したいわ…(゜ε ゜;)
●雲雀愛してますっっ!!!!
(ありがとう御座います!(>д<)/
●最近雲雀夢の更新が盛んなのでためしに読んでみたら見事に(?)ハマってしまいました!!素敵です・・・v
(リクが増えて来たので何気に更新続いております♪ハマって頂けたなんて感激です〜!)