小さい頃から自分以外の人間を、大切だと感じた事はなかった。


それは自分以外の人間から、確かな愛情を受けた事がなかったからかもしれない。


でもそれが悲しい事だとも、寂しい事だとも感じることすらないまま、それが当たり前のように過ごしてきた。


――――彼女に会うまでは。










目が覚めていつも思い出すのは、もう隣にはない彼女の寝顔。
たった一度、この腕で抱きしめて眠っただけなのに、こんなにも鮮明に記憶している事がおかしくなる。


また戻っただけだ。前の自分に――――。




「恭弥?起きてる?」


ベッドから抜け出したのと同時にノックの音が響き、弥生が顔を出した。


「あ、おはよう、恭弥」


僕を見て彼女はニッコリ微笑むと、そのまま中へ入って来た。


「毎朝、来なくても一人で起きれるよ」
「いいじゃない。お隣さんなんだし私は恭弥の婚約者なんだから」


弥生はそう言ってベッドの方をチラリと見た。


「女は連れ込んでないみたいね」
「・・・・バカ言ってないで出てってくれない。これからシャワーに入るんだ」
「待ってる。一緒に朝食食べましょ?」
「いいよ。食欲ないし」


そう言いながらバスルームへ歩いて行くと、背中にドンと衝撃が走った。
お腹に回る腕にぎゅっと力が入ったのを感じ、軽く溜息をつく。


「弥生・・・・」
「恭弥、最近冷たい。前はそんなこと言わなかった」
「弥生もこんな事しなかったよ」
「そう?・・・・そうね、こんな事しなくたって恭弥は傍にいたし」
「今もいるだろ」
「体はね。でも心はどこに行っちゃったのかしら」
「何の話・・・・?遅刻するから放してよ」


そう言って彼女の腕を解くと、バスルームへと入った。
それでもすぐにドアが開き、深い溜息が洩れる。


「何・・・・?」
「私も入ろうかな」
「・・・・朝から何言ってんの。出てってくれない?」


軽く睨んでみても、弥生は澄ました顔のままドアのところに寄りかかり、黙って僕を見ている。
どこかギラついた瞳で赤い唇がクスクスと含み笑いを零した。


「気にしないで脱いでいいわよ?」
「・・・・・・」


彼女は昔からこういうところがあった。
自分の欲しいものに対しての貪欲さや執着心には、いつも驚かされる。
今、弥生を突き動かしてるのは、自分のものだと思っていた僕がという少女に奪われるかもしれない、と思ったからだ。
でもそれを愛情の絡んだ嫉妬だとは思わない。
弥生はただ、僕を所有していたいだけだ。自分の"婚約者"として――――。

何を言っても聞きそうにない弥生を尻目に、着ていたものを脱ぎ捨てた。
その間もずっと弥生の視線を肌に感じる。


「朝から男の裸なんか見て楽しいの?」
「恭弥のだったらね。随分逞しくなったし・・・・」


弥生は僕の背中に頬を寄せると軽くキスをしてくる。
ゾクリと足元から駆け上がってくる甘い刺激を感じて、僅かに眉を寄せた。
前なら時間も何も関係なく、このまま彼女と本能のままに抱き合っただろう。でも今は・・・・。


「恭弥・・・・キスして」


首に腕を回しながら、甘えるように呟く。
ゆっくり唇を寄せて口づけると、すぐに求めるようなキスを返してくる。
いつからこんな貪欲な女になったんだろう、と内心苦笑しながら彼女の腕を解いた。


「ん、もう・・・・。まだその気にならない?」
「・・・・早く・・・・学校に行きなよ」
「はぁ・・・・。つまんない」


弥生は溜息をつくと、バスルームを出て行こうとした。
が、「ああ、そうだ」とすぐに振り返り、僕の手を取って何かを握らせる。


「何?これ・・・・」
「さあ?郵便受けに入ってたってお手伝いさんが言ってたの。恭弥宛ての封筒に入ってたらしいわ」
「僕宛て・・・・?」
「ええ。でも切手も貼ってないし、差出人の名前もなかったから心配になって開けたみたいよ。恭弥は色々と敵も多いし」
「・・・・・・」


そっと掌を開けば、そこには変わった形の指輪があった。弥生はスネたように僕を睨むと、


「まさかそれ、あの子へのプレゼントじゃないでしょうね」
「・・・・どういう意味」
「恭弥があげたものを・・・・あの子が返しに来た、とか」
「まさか。僕はこんな指輪なんか知らないけど?」
「そう・・・・。ならいいわ」


そう言って弥生はニッコリ微笑んだ。


「早く入ったら?風邪引くわ」


そう言って軽くキスをすると、弥生はそのまま出て行った。
小さく息をついてシャワールームのドアを開ける。そこで、ふと掌にある指輪に視線を戻した。


「・・・・・」


良く見てみると真ん中から欠けてるようなデザインで、何か模様が彫られている。
捨てようと思ったが、思い直しそれを棚に置いた。

この時はまだ、この指輪のせいで彼女を危険な事に巻き込むなんて、思いもしなかった。










「ここに雲雀恭弥がいるの?」
「はい、多分・・・・」


学校に着くとディーノさんを応接室へと案内した。
この時間ならきっと恭弥はここにいるはずだ。


「じゃあ、ちょっと行って話でもしてくるかな」
「あ、あの・・・・気をつけて・・・・」


恭弥の性格を思い出し、ついそう声をかけると、ディーノさんは困ったように笑った。


「これでもキャバッローネの十代目ボスだぞ?いくら強いって言っても中学生には負けないって」
「あ、そ、そうです・・・・よね」
「ああ、それとも・・・・彼が心配か?」
「そういうんじゃ・・・・。あ、じゃあ私はこれで――――」
「え?見ていくんじゃないの?」
「あ・・・・それは後で・・・・コッソリ見に行きます」


そう言って頭を下げると、私は教室まで一気に走った。本当なら、ずっと傍で見ていたい。
でも、もう会わないと言われた以上、恭弥と顔を合わす事は出来ないと思った。
これから皆が戦う相手はとんでもなく強いというし、殺しを仕事としている連中らしいから、心配じゃないと言えば嘘になる。
でもディーノさんは恭弥と修行するために来てるんだ。


(だったら彼に任せておけば大丈夫・・・・)


そう自分に言い聞かせ、教室に入る。
いつもと変わらない風景に少しホっとしながらも、いつもいる沢田くんたちがいない教室は少しだけ寂しく感じた。


(皆も・・・・頑張ってるかな)


今頃は恭弥も・・・・自分が置かれた状況を知らされた頃だろう。
主のいない皆の机を見ながら、ふと溜息が出る。

それから数時間、昼休みまでの間がとんでもなく長いものに思えた――――。








昼休みを告げるチャイムと同時に、私は教室を飛び出した。
二人がいる場所はだいたい見当がつく。廊下を走り、階段を一気に駆け上がる。
すれ違う生徒達が変な目で振り返るのも無視して、必死に走った。


ドンッ



「・・・・きゃっ」


駆け上がった勢いで、階段の踊り場から急に現れた人影とぶつかった。
後ろに転びそうになる体を何とか支えて顔を上げると、


「・・・・痛いわねっ!」
「あ・・・・すみませんっ」
「あら?あなた・・・・」


弥生さんは私だと気づくと訝しげな顔で髪をかきあげた。


「そんなに急いでどこに行くのかしら」
「別に・・・・」


何となく気まずくて視線を反らすと、そのまま歩いていこうとした。


「待ちなさいよ。先輩に対して何なの?その態度!」


いきなり腕を掴まれハッと振り返れば、怖い顔で睨んできたのは弥生さんと一緒にいた女の先輩だった。


「すみません・・・・」
「謝って済むと思ってるの?あなたでしょ?転校早々、雲雀さんに手を出した子って」
「そんな・・・・私は別に――――」
「あら、いいのよ。彼女は知らなかったんだもの」
「・・・・・・っ」


怖いくらい、にこやかな笑みを浮かべて弥生さんは私の前に立った。


「それに恭弥もいけなかったのよ。彼女みたいな純情そうな子をからかうなんて。いくら私が遊びならいいって言ったからって、ねぇ?」
「――――ッ」
「あら本気にする方が変なのよ。雲雀さんがあんたみたいな子供を真剣に相手にするわけないじゃない」


そう言って2人は悪意のこもった目で睨んでくる。悔しいけど何も言い返せない。その時――――


「――――ケッ!こんな女と婚約なんて、ヒバリもその辺の男と同じかよ」


「・・・・っ?ご・・・・獄寺くん・・・・?!」


後ろから声がして振り返ると、そこには今日、来てないはずの獄寺くんが壁に寄りかかって立っていた。


「な・・・・何なの?あなた!どういう意味よっ!」


弥生さんの顔からはさっきまでの笑みが消えて、口元が僅かに引きつっている。
獄寺くんは苦笑気味に頭をかきながら歩いてくると、私の隣で立ち止まり二人を睨みつけた。


「ブランド物の時計をつけてセレブぶってるわりに、イジメなんてしてる陰険なバカ女を選ぶなんて、ヒバリも思ったよりつまんねぇ男だなって言ってんだよ」
「何ですってっ?!」
「さっきをバカにしてた時の自分の顔、鏡で見てみろ。いくら美人でも、どんだけ綺麗に化粧してても、醜いブタみてぇな顔してっからよ」
「・・・・・ッ?」
「心が醜いのが丸見えじゃん?」
「うるさいわね!不良のあんたに言われたくないわ!」


弥生さんの顔が真っ赤に染まり、怒りで震えている。
そんな彼女に獄寺くんは失笑を漏らした。


「あんた、化粧するより心を綺麗にした方がいいんじゃねぇの?あんたなんかよりの方が数倍、可愛いぜ」
「ちょ・・・・獄寺くんっ」


いきなり名前を出されギョっとして顔を上げると、弥生さんが怖い目で睨みつけてきた。


「こんな子より・・・・私が劣るですって?」
「当然だろ?ヒバリもその辺分かってると思ってたんだけどな・・・・。見損なったよ」
「あなた・・・・それ以上、私を侮辱したら――――」
「うるせぇ!!今度、にちょっかい出してみろ!その飾りだけの綺麗な顔、吹っ飛ばしてやっからな!」
「・・・・・ッ」
「行くぞっ」
「え、ちょ、ちょっと!」


獄寺くんは私の腕を掴み、ずんずん歩いていく。
何とか転ばないようについていきながら、ふと彼の背中を見ると静かな怒りが伝わって来た。


「あ、あの獄寺くん・・・・!腕・・・・腕が痛い・・・・」
「・・・・え?あ!わ、わりぃっ!」


3年の校舎まで歩いて来たところで、やっと腕を離してくれた。
振り向いた獄寺くんは何となく照れくさそうな顔で頭をかいている。


「だ、大丈夫か?」
「う、うん・・・・。あの・・・・ありがとう」
「いや・・・・さっきが走ってくの見かけて追いかけたんだ」
「そう・・・・。あ、でも獄寺くん、今日は休むんじゃなかったの?」


気になってたことを尋ねると、獄寺くんも思い出したように「ああ」と苦笑した。


「実はさ・・・・稽古つけてくれるようシャマルに頼みに来たんだけど・・・・断られたんだ」
「え・・・・?シャマルって・・・・保健室の先生じゃ――――」
「ああ。実はあいつ、医者の前に"トライデントモスキート"って殺し屋なんだ。オレもガキの頃から知ってる奴で――――」
「えぇっ?!」


さすがに驚いて声を上げると、獄寺くんも驚いたように身を竦めた。


「な、何だよ・・・・。ビックリするだろ?」
「そ、それはこっちの台詞よ!まさか保健の先生が殺し屋なんて・・・・」
「ああ、この事は内緒な?あ、それと・・・・シャマルには近づくな。あいつ極度の女好きでキス魔のセクハラオヤジだからさ」
「な・・・・キス魔でセクハラオヤジな・・・・殺し屋・・・・?」
「ああ。でも腕は確かだ。だから頼もうと思ったんだけど・・・・。しゃあーねーな。オレ、一人で修行してくるよ」
「え、一人でって・・・・大丈夫なの?!他の人に頼めば・・・・」


私の言葉に獄寺くんは苦笑交じりで首を横に振った。


「オレにこいつ教えてくれたの、シャマルなんだ。だからオレの師匠はあいつしかいねぇ」
「え、その花火・・・・?」
「花火じゃねぇ!!ボムだよ、爆弾!」
「あ、そ、そうだったね・・・・。あはは」
「ったく・・・・もかなり山本に影響されてんな・・・・」


獄寺くんはそう言いながら溜息をついた。彼も相当、あの山本くんの天然に振り回されたんだろう。


は・・・・ヒバリんとこ行くんだろ?」
「え・・・・?」


ドキっとして顔を上げると、獄寺くんは私の頭にポンと手を乗せた。


も・・・・頑張れよ」
「獄寺くん・・・・?」
「このまま、あのバカ女に奪われたくねーだろ?」
「・・・・・・」


黙って俯くと、獄寺くんは小さく息を吐き出した。


「さっき、あの女に言ったのは本心なんだ」
「え・・・・?」
「もしヒバリがその辺の男と同じなら・・・・オレはあいつを許さねぇ」
「・・・・・っ?」
を傷つけた礼は・・・・きっちりさせてもらうしな」
「い、いいよ、そんな――――」
「オレがよくねーんだよっ!」


いきなり怒鳴られビクっとなる。獄寺くんは本気で怒っているようだ。


「・・・・は・・・・オレ達のダチだかんな。十代目だって心配してる」


そう言うと、すぐいつもの笑顔を見せてくれた。


「ま、とにかく今は修行しなくちゃな。オレ、ちょっと行ってくるわ」
「あ・・・・うん。頑張って!」
「おう!んじゃまたな!」
「・・・・い、色々ありがとう!」


歩いていく彼にそう叫ぶと、獄寺くんは前を見たまま手だけ振ってくれた。
その後姿を見ながら、「頑張れ・・・・」と一言、呟く。


その時、午後の授業を告げるチャイムが鳴り響いた――――









しなやかなムチに弾かれ、後方に一度下がるとトンファーを身構えた。
いきなり現れたこの男と戦い始めて数時間。
互いに様子を伺うだけの時間はとっくに過ぎてるのに未だ決着がつかない。
さすが、あの赤ん坊の知り合いだけあるな、と自然に笑みが零れる。
ディーノと名乗った目の前の男は、指輪がどうこう言っていた。
となれば今朝、家のポストにあの変わった指輪を置いていったのも、こいつらなんだろう。
でも理由なんてどうでも良かった。
あの指輪がどれだけ大切なのかは知らないが、ここでこの男を跪かせるだけでいい。
何故、こうも戦う事に執着するのか、自分でも分からない。


ただ、イライラするんだ。誰に、とか何に、とかじゃない。
昔から戦ってる時だけ、相手を叩きのめしてる時だけ、重苦しい心が解き放たれる。
と出逢ってからは、こんな感情すら忘れていたはずなのに。


「ねぇ・・・・マジメにやってよ」


ディーノという男が余所見をしているのを見て少しだけイラつく。


「余所見するなんて余裕あるんだ」
「・・・・チッ。この戦闘マニアめ・・・・」
「真剣にやってくれないと・・・・この指輪捨てるよ?」
「な!待て、この野郎!」


(へぇ・・・・かなり慌ててる。そんなに大事な指輪なんだ)


指輪をポケットに戻しながら、ニヤリと笑う。


「わーったよ!じゃあ交換条件だ!真剣勝負でオレが勝ったら・・・・お前にはツナのファミリーの一角を担ってもらうぜ」
「何それ。まあ、いいよ。僕が勝つから」
「わっ!」


言い終わる前に攻撃すると、ディーノは素早い動きでそれをかわした。
簡単には倒せないくらいの腕はあるようだ。


「不意打ちなんて汚ねぇーぞ、恭弥!」
「あなたに呼び捨てされる覚えはないけど」


更に攻撃しながら相手の攻撃を読む。
ディーノはギリギリでそれを避けながら、意味深な笑みを零した。


「オレのアモリーノ天使がそう呼んでたからうつったかな?」
「・・・・アモリーノ?」


ディーノのムチ攻撃をかわし、振り返る。


「そ。もうすぐ、ここに来る事になってるんだけどなあ〜。まだ授業終わらねーのかな」
「・・・・何それ。ここの生徒と付き合ってるわけ?」
「いや、今日知り合ったばかりだけどな。小柄で可愛いし凄くいい子だから、ちょっと真面目に口説いてみようかと思ってさ」
「へぇ・・・・。あなたが気に入るくらいの子なんて、うちの学校にいたかな」


互いに攻撃しあいながら、そんな会話をかわす。
が、ふと何かが引っかかり、一瞬だけスキを与えてしまった。
ヒュン・・・・っという音と共に腕にムチが巻きつき、軽く舌打ちをするとディーノがニヤリと笑った。


「どうやら気づいたようだな、恭弥」
「・・・・・・」
「お前のこと名前で呼ぶ女なんか・・・・多くないんだろ?」
「・・・・・・ッ」


先ほど感じた違和感の答えをディーノは簡単に口にした。
その時、屋上の扉が開く音がして、ディーノが視線をそっちへ向けたのを僕は見逃さなかった。
素早く腕に巻きついたムチを引っ張り、トンファーで攻撃すると鈍い音と共にディーノがよろめく。


「・・・・ぃって!てめーなぁ!」


直撃を避けたのか、額が切れただけでディーノは苦笑いを浮かべた。


「まあいい。どうやらオレのヴィットーリア勝利の女神が来たらしいしな」

そう言ってニヤリと笑う。その時、背後で聞き覚えのある声が響いた――――。









「・・・・ディーノさん!!」


午後の授業が始まっても私は教室に戻らず、その足で屋上へとやってきた。
そこで見たのは額から血を流すディーノさんの姿。思わず声を上げてしまった事を、私はすぐに後悔した。


「・・・・?」
「あ・・・・」


ゆっくりと恭弥が振り向いたのを見て、私は思わず後ろへ後ずさった。
コッソリ見るはずだったのに、と内心、自分に腹を立てながら、この場から走り去りたい衝動にかられる。


「・・・・あ、あの私――――」
ちゃん、遅かったね」


ディーノさんは服の袖で額の血を軽く拭くと、ニヤリと笑った。
その言葉に恭弥の顔色が変わり、ドキっとする。


「ふうん・・・・。あなたが言ってた子ってこの子なんだ」
「ああ。恭弥もよく知ってるだろ?」
「・・・・あなたには関係ないよ」
「・・・・おっと!」


恭弥の早い攻撃に、ディーノさんは素早く後ろへ飛びのいた。


「まあ、そうカッカするなよ。ちゃんもオレなら平気だから、そこで見てて」
「え、でも――――」
「いいから。恭弥もその方が嬉しいだろ?」
「別に。気が散るだけだよ・・・・っ!」
「あ・・・・っ」


恭弥の目の色が変わり、ディーノさんに凄い速さで攻撃をしかけていく。
それでもディーノさんは恭弥の攻撃を上手くかわし、持っているムチで自分も攻撃を始めた。


「ほら、どうした?!さっきより攻撃が鈍いぞ?」
「う・・・・るさい・・・・っ!」


ビシッという鈍い音が恭弥の手や頬をかすめて、少しづつ血が滲んでいくのを見ながら、ぎゅっと手を握り締めた。
飛び出して二人を止めたい、と思う衝動を何とか抑えながら、祈るように天を仰ぐ。
その時、ディーノさんのムチが恭弥の右腕をとらえ、持っていたトンファーが地面に転がった。


「・・・・くっ」
「恭弥・・・・!!」


右腕を押さえたまま後ろによろけた恭弥を見て、思わず走り寄ろうとした私に、彼は「来るな!」と怒鳴った。
ビクっとして足を止めると、恭弥は冷たい目で私を睨んだ。


「・・・・関係ないんだから引っ込んでてくれない?」
「恭・・・・」
「・・・・名前で呼ぶのもやめて欲しいんだ」
「・・・・・・ッ」


冷たい声、冷たい言葉に涙が浮かぶ。
それでもさっきディーノさんから言われた言葉を思い出し、この場から逃げ出すのはダメだと、自分に言い聞かせる。


「お前なぁ・・・・。そんな言い方はないだろ?ちゃんが可愛そう・・・・って、おい!聞けよ、人の話!」


右腕を怪我しながらも左腕で攻撃をしかけた恭弥に、ディーノさんは慌てて身を翻した。
それでも恭弥は何度も攻撃をしかけていく。
その姿は今までとは別人のようで、激しい怒りにも似たものに体が包まれてるように見えた。


胸が熱い・・・・。
恭弥を見てるだけで、こんなにも胸の奥が焼けるようだ。


風になびく髪も、しなやかに動く腕も、流れるような攻撃をしかける綺麗な指も、その一つ一つが愛しくて。


忘れるなんて出来ないよ。
何もなかった事になんか出来ない。
だって・・・・心が、まだこんなにもあなたを好きだって、私に伝えてる。
弥生さんに触れて欲しくないって、心が焼けそうなくらい嫉妬してる。


私に触れたその手で、その腕で、他の誰かを抱きしめるくらいなら、いっそ――――あなたが私の、















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やっとヒバリさん登場です(笑)
でもそんな絡みもなく…今後は…ちょっと泥沼劇になりそうな予感?!
関係ないけどディーノ好きです♪
カッコいいのにドジなとことか可愛いわー(´¬`*)〜*
主役級のキャラには、それほど萌えない管理人なのに、今回は獄寺くんがいいとこどり?(笑)





●原作を読んだことのない私でも見事にハマってしまう小説でした。L夢メロ夢共々更新楽しみにしています
(ヲヲ!原作を読んだ事ないのにハマって下さったんですか!それは感激です(TДT)ノ