忘れようと思うと、目の前に現れる。


どうして苦しめる――――?どうして傷つけることしか出来ない。


二つの心に潰されて胸が、心が痛くて。いっそ出逢う前の自分に戻れたら、どんなに楽なんだろう。


君が他の男のものになっていくのなんて、見たくない。


勝手かも・・・・しれないけれど――――







「――――恭弥!」


彼の額が切れて血が流れるのを見た時、つい叫んでいた。
これは殺し合いじゃない。本気の戦いじゃない。恭弥のための修行なんだ。
そう分かっているのに、恭弥が傷つくたび心臓が千切れそうになる。


「気が散る・・・・。どっか行っちゃってよ」


煩わしそうに額の血を腕でふき取ると、私の方を見もしないで恭弥が呟いた。
あの恭弥が防戦一方なんて考えられない。
私の存在で気が散るなら、この場にいない方がいいんだろうか。


そう思っているとディーノさんが小さく息をついて攻撃を止めた。


「・・・・今日はここまでだな、恭弥」
「・・・・何で」
「お前、気が散って実力の半分も出せてねぇだろ」
「・・・・・・ッ」


ディーノさんの言葉に胸が痛む。きっとそれは私のせいだ。
私のせいで恭弥は・・・・・。


「うるさいよ。早く攻撃してきたら?」
「いや・・・・。本気が出せないなら無駄だろ。今日はやめだ」


ディーノさんは小さく息を吐くと、自分の武器をしまった。


「逃げるの?」
「そうじゃない。また来るさ。それまで怪我治しとけよ」


ディーノさんはそう言うと、私の方へ歩いて来た。


「そんな・・・・顔すんなよ・・・・」


涙を堪えている私の頭を、ディーノさんは優しく撫でてくれる。
ディーノさんが悪いわけじゃない。見ていたいと言ったのは私の方だ。なのに――――


「帰ろう・・・。そんなんじゃ教室に戻れないだろ」


かすかに足が震えている私を支えてくれる腕が凄く優しくて、また涙が零れそうになる。
ディーノさんに連れられながら、ふと恭弥を見ると冷たい目で私を見ていた。


「恭・・・・弥・・・・」


本当なら駆け寄って恭弥に思い切り抱きついてしまいたい。
もう遊びでも何でも構わないから、時間の許す限り恭弥と一緒にいたい。そう思うのに・・・・
恭弥は視線を外して、私に・・・・背を向けた。









「大丈夫・・・・?」


ディーノさんの問いかけに小さく頷く。
正直、まだ少し震えが止まらないけど、それもきっと見抜かれてるだろう。
恭弥が傷つくのを見ただけで、こんな風になるなんて自分でも正直驚いた。


「どこ・・・・行くんですか?」


少しだけ落ち着いて窓の外を眺めた。
学校を出ると、ディーノさんの部下だという男の人がいて、大きなリムジンに乗せられたのだ。


「夜になったら・・・・ツナ達も帰ってくると思うし、とりあえずそれまでデートでもしない?」
「え・・・・?」


その言葉に驚いて顔を上げると、ディーノさんは優しく微笑んだ。


「ホントはそんな呑気なこと言ってられる状況じゃねぇんだけど・・・・恭弥があんな調子じゃ少し待つしかないしな」
「恭弥は・・・・大丈夫なんですか?」
「ああ。アイツはもっと強くなる。ただ・・・・今日は急すぎて、ちっとばかり力が入りすぎたんだろ」
「私の・・・・せいですよね・・・・。邪魔したから――――」


そう言って顔を上げると、ディーノさんは困ったように笑みを零した。


「アイツ・・・・相当――――」
「え?」
「いや・・・・。何でもない。まあ、次からはちゃんも顔出さない方がいいかもな。アイツの傍にいたいのは分かるけど・・・・」
「はい・・・・。分かってます」


恭弥が私の存在で気が散ると言うなら、もう行かない方がいい。それは今日、2人の戦いを見てて良く分かった。
どんな理由にしろ、私も恭弥が傷ついたり怪我をしたりするところを見てられない。
きっと・・・・行っても、また邪魔をしてしまう。


「よし!んじゃー気晴らしにどっか行くか。――――おい、ロマーリオ。ホテル戻って」


ディーノさんが運転しているロマーリオさんへ声をかけると、彼が怖い顔で振り返った。


「ボス・・・・。真昼間からこんな可愛い子をホテルに連れ込むのか?そりゃ犯罪だぜ?イタリアじゃ良くても日本じゃダメだろ」
「バッ!バカヤロ!!そんなんじゃねぇ!オレが言ってんのはオレ達が泊まってるホテルに行けって言ってんだよっ!」
「あ?だから同じ事だろ?」
「ち・が・う!あのホテルには色々な店があんだろっ?いいから行けよ、早くっ!」
「はいはい。ったく、ボスはガキみてぇにすぐ怒るんだから」
「誰が怒らせてんだっっ!」


呆れたように苦笑するロマーリオさんに、ディーノさんは顔を真っ赤にして怒鳴った。
二人の会話に赤くなっていると、ディーノさんが慌てたように私を見た。


「別にホテルっつっても変な意味じゃないからっ」


なんて言ってくるのがおかしくて、つい笑ってしまった。
会ったばかりの人達とこんな風に笑い会うなんて初めてだ。


沢田くんは・・・・素敵な仲間がいるんだな。
そして今はその中に私が含まれている事が素直に嬉しい。
でも・・・・恭弥がいれば、もっと嬉しいんだけど。


そう思っていると、不意に髪をクシャリと撫でられた。


「心配するなよ。恭弥は・・・・オレに任せておけ」
「はい・・・・」


やっぱりディーノさんは大人だ。
私の考えてる事なんか、すぐに見抜いてしまう。
ディーノさんみたいな人が恋人だったなら・・・・きっと幸せなんだろうな。


ディーノさんの大きな手にホっとしながら、こんな日に一人じゃなくて良かった、と素直に思った。









「あ、あの・・・・おかしくない・・・・ですか?」


そう言って俯いた私を見て、ディーノさんは驚いたように立ち上がった。


「す・・・・っげぇー可愛い!」
「・・・・・ッ!」


そう言いながら急にガバっと抱きついてきたディーノさんにギョっとした。


「あ、わ、悪い!」
「い、いえ・・・・」


真っ赤になった私を見て、ディーノさんは笑いながら頭をかくと、


「でもマジで可愛いぜ。それにして正解だったな」
「けど・・・・こんな高いワンピース・・・・」
「そんな事は気にすんなって!男が女にプレゼントやるなんてオレの国じゃ当たり前だからさ。遠慮されるより喜んでもらった方が何倍も嬉しい」
「はあ・・・・」


さすが女性が大好きな国イタリアから来ただけある、と思いながら、もう一度マジマジと鏡に映る自分を眺める。
先ほど連れてこられた高級ホテルの中にある店で、いきなりディーノさんがワンピースを買ってくれたのだ。


「制服のままじゃ、いくら何でもデートできないだろ?」


なんて言いながら、本人も結構楽しそうだ。
私もこんな風に洋服をプレゼントしてもらったのなんか初めてで、やっぱり女の子として嬉しいし心臓がドキドキする。
ただ値段が恐ろしいくらいの値段で、ホントにもらっていいのか、と振り返れば、ディーノさんはすでに会計を済ませて戻ってきてしまった。


「さあ、どこ行く?って、もう夕方だし・・・・食事でもしようか」
「え・・・・食事?」
「うん。ちゃんもせっかく可愛い格好してるんだし・・・・ここの最上階でディナーかな」
「え、ええっ?さ、最上階って・・・・」


(確か高級レストランしかなかったはず・・・・)


そう思っている私をよそに、ディーノさんは私の肩を抱いて歩き出した。


「さて、と。レストランでディナーとくれば、さすがにオレもこの格好じゃ何だし・・・・。着替えるから一度部屋に戻ってもいいかな」
「え?あ、は、はい」
「食い終わる頃にはツナ達も修行から帰ってきてるだろ」


そう言いながらエレベーターに乗り込む。

(そう言えばここ・・・・前に恭弥と弥生さんが家族と食事をしてたホテルだったっけ・・・・)

ふと、バッタリ会ってしまった時の事を思い出す。
それと同時に襲ってくる胸の痛みに、慌てて恭弥の影を振り払った。











とディーノが去っていく後姿が、頭から離れない――――


「どうしたの?イライラしてるわね」


家に戻り、制服も脱がないままベッドへダイヴをした瞬間、弥生の声が聞こえた。


「何・・・・?また勝手に入って来たの」
「勝手に、じゃないわ。恭弥が戻ったのが見えて来てみたら、お手伝いさんが通してくれたの」
「言っとくけど・・・・今の僕は機嫌が悪いし何するか分からないよ?」
「いいわよ?恭弥になら何されても」


そう言いながら近づいてくる弥生の腕を引っ張り、ベッドへ押し倒す。
それでも弥生は余裕の笑みを浮かべて、「強引な恭弥も好きよ」と微笑んだ。


「あら・・・・。この傷・・・・どうしたの?」
「・・・・・・っ」


先ほどの戦いでつけられた唇の傷に気づき、弥生はそっと指でなぞった。


「珍しいわね。恭弥が傷を作って帰ってくるなんて」
「大した傷じゃない。舐めとけば治るよ」
「じゃあ・・・・私が舐めてあげる」


弥生はそう言って妖しい笑みを浮かべると、舌先を出して傷口をぺロリと舐めた。
その甘い刺激に応えるようにゾクリと体が疼く。
イライラの熱を消すように誘われるまま弥生の唇に唇を寄せると、不意に彼女の指がそれを静止した。


「何?」
「嬉しいけど・・・・私お腹空いてるの。一緒に食事に行かない?」
「食事・・・・?」
「ええ。久しぶりに二人で食事したくて、いつものホテルに部屋を予約してあるの」
「・・・・・・」


その言葉にゆっくり体を起こすと、背中に弥生が抱きついてきた。


「たまには二人で食事して部屋で・・・・っていうのもいいでしょ?気分も変わるし」
「いいけど・・・・お腹を満たしたらその気にならないかもしれないよ」


そう言って笑うと、弥生は嬉しそうに立ち上がった。


「・・・・その気にさせるわよ。早く着替えて行きましょ?」
「たいそうな自信だね」


彼女に引っ張られるまま立ち上がると、弥生は軽くキスをして微笑んだ。


「今日の恭弥はどこか、触れたら切れそうね。こういう時の恭弥は・・・・欲しがってるって分かるもの」


何かあった?と何もかも見透かすような笑みを浮かべる弥生を無視して、そのまま着替える。
自分から手放した想いなのに、突然現れた男の存在でこれほど心がざわつくなんて情けない。
こんな事、想像出来たはずなんだ。
このまま日々を過ごし、時がたてば、また彼女は新しい恋をする。
それでも僕は同じ場所で動けないまま、その姿を見ているしかない、という事も――嫌と言うほど分かってる。


「行きましょ、恭弥。嫌な事なんか忘れさせてあげる」


妖しく絡みつく彼女の腕を感じながら、これが現在の僕であり、未来の僕なんだ、という事を改めて実感させられた。









「わ・・・・。カッコいい・・・・」


部屋に戻り、スーツに着替えたディーノさんを見て思わず口にすると、ディーノさんは照れ臭そうに笑った。


「こんな格好、公の場くらいしかしないしなぁ」
「そうなんですか?」
「ああ、あんま堅苦しいの嫌いでさ」


そう言って笑うけど、今のディーノさんは凄く大人びて見える。
普段は革ジャンにジーンズといったカジュアルな格好だから分かりづらいけど、やっぱりこうして見るとマフィアのボスと言われても不思議はないくらい威厳があるしホントにカッコいい。


「デートの時とか・・・・着ないんですか?」
「あーそういや、あんま着ないかな?デートって言っても結構アウトドアが好きで、高級ホテルでデートなんか殆どしなかったから」
「そうなんですか?ディーノさんなら大人デートとか凄くしてそうに見えるのに・・・・」


そう言って笑うと、ディーノさんは小さく噴出した。


「マジ?オレって気取ったデートとかしてそう?」
「気取ってるかは分からないですけど・・・・。こんなホテルで食事とか・・・・バーでカクテル飲んだりとか」
「あははっ。それオレの部下が聞いたら大笑いするよ」
「え、どうしてですか?」
「まあ・・・・普段のオレを知ってるし。だいたいそんなデートすら出来ないから前の恋人にも振られたしね」


苦笑しつつ肩を竦めるディーノさんに、ちょっと驚いた。


「振られたって・・・・ディーノさんが?」
「まあ、だいたい振られるのはオレだな・・・・」


そう言って少しだけ肩を落とすディーノさんは可愛い。
でもこんなカッコいい人を振るなんて、よっぽど凄い美女と付き合ってたのかなと疑問に思う。


「何だか・・・・信じられません。ディーノさんを振る人がいるなんて」
「嬉しいこと言ってくれるねえ・・・・。ちゃんは優しいよ、ホント」
「だって・・・・ディーノさん、こんなにカッコいいのに・・・・」


素直に思ったことを口にすると、今まで笑ってたディーノさんが、ふと私を見た。


「じゃあ・・・・オレが本気で口説いたらちゃん、オレのもんになってくれる?」
「・・・・へ?」


いきなりそんな事を言われてドキっとした。
軽い冗談かと思ったのに、ディーノさんの顔はさっきよりも真剣で、鼓動がだんだん早くなってくる。


「そ、そんなこと言ってからかわないで下さい・・・・。私みたいな子供がディーノさんに釣り合うはずないし」
「そんな事ないよ。それに・・・・ちゃんは子供じゃないし、でも変に汚れてもいない。凄く魅力的な子だなって思うけど」
「・・・・・・っ」


自分でも顔が赤くなっていくのが分かった。
サラリとそんな言葉を口に出来るディーノさんはやっぱり大人だって思う。


「・・・・会ったばかりで・・・・分かるんですか?」
「まあ伊達に歳は取ってないし、色々な女を見てきたわけじゃないからね。ちゃんはもっといい女になると思うんだ」
「い、いい女って・・・・」
「まあでも・・・・それを他の男に託すんじゃなくて、オレがそうしてあげたいって言ったら・・・・迷惑か」


そう言うとディーノさんは私の頭を軽く撫でた。


「ツライくせに・・・・頑張ってるちゃん見てて、何だかほだされたかな・・・・」
「・・・・え?」
「無理して笑う事ないし強がる事もないよ。オレの前では・・・・自然な君でいてくれていいから」


優しい瞳で見つめてくるディーノさんにドキドキが止まらない。
こんな風に言ってくれる大人なんて、今までいなかったから。
両親があんなだったから、いつも言いたい事を我慢して、見てみぬフリをしてきた。
だから寂しくない、と強がる事を覚えた。
一人でも平気だって、意地を張る事でしか、自分の寂しさを埋められなかった。


「さてっと。腹減ったしレストラン行こっか」
「あ・・・・待って下さい」


明るく言ったディーノさんを見て、ふと怪我の手当てをしてない事に気づいた。


「レストラン行く前に・・・・それ手当てしないと」
「え?ああ・・・・。でも大した事ないし――――」
「ダメです。額が切れてるんですから」


そう言って広すぎるほどの部屋を探すと、高価そうな棚の中に救急セットが置いてあった。


「ここに座ってください」
「え、ちょ、ちょっと――――」


私の行動にキョトンとしてるディーノさんを無理やりソファに座らせると、消毒液を脱脂綿に湿らせて切れてる傷口にそっと当てた。


「・・・・ぃてっ」
「あ、動いちゃダメ!」
「だって沁みるよ、それ〜」


そう言いながらディーノさんが子供みたいに情けない顔を見せるから、つい噴出してしまった。


「大人なんだから我慢して下さい」
「あれ、言われちゃったよ・・・・。部下にもいっつも言われるんだよなぁ・・・・。ボスはヤンチャな子供だって・・・・」
「ええ?ヤンチャなんですか?」


クスクス笑いながら傷の手当てをしていると、ディーノさんは少しスネたように唇を尖らせた。


「まあ、そんな理由でも振られた事あるしね・・・・」
「あはは・・・・!でも私は子供みたいなディーノさんも素敵だと思いますけど。――――はい、出来た」


消毒を終えると、薬をしまって顔を上げる。
その時、不意に抱き寄せられて鼓動が跳ねた。


「ちょ・・・・」
「あんま優しくされると・・・・マジで惚れちゃうよ」
「・・・・・っ?」
「・・・・なんて・・・・。ちょっと強引か」


そう言ってすぐに離してくれると、ディーノさんは優しく微笑んだ。


「オレ、いっつも望みないような子に惚れちゃう傾向があるんだよね」
「ディーノさん・・・・?」
「まあ、ちゃんが恭弥にまだ惚れてるのは分かってるけど・・・・そういう時の女の子って一番綺麗なんだよなぁ」


だからって惚れっぽいわけじゃないから誤解すんなよ、と言ってディーノさんは照れ臭そうに笑った。
こんな素敵な人からこんな事を言われたら、誰だって好きになっちゃうんじゃないかな、って素直に思う。


「きっと・・・・ディーノさんを振った女性は・・・・ディーノさんの本当の姿を見てなかったんだと思います」
「・・・・え?」
「だからそんな人のせいで傷つく必要もないし・・・・落ち込むこともないと思う」
ちゃん・・・・」


だから・・・・私も傷つかなくていいのかもしれない。
恭弥だって私の事を分かってたなんて言えないんだから。


「・・・・なんて。私も何だかディーノさんと話してたら元気出てきました」
「・・・・そっか。なら良かった。じゃあ・・・・元気に食事でも行きますか」
「はい」


言って立ち上がると、ディーノさんの後ろからついていった。
が、ディーノさんはドアの前で、ふと立ち止まると、


「そう言えば・・・・あんな風に言ってくれた女ってオレの周りにはいなかったかな・・・・」
「え・・・・?」
「やっぱちゃんはいい女になるよ。オレが保証する」


そう言ってドアを開けると、ディーノさんは不意に振り向き、私の額に軽く口付けた。


「・・・・・・ッ」
「お、真っ赤になった・・・・。可愛いなー♪」
「だ、だから、からかわないで下さい――――」


恥ずかしくてディーノさんの背中を軽く叩きながら廊下に出た時、思わず息を呑んだ。


「・・・・恭・・・・弥?」


廊下には、弥生さんと腕を組んで向かいの部屋に入ろうとしている恭弥が、驚いたように立っていた――――。












バサッとジャケットを投げ捨てネクタイを緩めると、ソファに深く腰をかける。
そんな僕を見て、弥生は大きな溜息をついた。


「そんなにショック?あの子が他の男とホテルにいたのが」
「・・・・うるさいな。そんな事ないよ」
「じゃあ、どうしてさっき以上に機嫌が悪くなるわけ?」
「・・・・・・」


無言のまま弥生を睨むと、彼女は呆れたように肩を竦めた。


「まあ、いいわ。せっかく部屋で食事を、と思ったけど、そんな気にならないなら――――きゃ・・・・っ」


背中を向けた弥生の腕を強引に引っ張りソファの上に押し倒す。
体中の熱が体内で渦を巻くように暴れているのを感じながら、最初から深いキスを仕掛けた。


「・・・・ん、ふ・・・・」


弥生の口から苦しげな声が洩れてくる。
片手で彼女の体を組み敷くように押さえつけながら、胸元の開いたドレスの裾を捲り上げた。


「ちょ・・・・!恭・・・・弥・・・・っ」


太腿を撫でながら中心部まで辿り着くと下着の中へ無理やり指を入れる。
その瞬間、弥生の体がビクンと大きく跳ね上がった。


「ゃ・・・・んっ恭・・・・弥っ」
「へぇ、もう濡れてる。弥生、そんなに僕としたかったの?」
「な・・・・何なの?こんな乱暴なの嫌――――」
「・・・・さっき・・・・こういう僕も好きだって言ってなかった?散々誘ってきておいて今更おかしなこと言うね」


彼女の中を指でかき回しながら耳朶を舌先でなぞると、更に甘い声を上げて背中をのけぞらせる弥生を冷めた目で見下ろした。
体よりも何よりも、頭の芯が熱い。さっきの光景が頭から離れない。

目の前のドアが開いて、かすかに彼女の声が聞こえた時、聞き間違えたんだと思った。
ふと顔を上げて視界に飛び込んできたのは――――あの男がの額にキスをしている光景と、真っ赤になっている彼女の姿。

幾度となく、僕に見せてくれた、あの照れたような笑顔だった。


何でがあの男とホテルに?
どうしてあの男に肩を抱かれて僕の前から逃げるように去った?
いつからあの二人はあんな関係だったんだ――――?


同じ疑問がぐるぐると回った。
そのたびに熱が渦を巻いて、体を燃やし尽くしそうなほどの感情が込み上げてくる。
あの男に抱かれているの姿を想像するたびに、胸の奥が軋むような悲鳴を上げた。


「ぁ・・・・っん」


前戯もそこそこに目の前の弥生を貫く。そのまま激しく揺さぶると彼女の顔が苦痛に歪んだ。
それでも体は正直で――――。
殆ど慣らしてもいないと言うのに僕の動きに合わせて腰を揺らしてくる弥生は、今の僕にはただのセックスの相手としか思えない
愛とか恋とか、そんなもの僕らの間には存在しない。吐き出したい欲だけを吐き出す、都合のいい相手だ。


そんな事、今更気づいて後悔してもどうにもならないのは分かっているのに――――何度後悔したら気が済むんだ。


「・・・・恭・・・・弥・・・・ぁ・・・・あっ」
「・・・・嫌がってたわりには・・・・感じてるみたいだね」
「ん・・・・ぅ・・・・い、意地悪っ」


甘い吐息を吐きながら、弥生はもっともっとと言うように腰を揺らし、貪欲に僕を求めてくる。
ドレスを着たまま、僕の下で喘ぎ声を上げてる彼女が、何だか滑稽に思えた。
そして冷めた気持ちのまま、無理やり女を抱いてる自分自身さえ、汚らしい、と嫌気がさす。
なのに行為を止められないのは・・・・脳裏に浮かぶの乱れた姿のせいだ。


"恭弥!明日・・・・また行くからな"


すれ違いざま、そう言って肩を叩いていったあの男を、本当はあの場で咬み殺したかった――――。

に触れていた、あの男を。

明日あいつの顔を見た時、僕はどうするんだろう。

頭の隅でそんな事を考えながら、ポッカリと空いた穴を塞ぐように目の前の弥生を激しく攻め続けた。











カタン・・・・とフォークを置く音に、ハッと顔を上げた。
ディーノさんは心配そうな顔で私を見つめていて、胸の奥がチクっと痛む。


「やっぱり・・・・気になる?」
「・・・・・・」


その問いに無言のまま首を振ると、ディーノさんはふっと笑みを零した。


「言っただろ?オレの前では自然でいいって。気になるなら今から恭弥達の部屋に行って、ドアぶっ壊してやろうか?」
「い、いい・・・・です。ホント・・・・もういいんです」
「・・・・でも――――」
「あの二人の事は知ってたし・・・・今さら驚きませんから」


そう言いながら、どこか遠くで聞えてくるほど弱い自分の声に、内心苦笑した。


「でも・・・・アイツ、変に誤解したかもしれないぜ?それでもいいのか?」
「いいも何も・・・・私が違うといったところで、恭弥だって気にしてもいないと思うから」


そう言って笑顔を見せると、ディーノさんも微笑み返してくれた。
彼の優しさが今の私を救ってくれている。

本当は・・・・ディーノさんの言うように気にしてるクセに・・・・。
でもさっきの私を見る恭弥の冷たい目に、何も言えなくなった。

きっと恭弥は私とディーノさんの事を誤解してる。
そんな目つきだったし、私も逃げるように二人の前から去ったから、弥生さんだってそう思ってるに違いない。
だけど・・・・違うと言いに行ったとして、恭弥からどうでもいいと言われるのが怖かった。

一緒にいる二人を・・・・抱き会ってる二人を・・・・見たくなんかない――――。



「・・・・泣くなよ」


ディーノさんの言葉に胸がチクリと痛む。
それでも笑顔を見せると、ディーノさんはそれ以上、何も言わず、ただ優しく微笑むだけ。だから私は――――









泣かない代わり、強く噛み締めた










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まーだ絡みナシですね;
でも次回から少し動くかもー☆


いつも励みになるコメントをありがとう御座います!
投票処のコメントはWEB拍手に頂く感想と同じくらい楽しみに拝見させて頂いてますよー(>д<)/






●雲雀さんがかっこよすぎてどうしような勢いです!
(ひゃー雲雀、カッコいいなんて嬉しいです!私がどうしような勢いです(*ノωノ)


●ここの雲雀様素敵すぎです!!かっこいいです!!///甘くて、切なく、展開がとても楽しみです!
(当サイトの雲雀が素敵&カッコいいなんて感激しちゃいますー(TДT)ノ今後も甘く切なく頑張ります!)


●展開がとても面白いです。雲雀夢なんですがディーノさんも好きな私はちょっとキュン(…)
(展開が面白いなんて嬉しいです〜!私もディーノさん好きなので今後も絡めていきたいですね(´¬`*)〜*