泣いてる私を、ディーノさんはいつまでも抱きしめていてくれた――――。




「・・・・落ち着いた?」


優しく微笑んでくるディーノさんに、小さく頷いた。
背中に回された腕がやけに熱くて、気持ちが落ち着いてくると同時に鼓動が早くなっていく。
恭弥のものとは違う、男の人の香りが何となく恥ずかしくて。
私はなかなか顔を上げられないでいた。
その時、ちゅっという音と共に額に暖かいものが触れて、心臓がドクンっと跳ね上がる。


「・・・・ホントに・・・・忘れたい?」
「・・・・え?」


不意に呟かれた言葉に思わず顔を上げると、目の前にはディーノさんの真剣な瞳がある。
至近距離で目が合い、頬が一瞬で熱くなった。


「忘れたい?」


静かに、もう一度口を開くディーノさんの優しい声に、私はもう迷う事はなかった。


「わ、忘れたい・・・・」
「そっか・・・・」


ディーノさんはそう呟くとぎゅっと私を抱きしめた。
その腕の強さにドキドキが加速していく。


「それが本心なら・・・・オレはもう遠慮しないけど」
「・・・・っ?」


その言葉にドキっとすると、ディーノさんは優しい声で「それでもいい?」と呟いた。
返事の代わりに彼の胸に顔を埋める。その瞬間、体が離れ、顎を掬い上げられた。
その行為が、これから起こる事を予感させる。


「ディ、ディーノさん・・・・?」
「・・・・言ったろ」


いつもよりも少し掠れた声で囁くと、彼は真剣な眼差しで私を見つめた。


「もう遠慮はしない・・・・ってさ」


その言葉と同時に、ゆっくりと顔が近づいてきて思わずギュっと目を瞑る。


「・・・・好きだよ」
「・・・・・っ」


その静かな告白に驚いて目を開けた時、ディーノさんは頬を傾け、触れるだけのキスを唇に落とした。
そして僅かに離すと目を伏せたまま、確認するようにもう一度、ゆっくりと唇を重ねる。
私を気遣うような優しいキスに、鼓動がどんどん加速していく。


「好きだ・・・・」


触れ合うたび紡がれる想いに、全身の力が抜けそうになる。
重ねるだけの優しい、キス――――。
恭弥の荒々しい、何もかも奪うようなキスとは全然違う。


「・・・・っ」


一瞬、脳裏に恭弥の顔が浮かび、しがみ付く手に力が入る。
それを感じたのか、ふっと唇が離れた。


「・・・・ごめん。嫌だった?」


私の頬にそっと手を添えて、困ったような顔をするディーノさんに思わず顔が赤くなった。
小さく首を振ると、彼はホっとしたように微笑み、そのままぎゅっと抱きしめてくれる。


「・・・・良かったぁ」
「ん、ディ、ディーノ・・・・さん?」


私の首筋に顔を埋め、耳朶にちゅっとキスをするディーノさんにドキっとした。
それでも彼はそのまま頬や唇の端にも触れるだけのキスをしてくる。
その行為に真っ赤になった私を見て、ディーノさんはふと顔を上げた。


、可愛い」


そう言って微笑むと、私の髪をそっと手ではらい、露になった首筋にもちゅっとキスをする。
その感触にビクっと体が震えた。


「あ、あの」
「・・・・ん?」
「は、恥ずかしい・・・・んですけど」
「ぷ・・・・そういうとこ、可愛いんだって」
「・・・・ぇ?」
「そんなこと言われたら、逆に煽られる」
「・・・・なっ」


固まっている私の耳元でディーノさんはそう呟くと、再び唇、そして顎へと唇で触れてくる。
そのまま何度も首筋にキスを落とし、髪を持ち上げ項にもキスをするディーノさんに、体全体が熱くなっていった。
壊れものを扱うかのように抱きしめてくれる腕に、次第と力も抜けていく。
キスが落ちてくる場所も熱を帯びて、抵抗する気力もない。


「・・・・ん、」


されるがままになっていると、再び唇が重ねられピクっと体が跳ねた。
何度も角度を変えて触れてくる口付けに、自然と反応してしまう。
その時、僅かに唇が離れ、至近距離で見つめられた。


「ヤバイって」
「・・・・?」


ディーノさんの頬がかすかに上気してるのが分かる。
彼は視線を外して私の濡れた目じりに口づけると、


「そんな反応されたら、ここで押し倒したくなるし」
「・・・・・っ」


その言葉に驚いて僅かに離れると、ディーノさんは困ったように微笑んだ。


「・・・・オレも一応、男だからさ」
「ディ、ディーノさん・・・・?」


その言葉に体が固まる。確かにリビングから一番遠いこの部屋には私とディーノさんしかいなくて。
体もこんなに密着していれば、男の人ならそういう欲求も出てくるって、経験がない私でも分かる。分かるけど・・・・。

少し不安げな顔をしてたのか、ディーノさんは私の頬にちゅっとキスをすると苦笑いを零した。


「うっそ。冗談だよ」
「・・・・え?」
「まあ・・・・半分本気だったけど。でもオレ、そんな急がないからさ」
「ディーノさん・・・・」


明るい笑顔でそう言うと、ディーノさんはもう一度私を抱きしめてくれた。


「今、すっげー嬉しいから・・・・これだけで十分」
「あ、あの」


そのストレートな言葉に顔が赤くなると、彼は、「でも・・・・」と小さく呟いた。


「もう一回・・・・キスしていい?」
「――――ッ」


耳元で言われて、顔から火が出るかと思ったほどに熱くなる。
すると返事も待たず、ディーノさんはゆっくりと体を放し私を見つめた。


「・・・・だから、そういう顔すんなって。お前、可愛すぎ」


苦笑交じりで呟くディーノさんを僅かに見上げると、今度は少し押し付けるようにキスをされた。
さっきとは違う啄ばむようなキスに、小さな水音が洩れて、羞恥心が込み上げてくる。
それでもディーノさんの胸元を強く掴むと、ゆっくりと唇が離れていった。


「オレ・・・・大事にするから」
「・・・・え?」
のこと・・・・泣かせたりしないよ」
「ディーノさん・・・・」


真剣な彼の言葉が胸に沁みる。乾いたままの心に水を与えてくれる。


「だからオレのこと・・・・ちゃんと好きになれよ?」


そう言って少しだけ寂しそうな笑みを浮かべたディーノさんは、最後にもう一度、優しいキスをくれた。











「――――どこ行くの?」
「・・・・・・」

バスルームから出ると、そこには弥生が怖い顔で立っていた。


「また勝手に入ったの」
「いいでしょ?婚約者なんだから。それより・・・・その怪我、どうしたのよ」
「別に。いつもの事だろ」


バスタオルで濡れた髪を拭いて、それをソファへと放り投げる。
そのままクローゼットを開けて制服を出していると、弥生が僕の腕を引っ張った。


「いつもはこんな怪我なんかする人じゃないでしょ」
「・・・・ちょっと手強い相手なんだ」


それだけ言って彼女の腕を振り払う。すると弥生は軽く唇を噛んで、僕を睨んだ。


「あの金髪の人・・・・?」
「・・・・・」
「最近、何度か見かけてるの。あの人なんじゃないの?休んでる時、恭弥のこと探してたって聞いたわ」
「だったら何?別に彼と浮気なんかしてないけど」


そう言ってクスっと笑う。
弥生はカッとした顔で、「ふざけないでっ」と怒鳴った。
朝からヒステリーなんて勘弁して欲しい。


「あの男の人、あの子の新しい彼氏でしょ?この前、携帯の写真で見た人だわ」
「・・・・そうみたいだね」
「あの後、一人で帰ったけど・・・・恭弥、彼のところに行ったの?」
「別に・・・・。飽きただけ」
「嘘!あの人とケンカなんて・・・・まさかあの子が原因・・・・?」
「・・・・違うよ」
「じゃあ何であの男と――――」
「弥生には関係ない。邪魔しないでくれる?」


言い捨ててバスローブを脱ぐと制服に着替える。
そんな僕を弥生は黙って見ていた。

別に彼女が悪いわけじゃない。
ただ・・・・ほんの少し、自分の置かれた立場が嫌になっただけ。
自分の思うように生きてみたくなっただけ。
そのキッカケを作ってくれたのは、今思えばだったんだ。
彼女に惹かれてく自分を止める事が出来なかった。
いつもの、気まぐれだったはずなのに――――。


「恭弥・・・・変わったわ」


弥生はそう言うと、ネクタイを締めている僕の前に立った。
そしてネクタイに手をかけると、それをバランスよく締めてくれる。


「首、絞められるかと思った」


笑いながらそう言うと、弥生は呆れたように顔を上げた。


「絞めて・・・・やりたいわよ。でもそんな事したって恭弥の心は私のものにならないでしょ?」
「もともと僕の心なんかどうでもいいんだろ?将来、僕らが結婚して、うちの会社と弥生んちの会社が合併すればいいだけだしね」
「本気で・・・・言ってるの?」
「弥生だってそう言ってたじゃないか。僕との婚約が決まった時。弥生が僕に執着するのは将来の夢があるからだろ」


合併となれば自分達が大人になった時、会社を更に伸ばす事が出来る。
確かに魅力的な話だったけど、見えもしない未来の為に今を犠牲にするなんて、やっぱりおかしかったんだ。


「恭弥は何も分かってない・・・・」
「・・・・何がだよ」
「私は!私は・・・・恭弥のこと・・・・好きなのよ・・・・?」


弥生の言葉に驚いて顔を上げると、彼女の瞳から涙が溢れてきた。


「会社のせいにしたのは・・・・大好きだった恭弥に重たいって思われたくなかったから・・・・」


だから婚約した時も何でもないフリをした。
私が一番に望んでたのは恭弥との結婚だと、悟られたくなかった、と弥生は言った。


「一人で夢を叶えたって・・・・意味がないの・・・。諦めて流されて・・・・婚約をOKした恭弥とは違う・・・・っ!」
「僕は・・・・」


(僕は?何のために彼女と・・・・)


目の前で涙を零す弥生を見る。こんな彼女は初めて見た。

前の僕は・・・・何にも興味がなかった。
目の前に用意されたものに、ただ流されてただけだ。家のことも・・・・弥生の事も・・・・。
考える前から、答えは出ていた。


「僕は・・・・弥生の望むものを・・・・与えてやれない」


を想うように弥生を想えない。
それは出す前から分かっていた答え。
そして弥生も全てを理解してたかのように微笑んだ。


「知ってたわ・・・・。そんなの、随分と前から」
「・・・・ごめん」
「いいの。私も分かってて無理やり恭弥の人生をもらおうとしてたんだから。でも・・・・最近の恭弥を見てて、ふと空しくなったの・・・・」


そう言って弥生は涙を拭いた。


「お父様達には・・・・私から話しておく」
「・・・・え?」


その言葉に眉を寄せると、彼女はスッキリしたように笑った。


「私は結婚できればいい、なんて、そんな浅ましい女じゃないの。私に気持ちのない男と結婚したっていつか破たんする」


それくらい分かってたのにね、と弥生は微笑んだ。


「婚約・・・・解消しましょう、恭弥」


凛とした表情でそう言った弥生は、とても清々しい顔をしていた――――。











「え、出かけた?」
「ええ、約束があるんですって」

そう言って微笑むと、沢田くんのお母さんはキッチンに歩いていった。


「何だ・・・・。もう行っちゃったんだ」


夕べ、ディーノさんは沢田くんの家に泊まって行ったけど(もちろん部屋は別々)朝、起きたら、すでに皆と一緒に出かけた後のようだった。
きっと約束というのは恭弥のことだろう。今日も二人で修行するに違いない。
昨日の今日で、何となく顔を合わすのが照れ臭かったけど、いないとなると少しだけ寂しく感じた。
それって私はディーノさんの事を、ちゃんと好きだという事だろうか。

(でも・・・・私はきっとディーノさんの事を好きになれる)

昨日の彼の言葉を思い出し、そんな予感がしていた。




「ただいまぁ〜」

その日、沢田くんは獄寺くん、山本くんと一緒に帰ってきた。
三人とも制服を着てるとこを見れば、学校へ行ってたようだ。


「ちょっと・・・・。何で私だけ家でお留守番なの?」


欠伸をしながら上がってきた獄寺くんに訪ねると、彼は困ったように頭をかいた。


「いや、リボーンさんとか跳ね馬が心配してっからさ・・・・」

(――――"跳ね馬"とはディーノさんの通り名らしい)(※獄寺くんが前に教えてくれた)

「だ、だからって何で――――」
「だってお前、ヴァリアーに姿見られてんだろ?」
「山本くん・・・・」


後ろから山本くんが歩いて来て、私の頭にポンと手を乗せた。


「だから念のためって事だよ。リング争奪戦が終わるまでの辛抱だ」
「そんな・・・・。これ以上休んでたら変に思われるよ」
「まあ、そうだけど・・・・」
「それに私なんかが狙われるわけないじゃない。あんな殺し屋軍団に」


そう言って唇を尖らせると、山本くんは苦笑しながら肩を竦めた。


「ま、そうかもしれないけどさ。だったらリボーンかディーノさんに相談してみろよ」
「そうしたいけど・・・・ディーノさんは遅いだろうし――――」


「オレが何だって?」


「「「「あ・・・・」」」」


そこに、ひょいっと顔を出したディーノさんに私は驚いた。


「ディーノさん?もう終わったの・・・・?」
「ああ・・・・って言うかアイツ、今日は顔出さなかったんだ」
「・・・・え?」


その言葉に驚いていると、獄寺くんが思い出したように口を開いた。


「そう言えば今日、ヒバリの姿見てねえな」
「ああ・・・・そう言えばオレも見てねーよ」


山本くんもそう言って頷いた。
ディーノさんは困ったように笑うと、「まーた気まぐれでも出たかな・・・・」と息をつく。


「で、でも・・・・もう争奪戦は明後日の夜からなんでしょ?間に合うの?」
「そうだな・・・・」


私の問いにディーノさんは言葉を濁した。内心きっと焦ってるんだろう、と分かる。


「今回は・・・・ちゃんと協力してくれると思ってたんだけど・・・・」
「ディーノさん・・・・」
「ま、考え込んでも仕方ないし・・・・。明日もう一度、待っててみるよ」


だから心配すんな、と優しく頭を撫でてくれる。そんな私達を見て、獄寺くんはニヤリと笑った。


「最近、二人、仲いいな」
「「えっ?」」
「そういや・・・・。よく一緒にいるよな」


山本くんまでがそんな事を言い出し、私とディーノさんはかすかに顔が赤くなった。


「あれれ〜?二人して赤くなったぜ」
「ご、獄寺くんっ」
「関係ねーだろ。ヒバリの事もあったし、彼女には色々と協力してもらってただけで――――」
「「へぇ〜」」
「ぐ・・・・」


二人は怪しい、と言いたそうに目を細めている。そんな視線に耐えられなくなったのか、ディーノさんは軽く咳払いをして、


「オレ、明日も早いし・・・・今日は帰るよ」
「・・・・え?」


ディーノさんはそう言いながら私に微笑んだ。
てっきり今日も泊まっていくものかと思っていたので驚いていると、


「じゃ・・・・明日の朝、また来るよ」


と言って、外へと出て行く。
私が呆気にとられていると、獄寺くんと山本くんは、「ちーっす」と挨拶して、まだニヤニヤしている。


「な、何よ・・・・」
「別にぃ♪」
「いや何か、表情が明るくなったなーって思ってさ。ディーノさんのおかげかもな」
「――――ッ」
「おい、山本っ」


獄寺くんが誤魔化したのに対し、山本くんは思ったことを素直に口にした。
そのせいでドキっとしてると、山本くんはニッと笑って私の髪をクシャクシャっと撫でる。


「オレはお前が誰を好きでも・・・・元気ならそれで嬉しいんだ」
「・・・・え?」
「獄寺もそう思うだろ?」


山本くんが振り返ると、獄寺くんもニカッと笑って片手を上げた。


「ほら、追いかけろよ」
「え・・・・」
「え、じゃなくて!どうせディーノさん、照れ臭いから帰っただけだぜ?」
「そーそー。オレらに遠慮して、ホントはの傍にいたいクセになー」


山本くん、獄寺くんの言葉に顔が赤くなった。
そんな私の背中を二人は押して、


「早く追いかけて、お休みくらい言って来いよ」
「何なら泊まってけば?って誘って来いっ」
「ちょ、何言って――――ここは沢田くんちなのに」


グイグイと押され外に出されると、私は二人の方に振り向いた。
そんな私に山本くんはニヤリと笑って、


「ディーノさんはツナの兄貴分なんだしいいんじゃね?」
「まあオレはちょっと気に入らないけどよ〜」 (※年上は全員、敵とみなす奴)


獄寺くんはそう言いながらも何だか楽しそうだ。


「ほら、早く行けよ」
「う、うん・・・・」
「んじゃあオレらは十代目とディナーっちゅう事で、ちゃおー♪」
「・・・・・・」


にこやかに手を振る獄寺くんと山本くんに、思わず目が細くなる。(何がチャオだ!)
それでも二人が家の中に入ったのを確認すると、急いでディーノさんの後を追いかけた。
少し走っていくと信号待ちをしている黒塗りのベンツが見えて、慌てて携帯を鳴らす。


『はい?』


ワンコールでディーノさんが出て、思わず足を止める。


「あ、あの」
『ああ、やっぱだ』


受話器の向こうからディーノさんの嬉しそうな声が聞こえてきた。
ワンコールで出たのは、私からの電話を待ってたから?


『ごめんな〜。アイツら、やたら勘が良くて嫌になるよ』
「い、いえ・・・・。あの――――」
『ん?』


優しく聞き返してくる声に、トクンと鼓動が鳴った。


「後ろ・・・・見てください」
『え、後ろ・・・・?』


そう言った瞬間、信号が青に変わり車が動き出す。
でも少し行ったところでキキッとブレーキを踏む音が聞こえ、ベンツが急停車した。
そこから慌ててディーノさんが降りてくる。


!」


笑顔で手を振る彼に私も手を振りかえし、携帯を切った。
少し息を切らして走ってきたディーノさんは、交差点だと言うのにその勢いのまま私を抱きしめる。
彼の体の重みで後ろにのけぞる私を強引に引き寄せると、すぐに首の後ろに腕が回され、自然と顔が上がった。


「あ、あの、ん、」


抱きすくめられるようにして上を向かされた瞬間、唇と唇が重なり心臓が跳ね上がる。
でもそれは一瞬ですぐに離れると、ディーノさんは優しい笑みを浮かべた。


「はぁ〜。今日はもう、こんなこと出来ないかと思った」
「・・・・え、」


その言葉に真っ赤になると、ディーノさんは優しい笑みを浮かべながら額にもちゅっと口づける。
そして私の手を繋ぎ、「ツナんちまで送る」と言って歩き出した。


「え、送るって、でも――――」


私が見送りに来たのに、と思いながらも振り返る。
するとベンツはすでに道路の端に寄せられていた。


「ああ、ロマーリオなら待っててくれるし大丈夫だよ」
「っていうか・・・・私が見送りに来たのに・・・・」


そう言って見上げると、ディーノさんは嬉しそうな顔をした。


「そっか。でも、もう少しといたいし・・・・送らせてよ。まあ、5分もないけどさ」


そう言って頭を撫でてくれるディーノさんに、素直に頷いた。
彼の言葉一つ一つが私の心を温めてくれる。


「アイツら、何か言ってた?」


手を繋ぎながら歩いていると、不意にディーノさんが聞いてきた。
やっぱり気になるのか、と思いながらも、さり気なく繋がれた手に気持ちがいってドキドキしてしまう。
男の人とこんな風に手を繋いで歩くなんて、今までした事がない。


「あ・・・・あの・・・・追いかけろって・・・・」
「はあ・・・・。やっぱバレバレかよ。ったくカッコ悪りぃー」


そう言いながら空いてる手でガシガシと頭をかいている。
子供みたいに困ってる顔が可愛くて、思わず噴出してしまった。


「あ、まで笑ってるし!」
「ご、ごめんなさい・・・・」
「まあ、は可愛いから許す」
「・・・・・・っ」


その言葉に赤くなると、ディーノさんはクックと肩を揺らしながら笑っている。


「な、何ですか・・・・?」
「い、いや、ホント・・・・。可愛いなあってシミジミ思ったっつーか」
「だ、だから・・・・そういうの何て返していいか分からない・・・・」


そう言って俯くと、ディーノさんがまた笑った。


「オレは素直に思ったことを言ってるだけなんだけど・・・・。まあ、後はそうやって照れるが可愛いから、わざと言っちゃうのもあるけどさ」
「わ、わざとって・・・・」
「オレさー。くらい歳の離れた子と付き合った事ないし・・・・何か凄く新鮮なんだ。すげー可愛くてどう扱っていいか困るし」
「・・・・え」
「きっと獄寺とかには犯罪者扱いされてそうだな」
「そ、そんな事・・・・」


苦笑するディーノさんに慌ててそう言うと、彼は優しい目で私を見た。


「でも、ま、犯罪者でも何でもいいけどね。が傍にいてくれるなら」
「ディーノさん・・・・」
「って、もうついちゃったよ・・・・」


私が真っ赤になるとディーノさんも照れ臭いのか、視線を外して沢田くんちを見上げた。
二階の沢田くんの部屋からは明かりが洩れ、カーテンの向こうに数人の影が映っている。
きっと皆で盛り上がってるんだろう、と思っていると、ディーノさんが小さく息をついた。


「じゃあ・・・・また明日」
「あ、うん・・・・」


離れがたいといった顔で私の手を離すディーノさんに、私は笑顔を返した。
一瞬、恭弥の事が心配になり口にしようとしたけど止めておく。
彼が何故来なかったのかは分からないけど、それはもう私が口を出す問題じゃない。
それに・・・・こんなに想ってくれてるディーノさんを心配させたくなかった。


「じゃ・・・・」


そのまま沢田くんちに向かって歩き出す。
でも不意に手首を掴まれ、あっと思った時にはディーノさんの腕の中に包まれていた。


「ディ、ディーノさん・・・・?」
「・・・・ごめん。何か・・・・帰したくなくなった」
「・・・・えっ?」


その言葉にドキっとして顔を上げると、優しい瞳が私を見下ろしている。
こんな住宅街で抱きしめられている現実に少し恥ずかしかったけど、この時間に通る人は殆どいない。
ディーノさんは私の顎を上に向けて、ゆっくりと唇を重ねた。


「・・・・・っ」


腰に回された腕に力が入ると更に上を向いてしまう。
覆いかぶさるようにキスをされて、僅かに開いた唇をぺろりと舐められビクっとなった。


「・・・・可愛い」
「・・・・・っ」


そっと唇を離し、呟かれた言葉に耳まで熱くなる。
いつ誰に見られてもおかしくはない場所なのに、逃げ出す事も出来ず目の前で揺れる綺麗な瞳を見ていた。
力が抜けそうになってよろけると、背中に塀が当たる。
そこに押し付けられた瞬間、再び唇を塞がれた。
何度も角度を変えながら触れてくる唇に、つい吐息が洩れてしまう。


「ん、ディーノさ・・・・」


触れるだけのキスなのに、息が苦しくなって呼吸が乱れる。
その時、突然携帯の着信音が鳴り響き、体がビクっと跳ねた。


「はあ・・・・タイムリミットか・・・・」


ゆっくりと唇を離し、名残惜しげに呟く。
それでも最後にちゅっとキスをすると、そっと私を放した。


「・・・・、顔真っ赤」
「な・・・・だ、だって・・・・」


苦笑気味に指摘してくるディーノさんを睨みながら両手で頬を隠すと、彼は眉を下げながらも優しく微笑んだ。


「・・・・ホント、はオレを煽る名人だよな」
「・・・・えっ?」
「このままマジでさらってこうかな」
「な・・・・ちょ、」


そう言いながらニヤリと笑うディーノさんに、耳まで熱くなった。


「そ、それより携帯・・・・鳴ってますよっ?ロマーリオさんからじゃ――――」
「ああ・・・・忘れてた。まあ、ロマーリオはかけてこねーと思うけど」


そう言って笑いながら携帯を取り出すと、不意に着信音が止まりディーノさんはディプレイを確認した。


「・・・・どうしたの?」
「い、いや・・・・。何でもない」


一瞬、顔を強張らせたディーノさんに首をかしげると、彼はすぐに笑顔を見せて首を振った。


「つか、やっぱロマーリオからだったよ」
「そう・・・・あ、お巡りさんに職務質問とかされたかな」


おどけてそう言うと、ディーノさんは軽く吹き出した。


「かもな。可哀想だしオレそろそろ行くよ」
「・・・・うん」
「じゃあ・・・・ゆっくり寝ろよ」
「ディーノさんも・・・・」


そう言って手を振ると、ディーノさんは素早く屈んで唇にキスを落とした。
ドキっとした私を優しく見つめると、「じゃ・・・・」と言って片手を上げる。
そのまま手を振ると、ディーノさんも手を振りながら元来た道を走って戻っていった。


「はあ・・・・」


一人になって一気に体の力が抜けた私は、その場に蹲って大きく息を吐き出した。
恭弥との事はあったけど、こんな風に男の人ときちんと付き合った事がない私にしたら、心臓がもたないくらいにドキドキしている。
しかもディーノさんは年上で、凄く大人で、ホントに私でいいのかな、なんて思うくらいに素敵な人だ。


「私みたいな子供なんかのどこがいいんだろ・・・・」


火照った頬を手で包みながら、ふと本音が洩れる。
心臓が普段の倍は早く打っていて、少し息苦しい。
それと同時に、かすかな胸の痛みも感じていた。

これって・・・・ディーノさんに恋してるってことなのかな・・・・。
私は・・・・ディーノさんが好きなのかな・・・・。

そんな事ばかりが頭に浮かんで、私はそっとキスの余韻が残る唇を指でなぞった。
ディーノさんの傍にいれば、何も不安なんかないはずなのに。
こうして一人になると、どうして思い出したように胸が痛くなるの?
どうして罪悪感にも似た気持ちが込み上げてくるの?どうして――――。











「――――意外だったよ。お前から電話かけてくるなんて」

「・・・・あなたが無理やり教えたんでしょ」

ヒョォォォっという音が耳を掠め、冷たい風が吹き付ける。
真っ暗な屋上の上で、僕とディーノは向かい合っていた。


「どうしたんだよ。今日、来なかったのに」
「ちょっと・・・・ね」
「へえ。オレはまた、てっきりお前がのことを見捨てたんだと思ったよ」
「・・・・・」


挑発するような笑みを浮かべるディーノを、僕は無言のまま睨みつけた。


「・・・・ふん。その目はまだ見捨ててないってとこか。まあオレに連絡してきたって事はそうだよな」
「うるさいな。始めないの?」


いつものようにトンファーを構えると、ディーノは軽く息をついて肩を竦めた。


「いいけどよ・・・・。あんま時間ねーし今日からずっと付き合ってもらうぜ。また逃げられても困るしな」
「逃げる?僕が?」
「逃げただろ?から」
「・・・・・っ」


ディーノの言葉に苛立ち、攻撃態勢に入る。そんな僕を見て、ディーノも静かにムチを構えた。



「悪いけど・・・・はオレがもらうぜ」


「――――ッ?」



その言葉に反応が遅れた。
ディーノのムチが頬をかすめ、軽く痛みが走る。
すんでのとこで交わし、こっちからも攻撃をしかけると、ディーノはニヤリと笑ってそれを腕だけで防御した。
キィンっという金属音が耳に響き、トンファーが弾き返される。


「やっぱり・・・・あなたは嫌いだよ」
「・・・・知ってるよ」


ディーノはムチを構えながらも軽く唇の端を上げる。
その態度すら、僕をイライラさせる。やっと自由になれた翼すら、この男にもぎ取られそうだ。
それでも、今度こそ逃げるわけにはいかない。

この男からも・・・・からも――――。



は・・・・渡さないよ、ディーノ」

「――――ッ?」



僕の言葉にディーノはハッと顔を上げて、攻撃態勢を崩した。
その隙をついて今度はこっちから攻撃を仕掛ける。



「彼女を、返してもらう」



驚いたように瞳を見開いたディーノに、トンファーを振り下ろす。

僕の願いは一つだけ。

いつも、どんな時でも、この瞬間も――――。








君がいた証なんて


      いらないから、


君自身が此処にいて






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ちょいと久々に更新しました(汗)
次くらいから…また動くかしらん…
ここまでが長かった…ぐぇ(゜ロ゜ )


いつも投票処に素敵なコメントをありがとう御座います!
返信です↓<(_ _)>






●私が読んできた夢小説のなかで一番好きです!!!これからも頑張ってください☆(中学生)
(うひゃあ;;い、一番だなんて、ありがとう御座います!恐れ多くて悶えちゃいました(危ねえ)今後も頑張ります!)


●いつも楽しみにしてます☆(高校生)
(ありがとう御座いますー(*・∀・`)ノ


●夢小説を読んでここまでドキドキしたのはこの小説が初めてです!雲雀さんカッコイイ…(高校生)
(ドキドキして頂けて凄く嬉しいです!いやん、雲雀カッコいいですか?(●ノ∀`)照照(お前が照れるな)


●もう毎回毎回続きが楽しみです!(高校生)
(うう、ありがとう御座います!更新頑張ります!(>д<)/


●雲雀さん最高です!!時々エロかったり(笑)雲雀さんのヒロインに対する想いが伝わってきます!!!(高校生)
(エロ雲雀最高ですか?!もうホント中学生かってなくらい色気振りまけさせたいです(笑)エロ甘ラブラブモードで頑張りますね!)


●雲雀さんがだいすきです!!(大学生)
(ありがとう御座います!(*ノωノ)


●自分の中で雲雀さんは3番目くらいだったんですが一気にぶっちぎりの1位に昇格しましたw
読む進めていくほどにどんどん面白くなる夢最高です!!尊敬してます!(高校生)
(うひょー;;三番が一番にっ?!そ、それは感激で御座います!!私の中でも雲雀は三番で…ごにょごにょ(待て)
ど、どんどん面白くなってます?だ、大丈夫ですかね(心配)尊敬なんてもったいないですから!(; ̄□ ̄


●雰囲気がとっても好きです!それにドラマを見ているようなドキドキ感があります!!(高校生)
(おおぉぉ;;(何)雰囲気が好きだなんて凄く嬉しい…しかもドラマ…ドラマですか!
何だかヘボイ文章だと自分では毎回項垂れてるんですけど、ホント励みになります(*TェT*)


●雲雀夢を読ませて頂きました。とても素敵で思わず一気によんでしまいました。楽しみにしてます。(大学生)
(一気に読んで下さったようでありがとう御座います!素敵だなんて嬉しい限りですよー(´¬`*)〜*


●雲雀さんの連載とってもよかったです!!半泣き状態でキュンキュンしながら読んでました(笑)
これからの展開がとっても楽しみですvV(高校生)
(は、半泣き状態ですか!うぅわぁキュンキュンきてもらえて私も胸キュンです(*ノωノ)今後も頑張りますね!)


●いつも楽しませていただいてます!!たくさんの連載を同時に進めていくのはとても大変だと思います。
お体に気を付けてがんばってください!!(高校生)
(ありがとう御座います!ホント学習しないというか、ついつい書きたいものを、
どんどん書いてしまうんで自分で首絞めてますが(汗)お優しいお言葉嬉しいです!)


●雲雀さんとヒロインの葛藤が凄くリアリティーがあって素晴らしいです!(笑)(高校生)
(リ、リアリティ…そんな、もったいないお言葉、感激ですっ(>_<)ありがとう御座いますー!)