静かな部屋の中に、激しい雨音が響いていた――――。






「あ、獄寺くん!何か分かったっ?」

の事をディーノから聞いて、晴れのリングを手に入れた後に戻ってきたツナたちは、探しに行ってくれていた獄寺や山本たちと合流した。


「いや、まだハッキリとは・・・・」
「でもマジなのか?がヴァリアーの奴らに捕まったって」


山本も普段とは違い、神妙な顔をしている。


「うん・・・。ディーノさんが電話でさんと話してた時に奴らの仲間が出て、彼女をボスのとこに連れてくとか言ってたって・・・・」
「クソ!でも何でが学校に?ここで待ってろって言ったのに・・・・」


獄寺は悔しそうに拳を固めると、独り言のように呟く。
ツナも軽く目を伏せると深く息を吐いた。


「きっとオレ達の事を心配して来てくれたんだと思う・・・・。だから様子を見に来て・・・・」
「奴らに見つかったんだな」
「あ、リボーン・・・・!どうだった?!」


リボーンの声に、ツナ達は一斉に振り返った。
だがリボーンは軽く首を振ると、「まだ見つからない」とだけ応える。
それには皆も表情を曇らせた。


「絶対ヤバイよ〜!あんな、おっかない奴らに捕まったなんて・・・・。もしかして殺されちゃうかも――――」

「そんな事、絶対させねえっ!!」

「「「――――ッ?」」」


驚いて振り向くと、そこにはずぶ濡れのディーノが立っていた。


「ディ、ディーノさんっ」
「戻ったか・・・・」


リボーンの言葉にディーノは小さく頷くと、揃っている皆の顔を見渡した。


「お前らは今夜の準備をしておけ・・・・。の事はオレが何としてでも探し出す」
「で、でもこんな時に争奪戦なんか出来ないよっ!」
「ダメだ!奴らの目的はあくまでリングだ。今は9代目の命令を守られてはいるが、お前達が行かなければルール違反と見做される。そうなったらを使って何を仕掛けてくるか分からない」
「そうだぞ。ボスから直々の指令なんだ。それに背けば皆殺しだ」


ディーノと同じく、リボーンも厳しい顔で口を開く。
それにはツナ達も俯くしか事しか出来ない。


「いいから少しでも休んでおけ。この先、長いんだ」


ディーノの言葉にリボーンも頷くと、「獄寺と山本、お前達も家に帰って休め」と言った。


「分かりました・・・・」
「・・・・そうするよ」


二人は心配そうな顔をしていたが、それでも今の時点で何も出来ないと分かったのか、そのまま大人しく家に帰って行った。
ツナも渋々ながら自分の部屋へと戻りそれを見届けると、リボーンは部下に電話をかけているディーノへ視線を向ける。


「ああ。お前らはボンゴレが経営しているホテルから探し出せ。オレはもう一度日本にあるアジトの類を探す」


そう言って電話を切ると、深い溜息をついた。
雲雀との修行のせいか、体のあちこちに痛々しい傷がある。


「ディーノ・・・・大丈夫か?」
「ああ・・・・。こんなもん屁でもねーよ」
「手当てくらいしとけ。ボロボロだぞ」
「分かってる。それより・・・・恭弥の奴、ここへ来なかったか?」
「いや・・・・来てないぞ。どうしたんだ?」


リボーンの言葉にディーノは困ったように目を伏せた。


との電話が切れた後、オレはすぐに山を降りようとした。その時、恭弥に見つかって攻撃をしてこようとするアイツを止めるために――――」
が浚われた事を話したのか・・・・」
「ああ。じゃないと中断してくれそうになかったからな・・・・」


ディーノは息を吐き出すと、玄関先に座り込んだ。


「それで・・・・ヒバリはどうしたんだ?」
「・・・・・・」


ディーノは僅かに視線を上げると、小さく苦笑を漏らした。


「あんな恭弥、初めて見たぜ。アイツやっぱりのこと・・・・本気なんだな」


そう言いながらゆっくり立ち上がると、ドアを思い切り開いた。
外はすでに明るくなり始めて、先ほどから振り出した雨がいっそう強くなっている。


「オレが止める前に・・・・どっか行っちまったよ」
「・・・・そうか。それで・・・・修行の成果は出てるのか?」


出て行こうとするディーノにそう尋ねると、ディーノはリボーンに背中を向けたまま軽く手を上げた。


「アイツは・・・・まだまだ強くなる」


それだけ言うとディーノは雨の中、再び外へと飛び出していった。
ディーノの気持ちを思い、リボーンは軽く息を吐き出すと、後を追うように外へ出て重苦しい雨空を見上げる。


・・・・。無事でいろよ・・・・」


小さな声は激しい雨音にかき消され、稲光がリボーンを照らしていた。











流した涙も血も乾いてきた頃、ふと雨の音に気づき、窓の方へと視線を向けた。
カーテンが引かれているが、時々雨の音と混じって雷の音が聞こえてくる。


「雨・・・・降ってたんだ・・・・」


さっきはそれどころじゃなくて気づかなかった。
この分だと随分前から降っていたんだろう。

あれから・・・・どれくらい経ったんだろう。
あの男が出てったことで少し気分も落ち着いてきたせいか、私は奴らの会話を思い出していた。

捕まった時、確かあの子供は奴らの仲間が負けた、と話してた気がする。
きっと晴れの守護者対決は笹川先輩が勝ったんだ・・・・。
それでさっきはあのロン毛の男が"そろそろ雷の守護者対決だ"と言っていた。
という事は・・・・私は昨日の夜中にここへ連れて来られたという事になる。


「そんな・・・・。もう一日経ってるの?」


意識のなかった間にそんな時間が経っていたのかと唖然とする。
雷の守護者対決という事は、じゃあ今夜は――――。


「ランボくんが戦うってこと・・・・?」


ドキっとして思わず体を起こそうと動いてしまった。
その瞬間、ズキンと両手首が痛み顔を顰める。


「危ない・・・・。これ以上、切ったら・・・・」


乾いた血がこびり付いている手首を見て、ゾっとした。
でもこのまま大人しくしてたとしても、さっきの男が戻ってきたら何をされるか分からない。
引き裂かれた胸元を見て再び恐怖が襲ってくる。

悔しい・・・・。あんな奴に二度と触れられたくなんかない。
何としてでも逃げ出さないと――――。

と言って、少しでも動けば切れてしまうワイヤーに、両手と両足を拘束されていてはどうしようもない。


「どうしよう・・・・」


動くことも敵わないこの状況に、私は唇を噛み締めた。
その時――――ふとベッドの隅にキラリと光るものを見つけた。


「あれって・・・アイツのナイフ・・・・?」


拘束された左手の近いところに、さっきの男がちらつかせていたナイフがあるのを見つけてドキっとした。
ボタンを弾いた後、あの男が放っていたものだ。
さっきロン毛の男が呼びに来て慌てて出て行ったから忘れていったに違いない。

(あれをつかむ事が出来れば、片手だけでも切れるかも・・・・)

そう思って少しづつ体を左に動かし、指先をナイフへと伸ばした。
手首ごと動かせばまた切れてしまうから、慎重にゆっくりと動かしていく。


「もう少し・・・・」


指先に冷たい物が触れて、私はつりそうになる指先を更に伸ばしていった。
何とか指先にナイフの切っ先を挟む事が出来て、深く息を吐き出す。
それをゆっくりと自分の方へ引っ張り、何とか手で掴む事が出来た。
今度はナイフの刃を手首を縛り付けているワイヤーに当たるよう、向きを変えていく。


「痛・・・っ」


少し動きすぎたせいで、ワイヤーが僅かに手首に食い込んだ。
すると乾いた血が再び流れ出し、痛みでナイフを放しそうになる。


「・・・くっ」


何とか持ちこたえると、今度はゆっくりとナイフの刃をワイヤーに当てる。
そして指先だけの力でナイフを動かしワイヤーを切っていく。
よほど切れ味がいいのか。4度ほど動かしたところでビンッという音と共に、左手を拘束していたワイヤーが弾かれた。


「つ・・・っ」


その反動でまたしても手首を僅かに切ったが、片手が自由になった事でホっと息を吐き出した。
今度はナイフをしっかり握ると、次に右手首にあるワイヤーを切る。その後は簡単だった。
自由になった上半身を起こし両足のワイヤーも切ると、私の体はやっと解放された。


「出来た・・・・」


一気に神経を集中させたせいで、汗がどっと溢れてくる。
でもモタモタしている暇はない。いつあの男が戻ってくるのか分からないのだ。


「ん、ゴホッ・・・ゴホッ」


ベッドから降りると一気に咳き込んだ。
昨日から飲まず食わずで喉の奥がカラカラだった。
思い出すと死ぬほど喉が渇いてきて、私は部屋の中をザッと見渡した。ここはどう見ても寝室のようだ。
隣の部屋へと行ってみると、リビングに冷蔵庫が設置されているのを見つけた。
ホッとしたのと同時に中からミネラルウォーターを取り出し、それを一気に口にする。


「はあぁ・・・。美味し」


喉が潤ったことで少しだけ気分が落ち着いてきた。
改めて部屋の中を見てみえば、煌びやかな装飾がされている広い部屋。
前にディーノさんが止まっていた部屋と少し似ていた。

"一般客は泊まれないVIP専用ルームだぜ?"

金髪の男はそう言っていた。それもボンゴレの経営しているホテルだとも。
という事は、ここはボンゴレの息はかかっているけど都内にあるホテルという事になる。

(じゃあ・・・・。この部屋を抜け出せば見つかることなく外に出られる?)

敵のアジトなら難しいかもしれないが、もし普通のホテルだった場合は逃げ出せるかもしれない。それに――――。


「あ、あった・・・・」


リビングにある大きな机の上に電話を見つけてホっとした。すぐに受話器を持って外線へ繋ぐ"0"を押す。
そこで改めて気づいた。


「いけない・・・。番号分からないかも」


いつも携帯ばかりを使っていたせいで、電話をかけようにも皆の電話番号が分からない。
ガッカリして受話器を置いた。私の携帯はあの男が持って行ってしまったはずだ。
110番にかけても意味がないだろうし、そもそも浚われた理由を説明して警官に理解してもらえる自信などない。
第一、イタリアンマフィアの抗争に巻き込まれたなんて言っても、信じてもらえるかどうか謎だ。


「どうしよう・・・。やっぱり、このまま・・・・」


そう思った時、ふと豪華なソファの前にあるテーブルに目が行った。
そこの上には見覚えのある携帯が無造作に置かれている。


「あっこれ・・・・」


思わず駆け寄り手にすると、それはあの男に奪われたはずの私の携帯だった。
私をワイヤーで拘束しているからと、安心して置いて行ったんだろう。


「良かった・・・・」


心からホっとしてすぐに電源を入れると、ディーノさんに電話をするため履歴を開く。
その時――――不意に携帯が鳴り出し、驚いた拍子に床へと落としてしまった。


「いけない・・・。ディーノさんかも――――」


下がフカフカの絨毯だったため携帯も無事のようだ。着メロは未だに鳴り響いている。
私は急いで携帯を拾い、通話ボタンを押した。


「もしもし?!ディーノさんっ?」
『・・・・・・っ?』


電話に出ると、一瞬受話器の向こうで息を呑む気配がした。
それに僅かな違和感を感じたけど、捕まってしまった自分のバカな行動を誤ろうとそのまま言葉を続ける。


「もしもし?あの、ごめんなさい!私――――」
『・・・?』
「――――ッ」


私の言葉を遮るように名前を呼ぶ相手の声を聞いて、一瞬言葉を失う。
まさか、そんなはずはない、と頭で思うよりも先に心が否定する。
そう、彼のはずがない。だけど――――。



「・・・恭・・・弥・・・・?」



その名前を呟いた時、かすかに声が震えた。


『・・・やっと繋がった・・・・』


受話器の向こうから聞こえる声がホっとしたように呟く。なのに私は言葉を出せないまま、携帯を握り締めた。


・・・・?無事なの?』
「な・・・んで?」


搾り出すような声で問いかける。
どうして今更。何故恭弥が――――?
そんな言葉だけがぐるぐると回っていた。


『今一人なの?どこにいるか分かる?』


私の問いかけには応えず、恭弥は焦りを滲ませた声で尋ねてきた。
それでも応えられずにいると、『!』と大きな声で名前を呼ばれ、ビクっとする。


『シッカリしてよ。ちゃんと応えて。無事なの?』


らしくないほど、その声は動揺しているように聞こえた。


「う、うん・・・。大丈夫・・・・」
『そう・・・良かった』
「・・・・・・」


ホっとしたように息を吐き出すのが受話器を通して聞こえてくる。
どういうわけか知らないけど、私が浚われた事は恭弥も知っているようだった。


「何で・・・・」
『ディーノに聞いた・・・・。それより、今どこにいるか分かる?』


恭弥の声と混じって、雨の音が聞こえてくる。
恭弥は今、外からかけてくれてるんだと思った。


「ここがどこか・・・・分からないの。でも都内にあるホテルだと思う・・・・」
『ホテル?どんな?』
「凄く・・・豪華な感じで。でも部屋の中にはホテルを示すようなものは置いてないかも・・・・」


普通なら電話の傍に必ずホテル名の書かれたメモや、案内を載せたメニューがあったりする。
なのにこの部屋にはそれらのものは一切置いていない。
やっぱりボンゴレが経営しているホテルなら普通じゃないのかもしれない、とこの時、思った。
窓の外を覗き外観を見てみると、何となくヨーロッパ調の建物に見えた。
もっと良く確かめようとそのままテラスへと出た瞬間、雨風が吹き付けてくる。まるで嵐のようだ。
雨粒が顔を濡らすのを我慢しながら下を覗いてみると、そこは大きなビルばかりが立ち並ぶ一角だった。
上にはイタリアの国旗らしきものが掲げられていて、それが激しい風に吹かれ、バタバタと音を立てている。


「何か・・・ヨーロッパ調のホテルみたい。上の方にイタリアの国旗とボンゴレファミリーのものらしい旗が二本掲げられてる」
『・・・・旗?』
「うん・・・。雨でよく見えないけど」


強風と雨の勢いで立っているのもやっとだ。私はすぐに中へ戻ると、濡れた髪を軽くかきあげた。


・・・・』


恭弥の声が私の名前を呼ぶ。
そんなに経ってもいないのに、死ぬほど懐かしく思えた。


「何・・・?」
『そこ・・・抜け出せそう?』
「分からない・・・・。今は奴らも出かけてていないけど・・・・。鍵がかかってなければ何とか」


言いながらドアの方へと近づいて行く。
鍵はかかっていたが、中からそれを開けてドアノブに手をかけた。


「あ・・・。開いた――――」


拍子抜けするほど、すんなりと開いたドアに思わず笑みが零れる。
でも受話器の向こうから、『油断しないで。ちゃんと誰もいないか確認しなよ』と言われ、慌ててドアの隙間から顔を出してみた。


「誰も・・・・いないみたい」
『なら、エレベーターじゃなく階段で降りて。ある?』
「う、うん・・・・」


言われたとおりエレベーターホールまで行くと、エレベーターの隣にある非常用のドアを見つけて静かに開けた。
どうして恭弥が電話をかけてきてくれたのか、色々聞きたい事があったけど、今はここから早く逃げ出さないといけない。
もし見つかれば今度こそ殺される。その恐怖が先にたち、足早に階段を下りて行く。
あまりに静か過ぎて、自分の足音でさえビクっとなった。
誰かが追いかけてきてるんじゃないかと、強迫観念にかられる。でも――――。


、落ち着いて』


受話器の向こうから聞こえる恭弥の声だけに集中していると、その恐怖も薄らいでいく気がした。
どのくらい下りたんだろう。時折、非常用扉の向こうからは賑やかな声が聞こえてくる。
それが聞こえるたびドキっとするけど、中には女性の声も混じっていて、奴らじゃなく他の泊り客なんだと思えば怖くはなかった。


「はあ・・・はあ・・・」


さすがに息が切れて立ち止まる。
ふと見上げれば"1F"という文字が壁に記されていた。


・・・大丈夫?』
「う、うん。もう一階についたみたい・・・・」
『じゃあ、そのままロビーに出て。目立たないように外へ出るんだ』
「うん・・・・」


言われたとおり、ロビーへと続いているであろう、扉の前に立つ。
でもそこで自分の格好を思いだし溜息をついた。


「ダメ・・・。出られない・・・・」
『どうして?』
「だって・・・・」


言葉を濁しながら自分の格好を見下ろす。
あの男に引き裂かれた胸元はボロボロで下着が見えてしまっていた。
羽織っていたカーディガンで隠せたとしても、さっき雨に濡れたせいで髪まで濡れそぼっている。
これではとてもホテルのロビーになんか出られない。出れば逆に目立ちすぎて怪しまれる可能性もある。


・・・どうした?早くしないと見つかる』
「だ、だって・・・こんな格好じゃ・・・・」
『格好・・・・?』


訝しげな声を出す恭弥にどう説明しようか迷っていると、彼は悟ったように口を開いた。


『奴らに・・・・何された?』
「え?あ、あの別にそういうんじゃ・・・・」
『ホントに?』
「う、うん・・・・」


そう、確かに乱暴はされかけたけど、あの男と何かあったというわけじゃない。
そりゃキスはされたし体も触られたけど・・・・。でも今、恭弥に言う事でもないし、その前に彼とはもう何でもないんだ。
そう言い聞かせて軽く深呼吸をした。とにかく、ここから出なければ何も始まらない。
どこか他に出口はないかと辺りを見渡せば、"VIP.DEDICATRD"と書かれたドアを見つけた。
試しにドアノブを回してみると簡単に開く。見てみれば中からは開くけど外からは開かないタイプのドアだ。

(そっか。VIPの客はここから部屋まで直通で通れるようになってるんだ・・・・)

そこから出ると、再び階段があり、下を指す矢印の横に"Parking"という文字がある。


「あ・・・駐車場!」
『え?』
「下に駐車場があるみたいなの。そこから出れるかも・・・・」


そう言って階段を下りていく。駐車場からなら目立つことなく外に出られるかもしれない。
外にさえ出てしまえば、この雨がボロボロの姿を隠してくれるしホテル前にはタクシーだって止まってるはずだ。
そう決心すると階段を下りきったところに扉があった。そこには"地下駐車場"と書かれている。


「あった・・・・」
『出られそう?』
「うん、何とか・・・・」


静かにドアを開けて覗いてみると、そこには色々な外車が止まっていて、かなり広いスペースとなっている。
このまま歩いていけば外に出られるだろう。


「行ってみるね」
『気をつけて』


恭弥の静かな声が私に勇気をくれる。
もう話す事さえないと思っていた恭弥が、こんな風に電話をかけてきてくれた事は、私にとっても驚く事だったけど。
今は何も考えたなくない。未来の事も、弥生さんとの事も。
ただ、電波一つで恭弥と繋がってる、この瞬間が嬉しい。
諦めたはずだったのに、忘れようとしてたはずなのに、声を聞いただけでこんなにも心が恭弥に向かっていく。

(私はまだ恭弥の事・・・・)



?』
「あ・・・・」


その声にハッと我に返る。見れば駐車場の出口が見えるところまで来ていた。


『出られそう?』
「う、うん。もう目の前に出口が――――」


そこで言葉が切れた。目を向けた出口から一台のリムジンが入って来くるのが見えたのだ。
咄嗟に他の車へと身を隠し、そっと様子を伺う。


・・・・どうした?』
「あ、今、車が入って来たの・・・。他の客かもしれないけど見つかったら面倒だからホテルに入るの待つね」


小声で説明しながらゆっくりと足を進める。
このまま車の陰に隠れながら、出口へ近づいて行ければ・・・・。
そう思いながら早く行かないかとリムジンの方に視線を向けた。
隠れながら様子を伺っていると、リムジンは静かに停車し中から数人降りてくるのが見えた。その人物に思わず息を呑む。


「――――ッ」

「あーあ、楽勝だったよなー♪」
「けっ。どこが楽勝だよ。あんなカスに手こずってたじゃねえかぁ」
「な、何だと?!」
「やめなよ、スクアーロ。レヴィもいちいち取り合うな」
「ふん・・・。部屋に戻るっ」
「レヴィの奴、スネちゃってるよーうしし♪ あーオレも早く部屋戻ってネズミちゃんの世話でもすっかな」
「ベル・・・そんな事より早く霧の守護者の事を聞いてくれないかい?」
「ヤル事ヤレば口も軽くなるんじゃん?オレが調教すればすぐだって」
「ケッ!変態がぁ。あんなガキ、ヤルつもりかぁ?ありゃ相当気が強そうだぜ」
「ガキでも可愛きゃいーんだよ。それに気の強い女を調教すんのが楽しいんじゃん。オレの言うこと何でも聞いちゃうくらいねー」
「・・・チッ。悪趣味なヤローだぜ」


リムジンから降りてきたのはヴァリアーのメンバーだった。
そんな会話を聞きながら私は足が震えて、思わず息を呑む。


・・・どうしたの?モタモタしてたら――――』
「恭弥・・・・」
・・・・?』


私の異変に気づいたのか、恭弥の声が僅かに緊張した。


「今・・・ヴァリアーが・・・・」
『――――ッ』
「恭弥・・・私――――」


怖くて足が動かない。少しでも動けば奴らに見つかる。そんな気がした。


『・・・・動かないで。ジっとしてて』
「・・・・・」


受話器を通して静かな声が聞こえてくる。
私は言われたとおり、息を潜めてその場から動かなかった。
ヴァリアーの連中はエレベーター前で、下りて来るのを待っているようだ。
何か談笑しながら、時折あのロン毛男の怒鳴り声が聞こえてくる。

(早く・・・早く行って――――!)

心の中でそれだけを願う。
その時、エレベーターの到着する音が聞こえてきて、奴らがそれに乗り込んだのが見えた。
そして静かに扉が閉まった後、私は深い息をついた。


「言ったみたい・・・・」


気付けばかなり緊張していたのか、携帯を握り締めている手が汗をかいていた。


「今・・・出るから」


それだけ言って車の陰から出ると、出口に向かって一気に走る。
もうこんなところには一分一秒でもいたくない。
さっきの恐怖で足がもつれそうになりながらも、私は必死に走った。
そしてもうすぐ出られる、と思った瞬間――――。



シュッ



「――――ッ?!」



顔の横を何かが飛んで行き、目の前の壁にそれが突き刺さった。


「あ・・・・・」

「ダ〜メじゃーん。勝手に抜け出しちゃ〜」


その声に足を止め、ゆっくりと振り向いた。


「オレのペットがこんなとこで何してんのかな〜?」
「・・・・ベル・・・・」


うしし、と笑いながら、あの金髪の男がこっちへ歩いてくる。
私は一歩、一歩後ろへ下がりながら、ゴクリと喉を鳴らした。


「隠れてたの気づかないとでも思ってた?オレ、これでもヴァリアーの中で天才とか言われてんだけど」
「こ、来ないで・・・・」
「あれれー冷たいじゃん。キスまでした仲なのにさあ」


いつの間に出したのか手にはナイフが握られている。ベルはそれをクルクルと回しながら私の方へゆっくりと歩いて来た。
先ほど襲われかけた時の事を思い出し、足が竦む。気付けば受話器からは何も聞こえなくなっていた。
恭弥はどうしたんだろう、と不安になったけど、でも恭弥と話してた事はバレない方がいい、とコッソリ携帯を切っておく。
そのまま上手く隠しながら携帯をポケットへ入れた。

この男に気づかれたなら、他の奴らにも気づかれたかもしれない。
他のメンバーはどうしたんだろう、とベルと言う男の後ろに視線を送る。


「ああ、心配しなくてもアイツらなら来ないよ?」
「・・・・・っ?」
「アイツらに見つかれば何かとうるせぇし邪魔されそうだから言ってないしー」
「私を・・・・殺すの?」
「まっさかー。んな、もったいない事しないって。つか、あんた、どうやって部屋抜け出したの?よくワイヤー切れたね。マジ、オレあんたのこと、気に入ったよ」
「こ、来ないでよっ」


ジリジリと近寄ってくるベルに、私は必死で叫んだ。
それでも焦ることなく、獲物を追い詰める獣のように、ベルは手でナイフを回し楽しそうな笑みを浮かべている。


「あんたはオレのもんになる運命なんだよ。すんげぇー可愛がってやっからさ。オレに身も心も捧げちゃいなって♪」
「・・・・・っ」


ベルはそう言いながらナイフをクルクルっと回し、僅かに私から視線を反らした。
その瞬間、何かに押されたように私はベルに背を向け、一気に出口へと向かう。


「逃がすかよ」


そんな声が聞こえた瞬間、あのナイフを投げる音が私の耳に届いた。




キィィィンッ




「――――ッ?」




金属を弾く音がしたと思った瞬間―――――私は誰かの腕に包まれていた。












「奴らの居場所、まだ見つからねぇのか?」

雷の守護者対決が終わった後、リボーン達はディーノと合流をした。


「オレの部下がボンゴレの経営してるホテルの中から奴らの泊まってるホテルを見つけた。オレもそこへ行ってくる。それよりリングは――――」
「取られた。まあ仕方ねーな」


そう言いながら、リボーンは落ち込んだ様子のツナを見る。


「でも収穫はあったぞ。ツナが本気になったからな」
「そうか・・・。なら明日から修行も大詰めだな」
「ああ。だからこっちは気にしないで、ディーノはを助けに行ってくれ。アイツらも人質にはそう簡単に手は出さないだろう」
「そうだといいがな・・・。何せあのベルフェゴールだ。アイツは女に見境ないって話だからに何するか・・・・」


悔しそうに唇を噛み締めるディーノに、リボーンは小さく首を振って見せた。


「大丈夫だ。は無事だ」
「ああ・・・。絶対に助けて見せる」
「頼んだぞ?」
「行って来るぜ」


ディーノはそう言って迎えに来た車に乗り込んだ。
リボーンはそれを見送ると、雨の中、暗い空を見上げる。

その時、大きな稲妻が青白く夜空に走っていった。











「――――何、お前。つか、誰」

ベルはナイフを弾かれたのが気に入らないのか、少しイライラしたようにまた数本のナイフを手にした。
でも私はそれよりも今、自分を抱きしめるようにして立っている人物から目が離せなかった。


「随分と勝手なマネしてくれたみたいだね、君」
「はあ?何言っちゃってんの。王子に向かって失礼じゃん?」
「ワォ。おとぎの国からでも来たのかい?」


そう言いながら皮肉めいた笑みを浮かべる、その横顔――――。
私は夢の続きを見てるんだと思った。


「・・・恭・・・弥・・・・?」


震える声でその名を口にする。
すると私を抱いていた腕が僅かに緩み、目の前の人物は呆れたような視線で私を見下ろした。


「勝手に電話切らないでよ」
「え・・・・?」
「まあ、でも説教は後にするよ。今は・・・・アイツを咬み殺さなくちゃね」
「恭弥・・・・?」


トンファーを構えながらニヤリと笑う恭弥は、確かに本物で。
でも彼が傷だらけな事に、今更ながらに気づいた。


「ま、待って!ダメだよ!恭弥、怪我してる・・・っ」
「平気だよ」
「ダメ!アイツはプロの殺し屋なのよ?!そんな体じゃ――――」

「何ゴチャゴチャ言ってんの?つか、あんたさー。オレの女とイチャイチャしないでくれるー?」

「「――――ッ」」


ナイフを弄ぶように回しながら、ベルはゆっくりと歩いてくる。
恭弥は無言のまま私を自分の後ろへと押しやった。


「聞き捨てならないな。誰の女だって?」
「オレの♪ だってオレ、王子だし。王子がそう決めたんだからオレの、なんだよ」
は君みたいな男の女になるほどバカな子じゃないと思うけど」
「うわー何コイツ。ちょームカつくー。つか殺してー」
「その前に僕が咬み殺してあげるよ」


そう言って恭弥がトンファーを構えた瞬間、ベルが素早い動きでナイフを投げてきた。
恭弥はそれを弾き返し、私を連れて車の陰へと隠れる。その身のこなしの早さは前の比じゃなく、私は本気で驚いた。


「恭弥・・・・」
「アイツも・・・・リングの守護者って奴?」
「う、うん。嵐のリングだって言ってた・・・・」
「ふぅん。じゃあ・・・・僕の相手じゃないって事か」


恭弥はそう言いながらも何か考えているようだった。


「おーい、隠れんぼー?いいけど。オレ、隠れんぼ大好きだっし〜♪」


ベルは鼻歌交じりで近づいてくる。
その間も隠れている車に、次から次へとナイフが刺さっていった。


(恭弥はかなりの怪我を負ってるみたいだし、このままじゃ・・・・)


そう思っていると、恭弥が不意に私の手を握り締めた。


「・・・・っ?」
「この手を・・・絶対に離さないで」
「・・・・え?」


そう言った瞬間、恭弥は素早い動きで飛んできたナイフをベルの方へ弾き飛ばすと、私の手を引いて一気に走り出した。
急な事で足がもつれそうになったけど、立ち止まればナイフの的になる気がして、私は必死に恭弥について一緒に走った。


「うーわ、逃げんのかよ!ずりーぞ!」


意表をついた行動だったのか、後ろからベルの叫ぶ声が聞こえる。
だけど恭弥は足を緩めることなく、雨の中へと飛び出した。
激しい雨が顔に当たり、吹き付ける強風で息が出来ない。
頭上では雷が鳴り響き、街の中は青白い光に包まれていた。


握り締めた手が熱い。

前を走る恭弥の背中を見ながら、気づけば私は涙が溢れていた。

だから・・・・気づかなかった。

ちょうどその時、ホテルに来たディーノさんが私と恭弥を見ていたことに――――。










「大丈夫・・・・?」

バイクを降りると、恭弥は心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
私は小さく頷くのだけで精一杯だ。

あれから必死に走って、恭弥のバイクが止めてある場所まで連れて行かれた。
その後はバイクに乗って暫く走った後、恭弥は私を見た事もない場所につれてきた。


「入って」
「ここ・・・は?」
「僕の家の別荘」
「え?」
「こんな格好で家に帰れないだろ」


見れば恭弥もずぶ濡れで、その前にあちこち怪我をしているから服もボロボロだった。
きっとディーノさんとの修行で怪我をしたんだろう。


「風邪引くからシャワー入っておいで」
「で、でも恭弥も・・・・」
「僕は下のに入る。は上のバス、使っていいから」


それだけ言うと、恭弥は一階奥のバスルームへと入っていってしまった。
どうしようかと思ったが、それでも寒さには勝てず、私はそのまま二階へと上がりバスルームへと飛び込んだ。
熱いシャワーを出すと、冷えた肌にピリピリと痛みが走る。
怪我をした手首の傷にもお湯が沁みて、思わず顔を顰めた。


「痛ぁ・・・・。消毒薬あるかな」


改めて手首の傷を見ると、大きく溜息が出る。
さっきは必死だったから痛みは気にならなかったけど、落ち着いてみれば相当痛い。


「アイツ、信じられない・・・・。絶対サドだ」


ベルと言う男の顔を思い出し、私は思い切り首を振った。

それでも・・・・恭弥が助けに来てくれるなんて思いもしなかった。
恭弥が目の前に現れた時は、本当に夢かと思った。
電話をくれた時も信じられなかったけど、まさか助けに来てくれるなんて――――。

どうしてあの場所が分かったんだろう・・・・。
ううん、その前に・・・・どうして来てくれたの?
ディーノさんに聞いたと言ってたけど、じゃあディーノさんは?一体、何がどうなってるんだろう。

色々な疑問が一気に頭を駆け巡る。
混乱する事ばかりが起きて、私は少し動揺していたのかもしれない。

体を温めた後でシャワーを出ると、そこにあったバスローブに身を包んだ。
着ていた服や下着はボロボロで、しかも濡れている。
どうしようと、思いながらもとりあえずは服を持って下へと降りると、恭弥もちょうどバスルームから出たのか、同じようにバスローブに身を包み、リビングのソファで寛いでいた。


「あったまった?」
「あ・・・うん・・・。あの、これ借りちゃった」
「いいよ。それより、こっちに来て、これ飲んで」


恭弥は私に手まねきをすると、いつ入れたのか、ポットから紅茶を注いでくれた。
私はそのまま恭弥の方へ歩いて行くと、ゆっくりソファへ腰をかけた。


「はい」
「・・・・ありがと」


カップを受け取り、それにそっと口つける。
体の芯から温まって、ホっと息をついた。


「美味し・・・・」


前にも恭弥の家で飲んだ事のある紅茶で、懐かしい味がした。


、それ好きだったよね」


恭弥はそんな事を言いながら濡れた髪をかきあげて、私を見つめた。
久しぶりに会ったのと、こんな風に二人きりになる事すらもうないと思っていたから、何となく恥ずかしくて視線を反らす。
すると恭弥はそっと私の体を抱き寄せた。


「ちょ・・・・恭弥――――」
「無事で・・・・良かった」
「・・・・え?」
が浚われたって聞いた時・・・・心臓が止まるかと思った」


掠れた声が耳に響き、抱きしめる力が次第に強くなっていく。
心臓がドキドキとうるさいくらいに鳴っているのが自分でも分かった。


「ど、どうして・・・・?」
「何が?」
「どうして来てくれたの・・・・?なんであそこが――――」
、言ってただろ?ヨーロッパ調のホテルで旗が二本掲げられてるって」
「あ・・・・」
「ボンゴレの旗は知らないけど、そんなホテル多くないからね。それ聞いた時から僕も向かってたんだ」
「そう・・・。でもどうして・・・・」


そう言って顔を上げる。
もう忘れようと思っていた人に抱きしめられているなんて、何だか信じられなかった。


「どうして・・・・助けに来たか?」
「・・・・・・」


その言葉に小さく頷くと、恭弥はふっと笑みを漏らした。


「そんな事まで言わないと分からないの?」
「だ、だって・・・・」


いつもの意地悪な口調にムっとして睨むと、恭弥はクスクスと笑い出した。


「変わらないね。そのクセ・・・・」
「え?」
「そうやって唇、尖らせるとこ」
「・・・・・・っ」


言われて顔が赤くなる。
そんな私を見て恭弥は軽く息をついた。


「僕は・・・・間違った答えを出したから」
「・・・・・・っ?」
「だからその間違いを正しに来たんだ・・・・」
「間違い・・・・?」


言っている意味が分からず、恭弥を見上げる。
こんな風に至近距離で彼の顔を見るのは本当に久しぶりで、夢なのか現実なのか分からなくなった。



「僕は・・・・じゃなきゃダメみたいだ・・・・」



だから、そんな恭弥の言葉すら、どこか遠くで聞こえてくる幻のようで、すぐには理解出来なかった。


「もう・・・・遅いのかもしれないけど、でも――――」


黙ったままの私を見つめながら、恭弥は静かに口を開いた。



が・・・・好きだよ。誰よりも・・・・」



夢かと思った。
やっぱりこれは夢か幻で、現実にはありえないことだと。
だって恭弥の口から、好きだなんて言葉なんか出てくるはずないもの。

言葉なんか、信じないって言ってたクセに――――。



「好きだよ、



バカ――――。今更・・・・何でそんな事を言うの。
















- BACK -


のーん!やっと久しぶりの再会を果たした二人…
ベルに感謝ですね♪(オイ)
いやでも、これからまだあるかなあ…?(終われ)
という事で、いつもこの作品にコメントありがとう御座います!
本日も投票処に届いたコメントへの返信をば…<(_ _)>


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


●本編の雲雀さんも好きだけど、このサイトの雲雀さんも好きです。(小学生) 
(当サイトの雲雀も好きだなんて、ありがとう御座います!これからも頑張りますー♪)


●REBORN!目当てに来てます☆そろそろ雲雀氏と絡み直しそうで楽しみな限りです!!ていうかそろそろ雲雀不足なので求む絡み!!(殴(中学生) 
(ありがとう御座います!そろそろ終盤なので絡みもあるかと思われます(;^_^A話の流れでですのですみません;)


●今まで読んだ夢の中で一番ドキドキしました!そして雲雀がステキです。(高校生) 
(一番ドキドキしたなんて嬉しい限りです!しかも雲雀が素敵だなんて(*ノωノ)これからも頑張りますね!)


●今まで読んできた作品のなかで、一番好きです!!(高校生) 
(ぎゃふ;;い、一番ですか!そんな風に言って貰えて感激です(>д<)/ありがとう御座います!)